タイトル:【徳島】八木の恋マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/28 13:08

●オープニング本文


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 それはある日の喫茶『ドラゴン』にて。
「八木さん。オーダー入りましたよ。八木さん?」
「あ、ああ。ドライカレーかな?」
 ため息をつくのも疲れた様子で、加奈はゆっくり首を振る。
「コーヒーです。‥‥大丈夫、ですか?」
 多分、大丈夫ではない。バイトの加奈のフォローが無ければ、大変な事になっていただろう。その原因は、カウンター席でアンニュイな表情を見せていた。この季節だと言うのに長袖とロングのスカート。あまつさえ日傘まで完備した、どこのお嬢様かというスタイルの若い女性だ。
「‥‥探偵さん、ですか。失礼ですがそうは見えません」
 八木が受け取った彼女の名刺には『城戸探偵事務所 助手 森 里美』とある。
「よく言われるんです。多分、優秀じゃないんだと思います」
「あ。いや‥‥」
 慌てたように取り繕いかける八木へ、森はニッコリ微笑みかけた。
「‥‥そのお陰でここの美味しいコーヒーを頂けるんですから、悪い事ばかりじゃありませんね」
 八木の髭がだらしなく下がる。

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 遡る事、数日。徳島沖の海底要塞は、珍しい来客を迎えていた。
「こんな街、1時間もあれば制圧できそうなのに。何のんびりしてるのさ、モリン」
 どこかのファーストフード店で買って来た様なフローズン系飲料にストローを刺しつつ、甲斐・蓮斗はニコニコと笑う。実力とか序列では地上のバグアでもかなり上に居るはずの少年だが、こうしていると中々そうは見えなかった。
「これだからお子様は困るわね。様式美と言うのを解さないのかしら」
 新キメラは最多で一週間に一体(ただし再生怪人は除く)とか、徳島上げますと子供に言わせたいとか、何かそんな方向性の様式美に、彼女達は拘っているらしい。というか、この要塞の主のバグア、ボルゲが拘っているのだろう。
「まぁ、拘るのもいいけどさ。勝てないとカッコ悪いよ?」
「ぐっ‥‥」
 言葉に詰まるモリン。ルブラエンジェルズ相手の度重なる失策のせいで、相方のキドンは下層牢獄に入れられている。その二の舞になりたくはないが、彼女にも事態を打開する妙案は浮かばなかった。
「これまでの資料を見た限りではこの何とかエンジェルズっていうのはこの辺りを根城にしてそうだね」
 指をくるくるさせながら、床面の平面図を足でつっつく蓮斗。
「この辺り、って。商店街じゃない? ここ」
「んー?」
 喋る合間に飲み終わってしまったらしく、ストローがガラガラと行儀の悪い音を立てる。どうやら、ジュースよりも氷が多い配合だったらしい。
「‥‥少し、ムカついたな。この街のお店、サービス悪いよ」
「精算前に『氷少なめ』って言わないからよ」
 バグア幹部とは思えない、のんきな会話だ。
「さっきの場所、探してくれば? 敵のアジト見つければ、色々やりやすいんじゃない?」
 帰りに氷少なめのお土産よろしく、とか付け足す。
「‥‥こ、このガキャ‥‥」
「怒るとシワが出るよ、おねえさん♪ キメラは作っといてあげるから、頑張ってね」
 無邪気な笑顔を見せてから、蓮斗はごろっと寝転がった

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 失礼、と一言断ってから、森ことモリンは手洗いへと席を立った。
「八木さんってば‥‥。娘位の歳じゃないですか」
 皿を洗っていた加奈は、憮然とした表情でそう呟く。と、薄い壁の向こうから、囁くような声が彼女の耳に入った。
『ルブラエン‥‥この辺‥‥騒ぎをおこし‥‥びき出せば‥‥でしょう』
 つるっと加奈の手がすべり、皿が床に落ちる。‥‥直前で、八木が手を伸ばしていた。
「加奈君こそ、大丈夫かい?」
 森の居ない場所ではいつもどおりのマスターっぷりを見せる八木が、気遣わしげに彼女の額に手を伸ばす。
「いえ。‥‥ちょっとふらふらするかも、です」
 あたふたと手を振ってから、加奈はふらつく振りで壁に耳をつけた。
『裏手にはあの妙な二輪もありましたし、おそらくは間違いないかと』
『よかろう。キメラ『とりかーねる』を向かわせる。‥‥失敗は許さんぞ、モリン』
『‥‥ははっ』
 聞こえた最後の遣り取りに、びくっと加奈の背筋が伸びる。八木が口をへの字に曲げた。
「心配だな。少し休んだ方がいい」
「あ、はい、はい。そうですね。私もそう思います」
 がちゃり、とトイレから出てきた森が、上品な微笑を見せる。
「すみません、もう少しいさせてくださいね」
「ええ、幾らでも居て下さいね。貴女の望むだけ」
 嬉しそうに言う八木を横目に、加奈はエプロンを外した。ペコリと頭を下げてから、大慌てで裏へ回る。
(ど、どうしよう‥‥)
 色んな意味で困りきった加奈は、急いで仲間達に連絡を取るのであった。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
アンジェリカ 楊(ga7681
22歳・♀・FT
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
御崎 栞(gb4689
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

●あいむらびんいっと
 パラッパッパッパー♪

 能天気な呼び出し音が、徳島空港に降り立ったファルル・キーリア(ga4815)のポケットから響く。ベンチで本を片手にバス待ちをしていた彼女は、表示された名前を見て口元を緩めた。
「もしもし。ファルルよ」
『ファルルさん、今どちらですか? 大変なんです』
 その言葉を聞いた途端、ファルルの表情がお姉さんから戦士のそれに変わる。

 徳島商店街に飛来したキメラ、とりかーねるは、たまたまパトロールで居合わせた夏目 リョウ(gb2267)と交戦していた。
「騎煌は駐輪場か‥‥。だが、ここで退くわけにはいかない!」
『メガァー』
 妙な鳴き声を上げつつ、ステッキを振り回すキメラ。肩口を打ち据えられ、膝をついた所を突き飛ばされた。
「くっ、強い‥‥!」
 立ち上がった彼の胸元で、端末が受信ランプを点滅させる。
「そうか。これもボルゲのっ。‥‥判った、何とか公園へ向かってみる」
 加奈から事情を聞いた彼は、人通りの少ない方へと誘導し始めた。

 クラウディア・マリウス(ga6559)と柚井 ソラ(ga0187)が加奈から連絡を受けたのは、阿波おどり会館を見学していた時。
「はわっ。モリンがドラゴンに来てるの?」
「それは大変ですね」
 クラウに相槌を打ちつつも、ソラはその状況が想像できなかった。どこか懐かしい雰囲気のあの喫茶店に、女王様コスのモリンはどう考えても似合わない。
「ソラくん、公園だって。急ごう!」
「は、はい」
 2人が駆け出した時には、加奈は次の仲間へ電話をかけていた。
「‥‥はい。そう、ですか。八木さんが‥‥。判りました、すぐに向かいます」
 静かに頷き、日課の書店巡りを中断する御崎 栞(gb4689)。蛍光灯ではない日差しが目に痛い。商店街の別の店では、ブティックの店員と笑顔で戦っていた智久 百合歌(ga4980)も知らせを受けていた。
「すいません、試着室お借りしますっ」
「あ、はい。どうぞ」
 営業用スマイルで頷いた店員の目が、出てきた百合歌を見て丸くなる。
「後でちゃんと買いに来ますから、ごめんなさい」
 持参のチア服に着替えた百合歌が店から駆け出していった。一方、ドラゴンに近い一角では。
「氷、多いわね‥‥。量ごまかしてんじゃない?」
 バイトの少女をじろっと睨み上げたアンジェリカ 楊(ga7681)だが、世界規模のチェーン店は訓練されたスマイルでそれを迎撃した。
「御一緒にポテトなど如何ですか‥‥か」
 手ごわいわね、と無表情に呟いた少女のポーチからも、着信音が響く。電話の向こうに頷きつつ、彼女は急ぎ足で歩き始めた。途中で、同じくドラゴンを目指していた栞と合流する。騒ぎを追った百合歌は、別方向のようだ。

●龍の巣にて
「加奈様、連絡は終わりましたか?」
 自称忍者の直江 夢理(gb3361)が、客席を伺う。頷いた加奈も、カウンター奥で同様にしていた。
「‥‥美味しい」
 その視線の先には、芳しい液体を喉に送り息をつく美女。怪しい。2度言いたくなるくらい、怪しい。が、上の空で幸せそうな八木も、外の様子が気になるらしいモリンもそんな視線に気づいてはいなかった。

「モリンがいる、はずですけど‥‥」
 前を通り過ぎつつ、店内を伺うソラ。チラッと眼の端に綺麗なお姉さんが引っかかる。
「あれがモリン‥‥?」
 瞬きしつつ、思わずそんな言葉が口をついた。少年の連れの方は、より驚きに素直だったりする。
「はわ‥‥?」
 じーっと凝視しつつ、ふらふらと。窓ガラスに鼻をくっつけそうになったクラウ。
「‥‥?」
 店内のモリンとばっちりしっかり視線が絡んだ。にも拘らず、どっちも正体に気づけない。
「はわっ、ソラ君まってーっ」
 はっと瞬きして、クラウは少年の後を小走りに追う。
「‥‥何となく、和みました」
「微笑ましいですね、加奈様」
 うん、あの2人は和んだ少女と同世代で、微笑ましく見ている子より5歳くらい上なんだが、それは置いておこう。
「負けていられません。私達も必殺技を編み出しに参りましょう!」
 ぐっ、と握り締めて力説する夢理。
「え、でも。今からすぐ出撃だと思いますし、間に合わ‥‥」
 思わずそう答えてから、口元を押える加奈。だが、モリンは駆け去る子犬を微笑ましげに眼で追うのに忙しいようで、聞いてなかった。癒し効果恐るべし。
「夢理ちゃん、しーっ」
 指を唇にあてて、小声で言う。そのタイミングで、奥の更衣室の戸が開いた。
「ひっ‥‥!?」
 振り返った2人が、恐怖に思わず身を寄せる。
「やっぱり、ルブラエンジェルズとして完璧にしないとね」
 ガスマスクにチア服というアンジェのスタイルは、仲間であってもそう簡単に見慣れたりはできない。しかし、本人的にはすっかり慣れてしまったようだ。
「急ごう。表に回って、モリンを引っ掛けないと」
 こんな外見なのに、一番言う事はまともだった。なお、その間もモリンの視線は外に向きっぱなしである。

「あら? また可愛いお嬢さんね」
 アンジェの着替えを待つ栞と、ばっちり窓越しに目があってしまっていたようだ。
「今日は、若い子に良く見つめられます。何故かしら」
 それが、微少女揃いの宿敵に結びつかないモリンの頭は、大概だった。
「良くお似合いだから、でしょう」
 そんな台詞をさらっと返す八木も、同レベルっぽかった。

「まともな服装ならあんな美人になるなんて‥‥。いつも変態とかおばさんとか言っていただけに盲点でしたね‥‥」
「お待たせ。じゃあ行こうか」
 ぶつぶつと呟いていた栞に、裏手から正面へ回ってきた3人が合流する。AU−KVはバイクと間違える事があったとしても、その中にサラッと混じるピンクガスマスクチア。これで気づけないようならば医者に行った方が良さそうな集団だった。
「ん、んん?」
 じーっと目を細めるモリン。そのまま、寸秒の時が経過し。
「‥‥美味しかったですわ、マスター」
 小銭をレシートの上に乗せて店外へと向かうモリンの目は、鋭い戦士の物になっていた。

●マナーは大事です
「この公園‥‥?」
 辿りついた2人が見たのは、昼下がりののどかな公園風景だった。犬の散歩をしている人や、遊んでいる子供達の姿が見えるが、敵はまだいない。
「早すぎた、のかな。じゃあ、制服に着替えないと」
 周囲を見回して、クラウがニッコリと笑った。
「制服‥‥?」
 聞き返したソラへ、紙包みが差し出される。
「はいっ、これソラ君の分」
「へ? え?」
 受け取った包みの端から、赤と白の生地がチラッと見えた。クリーニングに出しておいた、と曇りの無い笑顔で言うクラウ。
「ソラ君も着替えたら一緒に行こうねっ」
「え、あ。‥‥はい。すぐ着替えます、ね‥‥」
 手を振ってから、女子トイレへ駆けて行く後姿に、ソラは力なく頷いた。頷いた後で、改めて周囲を見回す。いたいけな子供達と、犬連れの優しそうな婦人。
「‥‥す、すみません。俺、ULTの傭兵なんですが。ここはこれから、危険になりますからっ」
 大慌てで、少年は人払いを始める。一般人が危険に巻き込まれるのを見過ごすわけにはいかない。それに、自分の女装が見えない位置まで離れてもらわないと、少年としては困るのだった。

「どうしたんだ、ルブラエンジェルズ‥‥。流石の俺でも、そう長くは持たせられないぜ」
 良く頑張ったと褒めたい位に、リョウはボロボロだった。シャッター街とはいえ、日中の商店街。それなりにいるギャラリーからは悲鳴交じりの声援が飛んだりする。
「ふざけた外見の癖に‥‥。って、ふざけてない外見の敵、ここでは見てないけど」
 そんな事を言って余裕を見せているものの、百合歌もかなりの手傷を負っていた。
「く、しまった‥‥!」
 リョウの足が、疲労でもつれる。隙に乗じようとしたキメラが、不意に横を向いた。
『メガァッ!?』
 ステッキを器用に回転させて、突き込まれてきたイフリートを弾く。続く光線を、大きく飛び下がって回避した。
「待たせてごめんなさい」
「あれ、味方だったのか‥‥」
 カバーに入ったアンジェに、ギャラリーから声が漏れる。AU−KV3体を引き連れたピンクガスマスクは、それ程に怪しい。
「‥‥なんでしょう、あれ。知っているような、知らないような‥‥」
 アンジェの後ろで、キメラを見た栞が首を傾げていた。脳内記録を検索するも、該当する情報はない。
「私も、どこかで見た気がします」
「そうですね‥‥」
 加奈と夢理の言葉を聞いて、伝説上の生物だろうか、と考え込む栞。
「一気に、公園まで追い立てるわよ!」
 百合歌の号令で、少女達は我に返った。
「加奈様! 今こそ百合合体! 愛は跳び箱攻撃です!」
「え、ええ!?」
 とりかーねるがステッキを構える。加奈の前にいた夢理が、膝に両手をついて体を前へ倒した。アンジェが、呼笛をピィッと一吹きする。
「い、行きます!」
 片手を上げて、走りだす加奈。夢理の背に両手をついて、跳び箱のように飛び越えた。
『メガァ!』
 そのまま突き出した拳に、吹き飛ばされるキメラ。よろけた所へ、栞が電撃を放つ。
(‥‥少し苛々していますので、容赦はしませんよ)
 眼鏡を狙うような角度の電撃を、とりかーねるは頭を下げて弾いた。
「とさかを盾に? ‥‥やるね」
 アンジェがぼそっと呟く。意外と、多芸なキメラだったらしい。
(ここは任せたっ)
 頷き、傷だらけのリョウは踵を返した。用件は、AU−KVの『騎煌』を取りに行くのと、もう1つ。

●と言うわけで、怒られました
「何とか間に合ったね、ソラくん」
「‥‥はい」
 トイレから出てきた2人に、いきなり破壊光線が襲い掛かる。
「なっ!? モリン!」
 驚くソラへ、モリンはびしっと指をつきつけた。
「トイレで着替えなど、非常識すぎるわよ、ルブラエンジェルズ!」
「え、ええ!?」
 斜めの方角から突っ込まれた2人の耳に、戦いの喧騒が入る。行間で激しい戦闘を繰り広げていたらしいとりかーねるが、追い立てられて公園に駆け込んでくるのが見えた。
「珍しく、私も同意見よ。トイレで着替えはしちゃ駄目。約束ね」
 いつの間にか、2人の脇に立っていた百合歌が優しくそう告げる。
「ごめんなさい‥‥」
 しゅん、と項垂れたクラウに、頷く先輩コスプレイヤー2名。いつの間にか、しっとりした旋律のハーモニカが背景に流れる。うんうん、いい話ですね。
「油断するな、ルブラエンジェルズ!」
 ハーモニカから口を離したリョウが、叫んだ。
『メガァ!』
 無視されていたキメラが苦情を申し立てるかのごとく暴れだす。
「フッ、バカにはちょうどいい目くらましよね」
 乱れ飛ぶ怪光線の中、悪役モードに戻ったモリンが薄く笑った。ちなみに、巻き添えを食らうのが恐いらしく立ち位置は隅っこです。
「強っ‥‥」
 ステッキの一突きで肩パーツを砕かれた加奈を、夢理が盾でカバーする。ソラの弓、クラウと栞の光線の同時攻撃に僅かにたじろいだが、次の瞬間にはくわっと嘴を開いて睨みつけた。
「ファルルさんは、まだ来ないの?」
 思わず、アンジェの口からそんな言葉が零れる。
「くしゅんっ」
 可愛らしいくしゃみが、公園の入り口辺りから聞こえた。一同がそっちに顔を向けるより早く、銃声。たん、たん、と小刻みに2つ。
「ファルルは、隙を見つけるとついやっちゃうのよね」
 キメラが、ファルルに向き直る。眼鏡に光が収束しかかった所を、大斧が薙いだ。
『メガァー、メガァァアッ』
「今回は、君に見せ場を取られてしまったかな」
 フッ、と笑う傷だらけのリョウ。
「さぁ、みんなも一緒にやっちゃいましょう。行くわよ!」
 ファルルの声に、アンジェが頷く。
「いいね。パーティバーレルにしてやるわよ!」」
 かくして、強敵とりかーねるは一緒にやっちゃわれたのである。

「これを八木のおやっさんに渡してくれ、全ては美しき思い出として守られるはず‥‥」
 す、と懐からリョウが取り出したのは、上品な封書だった。中には、彼が先ほどしたためた『お嬢様からの手紙っぽい物』が入っている。
「では、また会おうルブラエンジェルズのお嬢さん達」
 リョウはマントを翻した。受け取った栞が、手の中の封書を複雑な思いで見つめる。

●後始末、色々
 暫し後、喫茶ドラゴンにて。
「お帰り、今回もお疲れ様だね」
 帰ってきたソラの姿に、八木が瞬きした。
「‥‥もうチア服なんて着ないですから」
 トイレで着替えられなかったので、そのまま帰ってきたらしい。そんな彼の肩を、八木はポンと叩いた。
「前回うちに来てた請求書、なんだけどね‥‥」
 服の分だけでも、出してもらえないかと泣きそうな目で言う八木に、ソラはただ頷くしか出来ないわけで。
「はわ、制服のお金っているんだ?」
「こ、これは自前なんですけど」
 続いて入ってきた面々も、チア服と引き換えに依頼料をさっぴかれたりしたらしい。あと何着か残っている、と困った様子で言う八木へ、栞がおずおずと手紙を差し出した。
「これ、森さんって女性から渡して欲しいって頼まれたんですけど‥‥」
「おお、さっきのお嬢さんか」
 封書を開けた八木は、微笑しながら読み進む。
(夏目様と八木様‥‥。私は応援しかできませんが‥‥)
 夢理は、あらぬ妄想で薄い胸を膨らませ。
「‥‥綺麗な思い出に、なるといいですね」
 着替えるのを忘れたソラは、チア服のままで微笑んでいた。

「行き届いた事だ。良い所のお嬢さんだったんだろうねぇ」
 嬉しそうに言う八木は、意外とまともだった。栞は、思いつめた様子で彼に囁きかける。
「八木さん、その‥‥。確かに森さんは良い女性ですし」
「ああ、素敵なお嬢さんだね。実に絵になる風景だったなぁ」
 夢見るようにそう言う八木へ、栞は半歩、身を寄せた。
「好きになるのも分かりますけど‥‥」
「え?」
 きょとんとした八木へ、少女は早口に思いを告げる。
「私もずっとドラゴンに居たいですし‥‥。というか、ですね、その‥‥。‥‥私ではダメでしょうかっ」

 数分後、八木が『避暑に来るようなお嬢さんにコーヒーを出すマスターに憧れていただけ』と知った加奈が平謝りする中、栞は真っ赤になって隅の方で俯いていた。ちなみに、八木はといえば。
「加奈君だけじゃなく、栞君も本格的に店を手伝ってくれるのかな。嬉しいねぇ」
 そんな感じで嬉しそうにしていた。
「アイスコーヒー、置いておくよ?」
 氷は少なめ、と小声で付け足して、アンジェは踵を返す。青春の味は少しほろ苦かった。

「‥‥あの店は基地ではなかったようだけれど。奴らにとってあのマスターは重要人物のようね‥‥」
 戦闘中、さらっとスルーされていたモリンが、そんな光景をビルの上から見下ろしていた。急いで海中要塞に戻った彼女が、不機嫌な蓮斗にもう一回パシらされたりしたのは、また別の話である。
 負けるな麗将モリン。バグアの一部の未来は君の肩にかかっている!

――この報告書は、楽しい時を作る報告官キトーと、御覧のPC様でお送りしました。