タイトル:isolation side‐Mマスター:桐谷しおん

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/13 03:39

●オープニング本文


 街は赤と黒に染まっていた。炎の赤と、それに焼かれた廃墟の黒。
 その中央に一際黒く輝く、巨大な獣。口からは炎を吐き、周囲を更に焼き尽くさんと街を彷徨する。

「一体のキメラにより町が壊滅しました」
 UPC本部に届けられた端的な報告は、衝撃的なものだった。
「キメラ一体で町が‥‥?」
 集まった能力者の一人が、思わず反芻する。
「小さな町でしたから‥‥深夜に襲撃を受け、町も、そこに住む人々も、皆‥‥」
「‥‥それで、敵の情報は?」
「生存者が皆無とのことですから、直接の報告はないんです‥‥あの映像しか‥‥」
 指さされたモニターに映るのは、炎を吐く漆黒の虎。
「‥‥火を操る大虎‥‥それ以外に情報はなし、か‥‥‥‥って‥‥おい!あそこ!」
 能力者の一人が指さしたのは、モニターの隅。
「‥‥‥‥子ども!?」
「ああ、間違いない!映像が小さ過ぎてよく見えないが、女の子か‥‥」
「このままでは‥‥! すぐに現場へ急行してください!」
「了解!」

 駆け出す能力者たち。‥‥その中の一人が、ふと、思った。
(「‥‥助けても、あの子、帰る場所も、帰りを待つ人も居ないのよね‥‥‥‥」)
 少し速度をゆるめた足。頭を振ると、無理やり足を速め、仲間たちと現場へ馳せた。

●参加者一覧

木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
アンジュ・アルベール(ga8834
15歳・♀・DF
銀龍(ga9950
20歳・♀・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
ティル・エーメスト(gb0476
15歳・♂・ST
黒須 信哉(gb0590
22歳・♂・DF
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF
ルーシー・クリムゾン(gb1439
18歳・♀・SN

●リプレイ本文

●護れなかったものと護るべきもの
「夜間の奇襲とは言え、町一つを壊滅させたキメラが相手ですか‥‥厳しい戦いになりそうですね」
 遠倉 雨音(gb0338)はフォルトゥナ・マヨールーへペイント弾を装填しつつ周囲の悲惨な町並みに言葉を漏らす。
「大切なものを全て奪われた経験‥‥そんな思いをしたあの子を放っておくわけにはいきません」
 自分の過去と同じ経験をたどろうとしている少女をルーシー・クリムゾン(gb1439)は見過ごすことができず参加していた。
 洋弓「リセル」を構えては警戒を怠らない。
 ある程度鎮火している廃墟を能力者達は突き進んだ。
 焦げた鉄の香り、揺らめく火の明かり、足元に散ったコンクリートなどが能力者達の五感を刺激する。
「靴、履き替えてきたの正解」
 銀龍(ga9950)はジャングルブーツにて走った。
 焼けた煤が舞い、肌を焦がすも抵抗せずに突っ切る。
「キメラ‥‥いました! 」
 アンジュ・アルベール(ga8834)が、炎を吐き、その明かりに照らされるキメラを見つけるとすばやく照明銃を放った。
 夜空に白い光球が浮かび上がり、7mの巨体が光を見る。
 少女は建物の影に腰を抜かしてぶるぶると震えていた。
「相手はそっち違う、こっち」
 同行していた城田二三男(gb0620)と共に瓦礫に紛れ、銀龍は取り囲むように動く。
「‥‥悪いが今日はとても機嫌が悪いんだ‥‥原型がなくなるまでグシャグシャにしてやるよ‥‥」
 今の世界ではよくあることとは思いつつも、苛立ちを感じる城田は自分の心を晴らすように100tハンマーを振り払った。
 ドガァと大きな音が響き、キメラを少女から引き剥がす。
「これも受け取れ」
 よろけたキメラに対して、雨音のペイント弾がキメラの視界を奪った。
 リロードを行い、攻撃の準備に雨音は入る。
「早く、彼女を避難させてくださいっ! ここは私達が引き受けます」
 アンジュが月詠、蛍火による二刀の刃を持って『二段撃』と『流し斬り』をあわせた攻撃をキメラに当てた。
『グギャァォォォ!』
 照明による光に刃が反射し、美しささえ感じる閃刃に裂かれ、キメラは苦悶の声を上げる。
「まずは時間稼ぎからです‥‥遠くまで逃げてください」
 ルーシーが少女を連れて戦線を離れる救助班を横目で見つつ、矢を足元へと狙って放った。
 
●救いの手
「この娘の将来への不安もありますが、目の前で危険にさらされている人を見過ごすことはできません」
 木花咲耶(ga5139)は周囲を警戒しながら、少女を足場の良い場所まで仲間と共に連れ出す。
 少女の足はガクガクと震え縺れてはこけそうになった。
「もう何も奪わせない。だから、しっかり掴まってて」
 黒須 信哉(gb0590)はこけそうになった少女を抱きとめ、そのままお姫様抱っこをしてキメラから遠ざかる。
 10mだったキメラとの距離が100、200mと開いてきた。
「ここまでくれば多少は大丈夫そうですね?」
 『探査の眼』を使い、危険がないことを改めて確認したティル・エーメスト(gb0476)は憩いの場としてにぎわったであろう噴水のある広場で立ち止まる。
 しかし、何がおきるかわからないためユンユンと名づけたコンユンクシオを握り締めた。
 誰も何も言わなくなるが静寂は訪れず戦闘の咆哮と町が燃える音が絶え間なく続いている。
「君、大丈夫? 怪我はない?」
 少女を下ろし、黒須が声をかけるが少女は震えたまま答えることができなかった。
 目は焦点が合わず、両手で肩を抱いてカチカチと歯を鳴らしていた。
「もう少し、落ち着かせる必要がありそうですね」
 ティルが少女の様子をみて、話しかけるのを後にしようと思ったとき、ガラリと瓦礫の崩れる音がする。
 音の元から黒い影が飛び出しティルたちへ向かってきた。
「そこですか。汚わらしき者よ」
 警戒していた木花が『ソニックブーム』と『豪破斬撃』をあわせた斬撃で影を吹き飛ばす。
 地面に放り出されたのはハイエナのようなキメラであり口には赤い血がべっとりとくっついていた。
「まさか‥‥死んだ町の人を‥‥!」
「バッドエンドは嫌いなんです。故に‥‥却下ってコトで」
 驚愕するティルに対し、怯える少女の頭を撫でる黒須の顔は笑っている。
 冷笑と言える表情で、冷ややかに敵を見つめるとイリアスを構えた。
『ガゥッ!』
 涎をたらす飢えたハイエナキメラが黒須たちに向かって飛び掛かる。
 赤と黒の混ざり合うなか、もう一つの戦場が出来上がっていた。
 
●譲れない戦い
「再生能力持ちは厄介です‥‥」
 ゴゥという音と共にキメラの口から吐き出された炎を雨音は遮蔽を取って防ぐ。
 潰したはずの目や傷ついた足などは再生されていた。
 近接して囲もうとしても炎は広い範囲を焼くため、背後を取りつつ断続的攻撃を続ける戦法をとっている。
「ちっ‥‥これなら、どうだ」
 キメラの炎の射程に入らないよう間合いを取りつつ城田は『両断剣』とあわせた『ソニックブーム』を放った。
 ズバァツと顔が刻まれるが、じわじわと切り裂かれた部分からキメラは再生していく。
「はぁ‥‥はぁ‥‥長期戦は厳しいですね」
 アンジュが『活性化』で己の傷を癒しながら再生するキメラを見て唇を噛んだ。
「銀龍はまだスキル使える。再生される前に倒すしかない‥‥戦うことだけが銀龍たちの仕事じゃない」
 銀龍は再生しかけている部分にスコーピオンによる攻撃を集中させ、再生を阻害していく。
「わかりました。全力で援護をしますから頼みます」
 ルーシーが銀龍に向かって声で答え、リセルによる『影撃ち』でキメラを射った。
『グギャァァアルォォゥ!?』
 死角からの攻撃にキメラは大きく吼えて暴れだす。
 その間に銀龍が間合いを詰めて、『二段撃』でキメラの胴を貫いた。
「その隙‥‥もらいます」
 雨音がもだえるキメラの傷口に向かって『鋭角狙撃』と『強弾撃』による援護射撃を遮蔽から身を乗り出して行う。
 銀龍が開けた傷口へ、雨音の放つ鉛玉が喰らいついた。
「これで終わりですっ!」
 傷を癒し終えたアンジュと城田が更に傷口を広げようと猛攻を仕掛ける。
 街を一つ壊滅させたキメラは5人の強い思いの前に再生が間に合わずに倒れた。
「‥‥終わったが戻るものは無い、か‥‥なんなんだろうな‥‥戦いってのは‥‥」
 倒れたキメラの死体を更に100tハンマーで叩き潰してくだいた城田は熱のこもった風を受けて呟く。
 街を壊したキメラを倒したとしても、其処に命が無ければ街そのものを建て直すことなど不可能だ。
 ましてや、失われた命が帰ってくることもない。
「そうかもしれない。けど、終わってないものがある。銀龍達の戦いは無駄じゃない」
 城田の呟きにキメラの返り血を浴び、自分の怪我との判別の付かないほど汚れた銀龍が答えた。
「あの子のほうへいきましょう。怪我の手当てはそちらで一緒に」
 救急セットを持ったアンジュに5人は頷きを返して、救助班が逃げていった方へと進む。
 噴水広場に到着すると、戦闘があったことを示すハイエナキメラの死体がいくつも転がっていた。
「皆さん無事だったようで何よりです。こちらも少女を護りきることができました」
 救急セットで手当てを行っていた木花が出迎える。
「落ち着いたところで名前を聞いてもいいですか? リンゴジュース飲みます?」
 少女の傍ではティルがリンゴジュースを差し出し名前を聞くところだった。
 差し出されたリンゴジュースに手を伸ばそうとするが、震えて触ることができないでいる。
 ティルはその手を優しくとって握らせると笑顔を少女へと向けた。
「もう、怖くないですよ。名前教えてもらえますか? 僕はティル・エーメストといいます」
「‥‥な。莉奈‥‥っていうの」
 ティルの手の温もりが少女に落ち着きを取り戻させたのか名前を名乗る。
「莉奈ちゃんかいい名前だね?」
 一歩進めたことにティルは笑顔を更に輝かせた。
(「問題は‥‥ここから彼女にどう理解させようか‥‥」)
 打ち解けたことに安心を得ながらも、ルーシーは現実を知らせる方法に悩む。
 自分と同じような境遇を持った少女の未来を自分達がしめさなくてはならないのだ。

●伝えるべきこと
「悲しいことですけれど、伝えなければならないことがあります。見ての通り、この街に貴方は独りぼっちとなってしまいました。」
 莉奈がリンゴジュースを飲み終わった頃、アンジュが静かに言葉を紡ぐ。
 ピクっと莉奈の体が動いた。
「目の前で家がガラガラって崩れて‥‥お母さんが逃げてって‥‥」
 視線が下を向き、莉奈は逃げ遅れた出来事を思い出したのか震えが戻る。
「怖いことを思い出させしまっていますが、これが現実なんです。でも、悪いことばかりではなくてハッピーエンドをこれから迎えることだってできるんです」
 黒須が震える莉奈を抱きしめて、安心させるように背中を撫でた。
「お母さん達も‥‥友達も‥‥皆‥‥いないのに‥‥幸せなんて‥‥」
 感極まった莉奈は黒須を抱きしめて泣き出す。
 半日ほど前までは平和に家族と共にいたはずなのに、今は知り合いは誰一人としていないのだ。
 つらい現実を受け止めるには莉奈はまだ幼い。
「莉奈は生きている‥‥無くなった友達は作ればいい」
「お母さん達はできないもん‥‥莉奈を‥‥お母さん達のところへ連れてってよ!」
 目に涙を浮かべて泣きじゃくる少女へ銀龍は正論をぶつけた。
 だが、正しいからこそ莉奈には理解できずに感情の赴くままに言葉を吐き出す。
「ここで死んでも‥‥一緒に行けるとは限らない」
 銀龍は言葉を真正面から受け止め、包帯の巻かれた手で莉奈の頭を撫でた。
「‥‥俺はあなたを慰める言葉を持ち合わせていない‥‥。だが‥‥消えたいと考えるのだけはやめろ‥‥そんな感情は誰一人幸せにしないし、あなたも幸せになれない‥‥そこで家族に会えたとしても、な‥‥自分に向けられている好意を見失うな‥‥それを向ける人はみな貴方の幸せを考えてくれている‥‥そして‥‥貴方が消えればその人は悲しむ‥‥それだけは忘れないでくれ‥‥」
「莉奈ちゃんはしっかりとここに生きているんです。だから、お母さん達の所にいくとかいってはいけません」
 静かに見ていた城田とティルも莉奈を立ち直らせようと必死に訴える。
「知り合いがいないなんてことは無いですよ。今日僕たちはここで出会ったじゃないですか。友達にだってなれますよ」
 黒須も莉奈を手放さないようにしっかりと抱きしめながら優しく声をかけた。
「私達はもう他人ではないと思っていますよ。だから‥‥一緒に来ませんか? 私達のいるところへ」
 今まで静かに見守っていた木花は莉奈に近づくと黒須を抱きしめる小さな手を握りしめる。
「でも‥‥お母さん達が‥‥」
 莉奈は心が揺れたが誰もいないこの場所の思い出に後ろ髪をひかれていた。
 姿形は変わろうとも、ここでの思い出を捨てて動くことが無意識の抵抗となって現れている。
「お母さんはこの人ですか? 遺品を捜していて、焼け残った写真がみつかったのですが‥‥」
 煤けたスーツ姿で雨音が莉奈の下へとやってきた。
 手には周囲が焼け焦げたが莉奈と母親らしい女性の姿が映った写真をもっている。
「お母さん!」
 莉奈は黒須から離れ、写真を雨音から奪い取るとぎゅっと抱きしめた。
「他にも何か残っているかもしれませんから、一緒に探してラストホープへ来ませんか?」
「僕たちのいるその場所は‥‥君を受け入れて幸せにしてくれると思いますよ」
 大事そうに写真を抱える莉奈にティルと黒須は優しく声をかけた。
 答えは小さな頷きと共に返ってくる。
 
●”最後の希望”で
「きれい‥‥」
 ラストホープへと能力者と共にきた莉奈は平和な町並みに驚きの声を上げた。
「ここには莉奈さんと同じ境遇にあった方もたくさんいます。きっと、莉奈さん受け入れてくれて友達や家族になれますよ」
 本部で依頼達成の手続きを終えたアンジュが莉奈の元へ戻ってきて背をかがめて微笑む。
「今は辛くても元気に生きてくれることが莉奈ちゃんのお母さんのためでもあります。まずはいろいろとこの島を案内しますよ」
 莉奈が生きていけるように暖かい居場所を探してあげたいとルーシーは強く願っていた。
 ルーシーは過去に偶然保護されたために今がある。
 莉奈にとってもルーシー達との出会いは偶然かもしれないが、その偶然から救えたのだから最後まで見てあげたかった。
「‥‥莉奈、お母さんのために生きる」
 殆ど焼け落ちていた中で見つかった母親との思い出の写真を大切に莉奈は抱いて答える。
 生きることに不安だった莉奈にとって生きる希望ともいえる写真だった。
「一番の解決は時間でしょうけれど‥‥その時間を過ごせる場所を見つけてあげたいですね」
「どうしようもなく理不尽な世の中だけれど‥‥それだけに幸せをみつけさせたいです」
 ルーシーが莉奈の手を引いて先に行く中、木花とアンジュは一歩はなれて見守る。
「いくつか孤児院をピックアップしてもらいました。まずはこちらからあたって見ましょうか?」
 木花は本部の方で手続きを済ますと共に受け入れ口の相談を行っていた。
 リストにはラストホープにある孤児院の名前がいくつかピックアップされている。
「ここで見つけたいところですね。いざとなれば私の親類をあたることも考えましょう」
 アンジュは孤児院のリストを眺めて気合を入れなおした。
 ここはラスト・ホープ‥‥最後の希望なのである。
 
 家族を、友を、故郷を失った者に対して希望を見せてあげられる場所なのだ。
 
 
(代筆:橘真斗)