タイトル:【JTFM】赤光の騎士3マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/04 16:52

●オープニング本文


 彼らは時代遅れの人間達だった。
 誰もが一流の技能を持っていたが、
 戦争の主体が銃火器に移って以降、戦争で彼らの出番は数えるほどだ。
 人生を何年費やしたところで銃弾一つ御すことができない。
 それでも人が相手である内は使いようもあったが、バグアが来てからは更に散々だ。
 彼らの技は赤い光に遮られ、欠片ほどしか効果を発揮しなかった。
 自分達に価値はない。
 どれほどの素養があっても、この時代には必要とされない。
 500年早く生まれていれば名を残せたかもしれないが
 そんな話は何の足しにもならなかった。
「僕は好きだよ。その偏執的な思い。尊敬に値する」
 白いスーツの男はそう言って笑った。
 邪な笑みなはずなのに、なぜか親しみや優しさを感じてしまった。
 理解してしまえば簡単な話で、要は彼も同類だったのだ。
 武技に価値は有るのか。
 彼らは答えるだろう。
 自分が答えだと、胸を張って。
 


 状況に応じて相応の責任を自覚する。
 などという事をバグアに求めても無駄である。
 彼らは基本的に、生き方を変えない生き物なのだから。
「我が名はゼーファイド、キメラ闘技場の‥‥」
 通信機越しにまで響く声に、本城は頭痛がするような錯覚を覚えた。
 ゼーファイドは南米・バグア軍の再編に伴い相対的に地位が向上し、今では司令級として遇されている。
 簡単に死ぬわけには行かなくなった彼には、お目付け役として本城女史が派遣された。
 本城は彼の無茶を諫めるために数名の護衛を派遣したが、結果は御覧の通りだ。
 今日も変わらず敵陣に向かって突撃を敢行。
 今し方、結果報告がゼーファイドの護衛から為されたところだ。
「結果にご不満でも?」
 通信機越しに疑問を投げかけてきたのは、護衛達として派遣した中国人の拳法家からだった。
 丸眼鏡のサングラスと民族服の唐装。
 いかにもな格好で、彼らしい特徴がない。
 徐というファミリーネームしか名乗らない彼を、
 仲間達は畏怖を込めて徐師父と呼んでいる。
「結果にじゃないわ。経緯によ」
 ゼーファイド司令を止めるために送り込んだ人間が、一緒になって突っ込んでいたら話にならない。
 徐師父はもう少し理性的な人物だと思っていたのだが‥‥。
「止めろと仰いますが、それは無理な話です。
 護衛に派遣された者は皆、司令に好意的ですから」
 徐は楽しげに語り始める。
 付き合いの長い相手ではないが、彼がこのようにしゃべるのは初めて見た。
「武技に一定の理解を示し、且つ前線で退かずに死ぬことさえも許し、更には自身もそれに付き合う。我々には理想的とも言えますね」
 本城は黙って言葉を聞いていた。
 その感情は自身も良く知るものだ。
 遠い昔に捨てさりはしたが、彼らへの共感はまだ残っている。
「気持ちはわかるが、今は軍人として動いて欲しい。
 管理しているのはただの人間の私なんだから‥‥」
「それもそうですな。心得ました」
 徐は通信を切る。
 釘を刺したがあまり効果は無さそうだ。
「何かと文句をつけるわりには楽しそうだな」
 後ろから意地の悪い事を言ったのはエドゥアールだった。
 現在の彼は怪我のリハビリもあり他の2名と共に本部付きに配置変更されている。
 本城はこの意地悪な副官に反論しようとして、何も言えずに口を噤んだ。
 人類の敵となってから1年半。
 与えられた仕事を苦痛と思ったことはない。
 組織の支援があり、身体能力も強化された今は、
 一人で立ち回っていた頃に比べて仕事も楽になった。
 苦痛に感じないのならば、楽しい以外に何だと言うのだろう。
「‥‥少なくとも」
 本城は思考を切り上げた。
 感情は全て理屈で割り切れるものじゃない。
 今の素直な気持ちを表すのならば‥‥。
「今のソフィアやプリマヴェーラを見捨てたくはない」
 これが偽らざる気持ちだろう。
 本城はちらりと二人からの預かり者の事を思い出していた。
「‥‥はっ。お人好しめ」
 鼻で笑ってどこかへ立ち去ってしまうエドゥアール。
 その笑みはバカにしたようにも呆れたようにも見えない。
 笑っている彼自身がお人好しという人種であることは本城も知っている。
 本城は思わず苦笑してしまった。



 密林戦線に広がる前線は相変わらずだ。
 小規模で苛烈な戦闘が各所で起こり、
 一進一退のまま推移する。
 局地的な勝利はすぐに局地的な敗北に塗り変えられ、
 歩みを進めているという感覚を奪う。
「コノ町ノ抵抗モ大シタ事ハ無カッタナ」
 撃破した戦車の砲身に足をかけながら、ゼーファイドは逃げるUPC軍を眺めていた。
 赤い装甲、角のような兜、赤い単眼。
 巨大な盾、巨大なフレイル、巨大なマント、そして胸にゼッケン‥‥。
 キメラ闘技場のバグア四天王の一人は、今日も変わらず誤解したままだった。
 彼が乗っている戦車の足元に徐師父が近づいてくる。
 年齢は40前後だろうか。がっしりした体格とゆれない歩みが、武技に生きた半生を容易に想像させた。
 強化人間達に師父と呼ばれる恐れられる男、徐だ。
「あちらも人材不足なのでしょう。戦争が長期化しているのは何もこちらだけではありませんからね」
 彼の背後には多数の戦車が無残に破壊され残骸を晒している。
 その傷跡は巨大な刀で十字に割られたようにしか見えないが、徐はそれらしい武器を持っていない。
「あれ、もう終わっちゃいました?」
 間の抜けた平和そうな声が路地から聞こえる。
 路地から現れたのは皺一つないスーツを着たサラリーマン風の無害そうな日本人の男だった。
 ただし無害そうな見かけは、アサルトライフルを携行している事と、手足の裾部分が血塗れな事を除けば、である。
 柔和な笑みとむせるほどの血の匂いが、強烈な違和感を放っていた。
「マスター・マクレガー、たまには外に顔だして周囲を見て欲しい」
「すみません。やっぱり私、外で大立ち回りするのは苦手なものでして」
 ぺこぺこと頭を下げる。実に日本人的な振る舞いだった。
 彼の名前は孝太郎・マクレガー。
 徐と同じく、強化人間達にマスターと呼ばれている。
 彼がどんな戦い方をするかに関しては仲間でも知らない者が多いが、
 その戦果は同期の者と比べても頭一つ抜けて多い。
「ム‥‥、アレハ」
 ゼーファイドは殿として残った能力者達を見つけた。
 いや、殿ではない。
 彼らの表情は、敗軍の戦士が浮かべるような表情ではない。
 確実に勝つことだけを考え、こちらに歩みを進めてくる。
「どうやら、私達を狙ってきたようですね」
 明らかに彼らはこれまでの部隊の者とは錬度が違う。
 遠目に見ても装備の違いが明白だ。
 おそらくはそのためだけに雇われた傭兵だろう。
「ナルホド。デハ最後ニ彼ラヲ討チ取リ、ココヲ引キ上ゲルトシヨウ」
「わかりました」
「御意」
 戦車の上から飛び降りたゼーファイドの後ろに強化人間2人。
 焦ることも慌てることもなく、悠々と傭兵達に向かって歩みを始めていた。

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 傾き始めた日差しが照らす街には無数の屍。
 やがてくる柔らかい闇と混ざり合って、赤はおぞましい色に変わる。
 街の中央の大通りを同じ色合いの赤をまとった3人が進む。
 傭兵達は正面から歩み近寄ってくる敵をそれぞれの想いを載せて見据えた。
「3度目か感慨深いな」
 最初にそう呟いたのは時任 絃也(ga0983)だった。
 3度目となっても、彼の覇気は変わらない。
 今回こそ最後と言う意思に満ちている。
 逆に、様相を変えてしまった者も居る。
 同じく3度目となるラナ・ヴェクサー(gc1748)は最初の頃に比べるとまるで別人のようだった。
 ピルケースからトランキライザーを何錠も取り出し、噛み砕いて飲み込んでいく。
「ラナさん、そんなに一度に飲んだら‥‥」
「ほっとけよ」
 心配そうにラナを見ていた猫屋敷 猫(gb4526)を、天原大地(gb5927)が止める。
 天原は猫屋敷に視線を向けていたが、すぐに興味がうせたように前方へと視線を戻した。
 藤村 瑠亥(ga3862)はそれとは対照的に、視線は向けないまでもラナへ常に意識を向けていた。
 彼がこの依頼を受けたのも彼女が死にかねないと思ったからだった。
 だが、何事も思い通りにはいかない。
「なんと、無様‥‥だな」
 藤村は時折痛む傷を気にしながら平静を装う。
 前の戦いの傷が癒えておらず完全とは言いがたかった。
「どうやら、むこうもこちらを見つけたみたいですよ」
 朧 幸乃(ga3078) は他の者に声をかけながら拡声器を用意する。
 策の一環でもありゼーファイドとは対話を試みる予定だが、その前に襲われたらたまらない。
 朧が呼びかけると彼らは返事の代わりに歩みを緩め、傭兵達から20m離れた位置で止まった。
「あれが‥‥ゼーファイド‥‥」
 拡声器を借りて話しかけようとする時任の横で、
 鷹代 由稀(ga1601)は黒い感情の乗った目でゼーファイドを見ていた。
 あれを好意的に語る恋人の姿が思い起こされる。
 自分でも整理できないほど色んな感情が混ざっていたが、不愉快に感じるという点は間違いないだろう。
「ゼーファイド‥」
 ラナの視線は鷹代以上に敵意が篭っていた。
 彼女にとって自分の今の不調の原因は全てあれが原因だ。
 事実はともかくそうであると思う彼女にとって、この憎悪は正当なものだった。
「やりあう前に少し提案があるんだが時間を貰えないだろうか」
「なんでしょう?」
 時任の問いに拳法家の男は温厚そうな顔で答える。
 見た目通りの武人気質なようで、戦場にあっても自然体だった。
「今回は決闘を申し込みたい、此処にいる8名と、ゼーファイドとでな。
 人数が違いすぎる点は単なる戦闘力の差を埋めるだけと捕らえてもらいたい。半端な人数では‥‥」
「お断りします。私は決闘を見に来たのではなく戦争をしにきたのです。
 多少のお喋りはかまいませんが、私の本業に水を差さないでいただきたい」
 徐はやや怒気を含んだ声で時任の声を遮った。
「私も仕事ですのでそういうお誘いはちょっと‥‥」
「‥‥トイウ訳ダ。申シ訳ナイガソノ話ニ乗ル事ハデキナイナ!」
 ゼーファイドが意味もなくでかい声で宣言する。
 判断基準は護衛達に一任しているらしい。
「ま、なんでもいい。話が終わったなら始めようぜ。その為に来たんだ」
 天原が蛍火と血桜を抜く。
 ゼーファイドが構えたために釣られて他の傭兵も構える。
 その中で、相対する徐は嬉しそうに笑っていた。



 ゼーファイドの突撃にあわせてマクレガーと徐も各々追随する。
 一塊であった傭兵達もそちらへの対応をせねばならず、
 最も近く警戒していたものが回り二人の対応に向かった。
 正面のゼーファイドには天原、ジャック・ジェリア(gc0672)、ラナ、の3名。
 左側面のマクレガーに朧と鷹代、右側面の徐に時任、藤村、猫屋敷。
 ゼーファイドは散開した傭兵には目もくれず、正面に残った3人に突撃する。
 振り上げたヘビーフレイルは吹き上がる赤いオーラで覆われていた。
「フンッ!!」
 振り下ろしたフレイルは地面を割り、周囲に衝撃波を撒く。
 パターンを読みつつあるメンバーは直撃は避けた。
 シールドで防いでいち早く態勢を立て直したジャックが、スコールの連射でゼーファイドの頭部を狙う。
 距離を取ったラナも超機械でゼーファイドを撃つ。
 ゼーファイドは攻撃を受けることで視界がふさがっていた。
「天原、さっさと決めてくれよ」
「わかってる!」
 二本の刀を携えた天原が駆け寄る。
 狙いはマント。エースアサルトの破壊力なら防刃繊維を破るのも難しくは無い。
 二刀で一撃離脱を繰り返しながら徐々に勢いをそいでいく。
「甘イッ!!」
 ゼーファイドが前のめりに跳躍。
 渾身の力でフレイルを振り下ろす。
 避けきれないと悟った天原は血桜を振るう間もなく、盾にするが‥‥。
「ぐっ‥‥!」
 衝撃を捌ききれない。
 軌道のそれたフレイルはそのまま天原の肩口に直撃する。
 鈍い、というには致命的な音が響く。
 距離を取った天原だったが、その右肩は完全に潰れていた。
「隙を、見せたなっ‥‥!」
 ラナはゼーファイドがフレイルを振り切った瞬間を狙いすまして、迅雷で接近する。
 ライトニングクローでゼーファイドの腰部を貫くが、一歩踏み込みが足りず傷は浅い。
「ム‥オオオオオオオ!」
 それでもライトニングクローの一撃は重い。
 ゼーファイドは横薙ぎにタワーシールドを振り払う。
 接近しすぎて避け切れなかったラナは一撃をまともに受け吹き飛ぶ。
 意識だけは落とすことはなく、ぎりぎりのところで脚から着地した。
「強クナッテイルナ、戦士達ヨ。ダガマダ終ワリデハナイゾ!」
 ゼーファイドが更に跳躍する。
「させるかっ!」
 ラナに向かった一撃をジャックが受け止める。
 盾ごと吹き飛びそうな一撃を食らいながらも、ジャックはぎりぎりの算段を重ねていた。



 マクレガーは案の定前に出る。対応するのは鷹代と朧の2名。
 お互いに走り回りながら銃での応戦が始まる。
「さあ‥‥どうくる?」
 鷹代は街の路地に隠れ、朧はプロテクトシールドを片手に詰め寄っていく。
 精密さはともかく、火力に乏しい鷹代は朧のように真っ向から応戦はできない。
 鷹代は呼吸を整え思考する。相手の行動が見えないうちは行動しづらいが、相手の行動の方向性は読めている。
 おそらく、人間らしい行動を突き詰めてくるだろう。
 自分の考えうる範囲の方法は何でも使ってくる。
 おそらく第一撃は‥‥。
「煙幕、閃光手榴弾‥‥!」
 鷹代が予想したとおり、煙幕があたりを覆う。
 近くにいたはずの朧が見えない。
「驚かないんですね」
 声はすぐ近くから聞こえた。
 すぐさま転がるように前へ逃れる。
 刃の軌跡が鷹代の首筋のあった位置を通った。
「くっ‥‥」
 逃げた鷹代に向けて回し蹴りが来る。
 下がって回避しようとするが、靴底から伸びた刃に腹部を裂かれる。
 浅いが出血量が多い。刃の先端に何か細工がしてあることしかわからなかった。
 更にダガーが突き出される。鷹代は防戦一方でこれも逃げる他ない。
 この突きをなんとかギリギリでかわすが‥‥。
「!!」
 かわしたはずの左肩に激痛。
 ダガーの刃だけが射出されて、鷹代の肩に深々と突き刺さっていた。
 バネ仕掛けの単純なものだが先端の切れ味はSES兵器に勝るとも劣らない。
「‥‥く‥‥」
 抜こうと思うが深く刺さりすぎていて抜けない。
 甘かった。知っていること、使えること、対処すること。
 全てが全くの別物だ。
 それだけに時間を費やしたプロに、付け焼刃の素人が追いつくことなどできない。
「これで終わりです」
 拳銃が鷹代の額に向けられる。
 この位置からではどこにも逃げられない。
 鷹代は死を覚悟した。
「いえ、まだです」
 銃声。しかし痛みはない。
 朧が身体を張ってその攻撃を受け止め切っていた。
 マクレガーも下がらずそのまま朧の首筋へと狙いを定め、ダガーを突き出す。
 避けるかと思ったが、朧は避けない。
 血飛沫が吹き上げても意に介することなく、そのままライガークローをマクレガーの胴体に突き刺していた。
 予想外のダメージに呻くマクレガー。
 何事もなかったかのように荒い息を整えようとするが、その顔には既に死相がでていた。
 対して朧の傷は、どれもが早々に再生に向かっていた。
 ライガークローを握るもう片方の手には、超機械ミスティックTが淡い輝きを放っていた。
 自分へ練成治療を書け続けることで即死するダメージ以外を無効化していたのだ。
「‥‥あれ? 私はどうして‥‥?」
 マクレガーは心底不思議そうな顔をして、自分の腕や目の前の朧を見る。
 きょろきょろと視線だけを動かし、身体が自由に動かないことに気づいたあたりで、
 ようやく全てを悟ったような顔をした。
 朧に向けた顔は先程の張り付いた笑みとは別人のように、穏やかで優しい笑顔だった。
「これはお手数を‥‥お掛け‥‥しました。申し‥‥訳‥‥ありま‥‥せ‥‥ん」
 マクレガーは組み付いていた朧により掛かるようにして息を引き取った。
 朧はマクレガーの遺体をそっと道に横たえると、その瞼を指で閉じた。



 突撃した徐に向かった3人の傭兵は、奇しくも同じペネトレイター。
 3人は同時に加速。徐に襲い掛かった。
「はっ!」
 時任が気合を放ちながら上段へ回し蹴り。猫屋敷がライトニングクローを振り下ろし下段へ攻撃。
 回避したところへ藤村が二刀で連撃をかける。
 徐も同じく足の速さで対抗。振り回される暴威を紙一重でかわし続ける。
 攻め手に移らず、高速で跳ねる3人を注視する。
「なるほど。そうでなくては面白くない」
 徐の声には余裕があった。
 攻撃の手に移っていないのは演技でないはずなのに、
 その表情を崩すことはない。
 時任の拳をかわしきったところで、徐は初めて構えをとった。
「君からだ。さあ避けたまえ。首筋を狙うよ」
 宣言から一瞬の間隙、徐はすさまじい速さで踏み込んでいた。
「!!」
 振り払う手刀を見切れない。時任の距離は近すぎた。
 間合いこそ外していたが、FFを利用して同時に発生するソニックブームを回避できない。
 見えない刃は宣言通り、時任の首筋を切り裂く。
 出血に目の前が暗くなる。時任の動きが止まった一瞬を狙い、更にもう一撃。
 振り切った手がしなる蛇のように時任を狙う。
 生々しく鈍い音を立て、抜き手は左のわき腹を貫く。
 徐が手を引き抜くと、時任は前のめりに倒れ伏した。
「次は君だ」
 徐の次の狙いは藤村だった。
 藤村はなけなしの錬力を使いきって既に動きが鈍っている。
 手刀が藤村に振り下ろされる。
 しかし手刀は藤村に届かない。
「む‥‥」
 徐師父の一撃を捌いたのは、猫屋敷だった。
 盾は破壊されて左腕を負傷したが、まだ戦意は衰えていない。
「おおおおっ!」
 一瞬の隙をついて藤村が走った。
 藤村の二刀が交差する軌跡を描き、徐の胴体を正面から切り裂く。
 押し出された徐の背後から猫屋敷が迅雷で駆け寄り、ライトニングクローを深々と徐に突き刺した。
 反撃される前に猫屋敷は刺さった爪を引き抜く。
 血を流しながらも徐は平然と立っていたが、
 目の前の二人には、それが最後の意地だと理解できた。
「‥‥こんな時代に、武に生きて死ぬ‥‥。良い人生でした」
 徐は満足気な笑顔を浮かべると、前のめりに倒れ動かなくなった。
 彼が死んだのを確認するまで、藤村と猫屋敷は構えを解くことができなかった。
「大丈夫ですか?」
「すまん。助かった」
 猫屋敷は藤村を気遣いながらも、手早く時任に止血を行なう。
 まだ敵は残っている。
 倒れた仲間の心配をする時間はなさそうだった。





 時任と天原が欠けて6:1前回とは逆の情勢となった。
「ムオオオッ!」
 ゼーファイドは攻勢の基点となりうるジャックを狙った。
 既に満身創痍となっていたが、勢いは衰えていない。
「来たな‥‥!」
 大振りの一撃に自身の盾を投げつける。
 盾が砕けて視界を遮る中、ジャックはゼーファイドの肩付近に組み付いた。
「この一発勝負は本命まで取っておくつもりだったが、お前で我慢してやる、その首貰うぞ!」
 引き抜いた機械刀の柄をゼーファイドの首筋に当てる。
 レーザーはゼーファイドの肩から首を焼いた
「ガァアァァァアア!!!」
 ゼーファイドが激痛に雄叫びをあげる。
 それと同時に彼の全身を赤いオーラが包み込んだ。
 衝撃波を放つ際と同じものだが規模が違う。
 衝撃波はゼーファイドを中心に発生し、その場に居た6人全員を巻き込んだ。
 6人を吹き飛ばしたゼーファイドからオーラは消えない。
 これが彼の限界突破の効用だろうとは、すぐに予測がついた。
 追い詰められたゼーファイドだが、傭兵を追撃することはなかった。
「私ノ負ケダ。限界突破ヲ使ッタ以上、何ヲ弁解スル余地モナイ」
 ゼーファイドは肩を落として呟いた。
「‥‥ゼーファイド」
 彼に声をかけたのは、鷹代だった。
 目には先程までの黒い闘志は見えない。
「‥‥私と同じ格好した銀髪の娘‥‥覚えてるわよね?」
「覚エテイルトモ。紅色ト琥珀色ノ目ヲ持ツ戦士ダナ?」
「あの子に言い残すことがあるなら聞いてあげる」
 鷹代がどんな思いでそう尋ねたのかはわからない。
 死んでいく相手には嫉妬も嫌悪も、無意味だったのかもしれないが、
 その時の感情の深層は、永久に彼女だけにしかわからないだろう。
「何一ツ無イ。戦士ハ結果ニ言イ訳ナドシナイカラダ。‥‥ダガ、ソノ気持チハ無碍ニシタクナイ。
 ダカラ、コノ者ノ名前ト姿ヲ覚エテオイテ欲シイ。
 コノ者ハ、ココカラ数千光年離レタ銀河ニアル緑ニ輝ク星デ最強ノ戦士ノ一人、赤光ノ騎士『ゼーファイド』ダ」
 ゼーファイドは他人行儀にヨリシロであった人物を誇る。
「‥‥わかった、必ず伝える」
 言って鷹代はミスティックTを構え、他の5名もそれに倣う。
「サラバ友ヨ。世界ノ記憶トナッテマタ会オウ!」
 武器を振り上げ突撃したゼーファイドを、エネルギーの奔流が襲う。
 ゼーファイドは大した抵抗もすることなく流れに飲まれ、地に倒れ伏した。
 ラナは動かなくなったゼーファイドを見つめ、やがて暗い笑いをあげはじめる。
「‥‥鷹代さん?」
 朧がそっと鷹代に近づく。
 言いたいことはなんとなくわかった。
「気まぐれよ。あの子が好意を向けた奴に対する嫉妬混じりのね‥‥」
「そう。なら、私が止める理由もないかな」
 朧は倒れ伏した者達の治療に戻る。
「敵と約束なんて、あの子の病気が伝染ったかな‥‥」
 どうしてこのバカはバグアだったのだろう。
 半端に会話できる事実が恨めしい。
 意志疎通の出来ない化け物であれば、もしくは普通の人間であれば、
 余計な嫉妬を感じることもなかったかもしれない。
 鷹代は自身とラナを比べていた。
 互いの黒い感情に違いを見出せず、鷹代は静かに赤い空を見上げた。