タイトル:【JTFM】赤光の騎士マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/27 12:48

●オープニング本文


 2010年11月 クルゼイロ・ド・スウル基地
 ブリーフィングルームでジャンゴ・コルテス大佐は映像を眺めている。
『‥‥ボリビア国王、ミカエル・リア(gz0362)としてここに宣言をします。
 我らボリビアはUPCへの加盟をここに宣誓し、協力することを誓うと』
 一部ではあるが報道されているボリビアの加盟式の映像であり、
 これによって南米の情勢が変わることを意味していた。
 8月から10月にかけての大規模な防衛作戦により、中立からバグアとの対立、
 そして戦いを行うことを若き国王が決めたのである。
『国民の皆さんにはこの決定に反対する人もいるかもしれません、この国は内戦の絶えない国でした。
 この数年中立を保つことで平和を手にして来ました』
 騒然としていた会場が静かになり、映像の中のミカエルはおどおどした様子を抑え、
 力強くしゃべろうと真剣な表情を見せていた。
『ですが、それは傍観者になるということです。国境の傍では同じように人々が苦しんでいます。平和のために戦っています。それを見過ごしていくわけにはもういかないのです!』
「いうようになったな、あの小公子も‥‥これも能力者と直接触れ合ったお陰だろうか」
 映像を眺めていたコルテスは髭をなでながら、
 15歳という若さながらに国王となった少年を見守っている。
『だから、戦いましょう。この国だけの平和ではなく、
 世界の平和のために‥‥。そのために皆さん協力してください!』
 頭を下げるとカメラのフラッシュに合わせて歓声と拍手が轟音のように響いた。
 そこで映像と共に自分の気持ちもコルテス大佐は切り替える。
「ここまでやってくれたのだから、答えてやらねばならないな。まずは隣国のコロンビアのキメラ闘技場からだ」
 地図に表示された一点を眺め、コルテス大佐は部下を呼び作戦会議を始めるのだった。



 キメラ闘技場への攻撃は想定以上に困難が伴った。
 キメラ闘技場はコロンビア国内に孤立しているとはいえ、
 施設内に大量のキメラを抱え、且つ強力なバグアが常駐する要塞のような施設だった。
 発見された各ルートから歩兵の部隊が突入するが、
 幾つかのルートは完全に足止めされていた。
 隠された通路を侵攻していたこの中隊も、同様に足止めを食らっていた。
 中隊は通路に入った直後に、強力なバグアと出会ってしまったのだ。
「‥でかい‥」
 兵士は銃を向けながらバグアに相対する。
 そこには2m半ばもある赤い西洋甲冑のような姿のバグアが立っていた。
「‥‥‥‥‥」
 その身体には半ば有機体で出来たモーターやパイプが配されており
 目はカメラのような無機質な素材だが、間違えようも無く意志の光が宿っていた。
 身体を覆うサイズのマントを身にまとい、三叉槍を構えて通路を封鎖している。
 狭くはない通路だが、この槍の間合いを越えて通り過ぎることはできないだろう。
 その隙の無い見掛けと相反するように、胴体にはゼッケンがつけられていた。
 ゼッケンにはへたくそなひらがなで「ぜーふぁいど」と書かれてある。
「‥‥貴様モ‥」
「え?」
 ぜーふぁいど‥ゼーファイドという名らしいバグアは目の前の兵士の胸を指差す。
 その動きに戦闘の意志は無く、電子的な音声には悲しみが宿っていた。
「貴様モ、ゼッケンヲ着ケテイナイノダナ」
「そりゃあ、まあ‥」
 前線の兵士は意味のわからない言葉に思わず顔を見合わせる。
 いつの時代も戦場でゼッケンを着けるやつはいない。
 もしかしたらそんな時代もあったのかもしれないが、少なくとも記憶にはない。
「何故着ケナイ! 軍人カト思エバ無礼者バカリ! ナラバセメテ名乗ルガ良イ!」
「構わん、撃て!」
 バグアの寝言を無視して中隊長の号令が響く。
 銃弾やレーザーの光が一斉に掃射された。
 ゼーファイドはマントで自身を覆うと、そのまま突進。
 超機械の電磁波やエネルギーガンの光条を弾きながら、歩兵小隊に迫った。
「なに‥!?」
 大振りの三叉槍が猛威を振るう。
 一振りするたびに次々と兵士が蹴散らされ、
 戦力の要である能力者も胸を一突きにされ絶命した。
「撤退だ! 退け!」
 中隊長の声に、兵士達は雪崩れるように逃げる。
 ゼーファイドはそれを追わず、呆れるような目でそれを見ていた。
「礼節ヲ知ラヌ無法ノ者デハ、コノ程度カ‥」
 槍の石突でドンと地面にたたき、仁王立ちのまま通路の先を見据える。
 彼は目を瞑り、次なる侵入者を待った。


 キメラ闘技場のバグア四天王「ゼーファイド」、機械生命体に憑依したバグア。
 性格は生真面目一辺倒で文化の概念に疎く、
 それが元でよく仲間に騙される。
「ココハ地ノ果テダ。ゼッケンハ旗差物、ソレモワカラヌ無作法者バカリカ‥」
 彼にゼッケンの嘘を吹き込んだのが誰なのか、
 今となってはもうわからない。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
イリアス・ニーベルング(ga6358
17歳・♀・PN
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

 通路には外部からの光はほとんど入らない。
 一定間隔で設置された蛍光ランプの光が、無機質にあたりを照らし続けている。
 無限にも引き伸ばされそうな静けさを割って、無遠慮な足音が響く。
 仁王立ちしていたゼーファイドは、無機質な光を灯す目を侵入者へと向けた。
「彼が闘技場を守る立派な騎士様ね。戦えるのが楽しみですわ」
 傭兵8人の先頭に立っていたミリハナク(gc4008)が、
 妖艶とも獰猛ともつかない笑みを浮かべた。
 その服装は‥‥普段の彼女には欠片も似合いそうに無い体操着にブルマ、
 胸元に「みりはなく」と書いたゼッケン。
 見ればゼッケンをつけているのは彼女だけではない。
 霧島 和哉(gb1893)、ラナ・ヴェクサー(gc1748) 、イリアス・ニーベルング(ga6358)の3名も、
 それぞれに自身の装備の上からゼッケンをつけている。
 急遽準備したせいなのか、一部はやたら作りが安っぽい。
「ナルホド。雑兵デハ勝テヌト悟リ、真ッ当ナ戦士ヲ送リ込ンデ来タカ!」
「‥‥違うぞ」
 御影・朔夜(ga0240)が眉間を押さえながら訂正した。
 一人で盛り上がるゼーファイドを見て頭が痛くなってきたらしい。 
「ム‥。貴様モ中々ノ腕前ノ戦士ト見タガ、ゼッケンハツケナイノカ?」
「‥つけない」
 素っ気無く、会話を断ち切るように断定する御影。
 だが盛り上がったゼーファイドは気にしていなかった。
「ソウカ。ナラバセメテ名乗ルガ良イ」
「名乗りの礼が欲しければ、まずは己から、その口で名乗ったら如何だ?」
「貴様ハコノ文字ハ読メヌノダナ。我ガ名ハゼーファイド。バグア四天王ノゼーファイドダ」
 まさか回答が返ってくるとも思っておらず、御影は加えていたタバコを落としかける。
 気を取り直してため息を吐くと、大きく紫煙を吸い込んでペースを取り戻す。 
「‥真面目な奴。‥御影朔夜、しがない傭兵だよ。あぁ、憶えなくて良い。
 どうせすぐ不要となる。私は弱いからね」
 御影は苦笑する。
 この手合いは嫌いではないが、ペースをあわせるのは難儀する。
 傭兵達の反応はそれぞれさまざまだった。
「何でも良いわ。箔をつけるには十分過ぎる相手ね。
 中隊が丸々蹴散らされただけあって、払いも悪くない」
 ゴールドラッシュ(ga3170)の答えは明瞭だ。
 倒すべき相手の性格がどうであるかなど端から見ていない。
「侮っては痛い目を見ますね。あんななりですが、動きに隙がありません」
「馬鹿だが強敵と、いろんな意味で頭の痛くなる敵だ」
 ラナと時任 絃也(ga0983)はそれぞれに既に構えていた。
 二人とも武器の間合いはそれほど長くは無い。
 他の者にもいえるが、長大な間合いを持つゼーファイドには不利だ。
「‥‥ところで‥」
 徐々に緊迫する空気の中、前衛の霧島がぼそっと喋り始めた。
「‥‥ゼーファイドさん‥‥その、ゼッケンは‥‥中途半端‥‥だよ」
「何‥。ソレハドウイウコトダ?」
 ゼーファイドは構えを解かないままだが、真面目に耳を傾ける。
「ええと‥‥『ゼッケンとは個体の識別を目的として装着する為のものであり、
 そのゼッケンに名前一つしか記載されていないのは明らかにおかしい‥」
 霧島の台詞は途中から暗記した辞書を読み上げるような口調になっていた。
 内容は誰もが突っ込みたかったがあえて無視していた事柄だ。
 理由は違うが誰もが口を挟まない。
「‥自身の所属団体、整理番号を記載した上で、正しいスペルで名前を記入すべきもの。
 旗差物であってもソレは同じ。それが抜けた旗差物など有って無いも同じ。
 すなわち、貴方のそのゼッケンは、中途半端だ。‥‥この無礼者めぇぇ!』‥‥けほ」
 霧島は最後に大きな声を出して咽る。
 締まらない啖呵だったが、それでも効果はあった。
「ナ、ナンダト!? コノ私ガ礼儀知ラズ!?」
 動揺のあまりその場で崩れ落ちそうになるゼーファイド。
 霧島の言葉は大概信憑性の欠片もないが、それでも深く傷つけてしまったらしい。
「何処で仕入れた知識かしらんが鵜呑みするほどの馬鹿か」
「だいたい、ゼッケンが旗差物なんて習慣ここには無いよ。勘違いで好き勝手言ってんじゃない!」
 聞いているのか聞いていないのか、傷心のゼーファイドは赤崎羽矢子(gb2140)の台詞にもう反応しない。
「致シ方ナイ。次マデニハ正シイゼッケンヲ作ルゾ。今日ハコレデ勝負ダ!」
 どうも聞いていなかったらしい。
 締まらない雰囲気だが、三叉槍は必殺の気迫で振り回されている。
 ゼーファイドの突撃を受ける形で、戦闘が始まった。
 


 口先でバカを押し込めるのは簡単だったが、ゼーファイドの本領はそんなところにはない。
 前衛に赤崎、霧島、ミリハナク、そのやや後方に時任、イリアス、ラナ、
 射撃支援に御影、ゴールドラッシュ。
 誤射を減らすように布陣し、集中攻撃を続けている。
 だが一向に怯む様子が無い。
「‥流石、騎士様。素晴らしい闘争ですわ」
「‥‥うん‥厄介だね‥」
 大振りで防御を捨て打ち込むミリハナク、
 分厚い装甲でゼーファイドの攻撃を止める霧島。
 そしてその隙間を縫うようにエナジーガンを打ち込む赤崎。
 役割分担を徹底した編成は強固に組み合い、ゼーファイド相手にも機能していた。
 それ以降の後列もそれぞれ別の役目を負いながら攻撃の手は緩めない。
 火線は苛烈そのものだ。
 生半可な強化人間やバグアでは1分持たずに撃破されていただろう。
 こんな状況ではあるが、ミリハナクは戦いの中で笑みを浮かべていた。
 戦いに勝敗を求めない、独特の凶暴さでゼーファイドと打ち合い続ける。
「‥‥それにしても硬いわね」
「全くだ‥」
 ゴールドラッシュの呆れたような呟きに、時任が同意する。
 ゴールドラッシュはゼーファイドの動きの隙間を狙い攻撃していたが、
 ほとんどの攻撃が装甲に弾かれ、まったく効いていない。
 弱点を狙えば良いのだろうが、そもそも弱点らしき部位がわからない。
 頭部の目は確実にその一つだろうが狙うには的が小さすぎる。
 パイプの集約を考えれば胴体には重要な器官が存在するはずだが、
 それがどこなのかわからない。
 何度かの攻勢で判明したのは、人間とは決定的に構造が違うということぐらいだ。
「見てのとおりの金属塊か。これは砕くのが手間だな」
 御影は素早くジャッジメント2丁のリロードを終える。
 彼ほどの攻撃力になると流石に脅威なのか、
 ゼーファイドは御影の攻撃は着実に腕甲等でガードしている。
 二丁拳銃で連射した結果、何発かは彼の防御を通り抜け装甲を傷つけているが、
 軽傷を与えるにとどまっている。
 致命的な一手にはまだなりえない。
 彼がもしエースアサルトならスキルの強化で突破することが可能だったかもしれない。
 状況は停滞しながらも悪いほうに向かっている。
 ゼーファイドに攻撃は効いているが、霧島の不抜の黒龍が効果を失うほうが早いだろう。
 懐に入るにはゼーファイドの間合いが開ききっていない。
「崩れる前に、賭けに出るしかありませんね」
 ラナの言葉に、互いに視線を送り、うなづきあう。
「‥いくよ」
 霧島が竜の咆哮でゼーファイドを押し返す。
 ゼーファイドがよろけた一瞬の隙を突いて時任、イリアスが走った。
 瞬天速や瞬速縮地のスキルを使い一気に最高速へ。
 地面を這うように身をかがめ、槍の隙間を抜けようとして‥。
 ゼーファイドの赤く光る眼に捉えられた。
「!」
 背中に悪寒が走る。
 ここから先に行ってはならないと、彼の生存本能が告げていた。
 理由はわからないが、時任はすぐさま方向転換。
 壁を蹴って見えない彼の間合いから一歩でも遠ざかろうとする。
「フンッ!」
 時任を追うようにゼーファイドの三叉槍が唸る。
 槍はどう振っても届く距離ではないが、それはあくまで槍本体の話。
 その腕には赤いオーラのようなものがまとわりついていた。
 能力者達は一目でそれが何かわかった。
 槍の間合いが彼の間合いの全てではなかった。
 横薙ぎに振るわれた槍が通り過ぎた直後、ソニックブームが時任に襲い掛かる。
 斬撃は時任の身体を縦に切り裂く。
 時任は血しぶきを辺りに撒き散らしながら、地面へと落下した。
「時任さん!」
 時任の後に飛び出そうとしていたラナが、時任の生死を確認する。
 彼は死んではいなかった。
 致命傷はぎりぎりで避けている。
 今は痛みにうめきながらも、無意識に手で傷を押さえ止血をしていた。
「! この‥!」
 回り込んだイリアスが獣突で更にゼーファイドを押し返す。
 ダメージ自体はほとんど無い。
 構えを取ろうとするゼーファイドに後列からの銃撃が飛ぶ。
「バックアップは任せて、」
 ゴールドラッシュが倒れた時任を庇うポジションで銃撃を再開する。
「行きます!」
 ラナはうなずくと前衛の横をすり抜けて、瞬天速でゼーファイドの右腕に飛び掛った。
「オオッ!?」
 飛びつき腕拉ぎ十字固めの要領で腕を固めるが、
 流石に重量と腕力の差があり倒れてはくれない。
 戦闘の結果、このマントが知覚攻撃以外にはそれほど強固でないことは判明している。
 このままマントを焼いてしまえば‥。
 そこまで考えて、ラナは自身に迫った危機に気づく。
 180度回転し、あまつさえ伸縮した腕がラナの頭部を掴み上げていた。
「!!」
 人型に見えても、構造が違うため各関節の稼動域は人間とは異なる。
 更に、ラナはゼーファイドの腕を固めるだけで精一杯で、そこから次の攻撃に繋げることができなかった。
 ゼーファイドはラナの身体を乱暴に振り回した。
 誤射を避けるために他の傭兵達は手を出すことができない。 
 ゼーファイドはラナの腕の力が緩んだところを見計らい、
 腕を大きく振り上げてそのまま壁にたたきつけた。
 衝撃でラナの腕が完全に離れる。
 うごけないラナの腹部に、ゼーファイドは容赦なく拳を打ち込む。
 こうなってしまうと硬い小手はハンマーと同じだ。
 激しい痛みに声も出ない。
 ラナはうつ伏せに倒れ、血の混じった吐瀉物を撒き、起き上がれなくなった。
 傭兵達はそれでも怯まない。
 ラナの作った隙を霧島が竜の咆哮で更に開く。
 ミリハナクは動きの一瞬止まった敵に斧を振り下ろす。
 ゼーファイドが受けたところを見はからい、イリアスが更に獣突を仕掛けた。
 雷属性のついた一撃に驚き、思わず武器を落としかける。
 ダメージこそ蓄積できなかったものの、赤崎が仕掛けるのに十分な隙が生まれていた。
「これでっ‥!」
 瞬速縮地で飛び込んだ赤崎のハミングバードが赤い光を帯びる。
 斬撃は間違いなくゼーファイドの胴を捉え、大きく切り裂いた。
 初の有効打にゼーファイドの体が揺らぐ。
 ‥だが、そこまでだった。
「オオオオオッ!」
 霧島を強引に弾き飛ばしたゼーファイドは再度、腕に力をこめる。
 振り下ろした槍からは赤い衝撃波が弾け、ゼーファイドに近い者から残らず吹き飛ばす。
 イリアスは木の葉のように吹き飛ばされ、壁に激突。
 ミリハナクは斧で受け止めるも耐え切れず、
 霧島は盾で防御するのが精一杯。
 赤崎は衝撃波をかわしたが、追撃で飛んできたソニックブームに切り裂かれる。
 傭兵の中でも指折りの敏捷性を持つ赤崎だったが、防御性能とは両立はできない。
 前衛で動いているのが霧島だけとなった。
「イル‥! 返事をしろ!」
 御影が倒れ伏したイリアスに声をかけるが、返事は無い。
 ゼーファイドは容赦しない。
 槍を霧島目掛けて投擲し、それを受け止めた隙に霧島に掴みかかった。
 ここまで密着されてしまうと何も手が出せない。
 霧島は必死に相手を振りほどこうとするが、腕力が違いすぎた。
 稼動域と反対方向へ腕を捻られ、AUKVの人工筋肉が悲鳴をあげて弾けた。
 同時に霧島の腕の骨がへし折れる。
 ゼーファイドは動けなくなった霧島を無造作に払いのけると、
 腰からダガーを二本取り出し、二刀流に切り替える。
 そのままダガーを両側面に払うように振るった。
 薙ぎ払うように飛ぶソニックブームを、二人は回避できない。
 残った御影とゴールドラッシュも、胴体を切り裂かれて倒れ伏した。
「‥良ク戦ッタ」
 ゼーファイドは槍を拾い上げて構えなおし、切っ先を足元の御影に向ける。
 その背後から、金属のこすれるような音がした。
 ゼーファイドがゆっくりと振り返る。
 血塗れのイリアスが壁に寄りかかりながらも、鳴神の切っ先をゼーファイドに向けていた。
「‥‥ソノママ寝テイレバ、見逃シテヤッテモヨカッタノダゾ?」
「‥そういうわけにはいきません」
「戦士ヨ。ナラバ、貴様ガ先ダ」
 三叉槍を手に、構えもせずにゆっくりと歩み寄るゼーファイド。
 イリアスも鳴神では傷一つ与えられないのは分かっている。
 正面から急所に切っ先をねじ込もうにも、急所がどこにあるかわからない。
 ねじ込めるほどの技量差もない。
 そもそも、身体は思った以上に動かない。
 自覚できないが、余程酷い怪我なのだろう。
 イリアスは切っ先を向けながらも、死を覚悟した。
「‥ム」
 ゼーファイドが立ち止まる。
 視線は中空のどこかを見つめていた。
「‥‥逝ッタノカ。マスカラード‥」
 呟く彼の目には、無機質ながらも郷愁のようなものが見て取れた。
「仲間ヲ連レテ、帰ルガイイ」
「‥どうして?」
「私モ、仲間ヲ助ケル使命ガアルカラダ」
 ゼーファイドは何の躊躇いも衒いもなく、仲間と言う言葉を口にした。
「大事‥ナノダロウ? 強クナレ、戦士ヨ」
 身構えるイリアスの横を、ゼーファイドは悠々と通り過ぎる。
 擦れ違ったゼーファイドは一度だけ振り返ると、そのまま通路の奥に走り去った。
「見逃してもらった‥‥の?」
 緊張が解けたイリアスは、その場に崩れ落ち、尻餅をついた。
 脅威が去ったの確認したUPC軍が、傭兵達を助けに大挙して駆け寄ってくる。
 ゼーファイドが通り過ぎた通路は隔壁が何重にも下ろされていた。
 たとえ余力があっても追撃は不可能だろう。
 遠くから構造物が崩れていく音がする。
 闘技場のどこかが崩壊を始めたのだろう。
 分隊長達の無線からそんな内容が流れてきている。
 

 その後、ゼーファイドは闘技場から避難するバグアの殿を務め奮戦。
 たった一人で能力者含む何百と言う兵士を薙ぎ倒し、
 自身もまた敗残の軍と共にエクアドル方面に退却していった。