タイトル:【AP】週間少年CtS・FTマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 72 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/27 01:26

●オープニング本文


 週間少年CtS・FT〜剣と魔法の物語〜
※この依頼はエイプリルフールシナリオです。現実のCtS世界には影響を及ぼしません。

魔王バグアの襲来から数年。西のドローム、東の銀河といった大国もその猛威の前に次々に滅んでいった。廃墟の中、暗黒に魅入られて徘徊する人や魔物の脳裏に、低い声が響く。

『滅ボセ‥‥。聖王国ラストホープヲォォ』
 ラストホープ。そこに人類に残された最後の希望が、魔王を封印する聖剣が眠っているのだ。しかし、聖地の岩に突き立った聖剣を引き抜けた者は、いまだいない。あまたの騎士、戦士が名乗りを上げたものの、使い手をその意志で選ぶといわれる剣はまだ眠ったままだった。
「私は、聖剣に選ばれた戦士ではなかった。しかし‥‥」
 この地を護る。そう決意した男達が己の誇りと誓いを胸に、剣を掲げる。その姿を見送り、胸を痛める娘達。亡国の英雄、そして失われたと思われていた種族の末裔。様々な善なる存在がこの地に集う一方、混沌の使徒達も集結を進めていた。

『滅ボセ‥‥。聖王国ラストホープヲォォ』
 異形の獣、キメラの咆哮が荒れ果てた地平に木霊する。大地を埋めるような数の魔獣と、地獄から呼び戻された亡者達の兵団が、聖王国を目指してゆっくりと動き始めた。
「聖剣の使い手を、捜すのだ。我らの手で」
 賢者、魔法使い、そして司祭達が念を凝らし、脚をすり減らし、そして命を削りながら世界を探る。魔王の手の悪魔達に妨害を受けながらも、彼らは真なる光へと近づいていた。そして、彼らを追う夢の中の悪魔ワームどもも、また。

『滅ボセ‥‥。聖王国ラストホープヲォォ』
 いまだ、魔界に半身を縛られし魔王の声が幾度も響く。魔界の獣シェイドに乗る黒の乗り手、そして緋色の死神たちが、次々と勇者達を砕いていった。それでもまだ、世界は闇に屈してはいない。

「勇者よ‥‥。聖剣を、その手にするべく定められし勇者よ‥‥。私はここにいます」
 清浄なる気を放ちながら、瞑想する巫女の思念が、未だ目覚めぬ魂へと語りかける。

 世界の運命は、この一戦にかかった。人よ、信念と愛する者の為に、死ね。

●参加者一覧

/ 鋼 蒼志(ga0165) / 大泰司 慈海(ga0173) / 柚井 ソラ(ga0187) / メアリー・エッセンバル(ga0194) / 神無月 翡翠(ga0238) / 神無月 紫翠(ga0243) / 榊 兵衛(ga0388) / クレイフェル(ga0435) / 霞澄 セラフィエル(ga0495) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 御山・アキラ(ga0532) / 黒川丈一朗(ga0776) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / ロジー・ビィ(ga1031) / 叢雲(ga2494) / 伊藤 毅(ga2610) / 漸 王零(ga2930) / 霧島 亜夜(ga3511) / 緋霧 絢(ga3668) / 王 憐華(ga4039) / 金城 エンタ(ga4154) / 夏 炎西(ga4178) / UNKNOWN(ga4276) / 雨霧 零(ga4508) / 如月(ga4636) / 鈴葉・シロウ(ga4772) / ファルル・キーリア(ga4815) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 勇姫 凛(ga5063) / ハンナ・ルーベンス(ga5138) / レールズ(ga5293) / 月神陽子(ga5549) / ゲシュペンスト(ga5579) / 緋沼 京夜(ga6138) / リュス・リクス・リニク(ga6209) / グリク・フィルドライン(ga6256) / シャレム・グラン(ga6298) / 秋月 祐介(ga6378) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / クラウディア・マリウス(ga6559) / ハルトマン(ga6603) / カーラ・ルデリア(ga7022) / 不知火真琴(ga7201) / 砕牙 九郎(ga7366) / ブレイズ・S・イーグル(ga7498) / 百地・悠季(ga8270) / レティ・クリムゾン(ga8679) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 三枝 雄二(ga9107) / 白虎(ga9191) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / 赤宮 リア(ga9958) / 天道 桃華(gb0097) / 白野威 奏良(gb0480) / キムム君(gb0512) / 烏谷・小町(gb0765) / イスル・イェーガー(gb0925) / 鹿嶋 悠(gb1333) / 秋月 九蔵(gb1711) / シャーリィ・アッシュ(gb1884) / 美環 響(gb2863) / マグローン(gb3046) / 鳳覚羅(gb3095) / 直江 夢理(gb3361) / 雪代 蛍(gb3625) / 鹿島 綾(gb4549) / ルーイ(gb4716) / ふぁん(gb5174) / 美環 玲(gb5471) / 弥谷清音(gb5593) / イリーナ・アベリツェフ(gb5842) / Lilli(gb5853

●リプレイ本文

「勇者などと。余所者の力を借りるだなんて、在り得ませんわッ」
「我らの力だけでは、聖王国は‥‥滅亡する」
 白銀と黄金の2人の騎士が睨みあう中、カノンはため息をついた。
「王子様も、大変ですわね」
 小妖精の玲がクスッと笑う。
「王子、センベーイとグリーンティーでもどうですか」
 魔法で取り出した湯飲みと菓子を差し出す白衣姿のイリーナ。
「ロジー、アスもどうですか?」
 美味しいですよ、とお盆を手にするカノンに、2人の騎士は見惚れて一時休戦。
(‥‥王子がしていたのは『萌えの指輪』? いえ、まさかね)
 よぎった懸念を打ち消すように、イリーナは頭を振る。


 空中から、機龍が舞い降りる。毅は桃華が選んだ勇者を知っていた。彼の祖国、銀河を滅ぼした死神の1人として。
「‥‥王宮より、勇者殿御一行をお迎えに参りました」
「我が名はキムルダー! 白の不死鳥の名を持‥‥うぶっ!」
 呼んでないから、の一言で桃華が蹴り倒した。イスルや瑞姫の後ろに隠れるようにしていた白虎を、両手で引っ張り出す。
「僕が‥‥勇者。死神だった僕が」
 俯いた胸倉を、毅が掴んだ。
「今の我々は、国ごと居候している状態だ、宿主の頼みは断れん。そうでなくば、誰が!」
「その手を離しなさい、毅」
 静かな声が、響いた。
「ミズ、キ?」
 旅の間、明るいメイド風だった少女の変容に、イスルが目を見張る。
「お前、闇払いの‥‥」
「あなたのように国を再興させる気など有りませんよ。ただ、道具にされるのならね」
 冷たく、静かに言い放つ瑞姫。
「じゃあ、何故この決戦の地にいる! 今まで逃げ隠れしていたお前が」
「よせ、毅」
 問う毅を、別の機龍から篠畑が制止した。
(何故‥‥)
 遠巻きに囲む民の中から、ハルトマンも自問する。キムと交わした言葉が気になって、とうとう此処まで来てしまった。そして、もう1つの何故。
「‥‥ずっと、傍らに居させて下さいなのですよ」
 気まぐれで助けて後、半エルフの清音は今も自分に付き纏う。そして、自分もそれを許している。
(この世の真理を探る為の旅なのに、謎は増える一方です)
 それも構わないかもしれない。キムに言われたように、彼女は無限の寿命を持つ大魔道士なのだから。

「今日は城下で泊まって、王子の所へは明日にしたら?」
 スノウこと蛍が屋根の上から地面に飛び降りる。
「ならウチに泊まっていくといい。安くするぞ」
 白虎の肩を、いつの間にか後ろに回っていたレティが叩いた。
「昔取った杵柄でな。だが、今は酒場の店主が仕事だ」
 彼女が親指で指した看板には、『紅翼亭』と書かれている。


「ふむ、彼が新人かね?」
「名前は九郎。よろしくってばよ!」
 酒場では、混沌戦隊と変な老人が新たな戦力を迎えていた。
「元気がいい新入りやな。こちらこそ宜しく頼むで」
「中々人が集まらなくって。助かったわ」
 九郎と握手するクレイの横で、メアリーが頷く。
「就職難のご時世とはいえ、やっぱり3K(危険・混沌・カオス)環境の不人気は相変わら‥‥」
「最後はCではないのかな?」
 言葉に詰まるメアリーを他所に、設計図を広げるカッシング。
「君の持ち場はここだよ」
 九郎、と爺が記した場所は『HB砲』と書かれていた。
「おお、強そうな名前だなー」
 君こそが最大戦力だ、等と言われた青年は素直に喜ぶ。真相は知らぬままに。
「ところで、募集要項にあった『熊もふり放題』ってなにさ?」
「熊? ‥‥チチチ」
 ゆらりと立ち上がったシロウが新人に不敵な笑いを向けた。
「見るがいい私の新たなる力を! 変身!!」
「おお!?」
 白熊からパンダに、そして月輪に。思わず手を伸ばした九郎を爪が薙ぐ。
「困るんだよね。この私の毛皮を安っぽく解釈されちゃあ」
 でも、募集要項は嘘じゃない、とシロウが指差した隅には、小さく『女性限定』と書かれていた。

「うん、下界の酒もいけるよね。お姉さん、もう一杯!」
 一応恋愛を司る旧き神、なのだが現代ではすっかり忘れられた慈海と、その神官ルーイは酒場で飲んでいた。
「ジカイ様。魔王とラストホープの王子がジカイ様の力で恋人になれば平和が訪れるんじゃ?」
「魔王って女の子なんでしょ? 女と男の恋愛とか応援してもつまんない」
 そんなだから信者が消えたんだ。
「リリー、奥のテーブルにピザ3枚と、ビール!」
「はぁい!」
 レティの声に大きく返事してから、Lilliは客の間を縫うように盆を運ぶ。
「一口食べれば炎を吐き、二口食べれば身体が燃え出し、三口食べれば焚き火の出来上がり♪ の筈なんだけど」
 彼女の破壊工作は、神の胃袋の前に敗れ去っていた。
「なんや、食うなって言うた癖に‥‥、旨そうやないか」
 同じく魔軍潜入班の奏良が、こっそりつまみ食い。
「ごくん。う、うまぁっ‥‥♪ て、何か熱‥‥ッ!?」
「こ、この大食い馬鹿。っていうか脱ぐな!」
 ボッと火がついたように赤くなった奏良が上着に手を掛け、後頭部を痛打される。
「いいぞ、もっとやれ!」
「‥‥落ち着きなさい。見苦しい」
 隅からエールを送った小町が、同卓の霞澄に席に引き戻された。その姿に、キムが驚愕する。
「あ、あなたは伝説の貧乳王!」
「え、は? ひ、人違いです」
 いきなり土下座したキムに泡を食う霞澄と、腹を抱えて笑う小町。
「何ィ、エルフだと!」
 九郎に体育会的上下関係を教えていたシロウが、血走った目で振り向いた。
「エルフは脱がー‥‥」
 凍りつくシロウ。
「黙るです。キヨネが怯えているのですよ」
 ふるふる震える半エルフの清音を撫でながら、ハルトマンが大きな杖を抱えなおした。


 勇者は明日。そう聞かされた王子は騎士達を心配させぬよう微笑する。
「明日が、楽しみですね」
 その様子を、遠見水晶で眺めていた男が薄く笑った。
「明日か。来れば良いですね」
 そのまま、急降下する黒狼。その両脇に、緋色の影が2つ並んだ。
「行きましょう、レイン」
「はい。姉さん」
 ナレインとレインこと零の姉弟が微笑み交わしてから、王宮へと向かう。

「この戦いが終わったら、俺‥‥うぉ!?」
「篠畑!」
 出撃中に女の事を話したら以下略。
「ここは通さん!」
 次々に部下を切り裂いていく赤い閃光を、毅が遮った。大鎌を、機龍の翼が捌き、弾いた隙に銃火を閃かす。
「‥‥!」
 弟の肩をかすめた一撃に、声を上げたのは姉。
「レインに傷をつけたわねぇ!」
「2人‥‥か!」
 死角からの斬撃に不意を衝かれた雷電が苦鳴を上げ、弾き飛ばされた毅は眼下の闇へと吸い込まれる。
「他愛無い」
 機龍に止めを刺し、吐き捨てるナレイン。上空にいた銀河の残党は僅かな間に駆逐されていた。

「敵しゅ‥‥!?」
 城壁の雄二が、悲鳴を上げて落ちる。
「ゆけ、我の僕たちよ。にっくき、カプロイアの首級を挙げんために‥‥」
「あ〜」
 ふぁんの詠唱に合わせて、地から湧き出てくるグリクの群れ。虚ろな頭部には揃いの蜜柑。先陣に立つ甲冑の男を、九蔵は知っていた。
「必中の魔弾、あいつを貫け!」
「久しぶりですね、聖王国。‥‥私の帰還を盛大に迎えてください。こんな物じゃなくねぇ」
 九蔵が放った銃弾は、如月の魔剣に砕かれる。彼の背後で、不落の城門が内より開かれていた。
「やっほうー。遅かったね」
 亡者の軍団を手招きするLilli。ふぁんが手を一振りすると、複数の火球が門をぬけ、市内で大爆発を起こした。

「兄貴、久しぶりの下界だろ? ゆっくりしていこうぜ? どうせ仕事は、ほぼ片付いているんだろ?」
 頭上を舞う緋色を見ながら、翡翠が笑う。しかし、紫翠は生真面目に首を振った。
「このままだと、光と闇のバランス崩れますね? 彼女を呼びましょうか」
 片手で印を刻むと、空間が割ける。高位の天界人である彼らは、地上のバランスを保つ為の力の行使を認められていた。
「死なないか?」
 現れたのは、青い作業服のカーラだった。紫翠が空中の死神双子を指差すと、カーラは嬉々として飛び上がる。
「な、何者!?」
「姉さん、変態だ」
 ナレイン達の判断は多分、正しかった。
「うほっ、よかったのかい、ホイホイこんな所へ来て」
 大鎌を構え、左右に判れる2人。正しくなかったのは、カーラの実力の認識だった。
「私は寿命が来てない人だって構わず殺っちまう天使なんだZE?」
 鮮やかな赤を散らして、カーラが笑う。

「初めまして、カノン王子。そして‥‥」
 叢雲の声が止まった。その隙に、2人の騎士が叢雲に切りかかり、薙ぎ払われる。我に返った叢雲が、カノンの腕を狼の背に引き上げた。
「気が変わりました。その忠義、どこまで持ちますかね?」
「ま、待て!」
 伸ばしたアスの腕は空を切り、シェイドは天を指して駆け上る。
「あの男が王家に向ける恨みは筆舌に尽くせません。急いで追わないと」
「‥‥そうだな。あの力を使う時か」
 2人の力は連続使用は出来ない限定転移。しかし、魔王の結界すら貫けるはずだ。ロジーの伸ばした手に、アスが重ねようとした手を、イリーナが引いた。
「な、何を‥‥うっ」
 慌てて目を背けるアス。男をめろめろにさせる魔力を持つイリーナの美脚が、白衣の下から零れていた。
「いえ、おそらくは‥‥王子は御無事です」
 本人は頓着せずに北の空を見る。
(やはりあれは‥‥)


 叢雲の奇襲と時を同じくして、城門を突破した魔の軍勢が市内に雪崩れ込む。それを、丘の上から見下ろす一団がいた。
「来ます‥‥。もの凄い数の軍勢が‥‥邪悪な意思に満ち溢れて‥‥!」
 一団の先頭に立つ王零の肩に腰掛けた妖精、リアが囁く。
「始まりましたね、零」
 逆側から憐華が悲しげに呟いた。
「もう少し、待った方がよかないか?」
 ゲシュペンストの声に、王零は頷く。少数精鋭で二大勢力に割って入ろうという彼ら『ラグナロク』は、未だ動くべき時でないと判断していた。

 城門を抜けた魔軍は市内を半ば近くまで制圧したが、頑強に抵抗している拠点も幾つかあった。
「今日は千客万来だな‥‥」
 彷徨うグリクをフライパンで殴り倒し、レティが溜息をつく。
「揉んで面白いのが来んなぁ。やっぱカスミ、揉ませてくれん?」
「お断りです!」
 小町と霞澄の凸凹コンビも、グリク集団を相手に戦っていた。
「こうなったら仕方ない。勇者さんご一行が無事に城につける事を祈るッスよ」
「みか〜ん〜」
 城門で死んだ奴の7番目の弟の雄二と、亡者1062番のグリクが切り結ぶ。『蜜柑の皮だけ潰した汁飛ばし攻撃』は、ここまでに多くの雄二を倒してきていた。

 如月の一刀をレティのパン返しが受け止め、弾き返した。
「現役は引いたとはいえ、甘く見ないで欲しいな」
 ピクリ、と如月の口元が引きつる。さっと身を引きつつ、納刀。
「‥‥喰らって死ね! 『殺一文字』」
 抜刀の耳鳴りが辺りを圧した。
「店主!?」
 思わず目を向けた雄二が、絶句する。
「‥‥ぐっ。しまっ‥‥たな」
 先に倍する剣速で、如月の魔剣がレティの腹を断ち割っていた。
「ヒャッハハハー!」
 高笑いする如月の横を、暗黒の疾風が過ぎる。
「まさか奴まで‥‥来ている、とは」
 末期の彼女の言葉は、客達の無事を祈る物だった。


 龍騎士なので落下に強かった毅は生きていた。
「状況はどうなっている?」
 報告は、思ったよりも悪い。城門は突破され、奇襲によって王子を浚われた。王宮へ通じる内門は『剣聖』ブレイズが守護しており、容易くは抜けないだろうが‥‥。
「聖域は? 巫女達はまだあそこにいるのだろう?」
 伝令を、と言いかけて機龍が全滅した事を思い出す。この混乱の中王宮へ戻ってこれるかは、巫女たちの運次第だった。
「王宮の戦闘型体への移行準備は完了している。後は承認を待つのみだよ」
「なのだ」
 丸っこい浮遊装置に乗ったカッシングとリニクが、嬉しそうにそんな事を言う。バイト募集的意味で選ばれし操者達は、既に王宮の各所へと散っていた。
「起動には、勇者の持つ伝説の宝具が必要よ」
 と言うわけで宝具を下さい、とメアリーが両手を出す。
「宝具‥‥って、あの役に立たないガラクタですの?」
「巫女さんが、妖精に渡してなかったっけ?」
 ロジーとアスが、目を見交わした。

 聖域の一角。巫女装束の加奈が念を凝らすと、祭壇が白い光に包まれる。
「召喚の儀‥‥、成‥‥」
 倒れ掛かる加奈へ、光の中から手が2本。
「おい、大丈‥‥」
「大丈夫ですか!」
 蒼志を押しのけ、夢理が加奈を受け止めた。所在無げな手で頬をかきつつ、周囲を見た蒼志の目が丸くなる。
「って、ここはどこだ!? 俺は新宿で‥‥」
『どうやら、召喚儀式に捕まったようだな』
 混乱する青年の耳に、声が聞こえた。彼の手には、いつの間にやら螺旋状の剣が握られている。
「この声、剣から?」
 頬をつねる蒼志。向こうでは、夢理に人工呼吸される寸前に、加奈が息を吹き返していた。
「はい、宝具のお届けーっ」
 2人の少女と青年の間に、小さなユーリが現れる。
「あれ? 勇者様が2人? 聞いてないなぁ‥‥」
 1本しか預かってない、というユーリから剣を奪う夢理。
「これが‥‥私の。加奈様の勇者の為の武器、ゆりんカリバー!」
 あ、名前まで勝手に付けた。


「う!?」
 キムが、背後からの風によって両断される。
「ん? 間違えたか?」
 白虎達の前を塞ぐように止まった姿は、堕ちた騎士クラークだった。
「俺じゃなければ即死だった‥‥って踏んじゃ嫌ー!?」
 切断面を踏まれて悶えるキム。不死身でも、痛い物は痛い。
「白虎、可笑しな話だな? お互いの陣営を変えて、こうして戦う事になるとはな!」
 クラークは白虎へと魔剣ステアーを向ける。
「やるしか‥‥、無いのか」
 仲間を制して、白虎が身を低くした。と、一触即発の2人に声がかかる。
「いいや。その男は俺が貰おう」
「‥‥剣聖?」
 剣の紋を見た瑞姫が目を丸くした。闇払い一族と同じく、戦いの力を継ぐ一族の末。
「久し振りだな、兄弟!」
 向き直ったクラークが、横薙ぎに剣を振るう。ブレイズが相殺した余波に、辺りが揺れた。行け、というように片手を振り、ブレイズが剣を肩上に担ぐ。クラークも、ステアーを脇に構えた。
「クラーク‥‥家族の仇、討たせて貰うぞ!」
「‥‥行け。邪魔だ」
 ブレイズの言葉に動かぬ白虎の手を、行間で復活したキムが引く。

 巫女達は、如月とふぁん率いる魔軍に襲われていた。
「エレン様は儀式でお疲れです。ココは私とソラで」
「‥‥ごめんね。今度こそ、召喚がうまく行きそうな気がしたんだけど」
 崖を背に、クラウとソラがエレンを庇う。1体づつは弱いが、2人で食い止めるには数が多い。
「‥‥戦いの、音?」
 崖の上で、男の声がした。
「ここは、どこだ。あの戦いに敗れて、私は」
 口に出すうちに、レールズは思い出す。彼は勇者。世界の命運を掛けて魔王と戦い、敗れて全てを失った筈だ。
「転移、か」
 最後の瞬間、姫から授かったクリスタルが輝いたのを彼は覚えていた。おそらく、ここは異世界なのだ。

「‥‥エレン様、ソラ、ごめんなさい」
「クラウ、駄目よ。その力はっ」
 眩い光が敵を飲み込む。
「甘いわ!」
 ふぁんの嘲笑が聞こえた。
「この程度、私には児戯の如きもの」
「‥‥う」
 力を使い果たしたクラウをソラが支える。
「私は偉大な魔道士だった。それを、あのカプロイアの奴が‥‥」
「かぷろいあ? 千年前の話じゃない」
 ブツブツ言い出したふぁんに、エレンが口を挟んだ。
「煩い。今度こそ、私は魔王様の力で勝つのよ!」
「‥‥この世界にも、魔王か」
「何者!?」
 見上げた崖上に、レールズの姿。
「あぁ、勇者様、エレン様を助けて‥‥」
 クラウが薄れる意識で呟いた。
「俺は勇者では‥‥」
 言いかけたレールズの言葉が途切れる。エレンの姿は、彼の姫君と瓜二つだった。
「余所見してるんじゃねェ!」
 耳鳴りがした瞬間、ソラの杖が3つに斬れる。
「次はどこを切るかな? ククク、アハハ‥‥ァア!?」
 如月の哄笑が、止まった。
「お前はもう、何も斬れない」

「燃え尽きろォ! タイランレェェェイ!!」
「ブレェェイズゥゥゥッ!!」
 怒号が行きかう。蜜柑の皮に脚を取られたクラークの剣は一瞬遅く。そして、ブレイズの胸を貫いていた。
「な‥‥」
「言っただろう。家族の仇を、ってな‥‥」
 貫いたままの剣に、無数の亀裂が入る。クラークを深淵に繋ぎとめていた剣の断末魔と共に、ブレイズは満足げに倒れた。兄を抱き上げたクラークの叫びが響く。


 市内を、巨人が行く。食べすぎで巨大化してしまった奏良だ。その足元をとぼとぼ歩く京夜。
「殺して下さいませ。真琴様の手で‥‥」
「殺す? 私がお前を? 何故?」
 彼の主、そして魔族の真琴が宙から現れる。暴走する奏良を見つけた真琴の『面白そうだから』の一言で京夜が世話役にされ、数時間。
「お慕いしております‥‥ですが、もうっ」
 この流れで耽美路線は限界です、と京夜は俯く。
「腹減ったー」
 京夜が止める間もなく、奏良が潰れた蜜柑を拾い食い。
「み〜かん〜」
 仲間を食われたグリクが声を合わせる。
「な、何?」
 きょとんとした顔が意外と可愛い真琴。疑問には、漂う解説席の爺が答えた。
「個体数の減ったグリクは、集まって『キング亡霊グリク』に‥‥」
「はいはい、解説乙!」
 飛び去る解説。後には、奏良より大きくなったグリクが残されている。
「あ〜」
「これ、食べていい?」
 どう考えても耽美に縁遠そうな対決を見上げて、くるりと回れ右する真琴。慌てて京夜が追う。
「勝手な御方‥‥。せめて責任を取って下さいませ」
「何故、私がお前の願いを叶えてやらなければならないっ」
 そんな会話を横目に、白衣の老人が巨大女を見上げた。
「マスター、そろそろ実体化したいですわ、あの子の体‥‥食べちゃっていいかしら?」
「腐ってるがのう」
 ミハイルが渋面を見せる。カプセルの中のシャレムに相応しい実体を探しているのだが、中々ないらしい。

「戦争、戦争、戦争。うふふ、荒んだ人の心には神の救いが必要ですわね」
 ファルルが、荒みきった目で周囲を見回す。彷徨うグリクや響は彼女の殺すリストに乗る事は無かった。奥で戦う霞澄も。
「そこの牛! 死になさい!」
「な、何事!?」
 小町へと鞭が伸びる。慌てて回避するよりも二撃目が早い。裂かれた背から、黒い翼がこぼれ出た。
「その羽、まさか魔族!」
「あちゃあ‥‥」
 ばれたか、と舌を出す小町。その表情が引きつる
「さぁ、いい声で啼きなさい、巨乳娘! エターナルフラット!」
「ちょ、うちは悪魔だって‥‥!」
 ファルルにとっては光と闇とか神と魔とかいう区分は関係なかった。
「ぬぉ!?」
 ミハイルが転ぶ。ポケットから零れたカプセルが、ファルルへとぶつかった。
「‥‥はぅ!?」
 予期せぬ憑依に、身体を撫で回すシャレム。
「男の身体は嫌ですわ、マスター」
 いや、それ一応女性だから。


「街が‥‥燃えてる」
 誰かが囁いた。人々は、聖剣の封印された洞窟がある王宮裏に集まっている。
「声が届いた人は、全員助けましたが‥‥」
「できる事はしたし、しょうがないよ」
 頭に乗ったユーリに言われて、獣人の炎西が、瞑目した。幻獣使いの彼は、ユーリに宝具を届けられ、この地へと着いたのだという。レールズに危地を救われたエレン達も、そこに逃げ延びていた。
「そうか。お前達も魔王と‥‥」
「さっきの力、俺達に貸してもらえませんか」
 真っ直ぐな目で見るソラから、レールズは視線を外した。
「無駄だ。いくら足掻こうとお前達に魔王は倒せない」
「やって見なければ分りませんっ!」
 ソラの腕の中から、クラウが怒鳴る。
「一緒に来て貰えると、嬉しいんだけど。無理は言えないわね」
 巻き込まれたくなければ離れるといい、とエレンは寂しげに告げた。
「誰も聖剣の試練を受けないなら、凛が戦う!」
「待て、君では!」
 炎西の声を背に、洞窟の中へと駆け込む少年。後を追うレールズの前で、入り口が崩れ落ちた。

「暗いけど‥‥、凛、平気」
 ぽわん、と灯る小さな明かり。リス風の可愛いヘルメットの目が光っていた。
「制服だから今まで仕方なく被ってたけど、初めて役に立ったなっ」
 嬉しそうに言う様子は、どう見ても仕方なくではない。奥へと慎重に進む少年は、すぐに開けた空間へ足を踏み入れた。その足が何かに躓く。
「貴女は?」
「あれが聖剣‥‥だと。カプロイア、め‥‥」
 少年の腕の中でふぁんは気を失った。
「治療‥‥」
「――よく来たな、私を手にする勇者よ‥‥」
 腰のポーチを探った凛の耳に、男の声が響く。
「‥‥剣?」
 遠目に剣に見えたそれは、マッシヴなポーズをとったUNKNOWNだった。塗られた刀油でテカテカしている。
「さあ、手に取りたまえ」
 じりっ、と下がる凛へ、岩から自力で足を引き抜いたUNKNOWNが一歩、間をつめた。
「お前こそ、選ばれた勇者だ」

「貴方は、確かにこの世界の勇者では無いのかもしれません」
 エレンの声に、目を落すレールズ。その、目の中に微かな光が見えた。
(クリスタルが、輝きを?)
「それでも。‥‥この世界には、貴方の力が必要です」
 過去に聞いたのと同じフレーズが、レールズの耳に届く。
「‥‥姫様、私は」
 宝石を握る手に、力が篭った。


 交戦の続く市内を見下ろす丘の上。
「纏めて燃えろ! そして魔王様の糧となりなさい」
 術式を練っていた悠季の周囲に、赤い魔方陣が形成される。
「この気配は、火炎極大魔法プロミネンス」
 ハルトマンがハッと見上げた瞬間、炎の龍が丘で鎌首をもたげるのが見えた。対抗術は間に合わない。
「‥‥っ」
 清音をマントに包み、見通しのよい屋根へ飛び上がる。
「火が、見えます」
 きゅ、と抱きつく少女を撫でてから、ハルトマンは冷気を纏った杖を正面に構えた。
「降りかかる分だけ切り払えば、何とか‥‥」
 巨大な炎柱が宙に上がり、全てを押し潰さんと雪崩落ちる。眩さに目を細めたハルトマンの視野に、数人の男女の姿が映った。
「頃合だな。頼むぞ、エンタ」
 王零の声に頷き、一歩前へ出る小柄な少年。
「あれは‥‥悪意の塊。そんなどす黒い気持ちで精霊を使って、自然の摂理を曲げないで下さいっ!」
 炎龍が戸惑ったように見えた。悠季が術に念を込め、再び炎が力を増す。と、長身の女がエンタを抱えて跳躍した。炎龍の頬へ、少年が手を伸ばす。
「そんな汚れた意思に従っちゃダメですよ‥‥。さぁ、お休みなさい」
 赤かった瞳の色が薄れ、炎はその色を失って消えた。
「発動後の‥‥、大魔法を潰すなんて」
 ハルトマン達に気づいたのか、中の1人が肩越しに振り返った。
「我々はラグナロク! 古の封印兵器『武神』を筆頭に理想を実現させるために決起した私設武装組織である」
「ラグナ‥‥ロク?」
 ハルトマンを一瞥してから、王零は剣を王城へと向けた。
「まずは、あそこだ‥‥!」

「いつの間に、道を間違えたんだろう‥‥すまない」
 兄の遺骸に語りかけていたクラークが、ふと視線を上げる。
「ここは、兄が守護した門。通せませんね」
「‥‥っ! こいつ、生身か!」
 ゲシュペンストが武神を全速で後退させた。しかし、それよりもクラークの踏み込みが早い。
「させない!」
 クラークの足元が爆発に包まれる。綾の放ったミサイルの着弾だ。命中を確かめもせず綾は空間転移で主砲を取り出す。クラークが爆風を抜けるのは同時。
「主の為ならば、この命‥‥惜しくは無い!!」
「くっ‥‥」
 綾は両断された電子砲を投げ捨て、ブレードを振り上げた。それより早く、懐に入るクラーク。
「綾!?」
 赤い血が飛び散り、光が網膜を焼く。片腕を失いながらも、クラークに密着した綾は微笑した。
「お先に、主」
 全てを圧するような爆発の跡には、何も残っていなかった。


「この分だと俺の命も残りわずかか‥‥」
 魔の槍に魂を削られつつ戦っていた兵衛は、既に限界だった。
「少しは周りを見て戦ってはいかが?」
 クラリスが憎まれ口を叩きつつ、その背を守る。
「周り、か‥‥」
 周囲を見た兵衛が、笑った。

「シャーリィ! 俺だ、解らないのか!」
 仮面の少女の猛攻に吹き飛ばされる悠。転がった先で、血を吐いてから立ち上がった。
「‥‥あれを、使うしかないか」
 ポツリ、と小さな炎が灯り、悠の目を狂気が彩る。
「ルァアア!」
 雄叫びと共に、跳ね上げた剣閃は先とは別物だった。理性無き筈の悠が放った一撃は、仮面だけを断ち割る。
「‥‥ッ!」
 顔を押さえ、呻く少女。正面で、剣を振り上げた悠。
「良カッ‥‥。俺カラ、離レ‥‥」
 狂気を押さえていられる間に、と囁く彼の正面に兵衛が立った。
「‥‥最後に、良き相手がいたようだ」
 振り下ろされた剣を、槍が弾く。石突で肩を打ち、そのまま鳩尾へ肘を叩き込んだ。
「強ッ」
 息を呑んだシャーリィの肩に、クラリスがそっと手を置いた。
「彼は、魂喰いの力に遠く及ばないわ。だから、まだ間に合う」
「泣いて、いるのですか」
 前のめりになった悠の眉間へ、槍を。穂先は彼の額をかすめ、その前に漂う炎を切り裂いた。崩れかける悠へと、クラリスがシャーリィの背を押す。
「もういい‥‥戦わなくていいんだ! これ以上、心をすり減らさないで‥‥」
 抱きしめる彼女の腕の中で、悠が咳き込んだ。
「ただいまと、おかえりなさい。‥‥俺の可愛い騎士姫」
 抱き合う若者達の姿を見届けてから、兵衛は膝をつく。
「回復を‥‥」
 寄り添うクラリスに、頭を振った。
「来世というものがあるのならば、そこで又会おうな」
 足元から石と化し、砕けはじめる兵衛に、クラリスが掌を当てる。
「私も愛していますわ。必ず、また次の時代で‥‥。今度出会ったら、二度と離して差し上げませんわよ」
 転生法。司祭級の者でなくば不可能な秘術を行う彼女を挟んで、悠とシャーリィが立った。
「守る位しか、恩の返しようが無いが」
 剣を構え、魔族に向かう男と女。兵衛の口元が懐かしげに緩む。
「‥‥愛していたぜ、クラリス」


『緊急起動装置がある』
 爺の言葉に釣られて、イスル達は王宮の隠し通路に挑んでいた。不死のキムを前に出し、引っかかった所でイスル、蛍という罠の名手が解除する。
「ぎゃあああ」
「あたし、仕掛ける方が本職なんだけど」
「役割分担、だね‥‥」
 理想的なチームだった。後ろの瑞姫が奇妙なレバーを見つける、倒した。王宮に不思議なエネルギーが満ちていく。
「来た!」
 薔薇園の東屋で、メアリーが拳を握った。
「変形には宝具が必要だと思っていたが、そんな事はなかったぜ!」
 操縦桿を手にしたシロウがいたのは、男子便所だった。
「動力炉って、何したらええんやろ」
「‥‥私は、このままでいい、です‥‥」
 変形で狭くなった厨房で密着するクレイと絢。
「動力って何なんですか?」
 マイクを向けるリニクに、爺が頷く。
「2人の周囲の粒子を圧縮、メガ桃色粒子にし‥‥」
「解説乙ー」
 最後まで喋らせる気は無いようだった。
「ザミエル、最後の1発なんだ、悪戯はしないでくれよ?」
 傷だらけで合流した九蔵が手の上を見つめる。彼の弾丸の必中の魔力は、何度かに一度必ず外れる呪いと裏表だった。
「気にするなってばよ! 俺、運はいいんだ」
 ニッと笑って弾丸を受け取り、砲座に向かう九郎。敗残の九蔵がその弾丸を届ける為に払った労苦を、九郎は肌で分るタイプの青年だった。

「巨大ゴーレム? 叢雲が行った割に手こずっているのね?」
 池のほとりで寝転がっていた魔王、陽子が身を起こした。
「王宮が変形したらしい。ま、叢雲は、四天王で一番の小物だし」
 やられたのかも、と笑う亜夜が少女の左に。
「グハハハハ。我輩達が地上に出るのは十億と千年ぶりであるな」
 よく響く声を上げたデーモン小黒こと丈一朗が右に。
「‥‥陽子も出るのですか? ならば、私も身支度を整えなければ」
 美声が響く。少女の手から鰯を貰っていた巨大マグロが池から飛び出た。
「緋色の死神魚座、マグロードとして」
 怜悧そうな美青年が、少女の背後に立った。
「魔宮ラインホールドを始動させなさい。人間の作ったゴーレムを見に行きましょう」
 地の底で、巨人が長き眠りから醒める。


「く、動き出したか‥‥!」
 王零の武神が少年に後れを取る理由など無い。だが、彼は攻めあぐねていた。あぐねる間に、ゴーレムは起動してしまった。
「何故、見ていたのさ? 同じ人間なのに、何故!」
 崩壊を。戦いを。止められた筈だと、白虎は言う。
「理想の為には、仕方が無かったのよ」
 主の心中を、代弁するリア。武神の力の根源は、操者の感情だ。王零の心に揺らぎがあっては、勝てない。
「後の事を考えて今、何をすべきか考えない人に。負ける、もんか!」
 異能を失った単なる大鎌が装甲を裂く。
「煩い!」
 振り払った瞬間に、衝撃が走った。
「良く言った、少年」
 シャーリィの聖剣が、同じ場所に刺さっている。
「聖剣だろうが、あらゆる異能は‥‥」
「内側までは守りきれまい。‥‥武器に、奢ったな」
 少女の手に、悠が手を添えた。
「撃ち抜け! 聖剣!」

「覚えておいて‥‥、あなたのやろうとしていることは、世界の破滅を招く」
「‥‥破滅、か」
 傷ついたゲシュの武神は、カーラと相打ちになっていた。身を起こす余力もなく、ただ並んで空を見上げる。遠くで、何かが爆発した。
「そういえば、何をやろうとしてたんだっけな、大将‥‥」
 仲間を失ってもなお、得ようとしたものは何だったのか。思い出そうにも、意識は混濁し始めていた。

「そろそろ、止めないとやばいな?」
「カーラが倒されるのは予想外でしたね」
 紫翠の言葉に、頷く翡翠。2人が力を行使すれば、世界は一度消え、再構成される。
「そんなの、つまらないよ」
 慈海が、そう言葉を掛けた。
「古代神だと!?」
 馬鹿な、と言いかけた紫翠へ弓を向ける慈海。ルーイがさっと矢を手渡す。
「兄と弟の禁断の恋、とかってアリだと思うんだ」
「ちょ、待っ‥‥」
 ぶすり。禁じられた恋を強制する古代の魔力が発動した。

「加奈様の勇者はこの私、ゆりりんです。忘れないで下さい!」
「俺はただ、元の世界に帰りたいだけだって‥‥!」
 加奈を挟んで背中合わせに戦う、夢理と蒼志。
「‥‥何故異能を使わない?」
 アキラが拳で夢理の剣を弾く。蒼志に対峙したエンタは少し気が引ける様だった。
「異能‥‥。加奈様、私と心を1つに! シンクロ百合率が上がれば、これ位!」
 夢理が目を閉じて妄想を開始した。
「世界が平和になったら、『加奈様まみれキャンペーン』の開催を‥‥」
「え、ええ!?」
 辺りに、混沌が生まれる。その歪みは、蒼志の持つ剣へと吸い込まれるように消えた。
「これが貴様の異能か‥‥。砕いて見せよう!」
「待って、これは!?」
 止めに入ったエンタも間に合わず、アキラの拳が螺旋の剣を、砕いた。
『力は‥‥十分だ。我の力を発動させる。お前の望み、叶えよう』
「ま、待て。今欲しいのは元の世界へ帰る力じゃな‥‥!」
 光が、彼の視界を覆う。


 第三勢力が潰え、戦いは徐々に収束していく。兵も将も、今は巨大城砦同士の戦いを見守っていた。
「魔宮の絶対防御‥‥、あれをどうにかしないと」
 伝承によれば、聖剣以外のあらゆる攻撃が通用しない。しかし、真の聖剣は封じられたまま。
「みんな、諦めちゃ駄目だ! 聖剣が抜けなかったのは、あれが」
 何か嫌なものを振り払うように、凛が首を振る。
「凛?」
「聖なる剣は、皆の心にあるものなんだ。だから!」
 剣を掴むような仕草をした少年の手の中に、ボウッと光る何かが現れた。
「まさか‥‥光の、聖剣?」
 炎西が見守る中、凛が光を振り下ろす。伸びた光は途中でマッシブなUNKNOWNの姿に変わり、結界を砕いた。
「私を、呼んだな? 勇者よ」
 優しい声で、見下ろすUNKNOWN。
「よ、呼んでない! 凛、呼んでないよ!」
 ふるふると首を振る凛に、力強く頷く。
「私の力が必要な時は、また呼ぶといい。力を貸そう。私の勇者よ」
 聞いちゃいなかった。
「よし、HB砲、準備っ」
 メアリーの声が、巨兵の中に響く。
「まずバニーさんに着替えて‥‥」
 マニュアルを見ながら疑う事無く九郎は手順を進めた。うさ耳をつけて、砲身に潜り込む。
「完了っ」
 元気よく答えてから、首を傾げた。もしや、これは‥‥。
「ハイパーバニー砲、発射!」
「や、やっぱりー!?」
 ゴーレムの胸部から迫り出した大砲から、九郎が物凄い勢いで撃ち出された。
「ぬっ!?」
 魔宮の門番を称する丈一朗が真っ向からそれを受け止める。
「効かぬ! 我輩は悪魔であるからな!」
 高笑いを上げながら、丈一朗は九郎と一緒にアフロな黒焦げ姿で落ちた。魔宮へ、巨大ゴーレムがドリルパンチを放つ。
「‥‥久しぶりの客ですね」
 調度が砕け飛ぶ中、陽子は髪一筋乱さずに微笑んだ。
「どう足掻いても背負ったモノからは逃げられない、か」
 瑞姫が、青年へと大鎌を向ける。迎え撃つマグローンの高速突きを、鎌を回転させて往なした。
「久しぶりだな! ‥‥今度こそ貴様を葬る!」
 陽子へ向かって叫ぶレールズは蒼の鎧姿だ。その背から光翼が伸びる。
「お嬢様の甘美なる血の為に」
 亜夜が、レールズの突進を受け止めた。光翼が射出され、古き血筋の吸血鬼を串刺しにしようと迫る。
「甘い!」
 それを上回る超加速を見せる亜夜。2組の戦いには興味なさげに、陽子が仮面越しに天を見上げる。
「そろそろ出て来たら? 覗き見は下品ですわよ」
「何だ。気づいてたのか」
 空間が丸く開き、覚羅が姿を現した。何かを喋ろうとした所に、巨大な十字が突き刺さる。
「漆黒の鳳王よ、よくも恐ろしい所業を為したものです! 魔界の指輪で何を企んでの事ですか!」
 ハンナがゴーレムの頭部から魔宮を見下ろしていた。メアリーら操者も降り口を探している。
「この世界でも遅かったようだね。聖十字のルフラン」
 笑いながら攻撃を避ける覚羅の足を、陽子が引っ掛けた。
「人の居城で騒々しい。今回の茶番を企ンダ訳ヲ、説明シタマエ」
 男の声が被る。少女の仮面が鈍い輝きを放っていた。
「私が説明しよう。魔王。いや混沌の神」
 柱の影から、祐介が姿を現す。
「混沌の名の下に、全てを輪廻の中に閉じ込めるお前の所業を、‥‥これで終わりにする為だ!」
「ヌ?」
 仮面が怪訝そうに声を上げる。魔宮を中心に、積層魔方陣が組み上げられていた。が、それが瞬時に組み替えられていく。
「これは‥‥終末奏演!?」
 ハンナの顔色が青ざめた。
「この程度かい? プロフェッサー。僕が宝具や武神、ありとあらゆる混沌の種を蒔いて舞台を整えてやったのに」
「人間を侮るなよ! 神の下僕風情がッ!」
 祐介の手にした書物が、風も無いのに勢い良くめくれ始める。陣の支配圏を巡って、2人の術者が秘術を尽くす中、仮面がギラリと輝いた。雷が天より落ちる。
 ――覚羅へ。
「オ前カ! オ前ガイナケレバモット楽ニ書ケタモノヲ!」
 どう見ても逆恨みです。本当にごめんなさい。
「‥‥取ってみたら、どうなるんやろ、これ?」
 お仕置き光線で覚羅をしばきまくる陽子with仮面に近づいたクレイが、仮面を取り上げた。
「エ!?」

 ‥‥戦いと混沌に彩られた王国の歴史は、こうして終わりを告げた。


「王子はどこだ!」
「どこですの!」
 騎士達の声に、陽子が肩を竦める。
「叢雲に連れ去られたんじゃないかしら?」
 会話を聞いて目線を逸らすイリーナ。横合いから、老人が喋りだす。
「うむ。萌えの指輪という恐るべき指輪がある。あれは‥‥」
「解説乙〜」
 リニクがぶった切ったのだが、関係者に意図は通じてしまったらしい。
「‥‥クッ。転移しようにも、場所が‥‥」
「祖国の復興の為にも、彼にいなくなられては困る。機龍さえあれば追えるんだが」
 下を向く毅に、蛍が明後日の方角を向きながら口笛を吹いた。
「スノウ、いい加減隠しても無駄ですよ。私は闇払い。竜人も闇以上に感知できる」
 瑞姫の声に、皆の視線が集まった。
「竜‥‥人?」
 蛍が、ため息をつく。
「ばれちゃ、しょうがないな。‥‥乗ってけば? 皆の事、嫌いじゃなくなったし」
 竜の姿を取り戻した少女の背に、侍と騎士2名、そして錬金術師が乗った。
「行ってらっしゃい」
「イスルも、瑞姫と仲良くね」
「なっ‥‥!」
 行き先は、遠く。翼は緩やかに天を行く。


「これから、どうするの?」
 エレンの言葉に、レールズはすぐに答えなかった。
「貴方の力はまだ必要よ。此処に、いてくれますか」
 ややあってから頷く青年に、柱の影でハイタッチするクラウとソラ。

「‥‥これから、どうするの?」
 妖精の玲が、無邪気に叢雲に聞いた。
「王国が私にした事を、償ってもらいますよ。‥‥一生掛けて、ね」
 静かに眠る王子を見ていると、叢雲の背筋にゾクゾクと何かが湧き上がってくるのだ。げに、萌とは恐るべきものなり。

「これから、どうしますかねぇ」
 現実世界に帰還した蒼志は、頭を抱えていた。
「食事の準備位は手伝おう」
 居候の立場の割に偉そうなアキラの横でエンタがエプロンをつけていた。心なしか、楽しそうだ。奥の布団では、加奈と夢理が幸せそうな寝息を立てている。
「バイトでもしますか‥‥」
 せめて二部屋ある家を借りれるように、とか。俺達のラブコメはこれからだ! でも父さん許しませんよ!

 1万文字以上のご愛読ありがとうございました。紀藤先生(?)の次回作に御期待下さい。