タイトル:コイコイマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/06 23:01

●オープニング本文




 とあるレクリエーション公園。子供用の遊具施設あり、ほどよい木陰のある遊歩道あり、小さな温室植物園があり、ボートに乗れる人工池がありと、家族連れには重宝する場所だ。時折写生大会なども催され、その際は近隣児童たちで賑わう。
 今はちょうどツツジが見ごろ。赤白黄色、桃色と、至る所たくさん咲いている。
 ところで人工池の中央には、小島が作ってある。
 小島の上にはレストラン。味がいいと評判の店だ。特にフライ定食がとびきりおいしいとのことで、県外からもお客が来る。
 しかし――とっくに開業時間は過ぎているのに――今日はまだ一人も客が来ない。



 小島とレストランを繋いでいる橋は途中から破壊され、水中に没している。
 貸しボートはというと、あるにはあるのだが、誰も乗ろうとしない。池を泳いでいる鯉のぼり、もとい鯉のぼり大の鯉を前に。
 そいつは時々水面に顔を出し岸辺の人間を見ている。口をすぽすぽ鳴らして。
 その目にあるのは紛れも無く食欲だ。
 とりあえずミーチャが立ち往生している客を代表し、ULTに通報する。

「おい‥‥わけわかんねえとこにキメラが出たぞ」


●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
フェンダー(gc6778
10歳・♀・ER
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP

●リプレイ本文

 現場に到着した雛山 沙紀(gc8847)が、元気一杯な声を張り上げる。

「うわーでっかい鯉っすね!」

 遊弋する魚影からして敵は、身の丈6メートルくらい。
 時折浮いてきては尾で水面を打ち、波を立てている。

(この大きさでも相当だが‥‥確か‥‥世界一の鯉のぼりは全長100mだったか)

 そこまでじゃなくて良かった。思いながら時枝・悠(ga8810)は、根本的な疑問を口にする。

「てーか、どっから入ってきたコイツ」

 鐘依 透(ga6282)もその点気掛かりなので、受ける形で繰り返す。

「本当に、何処から入って来たんでしょうね‥‥あのキメラ‥‥ともあれ、危ないから退治、でしょうか‥‥」

 池は川などに繋がってない。水面下に入水口と排水口はあるのだろうが、このサイズの生物が通ってやってこれそうな流れなど皆無。
 バグアはこいつをいかに運び込んだのか。また、どうしてここなのか。
 考えれば考えるほど意味不明だが、鈴木悠司(gc1251)はあえてヤナギ・エリューナク(gb5107)に振ってみる。

「何コレ? 鯉? 鯉なの? 流石にでか過ぎるよね。意味もなく。‥‥意味あるの? あるのかな。そこんトコ如何なの、ヤナギさんっ!」

 しかし彼にも分かろうはずがなかった。

「マジ、ワケわかんねー! あーもう悠司、うるせー。鯉みてェにぱくぱく口開いてンじゃねー! そして鯉もぱくぱくやってんじゃねー、気持ち悪いだろ!」

 普通サイズだとなんでもないものも、拡大してみると不気味。ままあることだ。

「鯉は観賞用だと俺は思ってる訳よ。だから大きいのは良いんだけどね。モノには限度ってモノがあるんだよヤナギさん。って、ちょっと、聞ーてるの!? ヤナギさんっ!」

 そして悠司のお喋りが止まらないのもままあることだ。

「だからうるせーっての! って言うか鯉っつったらドイツ鯉だろ。食用の」

「いやいや、違うよ!?」

「違ェの?」

「そうだよ、明らかにあれ錦鯉じゃん! 左右の比率も見事な紅白だよ」

 そう言われても、ヤナギにはいまいち見事さが伝わらない。ただ派手な色をしているなーと見えるだけで。だから話をサクっと変える。

「ま。とっとと倒しちまおうゼ」

 かような雑音に惑わされずフェンダー(gc6778)は、いきなり本質を突いた。池と鯉と周囲を眺め回した後に。

「‥‥このキメラ池から出られないのではないじゃろうか‥‥どちらにしてもこの先生きのこれない気がするのう」

 傭兵たちばかりでなく、ギャラリーの客たちもが静まった瞬間だった。
 ドクター・ウェスト(ga0241)が膝を打つ。

「それもそうだね〜閉鎖空間では、いずれ餌もなくなるわけだし〜なかなかフェンダー君も鋭いよ〜」

 顎に手を当てドヤ顔をし、鼻高々のフェンダー。

「ふっ‥‥我の某少年探偵を凌ぐ頭脳を前にすれば、この程度の推理造作もないのう」

「‥‥なあ。それなら傭兵を呼ばなくても、自然と飢え死にするのを待てばよかったんじゃ‥‥」

「‥‥かもな‥‥」

 とかいう施設関係者方面からのひそひそ声など断然無視し、遠方の鯉を指さす。

「季節はすでに6月‥‥残念に場違いなお主には消えてもらおうぞ!」

 沙紀も「輝嵐」をたかだか掲げる。ホームラン宣言のように。

「早くやっつけて、フライ定食食べ放題のゴールデンチケットを手に入れるっすよ!」

 悠が横でぼやいている。

「客として来るつもりだったんだけど、な。ま、小銭稼げるなら悪くはないのか」



「さて、鯉の位置は〜‥‥探るまでもなさそうだね〜」

 ウェストが言った通り、鯉は特に隠れようとしていない。むしろ橋を渡って近づいてきた傭兵に、多大な興味を抱いている。

「ううむ‥‥なにやらこちらをガン見しておるのじゃが」

 動かない真ん丸の目玉にこもっているのは、溢れるほどの食欲。
 どうやら人間も捕食の対象とみなしているらしい。キメラにして珍しいことでもないが。

「確実にロックオンしてますよね」

 これなら人間が近づくだけでも釣れるのではないか。
 思わぬでもない透だったが、それでもより確実に吊り目的を達するため、「ロングスピア」の先にタンドリーチキンを装着、釣りを試みた。

「ほーら、肉だぞ肉だぞおいしいぞー」

 注意を引く手助けをしようと、沙紀もくねくね創作ダンスを踊ってみる。悠司もお約束として、手など叩いてみた。

「透さん、太公望だね。でかい鯉が釣れると楽しいよね。うん。でか過ぎて、何か逆にがっかりだけどね。うん。何かそんな気がする‥‥う!?」

 言ってる間に鯉が全速突進してきた。波を蹴立てて。

「うおっ、結構早いじゃねえか!」

 ヤナギは急いで「ルナ」を構え、撃つ。
 沙紀は「淡雪」を、悠は「オルタナティブM」を。
 フェンダーも「雷上動」を放つ。

「ま、まずいのじゃ! 撃つべし撃つべし 明日のためにえぐり込むように――」

 相手はいったん深みに潜り込み、それからまた水面に顔を出す――皆がいる橋の真下から跳ね上がる。

「おおおおお!?」

 天まで届けと水柱が上がり、ぶち当たられた橋が粉砕された。
 岸から見ていたミーチャは、納得の表情を作る。

「なるほど。ああいうふうにして最初に壊されてたわけか‥‥」

 そうやって落ち着いていられるのも、傭兵たちが全員飲まれていないと確認してのことである。
 間一髪敵の攻撃を避けた彼らは、崩れる橋の上を浅瀬方面に向かって全力疾走していた。

「ええい! 忌ま忌ましいと言うたらないわ! 我の美貌に水をかけるとは、なんと不届きな!」

「いや、今日はまだあったかくてよかったっすよ!」

 フェンダー、沙紀、悠司、ヤナギ。

「あーもう! 濡れる。濡れてる! 如何するよ、ヤナギさんっ!」

「知らねえよ! くそ、あいつ結構跳ねるじゃねえか、鯉の分際で!」

 悠、透、ウェスト。全員が全員いくらか飛沫を被ってしまった。

「中々、服の手入れが面倒臭そうだ。後々、橋も直さなきゃならんだろうし」

「これはチキン使わなくても、完全に釣れましたね」

「まあ、鯉の生命力は強いからね〜低酸素と冷温にすこぶる耐性があってだね〜食欲も繁殖力も旺盛で〜うっかり自然に放すと在来種を食い尽くす危険もある〜だから外来侵略生物として登録されるくらいでね〜おっとお!」

「蘊蓄は後にするのじゃウェスト殿! 橋と一緒に食われるでな!」

 フェンダーが言うように、鯉は傭兵たちの真後ろから追いかけ、橋を飲み込みながら突進してくる。
 その迫力、まさにジョーズ。
 ただ惜しむらくは、ここが海ではなく池であったこと。彼の体が規格を超えて馬鹿でかかったこと。
 大きくても、多分頭は普通の鯉くらいしかないのだろう。我が身を顧みて撤退することもなく、勢いのまま身をのたくらせ、あっさり身動きが取れない浅瀬まで来てしまった。

「‥‥アホだろお前」

 ヤナギがまず先手を切った。
 「ガラティーン」を手に橋げたを蹴り、鯉の真上まで跳躍する。
 刃は鰓に入り、身の奥まで貫いた。
 そして勢いを殺さぬまま、池に落下する。

「〜〜〜‥‥っっ! あーあ、濡れちまった。ま。水も滴る何とやらってな」

 鰓から血を吹き出し、暴れる鯉。方向間隔を失ったのかますます岸辺に近づき、腹で水底の泥を巻き上げる。

「ぬふ! 泥が散ったあ! この魚類どこまで我を愚弄する気じゃ! まな板に乗せられること必定と思えと主様が言うておるわ!」

 カンカンになるフェンダーはさておき、透は「ティルフィング」を鯉の顎から入れる。

「往生決めてくださいね‥‥!」

 喉笛を切り裂かれ、また血が噴き出した。
 悠は鯉の背後に回り、「紅炎」で尾部を切りつけつつ巨体を突きのけ、軌道修正する。

「水中には戻るなよ、片付けが面倒になるから」

 この際個々の攻撃に間を置かない方がよい。そう判断した悠司は「ゼフォン」で側面から切りかかる。

「もう、速攻で倒しちゃおう。もう、全員でフルボッコで行こう!」

 鯉は徐々に動きをにぶらせてきた。口をぱくぱくさせている。
 ウェストはキメラのそんな苦しみように、暗い愉悦を感じつつ、「白鴉」をかざした。

「さあ、我輩の白い鴉達よ、狩りの時間だ〜!」

 無数の白い鴉――電磁波の幻影――が湧きいで、鯉に襲いかかる。
 電気ショックに驚いたか、鯉は大きく跳ね上がって痙攣した。
 そこに沙紀が躍りかかる。

「どっせええいいいい!」

 彼女は「輝嵐」で鯉の頭部を打ちのめした。1度ではなく2度も3度も。

「前に釣堀いった時、そこのおばちゃんが釣り上げたお魚の脳天を鈍器で殴って止めさしてるの見たっす! きっとここが魚の急所っすよ!」

 確かに彼女が言うとおりだったのだろう。鯉は動かなくなった――目玉が飛び出るほど頭部を殴打されたら、大概の脊椎動物は同じ反応をすると思われるが。
 後方で練成治療と練成強化を駆使しフォロー役に回っていたフェンダーは、髪をかき上げる。

「ふっ。この心憎いまでの気配りが、我の絶大なる人気とカリスマを支えているのじゃ‥‥しかしこやつ大きいのう‥‥無駄に大きいのう‥‥どうしたものか」

 間髪入れず、沙紀から答えが返ってきた。

「もちろん食べるっす! 今試食してみたけど、特に問題無さそうだったんで、捌いてボートでレストランに持って行って、料理してもらうっす! 鯉のフライはポーランドではクリスマスイブの御馳走っす!」

 そこで鯉が最後のひとあがきをした。大きくのけぞり、バターンと倒れる。
 水と泥が再び付近に散ったのは、言うまでもない。

「か‥‥返す返すももう許さぬこの鱗的生き物め! 手打ちにしてくれようぞ!」

「落ちつくっすフェンダーさん、もう死んでるっすよ!」



 働いてくれた傭兵は食べ放題。が、ウェストはごちそうになろうとはしなかった。

「お前は食っていかないのか?」

 尋ねるミーチャに、サプリメントを飲みながら答える。

「あ〜、我輩はソウいった普通の食事が出来ないのでね〜」

「あんまり体にゃよくねえぞ、そういうのは。ちっとは飯も食え」

 という言葉も右から左に流し、飄々と場を辞する。

「さあ、次のバグアを倒さねばね〜」

 橋が完全崩壊したので、本日のレストランへの足はボート便のみ。船頭は沙紀だ。

「ついでっすから、ボートを漕いでお客さんの送迎もするっすよ。みなさん、沙紀の渡し舟っすよー! まだ席あいてるっすよー!」

 舳先に陣取ったフェンダーは出発までの間、ちょっと遊んでみた。濡れた服を着替え、麦藁帽子にTシャツ、短パンという姿になったので、言ってみる。

「海賊王に我はなる! ‥‥うむ、我、ちょっと格好いいかも」

 感じ入ったついでに、今更某沈没船の手を広げるアレをしてみる。例の曲のハミングもつけて。

「ふ〜んふふふ〜んふ〜ふ〜ふ〜ふふふふ〜ん」

 そしたら後ろから透が声をかけてきた。

「フェンダー君、何してるんですか?」

 激烈な恥ずかしさに固まるフェンダーは素早く立ち直り振り向き、彼の両肩をがしりと押さえる。

「‥‥このことは他言無用じゃ」

「‥‥?」

 ともかくレストランに直行かつ食事。
 フライ定食のフライは、外はサクサク、中はふんわり。白身魚のほかカキや野菜のもあり、味のバリェーションが楽しめる。

「うん、うまい」

 白いご飯とともにモリモリ食し、悠は改めて、己の普段の食生活を思いやる。

「日頃の食事の7割をレーションが占めるってのは、我ながら何とも、ね」

 ちょっと仕事の分量減らそうか。
 首を傾け熟考し、また戻す。

「まあ良いか。とりあえず食える時に食って行こう。太らない体質だと、こういう時気楽で良いな」

 近くの席では、ヤナギと悠司が皿を押し付けあっている。

「ゆ、悠司クン、先に食べてみてくれたまえ。遠慮は要らんよ」

「うん。ヤナギさん、コレ美味しそうだから、あげるよ」

 彼らはお互い、フライにキメラ鯉が入っているんじゃないかと気になってならないのだ。
 多分それは杞憂ではない。沙紀がばらした肉を持って厨房に入って行くのが、さっきばっちり見えたのだから。

「まあまあそう言わず厚意だから、な?」

「いやいやそんな年功序列ってあるから」

「そんなら目上の言うことは聞くべきだろ?」

「何言ってるんだよ滅相もない。目上に敬意を示すのが目下の義務なんだから、どうぞ気にせずに食え」

「食えって言ってる時点ですでに敬意ねえだろうが」

 一歩も引かない押し付けあいの隙に、透は、こっそり悠司の耳をもふってみたりしている。お代わりを所望しながら。

「カオスじゃのう‥‥まあよいわ」

 横目で彼らの様子を眺め、鯉入りみそ汁をすするフェンダーは、ふとテーブルに置いてあるレストランのご案内に気づく。

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 一通り読んだ後彼女は、誰も聞いてないのに呟きだした。

「まあ、あれじゃ、我は主様に仕えるシスターなので関係ない話なのじゃがの‥‥もてない訳ではないぞ‥‥才色兼備で高嶺の花だから、近寄りにくいのじゃろうな」

 その横にトレイを持って、沙紀が座ってくる。

「やっほ、ボクも手伝い終わったから食べるっす! あ、何見てるっすか? へー、ジューンブライド。もうそんな季節なんすねえ。フェンダーさんは誰か気になる人でもいるっすか?」

 もぐもぐやりながら聞いてくる沙紀に、フェンダーは、小さくぼそっと答えた。

「‥‥そういうのあんまりしつこく聞くといくら我でも泣くぞ」

「‥‥どしたっすか、一体。あ、このフライめちゃうまいっす! すいませーん、お代わり頼むっす!」