タイトル:【AC】舞い降りた悪魔マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/12 00:48

●オープニング本文


 大気圏外から降下したブライトン博士のユダ。この情報を前に、ラストホープの戦略軍による会議は紛糾した。ユダに対して効果的な打撃を加える用意がある、と発言したのはオブザーバーとして参加していたウィリー博士である。
 ブレスト博士は危惧を表明したが、意見を求められたスッチーことスチムソン博士が「SESを使用しない攻撃であっても十分な破壊力を持つ打撃であれば、効果がある可能性は0ではない」と発言したことにより防衛艦隊の一部の出撃が決定された。艦数は16隻。いずれも最新の高速打撃艦で、簡易G動力炉を搭載することでG5弾頭の運用が可能である事と、最小15名ほどという僅かな人数での運航が可能であるのが共通点だった。

「可能性は0ではない、ですか。物は言い様だけど、要するに性質の悪い博打という事ですね」
 旗艦の艦橋内で、ウィリーJrは苦笑する。これまでにも戦局の転換点に現れたバグアの超兵器は多い。最終的に撃沈できたとはいえ、ラインホールドのように「長い付き合い」になる可能性は当然考慮されていた。その未来予想が当たった場合は、今回の出撃は敵の力量を測るという側面が強い、いわば当て馬となる。
「直衛隊、発艦せよ」
 ユダの性能は未知だが、たとえばフォウン・バウなどがもっていた強力なジャミング機能を持つ可能性はある。G5弾頭の着弾制御、ならびに着弾の際の観測データを得る為に、艦は敵に50km以内に近づく事が求められていた。
「にも拘らず、我々に同行される?」
「いけませんか。あなた達もココにいる訳ですし」
 ウィリーはさらりとそう返し、艦長も肩をすくめて前を向いた。彼らとて死ぬために出撃したわけではない。死の危険を受け入れているというだけだ。それと同じ覚悟があると、この民間人が言うのであれば艦長の意見する所ではなかった。
 後部甲板から、志願者からなるKV部隊が発進して行く。その数は母艦に対して3機づつ。総計で50機弱の編隊だ。たった一機の敵に向かうには十分過ぎるほどの大部隊だ。
「‥‥まあ、私的な理由も多分にありますが。感傷でしょうかね」
 そう呟いてから、ウィリーは観測機材の最終調整に向かう。この艦だけではなく、残る15隻とも連動したシステムは、彼が突貫作業で組み上げたものだ。突発的な事態なども考慮すれば、その制御は、彼でなければおぼつかない。そして、ウィリーJrが突貫作業で組み上げたものといえばもう一つがこの場にあった。


「ブリュンヒルデ隊、バックアップに入ります」
 ウィリーJrの乗る艦の後方20kmほどの地点で、マウル・ロベル少佐は『ワイズマン』を駆っていた。かつてブリュンヒルデに所属していたKV隊、そして急な召集に応えた傭兵達が、彼女の機体を護衛するように展開する。ラストホープからKVで直接飛んでくるには、遠い場所だ。その理由はといえば。
『ブリュンヒルデII、と言わないと正しく無いの。艦長がいい加減だと色々大変だから気をつけて欲しいの』
 薄灰色の、戦乙女。極北で自爆したブリュンヒルデの心臓を移植し、新たに空を飛ぶようになったその艦は、実験艦であった零番艦ヴァルキリーの船体を使用している。様々な機器を組み込む必要があった為に旧ブリュンヒルデよりも船体は重くなっているが、最大の特徴であった速度は8割ほどをキープしている。その理由は、艦に積み込まれた小型のG動力炉にあった。
『出力80%、速度は予定通りにマッハ1.5に到達しているの』
『動力炉の小型化は、まだ試作段階です。全力運転は危険を伴いますので注意してください』
 白瀬留美曹長からの報告に、ウィリーはそう注意を返す。ドックを出てすぐの任務がこのような物となるのは、生まれたばかりの戦乙女にとって少しばかり過酷だったかもしれない。たとえ、その魂は幾つもの戦いを潜り抜けた歴戦の輝きを持っていたとしても。

●参加者一覧

櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
安藤 将成(gb9347
22歳・♂・HD
殺(gc0726
26歳・♂・FC

●リプレイ本文


 ユダはやや低めの高度に位置し、雲に取り巻かれるようにして存在した。良く見れば、その雲がゆっくり流れているようにも見える。
「どんぴしゃなの。ユダを中心に、気圧低下と上昇気流が発生しているの」
 周囲の天候を確認していた留美が結果を報告した。そうですか、と安藤 将成(gb9347)が頷く。彼は、現地の天候が下り気味だという情報から、スノーストームのような気象兵器の存在を危惧したのだ。
「でも、台風が自然発生する条件は、この緯度では整わないはずなの」
 必要な物は、低い気圧、上昇気流、そして回転だった。――コリオリの力。地球の自転運動に由来するそれは、赤道付近で見られることはない。しかし、現実にこの場には発達中の熱帯性低気圧に類似した物があった。
「つまり、地球の自転エネルギー分を、代わりに自分で補充しているってことなの」
 赤道付近で、無駄に停滞しているように見えたユダの挙動から、将成はそれを予測した。黒く小さな怪物は、それを賞賛するでもなく、ただ雲の広がりの中に存在する。そう、敵は傭兵が危惧したように光学迷彩に隠れてはいなかった。
「ギャラリーに見えなくっちゃ、あいつらのいう『バグアの偉大さ』が伝わらないって思ってるんじゃない?」
 溜息混じりに、赤崎羽矢子(gb2140)が言う。それは敵の見せる余裕なのか、それとも油断なのか。

 マウルらから更に10kmほど前に布陣した傭兵達から、更に10km前の海上、偵察艦隊は進行していた。まだ海は荒れてはいないが、水銀柱は随分下がっている。時折、遠雷が響いていた。
「先発のKV隊がユダの位置を確認しました。敵は一箇所から動きません」
「ユダを中心に、上昇気流を確認」
 艦橋のオペレーター達はデータの一部を分析しつつ、残る全てと共に後方へ転送していく。
「能力者達の予想通り、か。流石ですねぇ」
 呟いたウィリーの横顔を、艦長は意外そうに見る。
「別に私は彼らを嫌っているわけではありませんよ。ただ、彼らがつけているあの装置がエミタと呼ばれる事が許せないだけです」
 あわただしく最終調整をしながら、中年の男は独り言を続けた。
「自分が関わっていない装置に名前をつけられることは、科学者としての彼女を無視する行為だと思うのですよ。スチムソン博士の肉親としての情はわかりますが、ね」
 そして、彼女の成果を誇るべき形に仕上げられなかった自分が一番許せない、と口にしてから男は手を休めた。
「最終準備完了です。いつでもどうぞ、艦長」

「そろそろ、始まるな」
 予備カメラをユダのいる辺りへ向けつつ、レティ・クリムゾン(ga8679)が呟く。この距離では肉眼での確認はできないが、先発したUPCの部隊の電子戦機が転送してくる映像はクリアだ。UPCが最も警戒していたエース機に特有の強力なジャミングは、発生していなかった。それが羽矢子のいうような余裕からかは、定かではないが。
「最悪の場合、君達は先に離脱するべきだ」
「いえ、僕たちは‥‥」「そうね。殿はお願いします」
 リヴァル・クロウ(gb2337)の言葉にアナートリィが異を唱えかけたが、マウルはそれを封じるように言葉を重ねた。自分は人並みだが、エース機も多くいる、と言うリヴァル。
「あんたもそう言われる立場でしょ。自分を低く見積もっても、果たすべき荷は軽くなってはくれないわ」
 マウルが返した声は、茶化すようなものではなかった。
「射程まで近づかせはしない。安心して欲しい」
 言う間も、アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)はユダから、いやブライトンから目を離さない。彼女にとって、宿敵といえるような立場だったバグア、ゼオン・ジハイドの理乃が最期まで忠誠を尽くした相手が何者なのかを、彼女は見たいと思っていた。
「何でしょう、嫌な感じがしますね」
 きりりと鋭い視線を向けつつも、櫻小路・なでしこ(ga3607)は感じたままを口にする。攻撃配置につきつつある人類側へ、全く動きを見せないユダの様子は不気味だ。人類側は、現時点で持ちうる最大火力をぶつけようとしているというのに。
 ――それが、余裕のみから来る物ではなく、『自らが作り出しつつある台風の中心から動けないからだ』と予測した者はいなかったが、それは後ほど分析から判明する事である。


 G5弾頭は、計算された軌跡を辿り、計算されたタイミングと位置で爆発した。極小に封じ込められた破壊の渦が、幾つも連鎖して空間を焼く。眩い光逑が色を失い薄れていく中に、真紅が禍々しく輝いた。
「フォースフィールド‥‥。あの爆発を切り抜けますか」
 艦橋で、ウィリーJrが苦々しく笑う。
「私は、このG5弾頭で世界を救いたかった。父の為にも、彼女の為にも。ですが、私にできるのはこの程度でしたか‥‥」
「回頭しつつ、次弾装填。急げ」
 あわただしく艦上を走る人々。微動だにせず爆発を耐え切ったユダへ、KV部隊が攻撃を仕掛ける。紫の光線が周囲を刺し、前に出たKVの数だけ新たな爆発光が生まれた。
「無茶でも耐えて見せて‥‥」
 思わず、呟いたラウラ・ブレイク(gb1395)だったが、続いた報告は非情だった。UPCKV隊の前衛は、あの一瞬で全滅。脱出できたかどうかは不明だが、脱出したとしても回収の手段はない。捕虜となった後の事を思えば、脱出を試みた者はおそらくいないのだろう。そして、60kmを隔てた位置の傭兵達には、状況を眺めるしかない。
「敵の大将を拝む特等席だな」
 将成が叩いた軽口にも、苦々しさが篭っていた。
「重力制御、ではないのか」
 アンジェリナが翡翠色の瞳を細く、睨むようにする。映像で見る限り、撃破される直前の機体がユダに引き寄せられる様子はなかった。とすれば、気象制御に使っているのは重力制御とは別の力なのだろう。
「‥‥あれがユダか」
 その猛威を目の当たりにしたレティが、搾り出すように言う。被害の大きさは覚悟していたし、彼らの覚悟に同情を見せるほど不遜でもないつもりだ。ただ、今は。
「彼らの為にも希望の端緒は送り届けてみせる」
 ラウラが、心中の声を言葉にする。それは、単なる言葉というよりは誓いだった。
「危なくなったら、逃げてくれ」
 髪も肌も、唇さえも白く変じた殺(gc0726)が、その赤い瞳をコンソールの向こうのマウルへ向ける。傭兵達は攻撃が失敗した時点で既に、艦隊の全滅を思考に織り込んでいた。それがどのような形で訪れるかは、考えていなかったが。
『不遜な、弱き人類よ。己の無力を理解したかね? ならば、死ぬが良い』
 ブライトンの傲慢な声と同時に、海上に光の刃が落ちる。
「タウンゼント轟沈。上です!」
 見上げた人々に寸秒遅れて、雲の中から敵が姿を現した。
「ゼダ・アーシュ‥‥? いつの間に」
 傭兵達だけではない。UPCの艦隊すらも、敵はユダ単機であろうと思っていた。しかし、ユダが身動き取れないのであれば、手足となるものがいてもおかしくはない。

『裁きの時の始まりだ』
 ブライトンは傲然と言い放つ。変化に、最初に気付いたのはラウラだった。
「ユダが、巨大化? 爆発‥‥いや、分裂しているの?」
 僅か数メートルの全長しかないユダから、ボコボコと黒い何かが吐き出されてくる。1つや2つではない。小さい物はユダと同様の大きさだが、巨大な物は100mを越えた。そのいずれもが、無機質ながらもどこか生物のような質感をもっている。
「‥‥ありえないの。質量保存の法則を無視してるの」
「分裂体‥‥」
 珍しく絶句した様子の留美に答えるように、マウルが呟く。一昨年のカメルでの戦いにおいて、暴走したステアーが吐き出した無数の敵の呼称だ。あれは出来損ないのキメラのようなものだったが、今ユダから吐き出されたものは洗練された兵器だった。吐き出されていく様子を目の当たりにすれば、分裂というよりは増殖というのが相応しい。
「ユダ、アレがバグアの本当の体?」
 殺が、自信なさげにそう呟いた。

 その『増殖体』の外装甲の一部が開き、赤く輝き出す。なでしこはそれが何かに似ていると思い、すぐにその何かを思い出した。
「赤い‥‥フォースフィールド?」
 外部に露出した赤く輝く器官の輝きが増す。増殖体は飛行をはじめ、残存するKV隊へ一斉に襲い掛かった。
『クソ、化け物め‥‥!』
『やれない相手じゃない。やれるぞ。だが、数が!』
 小型機は、KVでも渡り合える。しかし、20mを越える中型は、単機で相手をするには難しい。大型は、圧倒的だった。その交戦の様子を送信していたウーフーが撃墜されるまで、1分以下。その間にゼダ・アーシュは艦隊の2隻を超遠距離狙撃で沈め、更に3隻をプロトン砲で破壊していた。『増殖体』の一部も、艦を餌食としはじめている。
「ファウラー、消失。‥‥ウィリー博士の乗っていた艦なの」
 留美の報告に、僅かに瞑目してからマウルは声を上げた。
「ブリュンヒルデII、後退。これ以上艦を留める意味はないわ」
 告げたマウル自身も、殺とリヴァルに促されて後方へ移動を始める。


 まだ交戦を続けている正規軍のKVの残存は数機。通常弾頭のミサイルで応戦しつつある艦も、この時点で6隻が健在だ。それらの派手な囮が、増殖体の多くを引き付けている。
「‥‥判断力は無いのでしょうか。それとも‥‥」
 怪訝そうに、なでしこが呟いた。ブリュンヒルデIIの巡航速度を上回るスピードで敵の一部が向かってきてはいるのだが、総数からすれば極一部だ。小型が10程度、中型が2、大型が1。
「あたしらはギャラリーなんだろう。胸糞悪いけどね」
 羽矢子が、開戦前と似たような言葉を吐く。しかし、そこに込められた感情はだいぶ違うものだった。
「‥‥状況を開始する。」
「一秒でも長く留まってこいつを止めないとね」
 リヴァル、そしてラウラが交戦の開始を告げる。

「自分は動かない‥‥。これがお前のやり方か、ブライトン」
 心に過ぎるのは失望か。アンジェリナは吐き捨てつつ中型の『増殖体』へ向かう。その側面を伺った小型に、レティの『Pixie』が95mm砲弾を叩き込んだ。
「癖は‥‥。無人機、あるいはキメラに近いのか」
 反撃を回避しつつ、レティが呟く。かすった攻撃のダメージを見るに、戦力としては弱くはないが、エースの乗った機体ほどの脅威は感じなかった。
「‥‥ブースト起動。行くわよ」
 ラウラの『Merizim』は、大型機に向かう。プロトン砲を回避して肉薄した所を、フェザーの弾幕が切り裂いた。機首を捻り、致命傷は避ける。小型機を一蹴したレティは、周囲を確認していた。ラウラの正面の大型機は、手練であっても単機では対しがたい敵のようだ。アンジェリナは中型2機相手に不利な戦いを続けているが、少なくともすぐにどうにかなるような状況ではない。他の面々は、小型主体の大群と正面からぶつかっていた。艦と同期して後退しているマウル達へ達する敵は、現状ではいない。
「予備を投入するまでもない、か? いや、‥‥下、ゼダ・アーシュが来る!」
 感じたのは、冷たい殺気。やはり『増殖体』には意思が無い、と再確認する。レティの声に応じて、リヴァルと羽矢子のシュテルンGが迎撃にはいる。リヴァルはブーストを起動、一直線に上昇してくる敵機に正面から交差するような機動を描く。
『体当たりですか。彼我の分析‥‥。問題はありません』
 ゼダ・アーシュは速度を落とさない。正面からぶつかっても問題が無いと感じる故か、それとも回避できる自信だろうか。一瞬のチキンレースから『降りた』のはリヴァルだった。
「敵正面より退避する。後は任せる」
 VTOLで急上昇し、間一髪でゼダ・アーシュの鋭鋒を回避したリヴァル機『電影』。
「PRM―H―Mモードっ!」
 羽矢子も、同様に高度を上げる。残存の増殖体から一斉にプロトン砲が伸びたが、抵抗を上げた2機のシュテルンGはその攻撃を耐え、青い空へ。
「‥‥任された」
 増殖体の意識がそれたのを好機と見て、将成の薄紅色の機体、レアル・ソルダードが猛烈に弾幕を張った。
「まだまだ、です!」
「この間合いならば、これでしょうか」
 なでしこの『藤姫』が粒子砲を掃射し、巻き添えを食った増殖体が装甲を融解させる。あわせて、殺の『天人』もG放電装置を放った。
『‥‥』
 ドットは動じず、鋭角に機動して回避。そのまま変形し、遠ざかる艦影めがけて砲を構える。
「それは油断である、と判断する」
 背後、再降下で同じ高度に戻った『電影』が、ブーストの擬似慣性制御を駆使して急旋回、そのままK−02ミサイルを発射した。
「もう、その機体はいい加減見飽きてるんだよ!」
 追随した羽矢子も、背後からミサイルを叩き込む。ダメージとしてはさほどでは無いだろうが、バランスは崩れ――、後退しつつあるブリュンヒルデIIへの追撃は難しくなった。いや、無傷の艦載隊が控えている事を考えれば、奇襲の優位がなくなった今、単機で猛追しても艦は逃げ切るだろう。
『これ以上の攻撃に理はないですね』
 一発の光線すら撃たずに後退に移るドットには、悔しさや怒りといった感情は見えなかった。残る『増殖体』へ最後に一撃を加え、傭兵達も戦線を収拾に動く。これ以上の敵の増援は歓迎できない状態だった。
「敵機の片方を、撃破。損傷も大きいが‥‥」
 損傷率が5割近い機内で、アンジェリナは周囲を見る。レティのフォローを受け、中型を彼女が抑えていた間に周囲の小型機の多くは撃墜されていた。残りは、中型1と小型4機。大型も健在だ。

「これ以上の戦闘は無意味ですね。後退しましょう」
 そういう殺の機体も、損傷は5割に近い。共に小型機の群れを迎撃していた将成も似たような状態だった。逆に言えば、その程度ですんでいるという見方もある。
「そうだね。‥‥ブリュンヒルデIIで会おう」
 ゼダ・アーシュとの対峙で戦線をやや外れていた羽矢子、リヴァルがそのまま後退に入り、アンジェリナもそれに続いた。損傷の少ないレティ機が踏み留まり、1機を落としてから後退する。
「了解。カバーに入るわ」
 ラウラのKP−06ミサイルポッドが、正面にばら撒かれた。そのまま、急角度で反転し後退する仲間を追う。
「これでも食らいなさいな」
 あえて殿に位置した『藤姫』が、遅れてGP−7ミサイルポッドの残弾を吐き出した。爆煙を抜けた光線が機体を叩き、一気にゲージが赤くなる。が、操縦桿はまだ反応を返してきた。
「‥‥どうか、安らかに」
 反転しつつ最後に西の方角を見たなでしこが、呟く。既にKV隊も艦隊も、その姿を消していた。