タイトル:【AA】弔いの砲火マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/30 21:26

●オープニング本文


 ピエトロ・バリウスの戦死とユニヴァースナイト弐番艦の大破の報せは、
 勝利に酔いかけた欧州軍本部をその黒い翼で一打ちした。
 チュニジア沿岸に恒常的な拠点を確保するという大業を果たした将兵の顔も、暗い。
 それは勝利と言う言葉で表すには余りにも苦い味わいだった。
『数百人規模の一般人の収容所があるようだ』
 そう、生き残った兵士が語る。
 場所は、かつてカサブランカと呼ばれた都市のやや北側。
 バリウスの指揮下の一部隊は、陽動のためにそこへ強襲を仕掛けようと企図していたらしい。
 陽動はもはや、果たす意味が無くなったのだが。
「彼らをもしも解放できるならば‥‥」
 バリウスから指揮を引き継いだブラットは、言葉の後ろを宙に漂わせた。
 この戦場が無駄でなかった証が一つ、増える。
 それは、暗く沈んだ空気に光を差す事でもあった。
「ブリュンヒルデ、拝命します」
 マウル・ロベルは綺麗な敬礼を返した。
 今の欧州軍は小さくとも価値ある勝利を欲している。いや、必要としている。
『比較的』損傷の軽微なブリュンヒルデで収容所を強襲、民間人を確保の上離脱するという作戦を立案するほどに。



 苦楽を共にした戦友の死はなにより辛い。
 暗く沈むバリウス配下の将兵達の気持ちは痛いほどわかった。
 信頼してきた上官、地獄のアフリカを共に駆け抜けてきた猛者。
 彼らにとって神以上の存在かもしれない中将を失う痛みは、察するに余りある。
 リチャード中佐はバリウス中将という男をよくは知らない。
 だが有能さだけはこの戦争と、彼らの部下が証明していた。
 慰めの言葉を吐くつもりはないが、前を向かせる言葉も思い当たらなかった。
 これはそんな時の作戦立案だった。
 数百人規模の収容所への襲撃作戦。
 残存するKV部隊にブリュンヒルデなど、最後の力を振り絞るように立案された作戦だ。
 誰を失っても人類は決して負けない。
 そんな強い意志を代弁するかのような内容だった。
 作戦を聞きながら集められた将兵達の眼に輝きが戻るのが見て取れる。
 作戦説明を終えたリチャードは、活力を取り戻しつつある将兵を見渡した。
「‥ダチが死んで泣きたい気持ちはよくわかる。
 だがなてめえら、良く聞け! 戦争はまだ終わっちゃいねえ。
 お前らが信じてきたバリウス中将の戦いはまだ終わっちゃいねえんだ!
 それはお前らが決着をつけなきゃ終わらねえんだよ!
 ‥あのいけすかねえ野郎は、最後までお前らを信じて戦った。
 だから、めそめそするのは今じゃねえ。
 お前らが泣いていいのは戦争を終わらせて、あいつの信頼に答えたあとだけだ!
 わかったか!!!」
 叫びが怒号となって押し寄せた。
 悲しみを怒りに変えて。
 苦しさを力に変えて。
 天を貫けとばかりに拳を振り上げ、不退転の戦士達が雄叫びを上げていた。
「それで良い。そんじゃあ、今回作戦に参加する怖いもん知らずの傭兵どもを紹介するぜ」
 リチャードはそういうと、室内後方に待機していた傭兵達を壇上に呼び寄せた。




「降下開始!」
「行け行け行け!」
 KV部隊によって開かれた道をくぐりぬけ、歩兵隊は収容所を強襲した。
 ヘリから次々と歩兵達がロープたぐり降下していく。
 まだ生きていたキメラの対空砲火に何名か食われつつも、勢いは衰えない。
「よっしゃ、総員突撃!」
 そういう本人は本来真っ先に突っ込んではいけないはずだが、
 リチャード中佐はさも当然のように自慢のガトリングガンを担いで降下していった。
 部下達も慣れたのか諦めたのか誰も止めない。
 脳内麻薬で狂戦士化しているのは彼の部下も同様だった。
 リチャード中佐は片手でロープを掴んで降下速度を調整しながら、
 頭上から弾雨を降らせてキメラの群を掃射する。
 空を見上げて火や稲妻を吐こうとしていたキメラが、数匹まとめて一気に肉塊に変わった。
 リチャード中佐の開けた穴に乗じて突破口は開かれる。
 広い敷地内に分散した戦力は集まる前に各個撃破され、
 制圧は驚くほどスムーズに進んだ。
 だが何事も全て順調にはいかなかった。
 バグアの戦力で真に恐ろしいのは、キメラではない。
「中佐、敵が強化人間を出してきました。第四分隊が全滅したそうです」
「やっぱりボスがいやがったか。
 傭兵達を呼べ。こっちも切り札を出すぞ!」
「了解です」
 通信兵は素早く無線連絡で指示を飛ばす。
 ガトリングガンの咆哮を間近にしていたため、負けじと喉を枯らして叫ぶ必要があった。



 収容所の一角。
 黒い鎧を纏った大男が、その長身に負けない大剣を振りましていた。
 旋風が吹き荒れるたびに屈強な兵士達がぼろ屑のように蹴散らされていく。
「‥まだ生きていたか」
 両足を失い、倒れた能力者の兵士の首根っこを掴み上げて持ち上げた。
 放っておけば失血で死ぬだろう。
「度し難いな。貴様らゴミ虫は今死ぬか後で死ぬかとなったら、必ず長い苦痛を選ぶ。
 さあ、命乞いはどうした? 助けてやらんでもないぞ」
「‥‥‥く」
「‥く?」
「くたばれ、化け物っ!!」
 兵士は生きていた手で手持ちの手榴弾のピンを全て抜く。
 衝撃で飛ばされた破片が男のFFに弾かれる。
 キメラ用に炸薬量を増やしたそれらを持ってしても、
 その男の手に火傷を負わせることもできなかった。
 男は無造作に残った肉の塊を投げ捨てると、死体に唾を吐きかけた。
「やれやれですね」
 いつの間にか側にいたスーツに眼鏡、僅かに乱れたオールバックの男が答えた。
 皺一つないスーツには何箇所も返り血を浴びており、
 ライフルについた銃剣の先からは未だに血が滴っている。
「どうします? 皆殺しにするまで止まりそうにもありませんよ?」
 眼鏡の男は通路の先を指差す。
 死んだ仲間の仇を討たんとばかりに、新たな一個分隊が集まっていた。
「‥ゴミめ。これだけしても力の差がわからんようだな。ならば教えてやろう。
 このアフリカに、貴様らの住む地など無いということをな!」
 男は大剣を振り回し肩に担ぐと、更に通路から現れた歩兵に突撃していった。
 

●参加者一覧

ステラ・レインウォータ(ga6643
19歳・♀・SF
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 リチャード・ジョーダン(gz0302)中佐に呼ばれ、傭兵達は嵐に向って走る。
 彼らが現場に到着して最初に見たものは、その嵐に過ぎ去ったあとだった。
 通路の端から端まで、人が折り重なるように倒れ、床や壁に血がこびりついている。
「ひどい‥」
 ステラ・レインウォータ(ga6643)は思わず口を覆う。
 足を止めそうになったステラを御守 剣清(gb6210)が肩を叩いて呼び戻す。
「‥手加減も容赦も、する必要はなし、ですよね‥」
「くっくっくっ‥。もっと大きな弔いの火が必要そうですね」
 錦織・長郎(ga8268)が暗い笑みを零す。
 景気付けなら大きな火が良い。
 大きな火こそが今必要とされているのだ。
「‥‥あの男の剣と鎧、まさか‥‥」
 アレックス(gb3735)は黒い鎧と大剣を見て何か言おうとして、言いよどんだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
 言っても誰もわからないだろうし、
 報告官に発言ごと削除されそうだとアレックスは判断した。

 傭兵達は視線で合図を送り、素早く二人を包囲する。
「むっ?」
 大剣使い側には瑞姫・イェーガー(ga9347)、アレックス、
 黒瀬 レオ(gb9668)、ムーグ・リード(gc0402)の4名。
 銃剣使いの側にはステラを後衛に錦織、御守、神楽 菖蒲(gb8448)が散開する。
 瑞姫は両方の強化人間に対して、囮となるべく移動したため、
 陣形の中では中央に近い。
「‥なるほど、貴様らがこの部隊の切り札か。
 さっきのゴミ虫どもよりは歯ごたえがありそうだな」
「‥人でいられなかった臆病者が吠えるな。目障りだ」
「それは、お互い様なんじゃないですか?」
 一触即発の雰囲気の中、最初の一瞬を掴もうと挑発がかわされる。
 神楽は言葉を吐きかけながらも隙を窺っているが、どちらも隙が無い。
「ゴミ虫だって‥‥、何いってんの元々同じゴミ虫じゃないか笑わせないでよクソ虫」
 胡乱な目で狂人そのものといった様子の瑞姫が、大剣使いを見る。
「自分にじしんがないんでしょ? 弱虫っていつもいう事が一緒だよね?」
「なんだと‥? 貴様ぁ‥」
 大剣使いが瑞姫を睨みつける。
「! ダヴィドさん、ダメです!」
 銃剣使いが焦ったようにそれを制するが、
 大剣使いは既に剣を肩から下ろしていた。
(「掛かった」)
 そう確信した瑞姫は妖刀「天魔」を構える。
 彼女は狂人のような挙動をしているが、実際には狂人になっているわけではない。
 挑発も計算にいれての行動だ。
 だがそれを間近で見ていた黒瀬は不穏な空気を感じていた。
「逃げて!」
 黒瀬の声が響いた。
 次の瞬間、大剣使いが銃剣使いと同時に瑞姫へと踏み込んだ。
「ふんっ!」
 大剣使いの踏み込みは瑞姫に届かない。
 振り上げた大剣から放たれた紅い衝撃波は、
 瑞姫の前面で舞い上がって彼女の視界を覆い‥。
「うっ‥!」
 三発の銃声が鳴り響き、激痛が胸、腹、足を焼く。
 思わず肩膝を付いた瑞姫の顔を、大剣使いの金属製のブーツが直撃した。
 力任せの蹴りに吹き飛ばされ、瑞姫は床を転がり這い蹲った。
「自分の身も満足に守れない小娘が‥」
「あまり大きな口を叩かないことです。負けた時が一層惨めですよ?」
 敵二人に対して囮となる、という位置取りの危険な瑞姫を、
 二人は最初から狙っていた。
 そして瑞姫の挑発を好機と捉え、挑発に乗った振りをしてタイミングを合わせていたのだ。
 ステラを除いた全員が再び二人を包囲する。
 背中合わせになった二人に隙は無い。
 大剣使いが咆哮を上げ、戦いは始まった。



 銃剣使いの動きは傭兵達の予想を軽く上回っていた。
 見た目こそわかりやすい軍装だったが、
 その動きは能力者のグラップラーにより近い。
 遮蔽物の陰から遮蔽物の陰へ、転がるように跳ねるように、
 変幻自在に飛びまわりながらアサルトライフルで応戦してくる。
 決して傭兵達の得意な間合いに入ろうとしない。 
「そうそう。先に言っておくと、無駄ですよ。
 私も元軍人。貴方のそういう動きが何を意味するか、けっこうわかるつもりですから」
「ちっ‥!」
 錦織と神楽が執拗に頭を狙っていたが、
 どちらも当てが外れる。
 軍人らしい動きの相手が隙を見せる意味は誘導しかない。
 気付いたからこそ、銃剣使いは執拗に自分の位置を保ち、
 ヒット&アウェーに徹する。
 銃弾が小雨のように、だが着実に4人の命を削る。
 一撃で死に至る傷はなく、ステラの回復もあるため押し負けはしなかった。
 だが、ステラの回復にも限界がある。
 瑞姫の回復に使った分もあり、もうあまり持たない。
 アサルトライフルが連射されて、神楽や錦織に何発か命中する。
「命乞い、しても良いんですよ?」
 嘲笑うような銃剣使いの言葉が部屋に響く。
 言葉が挑発であることは明らかだ。
 彼ら二人は感情を食い物にして利用する。
 それを理解している以上、傭兵達は踏み込めない。
 傭兵達が掛からないことを前提に入れながらも彼が嘲笑をやめないのは、
 傭兵の警戒を把握しきっているからだ。
「こいつっ‥!」
 御守がほか二人とタイミングを合わせ再度突撃する。
 刀と機械剣βの攻撃を織り交ぜながら、相手の反応を封じて行く。
 受けに回るのは不利と銃剣使いは、御守の攻撃を下がってかわす。
 下がると同時に距離も保たなければならない。
 銃剣使いは槍のように銃剣を突き出した。
「ぐっ‥!」
 突き出された銃剣は御守の腹を突く。
 当たり所が良かったのか致命傷には至っていない。
「これぐらいなら‥」
 御守はライフルを掴み、銃剣を固定する。
 これで相手は銃を捨てるか、このまま太刀を受けるかしかできなくなる。
 御守は残った右手で刀を振り下ろそうとして‥
「ふぅん‥?」
 興味なさそうな声を上げた銃剣使いは、ライフルのトリガーを引く。
 連続した銃声が鳴り響く。
 フルオートで放たれた十数発の銃弾が、
 御守の腹をずたずたに裂いていた。
 刀は振り下ろされることはなく、御守の指から地面に落ちる。
 銃剣使いは御守を足蹴にして、銃剣を引き抜いた。
「この銃がショットガンでなくて良かったですね」
 飛び散った血が眼鏡の片側の半分ほどを汚す。
 眼差しが光の反射に隠れていた。
 ステラの錬力はすでに乏しく、錦織にも神楽にも打開策はなし。
 近接戦闘では遅れを取るのもわかりきっている。
 万事休す。
 三人はわずかに後ずさった。



 大振りの一撃が振り下ろされ地面を抉る。
 大剣をかわしたアレックスは、装輪走行で滑るように動きながら攻勢に転じた。
「ランス「エクスプロード」‥」
 腰ダメに構えた槍がカチリと音をたてる。
「オーバー・イグニッション!」
 AUKVの装輪走行を使い、必殺の突きを繰り出す。
 大剣使いは攻撃を受けずに横へ跳んで回避する。
 アレックスの攻撃はそのまま壁に突き刺さって、壁を大量の炸薬で弾き飛ばした。
 引き抜くという作業すらせずにアレックスは大剣使いに向き直る。
 エクスプロードからまたカチリと音がした。
 炸薬のリロードの音らしい。
 大剣使いはその隙を狙って攻撃することはできなかった。
「そこだっ!」
 黒瀬のソニックブームが死角から放たれる。
 なんとか大剣で受け止めるが、攻撃の機会を逸する。
 ムーグの番天印が動きの止まった大剣使いを襲う。
 攻撃を巨大な剣の腹で受けている間に黒瀬に距離を取られる。
 誰にも反撃できず、大剣使いは剣を構えなおした。

 3人は大剣使いと対等に戦っていた。
 アレックスが正面、黒瀬が側面から背面、ムーグがサポートと、
 それぞれが役割に徹することで隙がない。
 大剣使いは、前の部隊を葬ったソニックブームのなぎ払いで3人を始末しようと試みるが、
 その必殺の1手さえも黒瀬に見切られてしまい、不発に終わっていた。
「カウント、ノコり、5、デス」
 ムーグが懐から閃光手榴弾を取り出し、大剣使いの足元になげつける。
 大剣使いは咄嗟に腕で光を防御しようとするが、
 それに合わせて無造作にアレックスが詰め寄ってくる。
「そこだっ!」
 必殺の一撃は狙い違わず大剣使いの胸へ。
 大剣使いはエクスプロードの一撃を剣の腹で受けとめるが、
 弾けとんだ炸薬は大剣にヒビを入れていた。
「ぐおおっ!?」
 閃光手榴弾は爆発していない。
 ピンを抜かれ、未だにカウントを続けているだろう。
「ブラフかっ!」
 一度守勢に回った構えを整えるのは至難の技だ。
 アレックスはその隙を与えまいとエクスプロードで更に強烈な突きを繰り出す。
 大剣とぶつかって、火花を散らしながらの鍔迫り合いになった。
 身動きの取れなくなった大剣使いを、ムーグのケルベロスが追撃する。
「‥目障り、DEATH」
 三発の銃声が響く。
「ぐっ‥」
 膝を打ち抜かれ、危うく崩れかける大剣使い。
 それでもなお変わらず剣を振るうのは流石といえるが、
 最早最初の頃の勢いはなかった。
「今だ、レオォォォォッ!!」
「はいっ!」
 アレックスとの撃剣で動きが完全に止まった大剣使いの背面から、
 ノーマークになっていた黒瀬が走りよる。
 黒瀬の身体からは赤いオーラが噴出し、右側面に掲げる紅炎に徐々に収束していった。
 走る黒瀬に合わせて、紅炎は陽炎を大きな旗のように広げる。
 跳躍した黒瀬は紅炎を袈裟がけに大剣使いに振り下ろした。
「うおおおおっ‥!!」
 ルビーにも似た輝きの軌跡が通り過ぎた後、
 大剣使いは背中から大きく血飛沫を上げた。
 傷は余りにも深く、彼の命を急速に削り取って行く。
「‥‥そうだ。力で奪われた物は力で奪い返せ。それが世の‥理‥」
 言葉が途切れ、大剣使いの力が抜ける。
 アレックスがエクスプロードを大剣から離すと、
 大剣使いはアレックスの横に前のめりに倒れた。
「‥終わった?」
 神楽と錦織は受けた傷を庇いながら立っていた。
 ステラは倒れた御守を治療している。
 銃剣使いは居ない。
 大剣使いが撃破されたのを見て逃走したらしい。
「なんとかな」
 メットを外したアレックスが、親指を立てて答えた。



 傭兵の仕事は多くの場合、戦闘のみに特化している。
 戦場において最大のリスクを背負う代わりに、
 その一瞬以外においては自由が許される。
 元民間人が多いから作業に組み込みにくいという意味も勿論ある。
 ステラは錬力が切れたあとは、負傷者の救助に回っていた。
 少しでも多く命を救えないかと必死に走り回る。
 確かにそれで何名かの命を救いはした。
 だがそれ以上に、横たわる絶望も知ってしまった。
 積みあがる死体と負傷者の真ん中で、
 黒瀬も同じものを見ていた。
「ごめんなさい‥そして、さようなら」
 死んだ兵士の眼をそっと閉じながら、黒瀬はそっと呟く。
 悔やむのは今日で終わりにしよう。
 悔やんでも、誰も帰って来ない。
 死んでいった誰も喜ばない。
 だから強くなろう、もっと。
 胸に去来する人々に別れを告げて、黒瀬は心に誓った。
「よし、撤収だ!」
 リチャード中佐の声が響く。
 KV部隊もいつまでも進路を維持できない。
 最後の輸送トラックを見送り、部隊の兵士達は続々とヘリに乗り込んで行く。
 いつのまにか、荒野を夕陽が染めていた。
「‥アフリカ、ハ、我ら、ノ、地‥。‥マタ、モドッて‥、キマス‥」
 故郷は遥か遠くに未だ見えず、安息の日は面影も無い。
 ムーグは彼方に遠ざかっていく大地を、茫洋とした眼に移し続けていた。
 いつか帰ろう、この地へ。
 いつか悲しみを乗り越え、本当の強さを携えて。