タイトル:ThunderClapマスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/20 00:28

●オープニング本文


 北米バグア軍の状況は日増しに悪くなる一方だった。
 指揮系統は残っているが、指揮する者が居なければ無いも同然。
 各地で各個撃破される同胞の情報ばかりが、エドガー・マコーミック(gz0364)の元に届いていた。
「エドガー司令、これ以上の防衛はコストに見合いません。現在合流した者のみで宇宙にあがりましょう」
 ここ数日、24時間毎にきっかりとアトオリはエドガーにそう呼びかけていた。
 宇宙への脱出方法を予め用意していたエドガー達には早くからその選択肢はあったのだが‥‥。
「ダメだ」
「そうですか。了解しました」
 エドガーは変わらぬ答えを返す。理由は繰り返さなくとも、アトオリならばデータに保存してあるだろう。
 変わらぬ返答に苛立つことも呆れることもなく、アトオリはそれ以上何も言わない。
「‥‥バカなことをやっていると思うか?」
「合理的だとは思いません。種の個体数が少々減ったところで、この惑星を離れた後に次の惑星侵略までに増やせば良いだけかと」
 確かにそれは一面では正しい。自分もその考えが正しいとずっと思っていた。
 だがそれは、何も失っていない者の傲慢だ。
「そういう話ではない」
 多分に意固地になっている事は自覚していたが、それは変えようがなかった。
 ゼオン・ジハイドもいまや半分以下になってしまった。
 自分は死の間際の彼らに何がしてやれただろうか。
 死を看取る以外に多くの事がなしえたはずなのに、なぜ自分はそうしなかったのか。
 子犬のように懐いてくるパティを切り捨てられないのは、仲間への懺悔への意味合いが強いのかもしれない。
 せめて今を生きる仲間を助けようと駆け回ったが、気づけばゼダ・アーシュもボロが目立つようになっていた。
 メンテナンスは万全だがいつか修復不可能な不具合を出してしまうだろう。
「わかっています。ですが、今のままでは死に急ぐようなものです。どうか御検討を」
 アトオリなりの心配の仕方なのだろう。
 最近になって、ようやくこの副官の考え方がわかるようになってきた。
 有り難い申し出だと思いながらも、エドガーは苦笑しながら首を横に振った。



 北中央軍は指揮官を失い連携を失ったバグアに対して、容赦なく追撃をかけていた。
 元から個々の能力やキメラの数に頼り、連携の意識が薄いバグアではその猛攻に耐えることはできなかった。
 エドモンド・マルサス少将率いる連隊はその日も順調に拠点を攻撃していたが、攻勢が強まった一瞬の隙をついてイレギュラーが現れた。
 エドガー率いる奇襲部隊である。
 部隊の中央に突如として現れた彼らは、混乱する人類の部隊に縦横無尽に切り込んだ。
「クーニベルトは左へ! ジーメオンは右の敵を抑えろ! アトオリは俺に続け!」
 エドガーは叫ぶように指示を飛ばす。
 部隊とは言ったがたった4人しかいない。
 この案は延々と副官に反対されたが、これしか方法がなかった。
 アトオリの光学迷彩で連れていけるのは彼以外では3名まで。
 乱戦を得意とする二人を連れ戦線を掻き乱し、適当なところで切り上げる。
 言うは容易いが下手をすればゼオン・ジハイドと言えども命はない。
「行くぞ、ジーメオン!」
「おう!」
 両脇の二人は呼吸を合わせ車両の群へ突入していく。
 白の外套のクーニベルト、黒の外套のジーメオン。
 元から二人一組で活動していたバグアだが、ヨリシロを与えた以後もその連携に遜色はないようだ。
 彼らはエドガーの直接の部下ではないが、この救出作戦の概要を聞き名乗り出た二人だった。
 とはいえ、乱戦ならばバルタザルのほうが得意だろうし、敵の足止めならケヴィンが優秀だ。
 人を心情まで理解した彼らの技能は、バグアに移した時点で失われてしまう場合もある。
 無い物ねだりとわかりながらも、人材不足を嘆かずにはおれない。
 それでもエドガーは諦めない。
 この想いはバグアにとって奇異かもしれないが、確実に伝わっている。
 誰も居なければ一人でとも思っていた道行きに二人も道ずれが増えた。
 間違っているかいないのか、そんな事は生き残った連中が決めればいい。
 エドガーは両脇の二人に負けじと正面から戦車の群に突撃し、目の前の一輌を刃の衝撃波で真っ二つに切り伏せた。



 見た目は人と同じだが圧倒的な違いがあった。
 例え弾幕を張っても容易に隙間を縫い距離を詰め、戦車であっても一撃のもとに両断する。
 その能力との相性からゲリラ戦をとる恐れは常にあった。
 これまでは彼らの性格がそれを良しとしないため考慮の外であったが、エドガーならば使うだろうと予測はされていた。
 人類側の指揮官達は来るものが来たのだと、遠くの指揮車両から空撮された戦場の様子を眺めていた。
「なるほど。これがゼオン・ジハイドか‥‥」
 机の中央奥側で唸ったのはエドモンド・マルサス少将だ。
 その右には部隊の指揮官であるスタインベック・フォン・ダール中佐が控えていた。
「スタインベック中佐、ここまでは君の読み通りだ。次はどうするのかね?」
「まずは傭兵を出して時間を稼ぎます。その間に包囲すればいかにゼオン・ジハイドと言えども討伐のチャンスはあります」
 攻撃を正面から受け止めないのは、ダメージを無視できないから。
 奇襲に頼るのは戦力が心もとないから。
 バグアと戦い慣れたスタインベックは彼らの限界も完全に把握していた。
「ジゼル大尉。傭兵には好きにやらせろ。下手に命令を与えても混乱するだけだ」
「了解です」
 指令は発された。あとは傭兵次第。
 この部分こそが不安要素だが、個人の戦力に優れる彼らでなければ抑えるのも難しいだろう。
 指揮車両の一同は固唾を飲んで状況を見守っていた。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
イオグ=ソトト(gc4997
14歳・♂・HG
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
マキナ・ベルヴェルク(gc8468
14歳・♀・AA

●リプレイ本文

 近く遠く。銃撃の音が絶え間なく聞こえてくる。
 混乱した戦場は徐々に収束し、一点の淀みを明瞭に示す。
「奇襲か‥‥確かに効果的だが、そうそう成功させはしない」
 イヤホンから周辺の情報を拾っていた追儺(gc5241)が向かうべき先を指し示す。そろそろ近い。
「来るモノが来たって感じか。この状況、チャンスと見るべきかな
 チャンスはピンチにもなりうる。気を引き締めないとな」
 セージ(ga3997)は良いながら路地のゴミ箱を飛び越えた。
 市街地のビルとビルの隙間を縫って移動した分、接触まで遅れはするが敵の攻撃を受ける心配が無い。
 ここまでは順調だが、問題はその先だ。
「毎回逃げられてばかりだからな。三度目の正直だ、今度こそ潰す」
 五十嵐 八九十(gb7911)は鼻息荒く吐き出す。
 見上げる空には戦闘ヘリのローター音が複数。この状況なら前のような不意打ちは食らわないだろう。
 戦場に向かうメンバーの士気は総じて高い。
 ただ1人、UNKNOWN(ga4276)を除いて。
「‥‥どうしかしたのか?」
 隣を走っていた藤村 瑠亥(ga3862)は心配になって声をかける。
 彼が項垂れたままというのは珍しい。
「うむ。バニーが、と言われて飛んできたのに。騙された‥‥」
 聞いた俺がバカだった。予想すべきだった。こいつはこういう奴だった。
 そんな事を1秒ぐらいで考えて視線を前に戻した。
「おしゃべりはそこまでです。見えてきたみたいですよ」
 マキナ・ベルヴェルク(gc8468)が前を指し示す。
 暴威が乱舞する戦場へと、傭兵達は突撃していった。



 右翼、ジーメオン。黒髪黒瞳のドイツ系。黒の外套、黒の眼帯、そして黒のランス。
 五十嵐、イオグ=ソトト(gc4997)、追儺の3人が前へと躍り出る。
「おおおおおおっ!!!」
 ジーメオンは長大なランスで間合いをつめようとする傭兵に向かい薙ぎ払う。
 追儺と五十嵐は後方に飛んで回避。
 過ぎ去った槍の穂先が風を巻き唸りをあげた。
 追撃に移ろうとするジーメオンをイオグのM−121ガトリング砲の制圧射撃が押しとどめる。
 ジーメオンは咄嗟に外套を翻して銃弾を防ぐ。
 外套は展開した瞬間から硬度を持ち、襲い来る銃弾の雨を防ぎきった。
「‥‥なんだあれ」
「珍妙な装備だな」
 ジーメオンを囲みながらも五十嵐は困惑顔、追儺は表情に変化がないが戸惑って前に出ない。
 ジーメオンが再び槍を構えなおすとその迷いも消える。
「非常に厄介だが、抜けられるか?」
 イオグの問いに二人は目をこらす。
 外套は片手で操作しているため槍と振るいながらは使えない。
 使えたとしても外套の防御力は完璧ではない。
 目立たないが、一部に穴ができている。
「いけるな」
「ああ」
 五十嵐と追儺は軽く互いの意思を確認すると、次の瞬間にはジーメオンに飛び掛っていた。
 瞬天速で一気に加速した二人は両サイドからジーメオンに迫る。
 対応しようと槍を構えるジーメオンをイオグが銃弾の雨で牽制した。
「筋肉十字軍筆頭の攻撃 しかと受けてみぃ」
 防御の隙にできた隙に二人は突撃する。先に仕掛けたのは追儺だった。
 超機械「ヘスペリデス」の先端に付けられた玉が輝き、銀色の光線を放つ。
 牽制の一撃をかわしてジーメオンは槍を振りぬいて迎撃するが、追儺は距離をとって回避。
「もらった!!」
 攻撃を振りぬいた隙をつき五十嵐が上段から脚爪で連撃をしかける。
 ジーメオンが柄で防ぐと攻撃の姿勢に移る前に手甲の爪で更に追撃。
「舐めるな!!」
 ジーメオンは爪を弾くと柄で押しのけるように五十嵐を突き放す。
 間合いが外れた五十嵐に向けた槍が赤い光を放っていた。
「まず‥‥!!」
 咄嗟に瞬天速で距離を取ろうとするが間に合わない。
 武器の手数を生かすために五十嵐は飛び込みすぎた。
 ジーメオンの槍から放たれたソニックブームが赤い嵐となり、逃げようとした五十嵐を打ち据えた。
 だがその一撃でジーメオンも大きな隙を作ってしまう。
「終わりだ!」
 追儺は瞬天速の速度で一気に間合いをつめる。
 振り切ったままのジーメオンは防御が間に合わない。 
 追儺の蒼天が脇腹に刺さっていた。
「ぐ‥‥おのれ‥‥」
「ここで引導をくれてやろう」
 みなまで言わせるほどの余裕も無い。
 追儺は刃を振りぬく。ジーメオンは血の変わりに銀の光をしぶかせ、前のめりに倒れた。
「勝利。まさに筋肉愛のなせる業」
 横向きになり胸の筋肉を強調するサイドチェストのポーズをとるイオグ。
 喜色満面と言った笑みで何度もポーズを変えている。
 感極まっているところ悪いのだが、貴方の武器は銃火器ですよね。
 とは面倒なので追儺は言わず、倒れた五十嵐の介抱に向かった。



 左翼のクーニベルト。対照的に白で統一された装備をまとう金髪碧眼のコーカソイド。
 既に2名の能力者が接近戦で迎撃する中に、マキナは果敢に突撃した。
 側面からの突撃に対してクーニベルトは片手の剣で攻撃をいなし、翻って攻めに転じる。
 剣撃の鋭さは圧倒的に相手が上手。手数の多さに押し負け、マキナの二刀が弾かれる。
「はぁっ!!」
 クーニベルトの蹴りがマキナの腹部に直撃。
 吹き飛ばされ、後方の壁に叩きつけられる。
「その腕前でよく俺に挑んだ!」
 起き上がろうとするマキナに向かい、一歩ずつ歩みを進めるクーニベルト。
 マキナは体が動くことを確認しながら立ち上がる。
 致命傷は無いが今の一撃は十分に堪えた。
 骨にダメージが入ったような嫌な感触がある。
「‥‥別に死にたい訳ではありませんが、勝てないからと挑まないと言うのは話が別でしょう?」
「‥‥‥」
 クーニベルトの歩みが止まる。
 視線は上からマキナの表情を見つめたまま動かない。
「そんな人は、きっと望んだものをこそ得られない。
 勝てる勝負しかしない人は、自分で臆病風を吹き付けている様な物だと、私は思うのですよ」
 死にたくないから、勝てないから。そんな理由は唾棄すべきもの。
 だがその言葉に殉じる事が出来る者は、人として歪んでいる。
 だからこそ、クーニベルトはマキナの言葉に何かを重ねたのだろう。
 クーニベルトの表情には確かに小さな微笑みが浮かんでいた。
 それがヨリシロの記憶か彼の本人のものかは判別が付かない。
「貴様の言うとおりだ。俺の名はクーニベルト。人類の戦士よ、名を聞こう」
 それはかのバグアにとって最大級の賛辞、記憶への列席を意味していた。
「‥‥マキナ・ベルヴェルク」
「マキナか。承った」
 そう答えた瞬間、クーニベルトの殺気が爆発する。
 睨まれただけで死を幻視するほどの気迫。
 クーニベルトの二本の剣が発光する。
「貴様も俺の名を記憶するが良い!」
 二本の光の軌跡が交差する。
 二刀を構えなおし、マキナは正面からクーニベルトに立ち向かった。





 エドガーの直衛に飛び込んだのはセージと春夏秋冬 立花(gc3009)の2名。
 既に軍の能力者が交戦中で、その隙間に入っていく。
 後方のアトオリに対してはUNKNOWNと藤村。
 参加メンバー中最強の2人のペアなら、司令級バグアの撃破も可能だろう。
 この場の2人の役割は、他のメンバーが事を為すまでエドガーを足止めすること。
 足止めさえうまくいけば勝機は十分にある。
 立花は苦い顔で戦場を見た。
 それでは困る。彼には生きていて貰わないと。
「話したいことは沢山ありますが、取り敢えず‥‥!」
 軍属のペネトレイターがエドガーの斧を回避して、更に追撃をかけようとするその側面。
 立花のダンタリオンから銀色の光線が放たれる。
 エドガーは正面から超機械の電磁波を受け止め、FFで弾きかえす。
 セージはその隙に突入。刹那を抜き放ち、接近戦に入る。
 距離さえ取ればエースアサルトの火力を利用した牽制は有効。
 そう考えていたセージだが、エドガーの最初の一撃でそれが無謀だと悟る。
 エドガーの両腕から長大な斧にかけて、赤い波動が渦巻いていた。
「ふんっ!」
「!?」
 横薙ぎに一振り。穂先から伸びた赤い光が20m圏内を薙ぎ払う。
 セージは咄嗟に刹那で受け止める。
 それでも衝撃を殺しきることはできなかったが、致命傷は免れた。
 だが刹那の刀身には大きなヒビが入っていた。振るえば折れる可能性すらあるだろう。
 エドガーの追撃は止まらない。返す刀で更にもう一撃がセージに飛ぶ。
「下がれ!」
 軍属のガーディアンが盾となって血まみれになりながらもセージを庇う。
 アサルトライフルの牽制でエドガーを足止めし、セージはその隙に射程距離の外に逃げた。
 エドガーの追撃は止まらない。そのまま2人まとめて薙ぎ払うように斧を構える。
 今の2人では逃げ切れないだろう。そこに、横から立花が瞬天速で切り込んだ。
 表情に変化のないエドガーだったが、立花の顔をみて眉根を寄せる。
「何やっているんですかエドガーさん!指揮官が前線まで出るってアホですか!」
 立花の顔は憤懣に満ちていた。
 彼女がこのような言動をする理由は関係者には周知の事実だが、受け入れるかどうかは別の話だ。
「今からでも遅くないですから全員連れて帰ってください! 指揮官が落ちたら死者が沢山出るんですからね!」
 平和を謳う彼女の声は、しかし彼らにとっての毒足り得なかった。
 内容がどうあれ、エドガーにとって彼女の言葉にはエゴしか見えなかったからだ。 
「舐められたものだな!」
 飛び込んできた立花をエドガーは拳で殴り返し、斧の柄の部分で打ちのめした。
「自分が死んだ時の指示ぐらい、前もって出してある。貴様に言われる筋合いではない」
 立花がすぐに立ち上がれ無い事を確認すると、エドガーは正面のセージに向かい斧を振りかぶった。
「!」
 エドガーはその一撃を背後へと勢いをつけてフルスイング。
 赤い衝撃波で後背から飛び込んできた藤村をなぎ払う。
 藤村は後方斜め上に跳躍、宙返りをして着地。距離を取る。
「一筋縄ではいかなかったか」
 二刀を構えながら、油断無くエドガーを見据える藤村。
 本来ならUNKNOWNと共にアトオリを狙っていたのだが、エドガーの足止めが劣勢と見て引き返してきたのだ。
 エドガーは半歩後退し、囲まれないように距離を取る。
「‥‥速いな」
「それほどでもないさ」
 藤村はエドガーの攻撃を完全に回避しきったわけではなく、その服の一部を抉り取られていた。
 彼としては速いとは言えない状況なのだろう。
 だがそれでもエドガーを驚愕させるには十分だった。
 範囲の外に逃げる者は居たが、間合いの中でここまで攻撃をかわしきる相手はそうはいない。
「だが、押し通る!」
「させるか!」
 一際大きな波動を放つエドガーを5人は正面から迎え撃った。
 



 アトオリの融合する正八面体の機械は、移動するレーザー砲台としての機能を重視した設計になっている。
 射程距離外から火力が大きく多彩なレーザー攻撃で一方的に殲滅する事を目的として設計され、
 同種の機械からの迎撃を想定し対レーザー防御力に優れた鏡面装甲を全身に装備。
 その攻撃から生き延びたのは、その設計思想が彼に対して時間稼ぎに適しているからに過ぎなかった。
 飛び込んできた男、UNKNOWNの持つ拳銃が火炎弾を放つ。
 着弾した弾丸は火炎の渦が撒き散らし、アトオリの装甲を焼く。
 対レーザー防御能力を突き詰め、対熱防御にも優れた鏡面装甲が衝撃でひび割れていた。
「‥‥止めたか」
「私の鏡面装甲を突破するとは‥‥」
 双方驚きでその結果を受け止める。
 アトオリは後退しながら拡散レーザー砲でUNKNOWNを襲う。
 UNKNOWNは流石に回避しそこねたが、装備によって軽減されたレーザーは彼自身には届かない。
 唯一、掠った一条が頬を少し焼いたぐらいである。
 その傷も‥‥。
「練成治療ですね」
「うむ。私はそれが役目だからね」
 UNKNOWNの傷はあっという間に塞がった。
 互いの攻撃が通じにくい状況ではあったが、アトオリにはここまでの再生能力はない。
 再生できるのは皮膚に相当する装甲までで、内部の装置は不可能だった。
 ダメージ自体も通じにくいとは言ってもUNKNOWNのほうが更に大きい。
「青鳥‥‥アトオリだっけ?」
「アトオリです」
「まあ、改名ということで」
 くだらない会話で時間を潰すのか。
 UNKNOWNは手持ちの装備でアトオリの撃破は骨と結論付け、他のチームの決着を待つことにした。
 視線を左右に向ける余裕がある。大してアトオリは、直撃を受けないためにも彼の動向から目を離せない。
 アトオリはその状況を完全に把握しながらも、完全に上位といえる能力者を突破する手段を演算しきれない。
「最大限の努力を行います」
 互いの攻撃が効きにくいにせよ、自由に行動させるのはまずい。お互い様の話だ。
 UNKNOWNとアトオリは再び戦闘を開始し、互いに必殺の一撃を放った。


 
 ジーメオンとクーニベルトが死に、戦闘は一気にエドガーに不利になった。
 人類側も軍属のガーディアンとぺネトレイター、五十嵐、マキナ、セージ、立花が戦闘不能となったが優位は変らない。
 傭兵を排除できなかったエドガーとアトオリは互いに背中合わせとなり、周囲を窺う。
「ここまでか‥‥アトオリ、引くぞ」
「決断が遅すぎます」
 アトオリの正面(と思しき平面)が、ちらりと立花のほうを向く。 
「エドガー様、その娘を盾にすれば‥‥」
 アトオリの提案を聞いていた周囲の者は一斉に殺気立つ。
 傷の比較的浅い藤村やUNKNOWN、追儺を先頭に飛び掛る体勢に入る傭兵達だったが、
 それを押しとどめたのは同じバグアだった。
「止めろ」
「しかし‥‥」
「レーザーで弾幕を張れ、引くぞ!」
 エドガーの放った衝撃波が砂塵を巻き上げて視界をさえぎり、アトオリのレーザーが周囲にばら撒かれる。
 逃亡かはたまたそれに見せかけた誘いか、追撃するには危険でタイミングも悪い。
 1秒に満たない逡巡の後、結末は大方の予想通りになる。
 二人はビルの合間から合間へと抜け、次第に足音すらも聞こえなくなった。
「よくやった、上出来だ。追撃は我々が行う。負傷者の救護に当たれ」
 無線から聞こえる声が、彼らの役割の終わりを告げていた。



 ぎりぎりのところでエドガーとアトオリは逃げ延びる。
 しかしその傷は傍目に見ても深く、しばらくの戦闘は不可能に見えた。
 その後の2週間以上、彼らは戦場に現れることはなく、
 マルサス少将率いる連隊は大きな障害もなく歩みを進めていった。