タイトル:【AR】銃声の午後マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/17 14:13

●オープニング本文


●迫る影
 アリゾナ州フェニックス――人類支配地域とバグア競合地域の境にあり、アメリカ西部戦線における重要な都市。

 荒野と砂漠の広がるその都市から遠く離れた小高い丘に、1人の女性の姿があった。
 金の長い髪に燃えるような赤い瞳。ボンテージの上になぜか白衣という、奇妙な出で立ち。
 このような所に一人でいるのは危険なのだが、彼女には関係のないことだ。
「さて、もうそろそろ私のキメラ達が暴れてくれると思うんだけどねぇ‥‥」
 彼女は少々変わり者で、自作のキメラを送り込んではその様子を眺めて楽んでいる。
 彼女の名前はリーゼンブルグ。ただの美しい女性に見えるが、れっきとしたバグアである。


 
 砂漠の真ん中に建設されたフェニックスの街は、
 アメリカ西部の防衛における重要拠点となっている。
 アリゾナ州と言えば以前はヴァルキリー級2番艦ヴァルトラウテの建造なども行っており、
 人類・バグア両軍に注目された土地である。
 しかしこの街には何もない。
 前線で捕獲されるキメラを研究する施設、SESの整備施設、街の外れの要塞『グレイブ』。
 要塞の規模はそれなりだが、重要な施設といえばそれぐらい。
 前線の街にありがちな構成だ。
「‥そんな何もない街にご苦労なこったぜ、バグアの皆さんはよ」
 市内警備を担当するダスティン・マコーミック中尉はこれみよがしに溜息をついた。
 背もたれに身体を預けて、脚は机の上。
 くわえていたタバコを指で挟んで口元から外し、だらしなくあけた口から紫煙を垂れ流した。
 やる気というものがどこにも感じられない。
 既に机の上に灰皿には安いタバコが山盛りになって溢れかえっている。
 キメラが現れてから既に20分。
 彼はモニター越しにキメラの動きをうかがっていた。
 広い発令所の中では大勢の兵士があわただしく動き回っているが、
 彼の周りだけは時間が緩慢に流れていた。
「‥呼ばれたと思ったのですが、気のせいですか?」
 ダスティンは身体を少し起こし、声のした背後を見やった。
 扉をあけたすぐの場所で、ステイシー・オハラ伍長が
 普段からきついまなざしを一層険しくしてマコーミックを睨んでいた。
 すこしくすんだ色合いの長い金髪、スラっとした脚線。
 その表情さえ無ければ文句なしの美人、とマコーミックは今日も思った。
「呼んだよ。こいつをなんとかして欲しくてね」
 マコーミックは大きなモニターに向き直る。
 そこにはほんの少し前に現れたキメラが大写しになっていた。
 泥の塊をこねて適当に目と口をつけたような外見のキメラが、
 口から霧を吐きながら壁を溶かしてた。
「醜いですね」
 言葉に嫌悪の色はなく、ただ感想を述べたといった体だった。
「美しい必要はねえからな」
 マコーミックはモニターの画像をほんの少し前の動画に差し替える。
 15分前、彼女より先に送り込んだ歩兵小隊との戦闘の記録だ。
 結果は惨敗と言ったところだろうか。
 キメラは歩兵の小銃をものともせず、手榴弾やロケット弾などの一撃にも怯む様子がない。
 能力者が業を煮やして刀で切りかかっていくが、その刀も刀身を溶かされてしまった。
 武器を失った能力者は伸びてきた触手に薙ぎ払われて気を失い、
 他の歩兵達に抱き起こされて帰ってきた。
「‥見ての通りだ。こいつにはまともな攻撃はさっぱり効かん。
 能力者の攻撃なら少しは通るみたいだが、普通にやったら武器を溶かされる」
 SESが攻撃の瞬間に発生させる衝撃波は確実に効いてはいる。
 苦悶の声をあげるわけではないが、能力者の攻撃はキメラの身を削りはした。
「‥‥で、どうして皆してストリップしてるんですか?」
「好きでしてるわけじゃねえよ‥」
 マコーミックはもう一度溜息をついた。
 侵攻するキメラは周囲にも薄く霧をまとっており、
 それが周囲の歩兵の衣服を溶かしているのだ。
 戦闘が終わる頃には服はぼろぼろで、下着が残っていれば良いほうだ。
 何名かの兵士は悪いことに、なんというかその、
 わかりやすく言うとぶらぶらさせていた。
「‥‥他の方に変わってもらえませんか? これは幾らなんでもその‥」
 オハラ伍長は顔を赤くして目を背けている。
 戦うのは怖くなくても、こういうのはダメらしい。
「却下だ。周りを見ろよ。残念ながらお前とたまたま街に居た傭兵達しかあてがねえ」
 発令所内があわただしいのは、目の前のキメラだけが理由では無い。
 ほぼ同時に他2箇所でもキメラが出現している。
 その対処に追われ、余剰な戦力は無きに等しい。
「‥‥わかりました。では行ってきます」
「ああ、頼んだよ伍長。くれぐれもこの先、50m以上は進ませないでくれ」
「‥それが本題なんですね?」
 伍長の表情が変わった。
「そういうことだ。頑張って働いてくれ」
「‥その向こう側、関係者立ち入り禁止って書いてありますけど何が‥」
「君には知る権利がない」
「施設内防衛の1区画を任される私でも、ですか?」
「そうだよ。くれぐれも傭兵には喋るなよ」
 オハラ伍長はきつい目つきで中尉を睨むと、
「了解しました」と無愛想に言ってその場を後にした。
 中尉は視線だけで見送る。
 足音が遠ざかり聞こえなくなったのを確認すると、
 正面のモニターに向き合った。
「偶然‥じゃねえな。しっかし、なんでわかったかなあ‥?」
 中尉はタバコの火を灰皿に押し付け潰す。
 外壁の向こう、防衛ライン、施設内の三箇所に現れたキメラは、
 若干の方向性の違いを見せながらも同じ方向へ向かっている。
 キメラの感覚器官は通常の生物と同様の物が使われている場合が多いが、
 人の身では知りえない何かを感知する器官を備える者も居る。
 真相はわからないが彼らにはわかるのだろう。
 それがこの奥にあるということが。
「おい、キメラの居る区画の画像は別に分けて保存しておいてくれ」
「はっ。‥しかし、良いんですか?」
「良いんだ。撮れ」
 あとで必ず必要になる。
 こいつらは注視すべき敵だ。
 データは多ければ多いほど良い。
「伍長には内緒にしておいてやるから。コピーも配ってやる」
 そういうシーンぐらいなら機密とかに触れないから、と心の中で付け加える。
「そ‥そうですか?」
 真面目を装いつつ何人かがにやけた顔をし始める。
 男性オペレーター達はこれから仕事に邁進する振りをして、
 モニターを真摯に凝視するだろう。
 どことはいえない場所を起立させながら。
 あとなにがどうとは言わないが伍長は今晩‥‥‥になるのだろう。
 ああ、かわいそうに伍長。
 美人で強気で脚がきれいだったばっかりに。
 こんな地方軍に勤務したばっかりに。
 心の中で思ってもない憐憫の情を棒読みしつつ、
 メインのモニターに現場の画像を大写しにした。
 

●参加者一覧

龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
α(ga8545
18歳・♀・ER
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
朱鳳院 耀麗(gc4489
28歳・♀・HG

●リプレイ本文

 簡易なブリーフィングではプリントアウトした写真で説明が行われた。
 話を聞き終わった傭兵達の反応は三者三様と言った状態で、
 困惑の色が強かった。
「一戦遣り合って相手の情報もこれだけ判ってて女性仕官を送って来るか。
 上層部もよっぽど好き物なんだな」
 今回唯一の男性である龍深城・我斬(ga8283)は不機嫌そうだった。
 確かにそういう評価をされても仕方ない編成ではある。
「仕方ないのは本当よ。私以外に動ける人間が居ないのも。‥ただ」
 ステイシー伍長は集まった傭兵達を見渡して眉間を押さえた。
 男性1に女性8。
 それも男性が好きそうな体型の女性ばかり。
「服や装備を溶かす溶解液‥厄介というか、なんというか‥」
 言葉を濁すラナ・ヴェクサー(gc1748)。
 言いたいことはわかる。
「ま、こういう仕事も天運だと思って諦めたほうがいいよ」
 樹・籐子(gc0214)はラナの肩を叩く。
 その視線はなぜか胸やお尻に向けられていた。
「‥何が言いたいんですか?」
「別に?」
 ラナは薄々だが樹の言いたいことを理解していた。
 目の前には乾 幸香(ga8460)、α(ga8545)、リュティア・アマリリス(gc0778)、
 ミリハナク(gc4008)、朱鳳院 耀麗(gc4489) 、ステイシー・オハラ、そして樹。
 胸のボリュームで格差が明白な人達ばかりが並んでいる。
「‥天運かな‥?」
 しょんぼりしつつ、ラナはサングラスを外した。
 こればかりは替えの効かない大事な品だ。
 大事にケースにしまいこみ、ステイシーに預ける。
 ふと視線を感じて振り向くとミリハナクと目が合った。
 彼女の目が怪しく輝いているようにみえて、慌てて視線を逸らした。
「お仕事には違いありません。頑張りましょう」
 空気を打ち消すように、おっとりした声でαは言う。
 楽観的ではあったがやる気はあるようだった。
 話が済んだところで、傭兵達はそれぞれ武器を片手に部屋をでる。
 時間は多くは無い。
 服の心配はするべきだが、キメラは実際に脅威なのだ。



 施設内地下通路、外部の壁にも近い場所。
 傭兵達が到着した頃には、壁の穴は更に広がっていた。
 数箇所に照明はあるが視界は暗い。
 濃密な霧があたりに拡散している。  
「作戦通り、短期決戦で片付けます」
 乾はベオウルフを大きくスイングさせ、
 連続してソニックブームを放つ。
 続いて樹がSMGを連射して追い討ちをかける。
 一心不乱に壁を溶かしていたキメラだが、たまらずうめき声をあげた。
「効いているわ」
「よし、一気にこのまま‥」
 ステイシー伍長が言葉を切る。
 キメラが傭兵達のほうに向き直り、口から大きくを息を吸い込んでいた。
「来るぞ!」
 龍深城が警告するが、それで避けられるようなものではない。
 キメラのブレスは傭兵達を巻き込んで包み込んだ。
「‥あ‥」
 最初にαが声を上げる。
 突撃しようと前に出ていた分、ブレスの影響をもろに受け、
 あっというまに服がぼろぼろになっていく。
「きゃぁんっ、やだ!」
 崩れ落ちそうな服をほどけないように抑えるが、
 善戦むなしくキレイな肌をカメラの前に晒してしまう。
 大きな胸は手入れが行き届いて染みひとつなく、
 運動したためにやや汗ばんだ肌は実になまめかしくみえる。
「た、龍深城さん。前を見たら駄目です」
「あ、‥ああ」
 αに涙をこらえるような上目遣いで言われ、龍深城はすこし後ずさった。
 漫画的な表現をするなら鼻血を吹いてもしょうがない一幕だっただろう。
 思わず顔を背けた龍深城の右腕の袖が崩れ落ちた。
 多少の差異はあったが、他の者も徐々に衣服が崩れ始めていた。
「完全に溶け切る前に‥手早く片付けましょう!」
 リュティアがブレスを突っ切るように走る。
 上着が崩れて下着があらわになっているが、気にしてはいられない。
 このままではαと同じになってしまう。
 だがキメラも必死だ。
 ブレスを抜けたリュティアを触手のなぎ払いで迎撃した。
「きゃっ!」
 弾かれてしりもちをつき、
 手で前を隠そうとするがその腕と胴、首を触手で捕まれひきずり倒される。
 とてもほどけそうにない‥
「う‥くぅ‥」
 苦悶の表情を浮かべるリュティア。
 痛みに耐え、頬を紅潮させる。
 本人が苦しんでいるのはわかるが、
 見ようによっては恍惚とした表情にも見えた。
 いや、苦悶の表情であってもそういうのが趣味という人種もいるだろう。
 詳しくは語らないが。
 リュティアを絡めとった触手は徐々に力を増していたが、
 朱鳳院が9mm短機関銃でそのほとんどを追い払った。
「耀麗様、ありがとうごさ‥」
 そこまで言って、顔をあげたリュティアは絶句した。
「‥どうかしたか?」
 彼女も上着の白衣やブラジャーも取れかかっているのに、
 まったく隠すような素振りがない。
 しかも、千切れて短くなった白衣の裾あたりからは
 彼女が下を履いていないという事実も見え隠れしている。
 内股にはそれらしい紐が何もない。
 核心部が今にも見えてしまいそうだった。
 いや、そのうち隠れもしなくなるだろう。
「そんなに恥ずかしがらなくても良いじゃろうに‥」
 心底わからないといった風情で朱鳳院は首を傾げるが、
 その拍子にブラジャーの紐の片方がはずれ、たわわな中身が‥。
「い、いけません!」
 リュティアが急いでそのブラジャーを拾い上げる。
 ぎりぎりのところでぽろりは回避した。
 が、戦闘続行しようとする朱鳳院と大事なところを隠そうとするリュティア、
 という壮絶な戦いが発生し、実質戦力が2人減った。
 残ったのは龍深城、乾、樹、ラナ、ミリハナク、ステイシー。
 傭兵達の衣服はボロボロだったが、外傷自体は多くは無い。
 それに対してキメラは遠距離攻撃で既にボロボロだ。
「‥やっぱり気になるわね」
 余裕が出たところで樹は監視カメラを見上げる。
 カメラはしっかりとキメラと傭兵をとらえていた。
 キメラを監視する目的を建前としているため、方向はキメラに向けてはいるが、
 女性の裸がしっかり写るように向きが微妙に調整されている。
 樹は一歩下がって自分の身体をその視線から外した。
 この時、カメラの向こうでオペレーター達が大騒ぎしていたが
 聞こえないのは幸いだっただろうか。
 彼女はさきほどからカメラの位置を気にした配置を心がけ、
 他のメンバーを男性のねっとりした視線から守っていたのだが、
 そのために逆恨みも受けていた。
 心底どうでも良いことだが今回は付け加えておく。
「そろそろとどめよ!」
 ステイシーがイアリスを構える。
 胸の前で剣を構えているのでわかりにくいが、彼女の下着もそろそろ危ない。
 ブラジャーのベルトやストラップが千切れかけている。
 ここで決めなければ次はないだろう。
 もちろん下着の耐久度的な意味で。
 傭兵達は手に武器を持ち、スキルのバックアップを全て使い全力で攻撃をしかける。
 乾は変わらずベオウルフを振るい続ける。
 縦に横に斜めに。
 斧を振り回すたびに黒を基調とした可愛い下着がぶちぶちと音を立てる。
 ビスチェは徐々に穴あきになり、ショーツも紐が‥
「乾さん!」
 龍深城が後ろから彼女の腕を取り、下がらせる。
「あっ‥」
 後ろに下がった乾のショーツがはらりと切れるが、
 ぎりぎりのところで手で掴み事なきを得る。
「あ‥ありがとう」
「ど‥どういたしまして」
 龍深城はそちらを見ないように顔を背ける。
 乾はふと、龍深城の手の位置に違和感を覚えた。
 どうして利き手が開いているのに、逆手で腕を取ったのだろう。 
 肩も何か不自然に上がっている。
 何かを脇下に釣っているようにも見えるが、
 コートで何なのかわからない。
 小さな疑惑は、大きな音にさえぎられる。
 残ったメンバーがキメラに止めを刺そうとしていた。
「イーティングワン! 一喰いしますわ」
 ミリハナクがインフェルノを横薙ぎに切り払う。
 ソニックブームを交えた強烈な一撃はキメラの胴体は真っ二つに割れた。
 その瞬間、膨らんでいた風船のようにキメラがはじけた。
 キメラの中の空気が周囲に一気に拡散し、
 霧状の溶解液が辺り一帯を覆う。
 最後に残っていた砦とも言える下着がちぎれ、
 パンツ以外でほとんど着ているものは残っていない。
 ターミネイターで比較的安全に戦っていた樹も、
 一気に噴出したこれはかわしようがなかった。
「わ‥!」
 破れた紺のロングパンツがずりおち、ストリングビキニも紐があっさり切れる。
 上半身のワイシャツを引きおろし、座り込んで大事なところだけは隠した。
 だが溶解液の霧は徐々にシャツすらも溶かし始めている。
 この姿勢もいつまでも完全ではない。
 悪いことにカメラもこちらに焦点をあわせ‥。
 パンッ、と軽快な音がしたカメラが吹き飛んだ。
「‥やりたくなかったけど、仕方ないよね」
 敗北を悟った樹は迷わずカメラを撃っていた。
 シャツはほとんど用をなさなくなったが、毛布を取りに行く時間は稼げた。 
 同じくやや後列だった龍深城もコートやズボンが溶けていく。
 その拍子に彼の懐にあった何かが床に転がり落ちた。
「‥龍深城さん?」
 黒の下着を必死に抑えながら、乾が鋭い目で龍深城を見た。
「あ‥」
 龍深城の懐にはデジタルカメラが忍ばせてあった。
 彼はこれを抜刀・瞬で抜いて天国を撮影し、
 再び抜刀・瞬で収納するというスキルと錬力の無駄使いをしていたのだが、
 今それが完全にばれてしまった。
 女性から殺意のこもった視線が集中する。
 そのことに気づいた龍深城は、ごまかすような苦笑いを浮かべた。
 当然誤魔化せるわけもない。
「いや、これは‥」
 言い訳をする振りをして脱兎のごとく逃げようとするが、
 それが許されるはずもない。
 紳士であることを信じて随伴をぎりぎり許容していたのだ。
 獣相手に容赦など発生しないだろう
 龍深城はあっさりと捕まってカメラを取り上げられてしまった。
 カメラの破壊は免れたがその分、怒りの矛先が分散しない。
 龍深城は命の危機を感じていた。
 じりじりと、武器を強く握りこんだ女性達が近づいてくる。
 これはもしかして、尻の穴まで撮影されて晒される流れなのか。
 龍深城は仕事中、キメラとは別の理由で悲鳴を上げていた。
「‥何か疎外感を感じる」
 そんな騒ぎの外枠。
 ラナは胸元を押さえてペタンと座り込んでいた。
 参加メンバーの女性の中で、彼女は最後まで視線を受けることはなかった。
 彼女の妄想ではなく、カメラも彼女のほうを向かない。
 それが良いことなのはわかっているが、やはり女性として自信は失ってしまう。
 樹のかけてくれた毛布で大事なところを隠しながら、小さく溜息をついた。
「ふふ、そんなこと無いですわ。貴方の肌もとてもきれい」
「あ、あの、ミリハナクお姉様‥!?」
 あられもない下着姿を特に隠そうともせず、ミリハナクが近寄ってきた。
 ミリハナクの指がラナの頬を這い、顔は徐々に近づいてくる。
「溶解液で身も心もバットステータスでしょ?
 でも私が直してさしあげますわ。じっくりたっぷり‥」
 肌と肌が密着している。
 こすりつけるような太腿が太腿に触れる。
 ラナはミリハナクの肌を、無性に熱いと感じた。
「待ってお姉様! キュアはそういう使い方じゃ‥!」
 ラナは慌てて逃げようとするが、既にミリハナクの腕がしっかりと撒きついていた。
 その後、宣言どおりじっくり肌をなでられはしたが、貞操だけは守られた。
 もしかしたらそれ以後何かあったのかもしれないが、ラナは口を噤み何も語らなかった。



 惨状のあとは凪のように静かだった。
「溶けてしまった衣服に関しては後でULTを通じて同じものを用意します。
 今着ている衣服は差し上げますので自由にしてください。
 ‥データの処分に関してはこちらで責任を持って行いますからご安心を」
 ステイシー伍長の声はだいぶと枯れ、疲れていた。
 理由が戦闘でないのは明白だ。
 彼女の後ろでは頬を腫らしていたり、目元を青くした男性達が
 かなりの長時間正座させられていた。
 本来はそんな文化は無いのだが
 このほうが謝意が伝わるかららしい。
「バイオレンスだぜ‥」
 呟いた龍深城も状況は酷かった。
 幸い味方からの暴行は受けなかったが、
 治療の際は練成治療を使用してもらえず、
 包帯を全力で引っ張って巻かれ、消毒液を傷に直接流し込まれ、
 散々に死なない程度の痛みを与えられ続けた。
 そして今は正座の時間。
 やたらと延長しているが、立ち上がろうにも女性の視線が痛い。
 座ったままでも足の痺れを自覚できそうな気がした。
「大変だな。お前も」
 ダスティン中尉はタバコをまずそうにふかしている。
 なぜか彼だけ、誰からもお仕置きを受けていない。
 人徳、ではないだろうが何か予防線を張っていたのだろう。
「‥そういえば」
 龍深城はダスティンにだけ聞こえる声量でつぶやいた。
「あ?」
「あの壁の向こうに何があるんですか?」
「‥聞きたい?」
 ダスティンの目が不意に鋭さを増す。
 龍深城はそれだけ確認すると、目をそらした。
「‥いや、聞きたくない」
「あっそ。そういう感性、大事よ」
 ダスティンはタバコを灰皿におしつける。
 既にいつものやる気の無い目に戻っていた。
 しばらくは女性達が事後のことで喧々囂々やりとりをしているが、
 ひとまずは街は守られた。
 そして街の秘密も。
 この秘密が何か、語られるのはまた別の機会になるだろう。