タイトル:マドリード制圧戦・東方マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/19 02:03

●オープニング本文


 スペインの首都、マドリードは先の作戦でバグアの侵攻を受け、その影響下に置かれたとされている。だが、先だってのグラナダ強襲の陽動作戦での敵の様子を見る限り、まだ戦力展開は甘いようだった。それゆえに、このタイミングで軍はマドリードへの攻撃を決定したのだ。

「ベイツ大佐より、救援要請です」
 空中管制機に、そっけない電文が入る。マドリード東方に敵大型ワーム。至急排除を要請する、と。
「‥‥無茶を言うわ。とはいえ、不合理ではない、か。第二中隊を引き抜いても南は持つか? ‥‥いや、無理だな。クソ、手札がない」
 苦虫を噛み潰したような表情だったハゲワシ、ことフィリップ=モース少将が焦眉を開いた。機内の広域地図上に友軍戦力を示すマーカーが新たに出現したのだ。赤は敵、青は軍。そして緑は傭兵だった。
「‥‥グリーン2。間に合ったか」
 派遣を要請していた傭兵部隊の到来に、機内にもホッとしたような空気が流れる。陸軍はともかく、空軍部隊の戦力的には、今回のマドリード攻略は荷が重かったのだ。英国の支援を仰ぎ、更に傭兵部隊の投入をもってして、何とか可能だというギリギリのライン。とはいえ、この機を逃せば敵の防備は固まる一方であろう。何より‥‥。盗られた物をそのままにしておくのは腹が立つ。
「傭兵隊に、そのまま前線支援に向かうように指示してくれたまえ。それから、ベイツには勇み足はするなと伝えろ」
 これで、勝てるか。あるいは、引くか。少将は鋭い目で盤面を見つめる。傭兵達を信頼しつつも、指揮官として最悪は常に想定しなければならないのだ。

●参加者一覧

愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
神撫(gb0167
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●交戦前の緊張
 いまだ制圧ならぬマドリード上空を北側に迂回してから、機首を南東へ。傭兵達のKVは要請のあった地点へと飛ぶ。
「マドリードを取り戻す折角の機会です。邪魔させる訳にはいきません」
 柔らかな陽光の風情は覚醒と共にやや影をひそめ、黒髪に転じたリゼット・ランドルフ(ga5171)が己に言い聞かすように呟いた。彼女がKVで依頼に臨むのはこれが2度目。しかし、周囲がエース揃いだった1度目とは違い、仲間の中には彼女以上に飛行経験が薄い者も多い。
「緊張しすぎないように‥‥、心がけましょう」
 自身の空への恐怖を押し隠しつつ、年少の仲間達を気遣うように声をかけた神撫(gb0167)は、これが初任務になる。彼の隣りをディアブロで飛ぶ魔神・瑛(ga8407)も、KVでの戦闘経験はまだない。
「大規模以来の機体依頼‥‥腕が鈍ってないと良いんですがね‥‥」
 3人とは違い、経験豊富な筈のレールズ(ga5293)までが、不安げに言う。白を基調にカラーリングされた彼の機体は、後ろを飛ぶデフォルトカラーの魔神機とは対照的だった。
「短期戦が望ましいが、焦りは禁物だな」
 そんな空気の中、愛輝(ga3159)が確認するように口を開く。小部隊での戦闘経験こそ無い彼だが、大規模戦では大部隊の副長として飛んだ事もある経歴の持ち主だ。敵と味方の戦力を考えて、今回の任務がそう楽ではない事も理解している。
「ヨーロッパの解放は急務だけど、実力との兼ね合いもあるしねぇ。ま、私は無理せずにやるよ」
 一見気負わぬ様子で、佐竹 優理(ga4607)が飄々と言った。だが、彼は今回の作戦で大型ワームの抑えという、最も危険な部分を担当している。
「行くよ、『swallow』 私の新しい翼‥‥」
 今一人の大型ワーム担当、九条院つばめ(ga6530)もコクピット内で静かに精神を統一していた。少女の覚醒に伴う微風がコクピット内を漂い、彼女をそっと撫でる。乗り換えたばかりのディスタンから、共に戦う新たな主への返事のように。

 周辺にキューブワームは確認されていない。電子戦機を擁していない彼らの編隊でも、目指す敵編隊の姿をまずはレーダーで確認する事ができた。
「一匹見ると数十匹はいる、ってのはGの話だけど、あの中に一体何匹のキメラが入ってるんだろうね‥‥」
 ひときわ大きなレーダーブリップを見ながら、クリア・サーレク(ga4864)がため息を一つ。
「ま、この際一網打尽にしちゃおう」
 前向き、元気が信条の彼女はさらっと気を切り換えて笑顔を見せた。緊張気味だった仲間達も、つられた様に微笑む。
「では、行きましょうか」
 微笑んでから、そう告げたレールズに、待ってましたと言わんばかりのタイミングで優理が声をかけた。
「ぃよっ! リーダー!」
「確かに大規模の時は分隊長をやらせていただきましたが‥‥」
 自分より上がいない状況は慣れないのだろう。苦笑するレールズ。
「宜しく頼むぜ、リーダーさんよ!」
 その背を、瑛の威勢良い台詞が後押しする。仲間達の小さな笑い声が回線にこだました。

●乱戦模様の空
 敵の数は4。傭兵達の接近に気付かぬはずはないが、悠然と下側の開口部からキメラを投下し続ける大型ワームは低空で位置を固定。3機の小型ワームがその上空を固めていた。
「甘く見られてるようだな」
 真紅の瞳を翳らせて、愛輝が呟く。彼とリゼットのワイバーン、つばめのディスタンとレールズのディアブロが前衛で先に敵に接触する。その一斉攻撃の直後、残る4機が時間差で敵に追撃を加えると言うのが彼らの作戦だった。低めに位置した敵へと、前衛隊は速度を揃えて近づく。
「タイミングを合わせてください。3、2‥‥」
 一斉射撃の指揮をとるレールズの声。それを遮るように大型ワームが閃光を発した。ワームの主兵装、プロトン砲の赤い輝きが先手を取ったのだ。
「‥‥この距離で!?」
 仕掛けるタイミングを揃えるには、行動が遅い相手に合わせる事になる。統制の取れていない相手の方が初動が早い時もあるのだ。距離がある故にかろうじて回避したが、一斉射撃の体勢が乱れるのは致し方ない。
「反撃をお願いします。Fire!」
 レールズの合図から多少タイミングが乱れつつも、前衛各機は目の前の小型機へと攻撃を開始した。必中を期してマイクロブーストを使う愛輝をはじめ、思い思いの長距離射撃が敵機の外装を吹き飛ばし、爆炎に包む。が、攻撃目標の指示が無かった為に集中攻撃とはいかなかったようだ。
「回避を。反撃が来ます!」
 レールズの声に身構えた傭兵達を目指し、3機の敵が急上昇してきた。応射の命中精度は思いのほか高い。
「さすが、強化機ですね‥‥!」
 被弾、悔しげに唇を噛みながらリゼットが言う。だが、傭兵達にはまだ4機の戦力が残っていた。
「‥‥左側、俺の前の敵が傷が深いようです。狙うなら奴を」
 集中攻撃を念頭においた愛輝の報告にレールズが頷く。
「目標、左の敵機です。二段目、Fire!」
 レールズの合図で、控えていた後衛機も攻撃を開始した。
「よっしゃ、行くぜぇ!」
 向こうから距離を詰めてきたワームに、これ幸いと瑛のディアブロが挑みかかる。近接戦火器しか装備していなかった彼にしてみれば、それしか手立てが無い。残る3機は個別のタイミングで射撃を開始した。一斉射撃のメリットは薄れるが、合図を取るレールズとて後ろに目があるわけではないのだから仕方が無い。
「1機落とせるのと落とせないのでは違うからねぇ。ここが使いどころかな‥‥」
 呟いた優理機のSES機関にエネルギーが集まる。放たれたミサイルは獰猛な獣の牙の如く、ワームの装甲を食い破った。数度の小爆発を繰り返し、細かなパーツを散らしながらも、まだ落ちない。
「ならばこれでどうですか」
 敵機が神撫機の攻撃を何とか回避した瞬間、ブレス・ノウも利用したクリアの照準がピタリとスコープに捕らえる。
「貰ったよ!」
 連装ロケット弾は狙い過たず敵機中央へと突き刺さり、しぶといワームに止めを刺した。
「‥‥よし、目立ってないな、私」
 爆発、四散する敵機を見下ろしながら、優理が満足げに呟く。

「残る敵機、急いで掃討するぞ」
 主兵装こそ高分子レーザーだが、僚機の動きが見えるように愛輝は格闘戦を挑む事を避けていた。クリア機の兵装も、距離をとっての砲戦型だ。
「前には俺が。支援をお願いします」
 白いレールズ機が、一方の小型ワームへと間合いを詰める。
「了解っ。空飛ぶ鉄兜狩り、頑張っていこー」
 後半、動きの鈍い大型相手の砲戦仕様にロケット砲を積載したクリア機は俊敏な小型ワームに対するとやや分が悪い。それと見てとった愛輝が敵へと牽制をかけ、隙を作る。
(俺は敵を破壊する力より、仲間を助ける力が欲しい)
 小型ワームの反撃は正確だった。衝撃に跳ねあがる操縦桿を押し込みながら、愛輝は再び敵機へ向き直る。近距離からレーザーを撃ち込んだレールズが敵機に炎をあげさせていた。すぐに鎮火したようだが、与えたダメージは決して少なくは無い。

「こっちは俺達が相手だな」
 最初の一斉射撃で長射程ミサイルを撃ちつくした神撫が、元より近接兵装のみの瑛と共にワームへ波状攻撃をかけた。危険なフロントは経験豊富なパイロットがあたる事が多いが、こちらのトリオはその意味では大差がない。自然と武装で担当が分かれる形になった。
「援護します!」
 まだ長射程武器の残弾を残していたリゼットが2人の突入を援護する。悪魔の名に恥じぬ攻撃力で、ワームへ出血を強いる瑛。だが、お返しとばかりに飛んできた敵のプロトン砲がディアブロを直撃した。
「ちっ、‥‥ダメージも意外とでかいな」
 瑛のコンソールに黄色いランプが点る。まだまだ行動に支障は無いが、積み重なればそうも言ってはいられない。他の2機も、回避には不向きな構成だ。
「こちらが参ってしまう前に、何とか倒してしまいましょう」
「それって、やられる前にやれって事か? いいねぇ」
「了解、俺も乗りましょう」
 口調は可愛らしく、お転婆なリゼットの掛け声に僚機が頼もしい声を返す。

 一方、低空。初手で距離をおいての撃ち合いを狙ったつばめと優理を嘲笑うように、大型ワームは下部ハッチを閉じもせぬままでフェザー砲を斉射してきた。鈍重そうな見かけの割りに照準精度は高い。文字通りの弾幕が2機に降り注いだ。
「くっ‥‥、これはたまらんねぇ‥‥」
 優理機のアラートランプが一斉に点灯する。改装を経てはいても、S−01の耐久性は高機動、重装甲のディスタンに比べるべくもない。とはいえ、仲間達が小型ワームを処理するまで、2機でこの難敵を抑えねばならないのだ。
「まさか、こいつを使う羽目になるとは」
 ぶつぶつ言いつつ、優理が煙幕を放つ。ワームの照準が目に見えて甘くなった。
「伊達に小隊で盾役を務めていません‥‥。仲間は、守ってみせます!」
ダメージを受けた優理機を庇うようにつばめは煙幕の縁まで自機を前進させる。ワームがようやく下部ハッチを閉じ始めたのが見えた。

●終わらぬ乱戦は無く‥‥
「強化されていても数の差はひっくり返せない! これで終わりです!」
 気合と共に撃ちこまれたレールズの取って置きのD−01が小型ワームを爆散させた。だが、熟練パイロットを多く含む彼らが小型ワーム相手に優勢に戦いを進めていた間、残る3名は熾烈な消耗戦を強いられていた。リゼットも神撫も、そして瑛も連携を志向してはいたのだが、どのようにというビジョンに欠けていたせいか、統制の取れた動きにはなっていない。
「くっそお!」
 敵から見ての脅威度の高い瑛のディアブロが立て続けに被弾した。あわや、という瞬間に敵の砲火を神撫が遮る。
「誰も落ちるんじゃないよ」
 中枢まで及ぶダメージを受けつつも、神撫は小さく笑った。だが、2機とももう限界だ。リゼット機とて損傷は大きい。3人のいずれもが空戦に慣れておらず、引き時を考えてはいなかった。
「それ以上はやらせない!」
 あわや、というタイミングに横合いから割って入ったのは、愛輝のワイバーンだった。担当の敵機を撃破したレールズとクリアも、機首を翻して加勢する。それがあと一手遅れていれば、前衛の2人のうちどちらかが落とされていたやも知れない。しかし、危難の時は終わり、衆寡敵せずに小型ワームは10秒を経ず大空に消える。
「残るは‥‥」
「あと1つだね!」

 もしも、大型ワームがフリーになったならば。小型機との空戦に気を取られた隙に大口径のプロトン砲に狙い撃たれるという最悪の展開がありえたかもしれない。大型ワームの攻撃を再三にわたって耐え凌いでいた『swallow』の外装は焼け焦げ、まだらになっていた。
「‥‥機体損傷率5割、まだ‥‥いけます」
 だが、煙幕が切れてからは被弾率が跳ね上がっている。あと20秒、いや、30秒か。いかにディスタンとはいえ、大型ワームの火力を引き受けてはそう長くもたないだろう。つばめが嫌な汗を背筋に感じたその瞬間。
「護衛は全機撃破しました。これより大型ワームの攻撃に入ります」
 レールズ機を先頭に、6機の機影が斜めに空を裂いた。温存していた彼のD−01ミサイルがワーム後部に紅蓮の炎を上げる。さながら悪魔の牙がつきたてられたかの如く。
「なるほど、こういう時に使うんですか」
 神撫と瑛も、レールズに倣うように機体に秘められた力を解き放った。
「さっさと堕ちやがれ! このデカブツ!!」
 瑛機の放った滑空砲弾がワーム側面装甲を破砕して内側に抉りこむ。神撫機のガトリングも装甲に真っ赤な銃痕を刻んでいく。
「や、助かった。さすがリーダーだね、うん」
 軽口を叩く優理の言葉にも、安堵の気配は色濃く漂っていた。今まで耐えてきた鬱憤を晴らすかのように、優理も最後のアグレッシブファングを上乗せした攻撃を叩きつける。
「反撃の時間、ですね」
 つばめもほっとしたように微笑み、トリガーを引いた。
「ロケット砲、一杯あるから、遠慮はいらないよ!」
 クリアの放ったロケット弾も鈍重な大型ワームには全弾命中する。破孔から大きな火柱が噴き出した。すぐに火勢は衰えたものの嫌な色の黒煙は収まらない。大型ワームが青白い光を放ち、滑らかとは程遠い動きで旋回を始めた。
「ここまで来て、逃がすと思うな」
 愛輝がその動きに追随、レーザーで外装を撃ちぬく。万が一の逃走に備えていたリゼット機も進路を塞ぐように回り込み、レーザーを立て続けに浴びせ掛けた。だが、その猛烈な砲火を振り切るようにワームは猛烈な加速を続ける。そして、速度と裏腹に高度を失っていた。
「‥‥あ」
 誰かが漏らした言葉と同時に、大型ワームは眼下の大地に勢いよく突っ込む。腹から真っ二つに折れた後、その双方が盛大に爆発した。一拍遅れてから、仲間達が喜びの声をあげる。大規模作戦とは少し違う小さな、それでいて確かな達成感がそこにあった。
「こういうのも、悪くは無い」
 知らぬ間に握り締めていた拳を緩めてから、愛輝がぼそっと呟いた。

 地上に降りたキメラは、早めに大型ワームへ攻撃をしかけていた甲斐もあってそれほど多くは無い。損傷が多大な神撫と瑛機は一足先に退却せざるを得なかったが、傭兵達は残る6機で周辺の掃討戦を手伝う事とした。予期せぬKVの支援に、展開していた陸上部隊から歓呼の声があがる。KVにとっては歯牙にもかけぬ小型や中型のキメラも、歩兵にとっては深刻な脅威なのだ。
 撃破機4、被撃墜機、なし。機体に受けた損傷こそ少なくなかったが、実戦慣れしていない者も多い中で、この勝利は誇るに足るものだった。