タイトル:【Woi】救出作戦マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/08/24 23:21

●オープニング本文


 北米を巡る泥沼っぽい攻防戦。その一翼を担っていた能力者集団に、敵地で取り残された友軍の情報が入ったのは、作戦も大詰めを迎えていた午後だった。人数は、6人。どうやら不時着したパイロットを救出する為に深入りしてしまったらしい。
『くそ、弾ももう残り少ない。救援は不要だ。勲章が出たら、厚化粧女にクソ喰らえと伝えてくれ』
 爆発音、断続的な機関銃の発射音を背景に、そんな声が無線を流れる。ノイズの無い声は、その現場が意外と近い事を示していた。
「俺達はこんな時の為にいるんだ。諦めるな! 今行くから!」
 通話を切ってから、間垣は柏木の顔をうかがう。唇を横一文字に結んでいた男は、無言のままバハムートの中で頷いた。自称・カンパネラ学園元四天王、不動の柏木が小集団のリーダー格のようだ。半数近くを占めるAU−KVが好き勝手な塗装をされている辺りから察せるように、彼らはいわゆる不良の集団である。
「発信源は南に4kmね。川の向こうはバグア側だけど、まだこっちの道路は通れるわよ?」
 同じく、自称・カンパネラ学園四天王、疾風のルイのミカエルの白い装甲は、泥や汚れでくすんでいた。彼の舎弟達にも、疲労の色は隠せない。学園内では柏木一派のライバルを自称する彼も、バグアに対しては頼れる仲間だ。
「他の隊にも、協力をお願いしました」
 この集団には場違いな普通っぽい少女が、ヘッドセットをずらしてそう報告した。間垣の幼馴染の沙織は、この一年程ですっかり場に馴染んでしまっている。
「よし、この先の橋で合流せぇ、と伝えろ。ワシとルイは橋で敵を食い止めるけぇ、間垣達は仲間を救出じゃ。ええな?」
「はいっ」
 沙織と間垣が、緊張したように声を返した。バグアの本隊は川の向こうとはいえ、こちら側にも既に浸透してきているはずだ。それらを突破し、現地で4人とパイロットを確保して戻る。口で言うのは簡単だが、実行するのは言うほど簡単ではない。
「俺らがついてる。安心しろよ」
 柏木一派の元ナンバーツー、今はボクシング同好会に入っている佐藤が厳つい顔を笑顔に変えた。

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 よほど固い構造だったのか、あるいは偶然か。爆撃と砲火で原形をとどめない家屋が多い中、その3階建てのビルは、いまだ健在だった。
「キメラに、囲まれてるのかな‥‥?」
 沙織が言うように、目に見える範囲で5体の小型キメラがいた。3階の窓から、兵士がそのキメラに銃撃を送っているのが見える。建物の様子を伺っているのが小型ばかりゆえに何とか持ちこたえているようだが、このままではそう長くは持ちそうに無い。距離は、300mほど。
「柏木先輩が、あっちの敵は抑えててくれるはずだから。時間を合わせて、突っ込もう」
「ああ、それでいい」
 間垣の言葉に、佐藤が頷く。後輩を見守るその表情は、顔立ちに似合わぬ優しい物だった。
「ドラグーン以外の人は、行きは誰かのケツに乗ってもらってもいいし、走っても構わない」
 佐藤、間垣、沙織と柏木の舎弟3人が頷く。いずれも学園生徒であり、ドラグーンだ。それ以外に、数名の傭兵が救助作戦に名乗りを上げていた。
「‥‥帰りは、助けた人に乗ってもらおうかと思うんだけどさ」
 2人乗りすれば、当然回避などが鈍る。速度を優先するか、安全を選ぶか。どちらも重要な事だ。
「あの、私‥‥は?」
「沙織は、俺の後ろからついて来てくれ。あんまし、離れるなよな」
 ひゅーひゅー、とか口笛が飛ぶ。と、不良達の表情が強張った。
「まずぃ!?」
 どかん、と建物の1階部分が砕ける。サイのような大型キメラが体当たりを敢行したのだ。その後ろに、人型のキメラが2体続いていた。
「くっ、仕方が無い。このまま行こう!」
 立ち上がった間垣に、緊張した面持ちの沙織が声を掛ける。
「‥‥大丈夫、だよね? 柏木さんいなくても、平気だよね?」
 強張った笑顔で、間垣は彼女に頷いた。
「大丈夫だ。他に、頼りになる連中も来てくれてるしな」

●参加者一覧

ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
鳳由羅(gb4323
22歳・♀・FC
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF

●リプレイ本文

●突撃前
 橋の向こう側はバグアの勢力下。いつ大規模な増援が来るかも定かならず、味方の航空支援など望むべくも無い。そんな状況下、取り残された友軍を救助するために困難に挑む者達がいた。
「あまり状況はよろしくないようですね‥‥」
 時間を稼ぎ、敵の目を引き付けるべく橋へ向かった弟達を見送り、鳳由羅(gb4323)は憂いを浮かべる。
「‥‥主よ。どうか皆をお守りください」
 囁き、頭を垂れて剣に唇を落としたサンディ(gb4343)は、すぐにまっすぐな目を救助目標のいる建造物へ向けた。
「この剣に誓って、もう二度と犠牲者は出させない」
 今度の囁きは神へではなく己への誓いだろう。聞いていたフォル=アヴィン(ga6258)は、静かに眼を閉じた。幾度か肩を並べ、時に不幸な結末を共に味わった年下の少女の幼い純粋さを危うく、しかし好ましく思う。届かぬ物に手を伸ばそうと思う事を、彼は諦めていたから。
(できれば、そのままでいて欲しいですね。いや‥‥)
 フォルは微かに笑いながら、蒼に変じた目を開ける。
「勲章なんて出ねえぜ、2階級特進だけってところさね」
 そんな仲間達を見ながら、ツィレル・トネリカリフ(ga0217)が斜に構えたように言った。無論、冗談だ。軍人ですらない『最後の希望』の生命に、この世界が報いる物は余りに少ない。
「させないさ。そんな事には」
 覚醒した冴木氷狩(gb6236)は語気鋭く言う。あの建物には、彼の妹がいるのだ。
「絶対に全員揃って帰りましょう」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)もまた、助けたくも届かなかった経験を持っている。なればこそ、その意思は強かった。仲間達の声を聞きながら、クラリア・レスタント(gb4258)は口をつぐみ、目だけを大きく開いている。
(早く慣れなきゃ。震えて泣けばあやしてくれる。そんな事は、もう無いのだから)
 冷静に、そう自分に言い聞かせる事ができる事こそ慣れである、と先人は言うだろう。幼い少女はもう、新兵ではなかった。

●突撃、開始
「『兵は神速を尊ぶ』と言いマす。急ぎましょウ!」
「安心しろって。間違いなく、届けてやる」
 建物へ乗り込む事を選んだクラリアは、不良達の中では一番場数を踏んでいる佐藤の後席を選んでいた。同じく、救護に回る氷狩とツィレルは、その舎弟達のリンドヴルムに同乗する事になる。
「うし、露払いは任せろ!」
「私も頑張るよ」
 間垣と沙織、そして残る舎弟は2人乗りの3台のエスコート役だ。場合によっては、走行中に飛び掛ってくる敵の攻撃を、その身で引き受ける事もありうる。緊張するドラグーン達を一瞥してから、御山・アキラ(ga0532)が鋭く声を発した。
「先に仕掛けてビルから引き離す。救助は任せるぞ」
「‥‥え?」
 間垣が問い返す間もなく、アキラが地を蹴る。瞬天速のスキル。アキラの長身は、その名の通り一瞬でバイクの先へ跳んだ。
「くっ」
 軋む骨格と、身体から搾り出される何か。再度の酷使にエミタが耐えうる状況になるまでの僅かな時間も無駄にせず、長いストロークで駆ける。バイクが追いついた瞬間、再びアキラが前へ出た。
「‥‥アブネェな」
 佐藤が舌打ちする。彼だけならば、アキラの疾走に辛うじて追走できたかもしれない。が、彼に併走する連中は、300mの道行きの半ばまで走らせるのが精一杯だ。
「‥‥フッ」
 アキラが気を吐いた。それは笑いか、それともただの呼気か、あるいは自身を奮い立たせるための気合だろうか。建物まであと僅かに迫り、SMGを構えた。ダメージよりも注意を引く事を狙って、銃弾をばら撒く。
『グルゥ!?』
 銃声と敵意に、狼キメラが振り返った。建物に再度の突進を試みていたサイも、足を止める。裂けた隙間から、人型2体が建物へ侵入していくのが見えた。
「1、2、3、4‥‥」
 自分にぎらつく目を向けてくる敵を、数える。
「5、‥‥6、7、8、9‥‥10、か」
 建物の裏側、死角にいた狼が姿をあらわしたのを見て、アキラは不敵に笑った。狼10匹、それにサイが自分へ向かってきている。凌ぎきれば、勝ちだ。

●門前の戦い
「大丈夫か!?」
 ドラグーンの一団が戦場に辿り着いた時、敵の嵐のような猛攻を、アキラは何とか耐え抜いていた。1対1であれば、遅れを取るような相手ではない。が、10倍の数の差は、熟練の傭兵にとってもなお、厳しいものだ。
「お前の相手は、私だ!」
 サンディの短髪が踊る。一気にサイの側面に回り、斬り付けた。
「一気に貫く! フェザースラスト!!」
 鈍重な敵が、新手に注意を向ける。頭を下げたサイの角が、目を狙った少女の渾身の突きを弾いた。衝撃に打点を逸らし、逆に踏み込んでもう一度突く。
「どうした。私はこっちだ」
 サイが足を踏み下ろした時には、サンディの姿は逆側に回っていた。
「サンディさん、斜め後ろ、狼です!」
 優雅にさえ見える剣閃を視界の隅に、フォルが叫ぶ。少女が軽く頷くのが見えた。
「行きます!」
 2人より少し遅れて、リゼットが狼の群れへ切り込む。
「ようやく、反撃か」
 アキラがSMGを構えなおした。深手は受けていないとはいえ、その身に刻んだ傷は10では効かない。
「大丈夫ですか?」
 だが、援護射撃を始めた由羅の声に、彼女は迷う事無く頷いた。

「ビルの真下に付けて貰えマせんか?お願いしまス」
 クラリアの声に、佐藤のメットが上下に動いた。アキラに殺到していた敵も、新手の姿を認めて再び散り始めている。行く手を塞ぐ狼の進路を、間垣が体当たりをするように塞いだ。
「こっちは、あの裂け目に頼む!」
 氷狩が言う。近くによってみれば、建物の入り口は雑多な家具などで内側から塞がれていた。彼の乗るバイクを側面から襲いかけた別のキメラの周囲に、不意に赤い光が瞬く。救助を待つ兵士達からの援護射撃のようだ。
「‥‥チッ。急がんとヤバいぜ」
 ツィレルが、建物の狭い窓から突き出した銃身を見上げ、呟いた。彼らが派手に立ち回れば、バグアの注意を惹いてしまう事を、彼は危惧している。
「っし、行くぞ!」
 建物まで50m。纏まって動いていたバイク集団から、佐藤が抜け出る。そのまま、建物の壁すれすれで急停止した。
「『貴方』も人の暮ラし‥‥命を守りたいんデしょう!? なら力を貸シて!」
 言いながら見上げた壁に、幾つかある突起物が目に入った。体内でエミタが動くのを感じる。バイクを飛び降り、そのまま疾走した。足掛かりになる物を頼りながら、上へ。一気に屋上まで上がる。
「‥‥ありがとウ」
 呟いてから、少女は階下への道を急いだ。

 派手に立ち回るサンディがサイの注意を引き付ける。出来た隙に、フォルが足元を伺うのが、2人の作戦だった。身の軽いサンディは、サイの攻撃のほとんどを回避している。だが、まぐれ当たりが1発。それだけで彼女の顔が歪んだ。
「‥‥早めに、決めましょうか」
 サンディの立ち回りとは対照的に、無造作に踏み込んだフォルが、渾身の一撃を左前足に。大木を打つような手応えと共に、朱鳳が真紅に染まる。
「もう1つ!」
 刺さった傷口を抉るように捻り、そのまま縦に切り下げた。噴出した血を横に一歩ステップして、避ける。
「作戦成功、だね。このまま一気に‥‥!」
 ちらりと建物を見て、サンディが言う。救助班のツィレル、氷狩が駆け込んでいくのが見えた。僅かに、フォルの口元が綻ぶ。
(せめて、手の届く物くらいは守りたいですから)
 例えば、目の前の少女のまっすぐな思い、とか。

●救出者達
「邪魔だ! 雑魚ども!!」
 階段で人型キメラに追いついた氷狩は、女性的な容姿に似合わぬ怒声と共に、ソニックブームを放った。2匹のうち1匹が、階段を塞ぐように振り返る。
「こっちは2人だ。1匹で残ったのはバカだったな」
 人型キメラへ、ツィレルの放った白い光が刺さった。1発、2発と受けつつも倒れない。槍を持った手が、冗談のような速度で閃いた。衝撃波が、後ろのツィレルの肩を裂く。
「どけぇえええ!!!」
 氷狩の吼え声は、上階の妹の下へも届いていた。かつてはオフィスだったのだろう。やや広い部屋の中央、美雲ともう1人のパイロットが椅子にもたれていた。兵士達は、まだ窓の外の警戒を続けている。しかし、ライフル弾はさっきの援護射撃で尽きていたらしい。
「お兄‥‥ちゃん?」
「皆‥‥、来てまス。あと少し」
 弱々しく声をあげる美雲に、一足先に上から合流を果たしたクラリアが頷いた。と、バリケード風に封鎖されていた廊下側から騒音が響く。
「下からの道は、あれ一つ?」
 身構えつつ、聞いたクラリアに特殊部隊の兵士が頷いた。壁面外の非常階段は、通れる状態ではないらしい。
「救助、か?」
 問いかける声。
『ルォオゥ』
 返ったのは、人ならぬ吼え声と、扉を殴打する打撃音だった。机を積んだだけのバリケードが、揺れる。
「‥‥っ」
 3丁のハンドガンがそちらに向いた。クラリアがするすると扉前まで動き、抜刀する。窓の外から、赤い光が差し込んだのはその瞬間だった。

「‥‥!」
 キメラとの交戦中、視界を過ぎった赤い光にリゼットは身を固くした。見慣れた怪光だが、生身で見上げた迫力は、愛機のモニター越しのそれとはやはり、違う。プロトン砲の禍々しい赤色は、建物の屋上を掠めるように消えた。
「外れた‥‥? っと!」
 一瞬、見上げたフォルの隙をつくように、サイがつっかける。突き飛ばされた身体が、宙を舞った。が、見た目の派手さの割りにダメージはさほどでもない。
「フォル、大丈夫?」
「ええ。‥‥どうやら、効いているようですね」
 サンディの声に頷き、開いた間合いを再び詰める。前足に深手を負ったキメラの踏み込みは、さっきよりも甘かった。

●崩壊
「二射目、来ます」
 背の高い由羅が、更に背伸びをして川向こうを伺う。影のように見える亀のシルエットが、動いているのが見えた。
「どうやら、タートルワームがこちらに狙いを向けたようです‥‥」
 別働隊も、苦戦しているのかもしれない。由羅が言う間にも、赤い怪光線が建物の基部に着弾した。熱波で土煙が上がり、腹に響くような妙な響きが聞こえる。
「早急に方をつけないといけませんね‥‥」
 壁面を細かいヒビが覆っていくのを見ながら、由羅は飛び掛ってきた狼キメラに忍刀を一閃させた。
「こいつは、俺達が!」
「お任せします」
 間垣と沙織が、リゼットが相手していたキメラの片方へ攻撃を始めた。大剣を振るうワンピースの少女と装甲歩兵2体が並ぶ図も異様だが、装甲歩兵2人分でリゼットと戦力的に大差が無い、という辺りも異様な光景だ。
「‥‥もう少し、強くならねぇと」
「間垣先輩、何か、言った?」
 そんな2人を微笑んで見てから、リゼットは自分の相手へ向き直る。交歓は後でもできるから。

 建物の不気味な揺れは、中を行くツィレルにも感じられた。
「‥‥ッ。まずいぜ、これはよ」
 踊り場で人型キメラを下した氷狩と彼は、治療の間も惜しんで上階へ駆けている。上りきった先の廊下に、吹き飛ばされた、という形容が相応しいような状態の部屋への入り口が見えた。
「美雲! 無事か!?」
 駆け込んだ氷狩の視界に入ったのは、白っぽい人型キメラの背。クラリアが押され気味のようだったが、2人の来着で形勢は逆転した。
「お兄ちゃん‥‥。わざわざ来たの?」
 姿を見てもなお、半信半疑の妹をチラッと見て、氷狩はキメラの背へと攻撃を送る。その横を抜けたツィレルが、怪我をしている2人へと練成治癒を試みた。
「ん? そっちは氷狩の妹なのか?」
「‥‥あ、はい」
 頷く美雲に、内心で舌打ちするツィレル。どうやら、自分の役回りはその隣の白人男性のようだ。ツィレルが2人に治療を1度づつ行う間に、挟み撃ちを受けたキメラがもろくも倒れる。
「こちら冴木。ターゲット確保だ!」
 無線へそうがなってから、氷狩は妹に駆け寄った。
「嫌な感じだ。とっとと出ちまおうぜ」
 男に肩を貸しつつ、ツィレルが言う。壁に手の平をあてていたクラリアが、コクリと頷いた。
『‥‥基部が崩れかけています。急いで逃げてください!』
 無線機越しのリゼットの警告が、彼らの背を押す。

 先に出た兵士に続いて、負傷者を抱えた傭兵達が1Fのホールに出た時、不意に嫌な揺れが襲ってきた。構わず、出口へと急ぐ。天板や砕けた建材が次々に落下を始めた。
「お兄ちゃ‥‥」
「無駄口叩くな!舌ぁ噛むぞ!」
 背負っていた美雲を前に、抱き抱えなおして氷狩が駆ける。
「此処まで来て死なれちゃ、目覚めが悪いんでな」
 自分を置いていけ、と言いたげな軍人に首を振って、ツィレルも崩れ行く建物の中を走った。併走するクラリアが、比較的安全そうな場所を指示するが、完全に安全な場所などあろうはずは無い。

●任務完了
 建物の外にいたキメラは、既に全滅していた。
「‥‥大丈夫ですか!?」
 救急セットを手に、リゼットが駆け寄った。重傷者を庇ったツィレルと氷狩の2人の怪我は重い。
「全員、いまス」
 誰かに問われるより早く、クラリアがそう答えた。ほっと、サンディが息を漏らす。
「こちら、救助班‥‥要救助者救出完了です」
 由羅が、苦戦を続けているだろう橋上班に通信を入れた。
「長居は無用。怪我人もいるのだし、さっさと動こうか」
 自身もかなりの傷を負っているアキラが、言う。AU−KVの数は5台。4名に増えた重傷者を乗せてもなお、余裕があるのが幸いだ。もしも誰かが危惧していたとしても、帰りの300mに敵からの砲撃は無かった。橋の裏側、敵からの射線が届かぬ辺りに落ち着いてから、一息をつく。
「よし、家に帰ろうか」
 ようやく覚醒を解いた氷狩が、美雲に優しく声をかけた。