タイトル:【JTFM】深き青の覇者マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/11 11:03

●オープニング本文


 ティルダナ司令の趣味が水棲生物の収集であるのは良く知られている。
 彼の部屋に呼ばれたものはその種類の多さに驚くことだろう。
 多くの場合重要な用件の際のみ呼ばれるため、それをのんびりと鑑賞する事ができるのは司令本人のみだ。
 彼以外でもっとも長くその水槽を眺めていたのはフェリックスと名を変えたバスベズルと、
 強化人間にして司令となった本城恭香のみだろう。
 本城は今日もいつものように水槽を見上げる。
 だが、賑やかだった水槽には面影がない。
 彼の飼っていた生き物達が、一匹残らず消えうせていた。
「私が居なくなれば、この魚達の面倒を見るものは居なくなるからな。
 キメラプラントに材料として運んだよ」
 無理矢理人間の言語に変換されたティルダナの声に、僅かに哀愁の色があるように感じた。
「今なら、ソフィア司令の気持ちもわかるかもしれないな」
 それはソフィアが連れている厄介者のことを指しているのだろう。
 バグアの例に漏れず、彼もソフィアの考えを理解することはなく、
 彼女の行動に非協力的であった。
「ティルダナ司令、お言葉ですが、子供というのはペットとは違いますよ?」
 ティルダナの心変わりに戸惑いながらも、これだけは付け足しておかないといけない気がした。
「どう違うのだ?」
 やはり分かっていなかった。
 ゆらゆらと触手が動く。
 最近はこの触手の動きがどんな感情を表しているのか、わかるようになってきた。
「説明は困難ですが‥‥あえて言うなら」
 本城は僅かに言いよどむ。
「ペットは自分にとって現在でしかないですが、子供は自分にとっての未来になります」
 そこには自分に無い物ばかりが散りばめられていたからだ。
「‥‥よくわからんな」
 わからなくても、何かを大事にする気持ちが同じと伝わっているらしい。
 ティルダナは特に不満らしいことは述べなかった。
「本城、ソフィア司令が貴様を必要としている。
 強化人間どもを連れて向かうと良い」
「ティルダナ司令はどうなさるのですか?」
 既に戦力の大半をグアキヤルに移動させた。
 残った戦力は些少だ。
 何ができるというのだろう。
「制海権を奪われつつある今、有効な打撃を与えられるのは私をおいて他におるまい。
 これまでのミスの詫びに、一つぐらい無茶をしておかねばな」
 それはこの地を守りきれなかった事なのか、
 それともソフィアの感情を理解しなかった事だろうか。
 本城は「畏まりました」とだけ告げると、部屋を退室した。
 今生の別れになるような気がしたが、お互いに名残を惜しむような関係でもない。
 彼女は水槽の部屋を、一度も振り返ることはなかった。



 コロンビア沿岸部。
 ここには現在、エクアドルへの侵攻に備えて多数の部隊が集結していた。
 ここから進発した部隊は沖を南西へと進み、迂回してエクアドルのバグア司令部へと攻め込む予定だ。
 海路を利用した大規模輸送の拠点ともなっているため、利便性のため空軍も集結しつつある。
 そんな状況の中、バグア軍の襲撃は行なわれた。
「酷いわね‥‥」
 周囲を見渡したミラベルは思わず呟く。
 物資自体の被害はそこまででもないが港湾施設の多くが甚大な被害を受けていた。
 ガントリークレーンは軒並み破壊され、輸送に使う橋や道路もほとんどが寸断されている。
 また、停留してあった船舶の3割が中破から大破といった様相で、他の船を湾内に入れることもできない。
 どの部署も必死で復旧作業にあたっているが、
 以後の貨物の分配に大きな影響が出ることは間違いないだろう。
「敵はどんなやつだったの?」
「ほとんどはキメラでした。巨大なタコやイカ、あとはヒラメやチョウチンアンコウ、エビ、カニ、ウナギ‥‥」
 担当の士官は報告しながら、戦闘中に撮影された写真を1枚づつ提示してくる。
 確かに彼の言うとおりの魚介類キメラだった。
 ヒラメが空を飛んだり、チョウチンアンコウがレーザー撃ったり、
 ウナギが放電したりしてるがキメラなので仕方ない。
「他は‥‥?」
「少数ですが機動兵器が確認されました。メガロワームがほとんどですが、1機のみティターンも確認されました」
 手渡された写真には見覚えがあった。
 深海のように暗い青の塗装のティターン。
 司令官の一人、ティルダナの機体だ。
 写真に映るティターンは、両側面にある触手のような武器でアルバトロスを串刺しにしていた。
「突然のことでほとんど抵抗もできず、ようやく反撃できそうになった頃にはもう‥‥」
 キメラにもワームにも損害が与えられず完全に後手に回ってしまった。
 警備の増強が必要という要請だったが、これは苦労しそうだ。
「今は大事な時期だから、放置するわけにもいかないと‥‥」
 ミラベルは頭の中で必要な装備をまとめる。
 水・陸・空の装備を知識の中から順番に選択。
 相手の戦い方は面倒なことこの上ない。
 こちらの装備が自由でないことを利用しての戦法だろう。
 さすが司令級となるとやり方が上手い。
「‥‥数を用意しないと、単機じゃどうにもならないわね。
 傭兵を呼びましょう。そう長くは掛からないわ」
 傭兵の装備は特殊作戦軍並みに多様だ。
 今回の戦闘こそ、彼らの出番だろう。
 それで無理なら‥‥。
「‥‥水路の輸送が締める割合は大きいわ。
 決戦がどれだけ遅延するか、わからないわね」
 長く血に塗れた戦いの終わりが、もう本の少し先に見えているのだ。
 こんなことで躓くわけにはいかない。
 ミラベルは長い金の髪をまとめなおすと、KV小隊の集まる倉庫へと歩みを進めていった。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
D・D(gc0959
24歳・♀・JG
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
リリナ(gc2236
15歳・♀・HA

●リプレイ本文

 傭兵達が港についたのは夕刻頃だった。
 丁度凪の時刻に重なったために、空気の中に潮の匂いが濃い。
 夜まで時間はそれほどないが、機体のセットアップをこなすには程よい時間だ。
 傭兵達が簡易のハンガーへと運び込まれる機体を眺めていると、何名かの軍人達が歩いてくるのが見えた。
 中央の一人は傭兵達にとって見覚えのある人物だった。
「いらっしゃい。みんな元気してた?」
 ミラベル・キングスレー(gz0366)は軍人らしからぬフランクな雰囲気で呼びかけてくる。
 真っ先に返事をしたのは周囲の予想通り鷹代 由稀(ga1601)だった。
「変わりないわ。そっちも元気そうね」
「仕事がないうちはね」
 ミラベルは苦笑しながら答える。
 この返事もまたいつもどおりの返事といえた。
「早速で悪いけど、今後の方針のお話をしていいかしら?」
 絶妙なタイミングで割って入ったのはD・D(gc0959)だった。
 後ろには赤崎羽矢子(gb2140)とゼンラー(gb8572)も控えている。
「良いよ。どういう配置で行く?」
「敵の編成も考慮した上で、傭兵は水中と低空域の警戒に分かれるわ」
 D・Dはハンガーに視線を向け、ミラベルの意識を誘導する
 機体の構成は事前に調整がなされ、特化した機体や最適化された機体が揃っていた。
 周防 誠(ga7131)とゼンラーは現存する水中機体で最強とも言えるリヴァイアサンを持ち込んでいた。
 アルバトロス改が主力の沿岸警備隊にとっては実に頼もしい援軍だった。
 赤崎もアルバトロス改だが強化された機体は2機のリヴァイアサンに見劣りしない。
 このほか、D・D、ラナ・ヴェクサー(gc1748)は戦場に臨機応変に対応するため、空中と水中を行き来できる機体を準備した。
 それぞれパピルサグ、グリフォンとこの系統では優秀な機体だ。
 鷹代、ルノア・アラバスター(gb5133)は自分の使いなれたいつもの機体を選んでいる。
 一方、リリナ(gc2236)だが‥‥。
「‥‥あれ?」
 機体を運んできたトレーラーの上に載っているのはワイズマンだ。今回の作戦ではオロチを使う予定で申請したはずだ。
「‥‥申請書にワイズマンって書いてありましたよ?」
 捕まった若い整備士は、訝しげな顔をして命令書の該当部分を指差す。
 リリナが「あっ」という顔をしたのを確認して、すぐにセットアップに戻っていった。
 事故はあったがオロチと同じ電子戦機。大きな配置変更は必要なさそうだ。
 兎にも角にも、戦域が複数にまたがるという事情で傭兵の機体編成は余り見ない珍しい編成になっていた。
「なるほど。上陸前に叩くわけね」
「そういうこと。ミラちゃんのところも空戦装備にセットアップしてもらえる?」
「良いわよ。そっちに合わせるわ」
 ミラベルは軽く請合うとすぐに控えていた若い兵士に指示を出す。
 兵士が走り去るのを見送ってから、また視線を戻した。
「‥‥作戦はある?」
「作戦と言えるかはわからないけど用意してきたよぅ」
 筋肉質な上半身をむき出しにしたスキンヘッドの男が答え、順序立てて説明を始めた。
 こう書くと恐ろしいようにも聞こえるが、ニカッと笑う顔は愛嬌があった。



 陽が落ちて辺りに黒い帳が下りる。
 警備のために照明はついているが、それでもなお闇が濃い。
 襲撃はまだない。傭兵達はKV内での待機状態が続いていた。
 ローテーションで仮眠をとり、時に雑談をして時間を潰す。
「奇襲とかバグアにしてはせこい手よね。その分手強いけど」
 赤崎の声には「面倒」という感情がわかりやすく載せられていた。
 ティルダナが最後に言った言葉が思い出される。
 この作戦こそがバグアの本性なのだろうか。
「本当にそうですね。」
 リリナは不安そうに暗い海を見つめている。
 襲撃があるとすれば哨戒の部隊は危険と隣あわせだ。
 一人も死なすまいと強く心に誓っている彼女には辛い時間だった。 
 誰もがなるべく明るい話題を振ろうと、無理矢理にでも明るく振舞っていた。
「終わったらお茶の一杯ぐらい付き合ってよ。そのぐらいの時間はあるでしょ? や、時間取れたときに一晩でもいいけど」
「どうかな。こういう時は激務になりがちだわ。少なくともこの仕事が終わるまでは晩は空いてないわね」
 ミラベルは鷹代の誘いをやんわりと断る。
 事実時間がない。
 決戦間近となってこの港湾警備だけに時間を割いてるわけではない。
 連日、決戦に向けた会議に忙しく歩き回っている。
 時刻が深夜を過ぎたころ、唐突に警報が鳴り響いた。
「‥‥敵が来たようです」
 最も早く異常に気付いたのは、他機から転送されて来るソナーの情報を注視していたラナ機だった。
 ラナは精神安定剤を口に含む。激戦の最中に効果が切れてはたまらない。
 ソナーの情報にある敵の数は、この時点では一つ少なかった。
「最後の1匹ならここに居るよ」
 赤崎はその証拠とばかりに目の前に広がる暗い海底に向かってガウスガンを発射。
 着弾の直前、ふわりと巨大な何かが浮かび上がった。
 ヒラメ型のキメラだ。
「ラナ、そっちに行った! お願い」
「わかりました」
 ラナが空にあがったヒラメを海水面ぎりぎりで捉える。
 ソニックネイルがヒラメに届く前に、コクピットには別の方向からアラーム。
 咄嗟に回避したラナ機のすぐよこを、稲光のようなものが過ぎ去っていった。
 その方向を見れば海面に巨大なウナギのようなものが顔を出している。
 更にその後ろには海中を進むキメラの群が見えた。
 全てのキメラが陸地目指してまっすぐ進んでいる。
 ここまでの敵の行動はゼンラーの想定に沿った行動だった。
 現在行なっている配置では水中戦力が多い。
 海中へ戦力を多く配置することで、敵の行動を空と海の分散しての侵攻か、
 海中からの強引な突破の2択に迫るという意図があった。
 想定内の行動なら余裕をもって迎撃できる。
 準備万端待ちかまえていたKV部隊が襲いかかった。
「データ転送します。周囲に友軍機ありません」
「了解‥‥です。投下 しますね」
 リリナの計測を元にルノア機が爆雷を投下する。
 爆雷は狙い違わずキメラの群の鼻先で爆発。
 爆発の衝撃でキメラの群の侵攻が止まった。
 爆発で一時的に乱れたソナーは、群から突出する影を映しだす。
 マンタワームと、ティターンだ。
 キメラとワームは扇状に展開し、それぞれが上陸を目指す。
 一斉に散らばっていったために全てを防ぎきれなかった。
「ならティターンを抑える!」
 水中で待機していた周防、D・D、ゼンラーがティターンに向けてブーストで接近する。
 V字の陣形の中央からD・Dのパピルサグが多連装魚雷「エキドナ」を発射。
 48発の魚雷が一斉にまかれ、回避のためにティターンが足を止めた。
「まずは貴様らか」
 ティターンは3機に向きを替えると陸上と変わらない機敏さで周防機に接近。
 先端が針になった触手3本を周防機に向けて射出する。
 独特の軌道を描く攻撃を周防機は回避しきれない。
「くっ‥‥!」
 周防はリアクティブアーマーで攻撃を受け止める。
 2本の触手は装甲の上を滑って逸れる。
 残り1本は途中で軌道を変え、右腕に絡みついた。
 絡み付いた腕に引きずられているうちに残り2本もそれぞれ左肩、
 胴に撒きついて周防機を締め付け始める。
「そうはいかないよぅ」
 横合いから割りこんだゼンラー機が高分子レーザークローで触手をまとめて切り裂いた。
 力の抜けた触手を周防機は振りほどく。
 切り裂かれた触手はティターンの本体に引き戻されていき、格納と同時に再生される。
 外付けの武器にみえて機体本体の一部であるらしい。
「手強いわね」
「けど‥‥やれるはずだ」
 撃破は敵わなくとも良い。足止めすれば被害の拡大は防げる。
 この戦場なら今はそれで十分だ。
「折角だ。腕の一本ぐらいはいただくよぅ」
 散っていった知人のためにも、無傷では返さない。
「ふん。やれるものならやってみるがいい」
 大仰に構えたティターンは再度触手を伸縮させ3機に襲い掛かる。
 3機はそれぞれに射撃武器を構え、ティターンへの応戦を開始した。



 水中では赤崎含むアルバトロス隊5機がクラーケン型を足止めしたが、
 カニ型、ヒラメ型とアンコウ型とマンタワームの上陸を許してしまう。
 それに呼応して空戦部隊各機は変形して地上へ着地した。
 どの個体も地上スレスレを飛ぶため、空中での迎撃は困難を極めた。
 そしてこの戦場にはもう一つの問題があった。
 3機でティターンを足止めしている戦場の付近から、空中に向かって小型のミサイルが大量に打ち上げられる。
 ミサイルは分散して地上に降り注ぎ、焼き払った。
 どこかで燃料に引火したのか、物資の山に火がつき、コンテナ船は真ん中から割れて水中に没していく。
「周防さん! また撃たれてるよ!」
「流石に無茶だよ!」
 周防の声には焦りがあった。
 小型ミサイルはティターンからの爆撃だった。
 一発一発の火力は大したことがなく、KV相手には決め手になりえないが、
 街を焼き払うだけなら余所見しながらの射撃でも十分効果があった。
 これなら狙う必要がない。
「この、私を無視して‥‥!」
 赤崎がカニ型を追って地上にあがる。
 赤崎機はそのまま背面を向けているカニ型に向かってブースト。
 高分子レーザークローを背中に突き刺す。
「!!」
 驚いたカニ型は鋏を振り回して暴れ始める。
 確実に急所を貫いているはずだが、巨大なぶんだけ体力が違いすぎた。
 赤崎機は手を離してしまい後方に着地。
 振り返ったカニ型が赤崎機目掛けて巨大な鋏を振りあげる。
 振り上げて正面を大きく晒したところに、エーテル小隊のソルダード2機がM−MG60を叩き込む。
 正面から弾丸の雨をまともに受けて、カニ型は建物の陰に逃げようと走り出した。
「援護します。まずはアイツから落としましょう」
「了解! 行くよ!」
 赤崎はソルダード2機を引きつれカニ型に追いすがった。
 一方、アンコウ型・ヒラメ型・マンタワーム3機は、迎撃に出たルノアと鷹代、エーテル小隊の残り2機と交戦に入っていた。
「ルノアさん、8時方向!」
 リリナの警告にルノア機が方向を180度変える。
 正面にはマンタワームが迫る。このまま突撃してフォースフィールドで強引に体当たりをかける気だろう。
 ルノアはチェーンガンを起動、正面から大火力を浴びせかける。
 正面装甲の厚いマンタワームだったが、このタイミングでのダメージには耐え切れない。
 ワームは墜落して横滑りし、ルノア機の右前方で爆発した。
「よし、あと2‥‥うっ!」
 アンコウ型から再び光が放たれる。
 光線は鷹代機の横に突き刺さり、アスファルトの道路を焼ききった。
 凄まじい火力だ。
 アンコウ型は全方位への光線攻撃でKVを寄せ付けない。
「このままじゃ近づけないわね。‥‥どうすれば」
 鷹代は光線を乱射するアンコウを観察する。
 そしてすぐにある特徴に気づいた。
 同時に何方向も撃てず、大きく方角を変える場合は動きが鈍い。
 囲めばあるいは、迎撃を突破できるかもしれない。
「ミラちゃん、右側から回り込んで。私は左から回る」
「了解。先にしかけるわ」
 ミラベルはそういうと躊躇なく機体をアンコウの右側面にさらす。
 アンコウ型は正確無比な砲撃でサイファーを狙うが、フィールドコーティングと盾で辛うじて防御。
 ビームが発射された次の瞬間、鷹代は絶好の位置へと近づく。
 ここからなら突起も狙えるだろう。
 最高速度で接近しつつも、プラズマライフルの照準を慎重にあわせる。
「捉えた‥‥狙い撃つ!」
 アンコウ型はそれに気づき、鷹代機にあわせるように光線を放つ。
 2機の強力な光学兵器が交差し、閃光が弾けた。
 アンコウ型は誘引突起と頭部の一部を失い絶命する。
 光が収まった時、鷹代機は右腕と肩の装甲を失っていた。
 


 ラナとリリナのペアは翻弄されながらもウナギ型を撃破。
 イルカ型は取り逃すが、戦力的には大きくない。
 リリナ一人の捜索で間に合うだろう。
 地上部隊はその後マンタワームとヒラメ型に苦戦し、ヒラメ型から直撃を受けて鷹代が離脱した。
 おおよそキメラを片付けて海中に人を回す余裕が出来た頃合だ。
 これに対してティターンに相対した3機のKVパイロットは、味方の火力の集まる場所へと誘導すべく徐々に後退するように戦っていた。
 ティルダナはこの誘いに乗らなかった。
 常に水中を移動し続け、船やコンテナにミサイルやレーザーの雨を降らせていく。
 この為にどちらかといえば傭兵達が追撃のため前に出ざるを得なかった。
 キメラ達も危険を感じるとすぐに海へ飛び込むため、空戦・陸戦装備では手が出し辛い。
 それでもなんとか初手の優位を生かし、無視できない被害を与えていた。
 この頃になって、戦闘は唐突に終わりを向かえることになった。
「潮時か。撤収する」
 ようやく人類側が安定して反撃できるようになったころ、バグアは一斉に撤退を始めた。
 生き残っていたキメラも巨体に似合わぬ素早さで海中へと飛び込んでいく。
 ティルダナの機体は海面から飛び上がり、海面すれすれを飛行して一気に距離を取ろうとする。
「逃がすか! ラナさん!」
「はい‥‥!」
 海面近くをステップエアで移動していたラナの機体は、周防に答えて海中に潜る。
 再び浮き上がったグリフォンはその脚でリヴァイアサンを水面まで引き上げていた。
 2機はそのままティルダナ機を正面に捉える。
 ラナ機がPCB−01・ガトリング砲で弾幕を張り、その中央に周防機がフォトンランチャーで青い光線を放つ。
「ふん。小賢しい」
 本来ありえない一からの一撃は、しかし容易に回避される。
 予想はされていなかったが、ラナのグリフォンが不審な挙動をするのは向こうからも見えた。
 加えて無理な態勢からの射撃だった。
 レーダーを注視さえしていれば、避けることはたやすい。
「まとめて砕けろ」
 2門の拡散フェザー砲が、2機に向かって赤い光をばらまく。
 リヴァイアサンを引き上げているグリフォンはまともに回避行動がとれない。
 2機とも赤い光を何発も食らい、海の中へと落ちていった。
 ゼンラーのリヴァイアサンが2人を助けを助けるために墜落地点に急ぐ。
 機体さえ破棄できれば助かるだろう。
 ティルダナは救助に向かう機体を追う事もなく、彼らに背を向けて悠々と沖に逃げ去っていった。
 


 翌日以後も、2日に一度以上は襲撃があった。
 夜・朝を重点的に狙い、時には日中でもキメラが姿を現す日もあった。
 軍人達は警備に追われ、港湾の機能は度重なる襲撃で回復させることができない。
 傭兵達も警備に加わったが、契約には期日がある。
 決戦を起す時期をこれ以上先送りにして、バグア勢の回復を待つわけにはいかない。
 ティルダナの問題を解決することなく、傭兵達は帰路につかざるをえなくなった。