タイトル: 【RR】春を想う真意マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/22 01:23

●オープニング本文


 ロシア某所、バイコヌールへのルート上にその基地はあった。
 山岳部に備えられたそれは採掘と防衛、2つの役割を兼ねている。大量の物資に支えながら人類の攻略を阻んできた。
 UPCはこの基地攻略指揮官に小林竜冶大佐を任命した。
 その旗下に配属されるのは複数軍からなる混成部隊だ。
 小林大佐は早速基地攻略を開始。
 手始めに基地への空爆を行いその防衛施設を壊滅しようと試みる。が、空爆は所定の効果を発揮することが出来なかった。
「対空能力が侮れませんね。アグリッパなども存在していると考えるべきでしょう」
「それだけではない。基地の大半が地下に埋まっているのが原因だろう」
 UPCロシア軍のアレクセイ・ウラノフ、特殊作戦軍の一之瀬・遥、両大尉は失敗に関してそう分析する。
「まぁ理由はともあれ最初の作戦は失敗だねぇ。まいったまいった‥‥」
 にも関わらず、小林大佐は眠たげに、のんびりとした口調を崩さない。
「中佐、君は今後どうすべきだと思う?」
 そう発言を促されたのは欧州軍オレーグ・シードル中佐。階級からも、実質今作戦における副指揮官である。
「単純に考えれば、空が駄目なら地上からということになるでしょう」
「その意見には賛成です」
 そう同意しながらグリゴリー・アバルキン大尉は続ける。
「こちらにも戦力が揃っていることだし、敵基地を四方から取り囲んで一気に殲滅を‥‥」
「いや、それはダメだ。今のまま三方からの攻撃で行く」
 小林は有無を言わせぬ口調でそれを遮る。
「何故です。それでは敵に逃げる余地を与えることになります」
「いいのさ、逃がして。目的は基地に存在する敵の全滅じゃないだろ?」
 確かに、命令は基地の攻略だ。逃げる余地を残すことで敵に撤退という選択肢を与えてやろうという事だろう。
「‥‥四方を取り囲むことで降伏に至らしめるという手もあると思いますが‥‥」
「そうなりゃ敵さん、自棄になって無茶するだけさ。二千年も前からの定石だよ」
 ウラノフ大尉がそう提案するが、小林大佐はそれも却下する。その理由として、地下の基地がどの程度の規模かは不明である点を挙げた。
「その基地が自爆すれば取り囲んでいる部隊が足元から纏めて吹き飛ばされることもあり得る、と‥‥」
 小林大佐の言葉を反芻するように呟くシードル中佐。そうなれば、現状で取れる手は他に無いか。
「そういうことだね。それでは予定通り、北をシードル中佐、北西をウラノフ大尉、西を俺と一之瀬大尉で攻める。アバルキン大尉は‥‥」
「‥‥今作戦に於いて我々の出番はなさそうなので失礼する」
 小林大佐が何かを言う前に立ち上がるアバルキン大尉。
 何事か独りごちると、その場を後にした。やれやれと肩を竦めながらも小林大佐はそれを咎めなかった。
 結局、全員が全員納得したわけではなかったが、作戦自体は決せられた。



 会議がまとまるなどと最初から考えてはいなかった。
 想いの強さは同じでも、求めているものは違う。
 ロシアは終戦まで救われなかった土地だ。
 停戦という押し付けられたお題目で皆が手を取りあうはずもない。
 それは敵も同様に。小林は今日の結末に特に感慨は抱かなかった。
「断る。我々は負けたわけではない」
 丁重だが圧力を感じるバグアの声。
 返答はそれきりだった。
 指揮車両の中は静まり返る。
「はー、やんなっちゃうなー」
 そういったのは降伏勧告をした小林竜治大佐だった。
 首を横に振ってストレッチしながら、欠伸までする始末。
 年齢は40半ばだがやる気の欠片も見えない。
「アバルキン大尉の進捗は?」
「現在、予定の半分を消化。敵の攻勢が厳しく作業に遅れが出ています」
「そ。じゃあ急ごう。集めたKVのコクピットにデータ転送」
「はっ」
 小林はマイクを手に取る。
 範囲は有線のみで送信。完全な秘匿回線だ。
「皆よく集まってくれた。時間がないんでちゃっちゃと説明するぞ」
 KVの正面モニターにデータが表示。
 更新された戦況、幹部クラス以上のバグアの個人情報。
 後者の情報に何名かは疑問符を浮かべた。
「現在、我々の部隊と戦っているのが敵の総大将であるフルティス直掩の精鋭部隊。
 君達にはこれより、この正面の部隊を山沿いに迂回し、直接攻撃をかけてもらいたい。
 目標は敵総大将の撃破。わかりやすいだろう?」
 地図上には新たに進攻予定ルートが提示される。
 山と山の間を縫って蛇行する、狭くなだらかな最短ルートだ。
 しかしそこは‥‥。
「質問だ。砲台だらけでまともに進めないから破棄したルートじゃないのか?」
 言葉を発しない他の傭兵者達も同様にその疑問に至っていた。
「その通り。だから敵もこのルートには戦力を割いていない。
 その陽動の為に全軍に進軍を指示した。今なら砲台と無人機だけだ。KVの少数精鋭でなら突破できる」
 簡単に言うがそこは難所続きだった。精鋭といえども確実に損失はでる。
「なんで今更。このまま押し込めば済むことだろ」
 そのルートを使う理由は無い。
 既に全軍での正面攻撃が開始されており、多少の差異はあれど優位に戦闘が進んでいる。
 有能なパイロットを死なせるだけで意味がない。
 小林も勿論その疑問を予想していた。淡々と更に説明を続ける。
「このまま戦ってもそりゃ勝てる。だが泥沼だ。何人死ぬかわからん」
 それこそ何千何万の可能性もある。
 バグアとの戦争では能力者以外の損耗はどうしても大きくなりがちだ。
 問題視されないのは、予想の範囲内だからにすぎない
「敵の総大将は徹底抗戦派だが、副将はバグア本星の意向を従順に守ろうとしている。
 副将が繰り上がりで総大将になれば、この戦闘に停戦の目が出てくる」
 傭兵と軍人達はようやく意図を察し始めた。
 この昼行灯にしか見えない男の真意に。
「彼らのバグア軍はこの先のバイヌコール近辺まで全てを管轄に入れている。
 つまり、この先数百kmの平和がかかっているということだ」
 小林の目は変わらず鈍い。だからこそ、その内容に恐怖を感じた。
「このルートの使用を悟られないためにバックアップは準備できない。
 君達に支援砲撃はなし、援軍も出せないし、救助にもいけない。
 成功しても勝ちの揺るがない戦じゃ勲章にならない」
 その言葉はそのままこの寄せ集めの軍隊の質をも表していた。
 ロシア軍は基本的に降伏勧告などしない。
 だからこそ彼ら全てを騙し利用し、囮にした。
「参加は自由だ。5分以内に結論を出してくれ」
 流石の傭兵達にも沈黙が落ちる。
 危険を犯す価値があるのか。
 こんな事後処理でしかない戦のなかで。
「この前ね、沈丁花の株を貰ったのよ。
 来年ぐらいには退役してゆっくり庭仕事したいんだわ。
 そういうわけだから、よろしく頼む」
 小林は笑って言う。
「みんなで平和になろうよ、ね」とも。
 傭兵達はそこで感じるものがあったのか、
 各々が想いをのせてコンソールに手を伸ばした。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

 砲台は無人ヘルメットワームに電源を繋いだだけの簡素なものだ。
 本来なら1発2発程度の発射が限界の大口径砲も、電力供給により連続発射が可能になっている。
 簡素な改造の割りに砲台としての性能は高く、死角の多い峡谷では隠し場所も多い。
 空路の制圧が難しくなった今、それらは強固な要塞と化して人類を阻む。
 ‥‥はずだった。
「くそっ! やろう、なんて速さだ!」
「追いつけねえ!」
 特殊作戦軍の猛者達から悲鳴があがる。
 視線の先は敵陣深くに切り込む周防誠(ga7131)のワイバーンMk2「ゲイルIII」の姿。
 周防を切っ先とした傭兵達の一団はまるで無人の野を行くが如く砲台陣地を薙ぎ払っていった。
 この局面で特に威力を発揮したのは周防の機体だった。
 ワイバーンは元々戦闘機動に特化した機体である。
 それを極限まで鍛え上げた周防のゲイルIIIには誰も追いつけない。
 機動性に優れた銀河重工製のKVでも同じことだ。
 追随しているのはUNKNOWN(ga4276)、アルヴァイム(ga5051)、白鐘剣一郎(ga0184)のみ。
「こちら、周防。A区域の砲台を殲滅。続いてB区域に進む」
「よし、突入しよう。ルートは‥‥」
 言いかけたUNKNOWNはすばやく機体を90度回転。
 崖上からせり出した砲台にエニセイを発射。
 砲台がプロトン砲を放つ前に沈黙させる。
「ルートは予定通り。最初の想定よりも北側に砲台が多い。気をつけて」
 一歩遅れて進むUNKNOWNは周防機ほど目立ちはしなかったが、
 確実にトラップを迎撃していた。
 事前にある想定で進めば、隠し場所に乏しい峡谷で罠を見破るのは容易い。
「残りの各機、報告を」
「こちらディム・エンジェル。問題なし」
「こちらリヴァル、同じく問題ない」
 アンジェラ・D.S.(gb3967)、リヴァル・クロウ(gb2337)の2人がこれに続く。
 地味といえば地味なこの2人、しかし堅実さでは先に進むメンバーに劣らない。
 速度を重視するためどうしても見落としが出てくる先行メンバーに代わり、
 生き残った砲台に確実に止めをさしていく。
「なんて連中だ。撃ち漏らしゼロかよ‥‥」
 かといって敵の攻撃がなくなったわけではない。
 周辺に配備された無人のワームの全てがこちらに向かっている。
 逃げてばかりでは包囲殲滅されかねない。
 既に追いついてきた無人ワームの部隊が、後方のメンバーに迫っている。
「まだ油断してはいけないよ。約束のバニーが‥‥おっと」
「‥‥バニー?」
 UNKNOWNが漏らした言葉に誰かが疑問の声を返す。
 何に聞き違えたのか、と考えるがどう聞いてもバニーにしか聞こえない。
「気にするな。それよりも各員、包囲される前にここを抜けるぞ。傭兵に遅れるな!」
「「了解!」」
 一之瀬・遥(gz0338)は疑問を消し飛ばすように命令を下す。
 恐らくバニーの意味を理解しているのは彼女だけだろう。
 ならば説明して広める必要はない。
 ともかく、一之瀬率いる特殊作戦軍は速度をあげた。
 一糸乱れぬ攻撃でワームを散らしながら、傭兵に随伴する。
 更に速く、もっと速く。
 戦況は刻々と変わる。
 KVは更に中心、バグア主力の喉元目掛けて一直線に進み続けた。



 作戦の進捗はおおよそにおいて順調に推移する。
 敵主力は前線近く、つまりは迂回する側からすれば遠い位置に配置を変える。
 それでも彼らは間に合った。
 詳細な状況が見えない中では、残された時間がどの程度かはわからない。
「居たわね、総大将フルティスのティターンです。各機打ち合わせどおりに」
 アンジェラ、前後で途切れがちだった各機のデータリンクを再接続。
 各機体に前衛周防の取得した敵の情報が表示される。
 フルティスが前線の部隊と合流したため、取り巻きの数は更に増えていた。
 タロスが8機以上、ゴーレム、ワームは無人も含めれば数十機以上いる。
「恐れるな! 散開!」
 白鐘の号令で各機が広がって陣形を作る。
 人類側は周防、白鐘を中心に一部を鏃の先と見立てた円錐の陣形。
 対するバグア側は総大将を中心に据えて変わらぬ構え。
 陣を作らずに個人技能を生かす、バグアらしい布陣だ。
 突撃する周防、白鐘をサポートするように他の各機は取り巻きとなるタロスを引き離しにかかった。
「お前達の相手は私だ」
 左翼、アルヴァイムの【字】は牽制の砲火をものともせず直進。
 【字】に向かって数機のタロスが照準を合わせる。
「バカが。甘くみるなよ!!」
 挙動の鈍い彼の機体であれば真っ先に潰せると踏んだのだろう。
 タロスの銃口が一斉に紫色の光を放つ。
 回避する他のメンバーをよそに、アルヴァイム機は避けない。
 着弾。爆発が一面を覆い、機体は爆発の粉塵に呑まれ‥‥。
「口ほどにもない‥‥」
 幹部の一人がそう口走ったその時。
「そうだな。口ほどにもない」
 噴煙の中から伸びた銃身、電磁加速砲から銃弾が走った。
 音速を超えた弾丸はまっすぐにタロスに突き刺さる。
「バカな‥‥」
 腹に大穴をあけたタロスは崩れ落ちる。
 何が起きたのか、バグア達はすぐには理解できなかった。
「字に傷をつけるには火力が足りなかったな」
 姿を現した【字】には傷一つない。
 機体の識別はノーヴィ・ロジーナ。
 確かに装甲の硬さが取り柄の機種だが、この硬さは尋常ではない。
 【字】は速度を変えないまま突撃、敵の囲みの中央に滑り込む。
「今度はこっちの番だな」
 アルヴァイムは恐れを見せ後ずさるバグア達に容赦なく告げた。
 字は十式長距離バルカンを展開、弾幕が逃げ遅れたゴーレムの部隊を襲う。
 右から左へ、銃弾が薙ぎ払った後で幾つもの爆発が起こった。
 一方的な展開はここに留まらない。
 右翼、UNKNOWN機に群がるワームはアルヴァイム以上。
 バグアも長い戦いの中で要注意の機種データを持ち合わせている。
 ゼオン・ジハイド級と記された以上、その数でも十分である保証は無い。
 否、十分ではなかった。
「脆いな」
 K−111の拳が唸り、ゴーレムの胴部をあっさりと歪ませる。
 盾にしようかと思っていたがこれでは持たないだろう。
「うおおおおお!!」
 UNKNOWN機にタロス2機が同時に切りかかる。
 幹部級2人によるX字攻撃、平均的な傭兵ならば見切ることはできない。
「うむ、脇が甘いな」
 僅かな恐れの差は、踏み込みの浅さに現れる。
 一歩速いタロスに向け、機槍グングニルを振り向ける。
 ブースト、UNKNOWNは槍のブースターを点火。
 すれ違いざまにタロスの胴体を貫き、軽々と持ち上げる。
「!!」
「それではいけない。水が流れる様に、だ。水は恐れないだろう?」
 もう1機のタロスにはエニセイを向ける。
 本体の出力がエニセイの銃弾一つ一つを必殺の威力に変えている。
 間合いを取りそこなったタロスは銃弾を浴びせられ、あっという間に爆散した。
「邪魔はさせないよ。私がいる限りはね」
 UNKNOWNは槍をかちあげ、タロスを投げ捨てる。
 次の瞬間には、K−111はゴーレムを蹴散らすように突入していた。
 ワームはその囲みを抜けて殺到しようとする。
 2人では埋めきれない隙間を、リヴァルは弾幕で埋める。
「これで終わりではない」
 4連装チェーンガンが咆哮をあげる。
 秒間200発の銃弾がタロスを襲った。
 ばら撒かれた弾丸は着弾し、雪原に白い煙を巻き上げる。
「元々、諸兄の様な派手な火力に依る殲滅戦や高機動戦、
 ましてや一撃必殺などといった戦い方は得意ではない」
「貴様ぁ!!」
 弾幕を回避したタロスの1機がリヴァル機に迫る。
 リヴァル機はハイディフェンダー抜き放つ。
「はあっ!」
 剣と剣が交差する。
 真・電影にはタロスの一撃を回避するほどの機動性はないものの、
 攻撃を受け止めるだけの柔軟さは十分に備わっていた。
 数合打ち合い、攻撃の機会を逸したタロスは一歩下がる。
 それが良くなかった。
「この時間を掛けた消耗戦とカウンター、これが俺の本来の戦い方だ。そして‥‥」
「!!」
 白煙の向こうから銃弾の雨が降る。
 回り込んだタマモ・シラヌイ部隊の一斉射撃だ。
 ぎりぎりのところで回避したタロスだがもう遅い。
 白煙から距離を置いたタロスの足を別方向からの銃弾が打ちぬく。
「!」
 ガンスリンガー:スカルメールのD013ロングレンジライフルである。
 リヴァルと特殊作戦軍に気をとられたタロスは、アンジェラ機に気づくことはできなかった。
 憎々しげに狙撃手を睨みすえるが、それで精一杯だ。
「悪く思わないでね」
 アンジェラは続けざまに発砲。
 銃弾はタロスの腰部を貫き、タロスの機能を完全に停止させた。
「仲間を信頼しないお前に、俺達は倒せない」
 リヴァル機はアンジェラ機に親指をたてる。
「ようやく私も星ひとつね」
「まだ敵は多い。稼ぎ時だぞ」
 ゴーレムにヘルメットワーム、無人機なども含め集結しつつある。
 リヴァルとアンジェラは互いに視線を送ると、別方向に散開した。



 白鐘と周防、フルティス。隔離された戦場は佳境を迎えていた。
 連装砲を牽制にフルティスは突っ込む。
 速度で撹乱する周防、二刀流で切り進む白鐘。
 鍔迫り合うこと数十合以上。
 両者どちらの機体にも無数の傷が残る。
 白鐘とフルティスが大きく間合いを取りあい、戦場に一瞬の静寂が訪れた。 
「諦めろ、とは言いませんがせめて後退を選択して欲しかったところですよ。
 これでまた無駄な被害が出る」
 周防が口にしたのは事実上の降伏勧告だった。
 幹部達の機体は全て撃破され、周辺からの増援も全て迎撃されている。
 アルヴァイム、UNKNOWN、リヴァル、アンジェラに加え、特殊作戦軍の8機を抜く事は不可能だろう。
 だが総大将のフルティスは膝を屈しようとはしなかった。
 破壊された左の武器腕を破棄して身軽になり、レーザーソードを振りかざす。
「否。戦いこそが俺の存在意義。戦い続けることが俺の生の証。
 平和の意思に恭順を誓ったところで、いずれは貴様らに仇をなす。
 平和が欲しくば俺を討ち取るが良い」
「そこまで理解していながら、どうして!?」
 周防は叫ぶ。
 聞きようによれば、彼自身も和平に否定的ではない。
 彼が戦うことを選ばなければ、違う道もあったはずなのに。
「滅んだものには手向けが必要だ。道連れもな」
 それは誰のことを指しているのか。
 遠くの場所で終わりを宣言されても終われない。
 ロシアの兵も、彼らバグアも同じだ。
 犠牲がなければ収まらない者も居るのだ。
「そんな理由でここにとどまっているというの?」
 アンジェラには理解できない。
 理解できたとしても納得はできない。
「俺は貴様らでいう『軍人』という人種ではない。十分な理由だ」
 ただ死ぬためだけに戦う生き方は、同じ戦場に立つ者同士でも共感はできない。
「生きる者は誰もそんな事は望まない」
「果たしてそうかな? 望まぬのならば、俺はここにはいない」
 それが誰の願いなのか。
 目の前のバグアはその闘志に比して彼自身の欲を感じない。
 だというのに、その自負はどこから来るのか。
 戦うのは誰かの為。
 その1点で言えば、この場に居る傭兵の誰とも変わらない。
 戦いを諦めきれないバグアのために、自身が旗印となって戦いを始めたというのか。
 もしかしたら‥‥。
「自ら望んで生贄にでもなると言うのか?」
 感情の吹き溜まりは後々の憂いになる。
 ロシアの兵が望む復讐を遂げさせようとでも言うのか。
「生贄など、買い被りだ」
 内心を読んだ、わけではないだろうが。
 その返答は思考に追随したように意識に入り込んだ。
「ならば、致し方ない」
 白鐘機は錬剣を収納し一刀流の構えとなる。
 12枚の翼がゆらめき、機体の各所から蒸気が立ち上った。
 分かり合えたとしても譲れないものはある。
 どちらが倒れようとも本望というものだろう。
「行くぞ流星皇。天都神影流、白鐘剣一郎、推して参る!」
「来い! 地球の戦士よ」
 白鐘とフルティスは同時に大地を蹴った。
 交差する一瞬、閃光がひらめく。
 数秒の間隙の後、膝を折ったのはフルティスのティターン。
 一瞬の攻防で、ティターンは右腕と左足の機能を失っていた。
「これで、満足か?」
 白鐘機もその左腕に致命傷を受けていた。
 両腕が残っていたのならば、勝負はまた違う結果になっていただろう。
「申し分なし。良い一撃だ」
 フルティスの言葉には迷いや動揺はなかった。
 彼は既に、この結末すらも受け入れていたのだろう。
「古き者は滅び、必要な者のみが選択される。これも運命」
 彼の声はいつのまにか、周辺バグア軍への通信に変わっていた。
 周囲のバグアから徐々に動きを止めていく。
「最初からこうするつもりだったか?」
 アルヴァイムの問いに、フルティスは答えずに小さく笑い声を漏らすのみだった。
 ティターンは残った力で立ち上がる。 
「見事だったぞ、地球の戦士よ。貴様らと我らバグアに、末永く繁栄があらんことを祈る。さらば‥‥!」
 ティターンは自爆しての光に呑まれた。
 飛び散った粉塵は空に舞い上がり、光の粉になって雪原に降り注ぐ。
 流星皇は刀を振り下ろしたままの姿勢で動きを止める。
 周りのバグアは誰も、それを仕留めようとはしなかった。
「状況終了だ。よくやった。
 今、副将を名乗るバグアから停戦の申し入れがあった
 全軍、戦闘停止。繰り返す、全軍、戦闘停止」
「間に合ったのか‥‥?」
 幕引きはあっけなく。
 終わらせた本人達にも、実感はすぐにはやってこなかった。
 頑迷に抵抗していた時と同じく、バグアは一斉にその場を引き上げ始める。
 迷いゆえに下位の者が思考を停止していたからかもしれない。
 彼らは種の生き方を変える局面に対応できていなかったのだろう。
 追撃を主張しそうなロシア出身の軍も、正面に待機したままの傭兵や特殊作戦軍を気にして動けない。
「また俺達に背負わせる気か」
 リヴァルはティターンの残骸に言葉を落とす。
 一時は憎く思った相手でも、死体になれば感慨も変わってしまう。
「仕方ない。それが生きる者の運命だからな」
 そして勝利者だけに許される贅沢な悩みだ。
 広い青空を背景に、戦闘機の群がバグアの軍団を追っていった。
 傭兵達は潮のように過ぎ去っていく流れを見送る。
 その光景に一抹の寂しさが心を過ぎ去っていった。