タイトル:潜む水蛇マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/31 01:29

●オープニング本文


「ラ〜ラララ〜」
 慣れた様子で磯釣りの道具を肩にかけたまま、男は酔いに任せて気分よく歩く。いつもの釣り場につく頃には、酔いも抜けてちょうどいい按配のはずだった。道中、右に左にふらつきながらも海に転がり落ちたりはしないのは、釣り人の本能ゆえだろうか。そんな彼が、赤ら顔に怪訝そうな表情を浮かべてふと足を止めた。
「なんだ? 何か‥‥」
 海の中で、赤く光った物がある。2つだ。もっと良く見ようと男が身を乗り出したところで、赤い光は海を割って飛び出してきた。
 
「キメラを退治して欲しい」
 簡潔極まりない依頼文と共に掲示されたのは、電送を経たであろう目の荒い一枚の写真だった。キメラによる被害者だと添え書きがあるが、遺体に残る大きな牙の跡を見れば、それ以外の死因は考えられなかった。被害者はコルシカ付近の小さな漁村に住む、釣りが趣味の中年男性。送信者はその村の駐在らしい。
「情報が不足してはいるのだが、この写真から類推される事を説明しておこう」
 分析業務に携わっている係官が、どこか講義口調でそう言った。キメラは大型に類する物で水棲生物を模した形状だ。遺体の状態と、海へ戻って行くかのようにつけられた蛇行の跡からしておそらくは大きな海蛇型であり、体長は3〜5mほどと推定される。また、現場写真に見える体液の跡からして、傷を負っているのだろう、と係官は自信ありげに付け足した。バグアと人類が対峙する地中海では、恒常的にどこかで交戦報告がなされている。そのいずれかで撃ち漏らした敵かもしれない。
「写真の送付から半日ほどだが、その間に新たな被害報告がないと言う事は、どこかに身を潜めて機を窺っていると思われる。敵の形状からして、潜伏場所は海岸線のどこかだろう」
 キメラの回復力を考えるに、傷はもう全快していてもおかしくはない。キメラが活動し始める前に潜伏場所を探し出し、敵を廃除する事が今回の任務となる。
「現場周辺の比較的新しい地図は用意しておいた。参考にしてくれ」
 村の物らしい観光案内によれば、報告をしてきた漁村は木造桟橋がある程度の小さな港を備えている。その東には見通しの良い浜が続いており、普段は網を干したり、時には修理のために漁船を引き上げたりする事があるらしい。西側には南へ突き出すように小さな岬があり、その辺りの海岸線は3mほどの低い岸壁になっている。風のせいもあって内海の割には波が荒く、磯釣りには良い場所だが防水はしっかりしないといけないらしい。現地に到着するのは夕刻、おそらくは干潮の時刻だろうから岩場が露出しているだろう。
「まぁ、運に頼るような任務ではないが‥‥、グッドラック」
 表情を変えぬまま、係官はそう告げてから踵を返した。

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
エリク=ユスト=エンク(ga1072
22歳・♂・SN
的場・彩音(ga1084
23歳・♀・SN
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
NAMELESS(ga3204
18歳・♂・FT
ジェレミー・菊地(ga6029
27歳・♂・GP
飛鳥井 忍(ga6273
20歳・♂・FT

●リプレイ本文

●用意は周到に
 事前に言われていた通り、一同が現地に着いたのは日がやや傾きかけた時刻だった。早速、潜伏しているキメラを探す為に彼らは行動を開始する。時間の余裕がどれくらいあるかはわからないが、敵との戦闘を考えれば戦力を分散しすぎるのもまずい。彼らが採ったのは、四名づつ二手に分かれる作戦だった。
「実戦は初めてです。何か気付いたことがあったら教えて下さい」
 生真面目に言う飛鳥井 忍(ga6273)へ、体をほぐしていた伊河 凛(ga3175)が視線を向ける。港と浜を探索する四名の中で、凛がもっとも経験を積んでいた。
「そうだな。まずは作戦の確認からだ。それとストレッチはしておいた方がいい」
 時刻は夕方。戻ってくる漁船もあるだろうし、磯釣りには良い時間とあって今から釣りに出ようと言う一般人もいるだろう。キメラ探しと並び、彼らへの警告も重要な役目だった。
「釣り人相手の宿があったから、防水コートを借りてきたわ」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が右手に抱えていたのは、その言葉どおり人数分の簡単なコートだった。逆の手に持っていたのは棒と布などを組み合わせた奇怪な物体である。岬班へ向かったNAMELESS(ga3204)とケイが用意した、囮用のカカシだった。キメラが実際の海蛇と同様の生態ならば熱に反応するかもしれない、ということでカイロも仕込まれている。
「この作戦、成功すればいいんだけど‥‥」
 思わず漏れた的場・彩音(ga1084)の声は深刻だ。もしも囮が通用しなければ、最悪の場合彼らの誰かがその役目を果たさなければならないのだ。
「さて、急いで行くわよ。敵を見つけたら知らせて」
 本部より二台だけ貸し出されたトランシーバーはケイが手にしている。それ以外のメンバーは近くなら呼笛、離れていたら信号弾で連絡役の彼女に知らせる手はずになっていた。
「とにかく、見つけ次第すぐに報せるようにする。だがまずは一般人の誘導からだな」
 凛の言葉に皆が頷く。それが東側の行動開始の合図だった。

「けけけけけー! こいつは最高の出来だぜ!」
 岬へと続く海岸べりを歩く四名の中から、NAMELESSの陽気な声が響く。彼の手になるのはケイが持っていたのと同じような即席カカシだった。少し派手めに見えるのは製作者の性格の差だろう。
「海蛇の形をしたキメラ、か。形が似ているからといってそれ以外も似ているとは限らないが、‥‥期待するのはタダだよな!」
 海岸と岸壁の間に『通行禁止』の立て看板を設置しながら、ジェレミー・菊地(ga6029)が言う。彼が気にしているのはカイロ付きカカシの有用性ではなく、海蛇キメラが食用になるかどうかだった。それを知ってか、ジェレミーを手伝うエリク=ユスト=エンク(ga1072)の口元が僅かに綻ぶ。
「そういえばエリクさん、寒くないか?」
 ジェレミーの問いに、エリクは無言で頷いた。目隠しで視線を隠した彼の表情は読みにくいが、別段寒くはないらしい。冬の海に濡れる可能性も高い任務とあって厚着が多い面々の中で、ランニングにスパッツのエリクの姿は異彩を放っていた。
「ありゃあ、ご苦労さん。駐在さんに頼まれたのかね?」
 ちょうど通りがかった地元の人に、岬側へ回るグループで紅一点のセシリア・ディールス(ga0475)が応対する。どうやら、釣り人の死がキメラによるものだという事は周知されていなかったようだ。
「キメラだって? 酔っ払いのマリオさんの事だ、海に落ちて死んじまったんだとばかり思ってたよ!」
 セシリアが状況を尋ねると、彼は不安そうながらも聞いていないことまでペラペラと語りだした。女性には親切に、という言葉が血管の中に流れているのだろう。彼の話によれば、マリオという名前の釣り人は、彼らが喋っている場所から、少し岬へ向かったあたりで見つかったらしい。
「やはり岬か。そうだと思ったぜ」
 状況から、犠牲者は岬へ磯釣りに出る途中でキメラに遭遇したのだろうと予想していたジェレミーが、我が意を得たというように破顔する。
「ってことは、こっちが当たりってことだなー?」
 NAMELESSが嬉しそうにカカシを肩に担ぎなおした。その勇姿にやや不安さを増した様子の男が、セシリアに向き直る。
「御嬢ちゃんみたいな可愛い子も、キメラ退治なんてするのかね? 大丈夫かい?」
 その問いに、セシリアは表情を変えずにゆっくりと頷いた。

●戦闘開始!
「皆、ここにキメラが出没するかもしれないわ! 命が惜しかったらさっさと逃げなさい!」
 彩音の大きな声に、今しも海から戻ってきた人たちは、慌てて収獲の整理を取りやめた。不安げな彼らに凛が目撃情報を求めたが、死人が出た事は聞いているものの、キメラ事件だとは聞いていなかったと言う。今日も早朝から漁に出ていて詳しい事は知らないのだと彼らは言う。
「駐在さんに聞いてくれればええ。あの人がそう言う事はやっとる。それより村は大丈夫かのう?」
 そう言う老漁民に、ケイが笑顔を向ける。
「何とかしてみせるわ。だから、海から離れて待っていて」
 彼女の言葉に安心したのか、さほど混乱もなく彼らは家へと帰っていった。
「駐在さんですか‥‥。今からでも話を聞きに行った方がいいですね?」
 忍が小首を傾げる。だが、今から村の中へ戻って聞きにいけば、何かあったときに戻りが遅れてしまうかもしれない。戦力的には、自分が行くのが良いだろう、と言いかけた忍の肩をケイがポンと叩いた。
「その心配はいらなくなったみたい」
 彼女の手にはトランシーバー。セシリアの抑揚のない声が、岬グループが敵を発見したことを告げていた。

 ジェレミーの提案で、酔っ払いのマリオ氏が歩いていただろうあたりを一同は注意深く歩いていた。岬の先へと通じる、潮が引いたときにだけ現われる岩場を一歩づつ、ゆっくりと辿る。セシリアやNAMELESSは双眼鏡を片手に海中を覗き、ジェレミーは懐中電灯で暗くなりかけた足元を照らしていた。その時、弓を手にしたまま油断無く気配を探っていたエリクの動きがピタリと止まる。
「‥‥いた」
 呟くように告げた彼の視線の先を、残りの三名が辿った。大粒のルビーのような、しかし宝石が決して放つことの無い禍々しい輝きの赤い光がふたつ、岩場のすぐ隣の海中に現われる。閉じた目を開くまで簡単には気付かないほどの見事な擬態だったが、エリクの目がそれを上回ったようだった。距離は、やや近い。
「‥‥岬班、キメラを発見しました」
 トランシーバーへと囁くセシリアの声が、やけに大きく感じる。
「合流まで動かないでいてくれればいいが‥‥」
 ジェレミーの声が聞こえたかのようなタイミングで、海中のキメラが身じろぎした。どうやら、奇襲ができそうも無いと気付いたらしい。
「お出ましだぜー!」
 叫んで、カカシを放り投げるNAMELESS。躍り上がったキメラの牙が、それを一撃で粉砕した。巨体が岩場へ乗り上げた衝撃で岩が砕けて散る。ぬるぬるとしたその全長は5mほどになるだろうか。四人を前に怯んだ様子も見せないその側面を、素早く間合いを詰めたジェレミーが盾扇で打つ。
「気を引くくらいなら俺でも!」
「フィィィィッシュー!」
 そのジェレミーの逆側から、槍を携えたNAMELESSが突っ込んだ。表皮の柔らかそうな所を狙って突き立てているが、それでも痛撃とはいかないようだ。目隠しをずらし、目にも留まらぬ速さで矢をつがえたエリクの洋弓『アルファル』の一射も浅手にとどまった。反撃とばかりに海蛇が尾を振り回す。
「この、痛ェじゃないかー!」
 打ち据えられた先から冷気に体温が奪われていくのに気付き、NAMELESSが舌打ちして飛びのいた。
「‥‥ならば」
 セシリアの手にした機械が作動する。放たれた光が体の表面に吸い込まれると、海蛇の外皮のぬめりがやや色を失ったように見えた。

●戦い終わって日が暮れて
 時間にすれば僅かな遅れだったが、覚醒状態で全力疾走してきた港班の四人がたどり着いたとき、キメラは既に痛手を負っていた。突き立った矢と槍の傷跡からは青黒い体液がじくじくと流れ出ている。エリクが前衛に回ってダメージを分散したこと、それにセシリアの治療がなければもう少し分が悪かったかもしれないが、今の戦況はやや優勢だった。そこに新手が増えた決定機を、能力者達は見過ごすことはない。
「大分硬いぜ! 気をつけろ」
「ああ!」
 場所を譲ったジェレミーの声に返しざま、駆け込んできた凛が『月詠』を振るう。柔らかくなった表皮に一条の深い傷が刻まれた。「いけない、逃げようとしています」
 敵の逃走を注意していたセシリアの声が、敵の機先を制して響く。苦鳴をもらし、身を転じようとしたキメラの進路を忍が牽制した。
「逃がしはしません!」
 叫んだ忍へと怒りの目を向けたキメラの腹から、銃声と共に血飛沫が上がった。三つの弾痕のうち、一つは内臓まで達しているようだ。
「さっさとくたばりなさいよ、この海蛇! 気持ち悪いのよ!」
 まだ硝煙の漂うライフルを構えたまま、彩音が大喝する。彼女をにらみつけた真っ赤な目がひとつ、小銃の連射音と共に嫌な音を立てて潰れた。
「大人しく寝てなさい‥‥」
 スコーピオンを腰だめに撃ち放したケイの瞳は、蛇のものよりも更に赤い。怒り狂ったキメラも長い尾を振るい、能力者達に打撃を与える。しかし、その咆哮はもう弱々しいものになっていた。
「そろそろ終わりかー! けけけけけー!」
 NAMELESSが、彩音のあけた銃痕を狙って槍を送る。痛みに大口を開けたところを、近間からエリクの放った矢が正確に撃ち抜いた。それでもまだ倒れないキメラを、連携の取れた攻撃が追い詰める。動きが鈍った所へ繰り出された凛の強烈な連続攻撃が、しぶといキメラへの止めになった。

「せっかくだし、磯釣りに挑戦してみようかしら?」
 村に戻る道すがら、海を見ながら言う彩音に、港側を調べていた面々が村の宿で釣り具を貸してくれるだろうと教える。
「この時期だと、何が釣れるのかな? 村の人に聞いてみようっと」
 ワクワクした様子の彩音に、激戦の後の疲れは感じられない。彼女だけでなく、どうやらNAMELESSも興味がある様子だった。
「死んじまった奴の釣るはずだったもん、代わりに釣ってやるぜー」
 被害者の家に、魚を届けるつもりらしい。ただの自己満足だと称しているが、その本心はうかがい知れなかった。
「そういう事なら、手伝いますよ」
「夜釣りっていうのも悪くないかもな」
 仲間達の言葉に、NAMELESSがテンションの高い笑い声を返す。
「‥‥やはり、一口くらいは食べてみるべきだったか?」
 ジェレミーが呟いているのは、キメラの事だった。毒の攻撃はなかったとはいえ、あまりにも毒々しい色の体液からして体に良いものだとは思えない。だが、自称グルメとしては思うところがあるのだろう。
「嫌いじゃなければどうぞ? 暖まるわ」
 歩きながらケイが差し出したコーヒーに、無言のまま、セシリアとエリクが軽く礼を返した。似たようなリアクションでも、エリクの方は受け取ったコーヒーの温かさに少しばかり笑みを浮かべている。
「俺ももらえるかな?」
 これで甘いクッキーでもあれば、と思いつつ砂糖をたっぷりと注ぐ甘党の凛。
「こういう時は、一杯のコーヒーがなによりも美味しいですね」
 海際で戦った為にずぶぬれになった忍が、言葉どおりの表情でコーヒーを含む。用意していた服に着替えてはいたものの、一度水をかぶれば体の芯まで冷えてしまうのだ。まだ残る夕日の中、村の入り口には幾人もの人影が見える。どうやら、彼らを心配して待っていたらしい。
「おお、無事だったか! よかったなぁ。よかった」
 手を振る村人達へと思い思いのリアクションを返す能力者達。名も無く小さなこの漁村の平穏は、彼らの手で守られたのだ。