タイトル:市場跡の探索者マスター:北上右

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/11 02:08

●オープニング本文


 南欧の中堅都市、T市。
 この地中海沿岸の街は海運と鉄道による物流と交通の要衝であり、古代遺跡が散見される観光の街としての側面も持ち合わせている。
 しかし今では、バグア軍との交戦が度々起こる係争地となってしまった悲しき街。
 地中海の向こう岸、遥か彼方の暗黒大陸から、異邦人達が押し寄せてくるためだ。
 彼らは手ぶらで来るわけではない。厄介なモノを持ち込んではT市へ攻め入り、攻めた回数だけ撃退されて、海の向こうへと帰っていった。

 T市には戦争による被害が大きかった場所が何箇所かあり、それらは切り捨てられるように放置されて立ち入り禁止地区となっている。
 そんな放置された場所の一つ、市場跡。ここでは最近、何かが吼える声が聞かれるようになった。
「ウオォーッ!」
 彼らが持ち込んだモノがまたひとつ、天幕の残骸の中で目覚めたのだ。


 偶然見かけたモニターには、T市の風景と事件レポートが映し出されている。通りがかった私は何となく、それをぼーっと眺めていた。
「うおーっ!」
 突然耳元で叫ばれた私は、とっさに身を翻して後ろにさがった。
「驚いた?」
 当たり前だ! そう言う代わりに、私は握り拳を作って持ち上げて見せた。
「このT市の件ね、何も起こらないうちに解決してもらいたいのだけど」
 叫んだ眼鏡の女性は私の怒りなど意にも介さずに、モニターへ視線を向けた。
 女性だったのか。しかも、その服装はオペレーターだろう。年齢は20代から30代くらいだと思うが、詳しくは分からない。
「あなた、これを引き受けてくださらない?」
 女性オペレーターのアップにした髪を観察していた私は、突然水を向けられて戸惑ってしまった。
「コーヒーをおごってあげるから。ほら、きょろきょろしてないで、ここにお座りなさい」
 私は彼女に勧められた椅子に腰掛ける。椅子を勧めたオペレーターはと言うと。
「私の席にコーヒーを持って来て。うん、お願い」
 電話で誰かにコーヒーを淹れるように指示していたようだ。

「じゃ、事件の詳細を話すわね。この市場に放たれたキメラの行動が活発化したの。ごく最近にね」
 この市場はメインストリート沿いにあるため、昔は大勢の買い物客で賑わっていた。しかし、つい最近起きたバグア軍による空襲によって、市場は使用不能となってしまった。
「市場自体の被害は少なかったの。けど、一緒に落ちてきたキメラが厄介だったから、この場所を捨てたのね」
 落とされたキメラは市場の敷地外へ出る事はなかった。そのため、敷地を金網で囲って立ち入り禁止にしたそうだ。
「T市は対バグア戦の最前線だから、キメラ退治に人手を割けなかったのでしょう」
 そして現在に至る、と言う事だろう。
「市場跡の敷地は50メートル四方。メインストリートから市場に入る通路は2本あって、『コ』の字のように奥で繋がっているわ」
 モニターの見取り図を見ると通路の幅は3メートル、通路沿いには幅2メートル程度のテントで区切られた露天が建ち並んでいる。
「で、通路の突き当たりの露天の向こう側に、2階建てのビルが壁のように建てられているのね」
 ビルには市場の運営を行う事務所があったそうだ。ビルの規模は雑居ビル程度で、敷地面積は10×50メートル程度だろう。
「露天と言っても、この市場にはアーケードのような白い屋根がついているから。空襲でいくつも穴が開いているけどね」
 ところで、肝心のキメラは一体どんな形をしているのだろうか?
「えーっと、住民の証言をまとめると、猿みたいな形をしているんですって」
 証言を簡単に読んでみると、身長は人の大きさ程度で、黒褐色の体毛に覆われているそうだ。
「数はちょっと分からないなー、今回は調査もしていないから。6匹という証言も得られているのだけど」
 得られているのに、何か問題があったのだろうか?
「言ったのはおじいちゃんだったの。しかも、途中で朝ごはん食べてないって怒り出して。食べたでしょって言い聞かせるの、大変だったんだから」
 なるほど、大変だったのですね。
「もっとも、聞き取りしたのは私じゃなかったけど。あ、これ、今回の件の書類ね」
 その割には事情を良く知っているな。そう思いつつ、私はオペレーターから紙の束を受け取った。

「ほい、コーヒーおまたせ」
 話に一区切りがついた所で、男性士官がティーカップを持って現れた。
「あら、ソーサーもスプーンもお砂糖もミルクもないのね?」
「だってお前、何も入れないで飲むだろう?」
「もうっ。私じゃなくて、こちらにお出しするコーヒーを淹れて欲しかったのに」
 がっかりしたような表情で、私に手を向ける。
「あっ!」
 士官殿、そんなに怖いものを見るような顔して私を見ないで下さいヨロシクオネガイシマス。
「ダメねぇ‥‥淹れ直し!」
「わ、分かった」
 無体なオペレーターの一言と、それに従って走り去る男性士官。ここって走って良いの?
「うわっと!」
 あーあ、ほら、人とぶつかりそうになってるよ。
「気にしないでね、ただの罰ゲームだから」
 そう言ってにっこりと微笑むオペレーターの視線を感じながら、私は紙の束を読み始めるのだった。

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
MIDNIGHT(ga0105
20歳・♀・SN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
的場・彩音(ga1084
23歳・♀・SN
キャル・キャニオン(ga4952
23歳・♀・BM
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
レア・デュラン(ga6212
12歳・♀・SN
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

●おサル退治の下準備

 市場跡はメインストリート沿いにあるが、ここを通行する事は危険なため、警官から住民には迂回路を通るようにと通達されていた。
 よって、道に人通りや車通りはない。
「少し緊張はしますけど、他の方々に迷惑をかけぬよう精一杯頑張りますっ」
 今回が初任務と意気込む九条院つばめ(ga6530)は、そう言いながら全員に挨拶をしている。
 そんな戦友の姿に「ああ、よろしくな」と言葉を返してロープの用意をしているのは真田 一(ga0039)。このロープは半月前まで市場で雑貨屋を営んでいたフリオ(54歳男性)が提供してくれたものだ。
「あら、わたくしも、今回お戦闘は初めてでございますのよ」
 くすくす、と微笑みながらつばめに挨拶を返すのはキャル・キャニオン(ga4952)。良家の令嬢でしたの、と自己紹介するドレス姿の女性からは、富裕層出身者特有の余裕が感じられる。
「ところで、通信機って借りれたの?」
 思い出したように的場・彩音(ga1084)は皆に尋ねる。
「ムリ‥‥だった‥‥」
 残念そうに呟いたのはラシード・アル・ラハル(ga6190)。詳しくは教えてもらえなかったが、どうやら重要な作戦に使うため、こちらに回せる通信機がなかったようだ。
「残念ね。ま、何とかなるでしょ」
 そう言って、彩音は持ち前の明るさで暗い表情のラシードを元気付けていた。
「猿型キメラか。こんな障害物の多い場所はある意味独壇場だな」
 白鐘剣一郎(ga0184)は皆が集まっているところへ戻ってくるや、そう呟く。
 市場の様子を伺ってきたのだが、市場の中のテントが思った以上に健在で、しかも、メインストリートと中央の広場を自由に往来できたはずの場所には、テーブルや椅子でバリケードが築かれていたのだ。
「とは言え、好きにさせておく訳にはいかない。気を引き締めて行こう」
 剣一郎は皆を集めて作戦を確認する。まずA班、B班、C班の三隊に分けて、猿型キメラを奥の事務所ビルへ追い込む。A班とB班は通路を進み、C班は梁の上から猿たちを狙撃する、という作戦だ。
 敷地についても剣一郎は再確認していた。特に事務所内の構造は不明な点があったので、この市場の関係者から聞いていた。ビルの廊下は幅が3メートルほどで市場側に面した場所にあり、会議室や売店などの部屋は廊下の向こう側に位置している、との事だった。
「1mの猿‥‥2mの猿‥‥大違い」
 確認事項に出てきた猿型キメラの目撃情報に反応したMIDNIGHT(ga0105)は、髪をヘアーゴムで後ろでまとめながらそう言う。
「人間大のお猿さんって事よね。悪いお猿さんはたーっぷり懲らしめないと」
 不機嫌そうな彩音がすかさず合いの手を入れて市場を見詰めた。作戦開始と言わんばかりに。
 そんな中、レア・デュラン(ga6212)は一人で黙々と本を読んでいた。本の表紙には『絶対オイシイ! 中国料理レシピ』と書かれている。
 ふぅん、とか、へぇ、とか一人呟きながら読んでいるが、どんな事が書かれていたのかは後で判明する事になる。


●おサルの挑戦状

 傭兵達は『立ち入り禁止』と警告が書かれた金網製のフェンスを開けて市場へ踏み込んだ。
 金網はキメラの力で簡単に壊されそうなほどの物だったが、壊された部分はなく、幸いにも役目を果たせていたようだった。
 市場跡には屋根があるため、日中であっても薄暗く感じる。その屋根の下は店舗毎にテントが建ててあるためさらに暗く、そこにある物は何かが崩れている程度にしか見ることができない。
「あらあら、サルビアの花が似合うお猿れなお市場が‥‥ド大変でございますこと」
「憧れていた街が、蹂躙されてる、なんて‥‥許せない」
 言い方に差はあるが、キャルもラシードも、市場の惨状には憤っているのであろう。
 猿らしき姿は見当たらない。耳をすませば息づかいでも聞こえてきそうなほど静まり返っているのに、それすら感じさせない。
「行ってくる」
 一は言葉少なに、輪にしたロープを肩に掛けて上を見上げた。目指すのは屋根の下にある梁。そこへ上るためには、手近にあるフェンスをよじ登る事が最短ルートのようだった。
 一はフェンスを掴み、順序よく手足を動かして上へ上へと向かう。と、その時。
 ひゅっ、と何かが一に向かって、緩い弧を描いて飛んできた。
「あぶない!」
 誰かが言うが早いか、一の行動が早いか、一はとっさに左手をフェンスから離して、上半身をひねってそれを避けた。一の長く伸びた白髪が動作と共に流れる。
 それは一瞬前まで一の頭部があったところにぶつかって砕けた。腐った果実の香りが周囲に満ちて、一を汚した。
 一はその姿勢で、果実が飛んできた方向を睨む。見えるのは、テーブルも椅子もすっかり片付いてしまった広場だ。
 広場には黒い布を纏ったマネキンや、木箱がいくつか見えるだけだった。
「大丈夫‥‥か‥‥?」
 MIDNIGHTは心配そうに上を見上げて問いかける。一は「ああ」と言葉少なに再びフェンスを掴み、登る。
 フェンスと梁の距離は約1メートル。難なく梁に飛び移り、肩のロープを梁に結び付けて下へ垂らす。
 C班の彩音とラシードがロープを登ってくる。
 一はその間、周囲を警戒していた。梁は幅が50センチメートル、横に渡してあるので、梁を歩いて奥の事務所ビルの方向へは行けない。梁の上には白い屋根があるが、人が乗れるほどの強度はなく、屋根へ上って狙撃する事は出来ないようだった。
 二人が梁に上ったところで、一は下へ降りてB班のキャルとレアに合流して市場の通路の入り口に立つ。
 A班のMIDNIGHT、剣一郎、つばめの三人は別の通路入り口に立ち、合図を待つ。
 ラシードと彩音は梁の上に座ってスコーピオンとライフルを準備していたが、間もなくそれも終わった。
「ラシードさん、あたし達の役割は重要ともいえるけど、力まないで出来る範囲でやりましょう」
「ああ‥‥任せてくれ」
 深紅の髪をした彩音が右手を掲げて親指を立てる。作戦開始の合図だった。


●人とおサルの知恵比べ

 A班の三人は周囲を警戒しながら通路を奥へと進む。
 通路には様々なものが落ちていて、床材が露出している部分は少なかった。テントの生地や箱の残骸、果物や野菜、魚まで落ちていた。
「なんだか‥‥山狩りしてるみたいです。クサイですけどね」
 つばめは苦笑いしながら呟いた。
 こんなに臭う山狩りは御免被りたい、それはつばめ以外も『もっともだ』と思っていた事だろう。

 そんな中、梁の上からキメラが隠れていそうな所を銃撃しようとしていたラシードだったが。
「‥‥物陰が‥‥多い」
 うんざりしていた。やむを得ず、テントや箱を片っ端から撃つ事にする。空気を引き裂く音が辺りにこだまする。
 スコーピオンから発射された銃弾は、木箱やテントに大穴を開けていった。

 A班は少しずつ進んで行ったが、ラシードの銃撃2発目が近くのテントに大穴を開けた時。
「ウギャッ!」
 悲鳴が聞こえた。そのテントは衣類を扱う店だったようで、三体のマネキンが色とりどりに着飾っていた。
 三体のうちの右端のマネキンは白い布を纏っていたが、腕を黒い血で濡らしていた。その顔は、もちろんサル。
「ウッキーッ!」
 三人が身構えるよりも早く、白布を着たサルは吠えた。すると反対側のテントから、黒い毛むくじゃらのサルが三人の横に飛び出してきた。
「ウホウホッ!」
「出たな‥‥」
 MIDNIGHTは先手必勝を発動し、鬼灯に矢をつがえて黒毛のサルに向ける。
 矢を放つよりも早く、黒毛のサルが剣一郎に襲い掛かった。両手の爪を振り回したが、剣一郎にはかすらなかった。
「猿ならではの変幻自在の動き‥‥だが見切った!」
 剣一郎の月詠が襲ってきたサルに鋭く斬りつける。
 手応え充分。低い唸り声を上げて、斬られたサルは剣一郎と間合いを取った。
 白布のサルは痛みと怒りに任せて、敵意をつばめへ向けて襲い掛かる。
「きゃっ!」
 不意をつかれたつばめは、悲鳴を上げてサルの爪を避けようとしたが、無情にも体を斬りつけられた。
「これでも‥‥」
 黒毛のサルに狙いをつけたMIDNIGHTは、つがえた矢を放す。矢は狙い通りに走り、サルを傷つけた。
「このバカ猿、いい気になるな!」
 梁の上からライフルで狙撃する彩音は、追い打ちをかけるように狙いを黒毛のサルに定めて、引き金を引いた。
「ギャッ!」
 予想外の方向から銃撃を受けて、サルは飛び跳ねて後ろへ下がった。

 B班は逆の通路を進みながら、A班の戦闘音を聞いていた。
「あ、あれ、戦っているんですよね?」
 レアはおどおどとした感じで、前を行く一とキャルに尋ねた。
「ああ。油断するなよ」
 一は警戒を解かずにレアに注意を促した。
「あの、さっき読んでいた本に書いてあったのですが‥‥」
 前置きして、レアは話を続ける。
「中国ではお猿さんを食べるそうなのですけど‥‥美味しいのでしょうか?」
「くすくす‥‥あたくしも食べた事はございませんわね」
 三人の中で最も珍味を知っていそうなキャルは、相好を崩して言った。
 だが、反応したのはキャルだけではなかったのだ。キャルとレアが乗っている布を引っ張ろうとしていた黒いサルとやせたサルは『猿って美味しい?』の意味を知ってか知らずか、いや、理解できるはずもないのだが、暗い物陰で「ウギギ‥‥」と唸り声を上げたのだった。
 そしてサル達は、一とキャルの前に躍り出た。
「出たな‥‥」
 月詠と氷雨を両の手に持つ一は、サルに身構える。
 続いてキャルはパイルスピア、レアはスコーピオンとハンドガンを構える。だが、先手を取ったのはやせたサルだった。手近な標的、一にめがけて腕を振る。だが。
「くっ‥‥」
 際どいところで攻撃を避けた。すかさず一はやせたサルに反撃する。銀色にきらめく二刀が、サルを捉える。
「ウギャッ!」
 黒い血を床に撒きながら、サルは痛みに暴れ。
 黒毛のサルはやせたサルの援護と言わんばかりに、今度はキャルに爪の一撃をお見舞いする。
「くすくす‥‥敵も猿者でございますこと」
 かなり際どく避けたキャルだったが、余裕ある言葉と共に避け、パイルスピアで反撃してみせた。
 だがその穂先は空を貫き。
 梁の上からはラシードと彩音の銃撃の援護があった。銃撃はそれぞれのサルを穿つ。
「ま、負けませんよ!」
 援護射撃の後、レアは二丁の銃で黒毛のサルを射た。だがまだ二体は健在で、倒すには至っていない。

 A班の方では、決着がつきつつあった。剣一郎の剣の後、MIDNIGHTの矢が黒毛のサルを倒したのだ。
 それに憤慨した白布のサルは、素早い身のこなしでMIDNIGHTへ近付き、爪で鋭く斬りつけた。
「きゃっ‥‥」
 ダメージの衝撃でバランスを崩すMIDNIGHT。そこへ黄金色の影が、くるりと振り向いてサルを剣で薙ぐ。
「天都神影流、流風閃!」
 その剣一郎の一撃は、白布のサルを絶命させた。

 B班の方でも片がついた。一の剣の一閃の後、キャルが槍でやせたサルを刺し貫いたのだ。
 その一瞬の隙をついて、黒毛のサルがレアへと迫り、爪でざっくりと斬りつけた。
「こ、これは駄目ですよ! みんなのお昼ご飯なんですから‥‥」
 荷物のランチボックスに気を取られていたのかも知れない。そんなレアを狙うサルに、銃弾の雨が降り注いだ。
 強弾撃の力を帯びた彩音の銃弾は、黒毛のサルの命を奪い去った。

 4体のサルが片付いたところで、ラシードが中央広場にある物を疑っていた。
「どうしたの?」
「あのサル‥‥服を着ている‥‥」
 そう言って指し示したのは、剣一郎の足元に転がっているサル。
「そうだけど、それが何か?」
「もしかして‥‥あれは‥‥」
 銃を構える。狙うのは、広場に立っているマネキン。銃は轟音を上げて弾丸を吐き出して、マネキンを貫いた。
「ウギャッ!」
 マネキンから悲鳴が上がる。それもサルだったのだ。
「あっ、バカ猿! 悪知恵がきくなんて頭に来る!」
 逃げ出すサルに、彩音もライフルで攻撃する。銃弾はサルを貫いたが、まだ動ける状態だ。
 とどめを刺したのは、狙いすましたラシードの銃弾だった。絶命したサルは逃げる姿勢のまま、うつ伏せに倒れる。

 A班とB班は引き続き市場部分の探索を行ったが、サルの姿は見当たらなかった。
 C班の二人は事務所ビルへの探索に備えて、下へ降りて合流する。
「くすくす。さる物は追詰められませんでしたわね‥‥」
「でも、数が減らせて良かったですよね!」
 キャルとつばめはそう言って、ビルの二階を見上げる。窓ガラス越しのビル内には、動く影は見当たらない。
 潜入するのは、一、剣一郎、キャル、つばめ。他は外で援護射撃する事になった。

 ビルの内部は市場と同様、さまざまな物で床が覆われていた。何かの空き箱にビルの壁の破片が主であったが。
「全部で6体らしいが‥‥残りは1体か」
 一は一階の売店を観察した。陳列棚は崩れ、商品は床に散乱している。カウンターの中も見たが、サルはいなかった。
 階段を上がり、会議室に面した廊下へ出る。ひっそりと静まっていて、気配を感じない。
 部屋を警戒しながら廊下を進む。剣一郎達が部屋の扉から中を覗き込もうとしたその時。
「ウオォォーッ!」
 大きなサルは雄叫びを上げながら、扉を突き破って出てきた。衝撃で一と剣一郎は弾き飛ばされる。
 だが、防具のおかげで大したダメージにはならなかった。
 タックルで会議室から窓際へ出てきたボスザルは、外からの銃撃の標的になる。彩音のライフルの銃弾が2メートルの巨体に突き刺さり、呻く。
 そこへ、一とキャルの攻撃が追い打ちをかけて、ボスザルをよろめかせる。
 とどめは剣一郎の剣だった。
「天都神影流、狼牙閃・彗星!」
「グオォォッ!」
 強烈な突きがボスザルの体を貫き、黒い血が滝のように噴出する。剣を抜いた時は既に、ボスザルはもの言わぬ体であった。


●皆で一緒に

 傭兵たちがキメラ退治を終えて市場の外に出た頃には、太陽は傾きはじめていた。
「あの、お弁当でないって聞いたので‥‥サンドウィッチを作ってきたんですけど‥‥」
 どこかで食べませんか? とレアは提案する。
「あたし、たくさん食べる‥‥いいの?」
 MIDNIGHTの一言に、レアは「えええっ」と言って、三歩後ろに下がった。
「い、いいですけど。あとほらっ、コーヒーも貰っちゃいましたし‥‥」
 レアは女性オペレーターから預かっていた物を取り出して、全員に配った。これは男性士官が自分達が座っている間にコーヒーを淹れられなかった、罪滅ぼしの意味があるのかも知れない。
「‥‥海、見てみたい。ダメ、かな‥‥?」
「いいですね、海でサンドウイッチを食べましょうよ」
 ラシードの願いに、つばめはすかさず提案する。
 疲れた体を癒しに海へ行く傭兵たちの足取りは、とても軽かった。