タイトル:パンダ狂想曲マスター:桐谷しおん

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/18 02:04

●オープニング本文


 そこはとある幼稚園。
 パステル調の遊具に彩られたグラウンドの中央には、大きな笹の木が鎮座している。枝には遊具と同じくパステル調の短冊が飾られており、短冊には子供たちの無邪気な夢が溢れていた。
 そう、もうすぐ七夕祭。星に願いを託した幼稚園児たちも、その日を楽しみにしていた。

 しかしある朝。

 笹の周りには園児たちがわらわらと集まり、それを先生たちが懸命に制していた。
「パンダ!」
「パンダーっ!!」
 嬉々とした声に溢れる園内。見ると、笹の木を6匹の可愛らしい小パンダが取り囲んでいる。ころころとでんぐり返しをしたり、笹の葉をむしゃむしゃ食べたりと、その姿は愛らしいことこの上ない。
「パンダ! パンダ! パンダ! パンダ!」
 その光景に大興奮の園児たちはパンダパンダの大合唱だ。だが‥‥

「近寄っちゃ駄目!」
 先生たちは何故か必死の形相で園児達を止めている。

「これはパンダじゃないの!」
「お願い皆逃げて!」

 そう‥‥その小パンダは疑いようなく、キメラだったのだ。

●参加者一覧

乾 智世(ga1739
24歳・♂・ST
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
筋肉 竜骨(gb0353
24歳・♂・DF
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
Fortune(gb1380
17歳・♀・SN

●リプレイ本文

●第一楽章:IRONY〜愛嬌の裏の凶暴〜
「笹を求めてこんなところまで来ますか‥‥」
 Fortune(gb1380)は半ば驚き、半ば呆れたように呟く。幼稚園に到着した8人の目前には園児の群れ。そしてその奥には、6匹の可愛い子パンダがころころしている。わざわざこんな人里まで出てくるとは、余程空腹だったのだろうか。
「まあ、パンダも所詮は『熊』であって、食料の都合で笹なんて食べてますが、本当は雑食で熊としての凶暴性・攻撃性もあって‥‥結構危ないんですけどね」
 パンダの気持ちを空想するFortuneに、辰巳 空(ga4698)が言う。
 そう、パンダはその愛らしい風貌とは逆に、かなり凶暴な生き物だ。無論、パンダキメラも然り。だからこそ‥‥
「‥‥断固排除だ」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が低い声で宣告する。
「大切な子供達を‥‥やらせる訳にはいきませんからねぇ」
 そう。ここには守るべき子どもたち‥‥未来の可能性が煌いている。ヨネモトタケシ(gb0843)の声に力が篭る。まずは、園児たちを安全に避難させねばならない。

●第二楽章:園児狂想曲
「パンダ! パンダ! パンダ! パンダ!」
 園児たちの大合唱は鳴り止まない。むしろ、いよいよ盛り上がりを見せている。手を上下に振りながらの熱烈なパンダコール。
「‥‥ん。パンダ見に行く。キメラだけど。気にしない」
 気が付くと園児たちの群れに最上 憐(gb0002)が混じっている。初めて見るパンダに憐も興味津々のようだ。
「さて、子供の誘導か‥‥。ふむ‥‥」
 園児たちの群れを眺めつつ思案顔をしていた御巫 雫(ga8942)であったが、園児たちの前へ歩み出ると、すぅ、とひとつ息を吸った。そして‥‥
「あそこに居る生き物‥‥パンダに見えるだろうが、あれは新種の宇宙人である!」
 雫の凛とした声が幼稚園中に響き渡る。突然の状況に、園児たちは皆きょとんとしている。園児たちの興味を惹けたことを確認すると、雫は更に捲くし立てる。
「そう‥‥可愛い姿をしては子どもに近付き、ドリルで歯を削る‥‥『ギャリギャリギャリチュイーン』とな‥‥」
 雫が人間の声帯から発せられたとは思えぬ妙にリアルな効果音を発する。園児たちを見るとカタカタと震えている。
「そして開けた穴にぶっとい針で注射をする‥‥ああ、とても痛いぞ‥‥腕にする注射が心地よく感じるくらいにな‥‥そして注射された子供は笹しか食べられなくなり、ゴムのタイヤ以外に興味が無くなる。ゲームも無ければ人形遊びもできぬ‥‥ハンバーグやスパゲティ、カレーも一生食べれない。ああ‥‥それでも構わないのならば、ゆっくりと見物するが良い」
「‥‥う‥‥うっ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥うわあああああああああああん!」
 園児たちは堰を切ったように一斉に泣き出した。そりゃあもう盛大に泣き出した。その惨状にパンダキメラたちもころころするのを止めて呆気に取られている。もしも彼らが言葉を解するならば、
『笹とタイヤ‥‥ぱらだいすなんだぜ?』
 とツッコミを入れそうだが、残念ながら人間様にとっては全然ぱらだいすではない。
 ここまで怯えられるとはあるいは予想していなかったかもしれないが、しかし雫は落ち着いた口調で、表情には優しさを湛えて言う。
「それが嫌な者は、先生と共に避難するように。慌てるで無いぞ。二列に並んで、落ち着いて移動するのだ。さぁ、私も行こう。向こうにおやつを用意しているのである」
 雫が手を差し伸べると、園児はその手を確りと握り締め、涙を拭きながら彼女に付いていく。
 園児たちが連れて行かれた先では、タケシが柔らかな笑顔で待ち受けていた。
「皆さん‥‥こんにちはぁ!」
 園児たちは目の前の大柄な、それでいておっとりとした雰囲気を醸すタケシを見上げた。
「今日は皆が毎日良い子にしてるので、御菓子を配りに来ましたよぉ」
 タケシが持参した御菓子の数々を見て、園児たちの表情は一斉に薔薇色になる。
「さぁ、良い子は並んで並んでぇ」
 タケシは満面の笑みで振舞うが、しかし、園児たちをキメラからなるべく離れた位置に並ばせる配慮は忘れない。
 雫が最後の園児の手を引き、タケシのもとへと連れて行く。すれ違い様、戦闘班の乾 智世(ga1739)にアイコンタクトを送る。戦いの準備は整った、と。
「こんな世の中だし。せめて子どもらの夢くらい、守ってやりたいじゃないッスか‥‥」
 上着のポケットに何故か大量に詰め込まれた飴玉をすれ違う園児たちに配っていた智世は、園児たちの夢が溢れた短冊を眺めながらそう呟くと、飴玉をひとつ、口に放り込んだ。これで精神集中は万全だ。
 御菓子に群り幸せそうな園児たちの笑顔を一瞬振り返った後、6人は一斉にキメラへと馳せた。

●第三楽章:熊猫狂想曲
「それじゃ、作戦通り頼むぜ」
「‥‥ん。魚じゃないけど。釣る。‥‥餌は空?」
 筋肉 竜骨(gb0353)が逞しい筋肉をより一層盛り上げて言うと、憐もこくりと頷く。
「わかりました」
「気ーつけてね」
 応える空に、智世が練成強化を施す。
「では‥行きます」
 言い終えるのと同時に、空は一気に小パンダへと駆け抜ける。狙いは離れて遊んでいる一体。パンダは子どもの頃は仲間と群れて遊ぶが、基本的には単独行動を取る習性がある。独り離れているならば、釣ることは可能だ。接近した空は、バックラーで小パンダを殴りつける。武器では無いため攻撃としての威力は無いに等しいが、今回の目的はそれではない。血で笹を汚すことなく、敵の注意を引くこと。そしてその狙いは見事に嵌った。空は即座に小パンダから引く。そして小パンダが空を追って向かった先には、能力者たちが待ち構えていた。
 凄まじい速さでやって来る小パンダ。しかし、それよりも更に早く、ホアキンが前へ出た。
「動物園に帰ることだな」
 ホアキンのソードが小パンダの喉笛を斬る。一瞬の終幕。全ては園児の前から一刻も早く排除するために。
「次、行きます」
 空もまた決着を急ぐ。もたついて子どもたちへと向かわせてはならない。先刻と同じ要領で、また一体を釣る空。そして群れから十分離れると、すぐさまその額を矢が射抜く。
「ここに来た時点であなた達の命運は尽きたんですよ」
 弦を振るわせながらFortuneが告げる。そう、キメラ達は来た場所が悪すぎた。子ども達の夢が詰まった笹。それを何としても守り抜くというのが、8人の総意だった。
「‥‥ん。回避優先」
 3体目。退く空と入れ違いに憐が前に出る。狙いを自分に変えさせると、小パンダの突進を寸前で交わす。そして‥‥
「カウンター狙い」
 すれ違い様、そのわき腹に憐の爪が突き立てられる。
「この調子だな。辰巳さん、次を‥‥」
 言いながら振り返った竜骨の言葉が途切れる。キメラ達を見遣る空。しかし空の視線の先では、残り3対のキメラが小さく固まってじゃれ合っている。
「‥‥ん。パンダキメラ。笹食べてる。笹は美味しいのかな?」
 憐の言い方が、何処と無く食べてみたそうに聞こえるのは気のせいだろうか。ともかく、短冊を守るためには、迅速な攻撃が求められる。
「‥‥仕方ありませんね。一気に釣ります」
「了解!」
 空の決意に全員が呼応する。4度目の接近、そして牽制。3体のキメラが一斉に空を振り返る。
「任せろ」
 竜骨が壁として前へ出る。先頭の一体がそのまま竜骨に体当たりした。
「ごめん、ちと我慢して!」
 智世が竜骨へ叫ぶ。前衛へ練成強化を掛け続けているため、残りの練力は極めて少ない。
「くっ‥‥こんな所にいるんじゃねぇ‥‥さっさと散れ」
 突撃した反動でころころと転がるキメラに、竜骨の槍が一突きに刺さる。
「‥‥ん。複数に狙われてる。援護に入る」
 憐が竜骨ともう一体のキメラとの間に入り、敵の気を逸らす。
「そこです」
 キメラの足が一瞬止まった刹那、Fortuneの矢が放たれる。
 危険を察知したか、最後の一体は踵を返し、ホアキンへと突撃する。
「甘いな」
 キメラを交わすホアキン。そして空いた間合いからエネルギーガンを放つ。子ども達に銃声を聞かせないように‥‥。戦いは静かに幕を下ろした。

●第四楽章:YNORI〜祈り〜
「‥‥これでよし、と」
 竜骨が麻袋を車に積み込む。その中身は、6体のキメラの亡骸。戦闘班の6人は戦場となったグラウンドを掃除した。作戦のお陰で笹と短冊は無事だったが、それでも、園内に血の匂いが残らないよう、竜骨が赤く染まった土を回収する。ホアキンもまた、遊具などを見て周り、血が付いているのを見つければ水で洗い流した。智世は笹に血が付いていないか、念入りに確認している。子ども達が集まる場所だ。見落としがあってはいけない。
「それでは、私はこれを処分して来ます。皆さん、良い七夕を」
 空が車に乗り込み、一足先に公園を後にする。車が走り去ったそのときに‥‥

「わあーーー!」
 園児たちが一斉にグラウンドへ飛び出してくる。
「こらこら、そんなに引っ張るでない」
 雫は園児たちに両手を引っ張られている。短い時間に園児たちとすっかり仲良くなったようだ。
「やれやれ‥‥キメラがこちらに近寄らずに済んで何よりでしたねぇ」
 御菓子を両手に抱えたタケシが微笑む。万一のことを考えて戦闘の心構えもしていたが、要らぬ心配であったとタケシは安堵する。
「さぁ、皆で遊びましょう〜!」
 タケシの掛け声に、園児たちが満面の笑みで歓声を上げた。

 智世は園児たちの書いた短冊をひとつひとつ読んでいた。その表情は思わず綻んでしまう。
「あ〜、自分も子供ン時、似たよーなこと書いたわ。『大統領になって、怪獣と戦って地球を守る』とか」
 日本にゃ大統領なぞいねーよ、とひとりでツッコむ智世。幼い頃の突拍子もない夢だったが、考えればあの頃の夢と今の自分とは、さほどズレがないと智世は思う。
「‥‥よし! 嬢ちゃん、それ1つちょーだい!」
 智世は近くの園児に声を掛けて短冊を貰うと、自らの願い事を書いた。
『子供らの願い事が、全部叶いますよーに!』
 書き終わると、それを笹に括りつける。この笹を守るためにこの依頼を引き受けた。自ら守った笹、そして子どもたちの笑顔に囲まれ、智世はにへら、と笑った。

 そんな智世を見て、他の仲間たちも短冊に願い事を書き始める。

『子供たちの優しい願いが、かなう日が来ますように』
 ホアキンは願う。園児たちの安全と願い事は守ることが出来た。守った願い事が、どうか届くように。

『幸運が不運よりも多く回りますように‥‥』
 Fortuneは願う。多くは望まない。幸運ばかりという贅沢も言わない。ただ、幸運の数が不運の数よりも、少しだけ多いようにと、Fortuneは願う。

『腹いっぱい飯が食えますように』
 竜骨が大きな文字で書き、笹に結える。するとその隣には‥‥
『カレー大盛』
「‥‥ん。短冊にお願いした。これでバッチリ」
 憐が満足げに頷いている。
「カレーか‥‥いいな」
「‥‥ん」
 なんだか意気投合する竜骨と憐。
「これで。朝起きると。吊るした靴下に。カレーが」
「おおおーーー」
 謎の解説に周りの園児たちが声を上げる。そして園児たちが続々と「かれーおーもり」と書いた短冊を笹に吊るしていく。オネガイヤメテアゲテ‥‥

『少しだけ素直になれますように』
 雫は子ども達から離れ、こっそりとそう書いて吊るす。しかしすぐ子どもたちがわらわらと集まって来て、取り囲まれていた。七夕は彼女がこの世に生を受けた日でもある。取り囲む子どもたちの笑顔は、彼女への天からの誕生日プレゼントだったかもしれない。

 賑やかなグラウンドを眺めながら、タケシは微笑む。ふと地面を見ると、園児たちが落としてしまったのだろうか、金平糖が散らばっている。
「やれやれ‥‥」
 苦笑しながら金平糖を拾おうとしゃがみこんだタケシが、ふと目を留める。駆けた子どもの軌跡のように線を成して散らばる金平糖。それはまるで、天の川のようだった。
 金平糖を拾い終え立ち上がったタケシは空を見上げる。雲ひとつない青空。夜になれば、本物の天の川が綺麗に見えることだろう。
「これは『願い事』と言うより、『誓い』に似たようなものですがねぇ‥‥」
 タケシは短冊を笹に優しく結えた。

『この子達の未来が明るく平和でありますように‥‥』