タイトル:【徳島】最強のキメラ獣マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/25 21:53

●オープニング本文


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 徳島沖の海底に固定されたバグアの要塞にて。
「‥‥奴らは手ごわい相手です。作戦遂行のためには、強力なキメラ獣が必要です」
 下層区画に封印されたキメラ獣使用の許可を求めるキドンに、しばしの沈黙で答えるボルゲ。普段ならば横槍を入れるモリンは、その様子を少し気遣わしげに隅から見ている。
『よかろう。ただし失敗は許さぬぞ、キドン』
「は、ははっ‥‥」
 平伏するキドンを威圧するように、壁のレリーフの目が赤く輝いた。

「‥‥考えても見ろ。これで、奴らに我らの企みが阻まれるのは4度目だ」
「だ、だからと言ってあいつらを使うのは危険じゃなくって?」
 幹部である彼らですら普段は訪れぬ深部へと、キドンとモリンは向かっていた。これまでの実験で使い物にならないと判断されたキメラ獣たちが廃棄された区画だ。通路の左右に並ぶ檻から聞こえてくる吼え声やら呻き声を無視して、キドンは足早に奥を目指す。
「‥‥こ、こいつは」
 最奥。幾重にも鎖でつながれた、牛頭人身の怪物がそこにいた。
「そう。余りの凶暴さに封印された最悪のキメラ獣だ。そう、最悪の」
 その名はみのみの。思わず大事な事を2度言わせてしまう、魔性のキメラ獣である。
「私の言葉が分るか、みのみの。お前を今から解き放つ。私の命令に従えるならば。命令に従うならだ」
『ほるもーん』
 微妙な鳴き声をあげたみのみのを、戒めていた鎖がジャラジャラと音を立てて解けた。

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 そして、数日後。
「くっ‥‥、こんな所でバグアに出会うなんて」
 喫茶『ドラゴン』からやや南、川沿いの大型スーパーに買出しに出かけていた加奈が敵に遭遇したのは、どう考えても偶然だった。
「ぬう、現れたなルブラエンジェルズ。いけい、みのみのよ。港を襲う前の小手調べに捻り潰してやれ! そう、港を襲う前の小手調べだ!」
「きゃあ!?」
 一振りで、身に纏ったミカエルごと吹き飛ばされる加奈。前カゴパーツから大根とキャベツ、きゅうりの入った袋が宙に舞う。巨大な双頭斧と胸甲を与えられた持った牛頭人身のキメラは、見るからに強力そうだった。
「つ、強い‥‥」
 起き上がりざまに振るった加奈の手刀を、強固なフィールドが弾く。
「前回までにお前達の攻撃力は見切っている。このキメラ獣にはお前達の攻撃など通用はしない。攻撃は通用しないのだ! ハーッハッハッハッハ!」
 高笑いするキドンの指示で、みのみのが突進する。突き上げるような角の一撃で少女の体が放物線を描いた。
「ハッハッハ‥‥、し、しまった!」
 どぼーん、と水音がする。慌てて土手へかけよったが、加奈の姿は見えない。
「‥‥チッ、逃げられたか。まぁいい。港湾施設を押さえるのが今回の目標だ。‥‥それに、これで奴らがみのみのの前では怖れるに足りないと分ったからな」
『かーるびー』
 自信に満ちたキドンの声に、みのみのが高らかに吼え声を合わせた。

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「つ‥‥、伝えなきゃ、みんなに」
 ベッドの上の加奈は、うわ言のように呟いていた。バグアが港へ向かっている事、そしてこれまでになく強力だった事を。
「能力者は、この程度の傷はすぐに治るとは聞くがね。敵が港に向かっているなら、彼女の回復を待つわけにはいかない」
 沈痛な表情の八木が、お見舞いの能力者達に向き直った。
「頼む。彼らを倒してくれ。加奈くんの怪我を無駄にしないためにも」

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
アンジェリカ 楊(ga7681
22歳・♀・FT
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
マグローン(gb3046
32歳・♂・BM
御崎 栞(gb4689
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

●喫茶ドラゴンにて
 一通りの状況を説明した後、加奈はことりと眠りに落ちた。
「本田さんをこんな目に合わせるなんて、今までにない強力なキメラなのかしら」
 その寝顔を、智久 百合歌(ga4980)がベッド脇で見下ろす。
「仇は、必ず‥‥!」
「ほわっ、まだ加奈ちゃん元気ですよ!?」
 クラウディア・マリウス(ga6559)のつっこみも口調程の勢いはなかった。普段がボケ専門だからという訳ではないだろう。多分。
「戦えない人は置いていくしかないでしょう」
 ぷいっと部屋を出たアンジェリカ 楊(ga7681)の拳は、内心を示すようにぎゅっと握り締められている。
「本田さん‥‥」
 扉の外で心配げに呟いていた柚井 ソラ(ga0187)の手に、加奈が気を失う前に聞きだした夕食の材料メモが握られていた。怪我をした彼女を手伝い、今晩の食事は皆で作るようだ。
「ミノタウロス‥‥。頭は牛のはずだし、今夜は牛タンパーティね」
 不敵に笑うファルル・キーリア(ga4815)へ、アンジェリカが自信ありげに頷く。机と椅子以外の四脚を食べてしまう民族の調理人にしてみれば、ちょっと人型をしている位は障害にならないようだ。そんな会話を聞きながら、御崎 栞(gb4689)はこっそり胃薬を買いに行く事を決意していた。

 心配げな八木の見送りを受けて、一行が店を出る。と、場違いなバイオリンの音が響いた。踏み出しかけた足元に、カツンと音を立てて刺さる騎士の証。
「待つんだルブラエンジェルズ、今の君達ではあのキメラ獣には勝てない!」
「‥‥や、屋根に!?」
 そろそろ慣れたのか、夏目 リョウ(gb2267)の登場に驚いたのは八木だけだったりする。
「とうっ!」
 掛け声と共に、AU−KVが地に降り立つ。蹴られた反動で屋根看板の『D』の字が傾いたが、頓着せずに一行の前に紙包みを置くリョウ。
「‥‥これは?」
 揃いのチアリーダー服と鉄下駄だった。疑問符付の栞の視線に、リョウは笑顔を返す。
「新たな力を得る為に、俺も力を貸そう。浜辺で特訓だ!」
 視線での会話は、成り立っていなかった。
「ま、待ってください。俺、男ですからこれは‥‥」
「本田さんを助けた後で姿を消したのは、これを買いに行っていたのね」
 ソラの声を掻き消すようにファルルがリョウへと声をかける。
「今回の敵は強敵だ。皆の意思が1つにならないと勝てないかもしれない」
「だから、揃いの衣装‥‥?」
 それ位しか思いつかなかった、と視線を背けるリョウ。鉄下駄はまだしも、人数分のチア服を抱えてレジに並んだであろうリョウの勇姿を思い、全徳島が涙した。
「あ、だから俺は男‥‥」
「宜しい。その話、乗った!」
 もう一度あがった抗議の声を遮り、百合歌がまず手を伸ばした。少し首を傾げつつも、次に栞が手にとる。袋にはまだ値札がついていた。
「返品したらお店に迷惑だから、仕方ないけど着てあげるわ」
 そんな事を言いながら、アンジェはファルルの分も一緒に拾いあげる。クラウも続いてから、少し心配そうに振り返った。
「‥‥お、俺は‥‥」
 微少年の心中で、2つの声が戦っている。何故か1つは関西弁だった。
(去年の夏やってドレス着とったやろ? 何で今回は嫌がっとるんや?)
(ま、前にドレスを着たのは必要な時だったからで‥‥)
(知り合いをからかうんと、知り合い助けるんと。どっちが必要な時か、よく考えてみい!)
(ぅ‥‥)
 少年の正義感と羞恥心の戦いは、前者に軍配が上がったらしい。最後の一着をしぶしぶと手にしたソラの心中は、関西弁への逆恨みが8割位を占めていた。

●浜辺の特訓
「おや、あれは‥‥?」
 沖合いを泳いでいたマグローン(gb3046)が、浜辺へ目を向けた。興味深げにその場に止まって様子を確認する。
「特訓と言えば、やっぱりこれよね」
 近所の小学校からグラウンドを均す為のローラーを借りてきたアンジェへ、満足げに頷くファルル。
「格差の撲滅のためにはこの訓練が必須よね‥‥。頑張らなくちゃ」
 しかし、ローラーは小学生用とは思えぬほどに重い。動かせない事はないが、砂浜の凸凹のせいで蛇行した。
「‥‥腹の立つ膨らみね」
 と、その軌道が不意に安定する。
「一人で出せる技は、限界があるよね‥‥」
 牽引金具の隣に入ったアンジェが、前を向いたままファルルに力を貸していた。
「‥‥あら、マグローンさん?」
 沖合いを見た百合歌が、首を傾げる。泳ぎ続けていないで大丈夫なのだろうか、とか。残る少年少女はといえば。
「ソラ君、栞ちゃん。私達も負けずに頑張ろ!」
「どんな特訓だって受けて立ちます!」
 やる気満々のクラウがしゃがみ込む脇で、気合を入れるソラ。クラウは手にした枝で何やら浜に書き始めていた。砂に書いてはいるがラブレターではない。
「この3人で‥‥できそうな連携、ですか」
「うん。こんなのどうかな?」
 そんな様子を、リョウは微笑みながら見ている。打ち合わせが終わってからも、3人は楽しげだった。
「ほわ、綺麗な貝殻っ。みてみて、虹色の貝殻ですよっ」
「はわ、本当です。綺麗な海だから、かな」
 ふにゃっと笑うクラウとソラの後ろから、覗き込む栞。
「あ、そうだ。さっきの技の名前、『虹色流星アタック』とかどうかな?」
「いいんじゃ、ないでしょうか」
 と、その耳に百合歌の呼び声が聞こえた。
「はい、注目ー。せっかくだから、全員での必殺技も特訓しない?」
 青春っぽい汗をかく間に随分遠くまで整地していたファルル達を待って、技の構想が説明される。
「この服装は、このためだったんですね」
 栞が、納得したようにそう呟いた。

●新怪人の脅威
「面倒だけれど、早速練習を‥‥」
 言いかけたアンジェが、浜の北側の人影を見つけて言葉を切る。そろそろ暑いのにロングコートの智将キドン。隣の大きな牛面がみのみのだろう。
「‥‥な、何故ここに!」
 敵味方の言葉が思い切りハモった。
「わわ! 飛んで火に入る夏の虫っ」
 思わず声に出したソラへ、抜く手も見せず抜刀したキドンが切っ先を向ける。
「黙れ小娘! それは我々の台詞だ!」
「お、俺は男だから!」
 今の格好では全く説得力がないのは言うまでもない。その脇で、栞が本を取り出しつつ首をかしげる。
「おや、今回はまともなキメラを持ってきたんですね」
『たんしお〜』
「‥‥鳴き声はあまりマジメじゃないですけど。そんなに食べて欲しいんでしょうか‥‥」
「メタボ要因のくせに、本田さんを傷つけて、肉の風上にもおけないわ」
 既に食材としてしか見られていないらしいみのみの。そんなキメラに怒りを燃やす者が、沖合いにもう1人。
「バーベキューセット持参で現れたのであればまだ許したものを‥‥。海に牛は似合いません」
 海に相応しいのは魚類だと力説しつつ、マグローンはさらに浅瀬へと向かう。高級食材としての永遠のライバルを前に血が騒いだ、のかもしれない。
「フッ。ここで会ったが三ヶ月目。今度こそ引導を渡してくれるわ!」
『ろーっす!』
 キドンの指示に頷き、キメラは姿勢を低くして、突進する。クラウに練成強化を受けていた栞が、慌てず騒がず本を掲げた。微かに光る彼女の眼前に魔法陣が描かれ、赤い光が放たれる。が、キメラに傷を受けた様子はない。
「む‥‥、今までとは違うという事ですか」
 一歩下がった栞を庇い、割って入ったアンジェが敵の体当たりで弾き飛ばされた。
「くっ、やっぱり強い。‥‥ファルルさん、アレを試そうよ」
 砂を払いながら、アンジェが起き上がる。まだ戦えそうな様子に胸をなでおろしつつ、ファルルは頷いた。
「ええ、アンジェ。よろしくってよ」
 微妙に口調が違うのは、様式美と言う事でお目こぼしいただきたい。
「凹凸、それは危険な物」「平らなものこそ、平和をもたらす」
「な、何を言っている!?」
 キドンがうろたえた。その隙に、ファルルがナイフを投げる。
「世界が私達を拒むのなら」
 右手のそれは山なりに頭上の死角を突き、左手のそれは一直線にキメラを狙った。大斧で正面のナイフを打ち落とし、頭上のナイフは頭を振って角で弾く。視界がぶれた、その隙に。
「世界が私達の前に立ち塞がるなら!」
 ピンクガスマスクを被り、ついでに間合いを詰めたアンジェが槍を突き出していた。すぐに飛び退り、ファルルに手を貸す。
「全ての世界をフラットに! フラティゼーション!」
 ぶん、と風を切る音と共に、みのみのに飛ぶ重いコンダラ。もとい、整地用ローラー。
『はらみ〜』
 気の抜ける掛け声が響き、大斧がコンクリートの塊を粉砕する。
「次は、俺達の番‥‥」
「ソラ君、栞ちゃん、行くよっ」
 クラウの超機械が虹色の輝きを帯びる。
「七色の星の光よ、ソラ君に大いなる力をっ」
 みなぎる力に背を押されて、ソラが立て続けに矢を放った。斧を掻い潜った矢が盛大に爆発する。その爆炎が消える前に、栞が赤い表紙の書を敵へと向けた。
「燃え尽きろ、悪漢!」
 炎のような赤い輝きが敵を撃つ。だが、怒りに燃える猛牛の目はまだ死んではいなかった。
「ほわ、ホントにちょっと、強いかも」
 びっくりしたようなクラウの反対側で、リョウの声が響く。

●新怪人の最期
「この紅きはためきに、お前の本能が抗えまい‥‥。本能が抗えまい!」
 リョウは闘牛士よろしく赤いマントを翻していた。
『ばら〜!』
 キメラの一撃を受けつつも、リョウが竜の咆哮を放つ。キメラの巨体が、海へと放物線を描いて押し出された。
「‥‥ここは私の出番ですね」
 その姿がまだ空中にある間に、波間を黒っぽい影が縫う。
「行くわよ、マグローンさん!」
 浜を蹴って宙に飛んだ百合歌が、落下してくるキメラを斜めに切り上げた。
『ふぃれ〜』
 キメラの顔面を蹴りつけ、反動で退る百合歌。入れ違うように、黒い衝撃波が海面から飛んだ。
「山と海の恵みクラッシュ!」
 浜に着地した百合歌の背後で、盛大な水柱が上がる。
「母なる海に入り込まないで頂きましょうっ!」
 怒りの声を上げるマグローン。牛キメラに海を汚された事と覚醒中の自分の姿を間近で見られた事の、どちらにより憤っているのだろうか。
「やったの?」
 ファルルが目を凝らすも、意外と高い波が邪魔をして様子は伺えない。
「いえ、まだよ。マグローンさんが時間を稼いでくれているうちに、準備を!」
 百合歌の声に、緊張を深める仲間達。
「でも、練習もまだなのに‥‥」
 心配げな様子で呟くソラ。
「貴方なら、できるわ」
「うん。絶対、大丈夫だよ!」
 百合歌とクラウがきっぱりと頷く。
「ええい、邪魔されないとでも思ったか!」
 本当に大丈夫にされそうな雰囲気に危機を感じたキドンが、サーベルから怪光線を放った。が、その間に飛び込む傷ついた装甲服。
「待て、お前の相手はこの俺だ!」
「おのれ、また貴様か!」
 キドンが忌々しげに舌打ちした。

 食材決戦、もといマグローンとみのみのの水中戦は、キメラの勝利で終わっていた。
「まさか、海中で後れをとるとは‥‥」
 まだ修行が足りない、と自省しつつ瞬速縮地で距離をとるマグローン。みのみのは動きなれない海中と言うハンデを考慮しても、強かった。しかし、彼の稼いだ時間は無駄ではない。
「いきます!」
 波打ち際、ソラとファルルが組んだ手に、アンジェが乗る。
「支えきれなかったら、落してもいいから」
「落しません!」
 そのまま、腕を上へ。自分の肩に乗った少女の足首を支えつつ、ソラは上だけは見るまいと一心に念じていた。海からのそりと現れたキメラに対する三人の背後で、クラウと百合歌が腕を組む。
「では、行きます」
「思いっきり、やるからね」
 飛び乗った栞を、上へ。両腕を広げてバランスを取りながら、ふわりとアンジェの肩へ降りる栞。
「下の人、平気ですか」
「大丈夫よ。さぁ、さっさと片付けちゃいましょう」
 ファルルが言う。ソラは、声をかけられても上を見上げないように一生懸命だった。
『はつ〜!』
 斧を振り上げ、波を蹴立てて突っ込んでくるキメラを、三段ピラミッドが迎撃する。栞が綺麗な姿勢で斜め上へと、続いてアンジェが相手の頭をめがけて飛んだ。身軽になったファルルとソラも援護を開始する。左からは、百合歌が切り込み、クラウの超機械が追撃を送っていた。
「ば、馬鹿者、距離を取れ!」
 キドンの声も間に合わず、立体攻撃に立ち竦むキメラ。振り回した斧はナイフの幾本かを弾いたが、それまでだった。角に守られた額部分を栞のバトルブックが強かに打つ。
「ここが、猛牛の弱点のはず、です」
 どこかで読みました、という彼女の言葉どおり、斧を取り落とし両手で頭を覆うキメラ。その足を、百合歌の鬼蛍が切り裂く。
「これまでの私たちとは、違う!」
 アンジェのイグニートが首筋に突き立ち、キメラは仰向けに倒れた。
「くっ‥‥。覚えているが良い!」
 捨て台詞と共に、背を向けるキドン。リョウががくりと膝をつく。みのみのの攻撃を受け、キドンと渡り合っていた少年の身体は限界だった。
「ちょっと、大丈夫なの?」
 ファルルとクラウが声をかけるが、リョウはすぐに立ち上がる。
「‥‥大丈夫だ。それより気を付けろ、ルブラエンジェルズの諸君。奴らは必ず、また戻ってくる。そう、必ず」
 今日の空気を忘れるな、と言い残して少年は去っていった。

●再び、喫茶ドラゴン あるいは 新怪人の美味
「‥‥大変、だったんですね」
 加奈が感心したように頷いた。
「バグアの養殖物と侮りましたが、ひょっとしたら水牛の一族だったのやも知れません」
 それに、島から島へ泳いで渡る牛などもいるらしい、とか悔しげに言うマグローン。多分、色々調べたのだろう。
「大変と言えば、ソラ君あのままの格好で買い物に行きかけてたんですよ」
「写真、撮っておけばよかったわね」
 笑顔のクラウとファルルの間でむーっと膨れるソラ。
「そうね。別に皆で一緒の格好が嬉しいって訳じゃないんだけど」
 写真は、加奈も元気な時に一枚撮ってもいい、等と言いながらアンジェが大皿を並べた。何でも、ファルルと一緒に海岸でキメラを捌いて来たのだとか。おいしそうな匂いを放つ料理は、正真正銘キメラ料理だという。
「みのみの炒めよ。オイスターソースがポイントかな」
「た、食べられるんですか?」
 こわごわと尋ねる加奈を、百合歌が別の鍋へ手招きした。ソラや栞もそちらで食べているようだ。
「百合歌さん、買い物の時は凄かったです」
 ボソリ、と呟いたソラの表情が堅い。そして、食べ手が少ないアンジェも少ししょんぼりしていた。
「私、みのみの炒めも頂きますね」
 現物を見ていない加奈が再び舞い戻る。
「ん、いけるじゃないか」
 ビール片手に箸を伸ばし、楽しそうに目を細める八木。だが、彼は知らない。後日、ルブラエンジェルズあてでチア服や鉄下駄、整地用ローラーの請求書が届く事を。

――この報告書は、楽しい時を作る報告官キトーと、御覧のPC様でお送りしました。