タイトル:【NF】間隙を突くマスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/16 12:05

●オープニング本文


 作戦失敗なれども早期撤収により爆撃隊に損害なし。
 攻め手の損害も傭兵達のKVがほとんどであった為、
 ほどなくして再度の基地爆撃が敢行された。
 傭兵達にとっては前回の失敗を返上するチャンスでもあり、
 基地の関係者にとっては死活問題。
 追い込まれた者達の意気は高く、再攻撃という条件にも関わらず、
 成功の眼は大きく思われた。
 しかし、バグアもそれを黙って見過ごすほど愚かではなかった。
 


 異変は攻撃部隊出撃後に起こった。
 何もない荒野の真ん中に建設されたパウダー・リバー基地に、
 大きくサイレンの音が鳴り響く。
「何があった!」
 ポポス大佐が秘書や主だった佐官と尉官を従えて、慌てて管制室に戻ってくる。
「敵、飛行キメラ30、敵HW20、こちらに接近しています!」
「何だと‥!」
 大佐は管制官の背後からレーダーを覗き込む。
 レーダーには光点が複数。徐々に増えつつあるため、まだ全てでは無いのだろう。
 普段なら取り乱すところだったろうが、ポポス大佐は慌てず騒がず横に立つ男を見た。
 眼光だけが鋭い中年の男、スタインベック・フォン・ダール中佐だ。
 既に一度爆撃を実行しようとしていた以上、バグアは必ず攻めて来る。
 それがパウダー・リバー基地の爆撃と入れ違いになれば、大損害となることは間違いない。
 そう考えたポポス大佐は、近隣で遊撃的な作戦行動を取っていたスタインベック大隊に援軍を要請したのだ。
 スタインベック大隊はKV24機、戦車100輌、サイレントキラー2機を保有し、
 基地防衛にも十分な戦力がある。
 更には傭兵8機を迎え、パウダー・リバー基地にはこれまでにない防衛戦力が揃っていた。
 HW20機程度では間違っても陥落しないだろう。
「バグアめ、考えが甘いわ! 中佐、頼んだぞ」
「はっ。‥ジゼル大尉に繋いでくれ」
 無感動に返事をした中佐は、通信担当からマイクを借りる。
「KV全機、出撃だ。目標、南東より接近するバグアの飛行部隊」
「了解です」
「‥いや、待て」
「はっ?」
 マイクを持ったまま数秒、中佐が言葉を切る。
 誰もが意味を図りかね、中佐に視線を集めた。 
「ジゼル大尉、貴様は傭兵隊と共に残れ。
 迎撃が残りの部隊で行う。指揮はグレッグ中尉が取れ」
「はっ!」
「ジゼル大尉は急ぎ陸戦の準備をしろ。一刻を争うぞ」
「はっ!」
 中佐は「ありがとう」とやはり無愛想に言うと、マイクを返した。
 管制塔の下ではKV部隊が慌しく半分にわかれていた。
 正規軍のKVはこぞって空へ、傭兵達のKVは急いで陸戦用の武器を回収に戻って行く。
「‥中佐、なぜ全軍を使わない?」
 その場に居る全員の疑問をポポス大佐が代弁する。
「陽動だからです」
 スタインベック中佐は事も無げに答える。
「何‥? なぜそんな事がわかる」
「我々が動くタイミングを狙っていたわりに動きが稚拙です。
 それに、キメラにHWが足並みを揃えるのはおかしい」
 スタインベックは管制塔から周囲の荒野を睨む。
 そこに何かが必ず居る。そう確信していた。



 空ではミサイルと光線の乱舞する激しい空中戦が開始されていた。
 KVは23機。バイパーが多いが最新鋭機種も複数含まれている。
 中でもイビルアイズとペアとなったバイパーが目覚ましい戦果を上げていた。
 ロケットランチャーを確実にヒットさせ、キメラとHWの数をどんどん減らして行く。
 バグアは周囲に伏せていたキメラを追加投入しているが、
 殲滅されるのは時間の問題だろう。
「やれやれ‥、全部は出発しなかったな」
 遠くの空で行われている空戦をモニターで観戦しながら、白いスーツの男は溜息をついた。
 とは言っても、残念そうな素振りは欠片も無い。
 暗く狭いコックピットの中で頑張って伸びをして、次はあくびをしていた。
 画面の光だけが、辛うじて彼の表情を鮮明にしている
「余裕だな、グリフィス」
 聞こえてきたのは堅物そうな男の声だった。
「そりゃあね。これだけ戦力があれば10機ぐらいならなんとかなる」
「そう。じゃあ出番かしら?」
 答えたのは高笑いしそうな血に飢えた女の声。
 グリフィスの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
「うん。出番だよ、じゃあ行こうか」
 グリフィスは手元のスイッチを入れる。
 コックピットの中に光が満たされた。


 パウダー・リバー基地の南5kmの地点で、
 盛り土のような何かが突如として動き出し、立ち上がる。
 動き出したそれは泥や粘土のスライムで、その腹の中に機動兵器を隠していた。
 現れた機体は3機。
 白く塗装されたタロスを中心に、後方に腕部が太いゴーレムと全身が細いゴーレムの2機。
 全てが個別の改造を施されたエース用の機体だった。
「スロウター、ジェラード。作戦に変更はなしです。このまま突っ込みますよ」
 グリフィスの言葉の答えるように、タロスの両目が赤く光った。

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

 パウダーリバー基地より南に3km先。
 砂煙を巻き上げながら3機の機動兵器が基地へ向って突撃してくる。
 戦車部隊の砲撃で足を止めてはいるが、難なくかわして速度を上げてきていた。
 到達まで2分も掛からないだろう。
「なるほど、さすがは歴戦の猛将 読みは当ったみたいね」
 冴城 アスカ(gb4188)はシュテルンを前に進めながら口笛を吹く。
 敵が来るまで2分無いが、既にKVの出撃は可能だ。
「偉い人が陽動を見抜いてくれたなら、作戦では勝ってるんだ。
 キッチリ仕事しないといけないね。‥アスカさん、前は任せましたよ」
「オーケイ、久志くんは無理して彼女泣かせるんじゃいわよ?」
「わかってますよ」
 狭間 久志(ga9021)はほんの1秒に満たない間、妖艶な笑みの相方を思い出した。
 すぐに思考を切り替える。
 戦場で死ねば泣くだろうか。それとも諦めるだろうか。
 ほんの僅かな疑問符は無意味な問いだった。
 この場に居る者同士、景気付けをする者も居た。
 須佐 武流(ga1461)はジゼル機の肩を叩く。
「帰ったら‥ちゃんと演習の約束、果たしてもらいますよ‥大尉?」
 ジゼル・ブランヴィル(gz0292)は苦笑して振り返る。
「生きて帰ったらね。けど、私にデートの段取りをする時間はないわ」
 段取り以前に時間を取ることさえも難しい。
 須佐は渋い顔をするが、こればかりはどうしようもない。 
 須佐は気を取り直して隊列に戻った。
「お兄ちゃん、気をつけてね‥?」
 星月 歩(gb9056)も隊列を組む麻宮 光(ga9696)に声を掛ける。
「俺は大丈夫だから、自分の心配をしなさい」
 麻宮の答えは、歩にとって予想通りの答えだった。
 優しい言葉は嬉しいけれど、不安が消えるわけじゃない。
 ならばせめて少しでも、彼の不安が取り除けるように、ただ「はい」とだけ呟いた。
「麻宮くん、ぼちぼち行こうか。」
「ええ、行きましょう。UNKNOWNさん?」
「いや。私はバニーを広めに来ただけ、なのだが」
 なにやら渋々と言った体でUNKNOWN(ga4276)はK−111の機首を向ける。
 エース対応に5機が残り、残りはレーダーが捉えている後方のスライムへ向う。
 飛び立つ6機のKVを追うように、5機のKVは敵エースへと向っていった。

 管制室では兵士達がKVの出撃を祈るように見守っていた。
 走り去るKVを見てポポス大佐がふと呟く。
「中佐、KVが2機ほど多くないかね」
 当初、配備されていた機体の中に少なくともK−111はいなかった。
「‥書類のミスでしょう。次回までに関係者に締め上げておきます」
 厳重注意で済んだらしいが、傭兵達が勝手に食べた食糧の代金は、
 ラストホープの報告官持ちになったという。


 
 タロスとゴーレムはそれぞれに固まると傭兵達と同じく足並みを揃える。
 いつでも連携を取れる距離だ。
 6機のKVはバグア機動兵器の上をフライパス。
 藤村 瑠亥(ga3862)はすれ違いざまに覚えのある動きを見る。
「あの三人か。互いに生きてたようだが‥‥」
「あの時の‥?」
 藤村機のカメラに合わせるようにゴーレムが視線を向けてくる。
 声は届いていない。
 戦士同士の共鳴としか表現できないものが二人の間を駆ける。 
「悪いな、KVは苦手だし、今回は避けさせてもらう」
 それは一瞬で過ぎ去って行く。
 3体の機動兵器は見向きもしない。
 激突が起こった。
 最初に衝突したのはUNKNOWNのK−111と、
 他2人から突出するグリフィスのタロスだった。
 グリフィスのタロスの両腕が伸縮する。
 最大の長さは20mを越え、その指先には白く輝くレーザーの光。
 時に鞭のようにしなり、槍となり、自在に唸る腕となる。
 エース用のタロスとしては十分な戦力を持つタロスではあったが、
 焦りを覚えたのはそのパイロット自身だった。
「くそっ。何なんだ、こいつ!」
「時間をかけるつもりは、ない。‥のだが」
 黒塗りのK−111は伸ばされた腕を流れるような挙動で回避、
 カウンター代わりにと伸縮する腕を機槍「グングニル」で突き破り破壊する。
 破壊された腕は残存部分を収縮すると同時に回復が始まる。
 プロトン砲の牽制が飛び、回避機動を取るころには再生していた。
 だがUNKNOWNには焦りは無い。
 機体の挙動を通して、タロスのパイロットの焦りが見えたからだ。
「足止めには、十分か」
 2機は睨み合う。
 タロスの機体各部から何か粒子のような物が飛ぶのが見える。
 バグアなりのブーストだろうと、UNKNOWNは直感で気付いた。
 次の衝突は更に激しいものになるだろう。
「‥‥バニーの為だ。犠牲になってくれ」
 本音が透けて出たが、戦術には影響はなかった。



 右翼。須佐と麻宮は腕の太いゴーレム、ジェラード機に襲い掛かった。
 須佐のシラヌイが麻宮から先行し、高速機動で仕掛ける。
「さて、大尉との約束もあるんで、早々と散っていただきたいのですが‥」
 須佐機のシリウスとソードウィングがジェラード機を襲う。
 複数の爪や刃が舞うように振るわれるが、ジェラード機はそれを太い腕で受け止めた。
 豪腕は武器であり、同時に盾であった。
 高速で繰り出される須佐機の攻撃を着実に受け止め、狙いすました一撃でカウンターを返す。
 須佐機はすんでのところでファングシールド受けるが、危うく殴り飛ばされるところだった。
 重装甲に比してその拳は異様なまでに速い。
「まぁ、そんなに都合よく行きませんな!」
 須佐のシラヌイが跳ねるように下がって拳をかわす。
「行きますよっ!」
 クラッシュテイルが足を止めたジェラード機を襲う。
 須佐機と殴りあう間に側面に回りこんでいたのだ。
「くっ!」
 かわさざるを得ない。
 幾ら装甲に秀でた機体であっても、電磁パルスが直撃すればひとたまりも無い。
 プロトン砲を牽制に須佐機の動きをとめ、ジェラードはその場からバックステップ。
 空を切った尻尾は、つかまれる前に伸縮して収納される。
 戦闘は振り出しに戻った。
「厄介な相手だぜ」
「全くです」
 須佐の言葉に麻宮が頷く。
 須佐の攻撃では硬い装甲を貫通しきれず、
 麻宮では近距離に近づけず電磁パルスも一撃ではそこまで大きな効果を期待できない。
「厄介な相手だな」
 時を同じくしてジェラードが呟く。
 攻撃の隙を与えまいとする須佐、確実に距離を取り必殺を狙う麻宮。
 拳一つにかけるジェラードにとっても、その2組は厄介な相手だった。
 

 
 左翼。狭間とウラキ(gb4922)は細身のゴーレム、スロウター機に立ち向かう。
「身軽そうな機体だね‥スロウターだったか」
 睨む双眸が腕の異様に細いゴーレムと相対する。
「僕のハヤブサの機動力と‥勝負だ‥!」
 ソードウィング、雪村を下げてスロウター機と接触する。
 須佐機と同じく高速での近接攻撃だったが、こちらは速度対速度。
 負けず劣らずの速度でスロウターがレーザー光が舞う。
 この接近戦はほんの僅かにスロウター有利ではあったが、
 状況はすぐに覆された。
「網を放つ‥狭間さん、仕掛けてくれ‥!」
 後方、ウラキのゼカリアの砲身が身じろぎする。
 内部で何かの機械が切り替わる音。
 狭間の紫電が身を退くと同時に発砲。
 ゼカリアの必殺の一手、大口径の徹甲散弾が火を噴く。
 それに若干時間差をおき、紫電がミサイルポッドCを発射。
 降り注ぐベアリングの鉄の雨。
 流石のスロウターも十字砲火でばら撒かれる散弾はかわしようがない。
「ちっ!」
 細身のゴーレムは慣性制御の出力を上げ、全速力でその場から後退。
 幾つもの弾丸を食らい、損傷しながらも撃墜は免れた。
「あなたは手の内を見せすぎた」
 狭間の紫電が右へ回り込む。
「‥スロウター。あんたはツケを払うべき‥今が、その時だよ」
 ウラキのゼカリアが左へ。
 決してこの悪鬼を逃すまいとする鉄壁の布陣。
「殺せば殺す程‥自分の死が現実味を帯びてくる‥だからあんたは、あの時逃げた‥違うか?」
「戯言をっ!」
 スロウター機は懐から何本ものレーザーナイフを抜き放つ。
 確実に追い込まれている。
 二人は勝利の確信を抱いた。



 傭兵達の誤算は幾つかあった。
 一つはスライムの特性だった。
「こいつら‥!」
 時任 絃也(ga0983)はスライムから距離を取る。
 時任は着陸と同時にデモンズ・オブ・ラウンドを抜刀し、
 スライムに切りかかったが、その異様な硬さと耐久力に辟易していた。
 どこを吹き飛ばしてもひるむこともなく、動きを止める気配が無い。
 通常の生命体にありがちな内臓らしき器官も無く、怯む事も無い。
 完全に揚陸挺としての機能しかなかった。
 殴り返してくることもなくただただ耐える。
 撃破できないことは無いが時間は掛かるだろう。
 同じく機槍「グングニル」で攻撃した須磨井 礼二(gb2034)も同じ結果に終わっていた。
 スライム達は中身を晒すこともなく、攻撃にひるむこともなく、歩みも止めない。
 ボアサークルの出撃も予期したがその兆候も無い。
 軟体且つ群体のような性質でこけることもない。
 最初の想定や作戦のほとんどが無駄に終わっていた。
 冴城機も同様だ。
 ガンランスを突き刺し、至近距離からの砲撃。
 当たれば一撃必殺の攻撃は、スライムの胴体を抉る程度に留まった。
 異様なまでの硬さと生命力で歩みを止めない。
「ここは私が!」
 歩のアンジェリカが前に出てオメガレイを構える。
 SESエンハンサーを起動。
 放たれた大出力のレーザーがスライムを貫通した。
 ここまで物理攻撃を弾いてきたスライムだったが、知覚攻撃には弱かった。
 それでも物理攻撃よりも効率は非常に良い。
 歩の予想は当たった。
 歩のアンジェリカは武装を3.2cm高分子レーザー砲に変え、
 次々と前列のスライムを撃破する。
 だが、その中身にはほとんどの者が予想しなかったものが詰まっていた。
 スライムの泥が弾き飛ばされた次の瞬間、青い光が瞬いた。
「え?」
 レーザー光が反射してKVに向って放たれた。
 直撃、右腕が吹き飛ばされる。
 光を放ったスライムの泥から現れたのは‥。
「メイズリフレクター!」
 青い光が露出した次の瞬間、周囲にジャミングが発生。
 能力者達の脳に直接攻撃がなされる。
 アスカ機が倒れた歩機を引き上げて、スライムの進路から救い上げるが、
 攻撃の手は完全に止まってしまっていた。
「中身がわかったなら話は簡単だ‥‥ただ叩き潰せばいい」
 藤村機がそういって、手にした兵装で露出したメイズリフレクターを叩き潰す。
 頭痛は止まない。
 まだ他のスライムの中に残っているのだろう。
 時任機、須磨井機、アスカ機が再度、武器を構える。
 とにかく攻撃を続ければ効率は悪くても殲滅できる。
 4機は再び苛烈な攻撃を再開した。


 
 3人の強化人間と5人の傭兵達は距離を取る。
 戦況は5人の傭兵達に優位に進み、タロスとゴーレムは傷だらけになっていた。
 グリフィスのタロスは自己修復機能によって致命的な傷は再生していたが、
 それでも塗装が剥げ、生々しく金属が露出している。
 一部には再生しきっていないパーツもある。
 再生の限界が来ているのだろう。
 ジェラードのゴーレムはその腕部で攻撃を受け止めていたため、
 見かけ上の損傷は大きくない。
 だが、一部のカメラが完全に死んでいる。
 麻宮のサンダーテイルをかわしきれず、何度か電磁パルスが直撃したのだろう。
 そして、最も酷いのがスロウター機だった。
 細い機体のいたるところに無数の凹みや穴が残り、
 装甲の何箇所かは錬剣によって切り落とされていた。
 動いているのが不思議ですらあった。
「やってられるか! こんな相手!」
「同感だ。メイズリフレクターが生きている間に撤収しよう」
 ジェラードは背後を見る。
 スライム達は傭兵達が攻撃を控えたことで生き残っているが、
 駆逐されるのは時間の問題だろう。
 内部のキメラも放出し、既に基地を破壊するだけの装備を持っていない。
「‥仕方ないな。義理は果たした」
 グリフィスは溜息を吐く。
 視線は、スロウター機の足を見ていた。
「でも。スロウター、君の機体じゃ逃げ切れない。君は残れ」
「なにっ!?」
「戦って死ね、スロウター」
 言葉が情報を刷り込まれた脳に届く。
 それが彼女に与えられた条件付けの鍵。
 スロウターは追撃する傭兵達に1人向き合った。
「‥グリフィスッッッ!!!」
 残った精神力を振り絞り、怨嗟の言葉を吐く。
 だが身体の自由は既に無く、腕は慣れた手付きで武器を選ぶ。
 死の行進を自分の意思で止められない。
 スロウター機が反転、疾走する。
 ナイフの光が乱舞するが、最後の輝きだ。
 動きの鈍ったゴーレムの右腕・左脚を紫電の雪村が切り落とし、
 ウラキのゼカリアが主砲で胴を捉える。
 街路に恐怖を撒き散らした悪鬼は、閃光と爆発の中に消えていった。



 全作戦終了。
 首の皮一枚、というところでパウダー・リバー基地は守られる。
 激戦の中で多くの戦力、人命は失われたが天秤は大きく人類側に戻り始めた。