●リプレイ本文
「お前のところ、赤ん坊が生まれたばかりだろ? 大丈夫か」
「大丈夫だよ。飼われてたケナシザルなら、いたずらとかしない。上の子たちのいい遊び相手になってくれる」
ブルドッグとコリーが勝手な会話を交わしているところ、また一匹、いや一人犬人間が現れた。リボンをつけた真っ白なマルチーズ――最上 憐 (
gb0002)だ。
彼女はちこちこコリー男に近づき、裾を引っ張る。
「‥‥ん。レオポール。お腹空いた。何か。食べたい」
「駄目だって。昼にささみビスケット一袋食ったばかりだろ」
檻の中にいる楊 雪花(
gc7252)はその光景に、ふっと息を漏らした。
(まさに犬の惑星ネ)
一秒ほど感慨にふけってから彼女は、すぐさま気持ちを切り替える。ロケットは壊れたし星間連絡もつけられない。嘆いていても仕方ない。ここでも商売するだけだ。
(まあ、以前犬肉をアレしたことは秘密にしておかねバ)
深く心に誓う彼女の隣では、月読井草(
gc4439)が絶望的な呟きを漏らしていた。
「この惑星に猫は居ないのか‥‥あたしが最後の猫、最後の猫人間なのか‥‥」
錯乱しているわけではない。彼女は確かに猫。いつも外さないカチューシャの下には猫耳が隠れている。
話せば長くなるので手短に言えば、古代から人間に紛れて生息していた秘密の種族、猫人間――秘密なので、同僚たちさえもこの事実を知らない。
「‥‥ん。だがしかし。もう。おやつの時間。カリカリジャーキーとか。豚足とか。食べたい」
「だから食い過ぎだっての。ほら、骨ちゃんでも嘗めてろよ」
レオポールが服のポケットから出してきたそれに、憐は満足しなかった。後ろに回り、ふさふさした尻尾に食いつく。
「あぎゃあ! なにしてんだコラ!」
「‥‥ん。空腹を。訴えてみる。このままだと。レオポールの。尻尾が。危険で。危ない」
「いていていて、分かった、そんならカリカリジャーキー出してやるから!」
レオポールは負け、戸棚から袋を取り出し、金属製の皿にあけた。
憐は満足げにそれを受け取り、手づかみで口にほうり込む。
一連の動きを眺めていたモココ(
gc7076)は、痛む足をさすりながら、隣のドクター・ウェスト(
ga0241)を盗み見る。
「おいこら、我輩の話を聞かんかあ! 我々は地球から来たのだとなんべん言ったら理解するのだお前たちは! いいか、我々が母星に連絡したら大艦隊が繰り出される! お前らごとき犬などたちまちのうちに武力制圧し惑星の自治権を奪い植民地にするのも造作ないことなんだぞ!」
「‥‥ん。ミーチャ。あのケナシザル。特に。うるさいけど。何を。言ってるの?」
「うーん。どうもかなり特殊な環境にいたらしくてな‥‥少々いかれてるみたいなんだ」
そこは当たっている。ドクターはクルー内でもマッドサイエンティストで通っている人物なのだ。
ひとまずこの状況に際してこれ以上彼と運命を共にするのは危険だし、率直に嫌だ。この際貰われておこう。外に出なければ何も始まらない。
冷静に判断したモココは必死の念を込め瞳を潤ませ、レオポールの同情を誘う。
「あれミーチャ、あのケナシザル怪我してるのか?」
「ああ、そうだ。なんだか知らないが足のへん火傷してる」
「そうかあ。かわいそうだよな。よし、オレこいつ連れて帰るよ。おいでおいで」
柵越しに手を入れモココの頭を撫でる。
その前に、ずいと雪花が割り込んできた。この気の弱そうな犬人間使わない手はないと意気込み、猛烈な売り込みを始める。
「旦那様! 是非ワタシも連れて行てくだサイ、きとお役に立ちますヨ! ワタシこう見えテ血統書もあるかも知れないケナシザル、飼えば旦那様の株も急上昇ヨ!」
「お、おお‥‥そうか? じゃあそこまで言うならお前も連れて帰るよ。飼育申請して許可をもらわなきゃならねえから、一緒に役場に行こうな」
レオポールはかなり単純というか押しに弱いらしい。モココと雪花はあっさり檻から出してもらえた。
「あ‥‥先に抜けさせてもらいますね」
「皆サン再見」
手短に別れを告げる彼女らに、周馳(
gc8829)が慌てて呼びかける。
「ちょっと待ってください、きみたち、人間としてのプライドはどこに‥‥」
しかし聞き流され、2人とも出て行ってしまう。
「さて憐、後は頼んだぞ」
ミーチャとかいうブルドッグも出て行く。残ったのはマルチーズだけ。それもおやつを食べながら椅子に腰掛けている。
おやつがなくなった時点で彼女は、檻に近づいてきた。大きな鍵束をもって。
「‥‥ん。何か。食べ物を。くれると。うっかり。鍵を。檻の中に。落とすかも」
願ってもない言葉だがクルーたちは体一つで脱出してきた身の上、食べ物など持っているはずもない。ちゃらつかされる鍵束の音に、いらつかされるだけだ。
「‥‥ん。ないの? ないの?」
と、そこへ珍客が来た。
「お邪魔いたしますことよ」
黒いトイプードルの犬人間、鍋島 瑞葉(
gb1881)ことミズハだ。貧相なお付きの者を従え、室内なのにつぎのあたった日傘をさしている。
「‥‥ん。これは。これは。落ち目の富豪。ミズハ嬢。相変わらず。貧乏。みたいね」
「何かおっしゃいました? ぶん殴りますよ?」
「‥‥ん。今日は。何用?」
貧乏発言に間違いなく気を悪くしたのだろう、ミズハは質問を無視し、檻に近づいていく。
「もう何も心配はいりませんよ。わたしのような高貴な人間に飼ってもらえるのですから」
高貴な上から目線に、クルーたちもどう対処したものやら迷う。
「‥‥ん。ミズハ嬢。いきなりだね。さては。この。珍サル。我がものとして。一獲千金を」
「ほほほ‥‥そのような下品な発想は下々にのみふさわしいものですわ。わたしはただ珍しいケナシザルを我が家のものとし格式向上の糧とする所存なだけでございますのよ」
一緒じゃん。と聞いてる誰もが思った。
「‥‥ん。それなら。ひとまず。役場に行って。飼育の許可を。得てこないと。それから。引き取り申請を」
「お断りですわ。わたし時間と資産の無駄遣いしたくありませんの」
扇で顔をあおぐミズハに、憐は言う。
「‥‥ん。やっぱり。貧乏なんだ」
「やかましいわ、ごるぁー!」
いきなりドロップキックが飛んだ。
このお嬢さんキレやすい――そして口ほどにもなく非力だ。たやすく返し技をくらい、足を押さえてゴロゴロする。
しかし元令嬢の矜持ですぐ立ち上がり、何食わぬ顔で汗を拭く。
「ごめんあそばせ。つい取り乱してしまいましたわ。さあ、この珍らしいケナシザルをお寄越しなさい」
「‥‥ん。食べ物を。くれれば。見なかった事に。してあげるよ?」
相手が職責に関し柔軟な思考の持ち主であるのを確認したミズハは、お付きの者に命じた。
「‥‥分かりましたわ。じいや、例のものを」
よぼよぼしたスコティッシュテリアがトランクを開け、肉のこびりついた大きな骨を出してくる。
「‥‥ん。そんな。モノでは。私は。買収されない。その。3倍なら。考える」
「まあそう言わずにどうかお納めを‥‥正直これが精一杯でして‥‥先程守衛にも一本ずつ渡さなければなりませんでしたし‥‥苦しい中家の食費を削っての賄賂でして‥‥」
「じいや、内幕はばらさないでよろしい!」
そうやって犬人間同士がすったもんだしていた時である、閃光がひらめいた。
「コンナところに何時までもいられるか〜!」
ウェストが檻を破壊したのだ。レーザートーチに残っていたエネルギーを最大発動して。
威力は大きく、檻どころか小さな木造の建物自体吹き飛んだ。もうもうと煙が上がる。
犬人間も原始人も何が起きたか分からず、目を点にして立ち尽くしている。
クルーたちはその間に、咳き込みながら走って行く。
真っ先に我を取り戻した憐が吠えた。
「‥‥ん。いかん。せっかく捕まえた。サルが。逃げちゃう。おおい。みんな。集まって」
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コリーの奥さんは、優しそうなレトリーバーだった。
「まあまあ、それが貰ってきた子なの」
「うん。本当はもう1匹いたんだけどさ、帰り道で知り合いのペーチャに会ってさ。ほら、あのでっかい会社やってるやつ。なんかそっちに懐いてついてっちゃった」
あの犬は確かアフガンハウンドだったか。雪花君乗り換えが早過ぎだが大丈夫だろうか。前から要領のいい人ではあったが。
回想しているところモココは、奥から突進してきた子供たちに取り付かれた。
「わあ、ケナシザルだ」
「おさる」
「おさるちゃん」
猛烈な勢いでもみくちゃにされ、もともと犬好きである彼女もさすがに音を上げる。
「ちょっ、私は玩具じゃありません!」
「こらこら、やめなさい。おさるさんが困っているでしょう。あまり触られると、おさるさんは嫌がるのよ」
幸い奥さんがすぐ止めてくれたが、服は毛だらけ、よだれだらけだ。しかし子供は全員尻尾を振っているため、怒るわけにもゆかず。
レオポールは奥に行き、赤ちゃんを連れてきた。おむつをつけた毛玉といったものだ。それを彼女に見せ、真面目に言い聞かせる。
「いいか、これにいたずらしちゃ駄目だぞ」
モココが頷くと彼も尻尾を振る。
「おお、分かってくれた」
奥さんも振る。
「そうですねえ」
やはりいい人達であるようだ。この分なら潜伏調査もしやすいだろう。帰る手掛かりも探り出しやすいだろう。最終的にこの一家を裏から操ることも可能かも。
そんなモココの密かな企みなど露知らず、レオポールは耳を立て、不服そうに言った。
「あ、招集の遠吠えが。なんだよもう、帰宅したのに。ちょっと戻ってくる」
「はいはい、行ってらっしゃい、あなた。おさるさんはこっちにいらっしゃい。レオポールが小屋を買ってきてくれてますからね」
さてどんな小屋なのかと見に行くと――大きさは山小屋程度なのだが――地球人が住む住宅に瓜二つ。
隣にある巨大な犬小屋風のレオポール住宅と見比べ、モココは、なんとなく考え込んでしまう。
「ところで、あなたの名前は何にしましょうか」
「あ、はい、あの、モココでお願い致します」
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「なんだよもう、せっかく捕まえたのに、何で逃げられたんだよ!」
「‥‥ん。不測の。事態が。起きて。とにかく野生のは全部。捕まえたから。後は。例の飼われてた奴。だけ」
手に手に投げ縄と網を持ち、犬部隊が山を登って行く。
追いかけられている側のウェストはエネルギー切れのトーチを投げ捨て、額の汗を拭う。
「むう、やはり犬、鼻が利くようだね〜」
途中まで一緒だった井草とは、とうの昔にはぐれてしまった。彼女の方が断然足が速かったので。
だからといって彼は気落ちしたりしない。何があっても唯我独尊が信条なのだ。
「ふふふ‥‥しかし我輩はそんなこともあろうかと、対策を考えていたのだよ〜」
彼はニヤリと笑むと、そのまま山間を流れる渓流に飛び込んだ。
「うおお、冷たい! なにくそ負けんぞ〜我輩がこの星の皇帝になるのだ〜」
何度か流されそうになりながら、ザブザブ渡っていく。なお山に分け入り、進みに進んでいく。
一方彼の先に逃げていた井草も、方角は別ながら同じことをしていた。川を渡り、匂いを消す。その上念入りに胡椒を撒き、泥にも塗れておいた。頭のカチューシャは既に外され、猫耳が出しっ放しだ。
「行こう! 仲間を探しに! 猫耳は犬耳に似てるから誤魔化せるだろ!」
かなり強引な希望的観測をしながら行くところ、前方の茂みから突然、20名ほどの変な人間集団が現れた。
「ヒャッハー、大もふり団の登場なのじゃ!」
わけの分からなさに立ちすくんでいるところ、首領であるフェンダー(
gc6778)が声をかけてくる。
「そち、野良人間とお見受けした。どうじゃ、我が大もふり団に入らんか? 団員は随時募集しておるで。ちなみに我はフェンダー。キャプテン・シルバーと呼んでくれてもよいのじゃぞ」
自己紹介されてもわけの分からなさは一緒だった。だから聞く。
「‥‥それ、なにする団体?」
「んむ。大もふり団は犬と共同で兜被っている赤っぽい熊とか撃退したり、ご飯をあげたりと、結構友好的にやっておる団体じゃ。しかしたまに凶暴化し犬たちをもふりまくったりする、女子供には手を出さんがのう」
説明されてもよく分からないってなんだろう。
「実はのう、この星は、バグアに狙われているのじゃ。我は実はキジトラ星の皇女だがバグアの襲撃を受け、この星に一人だけたどり着いたのじゃ。しかし、バグアの脅威を訴えても誰も取り合ってくれず‥‥その点でそちらの気持ち分かるぞよ‥‥ちっとも通じんのじゃ‥‥はぁ」
ますます分からなくなってきた。
「目下はもふもふ魔力に負け自堕落に暮らしている最中でな。あ、でもやる気になれば雉に変身出来るのじゃぞ」
ここから先なお付け加えられては大変なので、井草は、お断りをいれる。
「いいわ。あたし、そもそも犬が好きじゃないし」
「なんと! そち、人生を損しておるぞ‥‥」
言いかけてフェンダーが、はっと猫耳に気づいた。
「そうか、そちはあの一族なのじゃな。古き言い伝えじゃ‥‥猫耳を生やし猫じゃらしの野に遊び日なたで丸まる者たちがいると‥‥」
「! 何故それをあなたが‥‥」
「まあこう見えても皇女じゃからな。しかし‥‥なら尚更この地に止まるがよいぞよ。進めばきっと、そちは後悔することになろう」
「いいえ、あたしは進む。たとえ何を見ようとも、後悔なんかしない!」
忠告にひるまず薮に分け入って行く井草。その後ろ姿を眺めるフェンダーの目は、深い同情に満ちていた。
「やはり行くのか、猫人間よ‥‥さて、皆の物出陣じゃ! 我が許す、心行くまでもふり倒すのじゃ!」
かくして彼女らの活躍により。
「凶暴化したもふりザルが出たー!」
「だからこの季節山入るの止めようって言ったんだよ!」
「‥‥ん。とりあえず。レオポール・シールド。展開」
「憐オレを盾にするな――お前サルから何肉もらってんだ!」
「‥‥ん。食べ物の。為に。レオポールを。敵に。売ってみたりする」
「憐んんん!」
「‥‥ん。レオポールの。事は。忘れないよ。多分。3日位は。覚えている」
ケナシザル捕獲作戦は大いに阻害され、数匹しか捕まえられずに終わってしまった。
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モココがレオポール家に来て、一年が過ぎた。
犬人間と地球の犬との違いを調べていたのだが、観察すればするほど似ている気がしてならない。
「モココ、遊ぼう。フリスビーで」
子供たちはそう言ってよく誘ってくるのだが、その遊び方というのがなんだか変なのだ。投げるのがペットで、取りに行くのが飼い主。
「もいちど投げて」
「なげて」
「モココ、なげて」
楽しんでるようだからこれでいいのだろうが。
それにしてもレオポール一家は随分よくしてくれている。ケナシザルは弱い生き物だからと、大事にしてくれている。名札さえつけていれば、一人で外に出ても特に咎められることもない。
(いい人たちよね‥‥本当の家族みたい)
日々そんな思いを強くするところ、散歩中偶然なつかしい人物と出会ってしまった。
「あっ、周馳く」
思わず声が詰まる。浮かない顔している彼がすごい衣装を着ていたからだ――大みそかの演歌歌手みたいな、紫ラメのタキシードを。
「ああ、きみか‥‥いいね、割と普通の服を買ってもらえて」
「え、ええ、まあ」
そんな服どこで売っているんですか。
聞きたいけど聞けないところ、今や彼の飼い主であるミズハがやってきた。
「これ、駄目ですわよ、そんな下々の飼いサルなんかと遊んでいては。お稽古の日ですからね。あなたはゆくゆくアイドルになるんですのよ」
「はあ‥‥」
諦めムードを漂わせ連れられて行く元仲間の消息が気になり、モココは、こっそり後をつけて行く。
そうすると、『サルスクール』なる大きな建物を発見。
窓から中を見ると飼い人間が、歌や習字や生け花や、体操なんてのを教えられている。その大半が迷惑そうな顔だ。
なぜこうも地球そっくりの文化が展開されているのか。
目を白黒させあやしむところ、また知り合いに出くわした。例のペーチャとかいう犬人間と一緒にいる、雪花だ。
「ヤーヤー誰かと思えばモココサン久しぶりネ。スクール入りに来たカ?」
「いえ、そうじゃないんですけど‥‥雪花君も犬の人に連れられて?」
「ノーノーワタシは常に搾取する側。搾取されはしないことネ。ブームに乗るアホな飼い主多くて助かるヨ。ねえボス」
「いえいえ、キミのアイデアもたいしたもんですよ。芸を仕込む学校を造るなんて、そんな発想これまでぼくらの間でなかったですからね。授業料から会報から限定販売のペット用具から餌から売れるものがたくさんです」
「そうネ、ワタシはワタシで飼いサル社会に食い込んで甘い汁を吸うのヨ。酒カラ薬物カラ何から何まで売るヨ。商売敵は権力を利用シて排除のコト。こんな法外な価格の食糧が飛ぶヨウに売れる‥‥なんと気持ちの良いことカ! そんなわけでも是非飼い主にこれを渡して欲しいネ、モココサン」
『サルスクール入学サル募集』のチラシを寄越し、雪花は行ってしまった。
複雑な顔で見送るモココ。
「ふーむ、これについては最近よからぬ噂を聞くぞよ。飼いサルが妙な飲み物欲しさに暴れたり金をせびるようになったりしておるとかの」
横を見ると、今や知り合いとなった野良人間がいる。
「フェンダー君、いつからここに」
「物見遊山じゃ。細かいことは気にするでない。とにかくそんなこんなで家におられんようになってしまう飼いサルが、我らの大もふり団に最近よく拾われておる。由々しきことじゃ」
「そうなんですか‥‥」
「その他にも最近、野生人間の間で妙な団体が出来おってな」
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緑多い原生林。原始人保護区の一角。変な小集団がいる。
「皆のもの、時は来た〜」
数は20人ばかり。老若男女全員色を抜いたなめし皮を白衣のように身につけ、石斧、石槍を手に奇声を上げる。
「「けっひゃっひゃっ」」
これこそウェストがなんとか作り上げた人民だ。好奇心の強そうな現地原始人を捕まえ、それはもう根気よく言葉や知識を教え、このように新石器時代くらいまでは向上させた。
「今こそ人間による、人間のための、人間の国を立ち上げるのだ〜! 立て、我が人民よ〜!」
一団を率いて犬の村を襲い占領し、そこから徐々に領地を広げ、ゆくゆく一党独裁国を築く。それがウェストの夢。
この人民数では絶対無理だろうという常識的判断は働かない。それほど己に酔い、誇大妄想の度数が上がっていたのだ。
「我輩が皇帝ドクター・ウェストだ〜!」
「「けっひゃっひゃっ」」
「襲うぞ、村を〜!」
こうして変なサルの一団が保護区から延々遠征し、小さな村までやってきた。
奇襲をかけるつもりだったのだが、すぐばれてしまった。何しろウェスト色に染まっている原始人一同、妙な笑い声まで身につけてしまっているのだ。
「「けっひゃっひゃっ」」
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「このへんに妙な遺跡があるとか聞きましたが、本当でしょうかニャワン」
「ああ、あの丘のところ、確かにあるよ。なんだかよく分からないものがね」
「ありがとうございます、ニャワン」
「なんだか鳴き方がなまってるね」
「田舎から出てきたもので、では‥‥ニャワン」
目深に帽子を被った井草は作り鳴きをし、村を出、丘を上って行く。
この1年ずっと仲間を捜し続けていたが、一向に手掛かりは得られないままだった。
この星にはやはり、猫はいても猫人間はいないのか。地球じゃないんだから当たり前かもしれないけど、原始人もいて、犬さえ進化しているのに、なぜ猫だけ。
不満を募らせながら遺跡にたどり着いた彼女は、変な表情をした。
「‥‥あれ?」
細部が風雪に削り取られ、壁と天井の抜け落ちたその建築物は。
「何故‥‥これは猫カフェそっくり‥‥」
呟いて、彼女は急に黙り込む。
丘の下から聞こえてくる鬨の声など耳に届かない。胸を抑え、一気に丘の下へ駆け下る。戦慄に似た予感を覚えて。
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「‥‥ん。畑を。荒らすとは。不届きな。サルどもめ」
眉間に皺を寄せた憐は、近村の珍サル襲撃の報を聞き駆けつけてきた一団を前に、吠える。
「‥‥ん。作戦。レオポールが。敵に。突っ込んで。玉砕している。間に。逃げる」
「なんでオレ‥‥ていうか逃げてるじゃん」
「‥‥ん。話は。最後まで。聞くように。逃げたふりして。挟み撃ち。今度こそ。一網打尽。危険だから。サル山に。送る。行け。レオポール」
「だからさ、なんでオレなの? やだよ、あんな凶器持ったケナシザルなんて。腹膨らませて動きが鈍るの待とうぜ」
「‥‥ん。お舅さんに。この体たらく。逐一報告。しても。いいの」
「やめろよそういうの!」
泣きながら言うレオポールだが、この脅しを出されたらやるしかない。
サスマタを手に白い毛皮をまとったサルたちへ、ミーチャとともに突撃して行く。
「しっ、しっ!」
「おい、おれの後ろに隠れるなレオポール! お前は図体でかいくせに、腰がひけ過ぎだ!」
直後空気を引き裂く爆音がし、近くの民家の屋根が吹き飛ぶ。
犬人間たちは耳を押さえ振り向く。とそこには、雪花がバズーカを担いで立っていた。
「どうネ、ボス。火器ってすばらしい威力でしョ。これさえあれば暗黒街にも怖いものなしヨ」
彼女のかたわらにいたペーチャは、満足げに舌を垂らす。
「いやーあ、見事ですね。よし採用しましょう。手初めのあそこのサルを全部吹っ飛ばしてみてください」
「アイサーボス!」
その会話に誰より早く反応したのは、武器の威力を知っているウェストだった。
「雪花くん〜! きみは一体なにしとるのかね〜同胞に銃口を向けるとはどういう理屈だね〜!」
「フ。何とでも言うがいいネ。最早我らは仲間でもなんでもないのコトヨ。ワタシはここで持てる知識をばら売りしつツ、のし上がれるだけのし上がるのみネ!」
裏切り者として着実に地歩を固めている彼女、全く動じない。
「その志よくってよ! ついでに後で現体制の転覆もやっておしまいなさい!」
「アイサーミズハサマ!」
「ええ、何でお前がここにいんの!?」
飛び入り参加のプードルは、コリーの質問に鼻をそらす。
「ふっ。知れたこと‥‥どさくさに紛れてクーデターを起こし、わが家を再びトップの座に上り詰めさせるのですわ!」
「‥‥ん。頭。悪いくせに。腹黒。だよね」
「何か言ったかそこお!」
事態は混迷してきた。
そこへ電光石火のごとく割って入ったものがいる。
「あいや待たれい!」
フェンダー率いる大もふり隊と。
「待ってください!」
モココだ。
「ム。何の用ネ、モココサン。邪魔しないで欲しいヨ」
「いいえ、そういうわけにはいきません‥‥誰が何しても関係ない。でも、私の家族に危害を及ぼすなら別です」
「おかしいこと言うネ。そこのコリーはモココサンのコト、ペトだとは思ても家族と思てないヨ?」
「‥‥ペットでもいい。私は家族と居たい‥‥雪花くんは間違ってる‥‥地球文明をこの平和な星に持ち込むべきじゃない!」
「ワタシのやることにケチつけないで欲しいネ。どかないと一緒に木端微塵ヨ?」
「‥‥負けない‥‥」
「こりゃ、勝手にシリアスやるでない! 皆のもの、空を見るのじゃ!」
地団駄踏むフェンダーの言葉に、一同一応空を向く。
するとどうだろう、凶々しき真っ黒な塊が近づいてくるではないか。とんでもない大きさの。
レオポールは肝を潰し、おろおろ声を出す。
「えええ、なに、なにあれ?」
「この地に濃くなったダークフォースの引力で、奴らが呼び寄せられてしもうた‥‥今は争うときではない、3つの心を合わせるときじゃ!」
「‥‥ん。それは。いいけど。なに。あれ」
「聞いて驚くでない、バグアじゃ」
聞いても知らないので皆驚けない。
そんなことには構わず、フェンダーが手を挙げた。
「今こそ集うがいい、聖戦士たち! 皆の者、第二の故郷を守るのじゃ!」
彼女の額に翼の紋章が浮き上がり、周囲を圧する光を放つ。
それに呼び寄せられるよう地の彼方から7つの光が飛んできて、彼女の側に落ち、人間の姿になる。
「お呼びですか姫!」
「姫!」
「呼んだか姫ちゃん!」
「ごきげん麗しく姫!」
「ハロー、プリンセス!」
「姫様!」
「元気やったか、おひいさん!」
何故か美少年ぞろいだ。それかあらぬかフェンダーはとても満足げである。
「うむ、くるしゅうない。まあとにかく、行くのじゃ!」
フェンダーの全身が輝く炎に包まれ、彼女は輝く火の鳥、もとい雉となる。他の7名も同様。
彼らは一つに固まりさらに巨大な雉となり、バグアに向かって突き進んで行く。
「そうか、すべて分かったのじゃ、バグアとは、我々とは‥‥」
という謎の台詞を残し、真っ黒な宇宙船を抱え、そのまま夕日の方角に向かって一直線に――。
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残光の中、井草は膝をついていた。
「あぁ、何ということだ、あたしは帰ってた‥‥帰ってたんだ‥‥」
打ちひしがれ、うめく。
「ここは、地球だ、あたしは地球に戻ってたんだ!」
砂浜には巨大な長い影がある。
涙の一杯たまった目で井草が見上げるのは、今にも崩れ落ちそうなほど痛み切った等身大ガ○ダム。
そう、ここは――ここはお台場だったのだ!
「誰が滅ぼしたんだ! この地球を‥‥あぁ、何ということをしたんだ!」
ガン○ムは答えず、こわばった微笑みを浮かべるだけだった。
彼女は砂浜を殴りつけ、絶叫する。
「ちきしょう、猫なんかみんな、地獄へ落ちてしまえ!」
背景の空にはフェンダーが、サムズアップしながら浮かんでいた。きらりと歯を光らせて。周囲に美少年7人衆と雪花、ウェスト、ミズハ、ペーチャを従えて。
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ぽかーんと展開を眺めていた人々は、一番星の下、徐々に我に返ってきた。一番初めは、憐だ。
「‥‥ん。何か。色々。起こったけど。とりあえず。ご飯にしよう。お腹空いた。レオポール」
「え? ああ‥‥あれ? ペーチャとミズハとケナシザル2匹がいねえぜ?」
「‥‥ん。さっき。なんか。光に。巻き込まれてた。けど?」
「ええええ!? 大丈夫かよ、おい」
言いはするもののどうしようもない。
そのうち帰ってくるだろうという結論に落ち着き、一同家路につくとした。
「そういやモココ、お前さっきなんか言ってなかったか? 地球とか、どうとか」
レオポールにモココは、ふふっとほほ笑む。
「私は‥‥ただのケナシザルですよ‥‥?」