タイトル:初めてのキメラ退治マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/24 00:37

●オープニング本文


「ああ、来たか。今回もキメラ退治を頼みたい」
 キメラ情報の分析官は、いつもの如く愛想なしだった。いつもと違ったのは、その横にUPCの軍人らしい青年がいたことだ。
「コイツが、今回の同行者だ。詳しい事情は彼が話すだろう」
 周囲からの視線に気付いたのか、分析官はそう言葉をついでから青年へと顔を向ける。
「ああ、俺は篠畑。篠畑健郎という。軍での階級は少尉だけど、まぁどうでもいいやな?」
 話すのは苦手なのか、落ち着かなく彼が語るところによれば向かって欲しい場所は日本。宮城県は仙台市だという。
「俺の、昔の隊長がそこにマイホームを構えててな。って言ってもこんなご時世だ。隊長だって右へ左へと飛び回ってて、家には小さな女の子1人しかいない」
 奥さんは早くに亡くなり、娘1人と父1人、の家庭だったと言う。そんな少女から、篠畑に連絡が入ったのが先週の事だった。
「家の近く、開発中のまま放置されてるでっかい分譲地に鎧武者が出るっていうんだ。わかるかな? じゃぱにーず、さむらい。えーと、よろい、ひたたれ」
 一生懸命身振りで説明するが、異国の出身も多い能力者達に正しいイメージを伝えるには、はなはだ表現力不足のようだった。見かねたのか、分析官が1枚の写真を卓上におく。そこには、暗がりでピントもあっていないのだが確かに1体の影が写っていた。五月人形のようなシルエットの中、目に当たる部分だけが赤く輝いている。足元にチラリと写るガードレールから縮尺を図ると、人形にみえる姿の身長は、実は4mほどにもなるようだ。それが、少女が送ってきたと言う写真だった。
「誰かの悪戯だろうと思ったんだけど、嫌な予感がしてさ。コイツの所に持ち込んだんだが‥‥」
「間違いない、人型のキメラだな」
 分析官が腕組みをしたままそう言うと、篠畑は困ったように頷いた。ニヤリと笑ってから手元の資料をめくり、分析官は現場の説明に入る。
「目撃された元分譲地は住宅街にほど近い場所だ。しかも、実はその少女から以外にも既に数件の報告があがってきている」
 斜面に段々のように刻まれた大型分譲地の跡地は、現在では雑草が生い茂って見る影もない。だが、開発中にひかれた道路が残っているため、近道として利用する住人もまれにいるのだという。目撃されたのも、そういった住人からのものだった。
「同種のキメラが、数ヶ月前に本州島へバグアが強襲上陸を企てた際に目撃されている。全滅させたと聞いていたが、逃げ延びたのがいたらしいな」
 分析官は淡々と言葉を続ける。敵は1体だが、元々KV相手に戦うためのキメラだ。決して侮れない、と分析官は言う。つまり、今回の依頼内容はその山で目撃されたキメラを排除することだ。
「‥‥まぁ、本来はそれだけだな」
 含むような分析官の言葉に、篠畑が鼻の頭をかく。話を詳しく聞くと、どうやら彼自身もキメラ退治に加わりたいと言うことのようだった。だが、KV戦の経験は数多い篠畑も、生身でキメラと殴りあった経験は皆無なのだと言う。
「こういうのを倒すのは能力者にしか出来ない、だろ? 俺、隊長には世話になってたから、返せるときに恩返ししておきたくってさ」
 照れくさそうに言うと、篠畑は今一度、鼻の頭に人差し指を当てた。どうやら、癖らしい。
「ああ、篠畑。キメラを無事に退治したら、その少女への報告もしておいてくれ」
 分析官の声に、篠畑は懐かしげに答える。
「そうだな。加奈ちゃんに最後に会ったのは、俺が隊長の下で飛んでた頃だから、‥‥4年前か。そうすると今年で高校卒業か?」
 何を土産にもって行けばいいだろう、などと考え込む篠畑を面白げに見てから、分析官は手にしたファイルを閉じる。
「余分な荷物がついて大変だろうが、よろしく頼む。色々と、アドバイスしてやってくれ」
 こんな鈍い奴でも昔からの腐れ縁だからな、と分析官は小さく笑った。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
如月(ga4636
20歳・♂・GP
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
クーヴィル・ラウド(ga6293
22歳・♂・SN
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN

●リプレイ本文

●少女への贈り物
「今回は面倒をかけるが、よろしく頼む」
 場所は仙台市内の某デパート前。篠畑健郎少尉の第一声は、謙虚だった。今回の任務の情報提供者である少女は、かつての篠畑の上官の娘だと言う。それもあってか、事件解決後の少女への報告までが任務に含まれていた。数年ぶりに会う少女へ、どのように会いに行くのが良いか。良いアイデアが浮かばなかった篠畑は、任務で同行する能力者達に知恵を拝借する事にしたのだ。
「色々考えたのだが、結局何も思い浮かばなかった。すまない」
 そんな悩める篠畑少尉にクーヴィル・ラウド(ga6293)が軽く頭を下げる。
「そうだよな、少年。女へのプレゼントとか聞かれても困るよなぁ。俺だってどう答えていいかわからんぜ」
 同類を見つけた気がしたのか、篠畑は嬉しそうにクーヴィルの肩を叩く。その隣では、比良坂 和泉(ga6549)がこくこくと首を縦に振っていた。女性関係に気の利いた助言など出来そうも無いと言う彼は、代わりに戦闘に対する準備を万端に練ってきたらしい。
「女の子なので‥‥季節に合った、スイーツ‥‥とか」
 幡多野 克(ga0444)がまず、最初に案を出した。篠畑が腕組みをしたまま頷く。
「いいねぇ、お菓子。ここの名産のずんだもちは旨いんだよな。まだちょっと季節には早いが」
「桜の‥‥和風ケーキ‥‥とか」
 考え考え言う克。実は克自身が食べたい物をチョイスしているだけだとは気づかず、篠畑は感心したように頷いた。
「お土産は某兵舎の女性陣から聞いたところ、実用性のあるもの、花の苗‥‥」
 続く如月(ga4636)の言葉に、篠畑はメモを取り出す。実用性のあるもの、花の苗、などと書いていく字は性格どおり太めだった。
「‥‥言いづらいんですがブランド品などの意見も出てきましたよ」
「ブランド。えーと、あの、横文字のアレか?」
 彼の脳内ではブランドのイメージとはその程度だったらしい。腐ってもUPCの士官殿だけに、金銭面ではそこまで苦しんでいないようだが、選ぶための知識は絶望的なまでに不足していた。
「腕時計とかどうでしょう? アクセサリーだと校則によっては禁止の所もあるでしょうが、時計ならいつも身につけてもらえそうですしね」
 3番手の綾野 断真(ga6621)はそう提案する。
「なんでしたら、裏になにかメッセージでも入れたらどうですか?」
「ほう、それはいいな。『青空』とか書いて貰うか。いや、『蒼穹』の方がかっこいいか?」
 微妙に勘違いした様子だが、篠畑は彼なりに前向きに検討している様子。
「そうね〜。高校卒業するのなら、おめでとうで花束は、どうかしら?」
「豪華過ぎない花束‥‥か、アレンジメントは、どう‥‥でしょう」
 神森 静(ga5165)とセシリア・ディールス(ga0475)の女性陣2名は花を推していた。
「花か?」
 花は食べれないし、世話しないとすぐ枯れるしなぁ、等と篠畑は呟く。
「女はね、突然花なんか、もらうと誰でも、うれしいものよ?」
 女心の分からぬ篠畑にクスリと笑いながら、静はそう付け足した。
「加奈ちゃんが女、ねぇ‥‥。確かに、もう18歳になるはずだから、いつまでも子供と思ってちゃ失礼か」
 そんな事を言う篠畑を、如月が横目で見る。彼はちょうど、話題になっている少女と同じ年齢だった。
「そういえば隊長さんの娘さんって美人なんですか? 美人だったら口説いてみようっと」
「オヤジが難物だぜ? っていうか、最後にあったときはこーんなだったから、今一ピンと来ないな」
 そう言って、篠畑は自分のおなか辺りに手を当てる。どうやら、4年前の加奈はだいぶ小柄だったようだ。
「私だと‥‥顔、見れるだけで嬉しい気がします‥‥」
 ポツリとセシリアが呟く。
「セシリアさん、加奈ちゃんっていう子と同じくらいよね? 実感篭ってるわね」
 静の言葉で皆の視線がサッと動いたのを感じて、セシリアは驚いたように瞬きした。
「‥‥こういう事は、分かりません‥‥」
 ほんの少しだけ頬を染めて、彼女は俯く。少し照れくさくなったのか、篠畑も鼻の頭など掻きつつ横を向いた。

 結局、篠畑は小さな花束と、シンプルな時計を土産に選んだようだ。時計の裏には、『大空』と刻むつもりらしい。
「あー、じゃあ買ってくる間、そこで何か食べててくれ」
 ちょっとは年長者らしい事もする気になったのか、財布から札を取り出して渡す篠畑。『桜ケーキフェア開催中』の看板が、能力者達‥‥、特に約1名を強く差し招いていた。

●作戦会議
 もう春だとはいえ、北国の夕刻は短い。その短い夕日が辺りを照らす中、能力者達はキメラがいると思われる分譲地跡への入り口に集まっていた。
「さて。じゃあいっちょやるか?」
 大剣を担いで笑う篠畑の肩を、如月がちょんちょんと突付く。振り返った篠畑を、仲間達全員が見詰めていた。
「篠畑さん、突撃だけは絶対にしないように。これはチーム戦。チームワークが大切なんですから」
 如月が真面目な顔で言う。セシリアも彼に同意するように頷いた。どうやら、空戦での篠畑の撃墜歴ゆえの忠告のようだ。
「作戦では、キメラの足を狙って転ばす事になっています。相手の移動力を奪うまでは牽制とか後衛のガードをお願いしたいのですが」
 断真の提案に、篠畑はやや困ったような顔で手元を見る。どうやら、距離を保って戦えるような武器を持っていなかったらしい。
「‥‥よければ、これを‥‥使って下さい‥‥」
 克が取り出したのは、長弓と矢だった。戦いたがりの篠畑の性格に配慮したのか、弾頭矢も1発用意してある。
「基礎訓練受けた時に触って以来だな。ありがたく借りるよ」
 真っ直ぐ撃てるかどうか心配だ、と真顔で悩む篠畑だが、克はさほど心配した様子はない。相手のサイズを考えれば、外す事はあまりないだろう、という彼の指摘に篠畑の不安も和らいだようだ。とはいえ、KVでは最前線で飛ぶ篠畑にしてみれば、危険の少ない場所で待つと言う立場に忸怩たる思いを感じてしまうのは致し方ない。
「無理して動く必要はない。君にできることを、最大限努力してくれ」
「そうよ? 無茶したら、人によっては、自業自得といわれる事もあると覚えておいた方がいいわ」
 そんな篠畑の内心の思いは顔に出ていたらしい。クーヴィルと静の忠告を聞いて、篠畑も心を決めたようだ。
「お‥‥、おう。分かった」
 借り物の弓矢を手に、篠畑はしっかりと頷く。作戦が決まったところで、敵の探索だ。といっても、問題のキメラはその巨体ゆえ、分譲地跡を歩けばすぐに見つかりそうだった。
「キメラの出現ポイント‥‥。比較的‥‥住宅地に近い‥‥?」
 周囲を見回しながら、克が呟く。確かに、眼下には人家が見えるし、分譲地内の道路も使われている形跡が見て取れた。
「娘さんも心細いでしょうし、被害が出る前に何とかしましょう」
 克と同じ事を考えていたのだろう、そう言う断真の手にも力が篭る。
「身長4メートルの鎧武者、ですか。 用心しないと‥‥」
 自分へと言い聞かせるような和泉の言葉に、仲間達も頷いた。
「鎧武者ね? 怪談なら、よくある話だけど、時期が早すぎるような」
 そんなことを呟いていた静の足が、ピタリと止まる。彼女の視線の先に、キメラの巨体が見えた。報告にあった深紅の眼光が兜の中から見えている。相手も、こちらに気付いたようだ。
「これがサムライ、ですか‥‥? 大きいです‥‥」
 日本、そしてサムライを楽しみにしていたと言うセシリアの声は、今回の敵を前にしてほんの少しだけ嬉しそうだった。そして、それとは別の意味で嬉しそうな声が後に続く。
「なるほど確かにでかい侍ですね。しかし、でかければ何とかなるというものではありませんよ?」
 見上げる如月の口元は、ややほころんでいた。それをキッと引き結び、両手のロエティシアを構える。
「今回の敵は元々KVを相手にする為のキメラだと聞く。相手にとって不足なし――だな」
 不敵に笑ったクーヴィルの眼光が闇色に転じる。その色は、瞬く間に肌、髪、全身へと広がった。戦闘、開始だ。

●最期のサムライ
 克と如月が、まず素早く敵の懐へと入る。キメラの鋭い斬撃が、先に立っていた克を迎え撃った。KVすら捕える素早い太刀筋は、克の手前で空を切る。回避した。止めていた息を吐く、その刹那。
「危ない!」
 後ろに詰めていた如月の声が克の耳朶を打った。その眼前を、振り下ろされたばかりの刀が薙ぎ上げられる。
「‥‥くっ」
 体重に勝る敵の一撃は重い。バランスを崩しかけた所へもう一太刀を送ろうとしたキメラへ、クーヴィルの鋭い矢が突き立った。一歩遅れて、断真のライフル弾もキメラの装甲に硬質な音を立てさせる。
「ぐるるるるろぉぉぉお」
 名状しがたい叫びは、怒りゆえかそれとも痛みゆえか。矢も銃弾も浅手で止まっている様子から見れば、前者だろう。予想通りに強靭な装甲を、セシリアが弱体化させる。
「いくら大きかろうが‥‥人型なら!!」
 裂帛の気合は、キメラの足下から響いた。克と如月、そして後衛陣が敵の気を引いている間に、和泉が滑り込んでいたのだ。振り上げたタバールを紅蓮の炎が包み、流れるような斬撃がキメラの膝裏を痛打する。だが、攻撃と同時に飛び退った和泉へと、キメラは倒れこみながらも体を捻り、押しつぶすようにその片腕をたたきつけた。
「ぐっ‥‥!」
 振り上げた斧が、巨大な腕と拮抗して火花を散らす。身長差にして2倍を越える敵の一撃を和泉は真っ向勝負で受け止めていた。さすがに、無傷とは行かない。和泉の袖口からも血が滴っている。
「‥‥やはり、思った通りか? 一撃は重いし、装甲も堅いようだな」
 覚醒前の朗らかな様子からは想像できないような冷たい声で、静が分析した。その言葉がまだ宙に漂う間に、彼女は手にした蛍火で装甲の隙間へと斬りつけている。キメラの注意が脇へと向いた瞬間、和泉は腕の下を潜り抜けた。支えを失ったキメラがとうとう倒れる。
「おお‥‥、やるなぁ」
 見事な連携ぶりに、思わず声をあげる篠畑。だが、まだキメラの余力は残っている。
「俺に出来る事、か」
 篠畑が手にした弓へと視線を落とした。その間にも、キメラとの戦いは進んでいく。
「させません‥‥よ」
 上体を片手で支えて起き上がりかけた所へ、克が突っ込んだ。突き入れた刃はキメラの腕の装甲の隙間を捉えている。引き抜いた後から、真っ赤な鮮血が噴き出してきた。よろよろと上体を起こしながら、キメラが怒りに燃えた視線を克に向ける、その時。
「‥‥お、あたった、か?」
 キメラの胸元で弾頭矢が破裂した。ダメージ自体は皆無だったが、敵の注意を散らす役には立ったようだ。チラリと篠畑を見て頷いてから、断真もキメラへと銃を向ける。狙い済ました1射は、キメラの装甲の柔らかい部分を貫いた。
「ぐるぉぉお」
 キメラが再び吠える。振り回す刃はいまだ速かったが、膝立ちのままでは威力が半減していた。素早く飛び回る克と、キメラと打ちあえる和泉の2人が主に敵の注意を引きつける間に、能力者達は急所を狙い、敵の体力をじわじわと削っていく。受けたダメージも少なくはないが、致命傷になる前にセシリアに治療されていた。
「前、出なくていいんですか?」
 攻撃の合間に断真が声をかけると、篠畑は矢を放った後の手で鼻の頭をこする。
「そうだな、ここで見ていた方が勉強にはなりそうだが‥‥、隊長や加奈ちゃんの為に1発くらい入れておきたくもあるなぁ」
 そう言って、篠畑は背負っていた大剣を抜き放った。もはや戦いの大勢は決している。
「行って来い。援護する」
 新たな矢をつがえるクーヴィルの声に、断真も頷いた。
「ありがとよ、クールボーイ」
 あまり格好の良くないウィンクを一つ残して、篠畑は前線へとかけていく。キメラが動きを止めたのは、そのしばらく後だった。

●戦いのあと
「人型‥‥、やはり戦いにくいわね。知っている人の姿の敵なんていうのは出ないように願いたいわ」
 動かなくなった敵を見ながら、静は艶っぽい笑みを浮かべる。その横で、如月はキメラの頭部を突付きまわしていた。どうやら、戦利品として兜を持って行きたいようだ。あの様子であれば、程なく頭部は切り離せるだろう。
「確かに、手ごわい相手だったな」
 クーヴィルは、今回の敵について思い返していた。作戦がうまくいった故に被害は少なかったが、正面から戦えば相応のダメージを受けていただろう。そんな事を考えつつ、篠畑へと一瞬だけ視線を向けたが、すぐに彼はキメラの死体へと注意を戻す。ちょうど、如月がキメラの兜をゲットしていた。
「うわぁ!?」
 ‥‥嫌な色の液体、肉や骨の中身つきで。
「いや、本当にありがとうな。今回のはいい勉強になったぜ」
 普段はフロントばかりだからなぁ、と笑う篠畑の背中をセシリアが軽くはたいている。
「折角お会いするのに‥‥心配、させては駄目です‥‥」
 どうやら、戦いの最中にドロがはねていたようだ。女性に世話を焼かれた経験など皆無なのだろう。困ったように立ちすくむ間に、微妙に篠畑の男前度は回復したようである。無論、無い袖は触れないのだが。
「さてと、それじゃあ皆で報告に行きましょうか?」
 和泉が言った所で、断真がその肩をつかんだ。
「いや、念のために私達は少し見回りをしておきましょう」
「え?」
「‥‥積もる話もあるでしょうし、ね」
 最初は怪訝そうな顔をした和泉だが、断真が小声で囁いた言葉に合点がいったようだ。
「あれ? お前らは行かないのか? お茶くらいは出してもらえると思うぜ?」
 などと言う篠畑の背を、セシリアが無言で押した。首を捻りながらも、篠畑は花束片手に素直に歩いていく。ややあって、一軒の家で立ち止まった篠畑がインターホンを押した。玄関に明かりがつき、篠畑よりも少しだけ背の低い影が現われる。それが、加奈という名の少女だろう。篠畑は、遠目で見てもわかるくらいに驚いていた。加奈と立ち話をしばしした後、鼻の頭を照れくさそうに掻きながら、篠畑は家へとあがっていく。

 後日、ラストホープ。
「よくやってくれた。‥‥あの鈍い男のお守りは疲れただろう」
 珍しく、仕事を終えた能力者をねぎらう依頼主の男。奴は本当に鈍いからな、と言うその口元は、ほんの少しだけ笑っていた。