タイトル:貴方を待っていますマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 79 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/02 03:21

●オープニング本文


『いつまでたっても、あなたは私をみてくれないのね。
 私だって女の子なのよ。
 水曜日の午後、中央公園でいつまでも待ってます』

「‥‥という悪質なメールが、主に一人身の能力者相手に出回っている。諸君にはその対処を頼みたい」
 能力者であろうが無かろうが、男は馬鹿ばかりだ。広報担当の黒髪の女は、ため息交じりでそう告げた。
「ひっかかっているのは、お調子者、あるいはクソ真面目なタイプのようだ。呼ばれていった先には当然誰もいないわけで、失意から暴れまわる可能性もある」
 自棄になった能力者がその場で宴会を始めたり、罪も無いカップルに絡み始めるようなことがあれば能力者の深刻なイメージダウンに繋がる。昨日まで地球のために戦うヒーロー扱いだったのが、次の日からご近所の奥様方のひそひそ話のネタにされたりするハメになるとは想像するだに恐ろしいことだ。
「あるいは、それを見越したバグアの壮大な‥‥、いや、失礼。疲れているようだ」
 こめかみを押さえながら、女は傭兵達の視線も気にせずに胃薬を流し込んだ。どうやら疲れているばかりかストレスも溜め込んでいるらしい。
「当日は私も警戒に当たる。とりあえず、指示されている公園はそう広くは無い。高台で、花見シーズンなら込み合うだろうが、幸いな事に今は混雑する理由は無かろう」
 だが、そこが巧妙な所だと彼女は言う。待ち合わせ場所が公園のどこであるか明確にされていないという事は、呼び出された面々が期待に満ちて徘徊する余裕があるという事だ。結果、時間と労力を更に無駄に費やした哀れな独り者の鬱積たるや、想像に難くない。
「‥‥これが公園の地図だ。普通に考えれば、待ち合わせに使われるのは‥‥、南北の二ヶ所ある入り口、景色のよいベンチ、四季折々に花が咲く花壇、中央の噴水、高台の屋台スペース‥‥くらいか」
 建造物としてはトイレもあるが、さすがにトイレで待ち合わせるとは思うまい、と彼女は苦笑してから再び真顔に戻った。警戒すべきはそれだけに留まらない。彼女の調べによれば、発端のメール自体は既に散布が中止されているようだが、2次被害が増えているのだと言う。
「‥‥つまり、この騒ぎに便乗して文字通りの意図を伝えようとする女性や‥‥、希に男性もいるらしい、そんな話も出ているのだよ」
 普段は伝えられない思いも、この馬鹿騒ぎに乗じてならば。あるいは、冗談に紛らわせて。そんな感じの内気な乙女心が混乱をさらに助長している。
「前者と後者は火に油だ。正直な所、これらの接触で燃え上がる嫉妬の炎は鎮火できる気がしない」
 さらには、知人へこの文面を送りつけて様子を見よう、などという悪意の模倣班まで現われたようだ。仲人気分の善意の模倣班もいるという。あまつさえ、誰かの愛の成就を守る防衛隊まで現われそうだとか何とか。女は水曜日の公園封鎖を上申したが、『どうして? 放っておいた方が面白そうじゃない』とあっさり却下されたらしい。大真面目な顔で、黒髪の女は腕を組む。
「というわけで、この任務はボランティア活動だ。さしたる予算は出ない。‥‥が、傭兵諸君の善意に期待させてもらおう」

 一方その頃。
「‥‥いかん、全く心当たりが無いぞ。俺って奴は‥‥」
 任務明けに自室でメールを確認した篠畑は、困り果てていた。

●参加者一覧

/ 大泰司 慈海(ga0173) / 神無月 紫翠(ga0243) / 鏑木 硯(ga0280) / セシリア・D・篠畑(ga0475) / 鯨井昼寝(ga0488) / 神崎・子虎(ga0513) / 鯨井起太(ga0984) / エリク=ユスト=エンク(ga1072) / 須佐 武流(ga1461) / ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634) / 如月・由梨(ga1805) / 篠原 悠(ga1826) / シャロン・エイヴァリー(ga1843) / 翠の肥満(ga2348) / 伊藤 毅(ga2610) / 漸 王零(ga2930) / 終夜・無月(ga3084) / NAMELESS(ga3204) / 木場・純平(ga3277) / 寿 源次(ga3427) / アッシュ・リーゲン(ga3804) / 王 憐華(ga4039) / UNKNOWN(ga4276) / 佐々木優介(ga4478) / キョーコ・クルック(ga4770) / 鈴葉・シロウ(ga4772) / ファルル・キーリア(ga4815) / クラーク・エアハルト(ga4961) / アルヴァイム(ga5051) / ハンナ・ルーベンス(ga5138) / ザン・エフティング(ga5141) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / イシイ タケル(ga6037) / 雑賀 幸輔(ga6073) / リュス・リクス・リニク(ga6209) / FC(ga6241) / 鐘依 透(ga6282) / シャレム・グラン(ga6298) / 古河 甚五郎(ga6412) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / 名塚 朱乃(ga6571) / ハルトマン(ga6603) / ソード(ga6675) / 草壁 賢之(ga7033) / 周防 誠(ga7131) / 雷(ga7298) / 砕牙 九郎(ga7366) / KOKUI(ga7499) / アンジェリカ 楊(ga7681) / シェスチ(ga7729) / 鐘依 委員(ga7864) / 飯島 修司(ga7951) / クライブ=ハーグマン(ga8022) / 鷺宮・涼香(ga8192) / 鈍名 レイジ(ga8428) / 魔宗・琢磨(ga8475) / 優(ga8480) / 守原有希(ga8582) / 佐伽羅 黎紀(ga8601) / 斑鳩・八雲(ga8672) / レティ・クリムゾン(ga8679) / ラピス・ヴェーラ(ga8928) / プルナ(ga8961) / ルクレツィア(ga9000) / 三枝 雄二(ga9107) / 白虎(ga9191) / サルファ(ga9419) / 神無月 るな(ga9580) / 水無瀬みなせ(ga9882) / 神撫(gb0167) / フィオナ・フレーバー(gb0176) / 白野威 奏良(gb0480) / 鴉(gb0616) / 城田二三男(gb0620) / 蒼き刃(gb0791) / 不知火 獅炎(gb0864) / イスル・イェーガー(gb0925) / 双寺 紫(gb0926) / カララク(gb1394

●リプレイ本文

●決戦前夜
「あとは、明日を待つだけだね」
 幼い顔に似合わぬ邪悪な笑顔で白虎が覗き込む画面には、メイド服姿の彼と神崎・子虎が映っていた。彼らがぶちあげた、『黒のしっと団決起・カップル粛清祭り』。その起爆剤となるのが、彼ら2人の結成したショタッ子メイドユニット『とらりおん』だ。
「さって、大物が釣れるといいんだけどね☆」
 シナを作りながら子虎も微笑む。
「集まった人たちにしてもらう事、纏めておいたよ」」
 大泰司 慈海がチョイ悪系なイイ笑顔で親指を立てた。
「‥‥公園の恋人達に最高の混沌を」
 部屋の隅では、翠の肥満が不敵に呟く。決戦に備えて、しっ闘士の意気は高い。

「面白い。諜報部に情報戦を挑むとはな。カウンターの準備は万全か?」
 『公園巡回部隊』の仮設本部である電子の要塞の中枢で、美沙も同じHPを見ながら笑みを浮かべる。恋よりも秩序を愛する彼女に死角は無い。その背後に立つ飯島 修司が、不敵な笑みで応じる。
「彼らには目に物を見せて差し上げましょう」
「頼りにしているぞ、飯島」
 美沙よりも少し年長の修司は重厚に頷いた。内心では、呼び捨てに少し心ときめきつつ。

 夜の公園では、ファルル・キーリアがめぼしい場所に落とし穴を掘っていた。怪我はしないようにクッションなども仕込みつつ、その表には傷心を煽る言葉を書き連ねるファルル。
「フフフ、どん底まで落ちた所に優しい声をかけて、貧乳教へ入信。完璧な計画ですわ」
 ちなみに、貧乳教の正式名称は『女性の胸の大小による格差を是正するための学会』らしい。
「『貧乳』‥‥あまりにも寂しい言葉だわ。人の体型を『貧しい』だなんて。これからは『微乳』と呼ぶといいと思うの」
 隣りで穴を掘る同志アンジェリカ 楊の言葉に、ファルルは重々しく頷いた。

「ふむ。これでよし、ですな」
 騒ぎに乗じた守原有希の屋台計画を聞きつけたアルヴァイム。彼は、出店許可などの細かな仕事をいつの間にか引き受けていた。
「ありがとうございました。当日も、是非寄って下さいね?」
 有希の言葉には会釈で応じ、男は夜へと消える。見送ってから、有希が振り向いた。クラーク・エアハルトに、有希が頭を下げる。
「護衛、助かります」
「いえ。守原さん、儲かると良いですね?」
 明日の必勝を期して微笑みあう2人の麗人(男)。

 そして、なにも知らぬ者達にも、時は過ぎ行く。
「明日は何を着て行きましょうか、零‥‥あなた?」
 新婚の王 憐華が言い直したりしつつ、お気に入りの服を胸にあてつつ振り返る。
「我は何でもいい。憐華が隣にいてくれればな」
「何でも、だなんて。分かってないのね」
 漸 王零の台詞に怒ったふりをしつつ、憐華は幸せそうに微笑んだ。

●決戦当日(前)
 公園の空に、高らかに声が響く。
「いくわよ2号! この世全ての恋は私達が成就させてみせる!!」
「オーケー1号。今日も恋の花をバッチリがっちり咲かせようじゃあないか」
 一方的な善意によって恋の橋渡しをしようとする鯨井昼寝と鯨井起太兄妹だ。身を包むマスク(ラブスカウター内蔵)と衣装は自前らしい。
「む、ラブ力を感知。こっちだ!」
「私はこっちに!」
 ピピピピ、と効果音を口で発しつつ、鯨井兄妹は2手に分かれた。

「そこのパンクなお嬢さん、俺と‥‥へぶっ」
 待ち合わせに立つFCへと声をかけてきた野郎が、エリク=ユスト=エンクの姿に慌てて逃げ出す。目隠し+ランニングとスパッツの筋肉質な巨漢は、視覚的に危険すぎた。
「‥‥?」
「ぬう‥‥」
 何も知らぬ少女を、なし崩し的にガードしていたエリクが公園内の危険な空気に首をかしげた。
「よ、揃ってるな? 仲良くなったみたいじゃないか。ケケケケー」
 NAMELESSの声に、揃って振り向く2人。
「KOKUIはまだいないか? あ、そこか」
 彼の指した所、少しボロボロの黒子姿が立っていた。騒動に巻き込まれたらしいKOKUIは誰かに頭を下げている。
「いえいえ、お気になさらず。少し、他人とは思えなかったもので」
 アルヴァイムの背を、KOKUIは敬意とシンパシーの篭った視線で見送った。
「揃ったな。んじゃ、いくかー」
 号令をかけるNAMELESS。それぞれには知らせず、3人を呼び寄せたのは彼だった。

「今日は賑やかですね」
「‥‥何かイベントをしているのでしょうか?」
 ベンチで談笑する神無月 るなと優。読書を楽しみに来たるなに、優が話しかけたのがきっかけだ。
「面白‥‥困った事件ですね」
 酒瓶片手に呟く双寺 紫に、2人が頷く。最初、るなを犯人と誤解した紫から事件については、教えてもらっていた。

「以前は静かな公園だった気がするけど‥‥」
 公園に漂う邪気に、鏑木 硯は思わず足をすくませる。
「まさか‥‥硯ちゃんが俺にこのメールを!?」
 一見少女の硯に、誤解を膨らませる通りすがりのジュエル・ヴァレンタイン。
「何だと! 貴様ァ」
 周囲の男達が彼の幸運に歯噛みする。新たなしっ闘士の誕生である。
「え? いや、ちょっと落ち着いて話を‥‥」
 殺気だった男達に包囲される硯を、凛々しい声が救った。
「そこまでよっ!」
 場所は公園の門柱の上。高所から見下ろすシャロン・エイヴァリーは、上から下まできっちりと固めた正統派メイド姿だ。サングラスが申し訳程度に素顔を隠してはいるが、普通はバレバレである。
「ひとつ、人の恋路を妨害し」
「だ、誰だ!」
 ジュエルは普通ではなかった。
「ふたつ、雰囲気読まない暴挙の数々」
「シャ、シャロンさん? いやまさか」
 唖然とした硯の声に、シャロンの名乗りが止まる。
「わ、私は通りすがりの謎のメイド。そんな者ではないわ!」
 あたふたと踵を返し、門柱から落ちる謎のメイドをよそに、再びジュエルの誤解が暴走する。
「硯ちゃん、俺には他に好きな人が」
「そもそも俺は男ですから!?」
 悲鳴の如き彼の声に、空気が凍った。
「そんな‥‥、俺はそんな愛は受け取れない」
 まだ自分がメールを受け取ったと信じるジュエル。その時、公園の奥からピピピピという声が近づいてきた。
「あ、あの声は! そうだ、俺は昼寝ちゃんが好‥‥」
 振り返ったジュエルが彼女に何か言うよりも早く、マスク越しの視線が彼を通り過ぎる。
「ラブ力5。何だ、ゴミか」
 告白の言葉は宙に消え。灰と化したジュエルを放置して、愛の戦士は足早に去っていった。

 普通にデートを楽しむ面々にも、災厄は平等に降りかかる。
「わーい♪ 相性ピッタリだって。よかったねー♪」
「お、おう」
 神無月 紫翠の占いのサクラとして振舞うしっ闘士2人。無邪気に笑う水無瀬みなせに比べ、雷はやや緊張気味だ。その方が本物っぽかったらしく、犠牲者はすぐに訪れた。

「塔。破滅の暗示ですね。不幸が起きますよ?」
 完璧に女占い師を演じる紫翠の声に、如月・由梨が不安げに隣りを見る。
「由梨‥‥大丈夫。何があっても、守るから‥‥」
 終夜・無月が微笑みを返すと、それだけで不安は霧消した。
「あんたら、このままだと地獄に落ちるよッ!?」
 第一陣の失敗に、草壁 賢之が怒鳴り込む。その後ろには、何故か台車付き蕎麦釜が引かれていた。
「ささ、目をつぶってください」
 助手の鴉に促され、つい目を閉じる素直な2人。邪悪な笑みを浮かべた賢之と鴉が蕎麦釜の中から大量の蕎麦粉を取り出し、ぶちまけた。
「‥‥!?」
 せっかくのデート衣装を台無しにされた2人を後に、蕎麦釜がダッシュで逃げ去っていく。

 一方、立場の異なる偽カップルもいた。
「美人と歩いていると『振り』でもステキな気分になれるものですね」
「え? あ、ありがとう、ございます。‥‥うー」
 不意打ち気味のイシイ タケルの声に、赤面する蒼き刃。応答に萌えるタケル。この初々しさに騙された多数のしっ闘士を、2人は返り討ちにしていた。今、2人がいるのは公園の高台だ。
「‥‥兄貴はこの辺りにいる。気をつけて」
 彼女の兄、翠の肥満はプロだ。気配を消した彼を見つけるのは至難だと、2人は理解していた。
「お義兄さんは何処に‥‥」
「誰が兄か! ‥‥し、しまった」
 茂みから声をあげた翠へ、妹の殺気が迫る。だが、彼は余裕で身を翻した。
「僕を『お兄たん』と呼んでいいのは稜子ちゃんだけッ!」
 あかんべーと共に、姿を消す翠。振り出しに戻った捜査に悔しそうな蒼き刃と、少し嬉しそうなタケルであった。

●決戦当日(中)
「中尉、どう考えても偽だと思うよ?」
 篠畑から事情を聞いた伊藤 毅が笑いをこらえて言う。
「いや、隊長って何気に人気あるもんな! 案外わからんで?」
 そそのかす白野威 奏良は、実はしっ闘士の刺客だった。
「俺にも届いていたって事は嘘か。いや、しかし篠畑に望みがあるって事は俺も‥‥」
 一縷の望みを断ち切れないザン・エフティング。3人に挟まれて困り顔の篠畑に、横手から声がかかる。
「あの‥‥篠畑中尉」
 リゼット・ランドルフが白バラを手に立っていた。
「以前の依頼ではお世話になりました、あの、その‥‥受けとって頂けますか?」
「ええ!?」「嘘やろ!」「マジか!」
 思わず本音で驚く3人。
「‥‥えーと、昇進祝いなんですが。何か?」
 困惑したように首をかしげるリゼットが彼らの凍った時を動かした。
「ありがとう。嬉しいよ」
 礼を言って花を受け取る篠畑。
「まぁ次は本命が来るかもしれんしな。頑張りや」
 屋台を引きながら去る奏良。
「あほらし、いこ、いこ」
 どっと疲れた様子の毅。
「フ‥‥ヒーローはいつでも冷静さ」
 どす黒いオーラを意志の力で抑えつつ去るザン。だが、数m先でその箍はあっさり外れた。
「お前ら、暴れてるんじゃねぇ!」
「‥‥程ほどにしておけよ。ってあれ? 奇遇だな」
 篠畑も引き返そうとして、見知った顔を見つけた。挨拶、それから事情説明。
「‥‥それ‥‥私、送ったんです‥‥」
 じっと見つめつつ言うセシリア・ディールスに、篠畑の目が点になる。
「‥‥信じて、くれませんか。でも‥‥」
 目線を落とす少女に、篠畑はようやく言葉を思い出した。
「俺は‥‥」
「冗談、です」
 無表情に、早口で遮る。
「あ、そうか。そうだよな、うん」
 篠畑は乾いた笑いを浮かべた。上目遣いに、少女が再度口を開く。
「‥‥でも、もし本当だったら‥‥」
「あ、篠畑さん? こんにちは」
 言いかけた所で横槍が入った。
「加奈ちゃん?」
 千歳にいるはずの少女に驚く篠畑。
「‥‥デート中?」
「い、いやいやいや。俺達はそういうのじゃなくだな」
「‥‥そこまで、必死に否定しますか」
 ボランティアの会合に出席する人に付いてきたのだ、と加奈は言う。彼女にメールの話は初耳だったらしく、事情を聞いて笑い出した。
「もしも、私が送ってたらどうします?」
 聞かれて妙な顔をした篠畑が何か言うより早く、セシリアが加奈の手を取った。
「‥‥少しお話、しませんか?」
 あちらで、と指した方角には、巨大リュックに埋もれた鐘依 透と鐘依 委員がいた。どうやら、お弁当を周囲の人たちに配って歩いているらしい。
「あいつ、女難の相でもあるのか?」
 篠畑の視線に気付いた委員が軽く会釈を返す。
「‥‥如何でしょう?」
 セシリアの再度の誘いに、ちらっと篠畑の顔を見てから加奈は頷いた。
「では、健郎さんも‥‥」
「篠畑さんは来ないでね。女の子同士の内緒話、なんだから」
 セシリアの声を遮って、加奈が言う。
「いや、でも。透も‥‥。ああ、わかったわかった」
 釈然としない様子で頷く篠畑に、加奈は舌を出した。去っていく2人を見送りながら、篠畑は左胸に手をあてる。
「戦闘の方が気楽だった、かな」
 まだ、動悸は治まっていなかった。
「‥‥一部始終、見させてもらったぜ」
 そんな篠畑に、神撫が囁く。篠畑をしっ闘士にスカウトするのが目的だった彼だが、既にそのような意図は無かった。
「やれ」
 神撫の合図に、褌集団が篠畑を包囲、担ぎ上げる。人間神輿の向かう先は、公園中央の噴水だ。
「ちょ、何だ、わわ」
 どぼーん。
「‥‥任務、完了」
 神撫と入れ替わりに通りがかった鷺宮・涼香が、噴水の篠畑へとガーベラの花を差し入れる。
「花言葉は常に前進、だわ。もう少し頑張って頂きたいのよね」
 何処まで知っているのか、そんな言葉を投げ、涼香は軽やかに去っていった。

「これでも新婚の新妻だってのになんでこんな変な男が寄ってくるんだ」
 気分良く散歩に来ていたキョーコ・クルックの機嫌は最悪レベルに低下していた。公園に入ってからのナンパ9。絡んできた褌は数知れず。
「新婚早々だというのに荒れてはいかん。その力、有意義に使ってみないかね」
 気配も無く姿を現した男に、キョーコは胡乱気な目を向けた。手描きライオンお面をした黒スーツの男は、実に怪しい。顔見知りでなければ殴り倒しているくらいに。
「何してるのさ、あんた」
 彼の語る事は実に単純だった。暴れる傭兵を吊るす、と。
「面白そうじゃないか。俺も混ぜてもらおうか」
 この煩さじゃ、曲のイメージも思い浮かばない、と抱えていたギターを置いたアンドレアス・ラーセンが笑う。
「まいったね。そんな面白そうな事を考える人がいるなんて。自分も混ぜてもらえますか?」
 二つ名通りの不敵な微笑を浮かべた周防 誠も鎮圧の仲間に加わった。しっ闘士、巡回部隊に次ぐ第3勢力『吊るし隊』の誕生である。
「面白そうだけど、見守ることが今の自分にできる最良の行動か‥‥」
 彼らから少し離れて生暖かい視線を送る不知火 獅炎。その肩に手が置かれた。
「少し、話を聞かせて頂けますか」
 犯人は現場で騒動をニヤつきながら眺めている可能性が高い。そう考えて一連の騒動の犯人を探していた三枝 雄二の手だった。

「この度の騒動は商機にして勝機! しっかり稼ぎましょう」
 有希の声に、公園屋台の店主達がおー、と声を返す。彼女の呼びかけに答えて、平日とは思えぬ数の店が集まっていた。
『当地域は現在、非戦闘地域に指定されました。騒ぎを起こした場合、直ちに制圧します』
 そんな看板が諸所に立つ中、カップル達が一時の憩いを求めに立ち寄っている。例えば、浴衣でダブルデートの4人。
「レティさん、今日も素敵です〜♪ あのっ! 腕組んでも良いですか?」
 頬染める篠原 悠に、すっと腕を差し出すレティ・クリムゾン。2人の空いた手にはミルクセーキ。彼女達が気高く美しいバラだとすれば、ソードと砕牙 九郎のペアは漢字の薔薇だった。
「俺達も腕組むかい、はに〜」
「はに〜、じゃねぇよ!」
 九郎が泣きそうな声をあげる。だが、彼が弄られるのはいつもの光景だ。
「そこの別嬪はん、おいしいたこ焼きはどないや?」
 しっ闘士の刺客、奏良が売るたこ焼きを一口食べた九郎の顔色が変わる。ギクシャクと横を向き。
「‥‥ソードさん。あーん」
「お?」
 ぱくり。ソードの顔色も変わる。ワザビと辛子が2人の口内に広がっていた。
「すまない、少し匿ってくれ」
 午前中、しっ闘士達に紛れて情報を流していたサルファは、裏切り者として追われていた。彼だけではなく、中立を標榜する屋台には時と共に双方に追われた面々が増えていく。クラーク達によって騒動の火種は表向き抑えられつつ、緊張は水面下で高まっていた。
 噴水付近の芝生もまた、中立地帯だった。屋台と違い、こちらは事前の根回しによる物ではない。
「おばあちゃんが言っていました。人の恋路に涎を塗る輩は、肉体言語で仕れ。そしてバラして曝してしまえ。と」
 愛の戦士鈴葉・シロウをハンナ・ルーベンスが出迎える。今日のハンナの青空相談室、シロウが協力者兼最初の客だった。
「愛の為に身を犠牲にする方を、主は決してお見捨てになりません」
 最近の報告書での噂について相談したシロウに、ハンナが微笑を向ける。その背には後光が差していた。彼女達の周囲にいつしか集まる闘士達。
「心に恥じることはありません。今日この場にいらした優しさを、どうか忘れないで‥‥」
 慈愛に満ちた微笑に、男達は心洗われていく。一方、更生の余地の無い者は、影働きの手で始末され、吊るされていた。
「ふふふ、あそこにいるのは硯ですわね。UNKNOWN氏も楽しそうに‥‥」
 知人の様子を観察しつつ、怪我人の治療を請け負うシャレム・グランも芝生に拠点を置いていた。片手間に売るソフトクリームの売れ行きも悪くない。
「‥‥ソフトクリームは、いかがでしょうか? そこの方」
「もっと声を大きく出しなさいな」
 店内では、佐々木優介がこき使われていた。数年ぶりの愛妻弁当の中身がいかにも子供の余り物だった事に打ちひしがれていた所を有無を言わせず引張られたらしい。

●決戦当日(後)
 巡回部隊も、順調に使命を果たしていた。
「能力者によるものと思しき騒動を確認。鎮圧しました」
 闘士を縛り上げつつ、名塚 朱乃が無線へと言う。
「憎しみは何も生み出さない。それを彼らにわかって貰えたらいいんですがね」
 呟く木場・純平の足元にも、肉体言語による語り合いの結果が積まれていた。
「貴様らに何がわかる! 俺達むごお!?」
 叫びだした口に高純度チョコを詰め込むシェスチ。怒りを向ける先を間違った相手へ、少量の同情と多量の鬱憤晴らしの篭った笑顔を向ける。
「どうしますか、これ」
「ここに‥‥置いていこう」
 日が傾けば、カップルに占有されるベンチの裏に積まれた闘士達は、その後に強制的に聞かされるだろう甘いトークタイムを思い、絶望に打ち震えた。

『胸の大きさで女性を区別するなど間違っています!』
 貧乳教が布教活動に余念の無い噴水前。教祖のファルルが広く教えを宣伝し、アンジェリカが個別の勧誘を受け持っていた。
「そこの貴方。嫉妬に狂うより大事なことがあるんじゃなくって?」
「お、俺?」
 話しかけられ、どぎまぎする内気なしっ闘士。落とせる、と読んだアンジェリカがスッと身を寄せる。
「一緒に『貧乳教』に入らない?」
 哀れ闘士は信徒にクラスチェンジした。

「あの‥‥ごめんなさい、名前も知らないのだけれど。街で見かけたときからずっと、貴方を探していました!」
 作戦行動中のしっ闘士集団の1人を捕まえて、細身のウェイトレスが告白する。
「同志! 貴様」
 たちまち起こる惨劇から離れながら、小悪魔チックに笑う雑賀 幸輔。その視界に、忙しそうに駆ける作業衣姿の翠の姿が入った。
「お師範様! どうしてあたしたち、争わなくちゃいけないの!?」
「君に彼女ができたからだ」
 すれ違いざまに冷たく一刀両断。涙に暮れる幸輔を置いて、翠は更なる活動の為トイレへ向かう。
「ふぅ」
 この混雑であれば、トイレは渋滞だ。イベント慣れした古河 甚五郎はその整理に孤軍奮闘し、今はベンチで休んでいた。どうにも1人では手が足りない。ふと、その前を駆け抜ける翠と目があった。
「‥‥!」
 見詰め合う、作業衣の2人。ジッパーを下げて道具類を出しつつ、甚五郎が魔法の言葉を呟いた。
「トイレ整理、やらないか」

「すまんな、同志。俺は一足先に卒業だぜ‥‥」
 ウキウキ気分でラブレターを手に現われた元・しっ闘士。だが、そこにいたのは手紙の差出人ではなかった。
「お? 飛んで火に入る夏の虫、だな」
「無限の縄製者、と呼んでくれ」
 アンドレアスの差し出したロープを手に、手馴れた様子のUNKNOWNに縛り上げられ、吊るされる。偽ラブレターを使った鈍名 レイジの策略の犠牲者はこれで6人目だった。
「あー面白ェ‥‥」
 高台で人の悪い笑顔を浮かべるレイジの背後に、音も無く雄二が立つ。
「すまないが、少し話を‥‥」
 だが、雄二の横にいた寿 源次が頭を振った。
「いや、彼は知り合いだが、違うと思うぞ?」
「また、外れですか‥‥」
 犯人探しの旅は続く。

 噴水前、大人の事情で表示できない歌というか怪音波を発する馬マスク。褌で仁王立ちの雷の周囲は、交戦する勢力も近づく事なき空間だった。
「変態さんが‥‥ううう‥‥」
 花壇で猫と戯れていたルクレツィアの意識が遠くなる。男性恐怖症の彼女のリハビリに、と公園へ誘った佐伽羅 黎紀は責任感に胸を痛めていた。
「‥‥でも、ルーシーを1人にする訳にもいかないし」
 下手な相手に託すわけにもいかない。周囲を見回した黎紀の視野に、Wデートの4人が入った。
「危ない、レティさ‥‥」
「寄るな!」
 しっと戦士の攻撃を遮ろうとした九郎を、悠が蹴る。
「それだ!」
 ソードが更に強く、敵中へと蹴り飛ばした。
「和服美女ー!」「乳尻太股ー!」
 大柄な美女風の九郎に、見境の無くなった闘士たちが殺到する。
「くっくっく、餌に釣られて獣共が群がってきたか‥‥」
 そこにペイント弾が大量に撃ち込まれた。
「‥‥あの、急にすみません。この子を少し預かってくれませんか」
 かけられた声に振り向いたレティは、黎紀の目に戦士の輝きを見て取る。
「わかった」
「え、‥‥でも、私、男の方は」
 言いかけたルクレツィアを庇うように背に回す男装のレティ。
(‥‥あれ、苦しくない)
 男子恐怖症が、治ったのだろうか、と誤解しつつ。ふと欧州で会った青年の顔を思い浮かべる少女。
「ルーシーに汚い物を見せないで下さい。下のタマを磨り潰しますよ!」
 危険な台詞を吐きながら、黎紀が雷を噴水へ蹴り落としていた。

「積極的籠城行為ッ!」
 追い詰められた賢之が蕎麦釜に篭る。さすがに無覚醒の素手で破壊できるような代物ではない。
「どうしますか?」
 修司の声に、美沙は指を鳴らした。
「薪を用意しろ。蒸し焼きにしてやる」
「‥‥く、草壁さん!?」
 鴉の悲鳴がこだまする。

「ずぶぬれだな? どうしたんだよ」
「‥‥篠畑、水泳?」
 裏側では馬が退治されていた頃、噴水から出た篠畑に、須佐 武流とリュス・リクス・リニクが声をかける。篠畑が事情を説明する所に、アニメ調の衣装に身を包んだみなせがつつーッと寄ってきた。
「水無瀬せんせい! 悪いけど‥‥、とめさせてもらうから!!」
 キャバクラの名刺を片手に近づく少女を、イスル・イェーガーが体当たりする。色々と痛すぎる作戦を見ていられなかったのだろう。ちょっともつれたりして転ぶ2人。マスクを脱いで浮上した雷が見たのはそんな光景だった。
「おま、俺のみなせちゃんに何を」
 爆弾発言が飛び出し、そのまま勢いで告白に行ったりしたらしいがおっと字数が足りないぜ。

●決戦・その後
『頑張ってね、お兄ちゃんたち!』
 とらりおんの激励を受け、士気を高める闘士達。だが、その数は朝に比べて少ない。新たに増える同志よりも、失われる数が多いのだ。ステージを降りた幼き策士の顔に、やや焦りが見える。
「どうやら、統制が取れなくなったようだね」
 危害が最少になるよう、穏健策を指示していた慈海が困ったように笑った。解き放たれたしっとパワーは荒れ狂い、勝手に方々で自滅している。
「まずは巡回部隊を潰せ!」「いや、裏切り者を匿う屋台に天誅を!」「カップルに死を!」
 多くの幹部を失い、しっ闘士の意見もばらついていた。いずれ日が沈み、ムーディーな時間が迫る。首脳陣が避けようとしていた全面戦争も時間の問題だ。

「クライブより各員、中央に向かう暴徒の群れを複数確認、説得は無理そうだ。速やかに、鎮圧してくれ」
 巡回部隊の戦闘指揮官、クライブ=ハーグマンの声が無線を流れたのは、午後7時。最後の戦いの幕が切って落とされようとしていた。

 残存闘士の全てが集結できたわけではない。王零夫妻の行く所、実力行使にあった無数の闘士の骸が並ぶ。別の隊は堪忍袋の緒が切れた由梨と、静かにオーラで威圧する無月が追い散らしていた。
「ここは私が食い止める! 行け!」
 襲われるカップルを救おうとした魔宗・琢磨は、乱戦の最中に沈んでいた。原因は、しっ闘士の雄、雷と同じ馬マスクだった事だろう。
「まだ居たのですね?」
 駆け寄った黎紀の蹴りが一閃し、琢磨は痛そうな場所を押さえて崩れ落ちる。人違いの悲劇だった。通りがかった涼香がそっと雛菊を添えていく。花言葉は、『お人好し』。

 人知れず繰り広げられた戦いもあった。多数のしっ闘士を辛子弾頭の狙撃で行動不能に陥れたハルトマンと吊るし隊アッシュ・リーゲンの交戦もそうだ。
「またトラップか。やるな」
 その落とし穴は彼女の手によるものではないのだが、アッシュは冷静にそれを回避する。そこへ、弾が撃ちこまれた。
「くっ!」
 辛子に咳き込みながらも、弾道を見切ってペイント弾を応射する。
「この相手は!」
「‥‥できるのです」
 顔の見えぬ敵への敬意を胸に、銃声と木を蹴る音だけが、林に響いていた。

 暴徒の群れは既に個々の力で押し止める事は不可能となっている。クラークの奮闘、吊るし隊の暗躍、巡回部隊の力戦も虚しく、屋台ゾーンは戦乱の渦に飲まれていた。必ず請求書を出してやる、と憤る有希。
「よろしい、わしを殴‥‥」
 相手への理解、そして共感を胸にタケルが語りだす。が、相手は言葉が通じなかった。
「死ねぇ!」
 蒼き刃を庇って派手に殴られ、そのまま動かなくなるタケル。台詞の途中で割り込まれた為、自慢の盾は非機能だ。
「イシイさん!? あたしを庇って‥‥!?」
 蒼き刃の声を遠くに聞きながら、頭から即死級の血を流す青年の表情はとても満足げだった。

「女みたいな成りしやがって!」
「今日は楽しいデートなんだ。邪魔はしないで!」
 プルナが気合一声、褌男を撃退する。ラピス・ヴェーラと2人でクレープを食べていた所で決戦が始まったのだ。
「ぜっっっったい邪魔はさせないっっ」
 可愛らしく怒るプルナの背後に別の闘士が迫り。
「うお!?」
 急にバランスを崩してたたらを踏んだ。振り返ったプルナがえいっと掛け声つきで突き飛ばす。
「守ってくれてありがとう、プルナちゃん」
「えへへ」
 子犬のように笑う少年を姉の心境で見るラピス。闖入者を引っ掛けた足をそっと引っ込めつつ、彼女はデラックス☆チョコイチゴバナナクレープを上品に齧った。

「ふざけるな! 彼女が欲しいのは、俺も同じだ!!」
 屋台隅に追い詰められた裏切り者、サルファ。
「いや、俺は彼氏でもこの際いいぜ? 良く見たらアンタ、美形じゃないか」
 彼は更なる恐怖に遭遇していた。が、危うい所で闘士は白目を剥いて倒れる。
「‥‥マスター、お邪魔だったか?」
 緑ベレー帽を目深にかぶり、手刀で男を昏倒させた城田二三男が立っていた。
「‥‥ある男に言われた言葉を贈ろう。‥‥しっとを捨てろ、そうすればお前は強くなれる」
 倒れた相手を見下ろしてそんなアドバイスを贈る二三男。内心ではその男を犯人に仕立て上げたら面白かろうか、と考えている。

 しかし、二三男の計画で事態がますます混乱する前に、真犯人が見つかっていた。事件の発端となったメールの配信者の名は、フィオナ・フレーバー。
「‥‥悪い事をしたなら、一歩踏み出さないとね」
 紫はそう言う。公園の喧騒をポツリと眺める少女を犯人だと見切ったのは、彼女の眼力だった。その前に1人誤認したがそれはそれ。
「大丈夫ですよ。間違い、だったのでしょう?」
 るなが優しく微笑む。
「心配なら私も一緒に行きましょう」
 右手首にそっと触れつつ、優も悩める少女に微笑んだ。
「急いだ方がいいわね。あそこにいい物があります」
 紫が視線を飛ばしたのは噴水方面だった。
『周りを見ればかなり混沌とした状況と化しています。多数の能力者が限定された空間にいるのは、些か異常と申せます』
 噴水脇で、斑鳩・八雲がマイクを片手に喋っている。時折流れ弾が飛んでくる中、やり返さずに報道に徹する姿は記者の鑑だった。
『どうでしょう、解説の篠畑さ‥‥』
 向けたマイクを横からフィオナが奪い取る。
「すまない。急用です」
 一言断る優。フィオナが大きく息を吸う。
「ごめんなさい! 犯人は私なんです!」
 戦場に、少女の声が響いた。

 発端は、良くある誤操作だった。何がどうして、といった詳細は後世の歴史家に委ねるとして、今はただ起きた事実のみを語ろう。

 犯人の自首により、戦いの手は止まった。少女の涙ながらの告白に、しっ闘士も『可哀想じゃないか』『俺が慰めてやるよ』『あんな可愛い子が女の子のはずがない』等と追及を放棄する。治安さえ確保されれば巡回部隊は構わないし、元より愉快犯の吊るし隊もあえて戦闘継続の意思を見せようとはしなかった。時折林から銃声が聞こえるのは測定誤差と言えるだろう。

 ‥‥午後4時42分。戦いは終わった。しかし、これが最後のしっ闘士とは限らない。世にカップルと独り身がいる限り、いずれ第2、第3の戦いが起こる事を忘れてはならない。

「今回の事は全て犯人を釣るためだって言ったのに‥‥」
「公園は皆の場所ですから。片付けはしましょうね」
 紫に促され、しっ闘士全員、とらりおんまでメイド姿のまま清掃に駆り出されている。酒を片手に祝宴の予定だった吊るし隊も、そして公園の治安を主観的に守りぬいた巡回部隊も。戦い終われば、そこはノーサイドだ。
「この戦いを生き残った者・儚く散った者、心に留めて置こう」
 重々しい口調の割りに笑いをこらえつつ、高所から源次の声が風に乗って消える。
「全て愛ゆえに、か。この世情でも愛の為にここまでできる。これは素晴らしい事なんだろうな」
 源次と同じく高台から公園を見下ろし、カララクが呟いた。せめて後始末くらいは手伝うか、と言った彼の横で、拍手が響く。豪奢な衣装の青年がいつの間にか立っていた。
「確かに、愛とは素晴らしい。私も及ばずながら助力させてもらおう」
 カララクの言葉の何かが彼の美意識に触れたのだろう。後に、この騒ぎで起きた被害の一切合切を自称『謎の伯爵』が肩代わりしたという報告が美沙のオフィスにあがっていた。