タイトル:【HD】北辺防空−2マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/18 02:58

●オープニング本文


「こちらから打って出るって? いや、俺好みな話ではあるが、どういうことだ」
 千歳へ戻った篠畑が見たのは、慌しく出撃体制を整える基地の様子だった。戦力的にはやや劣勢な中、均衡を保つのに腐心していた基地の方針からすれば、斬新過ぎる方針転換だ。
「‥‥特命だってよ! 奴らに盛大にかませ、手加減はするなってな」
 通り過ぎざまに、パイロットがそう叫んでいく。上層部とて馬鹿ではない。何らかの意図が無ければ、そんな命令は出さないだろう。そして、その意図が不明でも従わねばならないのが軍人と言うものだ。
『篠畑二尉‥‥もとい、中尉は傭兵隊と共に敵の襲来に備え待機せよ』
「‥‥ったく、運が良かったのか悪かったのか」
 篠畑の新しい部下は、現在訓練中。実機の配備もまだである。単機編成の彼は、作戦行動に組み入れるよりは遊撃にあてる方が良いと判断されたのだろう。
『安心しろ、貴官の出番は間違いなくある』
 ひよっこ時代から顔見知りの管制は、にこりともせずにそう言った。バグアも人類も、数ヶ月に渡る対峙でお互いの大まかな戦力は見切っている。千歳の航空戦力の過半が出撃するのを察知すれば、必ず強襲してくるはずだ。

 果たして、20分ほど後。
『防空レーダーに感あり。南方にワーム6! 中型2、小型4‥‥』
『コンドル隊が討ち漏らした奴だ。南から回り込んだのか』
 対空警戒を促す不気味なサイレンが響く。
「上まで来させるつもりはないがな。篠畑、出るぞ」
 出番を前にいきり立つ荒馬の如く、ハヤブサのエンジンが吠える。他機の半分以下の機体重量は、緊急出撃に際してはこの上ないアドバンテージだ。続いて傭兵達の機体も大空へ舞い上がる。
『こっちの前線を抜けてきた以上、相手も手負いのはず。数ほど手強くは無いはずだ』
「了解」
 傭兵と篠畑、合わせて9つの翼が南へ向いた。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG

●リプレイ本文

●迎撃発進!
 迎撃にあがった傭兵達から空戦指揮を託された篠畑が、最初に行ったのは自分の次席指名だった。
「俺が落ちたら前衛4機はフォル、後衛4機は毅が指示を出してくれ」
「了解、キャプテンベア。そんな必要は無いように願いたいけどね」
 伊藤 毅(ga2610)が翼端を左右に振って指示の受領を告げる。
「誰がベア‥‥」
「今日はお願いしますね、ベア隊長」
 言いかけた篠畑へ一声かけて、ラルス・フェルセン(ga5133)のワイバーンが前へ出る。
『こちら管制。ベア隊はそのまま南進、敵編隊を邀撃しろ』
 空気を読むのか読まないのか、中年の管制官の一言が止めを刺した。
「ひょっとしてその指名って年功序列ですか?」
 苦笑するフォル=アヴィン(ga6258)。指名された2人は確かに年長だが、それだけではない。フォルの場合は傭兵になってからの、毅は以前の経歴を見てのことだと篠畑は答える。そんな短いやり取りの間に、9機はラルスの指示で二列横隊の隊列を組んでいた。
「空か‥‥。少し、緊張するけれど‥‥」
 不安な心持ちも、覚醒による強気で影を潜め。それでも空戦の経験不足を自覚していた幡多野 克(ga0444)は前衛を味方に譲っていた。
(心強い友達も多いし、何とかなる‥‥よね?)
 同じく後衛へ位置した御崎緋音(ga8646)も不安げに斜め前へと視線を向ける。これまでの戦いで共に飛んでいた恋人の機影はそこにない。不安げな2人に配慮したのか、ラルス提案の布陣では克機の隣を篠畑機、緋音機KITTENの隣を毅機NEMOが飛ぶ形になっている。
「そう硬くなるな。自分が信じられなくても、僚機を信じて飛べばいい」
 ちょっといい事を口にする篠畑。俺を信じて、では無い辺りが彼の彼たる所以だろう。ちょうど篠畑の前を飛ぶ如月・由梨(ga1805)はチラリと背後の様子を窺った。中型ヘルメットワームを単機で相手どるという篠畑の腕前を見てみたい、という興味の視線。それと共に、今回の依頼は彼女にとっての雪辱戦でもある。場所も相手も僚機も違うが、同様の編成の敵に遅れを取った記憶は負けず嫌いな彼女にとっては機会さえ巡れば越えたい過去だった。
「篠畑中尉、こんにちは」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)のワイバーンが隊列の右端につける。毅と同じく、先日のスクランブルでも翼を並べた少女の挨拶に、篠畑が機内で片手を上げて答えた。
「今日は、指揮も出来るぞ! みたいな格好良いトコ、見せてくださいね?」
 からかうようなリゼットの声。
「‥‥最善は尽くさせてもらうがな」
 編隊長へ就任したばかりの篠畑へ、少しでも指揮経験を積ませようと言う傭兵達の心遣い。ありがたく思いつつも、篠畑には少しばかりくすぐったい。

●エンゲージ&スプラッシュ!
 程なくして、敵編隊の姿は遠く視認できるようになった。傭兵達の立てた作戦は、前衛には主に防御性能の高い機体を、それ以外を後列に並べて会敵と同時の一斉射撃。以後は残余の敵へロッテとケッテで当たり、個別処理と言う物だった。言うまでもなく、最初に敵の数を減らせるか否かが作戦の肝だ。
「エネミー・タリホー、6ボギー、12オクロック」
 元空自の毅の声が通信回線を飛ぶ。6機の敵を機首前方に確認、の意味だ。
「さて、篠畑中尉、お手並み拝見!」
 悪戯っぽく言うフォルに苦笑を返してから、篠畑は敵機へ目を向けた。レーダーディスプレイ上では、フォルが割り振ったアルファベットが各敵機へとついている。A、Bとつけられた中型2機は後方で様子見、C〜Fの記号を振られた小型4機がまっすぐに傭兵達へと向かってきていた。
「‥‥ターゲットはデルタにエコー。自分に近い方へぶっ放せ。着弾確認は不要」
 篠畑の声と同時に小型機が増速する。ガシャリと音が立ちそうなギミックで先端部が2つに開くのが見えた。
「ターゲットを確認」
 克が静かに応える。篠畑はトリガーに手をかけたまま、普段の空戦中ならばろくに見ないレーダーディスプレイへと視線を送った。
「3,2、1‥‥撃て!」
 後衛側の射程に敵が入るまで射撃を待った為、前衛機はほぼ直射になる。外しようが無い距離で、狙われた小型ワームが赤い爆発光に包まれた。
「‥‥直撃させる」
 克が呟く。発射タイミングは同時、僅かに遅れて後衛からの射撃が着弾する。ミサイルの爆発よりも一際大きな閃光が2つ、大空を彩った。
「各自交戦に入れ、ブレイク!」
 全機編隊を解き、事前に打ち合わせていた少数機編成へと組み替える一瞬。確実にそのタイミングを計っていただろう中型がプロトン砲を斉射した。前衛機ばかりか後衛までも楽に射程に含むプロトン砲だが、命中精度は決して高くは無い。その援護射撃と同時に、撃墜を免れた2機の小型ワームが突っ込んできた。
「抜かせはしません」
 その進路を遮ってセラ・インフィールド(ga1889)機が機体を滑らせる。凶悪な顎は彼のディスタンの装甲を軋ませたが、貫くほどの破壊力は見せていなかった。戦友を護る盾の名に恥じぬ動きのセラを援護すべく、2機の毒ヘビが動きの止まった敵の側面を取る。
「NEMO、FOX2」
 淡々と引き金を引く毅が短距離ミサイルを。
「どれでもいいから当たって!」
 その更に外側から緋音機がロケット弾を射撃する。甲虫の背を思わせる装甲が直撃弾にひしゃげ、紅炎を噴き上げた。まだ撃墜には至らないものの、少なくは無いダメージだ。

「私までいたたまれなくなるのは――ご遠慮したいもので」
 今1機、突破を図った小型ワームに対したラルス機のTACはeihwaz。守護のルーンを刻まれし戦士の剣は、翼に仕込まれていた。ワームの穢れた刃をかいくぐり、蒼い斬撃の痕を装甲に刻み付ける。返す刃でもう一撃を狙ったが、旋回半径を慣性制御で極小に抑えたワームはラルス機の更に内側を取っていた。先端の鋏がギラリと輝き、機内に僅かに響く衝撃と損害を示す警告灯が受けたダメージをラルスに伝えてくる。‥‥問題は無い。
「この程度で墜ちるとでも?」
 眼鏡を抑えつつラルスがうそぶく。交差気味にぶつけた剣翼は敵機を存分に引き裂いていた。彼のeihwazと敵が剣の舞を踊る合間に、側面上方から回りこんでいたリゼットが高分子レーザーを近距離から立て続けに叩き込む。閃光がワームの背から腹側へ貫通し、すぐに真っ赤な炎に彩られた。黒い煙を引きつつもまだ戦意を失わず、回頭を試みる小型ワーム。だが、機体に蓄積したダメージは限界を超えていた。旋回の途中で2つに折れ、爆発する敵機。
「撃墜、ですね」
「随分ともろい。既に手傷を負っていたのかもしれません」
 言葉を交わしながら、2機の猟犬は新たな敵を求めて旋回する。

●火花散らす剣翼
 中型を相手にしていた2班も、概ね優勢に戦いを進めていた。
「こんな、ものでしたか?」
 由梨は思った以上の手応えのなさに首を傾げる。あの時の敵よりも目の前の敵が弱いのか、あの時よりも自機が強力になったのか。あるいはその両方だろうか。
「ブースターの調子は上々、ですね」
 集積砲を叩き込みながら、反撃のプロトン砲は機体を捻るようにして回避しつつ距離を詰める。
「‥‥、まだ、僕の方もいける」
 動きが鈍重な克の雷電は直撃を被っていたが、機体自体の頑丈さに救われていた。とはいえ、同じ連続砲撃を幾度も受けては持ちそうに無い。
「一気に決めましょう。援護をお願いします」
 そう言って由梨は敵機へと更に踏み込む。近接した瞬間、中型ワームが不意に速度を変えて急旋回しながら無数の紫の火線をばら撒いた。由梨機は火網の真っ只中に突っ込む形になる。回避は不能、しかし。
「く‥‥相変わらず、出鱈目な機動ですね‥‥」
 歯噛みしつつも、由梨の愛機は口径の小さなフェザー砲如きでは小動もしない。すれ違いさまの剣翼の一撃が中型ワームをぐらつかせる。
「幡多野さん、追撃を!」
「了‥‥解!」
 完全に由梨機へ注意が向いた敵機が彼女の後を追おうとしたタイミングに、克のミサイルが着弾した。

 そして、中型の相手をするもう1つの隊。
 小型ワームの突破を防いだ為にセラ機の初動が遅れたが、敵機の正面はフォル機が抑えていた。プロトン砲の破壊力は、いかに雷電の防御力を持ってしても損傷は免れない。回避よりも攻撃に注力した雷電の設計思想どおり、フォルも狙うは短期決戦だ。
「俺が引き付け、隙を造るので、その後はよろしくお願いします」
 ミサイルとガトリング砲が敵機へ立て続けに着弾し、衝撃でワームを揺らす。その瞬間、高度を取っていた篠畑機が敵機へとダイブした。
「これは随分やりやすいな‥‥、がら空きだぞ、バグア野郎!」
 篠畑機のホーミングミサイル、そして機銃弾がワームの後端に集中する。敵も回避機動を取ってはいるのだが、その先を読むような動きで追随する篠畑の機動は、一種の職人芸の領域だった。
「援護します。存分にどうぞ」
 小型ワームに張り付かれつつ、セラ機がライフルで中型の機先を制する。フォル機も徹底して敵の機動を阻害するべく回りこんでいた。敵機を行き過ぎかけた篠畑がエアブレーキを全開にした極小半径の宙返りで強引に敵の後ろにつく。一箇所を狙われ続けた中型機からはどす黒い煙が上がり始めていた。

 小型ワームに執拗に食い下がられ、本来の動きが出来ていないセラ機。しかし、小型ワームは既にボロボロだ。
「伊藤さん、援護します。やっちゃってください!」
 緋音がスタビライザーを使って機体を安定させながら敵の背へロケット弾を連射する。
「ラジャ」
 短く答えた毅機NEMOが素早く敵の下側へ捻りこんだ。フェザー砲を内蔵した前腕を回して迎撃火線網を展開しようとするワームだが。
「エネミーガンレンジ、FOX3」
 走った機銃弾が砲を叩き潰し、そのまま腹部へ弾痕を刻んでいく。それと同時に、緋音のロケット弾が着弾した。上下からの衝撃に耐えたのもほんの一瞬、ワームはそのまま爆発四散する。
「やったぁ♪」
 緋音の明るい声。砕けて落ちる残骸を見下ろす少女は機内で満面の笑顔を浮かべていた。

「では、こちらから仕掛けましょう」
 セラのディスタンがブーストを駆動して一気にワームへ間合いを詰める。篠畑の執拗な攻撃は既に装甲を貫き、内部機構へと及んでいた。鈍重な機体と甘く見ていたのか、それとも篠畑とフォルに手一杯だったのか。接近したセラ機への迎撃はなく。無防備な機体を剣翼が深々と裂く。それが致命傷だった。

 由梨と克が相手をしていた中型も、2機相手にさえ苦戦していた所へラルスとリゼットの追加攻撃を受け、気息奄々の状態だった。克とリゼットの射撃が敵の退路を制限したところへ、由梨とラルスの一対の剣が容赦なく敵機の耐久力を削り取っていく。もはやこれまでと悟ったのか、差し違え覚悟で由梨機へ体当たりを試みようとしたが。
「これで‥‥トドメを刺す!」
 敵の気がそれた隙に至近距離に迫っていた克の雷電がミサイルの雨を降らせる。そのうちの一発が、度重なる攻撃で切り刻まれていた装甲の内側へ吸込まれるように消えた。慣性制御を失ったワームが重力のくびきに捉えられ、石ころように落ちていく。

●完勝の後には間食で
「やれやれ、完勝か。大したもんだ」
 呆れたように言う篠畑。傭兵達の練度は、千歳や三沢の正規軍の航空兵を上回っているようだった。
「中尉も、見事な空戦技術でしたね」
 篠畑の戦闘ぶりに注意を払っていた由梨が賛嘆の声を上げる。1点集中の射撃とそれを可能にする技量は確かに群を抜いていた。おそらくは無駄弾もほとんど撃っていないのだろう。
「あー、まぁ。フォルとセラの援護あってこそ、だけどな。普段はあそこまで楽じゃない」
 篠畑が居心地悪げに苦笑した。1対1のドッグファイトばかりならばともかく、複数の敵につかれれば実にもろい。篠畑の過去の被撃墜も、多くは敵の編隊機による横撃を受けての物だった。
「部下もできた事ですし、『駒』を動かすのにも慣れて下さいね」
「‥‥う、嫌な事を思い出させるなぁ‥‥」
 これからは1人で飛ぶわけではない、と暗に言うリゼットに篠畑は鼻の頭をかく。
「次は、正式な篠畑小隊と一緒に飛ばせてほしいね」
 毅も、覚醒中は表には出ない諧謔を込めて篠畑をからかっていた。
「さて、中尉の面子も守れましたし。のんびりした気持ちでー、帰還できますねぇ」
 覚醒を解いたラルスが言葉どおりにのんびりと機首を返す。
「‥‥褒めてくれるかな‥‥、レイさん」
 共に飛んだ仲間にも恵まれたとはいえ、完全勝利。その報告を真っ先に告げたい相手のクールフェイスを思いながら、緋音は笑み崩れた。
「中尉、お疲れ様でした。戻ったら飯でも如何ですか?」
 もちろん中尉の奢りで、とフォルが言う。
「ん‥‥。緊張したから‥‥糖分たくさん‥‥補給したい‥‥」
 タイミングを見計らったような克の独り言。
「OK、待機があけたら何でも奢るよ。好きなものを食ってくれ」
 諦めたような篠畑の声。千歳を巡る防衛線の一幕はこうして大過なく閉じた。