タイトル:篠畑の不幸な日マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 26 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/10 21:47

●オープニング本文


 それは、不幸な偶然だった。数日前にショップに立ち寄った篠畑に、看板娘のロッタ嬢が何を思ったのか『くまのぬいぐるみ』をよこしたのが一つ目の不幸。二つ目は、処分に困ってそれを持ち歩いていた所を知り合いに見つかった事である。
「しかし、お前がぬいぐるみとはな。可愛らしい趣味の持ち主だったんだな」
 とりあえず、昼食を奢らされた。
「‥‥ほほう、男2人で何を見つめているかと思えば。ちょうどいい」
 そして、三つ目の不幸はあちらから歩いてきた。トレードマークは黒髪に白衣、眼鏡の奥の目は年中充血していると噂のヘビースモーカー。広報部の所属のはずなのに諜報畑の任務ばかり回されると言う不幸な女である。
「ちょうど良い、とは何がだ」
 つい、そう聞き返してしまったのが四つ目の、そして最後の不幸だった。

「我々広報部では、能力者の理解‥‥、有体に言えば、怖がるなという事だが。これを広めるべく様々な活動を行っている。高校での講演依頼などもその一環だ」
 説明する女の脇で、篠畑は悄然と座っていた。机上においてある熊のぬいぐるみが『そう気を落とすなよ』という視線で見つめているようにも見えるが、気のせいだろう。
「今回、諸君に依頼したいのは幼稚園での活動だ」
 4〜6歳からなるお子様達の園。選ばれたスキルか天稟を持たぬ限り、足を踏み入れた部外者は概ね疲労困憊して立ち去る事になる、そんな場所だ。少なくとも、篠畑にそのような素質はあるはずも無かった。
「先方からの希望では人形劇をやってくれ、という事でな。困っていたのだが」
 満面の笑みを浮かべて、女は篠畑を見下ろす。
「聞けば、ULTのショップでは君達にぬいぐるみを配っているそうじゃないか。受け取ったが最後、売るに売れず、でも使い道は無い、そんな悩みはないかね?」
 などと言いながら女の視線はぐったりした篠畑にまっすぐ向いていた。
「というわけで、いつか使われるべき日を待っていたであろう諸君のぬいぐるみを、是非この任務で活用して欲しい。私からの説明は以上だ」
 女は着席した。3秒してから篠畑がノロノロと起立する。どうやら机の下で蹴られたらしい。
「‥‥篠畑だ。何かそう言うことらしい。気は進まないだろうが、頑張ろう」
 それだけ言って着席しかかった篠畑が、再び起立する。また蹴られたのだろう。
「あー、そうそう。幼稚園の園児の一部から、リクエストが来ているそうだ。人形劇にそれを取り入れれば喜ばれるだろうが、時間は一本分しかない。無理の無い範囲でシナリオを組んでくれ」
 今度こそ座った篠畑を、くまのぬいぐるみだけが暖かく見つめていた。多分気のせいだが。

 園児の希望
  さいごは、おひめさまがおうじとくっついてめでたしめでたし。K子(4)
  ロボがかっこよくたたかうのがいいぜ。T太(6)
  さんかくかんけいがどきどきするわ。R香(5)
  能力者の人がする人形げきな訳ですから、映ぞうや音きょう効果にこって欲しいですね。M夫(5)
  こわいのは‥‥、いやなの。ないちゃうから。S美(5)

 園の希望
  子供達に夢を与えるようなお話がいいですね。
  下品な物や‥‥、園児達に見せられないような物はダメですよ。

「‥‥」
 生暖かい沈黙があたりに漂った。
「ええと、参考までに配給のぬいぐるみって何があるんだ?」
 篠畑の質問に、女が手元の資料をチラリと見る。そこに並ぶのは、ロボ、ロボ、ロボ‥‥、そして動物。サイズからして、1.5mから20cmまで随分と差がある。
「これで‥‥、おひめさま?」
「それはそれでありだろう。役柄でそれっぽい名前でも付けてやればいい。ロボ同士が喋るアニメとかだってあるだろう」
 女は、強気だった。
「というか、1m超えるサイズの人形劇ってつらくないか?」
「舞台は幅7mほどの‥‥、名前が分からないが紙芝居のみたいな枠がある。それでサイズが足りなければ自作しろ。背後の書割も、木だとか街だとか、普通にありそうなものは現地にあるらしいぞ。サイズについては、2人で1体をうごかすもよし。能力者の体力とバランス感覚を信じるんだな」
 女は、あくまでも強気だった。篠畑はため息をつきつつ、降伏を示すように両手を上げる。
「わかった。了解だ。‥‥仕事ならしょうがない」
 こうして、子供たちに夢と希望を与えるべく、戦いは始まった。

●参加者一覧

/ 鏑木 硯(ga0280) / 幡多野 克(ga0444) / セシリア・D・篠畑(ga0475) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / ロジー・ビィ(ga1031) / 翠の肥満(ga2348) / 天・明星(ga2984) / 西村・千佳(ga4714) / 這い寄る秩序(ga4737) / 鈴葉・シロウ(ga4772) / キザイア・メイスン(ga4939) / 阿野次 のもじ(ga5480) / 鐘依 透(ga6282) / シャレム・グラン(ga6298) / 草壁 賢之(ga7033) / 水流 薫(ga8626) / 霧雨仙人(ga8696) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 緋月(ga8755) / 来栖 祐輝(ga8839) / 白虎(ga9191) / くれあ(ga9206) / 天狼 スザク(ga9707) / 陽ノ森龍(gb0131) / 白野威 奏良(gb0480) / ライセンシー(gb0483

●リプレイ本文

●承前

 その日、幼稚園はちょっとした騒動だった。見たことの無い人たちが大勢訪れる事など滅多に無い。窓に鈴なりの園児達に手など振りながら、老若男女取り揃えた傭兵達は子供達の園へと足を踏み入れた。
「あらあら、結構な大人数だったのねぇ」
 動じない園長先生は、遊戯室を能力者の控え室として解放してくれる。傭兵達は早速準備に取り掛かった。ぬいぐるみを隠すように抱えた篠畑は、目立たぬようにという努力もむなしく早速知り合いにからかわれている。
「‥‥とても、お似合いですね」
 いつもより心持ち長い凝視の後、いつも通りの平板な口調で言うセシリア・ディールス(ga0475)。最初は普通に労いの言葉をかけていたケイ・リヒャルト(ga0598)の視線もちらちらと熊へ向く。
「ところで少尉、そう言う趣味が?」
 結局、聞かれた。同行の鐘依 透(ga6282)がそんな篠畑を気遣うようにそっと何かを差し出す。
「葉の売れん四葉奉仕協会より、武運、幸運、幸せを祈っています」
「しゅ、宗教には興味ないぞ!?」
 苦笑しつつも、四葉のクローバーを受け取る篠畑。
「初めまして、少尉。折角ですもの、やるからには楽しみましょう」
 やる前から楽しそうなロジー・ビィ(ga1031)の言葉に、篠畑は苦笑を返した。
「ここだけの話なんですがね」
 実は、他の仲間の頑張った成果を把握し切れていないんですよ、と台本を眺めながら翠の肥満(ga2348)が言う。
「俺も何したらいいのか、実は分かってない」
 そう答える篠畑に、鏑木 硯(ga0280)が横から声をかけた。空いている役が一つある、と。
「ちょ、これって最初から最後まで出てる役じゃ‥‥」
「はいはい、これも任務です。子供たちの笑顔のために頑張りましょう」
 礼儀正しくも、硯は篠畑に四の五の言わせる隙は与えなかった。
「隊長だから、分かりやすいようにこの帽子をつけてね」
 有無を言わさず、くれあ(ga9206)がコサック帽を篠畑にかぶせていく。
「ま、まぁ、そんなどんよりせずに‥‥」
 途方にくれる篠畑に、草壁 賢之(ga7033)が思わず声をかけた。自分の口癖の『勘弁してくれ』のお株を奪いそうな様子に興味を引かれたらしい。
「お、おう。だが一体何していいのか分からんぞ」
 うー、とか言いながら頭を抱える篠畑。これは重症だ。
「バグア相手にするよりは、よっぽど楽しくてやりがいのある仕事だと思いますよッ」
 そう言ってから、賢之は隅に置いてあった古いエレクトーンの前に座る。久しぶりだから練習しようと言う彼に、ギターを抱いたライセンシー(gb0483)が頷いた。ちょうどその時、こっそり覗きに来ていた園児の目が、黒を基調にしたセクシーな衣装の彼女とあう。ライセンシーがにっこり微笑むと、園児は驚いたように駆け去った。『黒い魔女がいた!』という声が向こうから聞こえてくる。
「魔女、に見えるかしら」
 微笑する様子も色っぽい彼女に、賢之はノーコメントのまま鍵盤へ向かった。

 一方、幾人かの役者達も本番を控えて練習にいそしんでいた。『オレらしく、かつベタな台詞で分かりやすく』と張り切っているのは、陽ノ森龍(gb0131)だ。役どころは三下悪役なのだが。その横では、天狼 スザク(ga9707)もイメージトレーニングに余念が無い。
「少しひねくれている子供たちに、本当の人形劇を教えてあげましょう」
 人形を慣れた手つきで操りながら、スザクは優しい笑みを浮かべていた。過ぎし昔、病気の妹を相手に人形劇をしていた事を思い出しているのだろうか。
「お前が、魔王だな!」
「そうだ、私が。いや、ここはもう少しビブラートを加えて。そぅだ、ぅわたしが、あぁくの魔王ぅ、だ」
 主役の白虎(ga9191)と共に発声練習に余念のない魔王役の這い寄る秩序(ga4737)。白虎は、準備や差配も大車輪で頑張りながらの大役だ。
「‥‥にしても白虎くん、10歳とは思えない活躍だにゃー」
 全くだよなあ、と他人事のように呟く篠畑。彼をチラッと見上げてから、西村・千佳(ga4714)はその背を勢い良く叩く。
「篠畑のお兄ちゃんも負けないように頑張らないとダメにゃ!」
 ばしーん、と彼の背がいい音を立てた。思わずよろけた所で、キザイア・メイスン(ga4939)にぶつかりかける。
「きゃっ」
「う、すまん」
 そんなきっかけで言葉を交わしてみれば、篠畑を気遣って飲み物を持って来てくれた所だったらしい。すぐに声をかけられなかったのは、かける言葉に困ったからだとか。
「そうか。白虎みたいな子供に働かせて、君みたいな子供に心配かけてちゃあ、人として色々駄目だな」
 ようやく、篠畑のエンジンにも火がついたようだ。

「はいはい、そこはあけてね。音楽班のスペースだから。工作はそっちで。暇な人は園児用の椅子持ってくるの手伝ってちょうだい」
 自身もぬいぐるみ改装の手を休めぬまま、シャレム・グラン(ga6298)が次々と指示を飛ばしていく。
「お、すまん。椅子運びなら俺も出来るな」
 目先の仕事が見つかった篠畑に、ハヤブサに針金を取り付け終えた幡多野 克(ga0444)が近づいた。
「童心に帰る‥‥。殺伐とした世界を、少しだけ忘れられる‥‥のかも。たまには、いい、ですよね」
 一心に準備にかかる仲間達を見る、克の目は優しい。篠畑がどんよりしていては、皆もどんよりしてしまう、だから元気を出して欲しい、と声をかけてから、克は音響セットに向かう。
「‥‥これで、最後」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)のカバンの中は、ぬいぐるみの宝庫だった。
「随分ぎょうさんもっとるなぁ。ん、おおきに」
 彼からぬいぐるみを借りる事になっていた白野威 奏良(gb0480)が軽く頭を下げる。小道具作成を買って出た彼女の手元には、ダンボールと銀紙で作られた武器がずらりと並んでいた。他の仲間達も、礼を言いながら自分の役の物を借り出していく。さすがにいくつも持っているだけあって、ユーリの所蔵品は同じ種類でも少しづつ特徴づけがされていた。
「わしはこの年老いた熊を借りていこうかの」
 白い毛の熊を手に、自身も白髪の霧雨仙人(ga8696)が好々爺然と笑う。

●開演〜第三幕

 定刻。保母さん達に連れられて、園児達が室内へ。知らない人が大勢いるのでみんな興味津々のようだ。
「うあ〜っ、ガキがいっぱいだあ!!」
 嬉しそうに言う子供好きの来栖 祐輝(ga8839)ならずとも、思わず笑顔がこぼれる光景だった。目が合うとササッと友達の後ろに隠れて照れ笑いをする様子も愛らしい。そんな中に、何故か阿野次 のもじ(ga5480)が違和感無く混ざっていた。
「わーい飴ちゃんだ。オネエさんありがとー」
 どうやら、遅刻して来たところを迷子と間違われて園側に保護されてしまったらしい。子供たちも喜んでいるし、いいじゃありませんか、と鷹揚な園長先生の言葉に、篠畑は胃の辺りを押さえていた。
「きょうは、きてくれてありがとうございます」
 代表の子がぴょこん、とお辞儀をしてから、園児達は室内の思い思いの場所に陣取る。子供の相手を兼ねて観客席側に座ったロジーの周りには、女の子が集まった。綺麗な銀髪に羨ましそうに触ったり、抱きついたりと微笑ましい光景だ。一方、元気そうなのもじの周囲には男の子が群れを成している。
「これはっ! まさかのライバル出現!?」
 目があった2人の手には、期せずして同じ得物が握られていた。ロジーがほややん、と首を傾げた瞬間、部屋の明かりが暗くなる。
『昔々ある所に、王子様とお姫様が‥‥』
 緋月(ga8755)の声と共に、城下町の背景の前にこねこが2体現われる。ロジーが自分の家から持ってきた薔薇が風景を彩り、草壁のエレクトーンが楽しげな旋律を奏でだした。
『僕はヒメ! とっても元気なお姫様。よろしくね!』
 千佳の操作するこねこは、頭にコサージュをつけていた。愛らしく舞台を歩きまわる姿に、子供たちが笑う。それを追いかけていたもう一匹のこねこが転んだ。
『あいたた』
『もう、カミュったらドジなんだから。王子様なんだからしっかりしないとだよ!』
 かけよったヒメがスカーフを結びなおす仕草。その瞬間、照明がサッと舞台端に移動する。そこにはいつの間にか、もう一体のこねこが現われていた。不吉な風切音を緋月とケイの呼笛が作り、ライセンシーのギターが緊迫したペースで鳴らされる。
『ヒメ。同じ王子のこのクレインよりも、何故あいつを好きなんだ』
 水流 薫(ga8626)の台詞に、舞台かぶりつきの女の子が嬉しそうな声をあげた。『フッ、だが。すぐに俺が‥‥』
 意味ありげな声と共に、音楽が更に恐ろしさを増し、克が録音していたドラム音声を流す。瞬間、物凄く偉そうにコーディネートされたいぬが立ち上がった。てんたくるすが彼を取り巻くように現われる。
『はじめましてお姫様。私は設定年齢19歳。蟹座のB型ッ! な、悪の魔王です』
 実際には、『はぁじめむぁして』という感じで巻き舌なのだが、読みにくいので省略。
『‥‥魔王は王子様とお姫様を騙すために、わざと礼儀正しく振舞っていたのです』
 あまりの素敵演技に、緋月のアナウンスが一瞬だけ遅れた。
『魔王、だと! この親衛隊がいる限り‥‥』
 現われたくまの人形はヒメや王子の数倍の巨体。中でも篠畑が操るベア隊長はコサック帽のお陰でいかにも強そうだ。が、現われた途端に照明役のセシリアのライトが黄色くベアを照らす。透の操作で、高分子レーザーの発射音がスピーカーから流れた。
『い、いきなり魔法とは‥‥』
 がくっと倒れ付すベア。大きいだけで役立たずな彼の様子に子供たちのため息が漏れる。
『無礼者! 何をしおる!』
『ウラウラウラウラー!』
 霧雨仙人の白熊を押しのけて進もうとした魔王の部下役のスザクが、残りのくま人形ともみ合いになった。魔王に隙を見て切りかかったくまは、その実力差をみせつけるように一蹴される。
『戦闘‥‥僕も参加しちゃダメかな』
 ドキドキしながら見守るヒメの後ろに、こっそりとクレインが近づいていた。
「ヒメ、危ない! 後ろですわー」
 園児と一緒に悲鳴を上げるロジー。クレインはカミュを突き飛ばし、ヒメを抱えて飛び上がる。
『って、あれ? ちょっ、何するのさー』
 うわあ、と眼を丸くした子供達の見守る中、ヒメが連れ去られて第一幕が終わった。ユーリの指揮で、舞台が急いで整えられる。次はお城の場面。王様の叱咤を受けた王子の旅立ちシーンだ。
『何だと? ヒメが攫われた?』
 ドスの聞いた声で言う鈴葉・シロウ(ga4772)は、生身のまま人形劇に参加していた。頭がふわもこ白熊に変わるビーストマンの彼は人形に混じってもおかしくない。平伏する小さなカミュ王子。その横に控える大きないぬの人形は、硯が操作する従者のアインだ。
『いいか。見敵必殺、見敵必殺だ。私の娘に手を出した事がどれだけ高くつくか。存分にレクチャーしてやれ!』
 クラシカルかつ荘厳なテーマに乗って吠える白熊。園児達には言葉の意味はよく分からないが、とにかく凄く怒られている事だけはわかるようだ。
「王子様、かわいそう」
 かけられた声に、シロウがちょっと気まずそうに立ちすくんだ。少し涙目も混じる抗議の視線が無数に毛皮に突き刺さる。
『べ、別にアイツの将来を想ってやってるわけじゃないんだからなっ』
 予定より少し早めの方針転換を図るシロウだが。
『王子、急いで旅立ちましょう!』
『うん。行こう、アイン』
 既に園児の声援は、勇ましく旅立つ2人に向いていた。舞台裏で皆の慰めを受けるシロウの脇で、セットが大急ぎで組みかえられる。3幕目は、道中でのバトルシーンだった。最後まで台本をチェックしていた翠の肥満と、妹の想い出を胸に舞台に上がるスザク、そして一際練習に余念の無かった龍達の晴れ舞台である。
『俺たちゃ魔王様の一番の子分だぜ! 俺たちを倒そうなんて甘い甘い、牛乳よりも甘い! 通れるもんなら通ってみやがれい!』
 威勢良く啖呵を切る翠の肥満が操るのは、ばいぱー。
『女の子ならともかく、男を通してあげるわけにはいかないぜ?』
 ちょっとカッコよく見栄を切る龍はすかいくらすぱー。
『私が相手アル!』
 今度も雑魚のスザクは何故か謎の中国人だった。
『此度こそはこのベアが‥‥って、また魔法!?』
 手際よく照明がベアを赤く照らし、克の録ってきた爆発音が退場を告げる。残るは身体は大きいが気弱なアインと王子の2人。巨大なKV3つに見下ろされ、王子達に為す術など無さそうだった。だがその瞬間、力強くも早いテンポの音楽が響く。
『王子よ。今こそ魔法のハリセンの力を使うのだ』
 舞台袖から、シロウが重々しく声を送り、カミュの首がキョロキョロと左右を見渡すように動いた。何かを期待させるように曲が盛り上がり、壇上を明るい光が照らす。
『王様! わかったよ‥‥。来い! ないちんげーる!』
 サッと掲げたハリセンはカミュ本人より巨大だ。広がったハリセンの影にカミュが隠れた瞬間、人形操作班の天・明星(ga2984)やくれあが手伝って、ないちんげーると入れ替わる。まぶしい光と、派手な効果音。そして。
「ロボだっ!」
 子供達のどよめきに、2人は舞台裏で顔を見合わせて笑いあった。
『ちっ。だがまだ3対1だぞ、王子様っ』
 わかりやすくピンチを告げる翠の肥満の言葉に、園児が拳を握り締める。そう、まだまだピンチなのだ。ロックに転じた曲調が、激しい戦闘の予感を盛り上げた。
『ホワチャァ!』
 怪鳥の如く飛び上がったスザクのてんたくるすがないちんげーるを蹴りかけた所を‥‥。
『雷光・一閃!』
『や‥‥やられたアル』
 稲妻の如き素早さで舞台に飛び込んだ新手が切り捨てる。女性を思わせるフォルムに魔改造されたでぃすたんの姿はちょっぴり可愛らしい。
『何者だ! 王子の仲間か!?』
『いや、姫の友達だ』
 龍の声に答えたのはちょっとハスキーな声。
『お、女!?』
 動揺する龍。凛々しい女騎士のイメージは、ばっちり園児達に刷り込まれたようだ。声をあてるのは、実は王様と2人1役のシロウだった。
『姫を救うため、助力する!』
 かっこいい女騎士にうっとりする子供に、舞台裏の様子は決して見せられない。
「おお、燃えるねっ! いけっ」
 のもじに釣られて、園児たちも声を絞る。
『たぁーっ!』
 ダンボールの剣が閃いた。魔王の手下はどんどん舞台袖へ追い詰められていく。
『つ、強いよ、あんたら‥‥きゅう』
 翠の肥満のばいぱーが倒れた頃、龍も女騎士リリィの剣に敗れていた。
『名前、は?』
『リリィだ』
『‥‥お前とはもっと違う出会い方をしたかったぜ‥‥ぐふっ』
 『悪者』が倒れた事に わぁ! と園児が喝采する。いい仕事したよな、と親指を立てあう彼らの死に様は眩しかった。

●休憩・1

 そこでトイレ休憩。短めのスパンで取ったのは正解だったらしい。思い出したように、トイレに向かう園児。声の上げすぎで喉の渇いた子には、キザイアが飲み物を配っている。傭兵達の寄付は、園児たちが思う存分飲んでも有り余るほどの量だった。

●第四幕〜第六幕

 休憩明けを告げるように、アップテンポなリズムをライセンシーが刻む。前のシーンから早い曲調が続いているが、あわせる賢之もまだまだ余裕たっぷりだ。
『よぅこそ、我が城へ』
 低いイイ声で言う魔王。両腕を振り上げ、周囲に控えるてんたくるすに演説をぶつ魔王の声を背景に、ヒメが観客へ手を振った。
『ぬいぐるみはぁ‥‥平等ではないっ!』
 一応、メインの会話を喰わないように、魔王はこれでも声量を抑えているらしい。彼に負けぬように、薫が腹の底から声を絞る。
『‥‥フッ。ヒメはカミュが助けに来ると思っているのですね』
 茶道で鍛えた姿勢の良さが、発声の助けとなっていた。ハッと振り向くヒメ。
『キミは! ‥‥誰だっけ?』
 クレインが立ち直るよりも早く、ヒメは明るく笑う。
『なんちゃって冗談だよ、冗談』
 囚われの身、そして背景で演説が響く中とは思えぬ和やかな会話。しかし、子供達の同情がクレインに集まった頃を狙って、2人は決裂する。
『姫、何故あんな駄目な奴を?! 俺はッ‥‥』
 つめよる薫も名演ならば、沈黙で感情を示した千佳も名演技。そして背景で絶好調な這い寄る秩序は怪演だった。
『まぁ良いです。もうすぐあいつとの決着も付きます』
 ザッ、という効果音と共に踵を返し、歩み去るクレイン。それと共に照明が落ち、ゲソタニア帝国を称えるシュプレヒコールが徐々にフェードアウトしていく。一世一代の演説をぶった這い寄る秩序は実に満足そうだった。

「急いで、城門はそこに」
 ユーリと祐輝が主体に、役者の面々も手伝いながらてきぱきと城門が組み立てられていく。あまり時間をかけると子供達の気が散ってしまう、と思ったユーリの指示だった。その間の園児たちの相手はロジーやのもじが務めている。一緒に遊んでいるだけのようにも見えるが、気にしては負けだ。
「これでどうだ、ですわ〜」
「む、ぬぬぬー!」
 アフロかつらをかぶったロジーが胸を張る辺りを見ると、園児達の判定ではのもじ側がやや劣勢らしい。

 短い幕間はあっという間に終わり、再び照明が舞台を照らす。
『王子達は、とうとう魔王の城にたどり着きました』
 緋月のナレーションと時を同じくして、一行が舞台に現われた。
『あ! 誰か‥‥いますよ』
 アインの説明台詞と共に、城門前に座り込んでいたR−01がゆっくりと立ち上がる。
『あんたが王子サマやな? ボクはここの門番。悪いけどここは通さへんで』
 この門番役は奏良だ。これまでの敵とは違う存在感を現すかのように、曲は重々しいクラシック調。右手に銃、左手に剣を構えた灰色の姿に、園児がゴクリと唾を飲む。
『王子、ここは私に任せて先に行きなさい』
 シャキン、と音響班特製の効果音つきで剣を抜くリリィ。何度も言うが声はシロウだ。
『そ、そうです。ここは僕たちにまかせて、王子は先に行ってください!』
 臆病だったアインも、その大きな身体で立ち向かう。
『よし、ここは俺も‥‥うぉっ!?』
 ベア隊長は今回もやられ役のようだった。
『ありがとう、みんな!』
 その隙に門を駆け抜ける王子。
『くっ、王子は行ってしもたが、中にはクレインがおる』
 R−01は王子の仲間達へと向き直る。
『門番には門番のポリシーいうモンがあるんや! ココは通さんでぇ!』
 銃と剣を交えつつ、奮闘する門番vsアインとリリィの凸凹コンビ。舞台裏では最後の仕上げにてんてこ舞いだった。
(そろそろええか?)
 舞台下で人形を操る奏良に、ユーリが頷く。
『うわぁ!』
 手にした剣を弾き飛ばされる門番。
『つ、強かった。あなたのような人が、何故?』
 大きく肩を上下させながら、アインが問う。だが、門番は小さく首を振ってその質問には答えない。
『中にはクラインだけやなく、魔王もおる。早く行ってやりぃ‥‥』
 ゆっくりと、登場人物が首を回して城の方を向く、その動きにあわせて照明がさっと場内へ移った。ライセンシーと賢之がノーコンタクトで転調する。今度の背景音楽は、激しい戦闘を予感させるようなロック調だった。
『クレイン! ヒメはどこ?』
 駆け込んできたカミュの問いに、クレインは言葉ではなく行動で返答した。抜刀、そして斬撃。
『俺の方が、お前よりも強い! なのに、何故お前ばかりっ!』
『う、うわっ』
 カミュは為す術も無く一歩、二歩と後退する。その間に、クレインはちょっと暗めなヒメへの想いと屈折した感情を吐露していった。
「うー、クレイン王子もかわいそう‥‥ですわ」
 しゅんとするロジー。周囲の女の子たちも縋るような目で舞台の成り行きを見つめている。
「でもっ! 戦い、乗り越えて前に進む! くぅー! 燃えるぅ!」
 一方、ピコッとハンマーを床に振り下ろしながら拳を握り締めるのもじ。彼女の周りの男の子達はバトルの行方に固唾を呑んでいた。
『‥‥クレイン。ごめん』
 音楽が、止まる。しーんとした静寂の中、クレインがゆっくりと剣を振るう。
『僕は、何も気がつかなかった。でも!』
 ガキィン、と硬質な効果音。そしてクレインの剣が初めて受け止められる。
『力で、欲しい物を奪っていくなんて間違ってるよ!』
 静けさの中、ピシリという効果音と共にクレインの剣が折れた。観客席から、はぁーっ、と息を吐く音がする。
『俺が、負け、た? 俺の方が優れている筈、なのに‥‥』
 がっくりと膝をつくクレインの肩に、カミュがそっと手を置いた。
『もう一度、一緒に行こう、クレイン』
『俺が間違ってた、ようだな‥‥。姫がお前を好きになった訳が今なら解かる気がするよ‥‥』
 二人の視線が正面から合ったその瞬間、音楽が、再び舞台に色を添える。変わらず速いテンポのそれは、和解の象徴と言うよりも、新たな戦いの予感に満ちていた。
『否、力ある者こそが全てを手に入れる。さぁ、舞台は整った。あがってくるがいい。キミは私が相手するに相応しい実力者だ』
 響く魔王の声。そして、クライマックスへの期待を盛り上げるように音楽が高鳴り、幕がサッと閉じた。

●休憩・2

 休憩時間も舞台前から動かない園児達に、保母さん達がトイレ休憩を思い出させる。
「ケイさん、どうぞ。最後のコーラス、頑張って下さい」
 ざわめきや雑兵役など目立たぬ所で声を使っていたケイを気遣うように、透が水を差し出す。
「ありがとう。‥‥バージョンアップした透の頑張り、期待してるわ!」
 微笑む彼女に、透は小さく頷いた。

●終幕

「さぁ、そろそろ始まりますよ? 席に戻ってください」
 ナレーションの緋月の声を聞いて、園児たちは慌てて戻ってくる。さぁ、あと少しだ。
『‥‥魔王! どこにいるんだ?』
『俺、この戦いが終わったら‥‥!?』
 何やら不穏な事を言いかけていた最後の雑魚、スザク操るピンクのハヤブサを秒殺し、カミュとクレインが舞台中央へ駆け寄る。
『ヒメ! 助けに来たよ!』
『王子様ありがと〜♪』
 腕をブンブンと振るヒメの元気そうな声に、観客がほっとする間を与えてから、音楽が低音でリズムを刻み始める。
『フフフ、よく来たな、カミュ王子』
 赤く照らされた壇上に魔王がゆっくりと立ち上がった。
『‥‥それに、クレイン』
 冷たい声と視線に、クレインは顔を背けずに立ち向かう。
『魔王! 貴方にも目を覚まして頂きたく相対しております!』
『‥‥私が間違っていると言うならば、それを証明してみせい。力で、なぁ』
 ゴゴゴゴゴ‥‥、と低い音が響いた。園児は身じろぎもせずに、次の瞬間を待つ。
『来たれ海神究極五神合体、テンタクルスドラゴン!』
 叫び声にあわせて、人形班のスザクとクレアが舞台に巨大なぬいぐるみを立ち上げた。よく見れば、それが五体のてんたくるすから出来ているのが辛うじてわかるかもしれない。満足げに舞台を見つめるシャレムの手になる、究極の魔改造だった。
『とうとう俺の安全装置を外しちまいやがったなァ!』
 力を全開にした魔王の姿に、子供たちが悲鳴をあげる。そんな時、緋月のナレーションが大きく響いた。
『‥‥最後の戦い。魔王の大きな力にくじけそうになりますが‥‥』
『がおー!』
 舞台裏では、明星が恥ずかしげに鳴き声をあてる様子に、クレアが口元を押さえる。カミュ王子の呼び声と共に、ないちんげーるがその姿を現した。
『みんな、僕に力を貸してくれ!!』
 声と同時に、刻み続けていたビートにテンポの速いロック調の旋律が加わる。
『‥‥王子は一人ではありません』
 ナレーションの声と共に、舞台端から傷ついた仲間達、それに門番までもが駆け寄ってくる。落ちていた瓦礫を投げつけるアインに、魔王がいらただしげに吠えた。その瞬間、門番が銃を撃ち、素早い動きでリリィが画面を舞う。
『数に頼ってんじゃねえ!』
 振り回した邪竜の爪は、駆け寄ったベアの剣が弾いていた。再び、優しい緋月の声が響く。
『ここには、多くの仲間が‥‥』
 さっと照明が隅に向かう。そこには、先ほどやられたスザクのハヤブサが落ちていた。そして、その脇に立つ小さなシルエット。
『‥‥そこっ、そのロボを僕によこしなさいっ!』
『うはぁ!』
 ゴスッ、という鈍い打撃音の後、ハヤブサは息を吹き返す。ピンクカラーは、この乗換えを想定した克の改造だった。
『ふ、ふふふふふっ。ここなら僕を止める人は誰もいないね!』
『ええ! ヒメ!?』
 驚くカミュ王子の声と、園児たちの笑い声。ぬおぉ、と呻きを上げる魔王。ナレーションがそれを包むように繰り返される。
『‥‥そう、仲間達がいるのです』
 ザザッ! と斬りつけたクレインに魔王が目を奪われた瞬間、その影からカミュが飛び出してくる。
『これで、良いんだ』
 クレインの呟きの後、カミュ王子の必殺の一撃が放たれた。
『たぁー! 北斗、むそうてんせーいざーん!』
 爆発音。魔王の龍は、そのまま一歩前へ足を進めてから地響きを立てて倒れこんだ。今度こそ、園児たちから歓声があがる。
『僕は何も出来ないけど‥‥僕には支えてくれる皆がいるんだ。だから』
 カミュがそっと手を差し伸べた。ゆっくりした調子に変わっていた音楽にあわせて、優しいソロのハミングが流れ出す。それはすぐに透き通るような声に変わった。ケイのリードに合わせて、傭兵達もコーラスに参加する。子供達の見守る中、倒れていた人形達も起き上がり、一緒に歌いだした。魔王も、王子も、ヒメも。舞台裏からは一際澄んだ声が別パートを入れる。緋月の最後のナレーションが、そっと囁くように物語の終わりを告げていった。

『魔王は自分の過ちに気づき、王子と共に手を取り合いました。こうして、この国に再び平和が訪れたのです』

 お城に戻った一行+魔王が、シロウ扮する白熊王と一騒動繰り広げたりする無言の寸劇を挟みながら、コーラスは途切れることなく何度もメインフレーズを繰り返した。ロジーやのもじの誘いに乗って、園児たちも一緒に歌いだす。

 幕が降り、小さな手がつむぎだす拍手は、暫くの間やまなかった。

●カーテンコール?

「つ、疲れた‥‥」
 どさりと座り込む篠畑。
「少尉、お疲れ様。初めて少尉とご一緒出来て嬉しかったわ」
 微笑するケイの頬は、まだ歌の余韻が残るかのように上気していた。
「いや。いい声を聞かせてもらった」
「‥‥どうぞ‥‥」
 セシリアが差し出すコーヒーをありがたく頂いた所で、透の物言いたげな視線に気付く。
「おう、透もありがとうな」
「お疲れ様、です。‥‥肩揉み、しましょうか?」
 普段よりも行動的な雰囲気の透は、口に出すよりも早く篠畑の後ろに回りこんでいた。
「いや、大丈‥‥」
 苦笑しかけた所で、セシリアが視界に割り込む。常の如く表情は無いが、やや上目遣いの目付きは獲物を狙う猫に似ていた。
「‥‥じゃあ、頭撫で撫で、で」
「ですね」
 本人の意図を置き去りに、頷きあうハンターの息はばっちりだ。思わず動きが止まった篠畑の側面から、白い影が襲い掛かったのはその瞬間だった。
「ぬおっ!?」
 腐っても能力者、不意打ちを辛うじて腕で受ける。

 ぴこっ☆

「さすがはベア隊長、見事なパリィですわ」
 コロコロと無邪気なロジーの笑顔がそこにあった。
「‥‥ぴこはん、お似合いです」
「ありがとうございますわ〜」
 セシリアの声に、笑顔を更に深くするロジー。アフロはまだ装備中。
「ロジー、そのとんちきな格好は‥‥何?」
 ケイの突っ込みもなんのその。
「セシリアも如何です?」
 危険な会話を耳に、篠畑はそそくさと戦略的撤退を敢行する。その姿から、賢之は同類の匂いを更に深く感じていた。
「仕事も終わった事じゃし、ここで一杯どうかのう?」
「ちょ、酒は駄目だろう、酒は!?」
 霧雨仙人の誘惑をカットしてから、龍は1つ咳払いする。仕事中が終われば自由奔放なのは彼も同じだった。
「保母さんって、素敵な仕事だよな。いや、素敵なのはキミ‥‥っ!?」
「悪者の癖に、せんせに近づくなー!」
 龍の脛に園児がタックルをかます。笑いながら、やんちゃ園児の相手に向かう龍の好感度は低く無さそうだった。
「よし、俺も悪者や。かかってきてええで?」
 ニッと笑った奏良に、男の子たちが喜んで掛かっていく。何故かピコハンの女の子が混じっている気もするが。手の空いた面々もそれぞれ子供達の面倒を見ていた。喉が渇いたと言う園児に、明星の持ってきた牛乳を祐輝が渡している。そして、その様子を満足げに眺める翠の肥満。
「ありがとうございます。ホッとしますね」
 疲れた保母さんにはコーヒーや紅茶。キザイアが振舞う高級コーヒーに、園長先生も笑顔で礼を言った。
「王子様の人だー!」「ヒメも!」
 カミュ役の白虎、クレイン役の薫、それにヒメ役の千佳はもみくちゃにされている。リリィ役を探す子供には、熊王ことシロウが優しい目で「彼女は君達の心の中にいるんだよ」と語り、怖がられて泣かれていた。普段は子供を魅了してやまぬふわもこ毛皮も、ひとたび怖いと刷り込まれたら効果が無いらしい。
「このこねこ、誰か欲しい人‥‥って言うと喧嘩になりそうだなぁ。みんなで大事にしてくれ」
 白虎から返されたぬいぐるみを、賢之は園長先生に手渡す。
「そうだな、誰もいらんかもしれないが、俺のベア隊長も貰ってやってくれ」
 役名で言う辺り、篠畑も結構気に入っていたらしい。
「ハイハイ、片付けまですませてお仕事完了なんだからね?」
 シャレムの仕切りで、舞台の解体も急ピッチで進んでいく。魔改造された人形も元の愛らしい姿を取り戻していた。そんな裏方に、駆け寄ってくる子供がいる。
「きょうは、たのしいげきをありがとうございました!」「ました!」
 今度は音響班へと走る背を見ながら、彼女は小さく笑う。裏方に徹した彼女も、他の参加者も。この上ない成功の感触を肌で感じていた。