タイトル:【東京】静かの陸に散るマスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/07 06:26

●オープニング本文


 静岡国際空港。1987年頃に決議され、1996年に整備が開始。
 2009年に開港予定だったがバグアの来襲によって建設は頓挫。
 静岡が占領地となって以降はその立地に着目され、バグアの基地が建設された。
 大井川を背後に持ち、東京攻略における陸路の途上にあったこの基地は、
 小勢ながらもUPC陸軍の本隊と真っ向から交戦。
 東京攻略の部隊の大部分の足止めに成功していた。
 その多大な戦果には、ある人物の影がちらついていた。

 一之瀬・遙(gz0338)大尉は元を正せば自衛隊の出身だ。
 各国の軍隊がUPC軍として再編されたことに合わせ、
 部下と共にUPC南中央軍に異動したが、今でもUPC東アジア軍に友人は多い。
 今回は特殊作戦軍の増援として部下7名と共に駆けつけたが、肩を並べる者達は懐かしい顔ぶればかり。
 悪い事に、相対する敵も同様だった‥。
 一之瀬はそれを確かめるために、無線の中継器が設置されるのをじっと待っていた。
「‥‥そういうこと、わかるものです?」
 ジョエル・S・ハーゲン(gz0380)は無線のスイッチを入れる。
「付き合いが長すぎると嫌でもそうなる。違えば笑ってくれて良い」
 違ったならばその方が幸せだ。
 だがこの確信は本物だろう。
 一之瀬は意を決してマイクに口を近づける。
「私はUPC特殊作戦軍、一之瀬遥大尉だ。
 そちらの露軍迷彩のティターンのパイロット。南部和人一佐とお見受けする。
 もしそうなら返事をいただきたい!」
 何度か同じ言葉は繰り返した後、予想通り返事は戻ってきた
「‥‥南部だ。よく俺とわかったな」
「貴方には苦しめられてばかりでしたから」
 南部和人元一佐。この近辺では知らぬ者が居ないほどの戦上手だ。
 東京陥落前後で死亡したと聞いていたが、バグアの行いを考えれば生きていることに違和感は感じなかった。
「久しぶりだな。鉄木と高円寺はどうしている?」
「‥‥1年ほど前に戦死しました」
「‥‥そうか。残念だな」
 諦めの混じった悲しみの声だった。
 南部の声には不自然なところがない。
「一佐こそ、家族はどうされました?」
「‥‥」
 親しそうに笑っていた南部が黙り込む。
「必要であればこちらで面倒を見る用意があります。お住まいは今どちらに?」
「‥‥一之瀬。それは俺の仕事だ。この仕事まで奪わんでくれ」
 南部は苦笑して場をごまかすと、逃げるように通信をうちきった。
 一之瀬は無線機を切りながら、目を細めた。
「洗脳ではなく、人質を取られたか」
「‥‥如何しますか。人質について、自分は可能なら救出すべきと‥‥」
 横で話を聞いていたジョエルが地図を開く。
 本命の突入班である彼なら、南部の妻子に限らず人質を助ける機会もあるが‥。
「止めておけ。手を抜いて勝てる相手ではない」
 一之瀬は、ジョエルに同調しようとした傭兵ごと、
 まとめて牽制するように言い放つ。
「作戦は始まったばかりだ。
 ‥‥情に流されて、ここでつまづくわけにはいかない。
 それは、南部一佐自身もわかってのことだ」
 今の身分に甘んじているのには理由があるだろうが、
 か弱い人の身では出来ることは限られる。
 弱者は弱者なりに、心を無視した最善手をうたねばならない。
 その共通見解が、彼ら不器用な人々の確かな繋がりだった。



 南部は通信機を切った。
 懐かしい声を聞けたのは嬉しかったが、
 自分の立場を思い知らされることにもなった。
「さすがに、気づかれたでしょうね」
「‥‥だろうな」
 一之瀬が察した通り南部達は強化されたものの、洗脳は一定範囲内にとどまり、
 人質を取ることでその担保が賄われていた。
 南部の妻子のみならず、部下30名とその家族。
 全ての命が彼に掛かっていた。
「‥‥ここに至って、仲間の活躍を素直に喜べないなんて‥」
「仕方あるまい。覚悟していたことだ」
 南部は自身に配備された南部専用のティターンを見上げた。
 出撃回数は数回程度だが、自分の動きに良く合わせてくれる良い機体だ。
 バグア製とはいえただの機械。
 心を許せる相棒と言って差し支えない。
 これなら最期の瞬間まで、妻子を守り戦えるだろう‥。
「‥‥もう少しの辛抱だ」
 ティターンを見ていた南部は目を伏せる。
「刈谷、源、常木。準備しろ。連中はすぐにやってくるぞ」
 南部は腹心の部下に声をかけると、自身もティターンに向かった。



 6時間後。UPC軍の猛烈な爆撃で戦闘は始まった。
 UPC軍は静岡バグア基地を包囲した上で、
 基地北側の東海道線と、基地南側の東名高速道路に大量のミサイル車両を配置。
 無数の対地ミサイルを丘の向こうから撃ち込みはじめた。
 空にあがったHWは空戦部隊が迎撃しているため、
 基地に多くのミサイルが飛来した。
 バグア側もその程度では根をあげない。
 すぐさま設置された対空フェザー砲の迎撃が始まる。
 空港の直上では爆発と光線が乱舞していた。
「ミサイル第一波、全弾発射完了。続けて第二波攻撃開始します」
「前線観測班より入電。ミサイル第一波の着弾率、16%。対空フェザー砲に迎撃されています。敵施設への損害は軽微。対空フェザー砲の稼働率、なおも80%以上を維持」
「戦車隊、砲戦用意! 目標、方位1ー1ー0の大型キメラ群。撃てっ!」
 支援部隊の無線が聞こえる。
 状況はよろしくないが、ここまでは想定の範囲内だ。
「HQより一之瀬隊。フェイズ2に移行しました。予定どおり、73号線を東進してください」
「一之瀬よりHQ。作戦了解。各機、聞こえたな。出撃する!」
 ミサイル爆撃、航空戦の牽制の次は東西からの陸戦KVの出番だ。
 陸戦形態は移動距離が制限されるが、基地に爆撃をかけている今なら反撃もなく、空中よりも安全だ。
 進軍を始めた16機のKVを阻んだのは、同数の機動兵器部隊だった。
 編成はそのほとんど鹵獲された銀河製のKVで、タロスとティターンは1機ずつしか存在しない。
 彼ら全ての機体には露軍迷彩が施されていた。
 それが意味するところはただ一つ。
 陸上自衛隊の仮想敵役、最精鋭の富士教導団。
 一之瀬の背筋に震えが走る。忘れられない、畏怖に似た感情だ。
 勝たねばならない相手だというのに、欠片も勝てる気がしない。
「時代は変わるものだな、一之瀬」
 語りかけてきた南部の声は穏やかだった。
「あの時のひよっこどもが、今は私に変わって教官か」
 懐かしむような声に、戦場は停止する。
 互いに照準可能な距離まで近づきながらも、誰一人として発砲しない。
「‥‥だが、私も自分をロートルと認めるのには些か抵抗がある。
 お前達がどこまで出来るのか、見せてもらうぞ」
 言葉と同時にバグア側は一斉に抜剣。緊張が走る。
「各機、兵器使用自由! 迎え撃て!」
「来い! KV戦のなんたるかを教えてやる!!」
 32機は一斉に武器を抜き放つ。
 緩から急へ雪崩るような変化。
 誰もが望まない激しい同士討ちが始まった。

●参加者一覧

セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

 県道73号線。その名前はバグアがこの地へ侵攻してより後につけられた。
 空港が基地に化けたように、空港へのアクセスを意図して敷設が予定されていたこの道路も、
 また基地への主要な物資搬入ルートへと変わった。
 名前が人類の基準に拠ったのは、それも文化・文明を吸収する過程の悪趣味な方法なのかもしれない。
 空港へ繋がった道路の周囲は一面畑だ。
 何の畑だったかはもはや定かでは無い。
 踏み荒らされ、焼き払われ、何が実っていたのか痕跡も無い。
 今また人類・バグア両軍の兵器がこの土地を踏み荒らす。
 誰もが、この悪行が最後になることを信じて。
 全機、ALL WEAPONS FREE。
 32機の機体は一斉に得物を抜く。
 指揮官の号令が殺陣の幕開けを告げた。
「ジャック、始めよう」
「了解だ。各機、散開だ!」
「各機散開!」
 ウラキ(gb4922)に答えたジャック・ジェリア(gc0672)に続き、
 一之瀬・遥(gz0338)大尉も号令を打つ。
 16機は応射しながらも左右にわかれていく。
 散開する中央にウラキのゼカリアとジャックのスピリットゴーストは鎮座したままだ。
 敵はその中央を分断しようと突撃を敢行する。
 中央には日本刀を携えたシラヌイSの姿があった。
 砲弾に怯むことなく、刹那の見切りで回避する。
「狙いはイビルアイズか? そうはさせない。こいつを受けろ‥!」
 ゼカリアが砲身を敵中央に向けて構え、対空榴弾を2連射。
 真正面から突撃してきたシラヌイ部隊の直近で近接信管が爆発する。
 だが敵もさるもの、シラヌイは全機このタイミングから榴弾の爆発を回避する。
「上出来だ。ここから勝負だぜ」
 ジャックが更に突入しようとするシラヌイを真スラスターライフルで迎撃。
 前衛のシラヌイ部隊が阻まれたことで敵の一斉攻撃は不発に終わった。
 代わって傭兵達が攻撃をしかける。
 先手を打ったのはα班、セラ・インフィールド(ga1889)のアッシェンプッツェル:シンディ。
「ここは私が相手です。しばらくダンスにお付き合いいただきますよ」
 シンディは槍を構えてブーストを起動、一気にオーバーブーストまで持ち上げる。
 パンプチャリオットで敵中央目掛けて突入した。狙うは敵の竜牙。
 しかし突撃は横合いからシラヌイSが仕掛けた一撃に阻まれた。
「!」
 回避するために急制動。ぎりぎり盾で払い、切りかかってきた相手を睨む。
 向かい合ったシラヌイSのカメラが赤く光った。
「英国の新型か。相手にとって不足は無い! いくぞっ!」
「こいつ‥!」
 二度と次を撃たせまいと、怒涛のラッシュ。
 懐に入り込まれたセラは防戦一方になる。
 シラヌイSの掲げる日本刀は職人の鍛え上げたそれと変わらない輝きを放っていた。
 盾を傷つけた切れ味は建御雷と同等かそれ以上。
「なら、これでっ!」
 シンディはスパークワイヤーを射出。
 一歩も引かずに紙一重でかわすシラヌイS。
 回避した動作の隙を機盾槍「ヴィヴィアン」で突き出す。
 受けた刃が火花を散らし、槍は受け流される。
 刹那の見切りに長けた相手に上手く距離を取れない。
「くっ‥。私は‥あなた達を討ちたくない‥!」
 セラは外部のスピーカーで相手に聞こえるように叫んだ。
 その刃が鈍ればと思ったのではない。
 可能な限り、彼らの未来を救いたい、そう心から思っていた。
「‥‥その気持ちだけ受け取っておこう」
 刈谷の言葉は、苛烈な剣撃とは裏腹に優しかった。
 次の瞬間には再び戦場に戻る。
 引けない以上は、意思を伝えてもこの場は変わらなかった。
 周りを見渡せばA小隊とα班、敵の第一小隊と第二小隊が乱戦状態になっている。
 切り結んで動けないセラの隣では、遠倉 雨音(gb0338)と漸 王零(ga2930)が南部のティターンと交戦を開始していた。
「南部一佐‥‥これが、あの大尉が畏れる程の相手」
 遠倉は応戦数手で既に押されていた。
 相手はまだ出力任せに機敏な動きをしていない。
 盾で銃弾を受け、ミサイルをライフルで迎撃し、隙あらば容赦なく切りかかってくる。
 同じように行動しつつも、南部の動きは非常に安定していた。
 南部のティターンはライフルで遠倉機の胴を狙い撃つ。
 回避し損ねた遠倉は肩に被弾。
 損傷が軽微であることを確認すると、すぐさま反撃にミサイルを撃ち込んだ。
(軍人はミスをしない、こちらのミスを逃さず付け込んでくる。
 以前の演習の反省を生かすには、皮肉にもこれ以上ない相手ですね‥‥!)
 相手のティターンに一之瀬の破暁が重なってはかき消される。
 機体の動きはイメージの中の破暁を上回っていた。
「ほう‥。これで怯まないか。良いパイロットだ。良く鍛えている。
 だがまだ動きが硬すぎる。教本通りの動きでは俺は倒せんぞ!」
 ティターンは遠倉の射撃の隙を縫ってきりかかろうとする。
 その動きに漸の雷電:アンラ・マンユが切りかかる。
 ジャイレイトフィアーとティターンのブレードが鍔迫り合い、激しく火花を散らす。
 押し切るように剣を払ったアンラ・マンユは荒狂嵐を展開。
 60発のベアリング弾を至近距離から発射する。
 ティターンはシールドで完全にそれを防ぎきった。
「汝が南部か。汝は‥‥‥己がヨリシロになる事を受け入れられるか?
 それとも、人類としてその命を終わらせるのを望むか?」
 漸は切っ先をティターンに向けながら、未来と覚悟を問う。
「外道となった俺に、今以下などない!
 人の道を説きたいのなら、俺を死体にしてからするんだな!」
 南部のティターンは剣を再度構える。既に覚悟を決めた人間に迷いは無い。
「ならば仕方ない。誓約の名の元に‥‥漸王零押して参る!!」
 構えたジャイレイトフィアーの刃が回転し、唸りを上げていた
 熾烈な戦いはなお続く。数は7:8。
 各人の踏ん張りで拮抗しつつも数の差は補い難い。
 ティターンの戦力もあり、徐々に押され始めていた。



 一方、β班は都合3機のみで第三小隊とかち合った。
「たった3機でこちらに向かって来るとは。舐められたものだ」
 雷電と竜牙は迎い来るβ班に、一斉に大口径砲を撃つ。
 距離があったためなんとかかわしきったβ班だが、着弾の衝撃に足を取られる。
 間合いを詰めるのは容易ではなかった。
「慣れてるね‥。銃火器だけで固めてるだけのことはある」
 鳳覚羅(gb3095)はスラスターライフルで応戦するが、牽制にとどまる。
 このままの位置では押される一方だろう。
「他に援軍を頼む余裕は無い。ここで止めましょう」
 抹竹(gb1405)はちらりとα班とγ班を見た。
 状況は不利ではあるが、耐えれば勝てる。
 そう確信するだけの要素があった。
「了解。じゃあ、時間稼ぎに徹します!」
 夕凪 春花(ga3152)は他2機に合図をすると、機体を第三小隊に正面から向き合わせた。
「センサーに対閃光防御。フォトニック・クラスター、発射!」
 ペインブラッド:百鬼夜行は大型のシュラウドを展開。
 必殺のフォトニック・クラスターを放つ。
 第三小隊は若干後退しつつこれを回避。
 だが、すぐさま追撃がこないことに驚く。
「これは‥」
 目の前に3機のKVが迫る
 フォトニック・クラスターの閃光で目をやられた一瞬をついて、
 3機のKVはブーストで一斉に第三小隊に切りかかっていた。
「囮か!」
 中央の雷電に向かって、鳳の破暁:黒焔凰が迫る。
 振り上げた双機槍「センチネル」を雷電は機刀で受けた。
 だが距離が詰まってしまった以上、ここからの迎撃は難しい。
「正道を極めろと言われたからね‥これぐらいはやって見せるよ」
「なるほど。乱戦が狙いか。だが‥!」
 雷電は腕力に任せて槍を押し返す。
「白兵戦ができないわけではないぞ」
 再び2機は切り結ぶ。
「それでも引くわけにはいかないね」
「ええ。仲間の為にも、ここは絶対に!」
 支援砲撃を止めたことで第三小隊の戦力を釘付けにはしたが、こちらも多勢に無勢。
 やはり徐々に押されつつある。
 だが負けない。
「ここを抑えれば、ジャックとウラキがなんとかしてくれる。あと1分、持ちこたえますよ!」
 抹竹の確信は強まる一方だった。



 γ班の2機とB小隊4機は敵第4小隊と交戦した。
 数は6:4と優勢だったが、敵も精鋭中の精鋭だ。
 すぐに瓦解するようなチームではない。
「敵もさるものだ。これだけ撃ってるのに怯まないか‥‥」
 ウラキは機銃で敵を牽制しながらも主砲で狙うが、狙いを絞れない。
 それだけ敵の攻勢は苛烈だ。
「‥でも、イビルアイズのロックオンキャンセラーは聞いてるな」
 ジャックは相手の砲弾をかわしながら呟く。
 相手は弾幕でこちらを牽制しているが、命中弾は少ない。
 最初はタロスだけにしか効かないかもしれないと懸念したが、
 バグアによって改造されたKVはタロスと同様に影響を受けていた。
「他のチームが危ない。ここは強引に突破する。そっちもそれでいいか?」
「OKだ」
 B小隊の面々がそれぞれにカバーに入る。
 すぐさまジャックとウラキを中心に陣形が組まれた
「ウラキ、タイミングは任せた」
「了解だ」
 ウラキのゼカリア:BoaAceroが420mm砲を中央の雷電に向ける。
 主砲を牽制に発射。
 回避した雷電をジャックのジャックランタンが狙う。
 足元をすくうような掃射に紛れて200mm連装砲を発射。
 盾で砲弾を受け止め、雷電は直撃だけは避ける。
 その動きが止まった雷電を、ブーストで突撃したディアマントシュタオプが錬剣で切り裂いた。
 突入したのは他の3機も同様だ。
 ぎりぎりのラインで抑えていたものがここで決壊。
 火力に優れる4機に攻め込まれ、あっと言う間に第四小隊は壊滅した。
 これが天秤を大きく傾けた。
 


 戦線は崩れた。
 後方のイビルアイズの生存、第四小隊の全滅。
 数はこの時点で12:11で人類側が優勢。
 セラ、抹竹が苛烈な攻撃の中で脱落したものの、彼らが持ちこたえただけ周囲は応えた。
 完全にフリーになったB小隊とγ班が第1〜3小隊へ砲撃を開始。
 バグア側も必死で応戦し更に鳳機と遠倉機を機能停止に追い込んでいたが、戦況を覆すことはできなかった。
 気づけば南部の周りに4機しか味方が残っていなかった
「これは‥してやられたな‥」
 南部の声は笑っていた。
 嬉しそうだった。
「同情するよ‥俺も同じ立場だったのなら同じ選択をするからね‥。
 そして、その選択がこういう結果になることも分かってた筈」
 動かなくなった機体の中で、鳳が痛みに耐えていた。
 無力化されたことで無視されているが、止血した箇所はまだ痛む。
 鎮痛剤はまだよく効いていない。
「同情など要らん。俺のような軍人の成り損ないは、さっさと死ぬべきだったのだ」
「‥成り損ない‥?」
 聞き返したのは遠倉だった。
 彼女の機体は南部のティターンの目の前で膝をついている。
 肩にはまだ、南部機のブレードが深く突き刺さっていた。
「職務よりも人質を選んだ段階で、俺はもう軍人じゃない。ただの外道だ。
 こうして貴様らに討たれるのが運命だったのだよ」
 人質、という単語に王零、ウラキ、ジャックが反応する。
 彼らが待ち望む、人質に関する情報が未だに来なかった。
 他の部隊も必死で戦っているが、これ以上は引き伸ばせないだろう。
 その時、別口の通信が全機体に入る。
 東側の部隊がティターンの破壊に成功し、突破して基地への支援を開始した。
 これに対して最も迅速に動いたのは南部だった。
「‥! 刈谷ぁ!」
「はっ!」
 呼び声に答え飛び出した刈谷機が、南部のティターンの背面目掛けて刀を振り下ろす。
 狙いはティターン背面の装備の結合部分。
 狙い違わず刃は装備を切り離す。
 僚機が落ちそうになる円柱を抱きとめて、そっと地面に下ろした。
 それを見て南部は、小さく微笑んだ。
「‥一之瀬。この中に、俺の妻と娘が眠っている。頼まれてくれるか?」
「‥‥わかった」
「すまんな」
 人質は基地には居なかった。
 悪趣味なバグアによって、彼はずっと妻子を守る戦いを強制させられていたのだ。
 そして戦いながら、この瞬間をずっと待っていた。
「‥迷惑をかけたな。貴様らと最後に戦えて良かった。
 俺達の分まで、この星の未来を頼んだぞ」
 言葉は目の前の傭兵達に向けられていた。
 自分が果たせなかった約束を託して。
 ティターンの手がほんの一時だけ、遠倉機の肩に触れていた。
「全機反転! このまま基地を攻撃する!」
「了解!」
「時間はない。急ぐぞ!」
 呼び止める間もなかった。
 残った5機は一糸乱れぬ動きで、空港へと全力で駆け戻っていった。
 傭兵達も空港制圧のために同じ方向へと進むがおいつけない。
 彼らの行動の結果は惨憺たるものだった。
 バグアの機体を狙って武装を使えないようにされていたため、
 彼らは自身やお互いの燃料や弾薬を撃って自爆。
 それぞれが1機ずつ、機動兵器を破壊した。
 弾薬を少量しか持たない刈谷は仲間の介錯に務め、
 最後はバグアの手によって肉体の側を自爆させられた。
 文字通り死屍累々。
 死を避けれないものとしては、上出来の戦果だった。
「こちら、制圧部隊。基地の自爆装置が作動。全戦力が基地内からの撤退を開始。
 基地の制圧は完了した」
 ジョエルからの通信で戦闘は収束する。
 その声は喜びよりも、何か苦痛に似た色が含まれていた。



 静岡は陥落。
 人類は再び大井川を越える。
 代償は小さくなかったが、人類は大きな一歩を刻んだ。
 だが、功績厚い彼らに与えられた時間は少ない。
 散っていった仲間弔う時間も無いまま、次の戦地である東京へと人類は歩みを進めた。