タイトル:New kind Childrenマスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/06 15:31

●オープニング本文


 能力者になることに年齢制限はない。
 能力者となれば直ぐに一定以上の能力が保証されるため、
 どのような年齢の者も、能力者になれば歓迎された。
 そのため、10代前半の能力者の傭兵もかなりの数が存在する。
 若年層にまで能力者が多い理由は、逼迫する戦況が理由だ。
 若いからと、徴兵を躊躇う良心が例え軍人にあったとしても、
 若いから徴兵しないで済ませるだけの余裕が大人にはなかった。
 そうして兵士になった若者に平時通りの学校教育を施そうとする試みは、
 カンパネラ学園に始まって全世界のいたるところで行われていた。
 規模こそ同学園に及ばないものの、
 南中央軍でも資金難の中から可能な限り教育への投資が行われていた。
 但し、その教育には良心では賄えない問題も常に存在した。

(「気持ちの悪いガキどもだ」)

 ホワイトボードに向う講師のビトールは、
 背後から生徒達の視線を受けながら、舌打ちを必死にこらえていた。
 前線での危険な任務から逃げられるからと、この講師として仕事を引き受けたはいいが、
 ここは彼が想像する以上に厄介な教壇だった。
 ビトールは問題を書き終えて、振り向き指示を出す。
 能力者の子供達は黙々と問題を解き始めた。
 瞳には人間らしい感情は写っていない。
 なくしたのか、それとも元から持っていなかったのか。
 ビトールにとってこの怪物たちは恐怖すべき対象以外の何者でもなかった。
 能力者ゆえの恐ろしい習熟速度と得てしまった諦観の眼。
 子供の身体に大人の諦めを備えて、いつも自分を見つめてくる。
 昔は出来の悪い生徒に腹を立てていたが
 彼らの異常さを目の当たりにしてしまうと
 出来の悪い普通の生徒が如何に可愛かったかと思う。
「この問題の解説を終えたら、午前の講義は終了とする」
 早くこの部屋を出よう。講師の準備室に戻って煙草でも吸おう。
 今のビトールの頭にはそれしかなかった。



 昼の休憩時間、講師室に現れたのは先ほどの教室の生徒の、
 ジェラールとコラソンだった。
 二人は教室の中では年長の二人で、クラスの仕事の手伝いをしてもらっている。
 最終的には士官教育にも通じる部分だが、今はままごと程度だ。
 その二人が、妙に神妙な顔で並んで現れた。
 ビトールは何事と少し身構える。
「実は‥本が欲しいんです」
「‥? 参考書か?」
「いえ、‥その」
 漫画の本、らしい。
 私物の類なので整理整頓できるなら何も言われないが、
 借り物の部屋に物が増えるので、なんとなく言い出しにくかったらしい。
 ビトールは少し笑顔を作った。
 なんだ可愛いところあるじゃないか。
 普段からそうしていれば良いのに、と勝手に思う。
「なら先に本棚が居るな。教科書で一杯だろう?」
 本来なら持ち運びに支障ない範囲に収まるように配慮するべきだが、
 彼らの場合生活の場所も軍と共有であり、軍にしか存在しない。
 最低限に絞っても部屋に物が増えるのは仕方ない。
 ビトールは忘れがちだった年長者の気遣いを思い出し、
 気前よく各種の申請書を準備し始めた。



 翌日は演習ということでほかの能力者を交えての戦闘訓練となった。
 キメラの動きを模した機械の標的や、能力者を強化人間として想定した戦闘など、
 限りなく実戦に近い訓練が少年少女に課された。
 その訓練の昼食兼反省会の場で、ジェラールは昨日の話を楽しそうに語っていた。
「‥ということをして、教師達の心証を良くしようと頑張っています」
 この会話を聞いたらその教師、突っ伏して泣くんじゃないか?
 傭兵の1人はそう思ったが、口には出さなかった。
 聞かなかったふりして手元のスープを飲み続ける。
「でも流石に可愛い子供の演技もネタ切れで‥」
「ねー」
 困ったねー、と可愛い仕草で見交わしあう少年少女。
「今日は本棚の注文するついでに、
 あのおじさんの喜びそうなものを何か買って帰ろうかなって思うんですけど、
 それはちょっとリサーチ不足で‥。不甲斐ないです」
 不甲斐なく感じる部分でもないと思ったが、
 傭兵達は聞き流して「それで?」と話を促す。
「それで本題なんですけど、もし良かったらお土産選び、手伝ってもらえませんか?
 僕らじゃ何がいいか思いつかなくて‥」
 頭は良くても、人並みに戦うことを覚えても、
 やはり子供の発想力の枠は越えられなかったようだ。
 ラストホープの高速艇が迎えに来るのは明日の昼。
 時間の問題は無い。
 どのみちこれからオフには変わりない。
 傭兵達は顔を見合わせ、小さな戦友達の提案をどうするか考えた。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
桂木菜摘(gb5985
10歳・♀・FC
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD
エティシャ・ズィーゲン(gc3727
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

 話を聞いた傭兵達の反応は様々だった。
 苦笑したり、面白がったり、お出かけの予定に騒いで見たり。
 年長者組は概ね苦い反応だったろう。
「まぁ、よくできたほうだが‥まだまだだな。
 もっといろいろなことを学べ。
 ‥って、聞いてるのか、お前ら‥?」
 須佐 武流(ga1461)の話は誰も聞いていなかった。
 傭兵達の年少組ときゃいきゃい騒ぎながら、今日の予定を立てている。
「良いじゃないですか。俺達もついでに羽を伸ばしましょう」
 須佐の反応に苦笑して、麻宮 光(ga9696)がフォローを入れる。
「プレゼント‥、何ガ、良イ、デショウ、カ?」
 ムーグ・リード(gc0402) は子供達の話を聞きながら考える。
 定番の物であればいくつか既に候補にあがっているが、
 何か手伝えることはないかと思案する。
「何にするか考えるなら、実際に見て回ったほうが決まりやすいと思うわ。
 折角、街が近いのですから皆で歩きながら考えませんか?」
「‥そうですね。そのほうが良さそうです」
「じゃあ、決まりね」
 星月 歩(gb9056)が話に区切りをつける。
 どんなものであれ、実物を見て選んで決めるほうが良い。
 店で探すのなら店員のアドバイスも得られるだろう。
「決まったか」
「俺達も付き合うか」
 傭兵達は各々席を立つ。
 元から予定の曖昧な時間だったのだ。
 目的があるほうが人生に張りがあるだろう。




 まず一行は市街の中央に近いデパートに向った。
 ここなら文具やネクタイ、腕時計と言った定番の品がほとんど手に入る。
「折角なのでととさんにも何か買っていくです」
 桂木菜摘(gb5985)は並んでいるネクタイを一つ一つ見て回っていく。
「‥やっぱりネクタイがわかりやすいのかな」
「腕時計なんかも、わかりやすいですね。‥でも」
 八葉 白夜(gc3296)はコラソンの横から、腕時計を手にとって見る。
 腕時計は良い物はすぐに予算を越える。
 そして高価な物ほど仕事では実用に供される。
 贈り物は気持ちが大事だが、どうせなら普段使える物が良いだろう。
「ネクタイなら、これとか良さそうじゃないですか?」
 歩が一つを手にとって、ジェラールに渡す。
 紺地小紋のシンプルなデザインで、どんな席でも使いやすい物だ。
「‥うん、これなら似合いそうだね。これにするよ」
 ジェラールは手にとってレジカウンターへ小走りで走っていく。
 コラソンはここではあまりこれといったものを見つけられずにいた。
「歩おねーちゃん」
 菜摘が手に何本かネクタイを持って、戻って来る。
「どうしました?」
「ととさんに父の日のプレゼントを買いたいのです。
 ‥どうやったら選んだら良いですか?」
 ちょっと涙目だった。
 ネクタイなら高級な物でなければ価格も手頃と探してみたはいいが、
 何がどう違うのかさっぱりだったのだろう。
「えと、そうですね‥」
 歩は一つ一つ丁寧に取って、ネクタイを選び始めた。
 彼女の父親のことを良く知るわけではないが、
 菜摘の言葉さえ信じていけば、必ず合う物があるはず。
 歩はまず、菜摘の父親の仕事着に関して聞きだすことにした。



 白夜とエティシャ・ズィーゲン(gc3727) は
 揃ってジッポライターを奨めた。
「ビト―が煙草好きなら煙草もいいと思うけどねぇ。
 好きなのを贈るのは、プレゼントの常套手段だよ?」
「でも、僕らの年齢じゃ‥」
 当然のように雑貨店のおじさんは売ってくれない。
 注意されてお終いだろう。
「そーいえばそうだね。ならおねーさんに任せなさい」
 エティシャは胸を張る。
 誰もが一抹の不安を抱いていたが、とりあえず口には出さなかった。
 どのみち店頭に向えば結果は出る。
 そしてその不安は大方の予想通りの結果になった。
「嬢ちゃんあと5年経ってから出直しな」
 カウンター向うのおじさんはそういって素気無く扱う。
「ちょ!? オイオイオイ! この証明書が見えないのかぃ!? 私は今年で28だぞ!」
「お母さんかお姉さんのサイフから盗んできたのかい?
 うちもそういうの厳しく言われてるからダメだぞ。
 ほら、帰った帰った」
 証明書はあっても見向きもしない。
 客にならないと判断したのか商品の整理を始める始末である。
「てめえ、表出やがれ!」
「う、うわっ!?」
 切れたエティシャが店員の胸倉を掴んでカウンターから引き摺りだそうとする。
 幾らサイエンティストとは言っても能力者には違いない。
 見かねて周りが止めに入り、謝り倒してなんとか警察を呼ぶのだけは止めてもらった。
 ちなみに煙草は同行していた白夜が購入した。
 プレゼント、というより慰謝料代わりな気がする買い物になった。
 

 
 デパートから出た一行は電気屋に向う。
「フォトフレームとか、良いんじゃないかと思うよ」
「フォトフレームですか?」
 プレゼントの決まっていないコラソンは首を傾げた。
 どんな物なのか想像できないらしい。
「デジタルの写真立て、みたいなものさ。実物を見たほうが早いね」
 そんな麻宮の提案で一行は近隣の大きな電気屋に向うことになった。
 商品として並ぶフォトフレームにはそれぞれ涼しげな熱帯魚の画像や、
 風を感じられそうな森林地帯の風景が写っていた。
「どうかな?」
 一つを取り上げて、麻宮は示す。
 取り扱いも簡易で面倒なこともない。
「これから写真とか一杯取ったりするだろうし、思い出をかざるには良いんじゃないかな」
「‥‥‥‥」
 コラソンは何か思いにふけるようにフォトフレームを見ていた。
 写真の風景の向うに心が飛んだのか、視線はそこに集中している。
「‥どうかな?」
「これにする。私からはこれにするわ」
 麻宮が再度聞くと、嬉しそうにコラソンは答えた。
 気に入ったようだった。
 もしかしたら自分用にまた買うかもしれない。
 麻宮はレジに走る彼女の背を見て、正解に近い答えを思い描いていた。

◆ 

 夜空に星は見えない。
 街の明りが近くて、かき消されてしまっている。
 それでも夜の雰囲気は心地よい。
 標高の高い宿舎まわりは、夜になると良い風が吹く。
 エティシャは深く吸い込んだ紫煙を空に吐き出す。
「‥先生は起きてて良いのかい?」
「明日は休みだ」
 煙草を吸う人間は、灰皿を求めて同じ場所に集まる。
 それはこの宿舎でも同じことだった。
 いつもと違うのは、吸わない人間も多いことだろう。
 エティシャの他に白夜、須佐も顔を出している。
「抜け出してきた。流石に子供相手は疲れる」
 そう言ったのは須佐だった。
 子供達は今、ムーグの提案で木彫りの人形作りに取り掛かっている。
 初めての作業に戸惑いながらも、楽しそうに作業は進んでいた。
 この年代の子供に刃物は本来危ないのだが、能力者ばかりなのでその心配も薄い。
 剣や斧の使い方よりは難しいだろうが、アーミーナイフの使い方が応用できる。
「知ってるかどうかわからんが、今回のプレゼントは打算まみれだ」
「‥なんとなくそんな気がしてたよ」
 須佐の言い分に、納得したようにビトールはうなづく。
 溜息と一緒に煙を吐き出しながら、乾いた笑いを浮かべていた。
「だが打算まみれでもそのうち心からそう思うようになって、
 打算ではなく本当に信頼できるようになるかもしれない」
「そうかねえ。一度捻くれたら捻くれたままだと思うぜ」
 ビトールは須佐の言葉を流して、新しい煙草に火をつけた。
「最近は喫煙者に風当たりきついね」
 エティシャももう一本火をつける。
「全くだ。教師になって最初にそれを後悔したぜ」
 学校という性質上喫煙は当然推奨されない。
「‥‥子供はさ。大人の知らないうちに成長するんだよ」
 しばらく間があって、ビトールが話を続ける。
 1人の大人で関われる時間は少ない。
 囲い込みでもしないかぎり、子供は社会を写す。
「それが頼もしくもあり、不安でもありますね」
 白夜は言いながら、妹達のことを思い出していた。
 手の掛からない良く出来た子だった。
 それゆえに、色んな感情が斑になって彼を苦しめている。
「‥そうだねー」
 エティシャはビールを呷る。
 無気力のきわみのような返事ではあったが、彼女は彼女でこのやりとりを楽しんではいた。
 結局その日はだらだらと、日付が変わるまで解散することなく、
 酒と煙草が消費された。




 翌日、ビトールが起床したのは9時頃だった。
 今日は休日なので子供達の面倒を見る必要は無いので、部屋にいても良かったのだが、
 傭兵の年少組と缶蹴りに興じる子供達の声が聞こえて、
 なんとなく外に出ることにした。
 ビトールが外にでるころには遊んでいた子供達は解散していた。
 代わりに、手に手に包みを持って集まってくる。
 ビトールが寮から出たのを見つけて、戻ってきたのだろう。 
「先生、あの、これ‥」
「ん?」
 昨日のうちに須佐が話していたのでプレゼントがあるのは知っていた。
 打算づくなのも同様だった。
(「でもまあ‥」)
「確かそろそろ誕生日だったと思いましたから、プレゼントです」
「良いのか‥? ありがとう」
 知らない振りの演技を精一杯通した。
 子供は、可愛い。
 打算にしても大人のしていることに比べたら、大したことではない。
 大人の鏡である子供がそんな風に育っても、
 それは子供の責任じゃない。
 ビトールは笑顔で子供達の精一杯のプレゼントを受け取った。
「この人形は‥‥どうしたら良いんだ?」
 木彫りの人形を手にビトールは首を傾げた。
「‥‥ごめんなさい。聞きそびれました」
 文化がまるっきり違うため、調度品にも玩具にも呪いの品にも見えるから困る。
 とりあえず本棚の上をあけて並べれば見栄えが良さそうだと、
 ビトールはぼんやりと考えていた。
 




「上手く、行ったでしょうか?」
「上手く行ったと思うよ」
 プレゼントを渡す様子を遠巻きに見てから、
 傭兵達はこっそり宿舎から引き上げた。
「上手ク、付キ合ッテ、イケル、ト、イイ、デスネ」
 子供達も大人も。
 ムーグの言葉に全員が頷く。
「あと2時間あるけど、どうする?」
 高速艇が迎えにくるまでまだ時間は残っていた。
 観光をするなら今しかないだろう。
「昨日はあの子達の買い物を優先したから、自分の買い物がしたいかな。
 おにいちゃん、良かったら一緒にいかない?」
 お花見以降、一緒に過ごす時間が無かった。
 往復の時間を考えても、1時間以上の自由時間がある。
 歩の声は嬉しさで跳ねていた。
「ああ、構わないよ。他のみんなは?」
 麻宮は他の全員を見回した。
 傭兵達は残された時間を有意義に使うために散っていく。
 今は思い思いに羽を伸ばそう。
 明日また、人として戦うために。