タイトル:【XN】リサとアルのXmasマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/09 03:10

●オープニング本文


 カプロイア伯爵の別邸の1つ。比較的古く小さなその屋敷が、伯爵の後見を受ける2人の子供達の住まいだった。
「入るぞ」
 一声かけてから、アルベルトはリサにあてがわれた部屋の扉をあける。目の見えぬ少女を朝食の席へとエスコートするのは、いつしか少年の日課になっていた。
「‥‥ん、おはよう。今日は遅かったのね」
 振り返った少女は、無邪気に微笑む。その脇を抜けて、アルベルトは開け放されていた窓を閉じた。
「また窓を開けてたのか。風邪を引くぞ、リサ」
 だって、と頬を膨らませる少女に、少年が殺意を抱く事は無くなった。醜い傷跡の残る少女の顔を見るたびに、胸は痛む。彼の妹や弟はあの事件で命を失い、リサは光を失った。以前と違い、もう目が見えるようになる可能性はない。
「俺に、何かできる事は無いのかな」
 理不尽な事だとは理解しつつ。事件の概要を知った少年は、自分だけが傷を負っていない事に負い目を感じていた。
「ん? クリスマスプレゼント」
 7歳と言う年頃の子供らしく、嬉しそうに微笑むリサ。目の見えなかった時期が多かった事もあり、少女は既に身の回り程度のことは不自由なく過ごしている。実のところ、手を引かれずともダイニングまで行くのに不安は無いだろう。
「そうか、クリスマスか。何か欲しい物はあるのか?」
 と尋ねつつも、アルベルトは彼女の年頃にはサンタなど信じてはいなかった。だから、少女の返答に少年は意表をつかれたのだろう。
「えーと、ね‥‥。1つだけあるの」
 それは、少女が失くしてしまったという、小さなペンダント。今は亡き彼女の父親が、母の思い出の品だと渡してくれたという。あの事件で逃げる時に家に置き忘れてきたらしい。今まで口に出さなかったのは、少女なりにアルや伯爵に心配をかけないようにと考えたのだろう。
「私、お願いしてるんだ。サンタさんだったら、きっと探してきてくれるよね?」
 少年は故郷の村を思い出した。小さな田舎の村。リサ自身もバグアによる犠牲者だとはいえ、彼女の暴走によって大勢の人が死傷した。最後に故郷を訪れたときに、自分が秘めていた暗い決意をアルベルトは思い起こす。随分と遠いそれは、冷えた塊となってまだ心の中にあった。
「‥‥ん?」
 手を引く少年が足を止めた事に気づいて、リサは見えぬ目で少年を見上げる。
「いや、何でもない」
 そう答えて、少年は再び少女の手を引いて歩き出した。

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「この年の瀬に、良く集まってくれた」
 お互い、仕事熱心で何よりだ、と所々に染みの残る白衣のウォルトは笑う。
「今回頼むのもキメラ退治だ。とある村の川からザリガニ風のキメラが数体、現れたらしい」
 ザリガニとはいっても、人間ほどはある巨体で片方の鋏の中には銃器のようなものを仕込んでいるという。スペインで似た様な個体が観察された事があるが、その際は5匹程度で小グループを作っていたようだ。今回の報告からすれば、おそらくは1グループだろう。それでも、市内中央を流れる小さな川のどこから出てくるか判らぬために交通は麻痺、村は東西に分断されたような格好になっているという。
「ある程度の知能‥‥っていうか本能か。そういうのがあるらしく、連携を取って突撃してきたっていう報告があるな。まぁ、お前さん達なら大丈夫だろうが、気をつけてくれ」
 そう言ったウォルトの背後で、腕を組んでいた黒髪の女が、説明が終わったタイミングで顔を上げる。
「管轄違いなんだがな。この村は以前、私が出した依頼にて、リサ・ロッシュという名の盲目の少女が保護された際に居住していた村だ。そして‥‥」
 現在、ある少年が向かっている、と美沙は付け加えた。家族の1人も残っていないあの村へ何故戻るのかまでは掴んでいないが、タイミング的にキメラの存在を知らない可能性は高い、とも。
「アルベルト・ケルシャーという少年だ。年齢は15歳。いや、もう16か。元は優秀な兵士だったそうだが、一般人だからな。もしも良ければ、彼の安否も気遣ってくれるとありがたい。ま、公私混同だが、気になるものは気になるのでな」
 横を向いてから、美沙は紫煙を吐く。一度はやめていた悪癖だが、やめたままではいられなかったらしい。
「おそらく、今から急いで向かってもらったとしても、この少年が現地入りするのと似たような時刻になるだろう。間に合えばいいんだがな」
 ウォルトが少し悲観的な事を言いつつ、村の概略図と資料を机の上に置いた。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
ルクレツィア(ga9000
17歳・♀・EP
風花 澪(gb1573
15歳・♀・FC
イリス(gb1877
14歳・♀・DG
ミスティ・K・ブランド(gb2310
20歳・♀・DG
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文

●少年兵の故郷
 どこにでもありそうな田舎道を、狐月 銀子(gb2552)のリンドヴルムがゆく。
「もう、誰もあたしを止められないわ♪」
 嬉しそうに銀色の愛車の速度を上げれば、ご機嫌な風が髪をなぶった。舗装のいい加減な路面を跳ねる度に、後席の黒川丈一朗(ga0776)が息を吐く。
「このままドライブにでも行きたい所ね〜‥‥って冗談よ、冗談」
 勘弁してくれ、と呟く丈一朗に陽気な声を返しつつ、銀子はスロットルを更に開いた。故無く急いでいるわけではない。
「そこを、右に、入って‥‥、2本目を、左っ」
 依頼主から渡された地図を頭に思い描きながら、丈一朗は舌を噛まないように方向を指示する。行き先は、アル少年の自宅と、リサの住んでいた家だ。2人の家は、川から程近い場所で隣り合わせに建っていた。

「メット、しっかり締めておいてね!」
 イリス(gb1877)の指示に、神森 静(ga5165)はしっかり頷く。
「また急に、思い立って行動に走ったのね?」
 役に立ちたい気持ちはわかるが性急に過ぎる、と静は思っていた。村人へ少年が接触する前に、できれば合流したい。その思いはイリスも同じだ。
「駅や空港で捕まえられたら良かったんだけど‥‥」
 少年の足取りは、思っていたよりも捉えにくい。おそらくはキメラが現れている事も、能力者達が呼ばれている事も、彼は知らないはずだ。にも拘らず、少年は隠れるように行動しているようだった。

「どこにいるのか‥‥。追い越してしまったという事は無いだろうが」
 ミスティ・K・ブランド(gb2310)もAU−KVで村を走っていた。タンデムが空席の彼女は残り2組よりも多少は早く現地入りしてはいるが、それでもアル少年の姿は見つかっていない。ミラーシェイドの向こうの瞳がやや焦りの色を帯び始めた頃に、彼女の無線が鳴った。それは、アルの生家の近くで、丈一朗達がアルに接触したという報告だった。
「‥‥心配させてくれる」
 ほっと一息つき、アクセルターン。ミスティは彼らに合流しようと道を急ぐ。

 機動力のある仲間達がアル少年の確保に動いていた頃、徒歩の面々は情報収集に努めていた。
「なるほど‥‥、ここを、右。ですね」
「お願いします。どうか、お願いします」
 ぺこぺこと幾度も頭を下げる女性。ルクレツィア(ga9000)は小さく手を振り、別れた。川に近づかなければ手出ししてこないとはいえ、街中にいつくキメラにはおびえていたのだろう。声をかけたルクレツィアに、村人は協力的だった。彼女が聞き出していたのは、キメラとの交戦に有利そうな場所だ。
「川沿いの。この橋かな」
 近づくと危険なので、やや距離を開けて少女は周囲を観察する。

「ふーん、やっぱり5匹なんだ? ありがとっ♪」
 風花 澪(gb1573)も、村人にキメラの動静を聞いて回っていた。その数は、依頼時に予想されていた様に5匹。目撃された場所を地図へ書き込んでいくと、何も無い土手よりはどうやら橋の近辺にいる事が多いようだ。
「やっぱり、村の分断とか考えてるのかな‥‥?」
 キメラの癖に、生意気。そんな事を呟く間も、ニコニコとした澪の表情は変わらない。

「この村に、キメラが‥‥?」
「ああ。作戦はさっき話したとおり。待ち伏せ場所を知りたい。Hide and Seekに使ったような場所で十分だ。慣れた物だろう? 少年兵」
 挨拶もそこそこに、ミスティがアルに村の地勢を問う。キメラが居ついているという知らせには驚いたものの、少年はどこかホッとした様子で彼女の問いに答えていた。戦わねばならない敵に対してなら、思考を巡らせる事に困難は無い。
「そういう事なら、あの橋のたもとがいい。土手が高くなってて、川から上がってくる敵の死角は多いから」
 かすれ気味の声。ルクレツィアが村人に確認していたのと同じ、村の南部を流れる大き目の橋を少年は指差す。
「なるほどね。やっぱり育った場所だと詳しくなるのかな。さっきもなかなか見つからなかったみたいだし」
 褒めるように頷く澪に、アルは強張った笑顔を返した。
「それより、アルベルトはどうしてここに?」
 イリスの問いかけで、少年の表情が明るさを取り戻す。
「実は‥‥」
 リサが欲しがっているペンダントの事と、それがおそらくは彼女の家に残されていただろう事を告げるアル。
「ふ〜ん、‥‥いいお兄ちゃんじゃない」
「‥‥俺は、いい兄貴なんかじゃないさ」
 イリスが口にした言葉を聞いて、アルの目は再び影を宿した。

「お、いたいた。連絡がつかなかったから心配したぞ」
「‥‥ごめん、ね。おじさま‥‥」
 情報交換をしている一同に、リュス・リクス・リニク(ga6209)が合流する。ニコッと手を振る少女を、懐かしげに見るアル。複数の人格を持つというリニクの事情を知らない彼にしてみれば、リニクは見覚えのある姿だった。
「さて、では行きましょうか? お話は後でも出来ますしね」
 静の声に頷き、能力者たちが武器を手に臨戦態勢へ入る。アルは悔しげに唇を噛んだ。
「見ての通り武器なんて持ってないから‥‥」
「ああ。ここは俺達に任せておけ」
 男臭い笑みを向ける丈一朗に、軽く会釈をしてから少年は戦闘区域の外へと下がる。ここからは、能力者たちの戦いの場だ。

●包囲・殲滅作戦
「‥‥ほんとにザリガニだ‥‥」
 呆れたように口にするイリス。土手の上から見下ろした川面には、赤い甲羅の背が見えていた。その数、視界内だけで3つ。報告どおりならば5匹で連携すると言う。残り2匹は橋梁の陰にでもいるのだろう。
「よし、ぱっぱっと片付けてペンダントを探すよっ!」
「その為にも、まずは逃げられないようにしないとな」
 やる気満々の澪の右に、丈一朗が立つ。盾を構えたルクレツィアとイリス、あわせて4人が敵の正面に回る事になっていた。エネルギーガンを構えた銀子は援護射撃の為にやや後方へ。能力者たちに気がついたザリガニが、のそのそと向きを変えるのが見える。
「‥‥ちょっと、先に‥‥試して、いい?」
「無理はするなよ?」
 弾頭矢を手にしたリニクへ、声をかけつつ正面を空ける丈一朗。覚醒したリニクの髪の毛が、すっと色を失った。
「黒川さん‥‥お父さんですね」
 ルクレツィアの微笑みに丈一朗は苦笑を返す。中年に差し掛かった風貌は、確かに少女たちの父、と言われても仕方が無い物ではあった。
「‥‥ふっ!」
 リニクの呼気と弓弦の響き。低い弾道を描いた矢が上陸してきたザリガニキメラに着弾する寸前、その右鋏が素早く動いた。近づいてくる物にとりあえず突っかかる習性は原種のままのようだ。むしろ、その本能を利用して受払いに使っているのだろう。
「あ、これじゃだめですか」
 リニクが狙った銃器内蔵の鋏よりも、受けに使った鋏は頑丈そうだ。少女が様子を窺う間に、正面のザリガニは3匹、上陸を果たしていた。右側から浅瀬に上がっていた2匹が、左腕を掲げて猛烈な弾幕を張り始める。
「‥‥!」
 ルクレツィアの盾の上からも、着弾の衝撃が走る。身を伏せたいところだが、十分ひきつけるべく下がる作戦だ。まずは、土手上まで。その様子を、脇に伏せた別働隊の静とミスティが見ている。
「本格的じゃないか。海兵にでもなればいいだろうに」
 思わず苦笑するほど、ザリガニ達の前進は規律正しかった。分隊が2つ。片方の前進の際は必ずもう片方が支援射撃を送る位置取り。惜しむらくは、伏兵を察するほどの知能が無かった事だろう。
「そろそろ、行くぞ? 準備はいいか」
 静の声に、頷くミスティ。キメラの群れは川原をおびき出され、土手の上へと達していた。
「そろそろ、反撃の時間だと思ったわ〜」
 仲間越しに狙撃を試みていた銀子へも、鋏を振りかざしたキメラが指呼の距離に迫っている。回避しつつ機を窺っていた彼女は、今度は逃げずに逆に踏み込んだ。
「行くわよ!」
 竜の咆哮を叩きつけられ、キメラの隊列が崩れる。じわじわとダメージを受けつつ耐えていた能力者たちの、反撃の狼煙だった。
「行くぞ‥‥、ライトニング・ブロウ!」
 掛け声とともに、丈一朗の拳から紫電が飛ぶ。彼の戦闘スタイルに合わせて、拳闘用に調整された超機械だ。しかし、発動に要する掛け声やアクションは、なぜか特撮ヒーロー風味である。
「‥‥やはり少し恥ずかしいな。これは」
 じゃきーん、と音がしそうな決めポーズで丈一朗は苦笑した。
「それっ、行くよ!」
 スキルの名前どおり、龍の翼に乗ったような峻烈さでイリスが敵の横を駆け抜ける。正面に回った3匹の背後に回り、退路を絶つのが彼女の狙いだった。包囲されたキメラだが、臆せずに正面の澪へと右の鋏を振り下ろす。
「あいったぁ‥‥。ザリガニはおとなしく弄ばれてればいいのっ!」
 スキルで高めた力で、キメラの腕を何とかいなして懐にもぐりこむ澪。
「おなかがお留守だね。やるよ、リィセス!」
 身の丈よりも遥かに長い大鎌を短めに構え、澪は身体ごとキメラの正面へ突っ込んだ。両鋏を振り上げた戦闘姿勢のザリガニは、柔らかい腹部を無防備に晒している。そこを、刺し、急所を抉った。青みがかった血が噴出す時には、もう正面にはいない。
「さ、次〜♪」
 上機嫌で跳ねるように敵中を渡る少女。その背後でキメラがぐしゃりと潰れた。
「‥‥動かないで、という訳にもいきませんね」
 突き出した眼を狙い撃てないかと、ルクレツィアは敵の様子を窺っていた。しかし、いくら鈍重なキメラとはいえ、乱戦の中で小さな目を撃つのは困難だ。リニク程の技量があれば可能やも知れないが。
「どうやら力押しで何とかなる程度の敵、ですね」
 呟いて、リニクは弾頭矢を番え、放つ。爆発が赤い背甲を彩った。
「おっと、逃がさないわよ〜♪」
 頑丈そうな甲羅には大きくヒビが入っている。そこをめがけて、銀子のエネルギーガンが火を噴いた。
「レッドロブスター一丁〜♪」
 これで、2匹目。支援に回っていた2匹が逃げ腰になるが、退路へは静とミスティが回り込んでいる。
「援護してやるが、銃は、得意じゃないから。腕の方は、あてにするな」
 跳ねる銃身を押さえつつ言う、静。ミスティと2人がかりの銃撃で、1匹が崩れた。しかし、もう1匹が突っ込んでくる。
「防御にはこれでも自信があってな‥‥!」
 正面から、リンドヴルムが敵の突進を受け止めた。
 動きが止まったところに、イリスが両手剣を振り下ろす。正面の3匹目は、丈一朗の『必殺パンチ』とリニクの集中攻撃で止めを刺されていた。

●まだ癒えぬ闇、まだ消えぬ黒
 キメラを殲滅した一行を、歓声が迎える。
「おお! さすが能力者さんだ」
「ありがとうございます。お陰で助かりました。戦争なんて遠くの事かと思ったけれど、そうじゃないんですね」
 アルの周囲には、人だかりが出来ていた。リサの件は話さぬように、と戦いに出る前に口止めをしてある。当人も喋るつもりは無かったようなのだが。
「お前も、村の危機に良く戻ってきてくれた、アル。‥‥もう、出かけることも無いんだろう?」
 どこか気遣うように言う村人に、アルは首を振った。少年と同じ年頃の少女が悲しそうに目を向ける。
「アル君の気持ちはわかるわ。でも、これ以上化け物を追いかけても、2人は帰ってこないのよ」
 村に戻るように言う村人達。どうやら、リサが死んだという政府発表は、彼らには信じられているようだった。あの時のアルは、故郷の人たちへは何も告げずにリサの元へ訪れたのだろう。そして、今更告げる事の出来ぬ真実に苦しんでいる。どこにも悪意のない痛々しい光景に、最初に動いたのは澪だった。
「能力者も人外のバケモノ‥‥。リサちゃんをバケモノって呼ぶくせにキメラが出たら僕らみたいなバケモノに頼る‥‥」
 人って面白いね、と陽気に言い放ってから、澪は愛鎌の柄を肩に担ぎなおす。人だかりの空気が、一瞬だけ冷えた。
「さ、行こうか。まだ仕事が残ってるからな」
 その僅かな合間に、丈一朗が少年の肩を抱くようにして人だかりから連れ出す。手伝おうと言いかけた村人を、ミスティが両手で制する。
「軍務でね。ロッシュの家を捜索する。資料は多いに越した事が無いそうだが」
 狭い家屋の調査は、自分達だけで十分だろう、と。誰かが止めていた息を吐いた事に、銀子は気がついた。憎しみも恐怖も、まだ癒えてはいない。当然だろう、とも思う。
「詳しい事は雇われ者だから知らんがね。バグアによる『兵器化』は個体差が大きいようだ」
 ミスティの口ぶりに、その意図を察した銀子は微笑した。ほんの少し、時間が解決してくれるための種を蒔いておくのも悪くない。
「兵器化ね〜。本人も知らないうちに、何てこともあるみたいだし‥‥」

「うぁ‥‥」
 リサの生家は、荒れていた。幾度か調査が入った以外は、触れる物とて無く打ち捨てられていたのだろう。
「探そう。きっと、あるから」
「そうだね。私はこの部屋を探すよ」
 澪とイリスが、真っ先に動き出す。一瞬目をつぶってから、アルも玄関をくぐった。
「必ず、見つけましょう‥‥」
 探査の眼だけでなく、GooDLuckも併用したルクレツィアが唇を結ぶ。今は、幸運こそが必要かもしれない。
「‥‥頑張って‥‥、見つけないと、ね‥‥」
 そんな彼女を、リニクが頼もしげに見上げた。

 能力者達とともに戻ったアルを迎えに、リサは玄関まで降りてきていた。
「お帰りなさい。アルお兄さん」
「‥‥ただいま」
 躊躇いがちな返事に、盲目の少女は満面の笑みを浮かべる。
「はじめまして、リサ。私はイリス」
「あ‥‥。はじめ、まして」
 伸ばしてきた手を、イリスはそっと自分の頬に当てさせた。代わりに自分もリサの頭を撫でる。。
「わ‥‥!」
 そんな2人ごと、澪がぎゅっと抱きしめた。
「私もいますが。‥‥そういえば、この間はちゃんと自己紹介をしていなかったかもしれませんね?」
 楽しげな少女達を見つつ、静が微笑を浮かべる。あの様子では、彼女の番までまだ少しかかりそうだ。嬉しそうに笑いながら、リサは誰かを探すように首を伸ばした。
「丈おじさんも一緒なのよね?」
「ああ、お土産を持ってきた。他にも、たくさんプレゼントがあるぞ」
 リニクやルクレツィアがアルに託したねこぐろーぶやクマのぬいぐるみに触れて、少女は無邪気に喜ぶ。
「あ、僕もプレゼント!」
 澪の贈ったアロマキャンドルも、丈一朗の用意した花にも、リサは喜びの声を上げた。見守る一同にも、思わず笑みがこぼれる。
「アルお兄さんは、ペンダントをくれるのよね?」
「う?」
 ぎょっとしたように、固まる少年。何故、そう思ったのかと尋ねるアルに、少女は嬉しそうに答えた。
「サンタのお爺さんが教えてくれたの。窓からばさばさーって来るのよ。サンタさんは何でもできるけど、ペンダントはお兄さんに貰いなさい、って!」
 向けられた天真爛漫な笑み。一部の傭兵達が、表情をこわばらせる。

 ――メリークリスマス。どこかで黒い鳥がそう鳴いた。