タイトル:【JTFM】カリ包囲戦−Tマスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/10 11:26

●オープニング本文


 カリ基地への補給線の断絶を契機に、各部隊は一斉に行動を開始した。
 陸上には千両を越える戦車、装甲車、対空ミサイル車両。
 航空機は500を越え、虎の子のKVも40機以上。
 更には傭兵達のKVも参加するため、最終的には80を上回るかもしれない。
「‥だがそれとて、何割が生き残ることか」
 ボリス中佐はキャップを目深に被りなおし、
 視線を指揮所のモニターに向ける。
 彼はこのカリ包囲戦において北方の部隊を率いていた。
 カリ包囲戦の状況は、人類側に圧倒的有利だ。
 補給路を断ち、四方を囲み、数の上での優位がある。
 ‥それでも勝利を確信できないほどに、バグアは強大だった。
「正面のBFが動き出しました。敵司令の乗艦のようです」
 通信士官が機械を操作し、敵の主力の映像を正面に移す。
 暗い青を基調とした塗装に塗られたBFが、大型のHWを多数従えている。
 そしてその前方には黒塗りのティターンと、装備の違うタロスが3機。
「ヴァルトラウテをここで落とすわけにはいきません。
 なんとしても、ここでアレを撃破します」
 鋭い目が空に浮く巨体を見据えていた。



 北方に展開した航空戦力は在来型が100機以上にKVが20機になる。
 そのうち12機は正規軍の機体で、残りはラストホープの傭兵達の機体だった。
 今は後方の空中管制機を中心に最後の調整が行われていた。
「HQより各KV小隊、状況を報告せよ」
「エーテル1よりHQ、エーテル小隊以上無し」
「HQよりエーテル1、了解した。命令があるまで速度と高度を維持せよ」
「エーテル1了解。‥‥さてと」
 ミラベルは後方につく新しい小隊メンバーの機体を確認した。
 グローム2機はこちらの様子を気にしながらも、しっかりと機動を合わせて来ている。
 若いパイロットに見えたが優秀だ。
 その分、残念でもある。
 小隊の初めての戦場がこれでは、彼らを守ることは出来ないだろう。
「どうした。中尉、元気が無いな。あの日か?」
 デリカシーの欠片も無い台詞をかけてきたのは、中隊長のダビド大尉だ。
 いかつい虎髭がトレードマークの中年でKV3小隊のリーダーでもある。
「大尉、セクハラで訴えますよ」
「あぁ? 嬢ちゃんこそ普段から、握りつぶすぞとか男共脅して回ってるじゃねえか」
「女性はか弱いですから」
「ひでえ話だ。聞いたか新人。お前らの隊長は怖い女だぞ!」
 好き放題言ってガハハハと愉快そうに笑う。
 新人達は笑っていいのか悪いのか判断付かないなりに、愛想笑いを返していた。
「嬢ちゃん、リーダーが深刻な顔すんのはダメだぜ」
 見透かされていた。
 大尉には敵わない。
 ダビド大尉はミラベルの溜息を聞くと、また豪快に笑い戦列に戻っていく。
 気持ちは最初よりは随分と落ち着いていた。
「傭兵達が上がってくるわね。全機揃ったら、始まるわよ」
 グローブの感触を今一度確かめる。
 戦端が開かれるまで秒読みだ。
 生きて帰ろう。
 まだ私は、死ぬわけには行かない。
 そうあの人に誓ったのだから。
 ミラベルは一度深呼吸すると、傭兵達への回線を開く。
 最後の簡易ブリーフィングが始まった。



 カリ基地のバグアも包囲が完成するまで手を拱いていたわけではない。
 布陣を読み、タイミングを見計らう。
 その第一段階として、ソフィアの機体への反応が一つの材料となった。
「やはりソフィア様に食いついたか。愚かな」
 ビッグフィッシュの艦橋に、重く暗い声が響いた。
 本来艦長が座るべき椅子がある場所には巨大な水槽が縦に配置されており、
 その中に黒いオウムガイがふよふよと浮かんでいた。
 元コロンビア司令のティルダナだ。
 暗い青、深い海の青を基調としたビッグフィッシュを乗艦とし、
 ソフィアの背面を守るべく北方へ布陣していた。
「確かに彼女は強い。だが警戒しすぎだな。
 彼女は指揮官としても戦士としても優秀だが、それでも1個体に過ぎない」
 ティルダナは完成する人類側の布陣を眺めながら、笑い声を響かせた。
 高位のバグアはそれぞれが一人で戦場の趨勢を変えうる強力な存在だが、
 ここまで大規模な戦場ではその価値は小さくなる。
「ティルダナ様。各機、準備が整いました」
 モニターに映ったのは彼の腹心とも言えるバグア、フェリックスだ。
 別のモニターには彼の乗機である黒いティターンと、3機のタロスが映っている。
「このまま待機だ。しばし命令を待て」
「はっ」
「‥‥時に」
 ティルダナは言葉を切り、選ぶ。
 モニターの前のフェリックスが怪訝な顔をした。
「あの女は残してきて良かったのか?」
「本城のことですか‥」
 本城はカリ基地攻略の前段階から作戦に参加せず、ベネズェラに待機している。
 理由は言ってしまえば厄介者のお守だ。
 依頼した相手が相手だが、本来なら優先順位の低い行動に人手を割く余地は無い
「あの女のみならず、他にも何名か部下をつけたそうではないか。
 そこまでする必要があったのかね?」
 部下への不信ではなく、純粋な疑問だった。
 彼もまた普通のバグアだ。
 人間の心を理解できない。
「私もわかりません」
「何‥?」
「ですが、今回のことで何かがわかるかもしれません」
 フェリックスは思った。
 もしもこの行動を理解することが出来たならば、
 バグアである自身が成長することになるのではないか。
 それは種の特性を大きく破る進化かもしれない。
 もしそれが幻想であったとしても、コスト自体は小さい。
 面白がって試してみるだけの価値はあった。
 ティルダナはその考えすらも理解できては居なかったが、
 この部下が奇行に走るのは今回に限ったことではない。
 それ以上の追求は止めることにした。
「人類軍から飛翔体多数接近」
 部下の報告でその会話は打ち切られた。
 下方から無数のミサイルがビッグフィッシュ目掛けて殺到する。
 幾つかは護衛のHWが打ち落としたがその多くが、
 守りをすり抜けてティルダナの乗艦を襲う。
「手ぬるい」
 ティルダナがモニターに映るミサイルの群を指差すと、
 連動して胴体や上部に取り付けられた無数のレーザー砲が
 それぞれ有らぬ方向へ向けて発射される。
 レーザーはそのまま直進せず発射後すぐに緩やかなカーブ描き、機体の前方や下方へ。
 飛来したミサイル群を一つ残らず撃墜した。
 ビッグフィッシュの機動性を補う、曲射パルスレーザー砲である。
 装備はこれだけではない。
 ティルダナのビッグフィッシュは積載量を生かして、多数の砲門を備えている。
 戦艦と呼んで差し支えない代物だった。
「頃合だな。前進せよ。包囲網に穴を開ける」
「はっ」
 黒塗りのティターンが矛槍を前方に向けると、
 キメラ達が一斉に人類側の航空戦力に襲い掛かった。
 航空機がミサイルと機銃で応戦するのに対し、
 キメラは炎や電撃、あるいはレーザーで反撃する。
 混乱を極める空中戦闘は、激しさを増しながら徐々に加速していった。

●参加者一覧

スコール・ライオネル(ga0026
25歳・♂・FT
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
イリアス・ニーベルング(ga6358
17歳・♀・PN
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

 配置についた傭兵のKV8機を含め、部隊でKVは20機。
 これが部隊の事実上の主力になる。
 その周囲と背後を100機を越える通常の戦闘機が肩を並べている。
 最後の作戦確認も行い、敵の前衛が射程距離に入るまであと僅かだ。
「どれだけ生き残れるかは‥‥、各自の働き次第だね」
 赤崎羽矢子(gb2140)はやや陰鬱な顔で周囲を見渡した。
 通常の戦闘機であれば損耗率も高くなるだろうが、生死が掛かっているのは自分達も同じだ。
「‥うぅ‥流石に、キツイですね‥」
 イリアス・ニーベルング(ga6358)がうめく。
 ヘッドマウントディスプレイによって左目に全視界の投影をしているのだが、
 当然のように情報量は脳の容量を超える。
「イル、大丈夫?」
「平気です。慣れませんけど、いつものことです」
 イリアスは相方の鷹代 由稀(ga1601)に手を振る。
「それに‥こんなことで根を上げてたら、あの人に認めてもらえないですから」
 イリアスの脳裏にはザ・デヴィルやゼーファイドの姿があった。
 この話をしたら他の皆はどういう顔をするだろう?
 と少し考えたが、大きな戦闘の前だ。
 また今度の楽しみにすることにした。
 逆に敵に思いを馳せながらも、陰鬱な気持ちに浸るものもいた。
「‥‥‥」
 鹿嶋 悠(gb1333)は周囲の会話には参加せず、
 目を瞑ったまま機体が飛ぶに任せていた。
 各方面で名立たるエースが落ち、勝利が続く。
 だが先が見えない。
 失うばかりで、戦場に空虚さを覚えていた。
「そういえば、あの2人とはどうなったのかな?」
 錦織・長郎(ga8268)はミラベル・キングスレー(gz0366)と一部の傭兵に回線を開く。
 聞いているのは勿論、例の話題だ。
「さあ? 当ててみて」
 ミラベルには答える気はなかった。
 鷹代も天原大地(gb5927)も返答が無い。
 確かに進展はしたが、答えはなかった。
 錦織はその無言の回答を、ある種の肯定と取った。
「くっくっくっ。枯れるにはまだ早いからね。どちらでも構わないけどね」
 錦織の笑みに鷹代と天原は苦笑だけ返した。
 今は2人ともスタートラインにたったばかりだ。
 状況を僅かに伝え聞く御影・朔夜(ga0240)は、
 黙って話を聞きながら、小さくなった煙草を灰皿に押し付けた。
「最初の打ち合わせどおり、キメラとHWは私達が相手をしよう」
 ダビド大尉が話を切りつつ、目の前の敵を示した。
「傭兵諸君の武運を祈る。
 ‥作戦開始だ。各機、兵器使用自由。
 野郎ども、しっかり着いてこい!」
 ダビド大尉の号令一下、正規軍KV部隊がブースト。
 本星型2機を含むHW部隊に突入していった。
 プロトン砲をかいくぐりながら一気に接近、激しい空中戦を繰り広げる。
「俺達も負けてられないな」
 天原がフェニックスの翼を揺らす。
 彼の横を通常の戦闘機部隊が進み、こちらもキメラと戦闘を開始する。
「こちとら最近良いとこ無しなんでな! 
 良いとこ見せてやるか!」
 スコール・ライオネル(ga0026)が気勢をあげる。
 敵のティターンとタロスが射程圏内に入る。
 傭兵達は距離をつめるべく行動を開始する。。
 まずは擦れ違いざまにHWと交戦するKV部隊に援護射撃。
 各機が速度を殺さないまま、手持ちの兵器を打ち込んでいく。
「Hey!餌の時間だ、たっぷり食いやがれ!!」
 スコール機のスラスターライフルが中型HWに直撃。
 既にダメージを受けていたHWは火を噴いて落ちていく。
 正規軍のKVのパイロットが親指を立てて、傭兵達を見送る。
 ここからが本番だ。
「行くよ、イル、大地!」
「了解です」
「おう!」
 鷹代、イリアス、天原の3名は先頭のティターン目掛けて攻勢をかける。
 高高度から雲に紛れ、煙幕とミサイルをばらまきながらの突撃。
 流石にバグア軍も対応が遅れた。
「むっ!?」
 ティターンは煙幕にまかれ、視界が塞がれる。
 攻撃自体は回避したが、ティターンも反撃が遅れる。
 重力波レーダーだけでは細かい調整が効かない上、
 この状況では流れ弾とも言える一撃が恐ろしい。
 3機は見事に初手でティターンの行動を封じた。 
 ティターンを3機で抑えるうちに、遊撃の錦織とスコールがキューブワーム、
 赤崎、鹿嶋、御影がタロスを狙う。
 タロスを狙った3機とも機体性能に優れていたが、
 その中で御影が特に尖っていた。
 御影のアハト・アハトがタロスの1機を穿つ。
 続けて数発が胴体へと直撃、そして爆発。
 出会い頭の一撃で、タロスの1機が完全に破壊されてしまった。
「ちっ‥なんという火力‥!」
「この程度で、夜天が止まると思うなよ」
 フェリックスは二度目の戦闘だが、その火力に苦い顔をする。
 ODFアナイレーション4個に破暁の特殊能力、超限界稼働によって、
 夜天の火力は尋常でない威力にまで跳ね上がっていた。
「1機やった。そちらは?」
「ダメだ。タロスの防御が厚い。キューブワームは落とせなかった」
 最初の攻撃でタロスを1機撃墜、もう1機を半壊まで追い込んだ。
 ティターンの猛攻に押されたものの、上々の戦果だ。
 とはいえ、傭兵達の最大の懸念であるキューブワームは10機全て健在だった。
 10機ともが密集してティターンとタロスの後列に移動している。
 今現在はその能力を稼動していないのか、先ほどから頭痛の類は全く無い。
 有効射程外なのか、なにか欠陥なのか。
 キューブワームは怪しく輝いたまま、ふわふわとタロス達の後ろをついて行っている。
 AIにも戦術が組み込まれているようで、
 タロスに守ってもらえるように自分から適正な位置に移動していた。
「次で‥」
 決める。そう言い掛けて、御影は突如襲った頭痛にのた打ち回った。
 輝きを増したキューブワームは、全てが御影を指向していた。
 視界が歪み、まともに操縦桿も握れない。
「御影くん!」
 鷹代が御影を助けに入るべく反転する。
 ティターンが御影を指向していた。
 このままでは狙い撃ちだ。
 だが彼女も同じくキューブワームの影響が来ている。
 背面から狙っているのに、ティターンには一撃も当たらない。
「鷹代、逃げろ!」
 天原に呼ばれてレーダーを見ると、すぐ近くまでタロスが迫っていた。
 擦れ違いざまのフェザー砲は、鷹代機の翼と後部を両断。
 姿勢制御すらままならず、鷹代機はきりもみしながら落ちていく。
「私は良いから、御影くんを‥!」
 落ちながらも鷹代は全体を見ていた。
 天原は「くそっ!」と一言だけ吼えると、手近なキューブワームの攻撃に向かった。
 御影の援護には赤崎とイリアスが向かった。
 自分がこいつらさえ落とせば状況は解決する。
 以下に頭痛で照準がぶれていても、機動性皆無のキューブワームを外すことはありえない。
 1機、2機、3機と次々と落とす。
 だが敵も反撃がないわけではない。
 残ったタロスが天原機をプロトン砲で撃つ。
「ぐぁっ‥!」
 光線が命中し、機体が揺れる。
 ダメージを考えれば、もうあまりまともに飛べないだろう。
 天原を狙うタロスを、スコールがスラスターライフルで撃った。
 キューブワームの影響下ではまともに命中はしないが、
 十分注意を引く事はできた。
「天原君、ここは僕達が引き受ける。
 キューブワームの破壊に向かってくれ」
 錦織が回避行動に移ったタロスへと更に牽制攻撃を仕掛けた。
 タロスに天原へ攻撃する余裕は無い。
「おう!」
 天原は旋回しながら次の目標へ向かっていった。
「ちっ‥動じねえか」
 スコールはスラスターライフルで牽制を続けるが
 タロスは少しも慌てる様子がなかった。
 攻撃を最小限の動きで回避し、または受け止め。
 必要なだけ反撃してくる。
 AIではなく有人、それもかなりの使い手が搭乗している事は間違いない。
 キューブワームの影響が無くても手を焼く相手だろう。
「鹿嶋君はもう1機にてこずっている。ここは僕達だけで片付けるしかないね」
「そうみたいだな‥」
 2機は機動を交差させながら、再びタロスに向かっていった。 
 結果、スコール機大破。錦織機が半壊まで追い込まれたが、
 天原がキューブワームを破壊する時間は十分に稼いだ。

 一方御影は怪音波から離れるように飛んでいたが、まっすぐ飛べた自身は無い。
 その渦の中での時間は、何秒かぐらいのはずなのだが何十倍にも感じられた。
「‥はっ‥はっ‥。ここまでくれば‥」
 頭を振り、レーダーを確認する。
 周囲に敵影の数は変わらず‥直上の至近距離に1機。
「何っ!?」
 ティターンが併走するように飛び、御影の機体を照準していた。
「逃げるのが少々遅かったな」
 ティターンのフェザー砲が一斉に火を吹く。
 流石の御影機だったが距離が近すぎて回避できず、
 ほとんどの光線をまともに受ける。
 レーザーで穴だらけになった機体は、急速に失速して、地面に落ちていった。
「隊長!」
 イリアスが叫ぶが返事が無い。
 高さは500m程度、脱出すればまだ助かる見込みもあるが、
 意識があるかどうか見えない。
 御影機はそのままきりもみしながら地上に落ちていった。
 これで撃破数4。
 だが、危機感を抱いたのはバグアの側だった。



 激戦は徐々に傾いていく。
「こいつでラストだ‥!」
 天原がキューブワームの最後の1機を撃破する。
 同時に被弾していたエンジンが火を噴いて、そこで戦線を離脱した。
 機体は不時着、も出来そうに無いがなんとか脱出は間に合うだろう。
 キューブワームの撃破によって混乱から復帰してしまえば、
 続きは傭兵達の独壇場だった。
 御影機、スコール機、鷹代機、天原機と立て続けに落ちはしたが、
 キューブワームの影響下であっても装甲の硬い機体は健在だ。
 装甲に優れる鹿嶋の帝虎を軸に錦織、赤崎、イリアスが編成を組みなおし、
 残ったタロスとキューブワーム全てを撃墜していた。
 更には突出した本星型HWと中型HWは、UPC正規軍との交戦でおおよそが撃破された。
 擦れ違い様に受けたK−02の攻撃が響き、態勢を立て直せず、残りはすでにHW2機程度。
 正規軍にも多少の損害は出たが、崩れるのは時間の問題だろう。
「潮時か‥」
「逃がしませんっ!」
 イリアス機、赤崎機がトップスピードでティターンに迫る。
 赤崎が遠距離からアハト・アハトで牽制。
 イリアスは接近しつつブリューナクを撃つ。
 レーザーを回避したティターンだが、ブリューナクの直撃を食らう。
 左肩に致命的な損傷。
 持っていた銃の一つを取り落とす。
 フェリックスは2機がすり抜けたその背後を狙い、フェザー砲を展開。
 全火力をイリアス機に向ける。
 イリアスはかわしきれずに被弾。
 火を噴いて地面に落ちていく。
「イリアスっ!」
 赤崎が呼びかける。
 雑音の中にだが返事はあった。脱出すれば間に合うだろう。
 戦友の心配は敵機の気配で中断される。
「次は貴様だ」
 フェリックス機のフェザー砲が赤崎を狙う。
 赤崎の反転は間に合わない。
 光線の雨は赤崎の腕では回避できない。
 赤崎は直撃を覚悟するが、ティターンは攻撃動作には移れなかった。
 HWを抜けてきた南中央軍のKV隊が一斉にミサイルを発射。
 フェリックス機に幾つもミサイルが飛来する。
「ぐっ‥貴様ら!」
 反転して回避運動に移るティターン。
 ミサイルの一つ一つはティターンにとって脅威ではない。
 防御すれば無効化することも可能だろう。
 だが、今のティターンではそれすらも命取りだ。
「ここで落ちろ! フェリックス!」
 赤崎機が攻撃の手を緩めてしまったティターン目掛けて突撃する。
 ミサイルへの防御に意識が言っていたフェリックスは、
 ティターンを旋回させるのが精一杯だった。
 ソードウィングの刃は狙いたがわず、ティターンの腰の下を両断した。
「‥‥バカな」
 胴体から真っ二つになったティターンは、わずかに落下したのち、
 大きな火球となった。
 南米を混乱に陥れた怪人は、カリの空で散っていった。



 ティターンの撃破に続いて、BFへの攻撃も苛烈さを増していく。
 レーザーの防空網は厚いが単機では限界がある。
 遠距離からのミサイル攻撃も徐々に被弾するようになり、
 光線の数も徐々に減っていっている。
 ダメ押しとばかりに鹿嶋機が残しておいた十六式螺旋弾頭ミサイルを発射。
 2発が迎撃されたものの、6発が命中。
 BFの腹に食い込んで、大きな爆発をあげた。
「そろそろチェックメイトだね」
 錦織は旋回しつつ爆発の様子をそう報告した。
 彼が報告するBFの防空網の隙間に関するデータは、
 友軍機の被害抑えつつ、ミサイルの着弾率を増やし、
 着実にBFを追い詰めつつあった。
 隙を見つつスラスターライフルでダメージを与えていたのだが、
 次の一撃は必要がなさそうだった。
「‥ん? あれは‥?」
 異変を感じた鹿嶋はBFの上部の画像を拡大する。
 そこにはBFと同じ深い青に塗装されたティターンが佇んでいた。
 巻き上がる噴煙でいつそこに出たのか分からなかった。
 ティターンは背面に搭載された小口径の拡散フェザー砲を一斉に発射。
 鹿嶋機と錦織機を狙う。
 BFに内蔵されたケプラーの支援を受けているため、
 光線の軌道は不規則きわまる。
 鹿嶋機も錦織機も回避しきれずに被弾。
 錦織機は火を噴いて脱落する。
 鹿嶋機のみ、その装甲の厚さから撃墜を免れた。
 そのティターンの足元であるBFが爆発して火を噴き上げる。
 鹿嶋の放った十六式のダメージが、どこかに波及して誘爆を起こしたのだろう。
 ティターンは感慨深げにその様子を見下ろした。
「認めよう。私は人間を甘く見ていた」
 スピーカーと共用の無線にティルダナのくぐもった声が響く。
 それは人の言語ではあったが、おおよそ人間らしい響きが無かった。
「だが、次はこうはいかんぞ」
 ティターンは飛行ユニットを展開し、空へ飛び上がる。
 主を失ったBFは何度かの大きな爆発の後、地面に降下していった。
 落下の衝撃と更なる爆発で、地上施設のいくつかを吹き飛ばす。
 ティターンは通常の航行速度で離脱していったが、
 無傷のティターンを追うほどの余力は、誰も持っていなかった。
 その後ティルダナのティターンは、ソフィアを救出に現れたシェアトに付き従い
 カリ基地の包囲網を脱出した。
 北方の部隊が逃した敵は、彼一人だけだった。
 


 犠牲は少なくはない。
 だが、同時に得た戦果も少なくなかった。
 幹部クラスこそ逃れたものの、バグア側は多くのエース級パイロットを失った。
 この損失は例えシェアトの援軍があったとしても、容易には埋めがたいものだ。
 カリ基地の奪還を持って、南米の戦局は人類側へと大きく傾きだしていた。