タイトル:騎士への転生:知マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/22 18:12

●オープニング本文


 UPC北大西洋駐留艦隊
 カナダや欧州の各港を拠点とする彼らの任務は、
 一つにバグアが海上から浸透することを防ぐことにある。
 彼らは多数の艦艇に潜水艦、哨戒機に戦闘機、グリフォン、オロチ、パピルサグを中心としたKV部隊を擁し、
 常に海上へと睨みをきかせていた。
 この日、エドガー・マコーミック大佐率いる第四艦隊はワシントンからカナダ方面に飛来する一団を発見。
 ただちに進路を変え、夜明け前に交戦に入った。
 敵の主力はキメラばかりで、HWも無人機ばかり。
 数が多いため楽な相手ではないが、万一にも負けるような相手ではなかった。
 誤算だったのは、数少ない有人機の中にオリ=グレイ(gz0364)の搭乗機:ゼダ・アーシュが擬装されていたことだった。




 衝撃は一瞬だった。
 艦の速度では一度狙われてしまえば逃げようもない。
 破壊された艦橋の中央で、エドガー大佐は深く悔やんだ。
 艦橋要員はそのほとんどが死に、呻く声ももはや助かりそうな声ではない。
「最高にクールだったゼ。こんなノロマな艦隊で俺の機体に傷をつけやがるんだからナ!」
 艦橋を内部から破壊したオリ=グレイは、嬉しそうに笑っていた。
 この乱戦の中、わざわざパイロットが乗り込んでくるということは‥‥。
「‥‥そうか。貴様らの狙いはこの私か」
「そういうことだナ。空からなら選り取りみどりだったゼ」
 カカカとグレイは笑う。
 行動は野蛮だが裏表がない。
 エドガーはその笑い声を聞きながら、引き抜いた拳銃を自身の首元に向けた。
 途端、オリ=グレイの笑い声が途絶える。
「‥‥おいおい。冗談きついゼ」
「死ぬ前には引き金を引く。近寄っても引き金を引く。
 脊髄のこの辺りから吹き飛ばせば、ヨリシロにならずに済むのだろう?」
 視線はまっすぐにオリ=グレイを見据えながら、一方的に話を進める。
 慌てるようなオリ=グレイの反応に、エドガーは自分の推測の正しさを確認した。
「‥‥なにが望みダ?」
 望んでいた問いを引き出した。
 エドガーは、薄く穏やかに微笑んだ。
「私はこの艦の艦長だ。退艦命令を出し、見届けるまで死ぬ訳にはいかない」
「それがお前の生き方か。いいぜ、それぐらいは待ってやル。
 俺とお前は、もう他人じゃないからナ」
 エドガーはグレイが手近な椅子に腰掛けるのを見ると、鑑内放送のスイッチを入れた。
 軍人として選ぶ道は速やかな自決であるべきだったが、最後の最後まで徹することは出来なかった。
 彼自身が敬虔なキリスト教信徒であることは大きな理由だったが、決め手になったのは‥‥。
「最後の敵が貴様で良かったよ」
「‥‥なんだっテ?」
「こちらのことだ。気にしなくて良い」
 待つ事数分。艦の周囲には何隻ものゴムボードが漂っているのが見えた。
 年輩の整備班長が退鑑の報告と共に、「艦長もお早く」と気遣いの言葉をかけてくる。
 何事もないかのように返事をするのは、自分でも意外なほどに簡単だった。
 亡き妻と15になったばかりの娘に心の中で詫びると、ゆっくりと拳銃を下ろした。



 バグアの軍隊は動きが単調である場合が多い。
 理由は様々だが、キメラやAIなど戦術という概念を持たない兵隊が多い事と、バグア自身が戦術を軽視する事があげられる。
 圧倒的な質こそが武器である彼らにすれば、吹けば飛ぶような相手に戦術を発達させる必要もないのだが、
 質が追いつきつつある人類にとってそれは付け入る隙になった。
 この戦場でも、そのはずだった。
 まだ若い能力者の少佐は、スカイセイバーのコクピットから呆然と戦場を眺めていた。
 確かに敵は強い。だが、自分達は戦術と連携によってそれと拮抗し、
 ほんの少し前までは押し返していた。
 それがたった数機の増援が来ただけで変わってしまった。
 増援は指一つ動かしていないのにも関わらずだ。
「そんな‥‥バカな‥‥」
 この地を守ってきた精鋭は、既に壊滅していた。
 残ったのは僅かに歩兵が1個中隊と、少佐のKVが1機、そして傭兵のもつ8機のKVのみ。
 大隊一つが跡形もない。
 呆然とする少佐の目の前に、敵司令の機体であるティターンが飛来し、静かに着地した。
「この地を守っていた人間の司令よ。君は良くやった」
 腕を組んだままのティターンのパイロットは、外部のスピーカーを使い呼びかけてきた。
 声は人間のものだ。おそらくはヨリシロだろう。 
「私はこの地の司令官となった、エドガー・マコーミックだ。
 ゼオン・ジハイドの6、と名乗れば君達にもわかりやすいかな?」
 その名前は流石に聞き覚えがある。
 オリ=グレイ、4本腕の爬虫類のようなバグアだ。
 ヨリシロを変えていたとは知らなかった。
「何の用だ?」
 このまま戦っても勝算は0に等しい。
 少佐は大人しく相手の呼びかけに答える。
「うむ。実は君達と少しゲームしようと思ってね」
「‥‥なんだと?」
「君達に分かりやすく言い換えれば決闘とも言えるな。
 ルールは簡単だ。そちらで稼働可能な8機のKVとこちらの選抜した8機のワームのみで勝負をする。
 君達が勝てばこの地を君達に解放しよう。負けても君達の健闘を讃え、追撃は行わない。
 酔狂な話だと思うだろうが、つきあって貰えるかな?」
「‥‥そんな、うまい話を誰が信じるものか」
 少佐は唸った。
 酔狂も度が過ぎる。
 今まで暴威を振るう以外の方法を取らなかったバグアの台詞を、到底信じることはできない。
 言葉のあとの沈黙に少佐の意図を察したのか、エドガーは僅かに笑みを浮かべた。
「信じないのであればそれでも良い。
 であれば私は、明日の同時刻をもって君達に総攻撃をかけさせてもらう。
 既にわかっていると思うが、君達は誰一人生きては帰れないだろう」
 少佐は言葉に詰まる。
 エドガーに言われずとも、子供でもわかる事だ。
「‥‥良い返事を期待している」
 エドガーは少佐が悩んでいるのを見届けるとティターンを空に浮かせ、そのまま自身の陣地へと戻っていった。
 取り残された少佐はティターンの背中を見送る他なかった。
「‥‥どうします?」
 心配そうに副官が声をかけてくた。
 声には疲れがにじんでいる。
 彼の率いていた戦車隊も、既に数は半分以下になってしまっていた。
「‥‥受けても受けなくても同じなら、受けたほうが分は良い。傭兵達を呼んでくれ。彼らの意見も聞きたい」
「わかりました」
 通信が切れる。
 少佐はそのままコクピットの椅子へと倒れこむように沈む。
 一度切れてしまった緊張の糸を再び張りなおすには、少々時間が必要そうだった。

●参加者一覧

セージ(ga3997
25歳・♂・AA
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

 決闘当日。天気は快晴。
 見晴らしはよく何キロも先まで明瞭に見える。
 人類が敷いた陣地から見える廃棄都市には、朝方から8機の機動兵器が佇んでいた。
 レーダーを使わずとも相手が見えることは、不幸だったのか幸いだったのか。
 敵の編成はタロス6機にゴーレム2機。うちタロスのうち2機は強化型だ。
 先頭に立つ1機がエドガー・マコーミック(gz0364)の機体で間違いないだろう。
「カエル野郎‥‥いや、今は違うのか」
 クラーク・エアハルト(ga4961)は眼帯の上から左目に触れる。その傷はエドガーがオリ=グレイであったころにつけられたものだ。
 エドガーが戦場での出来事を一々覚えているかは不明だが、この目の借りは返さねばなるまい。
 これはまたとない機会だ。
「‥‥無理ですね」
 なにやら落胆したような声をあげたのは春夏秋冬 立花(gc3009)だった。
 彼女の機体の周りには地殻変化計測器が設置されており、ヨダカ(gc2990)がその周りをペインブラッドに歩かせている。
 同じく電子戦機を使うラサ・ジェネシス(gc2273)と共に地殻変化計測器を戦場に設置し、相手の行動を把握出来ればと考えたのだが装置にはそこまでの能力はなかった。
「やっぱり無理ですね。地表のデータをとるには解析の為のデータが足りません。専用の機器やプログラムを用意しないことにはどうにも‥‥」
 申し訳なさそうに整備に携わってくれた兵士は言う。
「仕方ないですね。今回は諦めます」
 春夏秋冬は残念そうに言うと、地殻変化計測器を装備から外し始めた。
「それにしても変だな‥‥」
「何がですか?」
「うん。今回の提案がね‥‥」
 口元に手をあて、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)は考えをめぐらせる。
「勝ち戦でこんな提案ってことは‥‥何を試してるんだろうってね」
「‥‥確かに、理由が見えませんね」
 流叶・デュノフガリオ(gb6275)も同じく思索に進む。
 疑念が生まれてしまうと、それを捨て置くのも気持ち悪い。
「新しい体を試してるのかな‥‥?」
「関係ねえよ。俺達はあの蛙野郎をぶっ飛ばす。それだけだ」
 五十嵐 八九十(gb7911)は敵愾心をむき出しにしていた。
 彼もクラークと同じく、彼に借りのあるクチだ。
 エドガーに一発食らわせられるなら、相手の事情などどうでもいい。
「‥‥時間だな」
 セージ(ga3997)は時計を見た。
 集まっていた敵のワームが動き出す。
 北中央軍の兵士達が見守る中、8機の巨人が街を目指して歩き始めていた。



 バグアと人類、双方が遠巻きに戦場を見つめる中、ついに戦闘は始まった。
 傭兵達は春夏秋冬の指示にあわせて電子戦機を中央に据えた防御に向く陣形に移り変わる。
 俯瞰すれば二等辺三角形にみえるだろう。
「各機、アローヘッドフォーメーション!」
 バグア側はエドガーを先頭に逆Vの字の陣形に隊列を変える。
 中央に打撃力の集まる正面突破に向いた陣形だ。
 双方長射程の武器で攻撃を始めるが、建造物を遮蔽にしているためどちらも有効打足りえない。
 急接近した両者はそのまま白兵戦に突入した。
 迎え撃つ傭兵側はセージと五十嵐が連携して2機に当たる。
「指揮官が前に出てくるとは大した自信だな」
 PRMを起動したセージはスラスターライフルとプラズマライフルを撃つ。
 最適化を加えつつ弾丸を撃ち込むが、この距離では間合いを詰められるのは早い。
 すぐさま機刀を抜き放ちタロスのブレードを受け止めた。
「ふん。正面突破を最適な戦術と判断したまでだ」
「戦略無き戦術は無意味‥‥」
「なんだと?」
「いずれわかる!」
 セージは剣を押し返し、エドガーの機体と激しく打ち合った。
 剣撃で数合渡り合い互角に見えたが、徐々にその剣撃の圧力に押され始める。
「このっ!」
 セージは後方に下がりつつプラズマライフルを撃つ。
 近距離からの攻撃だが、当たらない。
 如何に弱い機体に乗っているとはいえ、ゼオン・ジハイドには違いなかった。
 その側面を五十嵐がつこうとするが、僚機のタロスの妨害が抜けない。
「邪魔だ! 雑魚はすっこんでろ!」
 アヌビス:エクイリブリオ・ベオーネはラージフレア「幻魔炎」を射出、重力波レーダーに直接干渉。
 タロスの照準を狂わせ、その隙に脇を抜こうとする。
 神天速を起動して駆け抜ける五十嵐機だったが、タロスのフェザー砲が正確無比な照準で五十嵐機をなぎ払う。
「ぐっ‥‥」
 直前で回避。
 副官のタロスを振り切れない。
 動きは機械的で直線的だが、異様な反応速度のパイロットだった。
「援護は‥‥!」
 五十嵐は周囲の様子をレーダーで確認する。
 2人が切り込んだのちの数十秒で、周囲では熾烈な砲撃戦が始まっていた。



 傭兵達は電子戦機を中心に防御的な陣形で布陣する。
 左翼、砲撃を得意とするヴァレスと流叶。
 右翼、バランスよく装備を配したクラークとヨダカ。
 ラサと春夏秋冬はそれぞれより近い側にサポートにつく。
 左翼にはラサ、右翼には春夏秋冬が回った。
 左翼は標準的な装備のタロス2機とゴーレム1機と相対する。
 ヴァレス、流叶は当初エドガー付近への砲撃を行なっていたが、接近する3機の敵機に対応に変更する。
 火力を集中させまいとするのはお互いに同じだ。
 ヴァレスと流叶は接近する3機に向かってマルコキアスを向ける。
 2機合わせ秒間2000発を越える弾丸がタロスを襲う。
 敵もさるもので遮蔽を利用しながら回避行動に移り、一部を盾で弾いて撃破は免れる。
 撃破には至らないが、牽制としては十分役目を果たした。
「今だ、流叶!」
「了解だ!」
 フェイルノートIIは構えていたレーザーライフルでタロスを撃つ。
 ツインブースト・アタッケで強化された一撃は、当たり所が悪ければ一撃で撃破もありえる。
 タロスはブーストを起動、慣性制御を強化して一気に跳躍。
 レーザーの光をぎりぎりでなんとか回避しつつ、懐に飛び込んでいく。
 収束フェザー砲を流叶機に向け放った。
 光線は流叶機の側を掠め、装甲の一部を溶かす。
「流叶殿、我輩を盾に‥‥」
「ダメだ! 君は索敵に専念してくれ!」
「でも‥‥」
 2機が如何に砲撃型でも3機の攻撃を受け止めきるのは厳しい。
 加えてラサは射撃武器がないため動きが取れない。
「俺達を信じて!」
 苦しいなかでヴァレスも叫ぶ。
 持ちこたえれば他がなんとかしてくれると信じる。
 ラサは苦い感情を抑えながら、敵の情報収集に専念する。
 左翼の戦闘は苦しいスタートを切った。


 
 右翼は砲撃型タロス2機とゴーレム1機と相対する。
 左翼の戦闘とは違い、接近していったのは傭兵側だった。
 砲撃装備のタロスとゴーレムは距離を生かして牽制に徹し、前に出ようとしない。
 痺れを切らしたヨダカは攻撃をかわしながら前に出る。
「‥‥!」
 距離を上げていたヨダカは急制動をかけ後方に下がる。
 バグア側の陣形は近くもなく遠くもない距離を保っており、
 フォトニッククラスターを撃つポジションが決まらない。
「ヨダカさん、あまり無理はしないで」
「わかってるですよ。深追いはしないのです」
 フォトニッククラスターを撃つタイミングを掴めない。
 射程の短さもあるが、固定装備ゆえに事前に警戒されていたのも大きい。
 後方へ下がって傭兵達が距離を取ると、バグア側は収束フェザー砲からプロトン砲に切り替え、
 街ごとなぎ払う作戦に転換した。
「火力はこちらのほうが薄いですね。戦線を押し上げましょう」
 春夏秋冬の指示で3機は徐々に前に出る。
 負けるとは思えないが、すぐに勝てる状況でもない。
 どちらが先に根をあげるか時間との勝負だった。
 クラークは左翼に展開する仲間のことを、ちらりと思い返した。
「タイミングを合わせましょう」
「了解なのです」
「わかった」
「いきますよ、3、2、1、今です!」
 クラークの支援射撃を受けながら、ヨダカは錬鎌を振り上げ敵機に襲い掛かった。



 序盤に数的有利を作りたい傭兵達であったが、
 陣形でそれを為しえなかった以上、現場でのアドリブには限界があった。
 個々人の頑張りでできることにはどうしても限界がある。
 状況は膠着する。基本的な戦力では上回っていた傭兵達にとって、完全な膠着ならば勝機もあったが、
 残念ながらそうは行かなかった。
 傭兵達は電子戦機の機能を状況把握に絞りすぎたために戦力の不均衡が発生したのである。
 最初にその不均衡の影響を受けたのは流叶の機体だった。
「流叶、下がって!」
 僚機のヴァレスが援護に回ろうとするが、目の前の砲戦機を御しきれず上手く立ち回れない。
 その間にも流叶機は敵2機からの執拗な攻撃を受けていた。
 ラサ機が前に出ず射撃武器も無いことは早々に露呈し、
 ラサが受け持つはずの火線はすぐ近くの流叶に集中し始めた。
「ダメだ。私が下がったら‥‥!」
 爆発の衝撃に言葉が途切れる。
 光線が直撃して足が破壊された。
 攻撃力に優れるフェイルノートだが防戦に回ってしまうと脆い。
 膝をつき動けなくなったところに、後列のゴーレムが放った収束フェザー砲が命中。
 爆発はしなかったものの、戦闘不能に追い込まれる。
「流叶!!」
 しかし生死を確認する余裕もない。
 ヴァレスの目の前には3機の機動兵器が並んでいる。
 容赦ない攻撃がヴァレス機を襲った。

  


 流叶が落ちて連鎖するようにヴァレスが撃墜。
 雪崩を起こすように状況は悪化の一途を辿った。
 崩れた左翼ではタロスとゴーレムがラサを追い回す。
 こちらも撃墜は時間の問題だろう。
 残った1機は膠着した中央に支援に入った。
 真っ先に標的になったのは足の速い五十嵐だった。
 タロスは収束フェザー砲で五十嵐の足元をなぎ払う。
「なんだっ!?」
 横合いからの光線を咄嗟に回避しつつもバランスを崩してしまう五十嵐機。
 それに気づいたセージが五十嵐のフォローに入るが、目の前に居るエドガーのタロスにかかりきりで身動きがとれない。
 副官の強化型タロスは正確無比な射撃で五十嵐機の頭部を破壊。
 カメラを失い視界の狭まった五十嵐機を、横から突撃したタロスが切り伏せる。
 足と腕を切り落とされた五十嵐機はそのまま道路脇のビルに倒れこみ突っ込んだ。
「貴様っ!」
 セージがプラズマライフルで五十嵐を切り倒したタロスを狙う。
 錬力切れで回避しきれなかったタロスはそのまま腰から下を失い、倒れ伏す。
 しかしセージの頑張りもそこまでだった。
「!」
 セージの機体を2方向から光線が貫く。
 エドガーと彼の副官のタロスが放った収束フェザー砲だ。
 シュテルンは肩から背中と左腿を抉られ、落下して地面に激突し動かなくなる。
 この間、左翼は単機となったラサが相打ち気味にゴーレムを撃墜、右翼はタロスを1機撃墜した。
 右翼は余力を残していたが、残ったタロス3機が合流して戦力差は3:5。
 これ以上戦場を覆すことはできなかった。
「なるほど。実際に使う側となればこうも違うのか」
 エドガーは純粋に驚いていた。
「そこのシュテルンのパイロット。戦略無き戦術は無為と言っていたな。まさしくその通りだ。君達のおかげで実感することができた。感謝するぞ」
 言葉に嫌みの色が無いのが、余計に腹立たしい。
「だが危ないところだったな。このヨリシロの特性を過大評価していた。どうやら指揮と直接戦闘は両立できないようだ。体を慣らすまでは後方で活動したほうが良さそうだな」
 エドガーが回想しているのはセージとの戦闘だった。
 あの作戦がチーム全体で実行されていれば、結果は変わっていただろう。
 チームメンバーは個人の技能に優れつつも、戦術的な判断力に乏しい極めて平均的な思考のバグアばかり。
 エドガーの指揮を離れた場合、どのようなミスをするか予測もつかない。
「くそっ‥‥人間舐めんな寄生虫!」
 余裕で話を始めたエドガーに食ってかかったのは五十嵐だった。
「お前らはその人の記憶と、家族との夢を奪った!
 セシリアさんとの絆や思い出すらも穢したんだ!」
 セシリアはエドガーの娘の名前だった。
 事前にエドガーの情報を照会した際に、何かに使えるかもと確認した情報だ。
 彼女は両親不在の家で家政婦と共に暮らし、半年置きの父の帰りを楽しみにしていた。
 それだというのに‥‥。
「その理論・概念を人類に理解できるように分解・再構築すると、食事や呼吸をするなと言う内容になります」
 答えたのは五十嵐を押さえ続けた副官だった。
「地球における食物連鎖の頂点となった生命体とは思えない暴論です。貴方達は言葉の通じる家畜が命乞いをすれば、可哀想だからという理由で命を助けるのですか?」
 五十嵐は黙った。
 反論できないからというのもあったかもしれないが、
 彼らが別の生物で、全く違う倫理感で生きていることを肌身で感じ取ったからだ。
 話が通じないのではなにを喋っても意味はない。
「‥‥文句を言うなとは言わん。その怒りは正当だ。だが、それがバグアという生き物を批判する理由にはならん」
 エドガーの言葉に沈黙が落ちる。
 副官の言うようにただ食事をするだけ、というには妙にしんみりとした声だった。
「エドガー様。この者達はどういたしましょう?」
 副官の機体から機械音声のような声が聞こえる。
 傭兵達は身を固くした。
 残った4体のバグアは殺気を収めていない。
「約束通り追撃はしない。自由に引き上げさせろ」
 エドガーはそう宣言すると、他の者に先んじて機体を反転させた。
 他のバグアからは戸惑うような挙動がみられた。
 それでも上の命令には絶対服従が原則なのか、残ったバグア達もようやく殺気を収め、遅れながらもエドガーの後に従った。
 取り残された傭兵達はようやく半信半疑であった言葉を信じることができた。
 人類軍の生き残りは満身創痍の傭兵を連れ、最寄りの基地へと帰還した。