タイトル:【入学式】麗しき恋物語マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/12 23:57

●オープニング本文


 入学シーズン。それは学校と言う閉鎖的な空間においては大きな事件だ。学友という狭い枠内にこれまで見なかった顔が加わり、新たな人間関係が築かれる事もあれば、振り捨ててきたはずの過去が追いついてくる事もある。

 それは、校舎裏の空き地にて。校内では言わずもがなの理由で伝説の樹と呼ばれる大きな樹の下で、過去と現在が対面していたのも、そんな一例だった。

「‥‥何でですか。私、間垣先輩に会いたくて、それだけの為にずっと‥‥!」
 涙を溜めて見上げる少女は、真新しい新入生の制服に身を包んでいた。そっぽを向きながら、頭をかいているのは、上級生のようだ。
「だから言ってるだろ、沙織。俺は変わったんだって。中坊の時の約束なんて、真に受けるなよ」
「‥‥っ」
 唇を噛む沙織。
「いいか、もう俺に近づくんじゃねぇぞ」
 間垣はペッと唾を吐き、踵を返そうとして‥‥、固まった。
「おう、間垣クン。可愛い子だネェ?」
「か、柏木先輩」
 どうみても原形を止めていない制服をひっかけた大柄な最上級生がニヤニヤと笑っている。装いは下駄履きに黒の改造制服と偽っぽい制帽。昭和の面影漂う外見からは、何年か留年しているのではないかという雰囲気が漂っていた。
「俺たちにも紹介してくれヨ」
 ぞろぞろと。20人はいるだろうか。顔に『不良』と刻印がされたような少年たちが沸いて出る。息を呑んだ少女を庇うように、間垣は立った。こうなると、誰が悪役か見るからに分かりやすい、気がする。
「‥‥行け。行けよ!」
 それでも動かない少女を、間垣が突き飛ばす。転がるように、沙織は走り出した。誰か、助けてくれる人がいないか。周囲を見渡した少女の視界に、一際目立ちまくった絢爛豪華な長身が目に入った。誰あろう、入学式に来賓として招かれていたカプロイア伯爵である。
「先生、ですか‥‥? 助けて下さい、お願いします」
 駆け寄る少女。周囲が制止するよりも早く、伯爵は頷いていた。
「‥‥乙女の涙は、戦う理由には十分なものだ。そうだろう、諸君」
 しれっと回りも巻き込むつもりらしい。安堵した少女の膝が崩れるのを優しく抱きとめてから、伯爵は案内についていた生徒へと彼女の身を託す。
「場所はどこかな? お嬢さん」
「伝説の樹‥‥、です。早くしないと、間垣先輩が」
「その間垣と言う男が元凶か。理解したよ。任せておきたまえ、エレガントに解決して差し上げよう」
 とか言いながら、自らの白い手袋を外す伯爵。沙織が、相談相手を間違ったかもしれないと思った時には、豪奢な青年は駆け出していた。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
ミク・ノイズ(gb1955
17歳・♀・HD
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
沙姫・リュドヴィック(gb2003
13歳・♀・DG
日向 彬(gb2015
17歳・♂・DG
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●事態は混迷へ
 カンパネラ学園が傭兵達を聴講生として受け入れ、その設備を解放した事は様々な出会いを生んでいた。
「Thanks、助かったわ」
 扉を押さえる日向 彬(gb2015)に、シャロン・エイヴァリー(ga1843)が礼を言う。カンパネラの構内は広い。彬が案内してくれなければ、図書館に辿り着くまでにもっと時間がかかっていただろう。
「いえ、僕も図書館には用事がありましたから」
 女性には紳士的であれ、をモットーとする彬はそう言って微笑んだ。借り出した本は、2人とも随分分厚い学術書の類だ。
「帰り道も案内しますよ。急ぎの用事はありませんから」
 彬の申し出は、そんな親近感も一役買っていただろう。
「お言葉に甘えようかな。どこの学校にも、生徒しか知らない近道があるわよね」
 重い本を手に、2人はぶらぶらと歩き出した。

 一方、同時刻。如月・菫(gb1886)の心情は、目の前を走るカプロイア伯爵のそれと同調していた。
「乙女を泣かせるとは赦せんのです」
 在校生の彼女は、沙織が泣きながら駆けて来た方向に『伝説の樹』がある事も知っている。告白の場から泣きながら去る少女と言えば、原因は一つ、に思えた。
「赦さん、赦さんですよ!」
「そう、‥‥罪には裁きが必要だ」
 ヒートアップする菫と伯爵。
「入学早々に伝説の樹の下で‥‥浪漫だねっ!」
 一方、斑鳩・南雲(gb2816)は、何となく漂う荒事の気配にうきうきとしていた。
「乙女の涙の報いを与えるのは騎士の務め、そして弱き物の為に立つのは貴族の務めなのだ。そこにある種のロマンが生まれる事は否定しないよ」
 全力疾走の間にも関わらず、息も乱さず台詞を吐く伯爵の背中を追いながら、南雲はその言葉を心のメモに明記する。自身も旧家の出である少女にとって、伯爵はある意味での生き方の指針だった。うん、できればやめとけ。君はまだ若い。
「あ〜、あの人達、絶対勘違いしてるし‥‥」
 沙姫・リュドヴィック(gb2003)はやや呆れていた。沙織の言い方からすれば、むしろ間垣という相手を案じているのは明らかに思えるのだが。ともあれ、彼女もちょっと遅れて3人の後を追う。その瞳にあるのは、純然たる好奇心と野次馬根性だった。

「また、めんどくさそうな事に」
 4人の背を見送って、ミク・ノイズ(gb1955)はため息をついた。
(校舎裏は‥‥ちょっと、まずい‥‥なぁ‥‥)
 その辺りに何故か落とし穴を掘っていたという霧島 和哉(gb1893)は別の意味でため息をついた。
「だ、大丈夫かな」
「大丈夫‥‥だよ、きっと」
 思わず言う和哉。隅っこだし、多分誰もはまったりは‥‥、と考えてから、少年は縋るような沙織の視線に気がついた。多分、案じている内容が違う。
「伯爵さんも、破天荒ではあるけど‥‥善悪の区別くらいは‥‥出来る、はずだから」
「‥‥はず?」
 不安になってきた様子の沙織の目に再び涙が浮かんだ。
「どうかしたのか。女の子がそんなに泣いちゃダメだぞ。さぁ、まずは涙を拭いて」
 保護欲をかきたてられたらしい、通りすがりの百瀬 香澄(ga4089)がそんな声をかける。反対側にはミクがそっと寄り添った。急かすではなく、落ち着くまで傍にいてやろうという2人の態度に、沙織は少し落ち着きを取り戻したようだ。
「詳しい事情を、教えてくれるかな」
 和哉の声に、沙織は意を決した様子で頷く。
「ええと、実は‥‥」

「あ、伯爵さんだ」
 風のように駆け抜けた伯爵と菫と南雲を見かけた柚井 ソラ(ga0187)はきょとんと首を傾げる。
「‥‥何の騒ぎですか? これ」
「女の子の涙に伯爵が勘違いして暴れに行く所〜」
 尋ねた相手が、一番正しく事態を把握していた沙姫だったのは幸運だった。
「た、大変だ」
 二度ほど瞬きしてから、ソラも伯爵の後を追う。5人に増えた一行が校舎裏にたどり着いた時には、事件は既に起こっていた。

●バトル開始!
 時は、やや遡る。
「あのさぁ、一人をよってたかってリンチ? それがさぁ、教わったことなの?」
 抵抗らしい抵抗を見せずに嬲られる間垣を見かねた柿原ミズキ(ga9347)が木刀片手に啖呵を切った。
「く、来るな‥‥。あんたには関係‥‥」
 言いかけた間垣を蹴りつけて、三白眼の不良が手をわきわきさせる。
「へっへへ、胸のないお姉さんが俺達を教育してくれるってか?」
 ごっすん。木刀がイイ感じで痛そうなところにヒットした。
「た、田中ー!」
 能力者だから平気だろう、多分。
「こ、このつるペタ女!」
「うるさいうるさいうるさい。平坦とかいうなせめて洗濯板って言え」
 ブンブンッと振るう木刀には抑え切れぬ怒りのオーラが込められていた。
「こんな薄胸女、柏木さんが出るまでもネェ。ここは俺が‥‥」
 コキコキと首を鳴らしながら一歩前へ出た生徒、の側頭部にゴツンと何かが当たる。
「佐藤さん!?」
 当たり所が悪かったのか、何をするまでもなく昏倒する佐藤。彼を倒した凶器は、バイクのヘルメットだった。
「誰だ!」
「流石にこいつを放っておくのはクールじゃないな」
 不良達の視線の先、メットを投げつけた嵐 一人(gb1968)が長髪をなびかせて立っている。
「また女‥‥じゃなさそうだ。今度は男のようだネェ」
「さすがは柏木さん!」
 鼻をヒクヒクさせながら言うボスに、下っ端がどよめきを上げる。何がさすがなのかさっぱりわかりません。

「取り込み中、失礼するよ。間垣と言うのは君かな?」
 そして、更に事態を混沌に叩き込む一団が到着したのはその時だった。びしっ、と指差された柏木が思わず首を振る。
「では、君か?」
「いや、俺は一人。ひとりじゃなくってかずとだからな」
 ふむ、と首を傾げて佐藤とか田中とか有象無象を眼で追う伯爵。
「あ、あなたでしょ? 間垣さんって」
 正解に辿りついたのは南雲だった。急展開についていけないまま、こくりと頷いた間垣の顔面に白い手袋が投げられる。
「良く真相に辿りついてくれた。感謝するよ」
「秘訣は乙女の勘だよっ」
 ぶっちゃけ、この空間で女を泣かせられるような造作のキャラクターはそう多くない。
「さて、間垣とやら。名も知らぬ少女の涙の為、私は君に決闘を申し込もう」
「待ってください! 伯爵さんが沙織さん傷つけちゃ、意味ないです!」
 ソラが2人の間に割って入る。沙姫から内容を聞いた少年は、ほぼ正しく事態を解釈していた。

「おや、何か騒ぎが起きてるようですね」
 そんな時、角を曲がってきた彬が首を傾げる。不良を挟んで伯爵たちと逆の位置だ。
「‥‥今日はのんびり出来ると思ったのにっ」
 伯爵の姿を見つけてしまったシャロンはため息をついた。あんなに伯爵が生き生きしているという事は、トラブルの可能性は高い。というか、倒れている不良を見れば一目瞭然だった。
「なんだぁ? 今度は女連れの色男かよ」
「いえ、僕には他に‥‥」
 許婚がいる、と口にしかけてから黙る彬。公言しては許婚に悪い、という配慮はこの際逆効果だった。
「他に‥・・? てめぇ‥‥」
 視線で人が殺せたら。そんな殺意が彬へと向く。
「お、落ち着いて話し合いませんか?」
「こ、この色男が!」
 不良のパンチを慌てて避けながら、反射的に本で叩いてしまう彬。
「斉藤の仇!」
 突っ込んできた別の不良は、シャロンが振り下ろした本の角で撃墜された。
「これもひとつの教育的指導よね」
「後で図書館の方に謝らないと‥‥」
 彬の言葉に、シャロンが小さく舌を出す。

●混迷、度を深め
「時は今、場所はここ、方法は拳闘で如何かな?」
 そんな光景を他所に、あくまでも自分のペースで話を進める伯爵へ不良達からも待ったが掛かった。
「おう、金ぴか野郎。間垣は俺たちが先約だ」
「女6人もはべらして格好よく出てきやがって‥‥。俺は貴様を許さネェ!」
 なお、ソラと一人は男である。
「ほう。つまり君達は私の美学の邪魔をする、と?」
 静かに顔を上げる伯爵の後ろで菫が半ば固まっていた。
「ふ、不良さんなんて聞いてないのですよ‥‥」
 ごくり、と唾を飲む菫。
「まぁまぁ、ここは誤解も有りそうだし。ひとまず落ち着いてみたらどうかな?」
 表向きは穏便そうに沙姫が不良へ向けた言葉に、伯爵のマントを掴んだままのソラがコクコクと頷いた。菫も己の良心に従い、胸を張る。
「け、喧嘩はいけないのです。痛い思いをする前に大人しく帰るがいいですよ!」
「‥‥」
 周囲に漂う、微妙な沈黙。そんな静寂を破ったのは、夏目 リョウ(gb2267)の大声だった。
「特殊風紀委員だ! お前達の行為は校則に違反している、すぐにこの騒ぎをやめて、双方拳を納めて貰おうか」
 何故か塀の上に颯爽と立つリョウへ、満座の視線が集まる。
「ちっ。どいつもこいつも‥‥。カンパネラ四天王の一人、不動の柏木の恐ろしさ、思い知らせてやるゼ!」
 ちなみに、両方とも自称、あるいは一部でのみ通用する小さなステータスであるのは言うまでもない。今の所。
「了解ッス! 女連れとか色男は死ねばいいッスヨ!」
「‥‥俺の声が聞こえないなら、実力行使でこの場を納めさせて貰う」
 リョウが不良どもの只中へと飛び降りた。竹刀二刀流でびしばしと張り倒す物の、数も多い。
「もらったぁ!」
「チッ!」
 背後からの声に一瞬身構えたリョウだが、不良の攻撃は無かった。カランカラーン、とコーヒーの空き缶が転がる音の後に、どさっと男の倒れる気配がする。
「榊!? ちくしょう、今度は誰だ!」
 空き缶を投げた香澄の隣から、沙織が駆け出し‥‥かけてミクに止められる。
「男同士の喧嘩に割って入っちゃ危ないだろうが」
「飛び出しちゃ‥‥危ない、よ。大丈夫‥‥僕の友達も、いるし」
 和哉の言葉にも、沙織の涙は止まらない。
「間垣先輩! 間垣先輩を助けて‥‥!」
「OK任された。その涙、私が止めてみせよう」
 不敵に笑って、香澄が一歩前へ出た。
「ちょいと伯爵さん、間垣君より先に片付けなきゃいかんのがいるみたいだよ?」
「‥‥確かに、そのようだ」
 伯爵は、ソラの『乙女の涙』に身動きが取れなくなっていた。反対側には、伯爵を盾にすべく菫がすがりついている。
「この野郎、見せ付けてんのかー!」
「く、両手が塞がっていては‥‥」
 不利とは分かっていても振りほどけない伯爵に、迫る不良。
「ドラグーンは騎士! 騎士は高貴な方の剣!」
 ガシッ、と南雲が打撃を受け止めた。
「‥‥私は伯爵の剣になるよっ!」
 そのまま乱戦の中に突っ込む南雲。
「沙織さん、泣かせません、よね?」
「我が誇りにかけて」
 上目遣いのソラの言葉に、伯爵が重々しく頷いた。ソラの手がそっと離される。左側に張り付いた菫をさっとマントに包み、伯爵は右手一本で迎撃を始めた。
「これは悲しき乙女の涙の為。これは麗しき乙女の涙の為。これは美しき乙女の涙の為‥‥」
「は、伯爵伯爵、その子もう気絶してるからっ」
 ロープもないのにダウンを許さない伯爵を、シャロンが苦笑交じりに制止する。

「へっ、なかなか良いパンチしてるな先輩‥‥だがキメラの一撃に比べたら軽いぜ!」
 ボクサー崩れっぽい不良のパンチをメットで受け止める一人。フェイントで左右に抜けようにも、フットワークでついてくる。
「ヘルメットを粗略に扱うな、危険だぞ」
 等と戦いの合間に言う余裕のあるバイク好きのリョウの横を沙姫が駆け抜けた。
「一人。鼻血、出てるよ〜」
 そう言いながら、木製バットで一人の相手を撃墜する。
「ひ、卑怯‥‥」
「極道の戦いに卑怯もへったくれもない! なんちゃって♪」
 微妙に実感の篭った発言にそれ以上の追求をやめて、一人は別の敵へと向き直った。

「畜生、胸無女め‥‥!」
 懲りない不良がNGワードを口にしては撃破されていく。
「小さいのは希少価値があるんだ!!」
 叫ぶミズキの横で、いつの間にか参戦しているミク。
「どうせ成長しませんでしたよ!! ‥‥ちくしょぅ!!」
 血を吐く様な叫びと鬱憤をぶつけられ、不良達がまた星になる。2人の少女の間に漂う微妙な連帯感。だが、年齢的にミクにはまだ成長の余地があるのであった。

●戦い終わって
「女を泣かせるバカ共は、私に蹴られて死んでしまえい!」
「‥‥大した姉さんだ。ここは俺が出にゃならんようだネェ」
 雑魚を蹴散らしていた香澄に、柏木が立ちはだかる。が、彼女はあっさりと背を向けた。
「立てよ間垣‥‥」
 見上げる少年に、香澄がニッと笑って柏木を指差した。
「Let’s 下克上!」
「舐めるな!」
 柏木が憤怒の形相で突進してくる。
「うわぁああ!」
 トン、と香澄が柏木の足を引っ掛けた。無我夢中で拳を振るった間垣の拳が、柏木の顎を揺らす。
「でも、まだ暴れる先輩の拳から、彼女を庇って倒れたり! 次に目を覚ますのは保健室の中で、彼女が心配そうに‥‥」
 乙女チック展開を妄想する南雲をよそに、現実の柏木はあっけなく沈んだ。

「お、覚えてやがれー!」
 まだ動ける不良達が蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。何人かは落とし穴にはまったらしい。
「独創性のない捨て台詞は美しくないな」
「いつかのバラのお返しは、これで済ませたわよ」
 伯爵へ、シャロンが片手を上げる。さすがに熟練のファイター、その身にも本にも返り血一つついていない。
「え、あの派手な格好の奴、伯爵?」
 キョトンとしている一人に、周囲が笑った。

「間垣先輩‥‥」
「‥‥チッ。格好悪い所見せちまったな」
 横を向く少年と、真っ直ぐに見つめる少女。傍観者を決め込む和哉と、期待溢れる眼差しの菫。
「なんかいいね〜、青春って感じ?」
 沙姫も、2人と一緒に見物に回ったようだ。
「もしさぁ、このままで逃げる気だったら‥‥ボクは許さない」
 ミズキがジト目で間垣の様子を見る。
「また今回みたく狙われるかもだけど‥‥やっぱりフる?」
 結論を迫る周囲の圧力に、間垣は赤くなった。
「待ってください。いいんです、私は別に‥‥。先輩、勝手に追いかけて来て、ごめんなさい」
「あっ、待てよ沙織。その、俺は‥‥」
 少女の手を取る間垣。
「本当は。追いかけて来てくれて、嬉しかった。また‥‥、前みたいに一緒にいてくれよ」
「‥‥うん」
 空気を読まずに、伯爵が惜しみなく拍手を送る。
「前みたいに、ッスか。青春ッスね、姉さん」
「誰が姉さんだー!」
 ミズキに木刀で伸された不良Aは何かに目覚めたかのように幸せそうだった。

「あ‥‥風紀部さんが‥‥来てくれたようです。今頃」
 周囲を警戒していた和哉が大声を上げる。風紀部に苦手意識のあるリョウは苦笑いしてその場から駆け出した。
「がんばれ‥‥1000分の1の確率だって、2人を隔てることは出来なかったんだ」
 2人の出会いは運命に違いない、という言葉に頷く沙織。
「沙織さんが、幸せならいいけれど」
 彬が苦笑した。
「学園生活はまだこれから、ゆっくり距離を縮めたら良いわ」
 卒業式に、またここに来れたらいいわね、とシャロンが笑う。幸せそうな2人を、ソラは少し羨ましげに見つめていた。