タイトル:未来へ贈り物マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/27 21:28

●オープニング本文


 
 うっかりすると忘れそうだが、戦争が終わってまだ1年もたっていない。
 戦闘自体は終結したが、それがもたらした副産物は各方面に、とっちらかったまま。



 その話は、ペーチャから持ち込まれてきた。

「うちの出資してる慈善団体がね、とある孤児院でチャリティイベントやるんですけど――あなたがた参加されません? 暇なんだったらの話ですが。ああ、ぼくは行かないんですよね。仕事がありますから。もう復興事業関係が忙しくて。公的支援様様ですよ」

 彼はあいも変わらず金のことしか考えてないようだ。

「つい最近創立されたばかりでね。来てまだ日が浅い子も多くて、なかなか落ち着かないようで。それを馴染ませるために、一つ楽しい催し物をしようということらしいです。孤児院への寄付、贈り物、随時受付中。領収書なし。税金かからず。いやあ、福祉っていい商売だなあと思いますよ、実際。ぼくもそのうちやってみたいですね」

 嫌味の塊みたいな言はともかく、傭兵たちはそれぞれの思いがあって、イベントに足を運んでみることとした。
 ついてみれば最近設立されただけあって、きれいで立派な建物である。敷地も広い。
 しかし肝心の子供たちはといえば、遊んでいない。所在なげにあちこち散らばり固まっている。まだ新しい住処に馴染む段階まで至っていないものと見える。
 と、そこに動きがあった。皆同じ方向を向き、ひそひそやりだしたのだ。

「わんわん‥‥」

「わんこおじさん‥‥」

 何事かと見れば、塀からコリー犬の顔が出ている。
 それが喋り始めた。

「おーい、皆なにやってんだー?」

 レオポールだ。

「オレ? このへんで仕事しての帰りだよ。『おかあさんとできるかな』の屋外ロケしてたんだー」

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 コリー男に最上 憐(gb0002)が走りより、飛びつき、力いっぱいぶら下がる。
 重みで首が締まったレオポールは、激しくむせた揚げ句吠える。

「何すんだお前ワンワンワン!」

 どこ吹く風と聞き流した憐は、早速要求を突き付けた。

「‥‥ん。レオポール。折角なので。何かやって。拒否は。認めない」

「‥‥何のことだよ」

「‥‥ん。話せば。長いが。かくかく。しかじか。まるまる。うまうま」

 手短にチャリティイベントの件を説明してから地上に降り、しゅたっとポーズを決める。

「‥‥ん。折角。子供向けの。テレビに。出ているのだから。何かショーとか。催しとか。芸を。やって」

 そこに、楊 雪花(gc7252)もやってきた。無論援護のためである。

「レオポール、ちょと手伝てほしいネ。今や人気者のレオポールにここの子供たちを元気づけてほしいのコトヨ」

「えっ、お前もいるのかよ。どうしたんだよ今度は何の企みだよ」

「失礼ネ。今回ワタシは純な気持ちで来たのコトヨ。慈善ではナク将来の顧客への投資と考えれバ安いモノ。とにかくレオポールも人の親、こういう話ハ見過ごせないハズデショ?」

「んー。まあそりゃかわいそうだけど‥‥」

 耳をぱたぱたさせ心動かされている様子のレオポールに、憐は更なる一押しを加えた。

「‥‥ん。ココで。子供の。心を。掴めば。視聴率。アップかも」

「そうそウ。ボランティア活動ほど芸能人のイメージ上げるものないヨ、レオポール。コレがメディア戦略というものネ」

 憐らの懐柔を遠目に眺める子供たちの耳に、ハーモニカの音色が届く。明るいながらどこか寂しいメロディだ。
 奏でていたのは夢守 ルキア(gb9436)。少年とも少女とも見えるその姿は、彼らの日常から逸脱して見える。その言葉も。

「私、ルキア。永遠の子供、なんだ」

 見知った施設関係者でない人間が近づいてきたことで、一塊の子供たちは緊張する。
 自分より大きなものから何かと圧迫を強いられてきた経緯があるからだろう。
 己の経験に照らし合わせ察するルキアは、彼らにとって理解可能な話題を持ちかける。

「あ、あのわんこオジサン。満月の夜になったら、変身すると思う?」

 幼な子たちは顔を見合わせ、そのうち1人の子が、小さな声を発した。

「しんない」

 ルキアはにんまり笑い、口笛を吹く。

「そっか、残念。でも私は知ってるんだなあ。あのわんこオジサンと知り合いだから。わんこオジサンは、実は人間に変身出来るんだよー?」

「うそ」

「うっそだあ」

「うそじゃないよー。なんだったら変身見せてくれるように、頼んでみよっか?」

(持って行き方がうまいな)

 一連のやり取りを聞き感心する村雨 紫狼(gc7632)は、百地・悠季(ga8270)から背中を叩かれた。

「ちょっと、あんた」

「あ、はい。なんでしょ」

「手が空いてるなら、屋台の設営手伝って頂戴。このボンベ固定するから、持っててね」

「へいよっ」

 紫狼が支えるプロパンのボンベを、バンドで固定した悠季は、続けて鉄板台とコンロを持ってきた。ガス管を繋ぎ、火をつける。鉄板に油を塗って馴染ませる。
 巨大なボールに小麦粉、山芋、卵を投入し、かきまぜる。

「ほらほら、ボサっとせずにキャベツ切って。後ネギもニンジンもね。肉やイカもあるから」

「はいはい‥‥何作る気なんだ?」

 まな板の具材を刻む紫狼。
 悠季は冷蔵ボックスからスープを取り出し、コンロにかけた鍋に入れていく。

「お好み焼きと、あとスープね。まずは暖かい物を配ってお腹を満たして‥‥あとは慰めたりなんかかな。こういうときはそれが一番よ」

「詳しいんだな」

「ある意味あたしも戦災孤児と言えなくも無いからね。寂しい気持ちは判るしこういう風に面倒見てた経験も有るの。他人事じゃないのよね。だからこそ手を差し伸べる必要が有るのだし」

 遠い昔を思い出し悠季は、一拍置く。それから微笑んだ。慈愛を込めて。

「そもそも、こういう催しものは好きだからね‥‥これも母親としての愛情の延長よ」

 一方レオポールは憐の言葉で、ようやく腹を決めていた。

「‥‥ん。一人だと。不安だし。私もウサギの着ぐるみで。アシスタントとして。手伝う」

「そっか? それならまあなんとか。あんまり自信ないけど」

「では決まりネ。サー、ワタシも屋台の準備に励まねバ。雪花軒特製肉まんと焼餅をふるまうのヨ」

 話が決まったので、雪花はそそくさと離れて行く。

「‥‥ん。それでは。私も」

 憐も持ち込んできたウサギの着ぐるみを素早く着用。子供たちへの告知のために離れて行く。

「‥‥ん。テレビで。大人気かも。しれない。レオポールが。ショーを。やる。ウサ」

 レオポールはそわそわする。

「‥‥でもなにしようかな。おかあさんとどうぶつ体操かな。オレ今んとこそれくらいしか持ち芸ないんだよな」

 そこへ入れ替わりにやってきたクレミア・ストレイカー(gb7450)が背中に物を乗せてきた。
 かなり重い。見ればブロックの入った土のうが5つも乗っている。

「手伝って。花壇造成の許可は出ているから」

「‥‥おい‥‥」

「ああ、この後土壌改良もお願いね。得意でしょう、土掘り」

 堆肥を積んだ猫車を押して行くクレミアに一言いおうとレオポールは、えびの姿勢で追いかける。

「あ、そこは気をつけてね。段差あるから」

 そしてこけ、前のめりに潰れる。



「私ね、踊ったり、ハーモニカ吹いたりするのが好きなんだよね。嫌なトキ、ってあるじゃない。どうしようもなくて苦しいトキ。そんなトキ、音に頼るの」

 滑り台に寄りかかったルキアは、転がっていたソフトボールを拾い上げた。
 新品かつ、あまり使われてないらしい。汚れひとつついてなかった。

「でも、ボール遊びも好きかな?」

 ごく自然に彼女は、ボールを手近な相手に投げる。
 反射的に受け取った子供は、どうすればいいかときょろきょろしている。

「一緒に遊ぼう? キミたちは、何で遊ぶのが好き?」

 まだ警戒が解けていないか。
 見て取ったルキアは、自分の話をする。仲間だと認識してもらうために。

「私も、孤児で父親の顔も、母親の顔もシラナイんだ」

 子供の顔が緩んだ。口をもぐもぐさせて答える。

「ぼーる‥‥でもね、なげるんじゃなくて、けるやつ」

「そっか。じゃ、それやってみよう!」



 庭先で大きなボールを蹴りあい遊んでいるルキアの姿に、レオポールはうらやましそうだ。

「いいなあ。あっちのほうが面白そうじゃん」

 そしてクレミアから注意される。

「こら、休まない。まだ完成してないんだから」

 庭の一角に出来た花壇は、きれいにブロックで囲まれている。
 ふかふかになった土に、チューリップの球根とパンジーが植え付けられていく。

「よし、出来たわね」

 額の汗を軍手で拭い、『みんなのかだん』と書かれた小さなプラカードを立てるクレミアは、間を置かずしてこう言った。

「さ、今度は菜園を作るわよ」

「えー‥‥、まだやんの?」



「‥‥ん。お知らせ。お知らせ。テレビに出てる。犬おじさんが。急遽来園。今。庭を。ここ掘れワンワン。その後は。何か。面白いこと。するかもよ‥‥ウサ」

 孤児院内を回りアナウンスする憐の周囲には、人だかりが絶えない。特に小さい子。
 着ぐるみ姿というものは幼心を刺激するらしい。幼児向け番組に、そんなものが多いからだろう。一人が声を張り上げれば次々伝染し、ひとかたならぬ大騒ぎ。

「うさぎ!」

「うーさーちゃーん!」

 突進してくるものもいるので、憐として避けるにやぶさかではない。

「‥‥ん。そんな。動きでは。私は。捉えられない‥‥ウサ」

 だけれどそればかりでなく、ちゃんとプレゼントもする。ハートチョコ、板チョコ、ショコラタルト等。

「‥‥ん。大人しく。待って居る。良い子には。甘いモノを。配る。ウサ」

 お菓子をもらってうれしくない子はいない。ましてここは孤児院、個人が勝手に買い食い出来る環境ではない。

「‥‥ん。屋台も。出ているよ。お好み焼き。肉まん。スープに焼餅。食べ放題。ウサ」

 あちこち飛び回り広報した結果、屋内の子供たちは、次々外へ出て行った。
 憐も、さっさと外へ引き上げた。漂ってくるお好み焼きだの肉まんだのの匂いに、矢もたてもたまらなくなって。



「みんなのさいえん」と書かれたプラカードを地面に刺し終わったクレミアは、ぱんぱん手をはたく。

「今から楽しみね」

 秋になれば収穫。芋掘りイベントも出来るだろう。皆で作ったものを食べるのは、格別おいしいに違いない。

「ふふ。そのときにはまた来てみようかしらね」

 ひとまず仕事が一段落したので、休憩。
 見れば悠季の所も雪花の所も随分盛況であった。
 憐は客の方に加わり、存分栄養補給をしている。子供たちがいるので大分セーブしているのだろうが、それでもお好み焼き一枚するっと一瞬で飲み込んでしまうのはすごい。
 そこにルキアが一団を率いて参加してきた。無論、客の方で。

「私も食べるーっ!」

 クレミアは鼻をふんふんさせ行列に並ぼうとするレオポールの尻尾を掴み、引っ張る。

「私たちはヘルプに回るわよ?」

「えー、オレいつ飯が食えるんだよ‥‥」

「仕事の合間につまみ食いすることね‥‥あれ? 雪花さん、なんだか男の子いなくない?」

「ああ、さっき紫狼サンが連れてたヨ。『男には男の役割があるさ。俺はそれを実践するだけだ』とかナントカデ」



「さて、とこれで全員か」

 食堂の一室に集めた男の子たちを前に、紫狼がしゃがみこんだ。
 こほんと咳払いし、ゆっくり一語一語、よく聞こえるように話し始める。

「俺はお前達に渡すものがある」

 今この前にいる子供たちへ、万感の誠意と敬意をもって。

「人々は、世界は俺たちのように強くはない。誰もが同じには出来ていない事も、痛いほど理解している。それでもな‥‥」

 今話す言葉は難しくて、きっとまだ彼らには理解出来ない。
 でも、何らかの形で心に残れば。いつか再び思い出し、支えとしてくれれば。

「必死の想いが、張り上げた声が届くのはせいぜい数名がいいところだ。無駄な事だと誰かが嘯いても、それがどうしたと、俺が笑い飛ばしてやる――俺がお前たちに渡すもの、それは『未来』だ」

 彼らが成長するまでの約20年。平和を死に物狂いで維持することを誓う。

「その間にお前たちは必死になって学んで鍛えて、心を磨いて立派になれ。今は『受け継ぐ者』のお前たちが、俺たちの後を継いで次代へ『与える者』になるんだ。もちろん、喪った事を言い訳に退廃に逃げたり、復讐に耽る事‥‥『奪う者』や『捨てる者』にはなるな。それはこの戦いで喪った、そしてこれから得る‥‥お前たちの家族を悲しませる事になる」

 ぽかんと見ている幼い顔、顔、顔。

「俺たち男には女たちと、その世界を守る『責任』がある。不公平だとボヤくなよ‥‥お前たちにも、愛する者が出来たらわかるさ」

 それらを見回し紫狼は、パンと威勢よく手を打ち合わせる。

「さあ、これからが大変だぞ、お前ら、やる事は山ほどある!」

 そうだ、数え切れないほどある。彼らにも、自分にも。

「ようこそ、『男』の世界へ」



「レオポール、ちょとここ任せるね。ワタシお花を摘みに行くのコトヨ」

「えーっ、なんだよ、そんないきなりさあ‥‥」

 不平不満を流した雪花は屋台を離れ、建物内に姿を消す。
 廊下から外の光景を眺めていた院長が、帽子を取ってきた。

「ああ、これは‥‥この度はご寄付をありがとうございました」

「イヤ何、端金ヨ。それより聞きたいことがあたんだけどサ、正味ここの子供たちハ、いつまで面倒見て貰えるのかナ?」

 彼女の質問に院長は静かに言った。

「義務教育を終えるまでは、必ず。それ以上の進学を目指す子にも、極力配慮する所存です‥‥私は彼らに、よい人生を歩んでほしいのです」

「‥‥そカ。ぜひともその通りに頼むヨ」



「どうしたの? 皆と一緒にいないの?」

 皆から離れ1人でいた子に、悠季は優しく話しかけた。
 子供は鼻を持ち上げ、偉そうに言ってくる。

「わたしね、ちがうの。ほかのこみたいなことないの。おかあさんいきてるから、そのうちむかえにくるの。ほんとうよ」

 明らかなウソだが悠季は否定せず、ただ軽く相手の体を抱いてやる。娘のことを思いながら。

「とりあえずさ、ご飯食べよう。おいしいんだから。好きな具、焼いてあげるわよ?」

 突っ張っていた顔がふと緩んだ。
 それを目に彼女は、チャリティーに参加した甲斐があったと、しんから思う。
 ところで憐は、先程からレオポールをせっついている。

「‥‥ん。そろそろ。なにか。芸を」

「芸つってもなあ‥‥あ、そだ。そしたらメリーに評判よかったのを一つ」

 言いながらレオポールは両手で顔を覆い、毛と耳を後ろに引っ張って寝かせる。

「アザラシ」

 クレミアも悠季も、ルキアも、中から戻ってきた雪花も、子供たちさえ静まり返る。
 憐が瞬時にピコハンを入れた。

「いてーよなにすんだよ!」

「‥‥ん。滑ったので。ツッコミ。制裁。ウサ」

「ウン。今のは確実にツルツルだたヨ、レオポール。ワタシ時を忘れたネ」

「えー‥‥評判よかったんだけどなあ‥‥」

 納得いかない様子のレオポール。
 でもウケなかったのは確実だったので、それ以上繰り返しはしなかった。

「じゃあまあ、どうぶつ体操とか‥‥でいいかな?」

 かなり自信なく聞いたのだが、子供たちは大盛りあがり。
 レオポールも自信を取り戻し、元気よく吠えた。

「はーい、そんじゃみんな集まれー。わんこのおじさんと一緒に体操しよー! はい、最初は腕を上げてー、鶏さんみたいにばたばたとー、コケコッコー」

 憐はうんうんと頷く。

「‥‥ん。やっぱり。レオポールは。コッチの方が。あってるね。天職だね」

 ルキアはハーモニカで伴奏を務めた。彼らが守られ庇護されるだけではない存在になることを願って。
 真のココロの拠り所を、ともに見つけたい。今を生きる同士として。
 紫狼が男の子たちを連れ、戻ってきた。

「おっ、やってるなあ。ほら、オレたちもやろうぜ!」

「一気に騒がしくなったわね」

 おかしそうに言う悠季は、クレミアの持ち込んできた鉢を見る。小さな双葉が出たばかりのものを。

「それは?」

「カモミールよ。皆に手渡そうと、ね。因みに花言葉は『逆境のエネルギー』」

 続けてクレミアは、空を仰ぐ。

「日当たりのよい場所で育てるといいわよ」


 暖かな春の近づく青空を。