タイトル:【HD】北辺防空3マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/11 01:50

●オープニング本文


 旭川方面に傭兵達が強行偵察をかけるという。その意図を隠蔽すべく、千歳基地の正規軍はその前後に行動を起こしていた。具体的には、陽動攻撃である。
「‥‥で、札幌へちょっかいを出せとか。戻って早々にまた、面倒を押し付けやがって」
『当然だが、札幌までの到達は求めていない。遭遇した敵とそれなりにやりあってから引き返せば構わない』
 基地からの指示に、篠畑は苦笑した。敵にも敵の都合がある。そう簡単に帰してくれるとは限らないだろう。ましてや、今回は初陣の部下を3人連れているのだ。おそらくは、敵前転回するよりは敵を全滅させて帰るほうが楽なはずだ。
『安心しろ、お前たちだけで行けとはいわない。傭兵を手配している』
「‥‥なるほど。それは安心だ」
 篠畑の言葉は本心だった。今までに知り合った傭兵達は、大概が千歳の防空隊よりも腕がいい。そんな事を考えているうちに、滑走路はクリアになった。
「よし、行くぞ。ひよこ共」
「オーケィ、ボス」「了解」「は、はい」
 篠畑の声に、後ろから3通りの返事が返る。ロバート軍曹、サラ曹長、資郎軍曹。初めて自分についた部下を初陣で失わぬよう、篠畑は内心で気合を入れた。
『よし、ベア隊、行って来い』
「誰がベア隊か! ‥‥了解、行ってくる」
 管制の声にやや気合をそがれつつ、篠畑と部下たちは空へと上がる。北の地に安寧はまだ遠い。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
まひる(ga9244
24歳・♀・GP
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

●集結
 千歳上空は快晴。雲ひとつ無い空を大空の騎士達が行く。先に離陸した篠畑と部下達は、上空で傭兵達を待っていた。最初にあがってきたのは、2機のディアブロだ。

「帰ってきた‥‥北海道に‥‥」
 わずかに感じる寒さは、気のせいだろう。コックピットの空調は完璧なはずだから。それでも、まひる(ga9244)は僅かに身震いした。
「どうかしたか?」
 前を飛ぶアンドレアス・ラーセン(ga6523)は、空戦慣れしていない彼女に気を配っている。まひるはそんな優しさを敏感に感じ取り、小さく笑った。
「んふ、いい声だ。もし耳元で囁かれたら、なんて想像するだけで‥‥」
「馬鹿な事、想像してんじゃねぇ」
 2人の会話に、回線越しに篠畑が笑う。
「隊長、今日はよろしく頼む」
 続いてあがってきたバイパーペアの片方から、カララク(gb1394)が挨拶を告げた。
「ハロー、キャプテンベア」
 空の上では無駄口を叩かぬ伊藤 毅(ga2610)。彼が口に出したのはそれだけだが、篠畑の後方に固まった篠畑の部下達の様子を確認する為に、軽く機体をバンクさせる。先のオリエンテーションで空戦教官役の片割れだった彼は、満足したように一つ頷いた。
「‥‥ん、空に慣れるには丁度いいかもな」
 カララクがその様子を見ながらそう呟く。彼も空中戦の経験は少ない。篠畑の部下達が初陣と聞き、彼は若干のシンパシーを感じて戦いに臨んでいた。

「緊張してない‥‥? シミュレーター思い出して‥‥落ち着いてやれば大丈夫‥‥」
 3番目に離陸してきた雷電の重厚なシルエットから、幡多野 克(ga0444)の声。
「大事な事、わかってる?」
 温和な口調で部下達の緊張がほぐれた所に、もう1機の雷電からクリア・サーレク(ga4864)がそう告げる。
「もっとも補充がきかないのは、武器でも弾薬でもKVでもなく、エミタ能力者だからね。ボクたちは、何があっても生き残らなきゃダメなんだよ」
 だから、生きて帰る様にと言う少女の声を、篠畑は瞑目して聞いていた。
「そうだな。隊が生き残る為の指示を出しておくぞ、サラ曹長」
「は、はい」
 本来は正規の軍人の指揮系統で言えば、彼女が篠畑に次ぐ。しかし、篠畑は自分が撃墜された後の次席に、自分同様に自衛隊出身の毅を指名した。その次までは決めておこうと篠畑が考え込む。
「念の入ったことだが、必要あるまい? 小型如きに梃子摺って堪るか」
 リュイン・カミーユ(ga3871)の声が、篠畑に届いた。最後にあがって来た3機目の雷電の機内で、彼女は不敵に笑う。
「噂のベア隊とのフライト、楽しみにしているぞ」
 どんな噂か、と苦笑した篠畑の耳を、独特なエンジン音が叩いた。
「中尉、一緒に飛ぶのは初めてだね。噂の凄腕見せてもらいましょうか」
 4発の大型機、ウーフーを駆るのは神撫(gb0167)だ。彼も篠畑の部下とは以前のオリエンテーションで面識があった。
「久しぶりだね。3人とも仲良くしてたかい?」
 そんな言葉に、当事者達から苦笑が返る。だが、笑いが漏れるということは部下達の関係も随分と進歩したようだ。そんな事を思いながら、神撫が口調を改める。電子支援機であるウーフーで飛ぶ彼は、事前の作戦確認も担当していた。
「今回の作戦目標は迎撃に上がってくる敵の第一陣を撃破後、増援到着前に撤退すること。ベア隊には2機程度を担当してもらいたい。いけますか?」
「ああ。大丈夫だ」
 編隊中央を飛ぶ篠畑はそう即答する。
「ベア隊は無事帰還を最優先事項としてください。撤退タイミングは中尉にお任せします。」
 神撫の言葉に、傭兵達の多くが頷いた。今回はただ敵を倒すだけではなく、初陣の兵士たちを無事に帰してこそ成功だと、彼らは理解している。その思いは歴戦の傭兵だけではない。空戦経験の決して豊富ではないカララクやまひるも同じ気持ちだった。
「資郎の岩龍は後方で管制と支援を。ドッグファイトに入ったら俺は目配りが行き届かん。お前がサラとボブに指示を出すんだ、いいな」
「はい」
 篠畑の指示へと落ち着いた言葉を返す資郎に、克が微笑する。前回のオリエンテーションで一番成長したのは資郎かもしれない。
「岩龍とウーフーが揃っているのは助かるな」
 フ、とリュインが笑う。
「‥‥あ、は、はい」
 自分より少し年長なだけの歴戦の少女の貫禄に、資郎は地が出たのか僅かにどもった。

●接触
 傭兵達と翼を並べ、篠畑達は北西へ飛ぶ。ややあって、ヘルメットワームの編隊が彼らの取るコースを遮るように飛来しているとの連絡が入った。人類側の拠点近くとはいえ、交戦空域。敵のジャミングもあるのだろうが、2機の電子戦機を擁する飛行隊の通信は概ねクリアだ。
『前回、ベア隊が叩い‥‥と同じ‥‥が、以前と違‥‥無傷だ。気を‥‥ろ』
 雑音混じりとはいえまだ届いていた千歳からの管制が、急激に悪化する。
「エネミータリホー、6ボギー、イレブンサーティー」
 毅が前方、敵機の視認を告げた。彼とカララクは最右翼。同型機同士でペアを組んでいる。その内側にリュインの雷電と神撫のウーフー。中央に篠畑のハヤブサとサラのS−01・ボブのハヤブサが飛び、やや後ろで資郎の岩龍が視界を確保している。左翼側はクリア、克の雷電が重々しい威圧感を放っており、更に外側はアンドレアスとまひるのディアブロが編隊を組んでいた。敵のワームは6機。丁度戦力比は2対1だ。
「ECM、ECCMスタンバイ‥‥オールグリーン。神撫より全機へ、幸運を祈る!」
 神撫の声が合図ででもあったかのように、敵が微かな発光を始めた。バグアのお家芸、慣性制御による高機動の余波だ。中央に2機を残し、残る4機が左右にさっと散開する動きを見せた。敵の狙いは、挟撃だろう。
「ボギーAとBは右翼編隊、E・Fは左翼で頼む。CとDは俺達で引き受けた」
 篠畑の声に、傭兵、軍人が短く了解の声を返した。

「突っ込むぞ、ケツは任せた!」
 ギャラルホルンと名付けた愛機を駆るアンドレアスが戦いの始まりを高らかに告げる。
「よし、任されたっ! ‥‥力抜いて、おねーさんに任せなさい」
 まひるのディアブロが攻撃位置を確保しようとロールした。角度を変えるたびに色合いを変えるマジョーラカラーの翼下から、ライフル弾とミサイルが撃ち込まれる。
「ナイス援護だ、まひる! そのまま追い込め!」
 アグレッシブフォースで強化されたG放電装置を撃ち込みつつ、そのまま間合いを詰めるアンドレアス。追撃のレーザーの輝きがワームの装甲を飴の様に溶かした。応射して来たワームのプロトン砲は、ギャラルホルンの動きについていけない。遅れて展開されたフェザー砲の弾幕がようやくアンドレアス機をかすめたが、大したダメージにはならなかった。

「ボクらも行くよ、克さん」
 クリアの雷電が大出力のエンジンに燃料を注ぎ込む。クリア機に相対したワームを、直撃弾が揺さぶった。
「うん。‥‥支援、するから。突っ込んで」
 克の弾幕に気を取られた隙に、クリアが斜め上方のいい位置を取る。ミサイルがワームの表面装甲を砕いた。防御に秀でた雷電だが、攻撃能力も劣ってはいない。
「反撃、来る!」
 相応の打撃を受けつつも、まだまだ余裕のありそうなワームが機体をスライドさせた。その動きは、クリア機と克機を同一射線に捉えるべく計算された軌道だ。赤い火線が2機を巻き込んで伸びる。更に射線を調整してもう1射。
「‥‥さすがに強化型、痛い」
 雷電に泣き所があるとすれば、回避能力だ。命中精度こそ低いが火力の大きなプロトン砲とは、相性はやや悪い。
「やられる前に、やっちゃおう」
 覚悟を決めたようにクリアが言う。足を止めての削りあいとあれば、耐久性に秀でた雷電の土俵だ。

「俺か傭兵がカバーに回るまで、無理はするな」
 部下にそう告げて、篠畑も正面の敵機へと向かう。ミサイルを均等にばら撒いて気を引いてから、向かって右の敵機の腹側へと回りこんだ。左側からの砲撃が篠畑の進路を遮るように1射。しかし、もう1射は続かなかった。
「おぉっと、ボスの仕事の邪魔はさせまセーン」
「無駄口を叩くな、軍曹!」
 普段どおりのボブとサラの声を聞きながら、篠畑は微かに笑う。

「行くぞ、神撫。chardon、出る」
 左翼側、短く声をかけたリュインの雷電も、攻撃に関して十分な能力を持っていた。電子支援に重きを置く為に距離を取ったままの攻撃を心がける神撫と、彼から敵の注意を削ぐように立ち回るリュイン。ミサイルを撃ち、リュインはすぐに近接格闘戦へと相手を引き込む。意識してドッグファイトを仕掛けられれば、いかに慣性制御機といえど都合よくプロトン砲の射撃位置を確保する事は困難だ。
「そうそう簡単に引離せると思うな――よっと!」
 距離を離そうと高度を下げたワームに、直上から螺旋ミサイルが放たれた。手痛い打撃を受けたワームが、リュイン機をまずは潰そうと意識を切り替える。プロトン砲が閃き、リュイン機の装甲を赤熱させた。
「ハ。まだまだ」
 ダメージゲージを見ながら、リュインが笑う。

「NEMO、FOX2」
 最左翼では、毅が淡々とトリガーボタンを押していた。一気に加速し、間合いを詰めてからのミサイルは、いかに強化されたワームとはいえ回避できそうもない。
「ターゲット確認‥‥当たれよッ!」
 空戦スタビライザーを起動、機体を安定させたカララクが螺旋ミサイルで追撃をかける。一発づつが強力なミサイルが立て続けに3つ、ワームに突き刺さった。新鋭機に劣らぬバイパーのアドバンテージが、短期決戦においては存分に発揮される。
「回避性能は‥‥低いのか。当たる、な」
 カララクが手応えを確認するように呟いた。しかし、それは敵側も同じ事だ。ワームのプロトン砲が閃く。電子支援下にあっても、格闘戦機というよりは攻撃機であるバイパーがこの敵の砲撃を回避するのは困難極まる。あっという間に半減したダメージゲージを、毅はチラリと一瞥しただけだった。
(‥‥ッ、流石に直ぐに勝手は掴めないか‥‥)
 カララクの乗機シバシクルもダメージを受けている。自省するようにカララクは内心で独言した。

●苦戦の末
 2機づつで1機を抑えるという戦術は、殲滅戦というよりは突破を防ぐのに向いた作戦だ。恐らくは戦力的に劣る新兵を気遣ったゆえの物だろう。しかし、敵の数を減らす事に重点を置かなかった分、総合的な負担はどうしても大きくなる。そんな中、担当の敵を真っ先に撃破したのはディアブロ2機からなる攻撃的なペアだった。
「まひる、篠畑の援護に回るぞ」
「‥‥了解」
 短い戦闘の最中には出なかった身震いを一瞬感じてから、まひるも機首を転じる。
「こっちは平気、だ。部下の面倒を、頼む」
 旋回Gで途切れ途切れの篠畑の指示が2人へと飛んだ。お互いをフォローしつつ、何とか撃墜を免れているボブとサラだが、旗色は明らかに悪い。
「援護するよ、攻撃は任せたからね」
「OK、それで行こう。‥‥隙だらけだぜ!」
 まひるの火力支援がワームの挙動を乱す。慌てて旋回しかけた所へのアンドレアスの一撃で、中央の形勢は一気に逆転した。

 近距離からの重火力の密集で、クリアはワームに多大な出血を強いている。一時はプロトン砲の砲撃戦で優位を占めかけた敵だが、地力の違い、数の違いが物を言っていた。克のロケット弾が数度の爆発をワームに引き起こす。
「カラスが鳴く前に帰らなきゃダメなんだ、だから、さっさと片付けさせてもらうよー」
 クリアのヘビーガトリングが、克の砲撃で歪になったワームの装甲へ立て続けに穴を開けた。
「‥‥ふぅ。ようやく‥‥」
 克の声と共に、ワームが引いていた黒煙に赤が混じり始める。斜めに傾いた機体は内部からの誘爆で2度震えてから、一気に四散した。

 リュイン機の旋回半径の内側に、ワームがピタリとつける。装甲の厚い雷電といえど、射撃角度を選べば手痛いダメージを与えられると踏んだのだろう。しかし、目の前の強敵が見せた隙は、誘いだった。
「取られたんじゃない。取らせたんだ」
 嘯くリュインの声と同時に、ワームが横撃に揺らぐ。神撫の支援攻撃が与えたダメージは大して無かったやも知れないが、作った隙は本物だ。逆に懐へ入り込んだリュインが、それまでの交戦で生じたワームの装甲の隙間へと砲撃を送り込む。それが致命傷だった。大空に赤い大輪がもう1つ。

「スプラッシュ、これより他編隊の支援‥‥は不要か」
 毅が敵機に止めを刺したのは、リュイン達が担当していた敵機の撃墜とほぼ同時だった。アンドレアスとまひるの支援を受けた篠畑達も敵の処理を終えており、空域にはもうワームの機影は残っていない。
「‥‥大丈夫か」
「損傷8割、飛行に支障はない」
 カララクと毅は、『肉を斬らせて骨を断つ』を地で行く熾烈な撃ち合いの末に担当のワームを何とか葬っていた。瞬間火力の割に耐弾性の低いバイパーは正面切っての打撃戦にはやや不向きだ。双方がボロボロになっていた最後の一瞬、敵が先手を取っていたならば危険だったやも知れない。

●帰還
「思ったよりも手強かったな。‥‥増援が来る前に引き上げるぞ」
 篠畑の指示で、各機は再び千歳へと機首を向ける。バンクする機体の中から、遠く、かろうじて命脈を保つ札幌を見たまひるが、左手の甲を右手できつく握りしめた。そこには、望まずして移植されたエミタがある。
「くそ‥‥くそ‥‥っ こんな事になってる場合じゃないぞ、私‥‥っ ちくしょう‥‥っ」
 押し寄せる想い出が瞳から溢れた。声をかけかけてから、言葉を飲み込むカララク。家族である彼は、大まかな事情を知っていた。こんな時は、言葉よりも隣に座るだけで良いのに、空は不自由だ。

「お疲れ様。初陣にしてはいい動きだったよ」
「まあ、それなりにはなっているんじゃないかな? 今後に期待だ」
 優しい言葉をかける神撫と、渋い口調で及第点を告げた毅に、篠畑の部下達は強張った笑顔を返す。初実戦の緊張が、今になって押し寄せているのだろう。
「空の経験に関しては‥‥俺も全然‥‥ひよこ‥‥。篠畑さんを‥‥見習わないと‥‥」
 自機の戦闘データを見ながら、克が小さく言う。
「いや、俺は見習うなよ‥‥? 雷電には雷電に向いた戦い方がある」
 苦笑した篠畑の横に、アンドレアスのギャラルホルンが並んだ。
「約束だったろ? 待機明けたら付き合え。‥‥飲む理由ができた」
 囁くように付け足したアンドレアスの声音には、篠畑も覚えがあった。大事な物を見失った時の、寄る辺のない気持ち。
「余り強くないが、付き合おう」
 千歳の灯が、眼下に見える。薄い氷を渡るように維持される北の辺境。短い空戦は今日も人類側の勝利に終わった。