タイトル:【御節】ぱおーん×2マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/26 10:21

●オープニング本文


 UPC本部食堂――それは、軍人、事務職員、傭兵たちのみならず、広く一般にも利用されている、一種の社員食堂である。
 そんな食堂の秩序を守り、纏め上げている人物――それが、飯田 よし江(gz0138)であった。

「いえ、ですから、無理です!」
「無理や無理やってアンタ、上に言うてもおれへんのに、やってみなわからへんやないの!」
 先生だって走り回っちゃう師走のある日、ヒョウ柄のセーターに身を包んだよし江は、UPC本部内の経理の姉さんに詰め寄っていた。
「傭兵の子らだって、今年は戦い通しやったやないの。労ってあげなアカン!」
 迫るヒョウ。タジタジで身を引く経理の姉さん。
「まあ落ち着きなさい。何の騒ぎですか」
 その様子に、偶々通り掛かったハインリッヒ・ブラット(gz0100)准将が、何事かと仲裁に入った。
「ブラット准将! はあ‥‥実は、ULTに依頼を出そう思てるんですけど、承認が下りへんのです」
「依頼? どのような依頼ですかな?」
「それが、オセチの食材集めなんですわ」
 准将を前にして、少しずつ事情を話し始めるよし江。
 戦い赴く度、傷ついて戻ってくる軍人や傭兵たちに、せめて新年くらいは明るい気持ちで迎えてほしいと、食堂でオセチを出したいのだということ。
 そして、折角作るなら、皆で協力し合って各地の食材を集め、豪華なオセチにしたいのだということも。
「なるほど。偶には、そのような催しも良いかもしれませんな。兵の士気も上がる事でしょう」
 ブラット准将は、根気良くよし江の話を聞き終えると、一つ頷いてそう口にした。
「えっ‥‥ほな‥‥!」
「わかりました。私が承認し、ULTに食材集めの依頼を出しましょう。企画書を回してください」
「ありがとうございます!」

 こうして、ブラット准将の承認のもと、UPC本部食堂より、ULTに新たな依頼がもたらされたのであった。
 『オセチの食材募集。正月グッズ提供歓迎!』

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 一方、そんな和やかなラストホープから遠く離れた日本では。

 仙台港の食料集積地にキメラが出現したとの報告を受け、現地に急行したUPC軍人は見るも無残な光景を目の当たりにしていた。野生動物程度を想定していた簡素なフェンスはやすやすと突破され、巨大な備蓄倉庫の壁を破壊したキメラが長い鼻面を突っ込んでいる。
「くそ、米の貯蔵庫が! 農家の皆様にどうお詫びしたら良いんだ!」
「奴ら、絶対八十八回噛んでないですよ、軍曹!」
 早速、勇敢な軍人達は果敢に銃撃を加えた。
『ぱおーぉぉーん』
 フォースフィールド越しに受けるダメージはさほど無いのだろうが、それでも不快ではあるのだろう。あるいは、単に食事は静かにしたいのかもしれない。キメラは地響きを立てながら、兵士達へと向き直った。
「多少の建物の被害はやむをえない。わが国の農業は我らの手で守るのだ! 撃て!」
 携行型の対戦車ミサイルが煙を吹き、キメラの巨体へと向かう。しかし、キメラは迫る脅威に目もくれず、大きく息を吸い込んだ。それから、吐く。勢いよく撃ち出された白く丸い物体が、ミサイルに正面からぶち当たった。
「‥‥何ですと、不発でありますか!?」
 混乱したように叫ぶ兵士へ、キメラが目を向ける。再び、鼻からネトネトした何かが撃ち出された。べちゃり、と粘着質な音を立てて兵士の下半身が埋もれる。
「な、なんでありますか、これは。‥‥餅?」
「ふむ、八十八回以上は噛んでいたようだな。よく練れている。農家の皆様に代わって、それだけは褒めてやろう」
 意外と冷静な軍曹は、自分だけ直撃を回避していた。
「早く逃げた方がいい。多分、突っ込んでくるぞ」
 ずしん、ずしんと大股に歩いてくるキメラ。歩行速度は決して速くは無いのだが、いかんせんサイズが巨大だ。踏み潰されるのを座して待つつもりはない兵士が、慌てて逃げ出そうとする。が。
「ぐ、軍曹。駄目です。服にべったり張り付いて‥‥!?」
 唐突に説明を付け加えるが、この兵士は妙齢の女性兵である。つまり、ここまで真面目な戦闘依頼であろうと読んでくださった傭兵諸氏にははなはだ申し訳ないが。そういう依頼なのだ。
「何たる事だ。いかん、急いで服を脱‥‥」
 べちゃり。むさくるしい軍曹の下半身もお餅に埋もれた。そう、機会は男女平等である。慌てて振り返れば、もう1体のキメラが長い鼻面を向けていた。
「く、2体いたのか‥‥! って、このままじゃまずい!?」

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「‥‥という訳であります。自分達では手も足も出ません。能力者を回して下さい!」
「ぶぇっくしょーい! す、すまん。俺達はここで奴を監視する。代えの軍服も頼む!」
 すね毛だらけの足と美脚を露わにした2人が、無線機に向かって大声を上げる。彼らの下半身を覆っていたズボンは、お餅の中で綺麗にプレスされて見る影もなくなっていることだろう。どういう理屈か分らないが、謎のお餅は人肌にくっつきはしなかった。ひとしきり暴れて妨害者を追いやったことに満足したのか、キメラはのそのそと保管庫へ戻っていく。
「さ、寒いですね。少し温まらないと‥‥」
「‥‥ま、待て。自分達は職務に専念する必要がある」
 頬を赤らめる髭面の軍曹をおいて、女兵士はお餅へと近づいていた。女は強い、と言うのかそれともこの兵士が特殊なのか。ほかほかと湯気を立てるソレに手を伸ばして一つまみ。
「軍曹、意外と美味であります!」
「なんと。美味しく加工してもらえたこと、農家の皆様に代わって礼を言おう」
 だがそれはそれ、これはこれ。キメラは排除されねばならない。兵士達は寒さに凍えながら、応援を心待ちにしていた。

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「‥‥キメラ、ですか!?」
 加奈はその知らせに、表情を引き締める。帰省していた自宅から、その現場は程近かった。以前、近隣にキメラが現れた時は何も出来なかったが、今は違う。少女は、決意を秘めて立ち上がった。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
天道 桃華(gb0097
14歳・♀・FT
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
イリス(gb1877
14歳・♀・DG
ミスティ・K・ブランド(gb2310
20歳・♀・DG
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD

●リプレイ本文

●まだ見ぬ恐怖
「ぱおーんと言うと象を思い出すんですけど、また変態の相手ですのね?」
 神森 静(ga5165)の溜息が海沿いの寒気を白く変えた。
「幸い戦力としては容易いキメラだ。気楽に行こうか」
 先刻から感じる悪寒を振り払うように、ミスティ・K・ブランド(gb2310)が陽気に言う。が、場の空気は冷えたままだ。
「変態さんのキメラ‥‥、ですか」
 憂いを帯びた加奈の横顔を、直江 夢理(gb3361)が決意を秘めて見つめる。
「AU−KVを封じてくるなんて‥‥なかなかの強敵みたいね」
 一方、年齢ゆえか、イリス(gb1877)は敵の脅威を深刻に受け止めていないようだった。
「うぅ‥‥」
 不安げに呟く御崎緋音(ga8646)を守るように、レイアーティ(ga7618)がそっと肩を抱き寄せる。
「ま、食べ物を武器にするとは許しがたいですね」
 七輪ほか、各種調理器具を並べつつ、鋼 蒼志(ga0165)が伊達眼鏡をキラリと輝かせた。
「悪いキメラは、マジカル☆桃華が成敗してあげるわ!」
 天真爛漫に天道 桃華(gb0097)がポーズを決めた所で‥‥、戦いの幕が唐突に切って落とされる。

●桃色地獄変
「この距離からか!」
 悪態を吐くミスティ。後には、下半身を絡め取られた静が取り残された。抜け出そうともがけばスリットから生足がこぼれ、慌てて片手で抑えれば上が着崩れる。
「うう、見て楽しい物じゃないです。こっち見ないで下さい」
 赤面しつつ胸元のボタンを外す静。年齢相応に大胆な黒のレースがチラリと見えたところで、レイはハッと我に帰って目をつぶった。その耳に次弾の風切り音が聞こえる。
「きゃー! 餅がー、餅がー!?」
 思わず薄目を開いてしまった青年の前に、あられもない格好ですっ転ぶ桃華with餅。わたわたと伸ばした手が、緋音のワンピースに引っかかる。
「やだぁ!」
 バランスを崩した所へ、白い餅が追加配送されてきた。
「‥‥危ない!」
 咄嗟に恋人を庇ったレイの行いは賞賛されるべき物だろう。緋音と桃華双方に絡むように倒れてしまったのは不可抗力だ。多分。
「くっ、服を脱がないと‥‥、踏み潰されてはまずいですね」
 冷静に、ズボンから足を抜こうと試みるレイ。だがその膝辺りは桃華の胸に接している。
「いやん、どこ触ってるんです!?」
 じたばた。いや、動くと余計当たったりしませんか。あまり感触は無いようですが。
「レイさんが触っていいのは私だけなんだからー!?」
 恋人のピンチ(?)にもがく緋音だが、上下一体のワンピは一人で脱ぐのは難し‥‥。いや、出っ張りが少ないからそうでもなかった。
「レイさん、ちょっと我慢してね。引っ張ります」
 要救助者の頭部を挟むように膝をつき、腰の辺りを掴む緋音。顔を上げたレイの視界に一瞬花柄の何かが映ったが。
「やだ、見ちゃ駄目ぇ‥‥」
 紳士なレイは素直に目を閉じる。大丈夫、男なら目を閉じても脳裏で反芻できる。
「‥‥抜けない‥‥」
 何が引っかかっているのか、レイの下半身は容易に回収できないようだ。
「ならば、マジカル☆桃華にお任せ!」
 ぐっと後ろから緋音に手を回す桃華。彼女も脱ぐに容易な体格だった。
「ぁ‥‥、何?」
「‥‥緋音さん、同じくらいだと信じてたのに」
 乙女のライバル意識も絡みながら、大根を抜くかのごとく引く少女2人。うんこらせ、どっこいせ。カブはやっぱり‥‥。
「抜けた‥‥ぁぁあ!?」
 しかし、力を入れればその反動は大きい。尻もちをついた桃華の上に緋音、その上にのしかかる様にふんどし姿のレイ。
「うぅぅ、恥ずかしい‥‥って、きゃあ!?」
 黒の下着姿の静が、その人間団子につまずいて転ぶ。危険なほどに切れ上がったTバックに、後方支援の眼鏡が思わず身を乗り出した。
「ご、ごめんなさい」
 咄嗟に手をついた静と、最下段の桃華の目があった。にゅっと手を伸ばす桃華。
「この大きいものは一体‥‥」
「‥‥す、凄‥‥」
 恋人の視界は片手でふさぎつつ、息を飲む緋音。
「ぁ、ちょ、困ります」
 身をよじる度に、黒に包まれたたわわな果実が揺れる。これで細身とか、UPCの身体測定係は何をしているのだ。けしからん。実にけしからん。

●鋼と百合と
 他の仲間も戦闘を開始していた。
「ええい、まだまだー!」
 餅を盾で受け、そのまま投げ捨てるイリス。もう一発がへばりついたポンチョも思い切りよく脱ぎ捨てて、一直線に敵へ走る。何も考えていないように見えた元気娘は、敵の攻撃に最新技術の積層装甲で対処しているようだ。
「ハッ、その軌道は見切った!」
 そんな仲間達の奮闘をじっくりたっぷり観賞していた鋼は、打ち出された餅を華麗に回避していた。
「その餅‥‥、螺旋の鋼槍で穿ち、頂くぞ!」
 この時の為に洗浄した槍で綺麗な所だけ切り取ると、さっと敵に背を向ける鋼。最初から、彼の目的は餅だけだったのだ。
「確かに、餅が汚れるのは気に入らんからな」
 鍋の蓋で受け止め、笑うミスティ。もう1発も左手の蓋で華麗に受け止めたところで。
「Damn’t! 何故3発も飛んでくるのだ!」
 べちゃり。文句を口にした彼女に、更にもう一発が飛来する。
「‥‥せめてその餅は、俺が未来へ繋ごう」
 安心してくれ、と爽やかに眼鏡を輝かせて、鋼が手を差し伸べた。

「ミスティさん!」
「加奈様、前に出て‥‥あぶない!?」
 戦場に安全地帯などありはしない。加奈を助けようとした夢理の挙動は僅かに遅かった。
「だ、大丈夫ですか、加奈様」
「‥‥だ、大丈夫、ですけどっ」
 お互いの手は、脇を抜けて背中へ。ちょうど抱き合う形になった2人の少女の服に、べっとりと餅が。
「脱がないと‥‥、危険ですね。加奈様」
 現状把握は、年下の夢理の方が早かった。
「今のままでは、踏み潰されてしまいます。加奈様をお守りできなかった未熟な私はどうなっても構いません。ですが」
 貴女には生き延びて欲しい、と目で語る夢理。背景には百合の花が咲き乱れているような気がしないでもない。
「何を言ってるの。2人で‥‥。2人で助かる方法を探しましょう」
「加奈様‥‥」
 意を決したように、お互いの背へ回した手を這わせる少女達。拘束された状態の動きはもどかしく、お互いが望む場所に触れそうで触れる事が出来ない。
「も、もう少し右‥‥」
「ゃ‥‥、そこです‥‥。お願い、します」
 2本の指が、小さな突起を摘む。
「あっ‥‥」
 汗ばんだ指先から、それはするりと逃げた。背中のファスナーのことですよ、もちろん。
「も、もっと‥‥早く。そう、それで‥‥」
 焦らすような手の動きに、肌が熱を増す。

「大丈夫なのか、あの2人は‥‥!」
 加奈と夢理を色んな意味で危惧するミスティだが、彼女も餅に囚われの身だ。
「‥‥ぐ、この、キツくて抜けな‥‥!」
 肩をすぼめ、芋虫のように身をよじる美女。羽化する蝶の羽のように、抑圧から解放された双球がぷるるんと揺れる。未発達な青い果実達と異なり、ミスティは大人の女だ。次は腰のつかえをどうにかしなければならない。

●格差社会と人の尊厳
 さて、一方その頃。
「なんでこんなに大きいのよ!!」
「そ、そんな事、言われましても‥‥」
 おろおろと困る静に、桃華が食って掛かる。こんな状況では静もいまいち本調子になれないようだ。
「目を開けても大丈夫でしょうか」
「駄目です!」
 恋人に即答されたふんどし一丁のレイ。紳士の嗜みとしてコートは当然のように緋音に差し出していた。
「レイさんの‥‥匂いがする」
 随分丈の長いコートの下は、子供っぽい花柄ショーツにブラだけだとか。実にマニアックですな。こんな依頼でまで幸せそうにしやがって。
『ぱお――ん!』
 世界の怒りを一身に集め、ぱおーんの正義の怒りが一面に降り注ぐ。
「ま、またですか!」
「いやーん!?」
 静と桃華、双方共に既に下着のみ。ゆえに餅の脅威はさほどではなく、ねとねとべっとりの感触が気色悪いだけだ。なかなか脱出できないのは、桃華が静の胸と言わず腰と言わず掴みかかっているせいである。
「やだ、コートが‥‥」
 身を隠す盾を奪われた緋音は、この一撃でマニア向けから健全なお色気に分野を戻していた。その恋人はといえば、より深刻な脅威に見舞われている。
「ふ、ふんどしが‥‥!」
 地面に縫いとめられたふんどし。これをパージしては人として多分何かが終わる。だが、座してキメラに踏まれれば戦闘不能に追い込まれるだろう。恥と共に生きるか、潔く誇りと共に死ぬか。レイの額から汗が伝い、落ちる。

「なんのっ! これしきーっ!」
 4人が遊んでる間に、イリスは1人で突貫していた。彼女の後ろには、白いべとべとに絡まれた衣服が点々と落ちている。ツナギの次はセーラー服のスカート。ちょっと離れて上着。つまり現在、少女の健康的な肢体を包むのは可愛らしい下着のみである。
「たぁー!」
 構わず、右手のイアリスを大きく振りかぶって、斬る。少し揺れたかもしれないが、おそらくは測定誤差だ。
「‥‥って。へ?」
 ぱおーんの巨体はその一撃であっけなく崩れ落ちた。
「よし! まずは1つ‥‥っ」
 Vサインつきで振り返った少女の前に広がる、実に華やいだ光景。そして、自身もその中の一員であると自覚したとき、少女の頬にかーっと血が上った。
「‥‥う。私、けっこう恥ずかしい恰好してる!? ちょっと、蒼志! あんまり見ないでよー!」
 胸とか抑えてしゃがみ込んでしまうイリス。少女の目覚めの瞬間であった。そして、誰かの死刑執行書にサインされた瞬間でもあったかもしれない。
「ばかーっ! こっち見ないでよッ!!」
「見てる‥‥だと?」
 餅の中から上がる桃華の声と、静の冷たい一声。
「待て。こんな言葉もある。米は米屋、餅は餅屋とな」
 俺が脱いで誰が喜ぶと言うんだ、という彼の主張は後世の歴史家とか報告書を閲覧する人々には万雷の拍手を持って迎えられるだろう。しかし、不幸な事にこの場にいた者はそう思わなかったようだ。
「この姿の見物料は、高くつくぞ? ‥‥覚悟は、できているんだろうな?」
 冷たい微笑を浮かべつつ立ち上がる静。
「ああー!?」
 一緒に立ち上がった桃華が騒々しい声とともに再び腰を落とした。
「あたしのパンツがなくなったー!?」
 っていうか脱ぎすぎです。

●勇者達の戦後
 一方、それどころでない悩みを抱えていたレイは、天啓を得ていた。
「‥‥ふんどしを切れば!」
 己を曝け出す事なく事態を打開できる。間違って大事な所を切らぬよう、くわっと目を見開いた青年に‥‥。
「レイさんは見ちゃだめ〜っ! 私だけを見てればいいのっ!」
 緋音が体当たりを敢行していた。
「‥‥っ!?」
 絶望の呻きをあげるレイ。はらりとふんどしが解けて落ちる。
「まだです! まだ終わるわけには‥‥!」
 青年の周囲を闇色のオーラが覆った。『虚闇黒衣』がモザイク代わりに使われるとは、スチムソン博士もびっくりである。
「私の練力が尽きるのが先か、服を着るのが先か‥‥。クッ、消耗が激しい‥‥。ですが、ここで倒れる訳には‥‥」
「レイさん‥‥、私のせいで‥‥!」
 台詞だけを取ると実にシリアスだった。寒風吹きすさぶ冬の港湾で、全裸の男が木の葉一枚でもいいから隠すものを探している、という状況さえ描写しなければ。

「ミスティさん‥‥っ」
「大丈夫だったか、2人とも」
 少女2人の手を、水着姿になったミスティが引く。ずぼっと餅から引っぱり出された加奈と夢理は揃って肌にぴったりフィットのレオタード姿だった。
「や、やっぱり恥ずかしいです、けれど」
「加奈様は恥ずかしくないかと。私は恥じ入るしかない大きさですが‥‥」
 微妙に視点のずれた事を言いながら、俯く少女達。その肩を、ミスティが軽く叩く。
「まずは奴を排除するぞ。話はそれからだ」
 そう、まだぱおーん一体が残っているのだ。
「‥‥そうですね。これからの話は後で」
「ご協力します、加奈様」
 ちらり、と向けられた目に覚えのある悪寒を感じて、ミスティがぶるっと震えた。下着姿だと寒いですからね。

 一同を脱がすという使命を終えたぱおーんの片割れは、速やかにその生を終えた。さようなら、ぱおーん、僕達は眩しいその雄姿を決して忘れはしないだろう。
「フッ、ご苦労さん。そのままでは寒いだろうから、服を着たらどうだ」
 あくまでもニヒルに言う蒼志。簀巻きにされた状態ではあまりかっこよくないのだが、それは役得ゆえの対価と割り切るしかないだろう。彼が一同の着替え用に用意していたのはセーラー服とブレザーのみ。いささか趣味に偏った物だったが、幸いな事に仲間の多くが学生だったため、彼の性癖を揶揄する声はあがらなかった。
「いいか、落ち着け。今日明日焦ってどうにかなる物でも無いし‥‥」
 お着替えタイム。ミスティの声に首を回そうとする蒼志だが、残念な事に視界外である。
「そもそも触っても利益などな──ッ!?」
 うわぁ、というか賛嘆とか。柔らかさをマシュマロに例えるありきたりの形容とかがミスティの言葉を遮った。もう、分かり合うのに言葉などは要らない。手の中のこの暖かささえあれば。
「や、やめ――、ぅあっ。こ、これ以上は――」
 少女の歓声が聞こえる度に、艶めかしい乙女の嬌声が響く。なおこの間、緋音の手が恋人の目だけでなく耳にも被さっていたのはいうまでも無い。
「‥‥何故男物が無いんですか」
 ため息をつくレイは、ややきつめのセーラー服に身を包んでいた。まぁ、尊厳の死を迎えるよりはよかったのではなかろうか。そうそう、スカートの中は決して想像してはいけない。

「苦労した分、美味しいですね?」
 喉をつまらせないようにと、お餅初挑戦のイリスに言う静。敵の奮戦の後を示すように、お餅の量はLHに送る分を除いてもまだまだたっぷりある。事件報告をした軍曹と兵士も御相伴に預かっていた。甘〜いお汁粉を、レイと緋音は2人で甘〜く食べていたが、報告官の独断でその描写は省略する。反論は認めん。
「ず〜んだ〜ず〜んだ〜♪ た〜っぷ〜り〜ずんだ〜♪」
 枝豆のペーストをまぶして食する仙台名物、ずんだ餅をおいしそうに頬張る桃華。結局、彼女の下着が見つかったのかどうかは神のみぞ知る。もしも正月にお雑煮の中から小さな布切れが出てきたら、あなたも思い出して欲しい。愛と正義の魔法少女の事を。
「‥‥美味しいですね。夢理ちゃん、どうぞ」
「あ、はい‥‥」
 まだ何かのバッドステータスが継続中の加奈と夢理の隣で、ミスティはどんよりと箸を動かしていた。2人とも色気より食い気な年齢ゆえ、お餅の匂いが彼女への加害行為を中断させたらしい。
「これが敗北の味か‥‥」
 すすけた背中が物悲しかった。
「いやぁ、目の保養をしつつ、餅をこうして頂く事ができるとは」
 言わなければいい事を口にしてしまうのは、男のサガなのだろうか。蒼志が簀巻きのまま寒い仙台港に引きずられていく。何処か遠くで、犬の吼え声が悲しく夜闇を割いた。