●オープニング本文
前回のリプレイを見る「ここが私の故郷なんだ。昔に比べると、随分寂しくなったけれどね」
コーヒーの芳醇な香りが店内に立ち込める。マスターの八木は、慣れた手つきで人数分の飲み物を淹れた。エプロン姿の加奈が、傭兵達の机へと運んでいく。数日しかいないはずだが、ウェイトレス姿も結構板についていた。
「バグアがいつか、ここにも現れるとは覚悟していた。だが、UPCの有力な部隊もすぐに動ける距離にはいない」
だから、自分で出来る事をしながら備えていた、と八木は言う。バグアの目撃情報だけではなく、いざとなったら協力を仰げそうな市内の能力者の所在を知る為の連絡網などだ。
「なんだか変な事になってるのね、ここも」
「世界中が、大変だろうからね。大事な場所を守る為に出来る事は、自分でしないと」
頷く傭兵の前に、八木はクッキーの小皿を置く。彼の手製のクッキーは、素朴だが味わいぶかかった。
「また次が現れるのかしら‥‥」
別の傭兵が物思わしげに呟く。
「間違いなく、現れるだろう。もしも良ければ、だが。私に手を貸してくれないだろうか?」
八木が真摯な目で、傭兵達を見た。さっと、隅から手が上がる。
「すみません、コーヒーをもう一杯、お願いします」
彼女のように、読書しながらゆっくり考えたいと言う傭兵。加奈の手伝いをしながら考えようと思う傭兵。一度家に帰ってから、など。すぐに返事は貰えずとも良い、と八木は言う。
「規定の報酬額はもちろん支払わせてもらう。‥‥是非、手を貸して欲しい。徳島を守る為の戦士、トクシマンに」
色んな意味で、考えさせて欲しいと一同は深く思うのであった。
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徳島市沖合いの海底にそれはあった。巨大なエイのような外見の水中要塞は、明らかに人類の構造物ではない。そして、その内部には人のような姿があった。その数、2人。ロングコートの下に胸甲をつけた重装備のグラサン男と、水着のような服装にロングブーツとマントという寒そうな姿の女。
『キメラ獣ぱぴよんも、失敗に終わったようだな』
「あ、あれは能力者どもの予想外の妨害が‥‥!」
慌てたように言う女に嘲笑の笑みを浮かべてから、跪いていた男が立ち上げる。
「御安心ください、ボルゲ様。この智将キドンが次なる策は既に‥‥」
「でしゃばるな、キドン。次の作戦は、引き続きこのモリンがお任せ頂いていたはず!」
レリーフの目がギラリと輝くと、モリンと名乗った女はハッと身を竦めた。その様を、余裕の表情で見下ろすキドン。
「クックック、お前は少し休んで見ているといい。このキドンの完璧な策をな」
「この街の地図をご覧下さい」
「どこにでもある田舎町じゃないの」
「だからお前は駄目なのだ。ククク‥‥。この山を見ろ」
男の指が地図の上を動く。
「この街の中枢は背後のこの山を押さえれば全て眼下に納めることが出来るのです、ボルゲ様」
市内を一望できる低い山は、その稜線から眉山と呼ばれていた。というか、その程度の事は地元の小学生でも理解している事だとか突っ込んではいけない。小学生が分かることが重要なのだ。多分。
『なるほど。ここでキメラ獣に毒花粉を発生させれば‥‥』
「そう。徳島は大混乱に陥るでしょう。如何ですか、この作戦は」
レリーフの目が二度、点滅する。
『よかろう。お前にキメラ獣すぎすぎを与える。見事、作戦を成功させてみるがいい』
その声と共に、壁が開いた。現れたのは2mほどの小さな樹、に手足がついたような奇妙なキメラが2体だ。顔っぽい凹凸が幹のあたりに出来ていた。既に『獣』とかどうでもいい気もする。
「ありがたき幸せ‥‥!」
キドンが頭を下げつつ、ニヤリと笑った。
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数刻後。徳島市の中心部で突然の頭痛を訴える人々が急増する。なお、効果には個人差があるようで必ずしもバグアが企図した効果が得られるとは限らない、らしいが。それでも市内の人通りは一気に半減した。
「おや。マスター、今日はお休みかい?」
「ええ。今日は酷い頭痛で‥‥。美味しいコーヒーが淹れられそうにないですから」
CLOSEの看板を扉にかけ、八木は喫茶店の中へと戻っていく。
「バグアめ‥‥。また動き始めたのか」
「え、‥‥何か、あったんですか?」
厨房で皿を洗っていた加奈が、目を瞬いた。どうやら、彼女にはさしたる影響が無いようだ。
「彼らに連絡を。間違いない。これはバグアの仕業だ!」
●リプレイ本文
●作戦会議?
バグアの脅威を前にして、喫茶『ドラゴン』では能力者達が戦いの準備に余念が無かった。
「そ、それは色々とまずそうですよ」
「それじゃあ‥‥BをGに変えてGF団などは如何でしょう」
名前である。名前が無ければ、何となく格好がつかない。
「円卓の淑女ラウンドガールズとか」
「‥‥男の方が困りそうですよ」
アンジェリカ 楊(
ga7681)の発案には、加奈がおずおずと駄目を出す。一同の脳裏に、とても困りそうな少年の姿が思い浮かんだ。困らせてもいいじゃないか、かわいいし。そんな感じで会議中の店内隅では、トクシマンを却下された八木がしょんぼりしていた。
「じゃあ、渦潮戦隊ルナトーン! ‥‥なんてどうかな」
びしっと名乗りポーズを決めてみた斑鳩・南雲(
gb2816)が、周囲の意見を伺うように振り返った。しかし、それもどこかの方角で引っかかるらしい。
(トクシマンでもいい気もするんだけどね)
花粉対策のマスク姿でそんな事を思う智久 百合歌(
ga4980)だが、トクシマンの代案に八木が用意していたスダッチZとかワッカメンとかはさすがにいかがなものか。
「郷土色が強いのは悪くないと思うのよね」
ファルル・キーリア(
ga4815)が出していた案も、さりげない徳島っぽさを念頭に置いた物だった。
「まぁ、名前は道中で決めるとして。花粉の対策は出来ているのかな」
何か備えがあるのなら、と水を向けたアンジェは、後でそれを後悔したかもしれない。
「ああ、こんな事もあろうかとマスクは用意してある」
よく言ってくれた、とばかりに立ち上がった八木。奥からいそいそと取り出してきたそれは、アンジェが想像していたものと少し、いや随分違った。
「ヒーローにはマスクがつき物だからね。識別もしやすいよう色もつけてある。好きなのを選んでくれ」
原色で塗られたヘルメットに、ガスマスクっぽい何かを組み合わせたそれは、子供達のヒーローと言うより宇宙帝国の悪の尖兵である。
「センスはさておき、加奈様とお揃い‥‥」
緑のマスクを前に、葛藤する直江 夢理(
gb3361)。彼女は名称案の選定もそっちのけで、エプロン姿の加奈に熱い視線を送っていた。
「君には青かな? それとも白か」
「遠慮しておきます」
デザインのみならず、色も気に入らなかったらしい御崎 栞(
gb4689)はにべも無く断る。ファルルや百合歌は視線を合わせようとすらしていなかった。
「加奈君は‥‥」
「あ、あの。ミカエルがありますから」
そのやり取りで、夢理も葛藤から解放されたらしい。一方、しょんぼりと打ちひしがれる八木に、新たな葛藤を感じる者もいた。人情を取るか、常識を取るか。
「‥‥花粉症が酷いだけなんだから、勘違いしないでよね」
横を向きながら、桃色マスクを抱えて駆け出すアンジェ。‥‥無茶しやがって。
●新たな戦士達
市内中心部では猛威を振るう花粉も、風の強い港湾地区ではそこまで酷くもない。魚市場は、普段通りの様相だった。そんな中に、明らかに場違いな燕尾服の男が、何食わぬ顔で混ざっている。
「その鮪を、頂けますか。サクで」
「兄ちゃん、テレビ撮影かい?」
首を傾げつつも、慣れた手つきで包丁を振るう親父。くるくると包む手際も良い。
「こいつはこの辺じゃ鮪って言わんでな。ヨコって言うんよ」
礼を言ってから、マグローン(
gb3046)は背後へと視線を転じる。不自然なほど黄色く煙った低山がかすんで見えた。
「間に合えばいいのですが‥‥」
「俺はカンパネラから派遣されてきた、特殊風紀委員の夏目リョウ‥‥バグアハンターだ」
「カンパネラ?」
ドアベルの音に顔を上げた八木が、驚いたように目を丸くする。明らかに能力者と分る風体の夏目 リョウ(
gb2267)に、八木は慌てて事情を説明した。眉山の上にバグアがいること、そして一足早くこの店にいた能力者たちは山を目指した事を。
「間違いない‥‥それは、特級指名手配のボルゲ一味だ。トクシマン達が危ない!」
「し、知っているのかい?」
駆け出した背に、八木が問いかける。リョウは力強く頷いて懐に手を当てた。そこには、彼にこの任務を託した男からの信頼の証が収まっている。
「学園理事から聞いた。とある騎士に成りすまして悪事を働こうとした卑怯な連中だと!」
指名手配の理由はどうやら私怨だったらしい。
「バイクで行くなら山裏の道を使ったらいい。頼んだぞ、少年」
親指を立てて、愛車の『騎煌』をスタートさせるリョウ。
●山へ
「いらっしゃい。話は聞いているよ。大荷物も気にせずに乗るといい」
黒コートの係員に案内されて、ロープウェーが動き出す。ドラグーンの少女達は体積的問題でAU−KVは着込んだりしつつ、メットだけ外して抱えていた。ゆっくりと動き出したロープウェーの話題は、依然として決まらない名前についてだ。
「‥‥部外者の方に伺う方がいいかも、しれません」
「なるほどっ。おじさん、どれがいいと思う?」
正直めんどくさくなってきた栞の声を受けて、南雲が係員に声をかける。
「私かね?」
振り向いた男の視界の外を、黒い何かが駆け過ぎた。鈍い音と共にロープウェーが揺れる。
「‥‥案外揺れるのね」
百合歌が眉をひそめたが、マグローンがロープウェーの真下に潜り込んだ音だとは気づくはずもない。
「こうして見ると、色々と面白い物が目に入りますね」
脚をフックに引っ掛け、上下逆さまにぶらさがったマグローンは涼しげな口調でそう呟く。一方、車内では彼の奇行に気づきもせず、和やかな歓談が続いていた。
「‥‥私はこれが良いのではないかと思うがね。ご当地っぽさも含まれており、語感も悪くはない」
男が指差したのは、ファルルが提案した名前だ。
「県の樹にちなんでみたのよ」
「それでルブラエンジェルズ、ですか」
ファルルの言葉に、感心したように頷く加奈。
「ありがとう、おじさん!」
南雲が元気よく礼を言ったと同時に、到着を知らせるチャイムがなった。頂上駅はすぐそこだ。
「いやなに。‥‥はっ!?」
説明せねばなるまい。キドンは、能力者たちがロープウェーで山頂を目指す事を予想し、罠を張るべく係員のフリをして待ち構えていたのである。が、律儀に相談に乗ってしまったばかりに機を逸してしまったらしい。そんな事とは露知らぬ一行は、山頂の景色に驚いていた。
「これは酷いですね‥‥」
活字中毒の栞をして、涙で本が読めないと言わしめるほどに辺りは花粉塗れだ。服や肌も黄色くなりそうである。栞へとティッシュを差し出したアンジェが、視線を合わせないようにそっぽを向いた。
「‥‥っくしゅん! これが花粉症っていうもの?」
普段は花粉など気にも留めたことがない彼女でも、さすがにここまで濃いとくしゃみが出るらしい。さぁ、桃色ガスマスクの出番だ。
「加奈様、御免なさい‥‥。宜しければ私と手を繋いで下さい」
目を開けれない程の症状に苦しむ夢理に、加奈が手を差し伸べる。頬を赤らめる夢理からは危険な百合の香りが立ち上っていた。あ、覚醒変化の効果の事ですよ、もちろん。
●聞いて下さい
もとより重症の百合歌は連発するくしゃみでまともに喋れず、ジェスチャーで今の心中を示す。親指を下に向けるとか、首に当てて横に引くとか、そんな感じで。飲食は出来なさそうだと眉をしかめたファルルや、驚いているだけの南雲の方が異常なのかもしれない。
「フ、苦しそうだなルブラエンジェルズ」
とりあえず、能力者たちが苦しんでいた間に出直してきたキドンがマントを翻す。
「‥‥まずは、この騒ぎの元凶を探しましょう」
が、栞は思い切り別方向を向いていた。手元の本の続きを読みたいのに読めなかった恨みは骨髄のようだ。一体、どんな本なのだろうか。
「いや、だから私がだな‥‥」
「あ、おじさんは危ないから下がっててね」
徳島の人を守ることが、日本の、そして世界を守る事に繋がるのだ、と気合を入れる南雲。
「ええい、なーにーがおじさんかっ! 出でよ、すぎすぎ! 奴らを花粉地獄に送り込むのだ!」
『すぎすぎー』
山頂側から、鳴き声と共にキメラが現れる。能力者たちの視線がキメラへと向いた。つまり、キドンにはやっぱり誰も目を向けていない。
「出たね、バグアの手先!」
切り込む桃色ガスマスクアンジェの後ろで、栞が黒いAU−KVのメットを被る。止まらなかった涙がリンドヴルムの内部空調のおかげでスッと引いた。
「行くよ! ミカエルうううっ!」
掛け声と共に、南雲の顔も無骨なメットに覆われる。
「はっ、花粉が止まりました‥‥。これが加奈様との思い出の篭ったミカエルの力‥‥」
喜びに心震わせる夢理だが、多分関係ない。一方、まだ蚊帳の外に置かれていた約1名は怒りに震えていた。大きく手を振ると、隣にもう一体のキメラが現れる。
「くっ、2体いるなんて!」
ようやく振り返ったアンジェに、キドンがニヤリと笑った。
「百合歌さん、あれもコスプレイヤーっていうもの?」
「あれは『コスプレ』のコの時の域にも達していないわね。コスプレ道を甘くみてんじゃないわよ」
まだ、そういう扱いだったらしい。
「ええい、私は智将キドンだ。モリンの奴とは違う事を思い知らせてやる!」
「チショー? シショー‥‥師匠!?」
きょとんとした様子の南雲めがけて、キメラが枝っぽい部分を振り回す。
『ぴこー』
周囲に舞う花粉の濃度が一気に増加した。花粉と言うよりもマスタードガスの如き毒々しさに、さしものファルルも後退る。
「ああ、また目が霞んで‥‥くしゅん!」
「‥‥あれ、私も頭が痛い‥‥?」
AU−KVの面々も、再び苦しみだした。恐るべし毒花粉。キドンがここぞとばかりに高笑いする。
「防塵処理如きで防げると思うか! そのまま狂い死‥‥ぬぅ!?」
どこからともなく、トレイに載ったブロック状の物が飛んできた。その数、6つ。
「だ、誰だ!」
「か弱い女性が苦しむ姿は見ていられませんね‥‥。鮪に含まれているDHAは花粉症に効果がありますよ。どうぞ」
建物の影から、マグローンの涼しげな声だけが響く。壁に映った長身の影は、場違いな燕尾服だった。
「私は『か弱い女性』じゃないのね‥‥。ふーん、へー‥‥っくしゅん!」
何故か1人だけ鮪の配給から漏れてしまった百合歌が、薄笑いを浮かべて敵を睨んだ。冤罪だ。
「くっ‥‥何か失礼な事を言われそうな気がしていたけれど」
マグローンの消えた方を見ながら、ふくよかに見せかけた偽胸に手を当てるファルル。これも冤罪だ。
「食べ物を投げるんじゃないわよー!」
その隣で、アンジェがハリセンを振り上げる。うん、それは冤罪じゃない。飲食関係の家の娘として、そこは譲れないようだ。
「私が手助けできるのはここまでです‥‥。皆さん、DHAの力を信じてください」
が、マグローンには聞こえていなかった。
●命名・微少女戦隊
「花粉が、薄くなっています‥‥」
栞が首を傾げる。キメラもびっくりしたのだろうか。
「おのれ、花粉を封じたとていい気になるなよ。このキドン自ら‥‥む、何奴!?」
偉そうに口上を述べかけたところで、トランペットが高らかに鳴り響く。音の源を目で追えば、ロープウェーの駅の屋根の上に、少年のシルエット。
「お前の相手はこの俺だ!」
バサッとコートを投げ捨て、飛び降りるリョウ。その声を聞いた南雲の脳裏に、何時かのイメージが浮かんだ。
「あれ? この声って‥‥」
「行くぞ騎煌、武装変!」
掛け声と共に白のミカエルに身を包んだリョウを視界に納め、南雲のイメージは鮮明になった。
「ええと、栗! じゃなくってパンプキン!」
どうやら、お腹がすいていたようだ。
「‥‥こいつは俺が抑えておく、今のうちにキメラ獣を!」
「小僧め、いい気になりおって‥‥!」
サーベルを引き抜いたキドンを、紅の斬撃が襲う。背丈をゆうに越える大斧を頭上で振り回すリョウを見てから、キドンは手の中の細くて短いサーベルへ目を落とした。世の中とは、かくも不公平なのだ。
「支援します。夢理ちゃん、合わせて!」
銃に持ち替えた加奈と夢理がキメラの腹っぽいあたりに銃弾を送る。
「私のナイフ捌き、とくと御覧なさい。素早すぎて見えないかもしれないけど」
キメラ獣に、ナイフを投げつけるファルル。どこから取り出したかといえば、そりゃあ絶対領域近くの不思議空間からである。キメラが眼っぽい所を閉じた隙に、ファルルは駅の壁を駆け上っていた。月面宙返り気味に天を舞う彼女の眼下に、キメラの無防備な姿が見える。
「隙だらけすぎて話にならないわ。喰らいなさい、フォールンソウル」
ザクザクと突き刺さったナイフにキメラが両腕っぽい枝を振り上げた。その懐に、南雲のミカエルが低い姿勢から飛び込む。
「相手がバグアなら、覇王猛虎拳を使わざるを得ない!」
あっちでキドンと戦う少年のお株を奪うような台詞と共に、拳を叩きつける南雲。キメラの巨体が乾いた音と共に二つに折れた。
「‥‥こんなに涙を流したのは初めてかもしれません」
乙女の涙の代償は大きい、と言わんばかりに栞が黒本を掲げる。何となく黒い気がする稲妻が、残るもう一体のキメラに突き立った。
「か弱い乙女じゃなくて悪かったですね」
半眼の微笑で囁く百合歌の逆側から、アンジェが走りこむ。その槍穂が紅蓮に彩られた。
「牽制は任せたよ! ‥‥食らいなさい、乾坤一擲ッ! 極・彩・朱・雀!」
何かカッコいい技の名前と共に、桃色ガスマスク仮面の赤い閃きが敵を穿つ。衝撃によろめいてから、キメラは盛大に自爆した。一瞬で手下を失った幹部へと、能力者たちが一斉に向き直る。
「ちっ‥‥! 遊びが過ぎたようだな」
リョウの攻撃の威力を利用して、距離を取るように離れたキドン。
「曲がりなりにも智将なのでしょう? 気の利いた台詞の一つも遺言に残しては?」
栞が可愛らしく首を傾げた。が、初登場の敵幹部がそう簡単に引導を渡されるわけにはいかないのである。
「今日の所は小手調べだ。また会おう、微少女戦隊ルブラエンジェルズの諸君!」
声と共に、周囲の数箇所が派手な閃光を放った。眩しさに目を細めつつ、放った追い撃ちが空を切る。
「チッ」
「‥‥逃げられたか」
無表情に舌打ちした栞と、白ミカエルのリョウ。だが、バグアの野望は彼らの手で防がれたのだ。見る見るうちに、徳島上空に漂う黄色が薄れていく。
「やったな、みんな」
喫茶『ドラゴン』では、頭痛から解放された八木が嬉しそうに微笑んでいた。だが、彼らは知らない。微少女戦隊の『微』が、少女と言うには微妙な胸とか微妙な年齢とか微妙な性別などを表していることを。頑張れ微少女戦隊ルブラエンジェルズ。負けるな微少女戦隊ルブラエンジェルズ。
――この報告書は、楽しい時を作る報告官キトーと、御覧のPC様でお送りしました。