タイトル:補給部隊救出作戦マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/13 01:00

●オープニング本文


 小競り合いが続くスペイン南部にて、移動中の補給部隊が複数のキメラの奇襲にあったという急報があった。辛うじて撃退したが倒すには至らず、輸送車両を破壊されて身動きが取れなくなっているとのことだ。
「補給物資は主に食料と医薬品です。特に、薬品の方は簡単に替えを用意することもできません」
 赤十字の腕章をした若い女性士官が、沈痛そうな面持ちでそう告げる。受け取りが遅れれば、その分だけ傷病者の手当ても遅れるのだ。それがわかっているからこそ、護衛部隊も必死で応戦したのだろう。
「傭兵の皆さんがここにいてくださったのは不幸中の幸い、というべきでしょうか」
 別の任務の帰還中か、あるいは全くの別件か。協力要請に応じたのは、たまたまこの基地でラストホープへの便を待っているところの能力者達だった。

「この基地から物資を積みかえるための大型トラックを出します。皆さんは、その部隊に同道して物資の回収にあたってください」
 能力者達には、トラックより足の速い大型ジープがドライバーつきで2台用意されている。トラックに同行するもよし、速度的には先行する事も可能だ。
「現地は、開けた丘陵地帯です。起伏もあり、林も点在しているので敵が隠れる場所にはことかかなかったようです」
 大型車両が通れるような舗装路は限られているため、以前にも何度か待ち伏せされた事があるのだそうだ。とはいえ、10匹ものキメラが一度に現われた事はなかったらしい。
「敵の数は、報告によれば8ないし10。虎かライオンのような外見の素早いキメラだということですが、こちらのトラックよりは足が遅いようですね」
 敵を殲滅させずとも、積み替えたあとで撤収する手もあるということだ。そもそも、キメラは増援が出る事を知るはずもない。追い込んだ獲物を確実にしとめるべく行動しているはずだ。そこをつけば、不意を打てるだろう。
「このルートも、もう使えませんね‥‥。これからは空輸に頼らないといけないのかもしれません」

 輸送部隊は小高い丘の上の廃墟まで何とか移動し、そこに篭っている。中世には城塞都市があり、バグアの侵攻までは人も大勢住んでいた場所らしい。輸送に使っていた道路も、この街が健在のときは随分にぎわっていたのだろう。
「積み直しの時間がおそらく30分ほど掛かると思います。それと現地への行き帰りがおそらく3時間ないし4時間づつ。その間の護衛、よろしくお願いしますね?」
 彼女はそう言うと、慣れた様子でトラックの運転席へと乗り込んだ。

●参加者一覧

シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
沢辺 朋宏(ga4488
21歳・♂・GP
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
天宮 美星(ga6586
19歳・♀・EL

●リプレイ本文

●出撃!
 窮地に陥った補給部隊の居場所までは、トラックの足で3時間程だと言う。一刻も早い合流と、戦力分割のリスク。両者を秤にかけた能力者達は、輸送用のトラックと機動力のあるジープ2台のうち、ジープ1台を先行させる事にした。
「補給部隊の救出ね。Ok、任せておいて」
 心配げに見守る基地の人員に、先行車の助手席を占めたシャロン・エイヴァリー(ga1843)が陽気な笑顔を返す。
「さぁって、もう一仕事行きますかっ!」
 後席中央に陣取ったルクシーレ(ga2830)が気合を入れた。その横で、補給任務の重要さをよく理解している沢辺 朋宏(ga4488)が頷く。
「人命は勿論だけど、物資も惜しいよね。頑張らなくちゃ」
 最後に天宮 美星(ga6586)が乗り込むと、ジープの後部座席はやや窮屈になった。これで満員だ。
「運転、お願いするわ。早ければ早いほど良い、よろしくっ」
 無口な中年運転手に向けたシャロンの声と共に、ジープはみるみる小さくなっていった。

「先行隊が見えなくなると少し心細いですね」
 そう呟くレヴィア ストレイカー(ga5340)に、依頼主の女性士官が頷いて同意する。
「そうね。でも、補給隊の人はもっと心細いと思うわ」
 こちらが地なのだろうか、女性士官は任務説明の時より砕けた口調を使う。そんな彼女に荷台へ向かっていた篠崎 公司(ga2413)が振り向いて会釈した。
「篠崎公司、スナイパーです。宜しくお願いします」
「ありがとう。日本人は礼儀正しいって言うのは本当ね。私のことはエレンって呼んで」
 そんな挨拶を交わす横で、二台目のジープに乗り込む運転手と篠崎 美影(ga2512)も言葉を交わしている。
「や、助手席に可愛い女の子が乗るなんてハッピーだなぁ」
「篠崎美影と申します。公司さんの妻になります」
 夫と一緒の車でないのが残念です、と美影は憂いを込めた表情で付け足した。若い運転手が驚いたように視線を公司へ向ける。年齢差は二桁を越える二人だが、お揃いのマフラーと手袋がさりげなく夫婦仲をアピールしていた。
「ジーザス。それって犯罪だろう!?」
 雰囲気から察するにおそらく米国系の運転手は大げさに天を仰ぐ。
「日本の女性は若く見えるけれど、美影さんは私と同じ位の歳だからね?」
 苦笑交じりに声をかけたエレンの表情が、ジープに乗り込む美影を見て笑顔のまま固まった。どうやら年齢は同じ位でも、乗り込む動作と共に揺れるパーツで大敗していたらしい。
「助け‥‥待ってるんだよ‥‥ね‥‥。急がないと‥‥」
 荷台から聞こえた、リュス・リクス・リニク(ga6209)の声が微妙な間を吹き飛ばした。手を振って見送られながら、後発隊も先行車の向かった後へ続く。

●緒戦は完勝
 先行した車では、ルクシーレが車載通信機を調整していた。距離は遠くはなく、周波数をあわせればクリアーな通話が可能なようだ。
「こちらは応援部隊。感度はどうだ?」
『‥‥応援だって? 手配が早いな、助かったよ』
「細かい状況をわかるかぎり知らせてくれ」
 高速で走るジープのエンジン音に負けじと、ルクシーレが叫ぶ。通信機の向こうでは、予想より早い増援の知らせに沸いているようだった。通信によれば、城塞都市の廃墟に篭った補給部隊は、一方の城門近くに固まって警戒しているらしい。また、彼らの斥候が城壁の上から確認したところ、応援部隊の進路上にはキメラ2体がいるのが見えると言う。以上の返答を得た先行班は、所在の分かった敵を奇襲で倒すことにした。ジープを手前で一時待機させ、美星とルクシーレ、朋宏の三人が不意打ち班として徒歩でキメラへ向かう。シャロンは万一に備えてジープに残っていた。
「見つけたよ。聞いたとおりの場所から動いてないみたい」
 抑えた声で美星が報告する。三人は顔を見合わせて一つ頷くと、阿吽の呼吸で動き出した。軽装のルクシーレが近いほうの敵へ駆け込みながら、手にしたバスタードソードを振り下ろす。完全に不意を突かれた敵はその一太刀をまともに受けた。驚いたように振り向きかけた所へ、美星の放った銃弾が次々に突き刺さる。激しく痙攣してから、キメラは地に伏した。
「先手必勝、こっちも全力で行くぜ!」
 逃げ出そうとしたもう一匹。しかし、瞬天足にて瞬時に間合いを詰めた朋宏が、退路を断つように左の爪を急所へ突き入れる。身を捩った所を右の爪で薙ぐと、キメラはもんどりうって倒れた。彼の爪『ロエティシア』はキメラの返り血で真っ赤に染まる。
「こちらは片付いた。ジープを進めてくれ」
 練力を一気に消耗した朋宏が息を整える傍ら、ルクシーレが借り出した無線機でシャロンへと状況を報告した。
「Good!」
 返すシャロンの声も弾んで聞こえる。緒戦は完勝、仲間に警告の声をあげる間もなくキメラは倒れ、残るは8匹だ。

 ちょうどその頃、後続隊は慎重に周囲を警戒しつつ、可能な限りの速度で廃墟を目指していた。
「先発の皆さんはもうついたころかしらね?」
 ハンドルを握るエレンの声に、助手席で油断無く前を見ていたレヴィアが大きく頷く。その後ろの荷台では、リニクが双眼鏡を目に当てて周囲を確認していた。常時双眼鏡を使うのではなくこまめに持ちかえるのは、レンズの反射がキメラの注意を引く事を警戒したのだろう。
「まだ‥‥キメラ‥‥来ない、ね‥‥」
「荷を移している時が一番危険でしょうね」
 そう冷静に答えた公司も油断はない。リニクに倣ったやり方で周囲を確認している。主に後方から側面にかけてしか視野がとれない二人の死角は、ジープに乗った美影がカバーしていた。
「先に行った‥‥人達‥‥だいじょうぶ‥‥かな‥‥」
 リニクが心配げに呟く。先発隊からの無線で進路クリアの報告が入ったのは、まさにその時だった。
「正面の敵は排除、ルートを確保した。現在、補給隊に合流し警戒中‥‥ということです」
 運転中のエレンに代わって通信を受けたレヴィアの報告に、心配げだった仲間達の空気がほぐれる。ジープへも知らせはすぐに伝わり、後発隊は勇躍して先を急いだ。

●迎撃作戦
 後発隊は到着まで何の妨害も受けることはなかった。
「エレーナ・シュミッツ少尉以下11名、到着いたしました」
 トラックの運転席から一声かけて、エレンは積み降ろされた物資の山へとトラックの後部を向ける。
「片手でも動ける奴は荷物の積み込み作業に入れ!」
 挨拶もそこそこに、補給隊の生き残りが動き出した。とはいえ、その作業は怪我人にはきつい。
「私も敵が現われるまではお手伝いさせていただきますね」
 そう言って美影が崩れそうな荷物を支える。その間、他の能力者達は情報の交換を行っていた。先発隊も最初の奇襲以後、キメラとの交戦はない。視界ぎりぎりをキメラらしき影がうろつくのを幾度か確認できたに過ぎなかった。
「2匹の仲間が倒されたのは奴らにも理解できただろう。今は多分、こっちの様子を伺っているってところだな」
 待機中、周囲の警戒をしていた朋宏がそう言う。
「そうですね、こちらも廃墟近くになってからは幾度か敵の気配を感じました」
「リニクも‥‥、敵の目‥‥気付いた、よ」
 美影とリニクの二人も、合流直前には観察されているような不気味な感じを受けていたらしい。
「ふむ。此方を襲撃する場合、停止している今ならば囲んで来るでしょうね」
 顎に手を当てて、公司がそう呟いた。
「俺たちも戦えればいいんだがな、すまん」
 脚に添え木を当てた兵士が悔しげに俯く。美星、シャロンが後発隊の合流までに応急手当てをしたとはいえ、怪我人の数は多い。何よりも大型火器の残弾はほとんどない状態だった。戦力として数に含まれない事は、誰よりも彼ら自身が理解している。
「準備時間があったのはこちらも同じよ。大丈夫、敵は私達に任せて」
 沈みかけた兵士の空気を上向きに変えたのは、シャロンの明るい笑顔だった。
「ああ。敵が突っ込んできそうな場所の目星もついたしな。やりやすくなったのは、確かにこっちも同じだ」
 ルクシーレが拳を手の平に打ち付け、パン、と音を立てる。彼の視線は、ちょうどキメラが飛び降りるのに手ごろそうな高さの民家の屋根へと向いていた。さりげなく注意を払っていた間に二度ほど、敵の気配を感じた場所だ。そして、今も。
「ちょっと積み込みを手伝おうかと思ったんだけど‥‥、お出ましね」
 利き手に直刀『イアリス』、逆手にバックラーという剣士風のシャロンは中心部へと続く街路を塞ぐように立つ。他の場所は同時に多数のキメラが展開するにはやや狭いが、そこは開けた空間だ。おそらくは一番の激戦地になるだろう場所だが、彼女は迷わずそこを選んだ。市内を正面と見た場合、背後に当たる城門側からの奇襲は朋宏が抑えに向かっている。
「来た‥‥」
 リニクの声に、トラック周辺の仲間達も頷く。彼らが弓と銃を構えたところでキメラが一斉に姿を現した。

「遅いッ!」
 飛び降りてきたキメラに間合いを詰め、ルクシーレが無防備な胴へと斬撃を浴びせかけた。苦しげに吠えた相手へ、リニクの放った矢が突き立つ。倒れたキメラに一瞥をくれてから、ルクシーレは間髪いれずに飛び込んで来たもう1匹へ油断無く正面を向けていた。まずは1匹。
「いい連携だが、通すわけにはいかないな」
 言い放った朋宏が初手で受けた傷は数箇所、いずれも深手ではないが浅くもない。城門を襲ったキメラは3体。身の軽い彼ならば避ける事もできた攻撃もあったが、避けた隙に背後へと抜けられる事を警戒したのだ。反撃も、倒す事よりは牽制を目的にした慎重なものだった。それで十分な事を彼は理解している。
「‥‥ん、この距離なら大丈夫、いくよ。」
 美星の『フォルトゥナ・マヨールー』がリズミカルに放つ銃弾が朋宏の反撃で傷ついたキメラを追い込み、そこへ。
「‥‥動きが早くても、予測可能なら当てられる!」
 狙い済ましたレヴィアの一撃が眉間を打ち抜いた。これで、2匹。
「戦闘中に離れた味方の治療が出来るのが、サイエンティストの強みです」
 しとやかな笑みを浮かべる美影の超機械が光を発すると朋宏の傷がみるみる塞がって行く。
「こちらも1匹、よ!」
 シャロンは飛び掛ってきた2匹の動きに翻弄される事なく、熟達した剣さばきでキメラを下していた。怒りに震える咆哮が、彼女の耳を圧する。残る1匹を押しのけるようにシャロンに向かってきたのは、たてがみも雄々しいキメラだった。キメラに性別が意味のあることなのかはさておき、明らかに雄っぽいキメラである。
「ず、随分大きくない?」
 思わず声を出してしまったシャロンに、挑みかかるようにその爪を振るう雄キメラ。受けた盾越しに伝わる衝撃に、彼女は顔をしかめた。
「‥‥見掛け倒しじゃないってことね。上等!」
 雄キメラにシャロンの注意が向いた僅かな隙を狙うように、残りがトラックへ向かいかける。と、その前足が爆ぜた。
「たとえあたらずとも爆風で‥‥」
 弾頭矢を使い、狙い通りに怯ませることに成功した公司がトラックの荷台から薄く笑う。彼が稼いだ一瞬は、シャロンが体勢を立て直すのには十分な時間だった。
「Thanks! 助かったわ」
 威嚇するように『イアリス』で空を裂き、シャロンはなおも突破を図ろうとする敵を睨みつけた。

●死闘は終わり
「く、一撃が重いか、やはりっ」
 正面から敵と相対して、ルクシーレは舌打ちをする。打撃に重点を置いていた彼に、キメラが繰り出す爪や牙はクリーンヒットではなくとも痛手だった。回避には自信があるとはいえ、さすがに全ての攻撃を避けきる事は難しい。
「っても、ここは俺が抑えないとなぁ!」
 美影の治癒は、ボス格とやりあうシャロンへ向いている。援護射撃も、複数を相手取る朋宏にこそ必要なはずだ。攻撃は最大の防御という言葉を体現するように、ルクシーレは更に激しく剣を振るった。
「ここは雑魚から片付けるのがよさそうですね」
 雄キメラはシャロンが抑える、となれば一番の脅威はその脇のキメラが突破して無防備な人員に喰らいつく事だ。そう判断した公司の弓が弾頭矢で手負いのキメラを撃ち倒す。
「く、しまった!?」
 その時、城門から朋宏の声が響いた。美星との連携で更に1匹を下した間に、残る1匹の突破を許してしまったのだ。だが、その前に小柄な影が飛び出す。
「やらせません‥‥これは‥‥とっても、大事な物です‥‥」
 白髪に転じた少女の静かな気迫に一瞬怯んだものの、キメラは殺戮衝動のままにその爪を振り下ろす。
「く!」
 胸元のふたつのリングを握り締めたリニクは、痛みに思わず声をあげながらもその場を動こうとはしない。だが、キメラの攻撃はそこで止まっていた。
「俺に背向けて子ども虐めとるんやないぞ、この阿呆がっ!」
 思わず漏れる関西弁。残る練力を振り絞った『瞬天速』でキメラの背後に追いすがった朋宏がその爪を突き刺す。動きが止まった所へ、リニクが鋭い眼光を向けていた。
「‥‥少々おいたが過ぎますね。さ‥‥お仕置きの時間です」
 流れる血をそのままに、一歩下がってから放った強烈な一矢は、傷ついたキメラの生命を奪うに十分なものだった。
「こっちも何とか終わったぜ」
 もう動かぬキメラに突き刺した剣にもたれながら、ルクシーレも片手を上げる。
「そう、ならば最後はこいつを片付けるだけね!」
 守勢に回っていたシャロンが、気合一声攻撃に転じた。鋭い青き剣閃に刻まれ、キメラは苦しげな呻き声をあげる。
「逃がしません!」
 レヴィアの声と共に響く銃声。痛みに気を取られた瞬間、一瞬で側面を取ったシャロンの強烈な斬撃が、キメラの命を絶っていた。
 それが敵の全てだったらしい。能力者達はその後も警戒を絶やさなかったが更なる追撃はなく、無事に基地へと帰りつくことが出来た。
「ありがとう。基地の皆を代表して、感謝します」
 エレンの声を裏付けるように、医務班に連れられていく輸送隊の面々が笑顔で手を振る。傭兵達の素早い行動のおかげで、怖れられていた最悪の数字に比べれば犠牲者は少なかった。だが、次に窮地に陥った時も能力者がいるとは限らない。
「やっぱりこのルートはもう駄目ね。何とか安定した輸送路を確保しないと‥‥」
 ため息交じりの彼女の声は、ちょうど到着したラストホープからの大型機の着陸音にかき消され宙に消えた。