●リプレイ本文
エレベーターが静かに素早く動く、清潔な高級マンション――それが内局員の住む世界。
彼らは上等の食べ物と煙草と混じり気のないブランデーを、テレスクリーンを好きなときに消す権利と召使のいる安楽な生活を享受する。引き換えに党へ完全なる愛と忠誠を捧げる。
そのうちの一人であるドクター・ウェスト(
ga0241)は、磨き上げられたガラス窓から、巨大な『偉大な指導者』の像に向かい敬礼した。これが毎朝の習慣なのである。
「わんっひゃんっひゃんっ、ワンが輩はドクター・ウェストだ〜。「偉大なる指導者」のため、「愛する党」のため、今日も頑張るぞ〜」
短毛種チワワの彼は、ぐるぐるした大きな目に合う眼鏡をかけ、糊のきいた白衣に袖を通し、意気揚々出勤。
行く先は平和省――科学者として兵器開発担当部に所属しているのである。内部でもかなり名の知れた、有能にしてうるさ型の人間だ。もっとも科学者というのは大概そんなものだが。
「いやあ、お早うD同志。今日はすごいよ、新しいユーラシア戦争捕虜が1ダース手に入ったんだ」
「本当かい〜そりゃうれしいね〜捕虜の身体レベルはどのへんかね? 当然新品なんだろうね?」
「もちろんだよD同志。どれもまだぴんぴんしてるさ。拘束されながらも有害思想をわめき散らしてるよ」
「おお〜素晴らしい〜これでいいデータがとれるよ〜手持ちの披検体もいい加減擦り切れてきていたからね〜反応がすっかり鈍くなってきて〜」
尻尾を振り合いながらワンワン喜び合うこっけいな犬人間たちの前では、巨大な装置に数人が拘束され縛りつけられている。頭に電極が繋がれており、顔にくっつかんばかりにモニターが押し付けられている。
ウェストたちは当の人物たちには見向きもせず、計器ばかりを見続けている。
「視神経が相当なダメージを受けているね〜これはもう見えていないな〜」
「ではこの視覚によるサブリミナル実験は終了だ。次は電気信号を使い脳内へ直に『偉大なる指導者』の映像イメージを結ばせる段階へ‥‥これがなかなか調節が難しいのだよね。この間も脳細胞自体が損傷を受け、即時廃棄と‥‥おや、またか」
「うーん〜こちらが作り出したイメージを浮かばせる、というのが困難なのだね〜被験者の精神内部にもともとあるイメージを誘発するまでは容易いのだが〜」
云々しながら別のセクトに移動し、丸窓から狭い室内を覗き見る。
1人の人間が喉をかきむしり泡を噴き白目をむき、痙攣を始めている。体中に黒い斑点を浮かせて。
眺めるウェストは喜色満面だ。党への愛に満ち満ちている彼にとって、実験ほど楽しいことはない。
「おお〜うん、君は光栄だね〜。愛する党のために武器の実験に役立てるのだからね〜」
人体が化学物質にどのような反応を示すのか、電流や真空などの環境でどのように反応するのか、その際脳の内部はどのような変化を見せるのか等、毎日やることは限りなくある。
そのうちには、いわゆる頼まれ仕事というものもある。
今ブザーの音とともに気送管から送られてきた通信など、まさにそうだ。
『愛情省教育課:急務:101R』
「おや、またかね〜ここのところ愛情省も随分忙しそうだ〜」
といってこの任務は彼らにとっていやなことではない。これもまた、実験のいい機会であるのだから。
眼鏡をかけ直し、ウェストは期待に胸を膨らませる。
「それではワンが輩がこの度開発したサイコラマ装置を、使用させてもらおうか〜教育を効果的に行うためにね〜」
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クローカ・ルイシコフ(
gc7747)は模範的な少年党員である。
まだ正式な党員ではないが、すでにライカ犬の耳と尻尾が生えてきているあたり、将来内局に登用される見込みは高い‥‥というのが周囲の見方だ。
事実彼もそのつもりで生きていた――つい最近、記憶を取り戻すまでは。
優秀な団員として幾度か真理省に出入りし、資料抹消の体験学習をしたとき彼は、偶然見つけてしまったのだ。過去未来現在と敵国であるはずのユーラシアが友邦であったこと示す記事を。
己の父がユーラシアの外交担当官であったこと、開戦が始まると同時に両親とも蒸発させられ、幼かった自分は1人矯正センターへと送られたこと、心身ともこの国の人民として仕立て上げられたこと。
それらを自覚してしまった瞬間から『偉大な指導者』は、クローカにとって打倒すべきものとなったのだ。
(思想と行為の間には何の違いもない。犯罪行為を思うことそれがすなわち思想犯罪である。思想犯罪はあらゆる犯罪を包括する基本的な犯罪である)
百万遍もたたき込まれた鉄則を思い浮かべ、彼はどのみち自分は終わりなのだと悟る。
思想犯罪というものは永久に隠しておけるものではない。しばらくの間、あるいは数年間くらいは隠せるかもしれないが、遅かれ早かれ逮捕されることだけは間違いない。
逮捕されればお決まりの手続きの後処刑される。昼が来て夜になるくらいそれは明らかなことだ。これまでさんざ彼自身もその実例を見聞きしてきた。
だが、だからといって大人しく成り行きに任せる気などみじんもない。
(『偉大な指導者』を打倒せよ)
青い半ズボン、グレーのシャツに赤いネッカチーフというスパイ団の格好の上からローブをまとい、闇市に向かう。
聞き慣れたプロレの訛りを真似て、露店商売をしている店主たちに話しかける。
「おばさんおばさん、あのさあ、聞いた? 来月からこの闇市に開業税がかかるらしいよ?」
「えっ、何のことだいそりゃあ。冗談だろう。あたしゃ聞いたこともないよ」
「いや、それがさあ、党で内々に決められそうだとか。俺の母ちゃん真理省の簡易食堂で働いてるからさあ、そういう話よく聞くんだって。マラバル戦線が膠着してて、物資の供給が厳しいから、臨時徴収税をとか。後‥‥」
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(今日はお子様たちのお出ましか)
私服に身を包んだレインウォーカー(
gc2524)は、夕暮れの闇市をうろつくスパイ団に肩をすくめた。
ああ言うのはなるたけ流した方が無難だ。
といっても何か手柄を立てたくてうずうずしている彼らと一切係わりあいになるまいとしたって、なかなか難しい。向こう側からどんどん接触してくるのだから。
「おい、そこの貴様。党の三原則を言ってみろ。覚えておくのは人民としての義務だぞ」
ほら、こんなふうに。
内局員の子供なのか随分顔が犬化している。
ここでうるさいなとか返すと嵩にかかって責めてくるので、やんわり回避するのが最上だ。
「すいませんねぼっちゃん、ボクは無学なもんで覚えてないんだ」
「なんだと、けしからん! 貴様は思想犯だぞ! 岩塩鉱で無料奉仕活動を行わねばならんところだぞ!」
「まあまあ、これ、あめ玉お一つどうぞ」
「‥‥う‥‥ん、今日のところは勘弁してやろう」
結局大人も子供も大差ないのだ、とレインウォーカーは思う。
ああいうのを出されて怒る潔癖なタイプもいるからいちがいには言えないが、しかし自分は聖人君子より、今みたいな俗物が好きだ。
彼がそう言うと同行している夢守 ルキア(
gb9436)は、大きく頷いた。
「そうだね、私もどっちかというとあんな子のほうがまだマシって感じするよ。基本いけ好かないのは一緒だけど」
2人揃ってプロレ用のアパートに向かう。
ひび割れの出来て斜めに擦り減った階段を上り、がたついた扉を開ける。
木箱がたくさん積まれていた。
そのうち一つに手をかけ開くと、ぎっちり密造のスブロフが詰まっている。
隣の箱には前線から流されてきた爆薬、その隣には銃器、爆竹に剥き出しの火薬。
これは全て彼らが極秘裡に集めたものである。『偉大なる指導者』の秩序に挑戦するために。
「今晩決行だよね、レイン」
「ああ。世界をつまらなくする王様たちに道化が刃向うとしよう」
彼らのアパートの窓からはスラムを前景とし、真理省の建物が見える。
一千発のロケット弾を撃ち込んでも吹き飛ばせそうにない代物だ。
「人々は何を想い、どうするか。自らの意思で立つか、それとも支配され続けるか。選んでもらうとしよう。その為の選択肢を作りに行こうか」
「うん。でもさレイン、クローカ君って信用出来ると思う?」
「‥‥どっちにしても、ボクはやるさ。さて、王様への反逆の時間だ。世界に喧嘩を売りに行くとしようかぁ」
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「また税金が上がりそうなんだってさ」
「冗談じゃないよねえ、本当に。今でさえかつかつなのに。新しいナベだの包丁だのも、なかなか出回ってこないのにさ。あるもの全部大砲の弾にでもしちまうつもりかねえ」
「ビールやらタバコやらもまた税金が高くなるってよ。映画も赤新聞も規制が厳しくなるらしいぞ」
「ふざけんなよ。なら俺たちは何を楽しみに生きて行けっていうんだよ」
警察はめったにプロレ街に立ち入らないが、本日は巡回をしている。
そこから逐一愛情省に、浮足立った空気が伝えられた。
出張してきていたウェストもそれを嗅ぎ取り、マスチフ顔をした関係者に尋ねる。
「何事だね〜一体〜」
「いえ、プロレたちが流言蜚語に浮かされているようでしてな。それだけならたいしたことにはなりませんが、一応他の可能性も考慮しまして――」
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真理省の前では数十人のプロレが騒いでいた。
特に組織だった行動をしているわけではない。飲み屋から酔いに任せそのまま出てきたという具合だ。
「もっと酒を安くしろお!」
「給料上げろお!」
抗議というレベルまでは至っていない。個々の小さな不満をぶちまけているだけだ。
だからこそ警察もあまり本気になって対処していない。うるさく吠える動物を迷惑がるように、追い払おうとしている。
「こら、下がれ、下がらんかっ! とっとと帰れ!」
物陰からそれを眺めていたルキアは隣にいるクローカーに、スブロフで作った火炎瓶を渡す。
「真理省にぶち込んでくれる? 信じるタメさ」
クローカーは彼女を見て、レインウォーカーに視線を移した。
彼は黒衣に道化の仮面をつけている。変装‥‥にしては少々目立ち過ぎるようだ。
「よろしく頼むよぉ、同志くん」
少年は物陰から落ち着いて出て行く。
通行人であるかのような顔をし騒ぎに近づいたところで、火炎瓶を投げた。真理省でなく足元目がけて。
炎に照らされローブを脱いだ下には、スパイ団の制服。
右手を高く掲げ党式の敬礼をした彼は、声を張り上げる。
「僕はエアストリップ1号第45地区スパイ団所属、クローカ・ルイシコフです! 思想犯告発のために参上致しました! すぐそこの通りに思想犯2名が潜伏しております! 逮捕してください!」
思想犯と聞いた途端警官の態度が変わった。
プロレの群れなぞ放置し、信用のおけるスパイ団小英雄の告発に従う。
「‥‥レイン、あいつ早速裏切ったよ」
半眼になるルキアにレインウォーカーが笑って返す。
「盛大な歓迎ご苦労、政府の飼い犬たち。さぁ、盛大なパーティーを始めるとしようかぁ」
彼がそう言った瞬間、真理省の周囲で連続爆発が起きた。
コンクリートが粉砕されガラスが飛び散る。
集まった人々は絶叫し四方八方飛び散った。
混乱へ拍車をかけるが如く爆竹が弾け、火炎瓶が火を吹く。
濃い煙が一面を覆った。
増援要請を受けて来た警察車両が急ブレーキをかけ停止する。
騒ぎが起きたというので物見高い人々――そのほとんどがプロレだ――が逆に寄ってくる。
混乱に乗じレインウォーカーとルキアは、真理省の敷地に突入した。たった2人で。
「な、誰だ!」
相手が何か言い終わる前に銃弾を浴びせ、ナイフを走らせる。
焦った誰かが催涙弾を投げ込んだが、かえって更に場を混乱させた。あちこちで絶叫が上がる。
「やめろ、違う俺だ!」
「撃つな撃つな、落ちつけえ!」
ルキアは鉄板を仕込んだ腰に鋭い衝撃が走るのを覚えた。鎮圧ゴム弾が当たったのだ。
だが速度を落とさず駆ける。止まったらどうなるかくらいは理解出来るので。
襲ってくるのは真理省の警備隊と派遣されてきた警察隊であり、職員ではない。彼らは目を白黒させ逃げ惑うばかりで、やじ馬ほどにも障害とならない。
壁や天井目がけ爆薬をぶつけると、隙間なく仕込まれた気送管や記憶口に穴が開き、行き交っていた大量の紙片や書類、写真などが舞い散った。
本能に転じた習慣から、職員がそれをかき集め始める。蟻塚を壊されたシロアリが大急ぎで修復にかかるのに似て。
ルキアは揶揄を口にする。
「生命活動ダケで、生きてるツモリ?」
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混乱に乗じ現場を抜け出したクローカは、その足で愛情省に向かっていた。
ついてみれば既に騒動を察し、鎮圧のための大人数が集結しつつある。
場に顔見知りがいることに彼はすぐ気づく。チワワ顔の内局員、ドクター・ウェストだ。
「ワンが輩の装置がお役立ちとはね〜うれしいよ〜」
何やら悦に入っている様子だが、彼なら普段から顔を知っているだけに情報を流しやすい。乗せやすい。
そう踏んだクローカは、早速話しかけた。
「D同志!」
「おお〜小英雄のクローカくんではないかね〜どうしたのだい?」
「はい、ただ今真理省にて、中枢党員――内局員反逆者のクーデターが起きました! 実に由々しき事態だと思いますので、ご報告に‥‥」
それを聞いたウェストは非常に興奮し、舌をはみ出させた。
「おお、それは大変だ〜! 愛する党のために反逆者は粛正させねば〜!」
いける。
クローカーがそう思ったとき、肩にポンと手が置かれた。
見上げてみれば愛情省の記章をつけたマスチフがいる。
「同志。キミ、今日の朝から何をしていたね‥‥?」
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その日その時間。ほんの数分。テレスクリーンは占拠された。
映ったのは内局員でも外局員でもない。党とはまるで無関係な人間だ。
黒装束に仮面をつけた彼は、画面の外へこう呼びかけた。
「さぁ、皆見るといい。ボクたちの戦いを」
たち。
そう、そこにはもう一人の人間がいた。少年のような少女。
「レイン、来たよ!」
思想警察の隊員が束になってなだれ込んでくる。
スタジオの隅で映像部門の職員たちは小さくなっている。
銃弾の音が交わされる中、仮面の男へ視点が切り替わった。
「もっと盛大に、もっと派手に踊ろう。今を生きて戦う意思があるなら、お前達にも出来るだろぉ」
男ががくんと膝をついた。
仮面が床へずり落ちる。口の端から赤く太い流れが落ちて行く。
「道化は最後も盛大に、ねぇ。さぁ、逝こうかぁ」
次の瞬間テレスクリーンは真っ白になる。
異例なことにその状態は、こののち一時間も継続した。
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愛情省の最も奥深く、何十メートルもの地下にある101号室にルキアはいた。
彼女は椅子に結わえ付けられ、身じろぎひとつ出来ないまま正面を見据えるしかない。レインウォーカーが爆死した際ついた傷もそのまま、即時ここへ連行されてきたのだ。
この部屋がどういうものであるか、彼女も噂には聞いていたが、想像とはやや異なり、拷問器具などは一切置いていなかった。ただコンクリート剥き出しの壁に囲まれているに過ぎない空間だ。
傍らにいるのは2人。
表情の読めないマスチフ顔の愛情省内局員と、チワワ顔の平和省内局員――ウェスト。
最初に喋り始めたのはマスチフだ。
「ルキアくん、だったね。一応聞いておこうか。なぜこのような真似を?」
首まで固定されているため息苦しかったが、ルキアは平静を装い、相手を皮肉る。
「納得できないから抗う。今の私、それが全て」
マスチフはゆっくり体を動かした。
すると初めて彼の後ろにあるものが見えた。ヘルメット型の何かだ。
チワワがそれを持ち上げ、とくとくと話し始める。近づいてきて、頭に被せる。
「君はクローカくんを知っているかね〜? 彼は君の前にここへ来て〜見事に転向したのだよ〜『偉大な指導者』を心から愛するようになったのだ〜」
バイザーが降りてきて目の前が真っ暗になった。
「これはワンが輩の開発したサイコラマ装置だね〜まだ改良の余地はあるが〜とりあえず一定の効果は出ることが〜すでに証明されているよ〜」
暗闇に声だけが聞こえる。
「我々は異端者が抵抗するからといって破壊するようなことはしない。我々は異端者を回心させ、その内なる心を補足し、人間を改造するのだ」
強烈な気持ち悪さが襲ってきた。船酔いを何十倍にもしたみたいな。
「これから君は君が最も恐れているものに出会う〜五感を伴って繰り返し繰り返しね〜それが何かワンが輩には分からないが〜間違いなく君の精神にとって一番致命的なものだろうね〜」
体全体の感覚が揺らいでいく。
「キミの心にあるすべての邪悪なもの、幻想を焼き払ってしまおう。形の上だけでなく身も心も我々の味方につけるのだ。キミはおしまいに我々へ許しを請うだろう。苦痛からでも恐怖からでもなく、ただ後悔の気持ちから」
声が遠ざかって行く。
「君の尊い犠牲を、ワンが輩は忘れないよ〜」
「では、グッドトリップ」
次の瞬間ルキアは幼い自分がみすぼらしい部屋にいるのを発見する。下着だけの姿で。
赤を帯びた光が窓から入り込み、それを背にした男たちの表情を隠している。
「いやだ‥‥やめて、やめて、やめてよお!」
体に加えられる容赦のない苦痛にルキアは泣き叫ぶ。
それをもう一人のルキアが横で眺めせせら笑う。
(いい気味。ヒトなんて、愛せないクセに)
何度も何度も同じ場面が繰り返される。
何十回、何百回、何千回。一分一秒も揺るがせにせず。
彼女はいつしか栗の木カフェにいて、クローカと共にテレスクリーンを眺めていた。党への忠誠と『偉大な兄弟』への愛以外には何も持たないまっさらな人間になって。
テレスクリーンから人を小馬鹿にしたような黄色い調べが流れてくる。
‥‥‥‥
あーなーたーとわーたーしー
なーかーよーくうらぎったー
‥‥‥‥
●
ルキアは目を覚ました。
しばらく起き上がれなかった。呼吸を整えるのが精一杯だ。
自分が現実にいるかどうかしっかり確信出来てから身を起こす。
頭を抱え数分、枕元の時計を見やる。
7:25。1月2日の日付。
すさんだ笑みを宿した彼女は一人ごちる。
「‥‥あ、ふふ、ヒトはイラナイ。セカイが欲しいの」
のろのろベッドから降り、目をこすりキッチンに向かう。
濃いコーヒーを飲んで、ろくでもない気分をさっぱりさせるために。