タイトル:【徳島】偽の黄金を討てマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/22 21:47

●オープニング本文


「‥‥喫茶ドラゴン。ここですね」
 扉を押すと、ドアベルがカランと涼しげな音を立てた。カウンター裏でコーヒーを淹れていた初老の男が顔を上げ、破顔する。
「やぁ、加奈君、大きくなったなぁ」
 親父さんに似なくて何よりだ、などと言う男は、加奈の父親の元同僚だった。戦闘機パイロットとして引退した後、輸送機に転向した本田とは違い、彼は引退して郷里で喫茶店を開いている。‥‥表向きは。
「お世話になります、八木さん」
「いや、部屋は空いてるし、倉庫代わりにでも使ってもらえるなら大歓迎だよ」
 この冬、北海道がきな臭くなってきた事を心配した本田が、一部の家財を彼の元へ預ける事にしたのだ。加奈が来たのは、その整理の為だった。
「にしても、親父さん。大事な物を送るって言うから何かと思えば昔のアルバムとか‥‥。らしいっていうか、何ていうか」
「す、すみません」
 懐かしそうな目をする八木に、加奈はもう一度頭を下げる。
「そんな恐縮するような事は無いけど。なんなら、整理の合間にでも加奈君が店を手伝ってくれると助かるな。可愛い女の子がいてくれたら、お客も増えそうだ」
 そう、男は笑顔で言い足した。

----

 荷物の整理と、諸々の都合で加奈は数日間この街に滞在する予定だった。その数日の間に、日本の少女達にとっては特別な日がやってくる。
「バレンタイン、か‥‥」
 別の用事で街へと買い物に出た加奈は、ケーキ屋の軒先で足を止めていた。贈りたい相手は、いる。贈っても良いものかどうか、少し気が引けたりもするのだけれど。
「よし!」
 意を決したように、店の中へと足を踏み入れる加奈。その店から数軒離れた駐輪場では、異様な人だかりが出来ていた。

「はっはっは、押さないでくれたまえ。皆さんのゴールドは逃げないからね〜」
 そんな事を言う長身の仮面男の元に、女性達が黄色い悲鳴をあげて詰め掛ける。明らかに偽者臭いのだが、そんな男へと群がる女性達はどこか異様な気配だった。
「い、一生懸命作ったんです。どうぞ‥‥!」
「どきなさいよ! 私のチョコを受け取ってもらうのよっ。そして玉の輿に!」
 数日前までは女性に見向きもされなかったのに、謎の女から渡された仮面を身につけた途端のこのモテっぷりである。
(馬鹿な奴らだぜ、女って奴はよぉ!)
 道行く幸せそうなカップルを見ても、もはや羨望は沸かない。何せ、自分はその何倍もモテモテなのだ。目があったら、隣の男を捨てて自分の方へ擦り寄ってくる女すらいる。
(クックック。俺は、勝利者だ‥‥! 人生の!)
 女性にもみくちゃにされながら、男は幸せに浸っていた。その様子を、妙に空いた駐輪場から冷たく眺める女が1人。
「馬鹿な男。自分が実験台にされているとも知らずに‥‥。フフフ」
 この寒空では少しばかり露出の激しい衣服に、ロングブーツとマント。せいぜい20歳過ぎの外見年齢の割に濃すぎる化粧の下から、白い歯が見える。
「キメラ獣ぱおーんは失敗に終わったけれど、この作戦は完璧なはずよ。キメラ獣ぱぴよんの催眠効果で、街中の女達を虜にしてしまいなさい。そして、嫉妬の中で互いを憎みあい、破滅すればいい」
 この実験が成功に終われば、世界中で一気に人類を駆逐できるかもしれない。そんな事を考えて悦に入っていた女が、振り向いたのはその時だった。
「何者だ!」
「貴女こそ‥‥誰!?」
 加奈が思わず取り落とした袋から、可愛く包装された小箱が零れる。それに刺すような目を向けてから、女はニヤリと笑った。
「私はバグアの麗将モリン。偉大なるボルゲ様の第一の配下よ。貴女はあの時の能力者ね。‥‥こんな場所で会うとは思わなかったわ」
「バ、バグア‥‥? あの時のって、何!?」
 加奈が思わず身を引く。隠れて観察していたモリンに加奈が気づくはずなど無い。だが、自分の計画を無にした敵が自分の事を目にも留めていない様に感じて、ウィップの柄を握るモリンの手に力が篭った。
「‥‥おやり!」
「君も、この俺と一緒に夢の世界にいかないか? この可愛い彼女達のようにさ」
 ぱぴよんマスクをつけた長身の男の周囲に、虚ろな目の女性達が立ち並ぶ。
「な、何を言って‥‥」
 驚く加奈に、操られた女性が奇声をあげながら飛び掛った。人間にあるまじき速度と反射神経は、催眠の効果だろうか。だからといって本気で殴り返す事も出来ず、加奈は防戦一方だ。
「‥‥ミカエル!」
 AU−KVへと手を伸ばした少女へ、ぱぴよん仮面からの奇怪な光線が降り注ぎ、爆発に姿が見えなくなる。
「何事だ?」
 その音は周囲にいた人々の耳にも、届いた。それが、バグアとの長く激しい戦いに加わった、新たな一幕の開幕を告げる号砲であった事を、まだ誰も知らない。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
アンジェリカ 楊(ga7681
22歳・♀・FT
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
御崎 栞(gb4689
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

●バグアの仕業だ!
 突然の爆発音が、地方都市徳島の平穏を裂く。
「バ、バグアだ!」
 誰かが言い出した一言に、慌てて逃げ出す牙無き一般市民達。だが、そこには戦う術を持つ能力者たちもいた。
「まったく、たまの休みだっていうのに」
 その1人、ファルル・キーリア(ga4815)は人の波に逆らって駆け出す。数日前、九州で人々の為に戦ってきたばかりの女戦士には、束の間の休息も許されないのだろうか。ファルルと共に短い息抜きを楽しんでいたアンジェリカ 楊(ga7681)も、すぐ後ろを追い掛ける。その手には少しばかり生臭そうな外見の小太刀が。
「ファルルさん、自分で買ったのはちゃんと持ってよ」
 瀬戸内の上質な魚介を求めて、寸前までファルルは魚市場を訪れていた。妙に所帯じみた行動だ。何故か売られていたらしい秋刀「魚」を、ついつい買ってしまう辺りもおばちゃんくさかったが、まさか早くも実戦に使う機会があろうとは。
「騒々しいですね。‥‥バグア、ですか?」
 通りの反対側にいた御崎 栞(gb4689)も、聞き捨てならぬ単語に眉を顰める。旅行でこの町を訪れていたのもファルル達と同じで、何故か武器を買ってしまった辺りも同じである。一部身体的ステータスもいい勝負だったりするようだが、栞は若干15歳だ。19歳の楊や20歳のファルルとは、将来性が多分違う。もう1つ違うのは、うっかり買ってしまった購入物がバトルブックである辺りだろうか。まだ、女の子らしい買い物だ。

 というか、そんなに容易く武器が手に入る辺り、何かがおかしいのだが。
『‥‥もしもし、八木さんかい? 預かってた奴、さっき売れたよ。うん、うん。買って行ったのは‥‥』
 そんな会話が、彼女達が立ち去った後で交わされている事など、栞もファルルも気づくことは無かった。

「加奈様はどちらにおられるのでしょうか‥‥」
 一方、直江 夢理(gb3361)達は、この騒ぎが起きる前から加奈を探している。
「喫茶店の御主人に伺った場所はこの辺りだと思いますけど‥‥」
 柚井 ソラ(ga0187)が小首を傾げる。クラウディア・マリウス(ga6559)に誘われて、彼らは加奈の荷物整理の手伝いに来ていた。徳島に到着したのはついさっきだ。ちょうど、商店街まで買出しに出ているという加奈を追いかけて来たものの、知らない街では人は意外と探しづらい。
「夢理さんはバイクだし、手分けしてさがそっか?」
 クラウがそう提案したのと、爆発音が響いたのはほぼ同時だった。期せず、3人の目が同じ方向を向く。その視線の先には、探していた加奈の姿があった。
「はわわ、ソラ君、大変っ! 加奈ちゃんが変態さんに襲われてるよっ」
 頭部に装着したパピヨン仮面とうさんくさいマントはともかく、服装などは普通っぽいのだが、少女の呼称は変態。
「はわ、ホントだ。変態です!」
 間違っても蝶最高なぴっちりレオタード姿などではないのだが、少年の呼称も変態。実に酷い言われようである。
「加奈様‥‥、私がお守りしなければ」
 夢理が押していたAU−KVに飛び乗った。その後を駆け出した2人の脇で、斑鳩・南雲(gb2816)のAU−KVが急停車する。
「あれは、伯しゃ、じゃない、ゴールドさんの真似?」
 帰省した近畿から、ふらっとツーリングに出た先で妙な物に遭遇したものだ。が、そこで萎えずにテンションを上げるのが南雲流である。
「‥‥偽者の出現は王道! 浪漫だね!」
 後ろからハリセンを引き抜きつつ、地を蹴って転回する少女。
「護身用の武器は傭兵の嗜みね。持って来ていて良かったわ」
 道路の向かいにいた智久 百合歌(ga4980)は、ガードレールを飛び越えながら手提げ袋の中に片手を入れる。引っ張り出してきたのが制圧用のフルオートショットガンである辺りは、多分突っ込まない方が良いのだろう。

●称号:変態
 へんた‥‥もとい、怪人の下へ真っ先にたどり着いたのはクラウ達だった。手を伸ばしたものの装着は出来なかったらしく、生身のままの加奈は目も空ろな若い女性達に駐車場の端まで追い込まれている。
「加奈ちゃん、大丈夫!?」
「この人たち‥‥、普通の人だから、怪我させちゃ駄目で‥‥」
 皆まで聞かず、すっ、と胸のペンダントに左手を当てるクラウ。その手首にキラキラと輝きが集まった。
「星よ、力を‥‥」
 囁いたクラウの横を、ミカエルを纏った夢理が駆け抜ける。
「きゃっ」
 操られた女性たちの只中に駆け込み、加奈を姫抱きにしてそのまま奥へと駆け過ぎる夢理。
「おっと‥‥、俺の虜になりに、また可愛らしいレイディ達が来てくれたようだね」
 どこかの小学生のような発音で言う男の、仮面がギラリと輝いた。ギザギザの軌跡を描いて怪光線が2人の後を追う。
「!」
 生身の加奈を庇うように、敵に背を向けた夢理。だが爆発の衝撃は襲ってこなかった。ハリセンを引っさげて、アンジェがへんた‥‥怪人との間に立ちはだかっている。
「加奈様、御無事でよかった‥‥」
 錬力を使いすぎたのかほっとして緊張が解けたのか、へにゃりと座り込む夢理。
「ありがとう、夢理ちゃん。それと、そちらの‥‥?」
「べ、別に助けたわけじゃないから!」
 誰も聞いていないのにそう言ってから、アンジェは怪人へと向き直る。へらへらした笑みを浮かべた男は、全然板についていない一礼を闖入者へ送った。
「そこの変態! あんたが元凶ね!」
 返事は明らかに聞いていないアンジェの呼称に、怪人がきょとんと瞬きする。どうやら自覚症状が無いようだ。
「変態は変態らしく下着でも被ってればいいのよ!」
 ファルルに鼻で笑われた男は、さらに瞬きを重ねてから、ポンと手を打った。
「おい、呼んでるぞ。アンタの知り合いか?」
「こ、こっちを見るな!」
 怪しげな女、こと麗将モリンが大声を上げる。
「はわ、こっちにも変態さんがっ!」
 目を丸くするクラウ。モリンの服装は、水着かレオタードと見紛うような薄物にトゲトゲのついたロングブーツ、肩当と真っ黒なマントだ。このスタイルで歩いていいのは埼玉の石切り場か夏冬の湾岸某所位。冬の街中を歩いていては、どう見ても変態である。

●称号:ド変態
「変態を操る人、だから‥‥ド変態だねっ!」
 AU−KVで乗り込んできた南雲がびしぃっと指を突きつけた。戦わずして称号だけレベルアップしたモリンがピキピキと眉間に血管を浮き上がらせる。
「やっておしまい!」
「ふっ‥‥、というわけだ。やってしまってくれたまえレイディ達」
 一般人のお姉さま達がゆらりと手を伸ばす。その前に、ばっとソラが立ちはだかった。
「なんであんな男に従うんですかっ」
 目を潤ませて説得するソラだが、催眠状態にある女性たちには通じないようだ。ちょっと年齢層的には上のお姉さん達に掴みかかられそうになって、思わず身を引くソラ。
「大丈夫! こんなこともあろうかと! ハリセンを持ってきてあるよ!」
 すぱーん! と南雲のハリセンが一閃した。先頭に居た女性がべしゃり、と倒れる。
「峰打ちだから、安心!」
 返す刀、もといハリセンでもう一撃。さすがに遠慮のない能力者にかかれば一般人など造作もない。
「あんな馬鹿丸出しの変態男に夢中になったなんて一生の恥ですよ」
 ため息をつきつつ、本でゴツンと叩いていく栞。彼女も一応は声を掛けてはいるが、声だけで元に戻るとは期待していなかった。
「早く‥‥、帰って‥‥、本を読みたいのですが」
 ゴツ、ゴツ、ゴツン。3人が折り重なるように倒れる。しかし、男はまだ余裕のポーズを崩していない。
「仕方が無い、じゃじゃ馬慣らしをしなければいけないようだねぇ。‥‥さぁ、俺の目を見るんだ」
 ギラリ、と仮面がさっきまでとは別の色に輝く。
「ほわっ!?」
「え!?」
 虚実空間をかけようとしていたクラウと、切り込もうとしていた南雲の目の焦点が遠くなった。
「ソラ君。この人、そんなに悪い人じゃない気がしてきましたっ」
「伯しゃ‥‥ゴールドさんと似たような仮面だし、悪い人なわけないよね!」
 一般人と違って意識ははっきりしているようだが、明らかに言動はおかしい。
「動かないでね。ふふふっ」
「クラウさん!? お前、クラウさんに何をしたんだ!」
 突然後ろから羽交い絞めにされて、ソラは慌ててもがく。単純な腕力ならばソラの方が上だろうが、不意を衝かれたせいか振りほどけない。
「‥‥面倒ですね」
「さっきまでの仲間が敵に! これも王道で浪漫だね!」
 苛立たしげにバトルブックを構える栞の正面へは、何だか嬉しそうなハリセン侍・南雲が立つ。

●称号:レイヤー
「ふん、能力者が来たのは計算外だけど、女ばかりとは好都合ね。ここは‥‥」
 一般人たちが暴れだしている間に、モリンは再び壁際に寄ろうとしていた。
「待ちなさい。貴女、何の為にこんな事を!?」
「‥‥まだいたのね。いいわ、この私、偉大なるボルゲ様の第一の僕、麗将モリンの素晴らしい計画を‥‥」
 ずぎゅーん。空気を読まない発砲音が田舎町に木霊する。
「ちょっと、人の話の最中に失礼じゃなくって?」
「私は何もやってないわよ?」
 煙の立つ銃口へフッと息を吹きかけてから、しれっと言うファルル。
「ま、まぁいいわ。冥土の土産に教えてあげましょう」
 よーするに話したくてしょうがないのだろう。その内実はといえば、催眠ふぇろもん光線で人類を操ってしまえ、以上。何やらキメラ製作時の手違いで女性限定になったらしいが、人類の半分は女性だし十分凄いよね、と言う事の様だ。今回のメンバーを見るに、実にオチの読める特殊能力である。
「ふーん、へー」
 校長先生の朝の訓示を聞く女子高生レベルで適当に相槌をうつ百合歌。しかし、彼女も30台人妻。人の話の最中に手鏡を出して化粧を直したり携帯電話で友達にメールしちゃわない程度には大人だった。
「で、コスプレイヤーな麗将モリン、コスプレイヤーな麗将モリン‥‥。大事なことだから2回言ったわ。自分で『麗将』とか名乗って、恥ずかしくない?」
「何だと、偉大なるボルゲさまから賜ったこの名を‥‥」
 コスプレイヤーには怒らないのか。しかし、モリンの怒りを能力者たちは更に煽る。
「大体、露出度を上げれば人気が取れると思ってるのが古いのよね」
「まぁ露出してればいいってもんじゃないけど。冷えは女性の大敵よ?」
 ファルルの言葉に、百合歌は実感の篭った台詞を続けた。
「ええい! まだ冷えが気になるような年では‥‥」
 ドンドンドン、と重い銃声が響く。
「若さで大丈夫なんて言ったら、撃つから」
 撃ってから、据わった目で言う百合歌、30台。その引き金は言葉よりも大分軽かった。
「胸の大きさが戦力の絶対的な差で無い事を教えてあげるわ、このオリムもどき!」
 お魚っぽい武器で切りかかるファルルを、鞭を引き抜いたモリンが迎撃する。
「くっ‥‥、鞭使いだったとはね」
 その武器にファルルが羨ましそうな視線を送ったのは、多分気のせいではない。
「くっ、何をしているの。さっさとこいつらを洗脳なさい!」
 ニヤっと笑い返してから、怪人は羽交い絞めされたソラに向き直る。再び、仮面が怪しい光を放った。
「フフフ、これで君も俺の魅力にフォーリンラブさ」
 そのうちトゥギャザーしようとか言い出しかねない位に、男はノリノリだ。しかし、見返したソラの目は意思の力をとどめている。
「女の人に無理やり言う事を聞かせるなんて、最低です!」
「‥‥な、なんだと。うっ!?」
 うろたえた一瞬、背後に回りこんでいたアンジェのハリセンが男の後頭部をしたたかに打ち据えた。
「ほわっ? わわっ!?」
 慌ててソラから離れるクラウ。
「‥‥あ、あれ?」
「隙ありです」
 我に返った南雲は、栞の本の角でゴツンと叩かれていた。
「くっ‥‥何故キメラ獣ぱぴよんの洗脳が効かないのだ。はっ、まさか」
 ファルルをしげしげと眺めてから、モリンが舌打ちする。
「どうにも体形がおかしいと思ったら、女装が混じっていたとはね‥‥。変態はどっちだか」
「どういう意味よ!」
 そういう意味です。

●戦いの終わり、そして長い戦いの始まり
 あっさり突っ伏した男から仮面を剥ぎ取り、叩き潰した能力者達がモリンへ鋭い目を向ける。
「ふ、ふん。今日の所はただの実験。見逃してあげるわ」
 型どおりの捨て台詞を吐いて、跳躍するモリン。駐輪場の隣、3階建のビル屋上へと飛び上がった身体能力に驚くべきか、それともその後、あの格好のまま走って帰ったのだろう事を哀れむべきか。
「83といった所かな。格好の割に、たいしたことなかったわね‥‥」
 胸元に手を当てつつ、アンジェが言う。
「そういえば、あなたUPCの区分で標準体型だったのね。‥‥くっ」
 横からは、ファルルが微妙な視線を同志たる彼女へ向けていた。

 一方、意識を取り戻した男は、自分を包囲する美女達(一部表現に誤りがあることをお詫びします)に気がついて、おろおろと視線を泳がせる。
「こ、ここはどこだ。俺は一体なにをしていたんだ? 許してくれ、さっぱり覚えてな‥‥」
 覚えてない人は許してとか言いません。
「覚悟はいいですか? いいですね?」
 白い歯を見せる栞。多分、それは栞が苦手とする感情表現ではなく、もっと他の理由によるものだろう。
「た、助け‥‥」
 言いかけた男を、被害者の皆さんが取り囲む。お姉さん達に、容赦する気は無さそうだった。
「ちょ、待っ‥‥」
「悔い改めろ変態っ」
 背を向けた栞が、吐き出すように言い放った。どうやら貴重な読書時間が削られた事に相当お冠のようだ。おろおろするソラだが、止めに入るほどの勇気は無く。
「‥‥ま、自業自得じゃない?」
 苦笑するアンジェの脇から、クラウが恐る恐る男の様子を伺う。
「えっと、大丈夫ですか?」
 うん、まだ生きてるとは思うよ。

「加奈様、この小箱は‥‥」
「あっ!?」
 夢理が、身を挺して守った小さな箱を差し出す。
「‥‥篠畑さんなら、甘い物は苦手だそうですよ?」
「あ、し、知ってますからビターに‥‥」
 クス、と笑ったソラに、わたわたと慌てる加奈。
「篠畑様、とおっしゃるのですね‥‥」
 可愛らしくラッピングされたチョコを、夢理は複雑そうな目で見て、自身も小さな包みを取り出した。
「これは、私から‥‥加奈様に」
「え!? ありがとう。嬉しい!」
 加奈がにこやかに笑った所へ、大型バイクがブレーキ音もけたたましく乗り込んできた。メットの下から、初老の男の顔が現れる。
「加奈君、大丈夫だったか? ‥‥君が、能力者になっていたとは驚いたよ」
「八木さん?」
 険しい顔で駐輪場を見てから、八木はその場にいた能力者達に1人づつ礼を告げた。
「ありがとう、とお疲れ様。良ければ店に寄って行ってくれないか。美味しいコーヒーをご馳走しよう」
 良ければ、相談したい事もある、と告げる男の視線は、鋭かった。

 ――この報告書は、楽しい時を作る報告官キトーと、御覧のPC様でお送りしました。