●リプレイ本文
バグアの拠点は既存の人類側施設を流用しながらも、
着実に拠点として作り変えられていた。
電気設備などは配線をそのままに地下を拡張し、
足りない電力は地下に建設した発電所で賄う。
改良という段階なのでバグアも建設に大きな資材を使う必要も無く、
街の要塞化は短い期間で完成した。
今回はその流用が仇となった。
レジスタンスの手引きで侵入した正規軍の工作部隊とキリル・シューキン(
gb2765)、アイフリード(
gc7129)の2名は、
以前からの老朽化しつつあった施設を徹底的に破壊してまわっていた。
「わしの爆弾で最後じゃ。準備はいいぞ」
「よし、爆破する。次は格納庫に向かうぞ!」
キリルが言うと、正規軍の兵士が頷いてスイッチを入れた。
また一つ、電線が使用不可能になった。
小さくとも送電線には違いない。
一つ途切れれば電圧が加速度的に不足していく。
防空網が機能していないことを確認した地上のKV部隊は進軍を開始し、
地下に居るキリル、アイフリード達にも激しい戦闘の騒音が聞こえてきていた。
「‥‥おかしい」
キリルは地上にあがりながらぼそりと呟いた。
「なにがじゃ?」
「警備が薄すぎる」
「‥‥確かに」
事前に罠の可能性は示唆されていたが、どうにもあっけなさすぎる。
罠にかけるような素振りもない。
本当にレジスタンスが全ての情報を集めてきた、と解釈するにも無理がある。
「だが足を止めるわけにもいくまい」
「その通りだ」
走る一団の前にバグアの兵士が現れた。
手に手に銃を持っており、今まで出会った技術者ではないことが伺える。
キリルとアイフリードは身を隠しつつ、閃光手榴弾を相手側に投げ込む。
閃光と大音量に紛れて、銃撃戦を開始した。
◆
地上の砲火は激しさを増しつつあった。
スタインベック大隊18機、傭兵6機、計24機のKVを含む一団が、
一斉に要塞化された市街地へ攻撃を開始していた。
スタインベック中佐は後方の指揮車輌か戦況の推移を見守っていた。
「工作部隊の状況は?」
「現在、敵格納庫にて戦闘中。敵司令官の直衛である黒衣をまとったバグアと戦闘中です」
「上出来だ。各機に工作班からの情報を転送しろ」
「了解」
罠らしい罠は今のところ存在しない。
それが不可解でならないが、敵が動かない以上はこちらも打つ手が無い。
先手先手を打っていくしかない。
幸い、KV隊はその任を十分に果たしていた。
骸龍:イクシオンを駆る夢守 ルキア(
gb9436)は、搭載したアルゴスシステムで作成したデータを周辺機体に転送し続けていた。
前衛の数は同数程度、稼動している砲台の数もバカにならない。
砲台からのプロトン砲をかわし、ノワール・デヴァステイターで反撃。
一つずつ確実に破壊していく。
「数が多い‥‥」
そうこうしている間にもゴーレムは迫ってくる。
夢守を狙ったゴーレムを蚕(
gc4459)のソルダート:silkwormが阻む。
システム・テンペスタで牽制。
動きの止まったゴーレムをハーモニー(
gc3384)のゼカリア改:調和の420mm砲が直撃。
早々と1機撃墜した。
「‥‥ふぅ。蚕君、ダメじゃない。私とペアなんだからもっと近くにいてくれないと」
「ごめん。敵が多くて‥‥」
蚕はそう言いながらも別のゴーレムを攻撃している。
対応に遅れが出るのも無理はなかった。
「まあまあ。折角の乱戦なんですから、もっと楽しみましょう」
「きみはどう何がどうなったって楽しいんでしょ」
「戦いならどんな戦いも楽しいわ」
ハーモニーは嬉しそうに、欲しかった玩具を与えられた子供のように無邪気に笑った。
怯えて後ろに下がるよりは頼もしい相手だが、妙に納得がいかない。
その側面に不破 霞(
gb8820)のディアマントシュタオプ:黒椿がついた。
「お喋りはそこまでだ。手強いのが来たぞ」
プラズマライフルで迎撃する先には白いタロスが1機と装備の違うタロスが2機。
白いタロスは槍を携えたまま腕に搭載したフェザー砲を乱射しながら突っ込んでくる。
後方には赤いティターンも見え、指揮を執っているのが伺える。
蚕、ハーモニー、夢守もそれぞれ弾幕で迎撃を行なうが、
相手の速度が速く致命傷を与えるには至らなかった。
白いタロスは急接近すると、黒椿目掛けて巨大な槍で必殺の突きを繰り出す。
「システム、HBフォルム起動!」
エンジンが唸りをあげ機体が加速する。
デュラブルシールドで槍を受け流し、懐に入りつつアルトで切り上げる。
タロスは槍がかわされた段階で回避行動に入り、アルトを回避。
下がりつつも槍を相手に向けつつ‥‥。
「!」
不破は咄嗟に横滑りするように黒椿を機動させる。
白いタロスの槍から放たれた小型のフェザー砲は、ぎりぎりのところで黒椿の太腿を抉っていた。
戦闘できないほどではないが、バランサーに不調が出る。
なんとかギリギリで再調整して、態勢を立て直した。
「なるほど。これは楽しめそうですわね」
ハーモニーは嬉しそうに、もう一体のタロスと切り結んでいた。
蚕が再度システムテンペスタで援護に入るが、それで止まってくれるほど優しい相手ではない。
◆
一方、突出したティターンは苦戦を強いられていた。
「このワイバーン‥‥エースか!」
目の前のワイバーン、周防 誠(
ga7131)のゲイルMk.IIは、
完全にキャサリンのティターンを翻弄していた。
ワイバーン本来の移動速度で間合いを取り、ワイバーンらしくあらぬ重装甲で攻撃を受ける。
機動性自体は火力に比して低いためフェザー砲をあてるぐらいは可能だが、
重装甲で弾かれて致命打足りえない。
それも仕方ない話ではあった。
「あの機体、動きが鈍い?」
機体の武装や稼動部位がどうにも連動が取れていない。
機体の操作に慣れていないにしても動きが悪かった。
傭兵達からは知りようもないことではあったが、キャサリンの機体は複座であり、
もう一人のパイロットはキリルやアイフリードの迎撃に出てしまっている。
本来ならそれでも半端なKV以上の性能ではあるのだが、
今回は相手が悪かった。
だが周防自身も彼女同様に動けずに居る。
「‥‥っ! イーリスさん、なんとか突破できませんか!?」
周防の視線の先、イーリス・立花(
gb6709)が弾幕を張ってティターンを牽制している。
速度の遅いパピルザグ:Randgriz Nachtは、どうしても敵の砲弾を避けきれない。
「ダメです‥‥。どうしても、ティターンが後ろに引いたままで‥‥」
「あいつ‥‥」
周防は赤い指揮官機を見る。
大型のキャノン砲でこちらを攻撃しながらも、味方に指示を与えている。
単体戦力では目の前のティターン以下だが、パイロットの指揮官としての力量は比ではないだろう。
同じバグアであるはずなのに、彼に率いられた部隊は動きが格段に違う。
せめて一撃加えることが出来る位置を取らないと、このままじわじわと追い込まれるだろう。
「‥‥不破さん、イーリスさん、この場に自分抜きでどれぐらい持つかな?」
「‥‥‥守るだけなら5分ぐらいは」
「おなじくそれぐらいだな。‥‥なにをするつもりだ?」
不破は意図を理解しつつも確認のために聞く。
「自分が突っ込んで、あの陣形をかき乱してくる」
それはあまりにも危険だ。
返答につまる。
「このまま何もしないより、面白いですね」
嬉しそうに答えたのはハーモニーだった。
「そうだよね。じゃあ、あとの支援を頼む」
どうせ止めても行くだろう。
聞かずとも理解してしまった面々は無言で陣形を変えた。
確認した周防は機体のブーストを起動。
エニセイを連射しながら最も突出したタロスに向かって突撃した。
◆
キリルとアイフリード達は搭乗前のバグアを攻撃した。
最初こそ奇襲で何名かをしとめたものの、その戦力差に徐々に押し返される。
司令の側近と目される黒衣のバグアが出てきた為、工作部隊だけでは手が足りなかった。
繰り出される銃弾の嵐にびくともしない。
「これはまずいのぅ‥‥」
リロードしながらアイフリードが呟く。
黒衣の裏の何某かの防具を仕込んでいるのか。
布にしか見えないそれは金属のように頑丈だった。
射撃の隙間をぬうように撃たれる携行光線銃が、一人、また一人と兵士の命を奪っていく。
「最初の任務は達した。踏み込みすぎたな‥‥」
「そのようじゃな」
キリルも応戦して黒衣のバグアの取り巻きをしとめる。
徐々に敵も兵士が集まってきている。
陽動ならば十分過ぎるが‥‥。
「引き上げることが出来ればいいな‥‥」
キリルの胸中を、じわりと嫌な予感が満たし始めた。
「味方はどこまで攻め込んで来ている?」
「ここから300mってところじゃな」
「なら、それに賭けるしかないか」
キリルはなけなしの閃光手榴弾を相手集団目掛けて投げつける。
今は少しでも時間を稼ぐ。
味方が来ないときは、自分達が死ぬときだ。
◆
突撃した周防機はバグア軍にとって脅威以外の何者でもなかった。
性能の高さはもちろんあるが、それ単体では大きなファクターではない。
問題はその移動速度と射程距離にあった。
いつでもどの方角からでも、強襲をかけられる機体というのは容易に陣形を崩す。
不用意に突っ込んでくるなら対処のしようもあるが、
機能を生かして牽制に徹しているためバグアは身動きが取れない。
そこにハーモニー機の砲弾や、イーリス機の重機関銃が降る。
徐々にだがバグア勢は押され始めていた。
「何をぐずぐずと‥‥私が突破する!」
「おい、よせ! 止めろ!」
クレメンスが制止するが、苛立ったキャサリンは聞こうとしない。
性能任せに突破を試みたキャサリンだが、それが良くなかった。
「来た、いまだ!」
「了解だ!」
下がった周防の代わりに不破の黒椿が前に出る。
ビームを帯びたアルトで、ティターンの刀を受け止める。
一瞬動きが止まった隙に蚕機と周防機が集中砲火。
離脱の遅れたティターンはそれだけでエンジンに直撃を受け、盛大に爆ぜた。
バグア軍は崩れ始める。
その頃、夢守はある通信を受け取っていた。
「‥‥ハーモニーさん、座標を送るけど、今からそこにありったけの弾を撃ち込んでくれる?」
「あら、なにかあるの?」
「もちろん! 詳しいことはあとあとっ。なるべく急いで!」
「せっかちね。はいはい」
ハーモニーは言われた通りに砲弾を榴弾に変更。
指定された座標、基地のある区画にむけて榴弾を撃ち込んだ。
爆発が建物を吹き飛ばし、何人ものバグア兵士が吹き飛ぶ。
続けてスラスターライフルとツングースカも装填済みの弾丸を全て撃ち込んだ。
再装填のために攻撃が一瞬止んだころ、一帯は瓦礫の山と化していた。
「今のは誰が撃った?」
ハーモニーにも連絡がつく。
傷の痛みで声がかすれているのか、声の主はキリルだった。
「私だけど?」
「助かった。感謝する」
それだけ言うと通信は途切れた。
今の攻撃はアイフリードの発案のもので、攻撃は黒衣のバグアに集中するように指定されていた。
いかなバグアといえども、質量を伴った攻撃には脆く。
通信の向こうであっさりと息絶えていた。
「畳みかけろ! 雑魚は見逃せ。指揮官級は一匹も逃がすな!」
スタインベックの号令が飛ぶ。
指揮官を失ったバグアは脆かった。
戦術を軽視する上司の元に、戦術を得意とする部下が集まるわけもなく、
崩れた戦線を立て直す力量のあるものは誰もいなかった。
唯一それが可能なクレメンスも、もはや戦う気力は残っていなかった。
「双子は落ちてシンディは退却中か。
一緒に死ぬ義理はねえ。撤収だ」
狙い通り、戦術に無能な上司は死んだ。
UPCがぐずぐずするようならトラップを使う予定だったが、
十分こちらの予想通りに働いてくれている。
「なに言ってるのよ、せっかくここまで来て!
もう少しでパパを‥‥」
抗弁を始めたのはカタリナだった。
クレメンスは舌打ちする。
これだから半端に洗脳された強化人間は使えない。
(いっそのことここで撃ち殺してやろうか)
そう思っていたその矢先、遠距離からの狙撃がカタリナの機体を射抜いた。
状況を確かめる間もなく、2発3発と弾丸が突き刺さる。
初撃はクラリス准尉のもので、残りは周防のものだ。
「‥‥急ぐぞ」
引き際の鮮やかさはバグアにない技術だった。
上位のバグア2名が死亡、加えて多くの戦力を失い、
インディアナポリスは陥落した。
クレメンスの部隊も大打撃を受け、再編成には時間がかかるだろう。
再びこの街は、人類の手に戻ったのである。