タイトル:【NE】父よマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/17 20:35

●オープニング本文


 まっすぐに北へと向かう輸送機へのしかかるように、100m程の距離を保って中型HWが張り付いていた。情報によれば、輸送機自体の航法装置は生きている。なんとか、隙をつければ救助できるはずなのだ。KVが数度目のダイブを敢行する。
『‥‥クソッ、近づけん』
 まっすぐに突っ込んだKVが、降り注ぐ攻撃に耐えかねて機体を捻った。
『アホウドリ、聞こえるか。機体をずらせ! そうすればこちらで何とか‥‥』
「うるさいね‥‥。おちおち休んでもいられないじゃないか」
 ヘルメットワームのモニター越しに見上げたソレは、呼吸器を大きく蠕動させた。青い肌に、縦長の瞳孔は蛇のごとく。
「まぁ、ここは暑い。外に出てもいいか」
「乗リ移ルノカ」
 操縦士の声に無造作に頷き、ハッチを開ける。気圧差で大騒ぎになるほどの高度ではないが、それでも激しい風圧が『彼』の背を押した。それに逆らう事無く押し出されながら、彼は異様なほど長い前腕を天井に引っ掛ける。
「さて‥‥」
 輸送機に随伴するヘルメットワームの時速は600kmは出ていた。その中を、彼はやや姿勢を低めにのんびりと歩く。背にしていた棒状の物を手に取ると、それは上半分が2つに開いた。中央にある加速器と、左右に開いた羽。それは極小型の粒子砲なのだろうが、見た目は原始的なクロスボウにも見える。
「大きさは小さいけれど、早いなぁ。でも、ルォウルの若駒ほどじゃないか」
 無造作に構えた筒先から、光の矢が飛び出した。
『うぉ!?』
 近づいていたKVが、翼に直撃を受けて脱落する。ソレを一瞥してから、彼は斜め下の輸送機の屋根めがけて、――弾丸のように跳んだ。ミシリ、といい音を立ててジェラルミンの外装が軋む。
「‥‥」
 そんな騒ぎの間も、輸送機のコクピットに座った男は微動だにせず、うつろな眼で前を見ていた。そのネームプレートには『本田』とある。

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『奪還部隊からの連絡途絶。第二陣、離陸を急いでくれ』
 管制の声に、加奈は唇を噛んだ。だから言ったのに、と。

 数日前、久しぶりに父と通話した。
『一般人のパイロットが乗った輸送機が、狙われているらしいな。まぁ、元戦闘機乗りの俺なら、そうそうヘマはしないぞ』
『捕まる前に、降りちゃうんでしょ?』
 クスリと笑う。
『おうよ。こいつで空中戦するほどバカじゃない』
 父親の言声聞けて、加奈は嬉しかった。勝手に適正試験を受けて、勝手に能力者になってから、あまり会話する事も無かったから。
『グリーンランドは、寒いみたいだから。冷えないように気をつけてね。‥‥私も、行くかもしれないし』
 言いながら、予定を探す。実習や依頼など、グリーンランドへの物は幾つも見つかった。正直、ラストホープにも日本にも、居たい気分ではない。何よりも、父親に会って話がしたかった。
『おう、じゃあまたな。電話代も高いんだろ』
『うん。‥‥それじゃあ、また』
 ほっとした。少しぐらついた気もしたけれど、まだ変わらない関係があることに。それが、僅か数日前の事で。

「父さん‥‥」
 呟いて、翔幻のコクピットガラス越しに空を見上げた。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

●慌しい幕前
「大規模を含めても、KV戦の経験は今回で2回目‥‥頑張らなきゃ‥‥」
 トリシア・トールズソン(gb4346)は、少し気負っている自分を自覚していた。輸送機の奪還。この任務には、正パイロットの娘、加奈が志願している。
(‥‥加奈には、私のような想いは絶対にして欲しくない)
 どうしても、自分と重ねてしまうのだ。戦場で、目の前で父を失った事。父は満足げに逝ったが、少女は――。
(‥‥でも、私は生きて傍に居て欲しかった)
 きゅ、と唇を結ぶ。過ぎた時を物語るように、その目に涙は無い。ただ、心を貫く強い想いがあるだけだった。

「半数はうちの隊ですね」
 クラーク・エアハルト(ga4961)が誰ともなしに呟く。父の救出に向かう加奈を心配して、クラーク達『飛行クラブ』隊の仲間や、知人、友人も多く合流していた。
「何とか無事に奪還したいですね。無論、加奈さんのお父さんも」
「‥‥来てくださって、ありがとうございます」
 静かに言う加奈の心境を思い、直江 夢理(gb3361)は眼を閉じた。幾度目かの決意を、胸の中で今一度呟く。
(私、決めたのです‥‥。どの様な事があっても加奈様を守り御側で支える、と――)
 水理 和奏(ga1500)も、気心の知れたメンバーを見て少しほっとしていた。
「小隊のみんなが多く揃って嬉しい‥‥」
 きゅ、と握った手に、この場にはいない隊長から贈られたアメジストの指輪が光る。
「今日は頑張ろう」
 心はいつも、そばに。だから、彼女の分までも。そんな待機時間に、鋼 蒼志(ga0165)が1つ咳払いをする。飄々とした口調はそのままに、纏う空気は少し厳しかった。
「‥‥加奈さん、俺達は戦場に出る以上、命のやり取りをしなくてはいけません。必要なのは奪う覚悟、奪われる覚悟。‥‥良いですか?」
 クラークの目が、ほんの少しの間だけ伏せられ。再び上げた目は、鋭い。そのまま、青年は蒼志の言葉を引き継いだ。より、直截な言葉で。
「最悪の場合は撃墜もありえます。自分の親を撃つ事になります。覚悟は良いですか?」
 誰かが、息を飲む音がした。加奈は、前を向いたまま聞いている。
「‥‥覚悟が無いのなら、今回の任務は外れてください」
 2人が厳しい人間だ、と言うわけではない。戦場と人生の先達として、言うべき思いを言葉にしているだけなのだろう。加奈は、少し間を置いてから口を開いた。
「私はパイロットの娘です。父を空で失う覚悟は、ずっと前から出来ている、と思います」
 けれども、と付け加える。
「‥‥能力者になって、ただ待たずにいられるようになった。だから、その覚悟を覆す為に。あの空に行きたい、です」
 少女の声が僅かに震えた所へ、ファルル・キーリア(ga4815)が言葉を投げた。
「冷静になりなさい。そんな状態で戦えば、残るのは最悪の結末だけよ」
 クラークと蒼志も、頷く。覚悟は必要だが、思い描くのは最善でいい。
「大丈夫、この程度の状況、ここにいるベテラン達なら何回もこなしてるはずよ」
 鋭さが先に立つ語調が、ふと和らぐ。
「だから、私達を信じて、ね?」
「‥‥はい」
 加奈の声はまだ固さを残していたが、気持ちは落ち着いたようだった。
「ま、初っ端から気張りすぎでもいい結果出ないわ。まずは肩の力抜きなさいな。ほれ、深呼吸ー」
 良く通る鷹代 由稀(ga1601)の声。素直に息を吸い、吐く音が通信機越しに幾つも聞こえて、由稀はくすっと笑った。どんな困難な状況でも、自信と根性、そして希望を手放さなければ結果はついてくる。彼女は、それを肌で知っていた。
『こちら管制塔。滑走路が空いた。順次上がってくれ』
 9人が、それぞれの語調で了解を返す。待つ時間は終わり、これからは行動の時だ。
「‥‥ボクは見捨てないんだからっ」
 薄い青の機体の中で、ヴァシュカ(ga7064)はサングラス越しに空を見た。先天的に日差しに弱い彼女にとって、陽は常にガラス越しでどこか遠い。天に近づく為‥‥、と言うわけでは無いかもしれないが、ヴァシュカの機体は鍛え上げられていた。その力と意思で。
「‥‥必ず、届く」
 決意の強さを表すように、少女の体から薔薇のような香りが立ち上がる。微かに、柑橘系の爽やかさが残った。

●未知との接触
 輸送機とKVでは速度が違う。まずは目視で。やがてレーダーでもその姿を捉えることが出来た。
「‥‥向かって両翼に2機づつ。もう、気づかれてるね」
 ヴァシュカの目による修正を、管制機のクラークは素早く情報へ付け足した。輸送機と中型からやや西よりに、小型HWが展開している。
「空中とは思えない出鱈目な動き方ですね」
 クラークの言葉に、飛行クラブの面々は思わず頷いていた。進行方向は北だというのに、敵機はこちらを向いている。
「よし、馴染んできた、かな」
 そんな中、特注のライフル型コントローラーを調整していた由稀が、納得したように頷いた。狭い機内での取り回しは面倒だが、この銃は、彼女に重要な感覚を伝えてくれるのだ。

「やはり、コールに応えてはくれませんね」
 クラークが首を振る。
「噂のバグアは、アレか」
 蒼志が確認するように呟いた。人類の範疇外のシルエットは、今は輸送機の翼上にいる。
「まずは手筈どおりに行きましょ」
「‥‥了解だよっ」
 ファルルの声に、ロッテを組むヴァシュカが頷いた。彼女達は、北側の2機へ近接する予定だ。南側の2機へは、トリシアの白い機体が真っ直ぐに向かう。夢理機は、まだ間合いの遠い位置で機体を急上昇させていた。やや後尾に、加奈の翔幻がつく。奪還の為のポジションではなく、支援に回った加奈を気遣い、夢理が声を掛けた。
「‥‥加奈様には大切な役目があります。敵の呪縛を逃れたお父様に、声をお掛けするという役目が」
 何らかの状態異常に陥っているのならば、脱させる事もできるかもしれない、と彼女達は考えている。
「その時まで無事にいるのが、今の加奈様の役目なのです!」
 眼下に小さく見える敵を見据えてから、ブーストを作動させる。シートに軽い体が押し付けられる感覚。更に、もう一段階レバーを押し込んだ。
「ツインブースト‥‥行きます!」
 敵のプロトン砲が赤い閃光を吐き出すよりも遠い間合い。4つのサブアイが敵をロックする。ミサイル浪漫機構は手前の小型のみならず、200mほど後方の中型までをもその攻撃範囲に捉えていた。
「今‥‥!」
 トリシアがロビンのマイクロブーストを起動する。加速度のついた機体は、敵機が爆煙の向こうから現れた時には既に衝突しそうな程の近距離にいた。ナイフを突き立てるように迅く、鋭く。
「この火力なら‥‥どう?」
 DR−2の、機体の全長ほどに長大な加速器から迸る荷電粒子の束がプロトン砲の赤い火線と交差する。共に一撃づつ、被害は敵の方が‥‥。
「トリシアさん、右です!」
 管制に回ったクラークの声。咄嗟に自機を捻った。白い翼が醜く焼け焦げる。
「‥‥フロントで2対1、だったね」
 状況、再確認。まだやれる、と少女は気を引き締めた。

「ファルルさん、右からHWを寄せますから後お願いします」
 2機横並びの敵機のうち1機へと、ヴァシュカがつっかけた。
「時間をかけるとジリ貧ね。一気に行くわ!」
 突っ込む機影は、やや旧式の感があるファルルのS−01。弾幕を吐くファルル機に気を取られた隙に、ヴァシュカ機も間合いを詰める。レーザーの光条が一撃、ミサイルと銃弾で傷ついた機体を貫いた。続いて、もう一撃。HWが大きな花火に変わる。

 和奏と由稀やや後方にクラークの3機は、迎撃の小型ワームより低い高度から、輸送機と中型へ向かうコースを取っていた。
「‥‥こっち、止めに来ないのかな?」
 由稀の胸の中に微かに過ぎった不審感も、スコープ越しに敵を捉えた瞬間、消えた。敵機と輸送機自身を結ぶ直線上から接近している為、最適な狙撃位置というわけではない。
「上昇しながらの射撃ってやりづらいのよね‥‥。でも、やるしかないわ‥‥。PRM起動!」
「わかなフルパワー・リカVer発動!」
 2人の声が被った瞬間、視界がブレた。脳が揺さぶられるような感覚。
「なっ‥‥」
「これは?」
 クラークと和奏の声が聞こえる。異常を感じたのは自分だけでは無いらしい、と感じつつ咄嗟に機首を横へ。
「‥‥なんだ、動けるんじゃない」
 輸送機から500mほど下がった中型ワームが、プロトン砲を斉射していた。
「緊急事態だから‥‥。これでっ」
 一撃を避けたところで、視界が一瞬暗くなる。和奏の放った煙幕だ。
「アルヒア、目標を狙い撃つっ!」
 煙幕を抜けた瞬間、引き金を絞る。強化型のM−12を積載した機体の反応は、鈍い。彼女はその一撃に掛けるつもりだった。その横を、ラージフレアの輝きを尾のごとく引いたアンジェリカが進む。エンハンサーで強化された粒子砲が、中型の装甲をかすめた。
「‥‥あ、あれ?」
 バランスを崩した敵に、もう一撃。そう思った和奏が機体ゲージに目を丸くする。計算どおりならまだ余裕のあるはずの錬力が、足りない。

●ハルペリュン
「‥‥マタ来タゾ、ハルペリュン。今度ハ前ヨリ手ゴワイ。連中モ必死ダナ」
 中型ワームの機内で、異形がため息をついた。ハルペリュン、と呼ばれた輸送機の上の異形も耳を揺らして感情を表す。
「面白そうだから、コレは返したくないんだがねぇ」
 翼から窓の中を覗き込んでいたバグアは、風圧など無いかのようにするすると輸送機の上へあがった。弓のような光線兵器を無造作に下げて、周囲を見回す。ちょうど、加奈と夢理に追撃された2機目のワームが、トリシアに止めを刺されている所だった。
「‥‥ボクは欲張りだからね‥‥皆無事じゃないとね。少々足掻かせてもらいますよ」
 機体を旋回させたヴァシュカが、バグアを睨みつける。一気に、加速した。
「ほほう? いい獲物、か。あるいは戦士かな?」
 コクピットの中のヴァシュカは、不意に寒気を感じた。見られている、自分が。機体のカメラアイではなく、コクピットの中の自分と敵の視線が交わる感覚。捕食動物の凝視から、本能的に視線を逸らしたくなるのを抑えた。
「‥‥さて。こういう場合避けた方が負けだと思いませんか? ‥‥バグアさん」
 距離メーターが、縮まる。輸送機に当てないように、敵だけを。引き金を絞った瞬間、ヴァシュカは敵が笑ったような気がした。一瞬で、その光景は通り過ぎる。
「‥‥外した?」
 そう思ったのは、自分の攻撃ではなく。バグアの放った光弾はコクピットの脇に傷を刻んでいた。異形は、まだ健在だ。ヴァシュカの腕なれば、輸送機を気遣わずにすむ状態なら、当てられたやもしれないが。

 ――蒼志は、ワームとの戦闘に手を出さずにその一瞬を狙っていた。
「細々とした作業はあまり好きじゃないんだがな‥‥!」
 『Storm Angel』の攻撃を、『鋼鉄の暴風』が継ぐのは、偶然にしては出来すぎだ。
「だが、当てた方がいいんだったら―――」
 蒼志の操作に応えて、雷電のセッティングがデリケートに変わる。
「当たるさ。当てるでも、当ててみせるでもなく‥‥当たる」
 スコープの中に映るバグアの横っ面目掛けて、銃弾を放った。コンマ秒の合間に、バグアの姿が消える。
「当たった‥‥いや」
 命中弾を受ける前に、自ら飛んだのだろう。輸送機の屋根に、くっきりと足型が刻まれていた。石の様に落ちかけるバグアを、中型ワームが乱暴に掬い上げる。

「これは、引き揚げだね。連中、本気だよ」
「イイノカ?」
 乗り込んできたハルペリュンに、ワームのパイロットが問い返した。現状、押されてはいるが勝てない訳では無いと、ソレは思っているようだ。しかし、このまま戦えばきっと、輸送機はタダではすまない。
「今の体よりも、面白そうだったから残念だけどね。縁があれば、また後で手に入るだろ」
「‥‥ナラ仕方アルマイ。追イカケラレナイ程度ニ嫌ガラセシテオクカ」
 中型ワームが、加速を開始する。開始しつつ、機首をぐるりと後ろへ向けた。

●戦いの終わり
「各機、残りの燃料に注意してください」
 和奏からの疑念を、クラークは交戦各機に伝えていた。燃料が潰されれば、いかに精鋭のKVと言えども動く棺桶になり下がる。この時点で様子がおかしかったのは、下方から突っ込んだ3機だけ、だったのだが。
「また!?」
 旋回し、再アプローチをかけようとしていた由稀が眉をしかめる。
「‥‥確かに、機体が妙だね」
 淡々と言いつつ、首を傾げるヴァシュカ。蒼志は拳を一度握ってから、去り行く中型ワームから視線を逸らした。
「くっ。まだ動くの? ‥‥まさか!」
 ファルルの声。満身創痍の生き残りワームが、一斉に輸送機へと回頭したのだ。旋回の最中に1機は爆散したが、残る1機はまっすぐに輸送機へ。
「ここまで来て、やらせるわけには行きませんね」
 クラークの指示が飛ぶ。悪あがきを見せた最後のワームは、引き返した和奏が撃墜した。

「こちらはULT所属の傭兵隊です。本田さん、聞こえていますか」
「お父さん。眠ってるの? お父さんっ」
 輸送機を守るように、KVは周囲を固めている。クラークと加奈の呼び声にも、反応は無い。
「‥‥障害は消えたんだし。あとはハッピーエンドを待つだけよね」
 機内で、誰かに話しかけるように由稀が呟く。その直後に。
「‥‥こちらアホウドリ。気分は二日酔いより最悪だ」
「お父‥‥さん」
 加奈の言葉が途切れる。耳を傾けていた和奏が、ホッと息を吐いてから目をこすった。少し間が空いてから、低い笑い声が聞こえる。
「お前も空に来たのか。いい気分だろう。なぁ?」
 心底嬉しそうな父の声に、娘のため息がかぶさった。
「あの方が、私の将来のお義父様になるかもしれない方‥‥」
 夢理が、何やら呟きながら頬を染める。まぁ、いつもの事だ。
「よく、頑張ったわね。私のアドバイスなんて必要なかったかしら?」
 からかうようなファルルの言葉には、声が返らず。加奈は首を横に振っていた。
「覚悟があれば、意思は強固なものとなる。そして意思は結果を導く。‥‥望んだ結果は得られたか?」
 蒼志の言葉に、頷く加奈。やはり、返事は言葉にならないようだった。その間、ヴァシュカは微笑を浮かべつつ、レーダーと目視観測を続けている。クラークのウーフーも周囲の警戒は怠っていなかった。
「個人回線を使いなさい。お父さんに、話したい事があるんでしょ?」
「‥‥すみません。ありがとう」
 2人きりにしてやろうというファルルの意図に、湿った声が返る。その後、親娘の間で何が交わされたのか。輸送機に並んで飛ぶKVは、確かに親子のように見える。
「‥‥良かった」
 その光景に、微笑みながら。トリシアは手にしていた短剣を胸に抱いた。

 彼らは、知ることは無い。輸送機の積荷が、かつて人類の敵として手配されたある男だったと言う事を。今だ意識の戻らぬエルリッヒ・マウザーの身柄は、極秘のうちにLHからタシーラクへと移されていた。