タイトル:【RR】地中からの強襲 マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/03 01:11

●オープニング本文


 陸上戦艦。最大の大陸であるユーラシアでは、これまで複数確認されている。ギガワームと比して速度が遅く、展開力に難があるものの艦載戦力は同等、打撃力に関してはあるいは上回るやもしれない戦略兵器だ。
 ロシア方面で確認された陸上戦艦は、広範囲の通信妨害、アグリッパによる対空能力と多数の無人ヘルメットワームによる極めて強固な防空能力を特徴としていた。無人機とはいえ、喪失を恐れぬ連携は人類側エースにすら被弾、消耗を強いる。その対処にあたっている際に強力な対空ミサイルに狙われ、寒空に散った人類側機は少なくはなかった。
 UPCはこの難敵に対し、本星崩壊後に数度の降伏勧告を送ったが、返答はない。RR作戦決行に当たり、ロシア軍は正面から攻撃を行うことを決定した。空戦部隊が無人ヘルメットワームを陸上戦艦に近づきすぎないように引き付け、別働隊による爆撃を行い敵艦の能力を奪う第一段階。その後に強襲部隊を送り込み、KVによる白兵戦でとどめを刺すという作戦だ。多数のKVおよび支援部隊、爆撃部隊がその為に移動を開始しつつあった。

 その一方で、変わらぬ戦場もある。
「はぁー、とうとう反撃か」
 イワノフ少尉は感慨深げに、曇り空を見上げる。キーロフに配属されて3年。モスクワとは似ているようで違うこの地の冬にも随分慣れた。塹壕とトーチカからなる古臭い、しかしながら頼もしい塹壕線を守る任務にも。
「少尉は、戦争が終わったらどうするんです?」
 ペトロフスキー伍長が気安く尋ねる。3年前、イワノフにとっては初陣にあたる酷い作戦から共に生還した古参兵や下士官から、彼は人気があった。ラッキーボーイなどと呼ばれているらしい。
「戦争が終わった後、か‥‥」
 考え込むように言ったのは、イワノフではなく軍曹だった。彼の本名は無論、知っているのだがイワノフは今日まで彼を軍曹としか呼んでいない。他の軍曹は名字を付けて呼ぶのだが、彼だけは誰からもただの軍曹と呼ばれていた。よく判らないが、たぶん最先任の特権なのだろう。
「軍曹は、カザンの出身だったな。いい所なのかい?」
「‥‥ええ、宜しければ御招待いたしましょう。妹はいませんが」
 怪訝そうな顔をするイワノフに、軍曹と伍長は声を出さずに笑った。
「ならば、上映会も悪くないですな」
「‥‥上映会っていったい何の‥‥、え?」
 ますます困惑する青年士官の表情が、不意に引き締まった。二人の部下とほとんど同時に身を伏せる。遠くで、サイレンが鳴っていた。
「左翼に敵襲‥‥!? こんな戦線の奥にか」
 バグアとの主戦場は、既に南に移っている。ハッと耳を塹壕の壁にあてた伍長が舌打ちした。
「欧州戦線で見たアースクエイクって奴か!? クソ。どこから来やがった」
「そうか。ウランバートル基地にいた個体が流れてきたのかもしれない」
 伍長と少尉の会話を聞きつつ、軍曹は塹壕内を先導して走る。通信機から聞こえる状況は、芳しくない。
『敵はアースクエイク。クソ、第三小隊のトーチカが食われた!』
『‥‥こちら第二小隊、グリービン少尉だ。トーチカを下から潰した奴が、口の中からムカデみたいなキメラを吐き出している。せいぜい1m程の奴だが、素早い。塹壕を辿ってきている。このままでは持ち堪えられそうにない』
「こりゃあ、先遣か? タイミングを合わせて、別の敵が来るかもしれないな」
 ペトロフスキー伍長の声が合図だったかのように、西側に土煙が立った。
「僕たちは左翼へ援護に行く。第二分隊、第三分隊は西側に警戒。地中の敵にはトーチカは無力だ。外に出て目と耳で察知してくれ。相手が地上に出てくればこっちのものだ」
『ダー』
 短い返答。最大級ではないとはいえワームはワーム。地上に出てくればやれる、などというのが気休めだとは誰もが知っている。
「ま、大丈夫ですよ。キーロフへは連絡が行った筈ですし、あの連中がいますし」
 伍長の気休めが、今は頼もしい。イワノフは塹壕を駆けだした。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD

●リプレイ本文


 第三小隊のトーチカがあった場所に、巨大なミミズが屹立していた。障害を破壊する勢い余って突き出たのだろう。その巨大な口から外皮を伝って細い筋が多数、流れるように下ってくる。よく見ればムカデのような形状の生物と判った。
「‥‥うー、酷い目にあった」
 ぼそりと声が上がる。這い出てきた時枝・悠(ga8810)は、頭を軽く振って塵芥を振り落した。
「小隊長殿は戦死された。分隊は下士官の指揮で戦え」
 低いロシア人の声と銃声が響き、鋼 蒼志(ga0165)に世界が戻ってきた。一般人なら暫く耳が聞こえないだろう状況からも、エミタは素早く立ち直らせてくれるらしい。
「隊長、無事だった?」
「お互い、運はいいようで」
 皮肉げに口元を歪める蒼志に、肩をすくめる悠。二人ともありていに言えばボロボロだ。楽をしようと戦線後方の補助任務を受けたのにこれでは、運が良いとは思えない。そうぼやきつつ視線を向けた先では、アースクエイクの頭部がゆっくり下がりだしていた。
「地下に戻ろうと? フン、随分舐められたな」
 覚醒した蒼志が吐き捨て、仕方がないとばかりに悠が続いた。巨人やら亀やら、バグアの巨大兵器と生身で渡り合った経験はあるが、アースクエイクのサイズはそのいずれよりも大きい。

「クソッ。来るぞ、気を付け‥‥」
 言いかけた兵士へ、するすると這い寄ったキメラが飛び掛かる。しかし、横合いから飛び込んだ鏑木 硯(ga0280)が蛍火で切り伏せた。逆手のショットガンで別のキメラを粉砕し、背中越しに口を開く。
「皆さんは、下がって態勢を立て直してください。それまで俺たちが時間を稼ぎます」
「助かった、感謝する」
 腰の抜けた兵士へ、蹴り一発で喝を入れつつ、下士官が礼を言った。既に視界内に複数の新手が見えている。最初の一匹を回避しざまに切り捨て、足元から飛び上がってきた別のキメラの首を飛ばす。
「貴官に神のご加護を。‥‥後退する。ついてこい」
 下士官は迷いを見せずに動き出した。塹壕を出て迂回し、中央の第二、第一小隊へ合流する事を考えているようだ。後を追おうとしたキメラが邪魔をする硯に攻撃を仕掛け、ことごとく切り捨てられていく。


「何よあの馬鹿騒ぎ」
 空中待機中だった神楽 菖蒲(gb8448)は、突然告げられた警報にそう眉を顰めた。
「西方の防御線に2体のアースクエイクが現れた。KVによる支援が必要だ。待機中の傭兵は急ぎ離陸せよ」
 管制塔から、口頭の指示に加えて目標地点のデータなどがすぐに送られてくる。
「‥‥イワノフ少尉たちのいる場所ですね。私もお手伝いさせてください」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)が通信に割り込んだ。基地には別件で立ち寄っていたが、ちょうど補給を終えて飛び立つ所だったようだ。
「助かる。管制、2機で先行するわよ」
 菖蒲のレイナ・デ・ラ・グルージャが飛び立つと、すぐ後ろに霞澄のセラフィエル・ウイングがぴたりと続く。機動を見れば、霞澄の実力は理解できた。
「こっちも2機、あっちもそうらしい。片方任せる」
「はい」
 オリジナルカラーの白のアンジェリカと、空に溶け込むような青の幾何学迷彩のサイファーが、ブーストの航跡を引きながら飛ぶ。到着まで20秒、奇襲に対する応援の到着速度としては十分に早いが、現場の兵士にとっては永遠に感じられる長さだ。


(多いな‥‥)
 ぞろぞろと塹壕に沿って流れてくるキメラを見ながら、那月 ケイ(gc4469)はそう思う。もっとも凌げないとは思わなかった。これよりももっと苦しい戦場も、経験している。
「援護、よろしく頼みます」
 通信機を手にした年長の士官へそう告げ、ケイは地を蹴った。
「そこで止まれっ!」
 先頭のキメラ、そして続くキメラに猛烈な勢いで弾幕を張る。動きを阻害されたキメラの足が鈍り、兵の一斉射撃がそこを捉えた。リロードの間に抜けてこようとする敵をシールドで叩き落とす。数が、多い。
(長く続けば厳しいか)
 彼自身が厳しい、というよりは背後の兵士たちがだ。状況は楽観できなかった。


「ま、いつも通りといえばいつも通り、か」
 苦笑しながら、悠は紅炎を構えて塹壕の残骸の中を駆ける。瓦礫の上を駆ける蒼志が、アースクエイクへ石つぶてを放った。
「要領は、ゴルフみたいなもんですかね?」
 頭部に狙いあやまたずぶつかった瓦礫はダメージなどは無い。しかし、そこに込められた意思をアースクエイクは無視できなかった。小癪な攻撃を仕掛けた相手を認識、突起物を槍のように伸ばす。
「槍の扱いで、俺に‥‥うおっと」
 伸びた槍がそのまま薙ぎ払われ、蒼志は慌てて死の旋風を飛び越えた。
「潰す」
 瞬間、翡翠色の輝きが地を駆け抜け、蒼志とは別方向から巨体へ迫る。燃えるような刀身が瞬時に四筋の直線を描き、腹の底から響くような鳴き声が周囲を揺るがせた。黒い液体を返り血に浴びて、悠がサディスティックな笑みを一瞬、浮かべる。
「‥‥なんだ、そんな声も出せるのか」
 返事は、槍状の突起。二本が立て続けに伸び、引っ込んだ。飛びのきざまに、ついさっき刻んだ傷跡にオルタナティブMの弾丸を叩き込む。再び咆哮があがった。
「この辺は手ごたえがない気がするな‥‥」
 悠の見た所、吐き出しているキメラの数からして胴部はコンテナのようなものだ。急所は頭なのだろうとまで予測はしたのだが、とてもではないが届く位置ではない。
「‥‥隊長、ちょっと頭刺してきてくれない?」
「無理」
 アースクエイクの気が逸れた隙に、間合いを詰めた蒼志がドリルスピアを突き刺した。さすがに地上10m超の位置の頭部に飛び掛かるのは難しいが、場所に拘らなければ狙える場所にはことかかない。移動を阻害された巨体が、再び突起を振り回した。おまけに足元にはキメラもいるとあってややこしい。
「ま、そのうちKVも来てくれるだろう」
 来てくれないと困る、と呟いた時に、左翼側でトーチカが吹き飛ぶのが見えた。



 イワノフの指示を受けた第一小隊兵士のトーチカからの離脱は速やかだったが、アースクエイクは見た目よりも素早く地中を掘り進む。下手な車両よりも速いのだから、始末に負えない。
「急いで、でも纏まって離れやがれ、です」
 シーヴ・王(ga5638)が声を掛ける。武装した兵士が警告を受けてから10秒で動ける距離はそう大きくはない。それでも、トーチカが真下から吹き飛ばされた時に、崩れた壁の下敷きに成る程近くにいる兵はいなかった。
「でかけりゃ良いってもんじゃないのよ!」
 エネルギーガンを向けた狐月 銀子(gb2552)が毒づく。80mほど離れて振り返ってみれば、地上に太い筒状のミミズが突き出しているのが見えた。地上に出ているのはだいたい2階建の建造物くらいだろうか。白ばかりの雪景色の中に生えた異物だ。
「‥‥流石にサイズが違いすぎるわね‥‥」
 見上げれば、その表面を這い下るキメラ。人が駆けるよりも速いが、狙い撃つには手ごろな的だ。引き金を引くたびにアースクエイクの表面が弾け、キメラが落ちる。
「効いてない訳じゃない、みたいね」
 着弾に身をよじる巨体。バラバラと落下するキメラの中を縫って、シーヴが接近する。振り下ろした両手剣「ヴァルキリア」から飛んだ衝撃波が、地面に近い部位を抉った。どす黒い、血液かオイルかわからぬ液体が噴き出るのが見える。
「逃げやがるなです」
 そのまま踏み込むと同時に握りを替え、斜めに切り上げる。しかし、巨大ミミズは銀子にアウトレンジから急所を撃たれるのを嫌ったらしい。ズルズルと地中へ引き返し始めていた。その間もキメラを吐きだしつづけている。シーヴはそのまま追い打ちを掛けようと踏み込み、
「クッ」
 ミミズの表面から、槍のような突起が伸びた。紙一重で突き刺されるのを回避したが、ワンピースの布地が割ける音が聞こえる。罵りが口をつきかけたが、周囲を囲むキメラの群れを見て口を閉じた。カサカサと這いずるキメラの足音を圧して、頭上からKVのエンジン音が聞こえてくる。
「一網打尽にしてやるです」
 シーヴが構えなおした大剣を、気合を入れて振り下ろした。十字に広がった衝撃波が吐き出されたキメラの全て、とはいえないが半数程度を一瞬で粉砕した。


「銀子、騎兵隊しに来たわよ。ややこしい事になってるわね‥‥。一匹は地中?」
 即座に降下せず、状況を観察する菖蒲。第三小隊のトーチカを食い破ったワームは、20秒が過ぎたいまでもまだ地面に屹立している。大穴を残して地面に潜ったもう一匹の動きまでは、空中からは読み取れない。キメラは生き残った歩兵へ均等に向かっていたようだが、生身の傭兵達が良く食い止めているようだ。兵士たちはその間に再集結し、平地で陣形を固めつつあった。
「真打は遅れて登場、ってね。遅れた分任せるわよ?」
「OK、私が先に降りる。カバーをよろしく」
 銀子からの誘導を受け、味方兵士から距離を取って降下。予想外の対空兵器も、予想していたアースクエイクの迎撃もなく、グルージャは接地する。続いて霞澄機が高度を落とした。
「誘導をお願いします」
「了解。ミミズが食いついてくる危険は無いわよ」
 展開中の歩兵隊の位置に地中のワームの動きを重ね、霞澄機の降下位置を指示。低空で減速しつつ変形し、霞澄機は降下した。着地の衝撃を、膝を折って吸収しながら、アンジェリカは地殻変動計測器を設置する。地下を行く敵の厄介さは、大規模作戦などで対峙した経験のある傭兵ならば骨身に染みていた。


「各隊、能力者を支援しろ」
「相手は素早い。足が止まってから撃て」
 指示の声と、それに応じる返答を背に、ケイはシエルクラインの弾倉を交換する。向かってくるキメラはさほど手ごわくはないが、気を緩める事は出来ない。後退しつつある歩兵を守りながら、というのは大きな制約だ。
「っと、行かせない!」
 先頭のキメラを切り捨て、足元を抜けかけた一匹を縫い留める。敵の多くが塹壕を辿ってくるのは、ルートを抑えやすいという意味では有難いのだが、射線が通りにくいという意味では迷惑だ。おそらく、キメラの側はそんな事を考えて進路を決めているわけではなく、開けた場所より日陰を好むというだけなのだろう。
「第一小隊イワノフ少尉以下10名、援護に入る」
 銃火の密度が少し上がった。このままいけば押し返せる。そう思った時、地面が嫌な揺れ方をした。振り返ると、イワノフ少尉と目が合う。その背後、塹壕が崩れるのが見えた。土煙が目指す先が、ケイに判ったのはその瞬間だ。
「‥‥! 全員、トーチカを離れて! アースクエイクの狙いは第二トーチカだ!」

 ほぼ同時に、2機のKVもアースクエイクの狙いに気づいた。浅い地中を動く敵へと菖蒲のサイファーがツングースカを構えたが、射線の先には友軍がいる。味方を踏みつぶす訳にもいかないという制約下で、敵に近い場所を着陸地点に選べばある程度そうなるのは仕方がない。
「間に合うか? ‥‥いや、無理ね。出た所を叩く」
 舌打ち一つ、地を蹴って中央のトーチカへ駆け出した。一方、霞澄のアンジェリカは、蒼志と悠に足止めを食らっていたアースクエイクへ向かっている。
「やれやれ、時間切れ前に来てくれたか」
 消耗した顔で、眼鏡をあげる蒼志。仁王咆哮のスキルで敵の注意を引き続けられる時間はそう長くはない。口にした瞬間、見上げるような巨体の中央に光弾が直撃した。
「あとちょっとでやれた気もするけど、惜しいな」
 こっちは本気とも冗談ともつかぬ口調で悠が言う。彼女の振るう剣が巨大なワームを相当に弱らせていたのは間違いない。ふらふらと揺れる図体から2人の傭兵が離れるのを待っていたかのように、ワームはゆっくりと倒れた。


 叫び声。背後でトーチカが真上に吹き飛んだ。砕けたコンクリートの破片が降り注ぐ。伏せろ、という怒号に交じって突っ込んできたキメラを、ケイはもう一匹仕留めた。続く敵へ弾丸をばら撒きつつ、周囲を見る。地面に降りた青いKVがこちらに向くのが目に入った。
「状況は見ての通り。急いで下がります」
 士官たちは急いで部下に後退指示を出している。最初の一匹の吐き出したキメラの相手だけで手いっぱいだった状況で、背後にもう一匹が出てきたならば誰でもそうするだろう。ケイはその殿を守るつもりだった。
「走って! 大丈夫、俺が後ろにいます」
 駆け過ぎる兵士へそう笑いかけ、後を追うキメラを切り倒す。最後の兵士を見送ってからは、弾幕を張った。足止めを食ったキメラがケイを障害物と見たか、方向を変えた。一匹、二匹を斬る。三匹目が片腕に噛みついた。大きく振って、キメラを振り落す。
「銃撃! 同志能力者の後退を支援しろ」
 地面に落ちたキメラが赤いフィールドでまばゆく輝き、痙攣して動きを止めた。
「合流、できたみたいですね」
 ホッと息を吐く硯。大きく迂回しつつ中央を目指していた第三小隊の残兵が無事だったのは、彼が後ろを守り切ったからに他ならない。一方、最後のトーチカを蹂躙したアースクエイクは、出現を読んで待ち構えていた銀子の狙撃を受けてビクビクと震えていた。安全な地中に戻ろうとするのが早いか、それとも耐久力を失うのが早いか。
「逃げんじゃないわよ。もうアンタは詰んでる」
 どかんとKVサイズのショットガンが頭部に着弾した。KVから見ても見上げるような高さだ。もしも外れても、射線的に兵士を巻き込む事はもう無い。射撃兵装をもっていないワームが選べるのは逃げの一手だが、右翼ではもう一体のワームを倒した霞澄機が88ミリを構えている。すぐにアースクエイクは倒れ伏した。
「‥‥何とか、なったか」
 大きく息を吐き、ケイがしゃがみこんだ。硯も倒れこそしないが、剣を支えにするようにしている。アースクエイクと叩きあっていた蒼志と悠の受けていた傷も、決して軽くはない。
「あとはこっちに任せて、休んでやがるですよ」
「そうね。残ってるキメラはそんなに多くないと思うし」
 掃討戦には傷の浅いシーヴと銀子、それに2機のKVが手を貸した。


「死者は11名、ですか」
「最初の奇襲で、トーチカ付近にいた兵が全滅したんだ。皆さんのお蔭でこれくらいで済んだんです」
 看護兵の言葉を聞いて、ケイは静かに頷いた。先に帰った親友に一杯ぐらい、奢るのも悪くないかもしれないと、銀子は思う。
「イワノフ少尉も、皆さんも無事でよかったです」
 霞澄は、思いをそう声に出す。自分が居合わせる事ができた為に失われる生命が少なくすんだかもしれないことが嬉しい。
「本当に平和な世界が、早く来てくれるといいですね」
 硯もそう頷いた。戦争が終わったはずの世界で、命が危うくなる危険はまだ存在する。
(シーヴは当分傭兵辞められそうにねぇですよ)
 見回りから戻ったシーヴはため息を一つ。勝ち取った平和の儚さは誰もが知っていて、だからこそ守りたいという意思が輝くのだろう。