タイトル:夢見てテラフォームマスター:KINUTA

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/06 21:03

●オープニング本文



 この度UPC本部から傭兵に向け、次のような文書が封書で送られてきた。

「人類が火星に到達した暁には、どのような開発を進めるべきか。あなたの自由な考えを、原稿用紙5枚以内にまとめて応募してください。なおこのアンケートは任意です。締め切りは3・10(消印有効)」

 封書にはアンケート用紙も付いていたし、切手つきの返信用封筒も入っていた。であるからには、いたずらというものでもないだろう。
 しかし何故いきなりこんなものが。
 いぶかしんだ彼らは、文書の下のほうを読んで納得した。

「これは、UPC広報誌のエイプリール企画です。採用された文章は誌上に公開されます」

 なるほど。広報4月号になんちゃってスクープ記事として出すらしい。
 人騒がせであるが、面白くないこともない。
 火星は現下バグアの居住圏であるが、遠くない未来地球人も辿り着けるだろうし、紆余曲折もあろうが勝利を収めることも可能だし、となればそこに住むことだってありえるだろう。

 月面に基地を作り、軌道上にステーションを浮かせる力があるなら、惑星の改造という事業だって不可能ではない‥‥。

●参加者一覧

/ ビリティス・カニンガム(gc6900) / 楊 雪花(gc7252) / 村雨 紫狼(gc7632) / 雁久良 霧依(gc7839) / ルーガ・バルハザード(gc8043) / エルレーン(gc8086

●リプレイ本文



●ビリティス・カニンガム(gc6900)の火星。

 暖かく湿気に満ちた大森林を踏み分け行くのは、ビリティス。

「へへ、面白い企画だな! おう! ゴキブリがいた! 大きさハンパねえぜ!」

 周囲の景色にはしゃいでいた彼女だが、ナレーターという任務を思い出し、急遽カメラ目線となる。

「あたしの火星は太古の地球環境を再現してあるんだぜ! んでバグア共の技術を使い、化石から抽出したDNAで絶滅生物たちを復活させて住ませ、観察できる様にしてあるんだ。星まるごとジュラシックパーク状態だな!」

 なるほど、確かにそこは絶滅した生物の宝庫。
 レピドデンドロンやシギラリアやカラミテスといった大型のシダ、トクサ類が生い茂り、エリオプスだのセイムリアだのといった両生類が半身沼に浸かり、グエグエ鳴いていたりする。

「場所によっては石炭紀や三畳紀、氷河期なども再現し色んな時代の生物が見られるようになってんだぜ! ちなみにここは石炭紀ジャングルな!」

 言っている頭上を大型トンボが通り過ぎて行った。羽脈から関節から堅い毛の生えた足まで虫メガネなどなくともくっきりはっきりだ。

「ほら! これはアースロプレウラだぜ! イカスだろ!」

 恐れげもなく彼女が抱き抱えたのは全長3メートルはあるヤスデ。無数の脚が一斉にわしゃわしゃわしゃと動く。

「ほーれほれほれ‥‥あっやべ。足一本取れちまった。悪ィ悪ィ」

 よく見ればそこいら中、バッタっぽいのだのカブトムシっぽいのだのクモっぽいのだの、巨大昆虫が蠢いている。
 ここは虫好きにとっての楽園。虫嫌いにとっての地獄。
 『このまま石炭紀ジャングルの実況を続けても、お茶の間のチャンネルが変わってしまいそうだ。ほどほどに切り上げてくれ』というカンペが出た。
 ビリティスは渋々ながら、昆虫ランドに別れを告げる。

「さあ、ここは白亜紀だ!」

 二畳紀と三畳紀とジュラ紀がいきなり飛んだが、そこはご愛嬌としてもらいたい。
 白亜紀はヨロイ竜や角竜、かものはし竜の栄えた時代。
 ブロントサウルスを代表とするかみなり竜はジュラエリアの方に生息しているので、残念ながらその勇姿は見られない。
 だが代わりに、肉食竜の代名詞を間近に観察することが可能‥‥。

「ティラノサウルスをはじめとした恐竜たちとかけっこだぜ!」

 ‥‥とはいってもビリティスは近すぎる。ティラノサウルスの群れを相手に生身でのデッドヒートだ。
 『これは彼女が特殊な訓練を受けた能力者だから出来ていることです。一般の方はけして真似をしないようにしてください』とのテロップが画面下を流れている。
 カメラスタッフが追いつけないので画面が航空からのものに切り替わった。
 ティラノの群れを引き離し、パキケファロサウルスが頭突き合戦する間を擦り抜け、ステロサウルスを丸めて転がし、パラサウウロスの頭を飛び石代わりに川を越え、オルニトミムスが手にしていた卵をかっぱらい、平原を移動中であるトリケラトプスの大群に突き当たった野生児は、卵を一気飲みし何事か考え、ぽんと手を打つ。

「続いて…」

 取りい出したるはサーカスで見るカラフルな玉――ただし大きさが段違い。それを群れに向けて次々放り投げ始める。

「恐竜がいたら玉乗り仕込まないとな! ヘッチャラだぜ!」

 玉乗りどころか皆驚いて逃げて行く。
 『パークの許可を得ています』のテロップがまた流れた。
 そこで彼女、くうとお腹を押さえる。

「遊んだら腹減ったな‥‥よし、次は氷河期だ!」

 探検隊の服をばっと脱ぎ捨て、毛皮のワンピースいっちょうとなった彼女は、石斧を振り回す。氷河ゾーンに突撃して行く。

「‥‥ウロロンガー! マンモー!」

 雄叫びを上げマンモスを追うその姿は、まさにはじめ人間。
 一撃で獲物を倒し皮を剥ぎ解体、たき火でマンガ肉をあぶり熱いところにかぶりつく。
 『これは特撮です。本当に狩りをしているわけではありません』の文字が画面下を流れた。とてもそうは見えないのだが。

「ウマウマ! ウオオオー!」

 と、メールの着信音が。
 毛皮の下から携帯を取り出したビリティスは、肉を片手に走りだす。

「サーセン、ちょっと別口依頼があるんでー!」

 画面から消える。



●楊 雪花(gc7252)の火星。

 美しい運河の遠景から、ゴンドラの上に立つ雪花にズームイン。

「ハーイ、火星ふれあい街歩きの時間ダヨ。今回は楊 雪花が案内スル火星一の繁華街ネ」

 世界の〇窓から的BGMに乗せてテロップ。

『火星散歩 新天地デ華開く雪花商会』

 深く広い渓谷の河岸には、東洋と西洋が入り交じったどこか懐かしいような町並み。
 渓谷の壁面も空中都市といった趣で、何層にも重なる市場、商店街、繁華街が作られている。
 張り出したバルコニーや歩道を見ていると、落ちてこないか心配にもなるが、大丈夫そこは見かけよりずっと頑丈に作られている。

「ココは火星マリネリス峡谷だヨ、長さは四千キロ、深さは七キロ、幅は最大二百キロ‥‥何とまぁスケールの大きいコト。この峡谷は0.9kPaと地表面より気圧が高いためニ、火星で最も早くテラフォーミングと植民が進んだ所ネ」

 あちこちにある緑化地帯がアクセントとなり、風景を一際穏やかなものにしている。
 かつて乾き切っていた峡谷も現在は滔々たる大河。深い水をたたえたゆるやかな流れには、天まで届かんとする町並みとその上にある青空がきれいに映り混んでいる。

「今や火星ハ砂漠と岩石の星ではなく大河と水運の星」

 行き交う大小の船のほとんどには、旗が翻っている。
 青地に白。雪の結晶を模した花の紋――彼女が牛耳る雪花商会の印。
 岸辺に沿って植えられている花木が湧くように咲き誇り、薄桃色の花びらを風に乗せ散らしている。

「先にも言た通りとにかく長くて広大ナ峡谷ナノデ、この街を全部見て回ることは一生かかても無理と言われているヨ。大きな声でハ言えないガ、地球デハ御禁制の品もここには有るネ。ワタシとお客サン、ここだけの秘密ヨ?」

 画面に囁きかけた後雪花は、櫂でもってゴンドラを岸辺に寄せた。
 そこは1件の居酒屋。
 店内で陽気に騒いでいる客たちに声をかける。

「ヘイ、何食べてるノ?」

「火星ナマズの串焼きと火星テキーラさ! こいつは見た目は悪いけど味はイケル! あんたもやるかい!」

 焼き鳥串に刺されたハンペンみたいなものを齧った雪花は、続いてコップを口につけ、きゅっと飲み干す。

「これは効くネー! 80度超えてるんでないかナ? でもどうして火星テキーラと言うネ?」

「酒の原料は火星ラン、だから火星テキーラと言うんだよ」

「成程、解説ありがとうネ。ちなみにこの火星テキーラ、地球の火星アンテナショップでも入手可能なコトヨ? 通販もやてるから皆さんヨロシクのコトネ」

 ぬかりなく宣伝を終えてから、再び運河へ。
 小型飛行船がふかふか空に浮いている。高所に住むもの同士は、ああやって移動した方が楽なのだ。

「モチロン魚の漁労・養殖、酒の醸造全てにおいて雪花商会が絡んでいるのは言うまでもないコトヨ。ワタシはそれを人々に自覚させないようにしているネ。知らぬが仏、穏やかに牛耳るのがワタシのやり方ヨ」

 ふと見れば、岸辺でチンピラの揉め事らしき騒ぎ。
 ほどなく揃いの制服を着た一団がやってきて、彼らを水路にたたき込んだ。

「コノ街でも揉事や野良キメラ・バグアの危険有るヨ。ダカラ元傭兵元軍人を雇て警備隊の訓練してル」

 すまして言いながら雪花は、警戒の眼差しを向けた。『地球連邦税務局・火星支部』の四角四面な建物に向けて。

「火星ポリスは怖くなくても火星マルサは怖いナ。皆も申告にハ気をつけようネ。何かあたら雪花税理士事務所にご連絡ヲ。それではサヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

 再度カメラが引き、全景。
 テロップが流れる。

『商売始めたい人は是非火星ニ! 雪花商会は貴方の夢を応援しまス』



●村雨 紫狼(gc7632)の火星

『‥‥アテンションプリーズ。アテンションプリーズ。アンドロメダ星雲への58便が後10時間で出港致します‥‥』

 地球人と異星人まぜこぜの人波が、だだっ広い宇宙空港の待ち合い所を埋め尽くしている。
 シートに腰掛け所在無げに足を組み、新聞を読んでいるのは紫狼。

「つーか、まだ紙に頼ってるってどうなんだろな‥‥いいけどよ。それにしても待ち時間長えなおい、何してりゃいいんだよ‥‥」

 ぼやいた後彼は、カメラに手を振る。

「よう。とりあえず現在バグアその他の知的異星生命体とは概ね仲良くできてる。それと、地球人同士でも国家間紛争がない――そこからトラブってたら、まず夢想もへったくれもねーからな」

 言っている脇から進化した甲殻類的輩が話しかけてきた。

 シューシューシュー

「あ? えーとえーと、トイレなら向こうですよ確か」

 シュー

 甲殻類が去って行く。
 実のところ本当にトイレの場所を聞いているかも分からず、適当に答えただけなので、舞い戻ってきて文句を言われないよう場所を移動。
 透過合金を多用している空港内部からは外の様子がよく見える。
 平たく整地された宇宙船発着所、コンテナを重ねたような住居群、はるか彼方に火星の赤い山脈。
 外へ出ても死なない程度に大気は調整済みであるが、まあ何と言おう、グランドキャニオンあたりにいるのと感覚的に違いがない。
 空港内部の様子と併せて、目新しさというものが感じられぬ。せいぜい空が夕方でもないのに赤っぽいなあという程度。

「あ〜まあ、100年経とうが人類の建築様式はそう劇的に変わらねーから、いわゆる古式ゆかしきSFっぽい都市群は期待しねえ、面白みはねえがな」

 火星は『駅』。補給・宇宙船係留のターミナル。
 かつて敵対していたバグアの技術を摂取した人類は、外宇宙を航行するための宇宙船開発に成功した。それで現在このように、太陽系外へも盛んに進出している。
 バグアの勢力圏内であったこの地域も、平和条約の締結により、安全に航行出来るようになった。

「まあ、俺たちの世代では火星開発どころか地球の平和維持にすら手が回らなかったけどな。俺と嫁の子供が老境になる頃、さらに俺の孫が現役で世を支えるこの段階になって、ようやくここまでこぎつけた。俺たちの世代では無理だったことを成し遂げたんだ。ほめてやらなきゃな」

 誇らしげに言う彼は、ぶらりとキオスクコーナーに立ち寄る。

『火星に行ってきましたクッキー』『火星まんじゅう』『火星せんべい』『火星ロール』

「‥‥なんで土産物は進化しねえんだろうな」

 ぼやきつつ、ひとまず火星で採掘された鉱石使用のペンダントを購入することにした。嫁へのお土産として。

「ともあれ、夢想するのは悪くねえ‥‥人類からバグア戦争の恐怖と憎悪が薄れるには時間が掛かる。だが、いずれはその記憶も乗り越えていけると信じたいね」

 お支払いはテラメガバンクのTMBクレジットカード。バグア圏でも使用可能地域が増えている。

「俺は結論を急ぎ過ぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいないんだ。人間はそんなに愚かじゃない、正しい精神を後世に受け継いでくれるさ。あ、それプレゼントだから包装してください。はい、リボンつけて」



●ルーガ・バルハザード(gc8043)及びエルレーン(gc8086)の火星

 火星には海が出来ていた。
 空が赤っぽいのを反映しているからだろうか、ピンク色である。
 一体どうやってこれだけH2Oを生成したのかは――科学の勝利とだけ解説しよう。
 とにもかくにもルーガはご満悦である。

「うむ、やはり海こそは生命の安らぎだからな!」

 波打ち際に張り出したテラスから釣り糸を垂れる。
 火星にある建物はこのように、地表熱を避けるため、超高床式になっている。そこで人々は長い夜と長い昼を過ごす‥‥ちなみに今はもちろん昼だ。

「おっ。かかったか」

 人工的に作られた火星の海に生き物がいるのかという疑問については、心配無用と答えておこう。プランクトンから始まり魚類に至るまで、ちゃんと再現されている。そうであってこそのテラフォームだ。
 もっとも火星の環境に適応させるため、多々遺伝子改造がなされているが。

「こいこいこい‥‥よし!」

 リールを一気に巻き上げ吊り上げたのは、全長1メートルの大物。
 種類はよく分からない。タイとマンボウの合いの子といった姿。
 しかしルーガは気にしない。新鮮なうちに早速捌くとする。

「なあに、死にはせん死にはせん」

 こうして魚はあっというまに活け作りに。
 達成感をもって額を拭う彼女は、はたとひざを打つ。

「お、そうだ。エルレーンも呼ぶか、一人で食べるには多いからな」

 ちょうどそのときエルレーンは、地上を散策していた。
 高床住宅の立て込む外側に延々広がるのは赤砂漠――という認識はもう古い。今や火星はどこもかしこもバラにパンジー、スイートピー、コスモスにアネモネ、その他数え切れない品種が咲き誇る花園と化している。緑化事業の賜物である。
 つい乙女心になり、摘んでみようかと試みるエルレーン。
 だが。

「‥‥あれ何これ、すっごく堅い‥‥折れない‥‥」

 苛酷な火星の環境に適応し繁殖するよう改良された植物群は、見かけ地球種と変わらないが、その実合金ワイヤーで編まれているのかというほど頑丈。根の張り方も浅いもので地下5メートル、素手で抜こうとて徒労に終わる。
 身をもってそれを知ったエルレーンは早々諦める。
 そこにかぐわしい香りが。

「これは‥‥」

 つられるまま歩いて行った彼女は、驚くべきものを見いだした。

「わーい、ハンバーガーの花だー!」

 なんと地球人は直接食べ物をも生む植物をも生み出していた。これはバグアでさえ出来なかった偉業である。
 むろん人類の一員としてエルレーンはこの成果を、大らかに享受する。

「こっちはちょこけーきの花だよー」

 ショートケーキもプリンもシュークリームも心置きなく食べたところで、肩に手を置かれた。
 振り向くともんぺ姿のおばさんが、笑顔で怒っている。

「お客様、お支払いが先ですが?」

 改めて見ると目立つところに『プランツフードもぎ放題:1回5000C』

「あぅ‥‥ご、ごめんなさい、料金こっち?」

 ただほど高い物はない。
 またも思い知りながら財布を軽くし帰るところ、ルーガがやってきた。

「おお、ここにいたか。さっき魚がとれたんだ。食べに来ないか?」

「えっ本当! わあい、うれしいな」

 たちまちテンションを戻したエルレーンは、小躍りしながら師匠に続く。

「来れてよかったね。火星」

「ああ、来れてよかったな、火星」



●雁久良 霧依(gc7839)の火星。

 赤い荒野をひた走るのは蒸気機関車。
 黒煙を吐く姿を渓谷の上から見つめるのは、肌もあらわなセクシーガンマン、カラミティ・霧依。

「おい雁久良、本当にえげつねえほど稼げるんだろうな?」

 まんが肉の骨を吐き捨て彼女に横柄な口を利いているのは、ちびっこガンマン。
 相棒のビリティスこと、ビリィ・ザ・キット

「本当よビリィちゃん。あの列車には資本家の豚共が、しこたま溜め込んだ金塊を積んでいるの。あれを奪われたくないばかりに奴ら、騎兵隊を借り受け同乗させてるのよ。保安官もご同様ね」

「ヘッ。上等じゃねえか。ヒャッハー! 撃ちまくるぜ!」

 2丁拳銃をクルクル回しホルスターにはめ込んだビリィは、馬の腹に拍車の蹴りをぶちこんだ。
 霧依もまた強く手綱を引き、馬を棒立ちにさせ、一気に崖を駆け降りる。

「2人が組めば怖いものなしよぉ♪」

 ここは20世紀初頭あたりの北アメリカ西部――ではない。間違いなく23世紀の火星である。
 テラフォーミングが地球圏でのバグア残党の一斉蜂起により中断、頓挫。空気と最低限の水のみ存在する状態で取り残された初期開拓者たちから数世代、地球を知らぬ人々が改めて築き上げたガンフロンティア。
 時はまさにネオ開拓時代。ガンマンの銃の力が秩序と混沌をもたらす時代‥‥。
 汽車は下ってくる2人の姿に脅え、警笛を鳴らした。

「列車強盗が出たぞー!」

「くそっ、カラミティとキット! 今日こそ地獄に送ってやるぜ!」

 乗り込んでいた騎兵隊、及び保安官たちが窓から身を乗り出し、いっせいに銃を撃ち始めた。
 弾丸が空を切る音も彼女らにとっては、心地よい効果音に過ぎない。
 無法者たちの卓越した銃撃により、次々人が、走る列車から転がり落ちて行く。

「おらおら雑魚ども! とっとと消えな!」

 ビリティスは景気よく撃って撃って撃ちまくる。そのせいですぐ弾が切れているが、次から次へ手で入れ替えている。
 一方霧依はそんな手間を取らない。たゆみなく撃ち続けている。
 秘密はたわわな胸にある。

 バルン!

 とそれを揺らし彼女は、谷間に仕込んだ弾丸を空中に跳ね上げ、リロードしているのである。
 まさに神業。

「あ、あれが噂のカラミティおっぱいリロードぐあ!」

 騎兵隊の若人がまた1人殉職した。
 汽車は狂ったように速度を上げる。石炭が限界までくべられ続けているのだ。

「止まりなさいったらー、もう!」

 このままでは埒があかない。
 彼女らは列車に飛び移る。

「ビリィちゃん、中は引き受けるから、連結を切って!」

「おう、任せとけ!」

 テーブルを盾に抵抗を続ける残留隊を霧依が始末している間に、ビリティスは、連結部の切り離しにかかった。

「ふんぐ‥‥どっせえい!」

 ガチン!

 荷が離れ軽くなった先頭部分は、ものすごい勢いで離れて行った。
 惰性で動いていた車両も、徐々にスピードを落とし停止。
 邪魔物を片付けた後、無法者コンビは各車両を引っ掻く回し、目当ての物を見つけた。
 ズシリと重い大きな黒鞄。
 カギを銃で壊し開けると、金の延べ棒がみっちり。

「大成功ねビリィちゃん!」

「やったな霧依!」

 手に手を取って喜び合った直後、ビリィの銃が火を吹いた。次の台詞に被せて。

「‥‥じゃ、死んでくれ♪」

 弾丸を胸と腹に受けた霧依は、うめきながら言う。

「ビリィちゃん、あなた最初からこのつもりだったのね‥‥ビッチ!」

 悪びれもせずビリィは、テンガロンハットを跳ね上げ歯を見せた。

「ありがとう、最高の誉め言葉だぜ♪ あばよ、デカチチ女♪」

 金塊入り鞄を手に馬に乗って逃走するビリティス。
 残された霧依は妖艶な笑みを浮かべ、ズルズル起き上がる。

「んふふ♪ 次会ったら容赦しないわ‥‥お尻百叩きの上、あたしなしではいられない体にしてあげる♪」

 貨車から出た彼女も遅れて来た己の馬にまたがり、どこへともなく去って行く‥‥。





「‥‥今回なかなか力作揃いですな」

「そうですな編集長。で、どれを採用しましょう」

「うーん‥‥全部にしましょう。全部掲載!」

「了解しました。では今から編集始めますんで。いや、面白くなりそうですねえ。今年の企画は」