●リプレイ本文
●高速移動艇にて
傭兵達は、LHとT市を短時間で結ぶ高速移動艇に揺られていた。
「欧州戦線にも少しでも力に!」
と、シートに座って意気込むのは諫早 清見(
ga4915)。彼はキメラの行動に意味があるのか気になっているようだ。
「まぁ、捕らえたら何か解るかも。海ランチで体力つけてがんばろ!」
その疑問も、そんな爽やかな結論に達したようだが。
「そうですよね。何処から来て何が目的なのでしょうか?」
赤霧・連(
ga0668)は清見の疑問に同調する。
「倒すだけでなく調査もしっかりしたいです」
その連の意見には、清見以外の他のメンバーも同意見だったようで。
「街の西のどの辺りから来るのか情報集めをしないとな」
「ああ。西の通りの人などに詳しく話を聞いてみるか」
「証言者のおばあさんのお家にもお伺いしませんと」
御山・アキラ(
ga0532)、ヴォルク・ホルス(
ga5761)、ジェミリアス・B(
ga5262)の三人は調査の方法を話していた。
リリィ・S・アイリス(
ga5031)は彼らのやり取りをぼーっとした表情で見ていた。だが様々な事を考えているのであろう。時折うなずいていたから。
その一方で、海岸での食事を楽しみにしている人達もいる。
「皆さんで食べられるように、バーベキューの準備をしてきました」
楽しそうに語る御坂 美緒(
ga0466)は、シートの下に入れたバッグを皆に見せていた。中には鶏肉や豚肉、野菜類がぎっしりと詰まっていた。「支払いは自分で」と思っていたのだが、会計を済ませる段階で何故か拒否されたのだった。まあ、あまり考えない方が良いのかも知れない。
「まぁまったりするニャかね‥‥」
アヤカ(
ga4624)はバッグを見て笑顔だった。「バーベキューは楽しみニャ」と言いたそうな雰囲気だ。
そんな様々な考えの各人に、無機質な機内アナウンスが伝えられる。
『まもなく目的地上空です。現地の時刻は午前10時、気温は摂氏18度、天気は晴れ、です』
程なくして傭兵達は、T市の郊外で移動艇のタラップを降りた。
●下調べ
アキラ、清見、ヴォルク、リリィ、連の五人は、街の西で情報収集をする事にした。
「西の入り口付近を中心に聞き込みしよう」
という清見の意見から、街のメインストリートの西端、つまりT市の西の入り口へ行く。
そこには交通整理をする警察官の姿があった。バリケードを設置して通りを封鎖していたのだ。
「そこの人達、ここは危ないよ。早く離れなさい!」
五人は警察官の一人から注意されてしまった。
「それは皆さんも同じだと思うんですけど。どうかしたんですか?」
怯まずにヴォルクは警察官に尋ねた。彼なりのユーモアも交えて。
「もうすぐ牛が来るんだ。今日は牛の日だからね」
「もうすぐ、というのは、13時から14時の間の事か?」
「俺たちはUPCからの要請で、その牛を退治しに来たんです」
アキラも警察官の言葉に続いて切り返すように尋ね、清見は簡単に説明した。
「そうだったのか、助かるよ。本官もあの牛には困っていてね」
警察官はあっさり納得してしまった。能力者達の事は事前に伝達されていたのかも知れないのだが。
そんな訳で、この場で警察官を相手に牛の情報収集をする事になった。
「牛は車につっこんでいるようだけど、車を真っ赤に塗ったらそれにつっこんで来るかな?」
清見は、囮を立てようとしているらしく、それが可能かどうかが知りたかったようだ。
「赤く塗っても変わらないと思いますよ。何しろやつら、動いてるものなら何にでも突っ込んで行くんだ」
警察もお手上げだからなのか、走る車を取り除いて、牛による被害を最小限に抑えていたのだ。
「廃車を一台用意してもらえませんか? 囮に使える足回りが無事なやつを!」
「調べてみます。でも当てにはしないでくださいね」
清見の要請に警察官はそう答えて、他の警察官に連絡していた。
「牛は三頭って聞いたんですけど、どんな牛なんです?」
「どんなって、大きな牛だよ。背丈は2メートル以上はある」
「色はどんな色です? やっぱり白地に黒い模様があるんですか?」
続いてヴォルクが質問していた。後の質問は冗談交じりだったのだが。
「一頭はそうだね。他の二頭は赤茶色のと黒いのだよ」
ははは、と笑いそうになったヴォルクを制するかのように、警察官は答えた。
「牛が西のどこから来るのか分からないか?」
「それがよく分からないんだ。丘の方から来る事もあるし、ここを道なりに来る事もあるようだ」
ヴォルクに代わってアキラが質問をするが、地元人であろう、この警察官にも分からないようだった。
警察官は内陸の山になっている方と、郊外へ伸びる道を指差して説明していた。道の左側は海、右側は丘になっている。だが、少し歩かないと海は見えないようで、沿道には工場や公園があった。工場は道の左側、公園は右側である。
「確かな事は、牛はいつもここを通って街を出入りしている事だけでね」
そう言う警察官は、だからバリケードを置いているんだ、と言いたそうだった。
「何で牛さんキメラは13時から14時の間に来るのでしょう?」
「さあ? それも分からないね。特に交通量が多いとか少ないとかも無いので」
連は気になっていた事を質問したが、答えは分からなかった。
ヴォルクに連れられて来たリリィは地形を調べていた。丘の公園の地面には、大きな牛のひづめらしき跡が残されている。
一方、ジェミリアスは証言者のおばあちゃんの元へ情報収集に向かっていた。
「遠い所から良く来たわね。ねえ、おじいさん」
「そうじゃの。なあばあさん、朝食はまだかの?」
「あらやだ、さっき大きなトルティーヤを食べたじゃないの」
そんな歓迎を受け、ジェミリアスは質問を始める。
「三頭だったと思うわ。出かけた時に一度見ただけだから、もっといたのかも知れないけど」
「他に何か見ませんでしたか?」
「そうねえ、黒くて大きな牛がトラックをひっくり返していたわ。角で」
おばあちゃんはその様子を道の隅で見ていたのだそうだ。
手伝わせてください、というジェミリアスの申し出をおばあちゃんは申し訳なさそうに拒んだ。
「それは悪いわ。それよりも牛退治、頑張ってちょうだいね。これをあげるから」
そう言っておばあちゃんは、お昼ご飯用に、と作り置きのトルティーヤをジェミリアスに渡す。
卵が焼けた匂いが鼻に心地良い一品だ。
美緒とアヤカは、海岸でバーベキューの準備をしていた。
「網と炭を借りてきたニャ!」
アヤカは八重歯が見えるほどの満面の笑顔で、荷物を抱えて美緒の所へパタパタと駆け寄った。
「ありがとう。こっちも準備が整ったわ。これで海水浴が出来れば良かったのに」
そんな、笑顔のち曇り、と言えそうな表情を美緒は見せている。
「バーベキューだけでも楽しみニャ」
アヤカの表情は笑顔のままで、炭に火を起こそうとライターと格闘していた。
アヤカが借りてきた網と炭は、この街で雑貨屋を営んでいたフリオ(54歳男性)が提供した物だ。
「腹減ったー。お、バーベキューの準備できてる!」
海岸に戻って来た清見は、自分に正直な感想を述べる。
そこに他の四人と、別行動のジェミリアスも戻り、昼食の時間になった。
●ランチターイム
「皆で食べられるように準備してきたから、どんどん食べてね」
そう言う美緒は、菜箸で小気味良く網に肉や野菜を乗せていく。その肉の種類はと言うと、豚肉と鶏肉だったようで。
本当は縁起担ぎに牛肉にしたかったようだが、値段を考えて断念したとの事だった。
「おいしーのニャ」
網の近くでは、アヤカはバーベキューをぱくぱくっと食べてご満悦の様子。
「ほむ、幸せです」
連は仲良しな美緒と一緒にバーベキューの具材を網に乗せつつ、幸せそうに食べていた。
突然ですが、ここで皆のお昼ご飯の紹介をしよう。
一番手は清見。彼が持ってきたのはおにぎり。
その出来栄えは「握りつぶさないかと思ったけど案外出来るもんだね」と本人もビックリの綺麗な三角おにぎりだ。
「諫早さんのおにぎりも楽しみだったの」
と、目を輝かせていた美緒に、清見はおにぎりを差し出した。
「どうぞ。梅干、焼鮭に焼きたらこ、それと」
「よかった。いただきますね」
「あ、それは葉わさび!」
説明中に、美緒は葉わさびのおにぎりに手を伸ばしてぱくっと食べてしまった。
「だ、大丈夫だった?」
「う、うん。ちょっとびっくりしましたけど」
そんな美緒はちょっぴり涙目だったようだが。
二番手はヴォルク。彼が持ってきたのはくるみパン。くるみの香ばしい香りが食欲をそそる一品だ。
「みんなに二つずつあげるよ。良かったら食べてくれ。ほら、リリィにも」
「あ、ありがとうございます」
サンドウイッチを食べようとしていたリリィは、空いた手でくるみパンを受け取り、一口食べた。
「美味しい」
「そっか、作った甲斐があったぜ」
褒められたヴォルクは、にっと笑って見せて、同じようにくるみパンを食べ始めるのだった。
「リリィはサンドウイッチを作ってきたのか」
「はい。あんまり上手に作れなかったですけど」
「そうか? 上手く出来てると思うけどな」
そんなリリィをヴォルクは気に掛けていたのか、励ましていた。
三番手はジェミリアス。彼女はカリカリベーコンと温泉卵がトッピングされたグリーンサラダを持参していた。
そのサラダは、色合いのコントラストが目で楽しめる一品だ。
「別にダイエットしていないです」
と苦笑いするジェミリアスの手には、それを証明するかのように、先ほど貰ったトルティーヤがあった。
そのトルティーヤに目を輝かせたのは連だった。ちょっと欲しいのです、とねだって少し貰った連は。
「この卵焼きの隠し味は何なのでしょうか!?」
と、感激していた様子。今すぐおばあちゃんの家に作り方を聞きに行きそうな勢いがあったとか。
そんな連が持ってきたのは、BLTサンドウイッチ。これも具の色合いが目で楽しめる一品になっていた。
食べながら連は、さっき言った「幸せです」を再び口にするのだった。
四番手はアキラ。彼女は手製のサンドウイッチを持参していた。士官には材料費だけお願いしたそうだが、その出来栄えは。
「ヒミツだ」
ぶっきらぼうな彼女らしく、見栄えよりも味、という方針の下に作られたようだった。詳しくは言わないでおこうと思う。
●決戦! 人vs牛
そんな幸せなひと時も過ぎてしまい、時刻は13時前。傭兵達の出動の時間になった。
街の西の入り口の外で迎え撃とうと考えていた彼らは、通りのバリケードの外で待機する事になった。
「あ、皆さん。廃車は用意しておきましたよ」
警察官はそう言うと、車を指差した。それにはちゃんとロープが付いていて、引っ張れるようになっていた。
「おお、バッチリですね、アリガトーっす!」
清見は満足げにロープを握って、少し引っ張ってみたりした。一方、ヴォルクは。
「これで、俺が狙われなくて済むかも」
赤い髪を気にしてか、ほっと一安心していた。
「それじゃ、あとはお願いします」
警察官はそれだけ言うと一目散に退散した。これを合図に、彼らは迎撃の準備に移った。
配置は、通りの近くにある工場の外階段の上で、美緒が周囲を見張って牛を警戒する。他のメンバーは、廃車の影で待機。
方針は遠距離からの攻撃で牛の脚を狙って走らせなくする事。そしてトドメを刺していく、というものだ。
「あ、牛が見えましたよ。丘の方です!」
配置について間もなく、美緒は下の皆に報告した。
丘を見ると、巨大な牛三頭がのんびりとした足取りで歩いていた。これだけを見ると非常に牧歌的なのだが。
「ンモーッ!」
大きな声で鳴いた牛の口にあったのは。
「あの牛、キバが生えてる!」
双眼鏡を覗いていた清見は驚いた。牛の口に三角形の歯がびっしりと生えていたから。これが巨大化した牛ではなくキメラだと改めて分かったから、とも言えるのだが。
早速、清見は囮の廃車を牛の進路を塞ぐように移動させる。すると、それまでのんびりと歩いていた牛達は突然走り出した。
「ンモーッ!」
「ちいっ!」
清見は牛の行動に驚き、先頭を走る赤茶色の牛の前脚を狙って小銃の引き金を引いた。続いてアキラも機関銃を連射して脚を狙い撃ち、牛は前につんのめる格好になる。すると牛は、砕かれた前脚を折って急停止した。
後続の牛二頭は、止まったまま弱気な鳴き声を上げる牛を右と左にかわして、囮の車への突進を続ける。
それに立ちはだかるのは、連の雷による一撃だ。
「足元がお留守ですよ?」
そう言って放つ攻撃には鋭角狙撃と急所突きの力を籠めようとしたのだが、スパークマシンの電撃による攻撃では、ほとんど効果は無さそうだった。それでも白黒の牛の前脚に命中し、焼け焦げた跡をつける事が出来た。
それでも白黒の牛の突進は止まらず、囮の車へ頭を低く下げて頭突きをして、ひっくり返してしまう。
その直後、黒い牛が一番前に立っていたアヤカに襲い掛かった。
「ニャッ!?」
黒い牛の突進をまともに受けたアヤカは、猫耳が生えた顔に苦痛を浮かべて、宙を舞った。
「うわーっ!」
次は自分がやられると思ったのか、ヴォルクは、睨みつけてくる白黒の牛の前脚に狙いを定めて、両手のスコーピオンの引き金を引いた。鋭い音が響いた後で、バランスが悪い白黒の巨体は前脚を折って、歩く事が出来なくなった。
だが、白黒の牛は、まだ後脚と首を振って抵抗が出来るようだった。
「よくもやったニャ!」
自分を襲ったのは黒い牛だという事を忘れたのか、アヤカは白黒の牛の頭にルベウスの一撃をお見舞いし、戦闘不能にした。
残る牛は黒い牛一頭。
リリィはスコーピオンを手に、黒い牛に狙いを定めた。フットワークに欠ける巨体に銃弾が襲い掛かり、貫いた。
「ンモー!」
腹部に刺さった苦痛に、牛は暴れる。
そして、美緒の練成強化の加護を受けたジェミリアスのスピアの一撃が、牛の胴体に深々と突き刺さる。
ところが、それでさらに牛は暴れて、ジェミリアスは角の一撃を受けてしまった。
「キャッ!」
弾き飛ばされるジェミリアスと代わるようにして、美緒は少し離れた階段の上から、強烈な電撃をお見舞いした。
「モモモモッ!」
その攻撃は、黒い牛を丸焼きにしてしまうほど、強力なものだった。
●戦いの果てに
「ほっ、イヤな予感がしてたけど気のせいだったか」
牛退治を終えて、一番安心したのはヴォルクだった。
「これで、街に平和を取り戻せたのかしら?」
違う視点で安心したのは美緒。
「でも、何か忘れてる気がするです」
何だろう? 連は首をかしげている。
すると、ヴォルクの背後に巨体の気配が。
「そうでした、牛さんにトドメを刺していなかったです」
てへっ、と笑う連とは対照的に。
「やっぱりこうなるのねー!」
と、赤茶色の牛に追われるヴォルクだったとさ。