タイトル:氷原にマンモスマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/21 01:58

●オープニング本文



 遮るもののない凍りついた大地の上。凍えそうな星空の下。
 覚醒すれば普段は冷静なスナイパー、スーザン・高橋が延々愚痴を言っている。

「あー、なんでこんな時期に仕事なんかしてるの私‥‥しかも極地すれすれのところで‥‥今年こそ彼氏作って過ごそうと思ってたのに」

 他の傭兵たちはその姿から視線を外し、近づいてくるキメラを見やった。
 ずしずし足音を響かせてくるそいつは盛大に、真っ白な息を吐く。
 毛むくじゃらの体、長い鼻、こぶのある頭に輪を描いて湾曲した牙。
 間違いなくマンモス。
 存外小さい。どう見ても普通の象くらい。一般人ならともかく能力者が恐れるほどの体躯ではない――と皆が思った途端、長い鼻から盛大な火炎放射が出た。ガスバーナーのような青白い炎。なかなか熱そうだ。
 スーザンはまだぶつぶつ言っている。

「大体イブまで後数日しかないのになんでこんな依頼がぶっこまれて‥‥チッ‥‥」

 舌打ちを終えてから、やっと皆のほうを向く。

「‥‥私、遠距離から援護しますんで、近接戦の得意な方、突撃お願いします」

 場にいた全員が確信を抱いた。
 今日の彼女は滅茶苦茶機嫌が悪い、と。

●参加者一覧

ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP
エイルアード・ギーベリ(gc8960
10歳・♂・FT

●リプレイ本文

 ここは極北。バナナで釘が打て、吊り上げた魚が凍死し、振り回された濡れタオルが凍りつく世界。
 のっけから愚痴っていたスーザンに、上機嫌な雁久良 霧依(gc7839)が話しかける。

「マンモス狩りね♪ 色々用意してきたから倒したらお肉焼いて食べましょうね♪」

 エイルアード・ギーベリ(gc8960)は不機嫌の極みであった。スーザンを上回るほど。

「ぬぐぐぐ‥‥防寒の為とはいえこの妾がこんな野暮ったい外套を纏わねばならぬとは‥‥おのれマンモスキメラ! 万死に値するわ!」

 覚醒している彼の心は現在「乙女リンスガルト」なのだ。
 一方本物の乙女ビリティス・カニンガム(gc6900)は、やたら騒がしくしていた。防寒用外套の上にヒョウ柄の布をまとい、髑髏仮面を被り、「メテオライト」を手に跳びはねている。

「ウロロンガー! マンモー! マンモー! ンゴガー! ウラウラ! ペッカンコ!(おお! マンモスだ! 者共かかれ! 今夜はご馳走だ!)」

 こんなことをしているからといって彼女、特にふざけているわけではない。直前に原始人がマンモスを狩りうまそうなマンモス肉を頬張るという内容の日本アニメを見、感化されてしまっているのだ。
 現在心は完全に「はじめ人間」である。

「ビリィちゃんノリノリっすね! ボクも負けないっすよ!‥‥ンババッ! ンガゴッ! マンモー!」

 真似して雛山 沙紀(gc8847)も「輝嵐」を振り回し雄叫びをあげ、それっぽい創作ダンスを踊りまくった。
 外套のフードに隠されているので周囲からはよく見えないが、髪がべったりしている――実はこの一カ月放浪生活を送り全く入浴してない上着替えも一切してないという、年頃の娘にあるまじき状態なのだ。もはや骨の髄から原始人と言っていい。
 それにいち早く気づいたのが、沙紀を「かわいいペット」認識している霧依。
 大型の焚き火台とブロック、大型焼き網、木炭、固形燃料を用意しつつ、ほのかに漂ってくる体臭に目を細める。

「‥‥沙紀ちゃん、またお風呂入ってないのね。んふふ、口実が出来たわ♪」

 何の口実かは問うまい。
 姦しさにマンモスも興奮しているのか、鼻から引っ切りなし炎を吹き、前足で凍った地面を踏んでいる。
 突進してくる気、満々。
 予想以下であるとは言え、それでもけして小さくはないキメラ。まともに食らうと多少はやっかいだ。湾曲した牙も侮りがたし。
 エイルアードは「マーダー」を夜空に向け、高く振りかざす。

「妾も前衛として行動するのでな。スーザンよ、霧依よ、援護を頼むのじゃ」

「OK」

「任せてちょうだい」

 後衛2人に後を託し彼は、ビリティス、沙紀とともに前へ出る。
 マンモスは一声高く吠えた。

ブワーオーオーゥ

 対抗するようにビリティスも吠えた。

「ウマウマ、ウマウマ! スロコ! クヤ! ウク! マンモー!(お前を殺して焼いて食う)」

 そして同好者たちに呼びかける。

「サキ、エマニ、ウララ、コヨ、シウロ! ウラウラ!(沙紀さんは前方から、妾たちは側面と後方から攻めよう!)」

 お手製原始語にこだわる彼女だが、身振り手振りで大体意味は通じているので問題ない。
 沙紀は早速マンモスの前に陣取り「輝嵐」で挑発を始める。火を吹く鼻の動きに注意し、後衛と後に必要となるバーベキュセットから相手の注意をそらしていく。

「頑張ってー」

 霧依から練成弱体をかけられているせいもあってマンモスは、うまく火炎攻撃を当てられない。
 スーザンの援護射撃が入った。右の目玉に向けて。

ブワゥ!

 視覚を半分失ったマンモスは一層不利になる。
 とはいえ全然当たらないというわけではない。外套の表面が焦げるくらいはする。

「うあっち!」

 彼女が攻撃している間、エイルアードもビリティスもせわしく動いていた。
 「マーダー」が剛毛の下にある皮膚を切り裂き、「メテオライト」が殴りつける。
 狙うは機動力の源となっている四肢だ。
 しかし、なかなか決定的なダメージを与えるにいたらない。氷原に赤い血を点々と散らすばかり。

「ウゴ! ウゴ! ル−ガ!(動きさえ止めちまえばそう怖い相手じゃねえんだが‥‥しぶといな!)」

「ええい、早いところ参らんかや!」

 勢いよく鼻が振り回される。延長として炎も。

「わっ!」

 髪が焦げるに至って沙紀は地面を一回転、懐に接近、丸太みたいな前足の甲を思い切り叩く。

ブオーウ!

 かなり痛かったのだろう、棒立ちになったマンモスは姿勢を戻すや突進してきた。
 沙紀は横っ跳びに避け、相手を受け流す。
 相当動いたため、外套の中が蒸れてきた――それはつまり、体中にこびりついていた垢が汗とともに溶け出してきたことを意味する。
 一直線に通り過ぎ、また戻ってきたマンモスに向け沙紀は、ニヤリと不敵に笑った。
 敵が射程内まで来たところで満を持し、変質者のごとく外套の前をオープン。
 解き放たれた匂いは人類が表現する術を持たない類いのものであった。
 マンモスの後方に回っていたビリティスとエイルアードが、反射的に鼻を押さえる。
 至近距離からまともに吸い込んでしまったマンモスは凍りついた。

ブフo

 鼻先の炎がしおしお縮み波のような震えが本体に伝わり全身の毛が逆立つのを、誰しもしかと見届ける。

「数秒でよいのじゃ、動くではないわ!」

 エイルアードは渾身の力を込め、後ろ足の腱に深く鎌を食い込ませた。
 もう片方の足にビリティスの振りかぶった鉄槌が激突する。
 両後足を挫かれたマンモスは尻餅をつく形で、ガクッと崩れ落ちた。
 目と目の真ん中にスーザンの鉛弾が打ち込まれる。
 前足もへなへな崩れた。

「いようっし、止めっす!」

 外套の前を合わす手間も惜しんだ沙紀は、くすぶる鼻目がけ「輝嵐」を突きこんだ。

「ウラウラペッカンコー!」

 ビリティスは背中に上り、脳天目がけ鉄槌を振り下ろす。

「血抜きもしておかねばの!」

 後方から首元に、エイルアードの一閃。
 噴水のように吹き出した血は白い大地に煙を上げ、たちまち冷えていく。
 ビリティスの勝利宣言が凍りつく天地に響き渡る。

「マンモー! ウラウラ! ギャートルズ!」



 焼き肉台が2つに増えている。エイルアードが新たに作ったのだ。なにしろマンモスは大きいので、1つだけでは間に合うまいと。

「燃〜えろよ燃えろ〜よ〜炎よ燃え〜ろ〜」

 沙紀はお手伝いとして網を敷き、火のついた木炭にぷうぷう息を送る。
 徐々に全体が白くなり、高い熱を放ち始めた。

「おお、あったかいっす。こんだけ火力があれば十分っすね。あれ、どうしたんすかスーザンさん、顔色悪いっす」

「‥‥ごめん‥‥ちょっと外套の前は閉めていてもらえないかしら‥‥かなりすごいのよ‥‥」

「ボク臭すぎ? うう‥‥ごめんなさいっす」

 準備が出来たところで、お肉の解体。
 まずエイルアードがビリティスへ「マーダー」を貸与。

「族長、これを使われるがよろしかろう」

「ウォオオ〜! マンモ! マンモ!」

 ビリティスはお立ち台にて勝利の舞を舞い、雄叫びを上げる。
 応じてエイルアードと沙紀が声援を送る。

「オサ! オサ!」

「族長! 族長!」

 巨大な鎌がスパアンと肉を輪切りにする。
 骨があるはずだがという野暮な突っ込みも出ないほど完璧な「原始人の肉」を、軽く塩胡椒し網の上へ。
 たちまち立ちのぼるよい匂い。したたる脂、焼ける肉。
 満を持し、それぞれ己の取り分にかぶりつく。

「ウマウマー!!」

「おお、おいしいっす! この味まさに神っす!」

「う‥‥うまいのじゃああ!」

 感激する彼女たちに霧依は、飲み物を渡す。
 未成年にはソフトドリンク。

「はい、みんな。あっためたココアとコーヒー牛乳とフルーツ牛乳よ」

 スーザンには自分と同じ発泡酒。

「はいどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、‥‥んん〜、お肉もお酒もマンモスおいピー♪」

 ナイフで小さくした肉を口に運び、霧依はご満悦だ。
 遮るもののない星空を見上げ、白い息を吐く。

「オーロラ出るかしら♪ 見れたら素敵ね‥‥大自然のスペクタクルよ…」

「そうですね‥‥あっ」

 スーザンが言葉を詰まらせた――空が燃え上がったのだ。緑に、青に、桃色に。
 半透明の緞帳が見渡す限り一杯に広がり、揺れている。その合間から絶えぬ星の輝きが地上に降り注ぐ。白い大地が色を反射しうすぼんやり光る。
 沙紀は眼を輝かせ大声を上げた。

「うっひゃー! 超綺麗っすね!」

「おお‥‥なんという美しさじゃ‥‥我が愛しき恋人にも見せたかったのう」

 首を振りため息を漏らすエイルアードに続き、ビリティスが叫ぶ。

「オオ‥‥オウロラ!! ウォオオ! ウォオオ!(見よ、神も我等を祝福している 我は感謝の舞いを捧げるぞ!)」

 再度お立ち台に登り勇壮に舞い始めるそこに、沙紀も飛び入り参加する。

「ウホホ、ウホホ!」

「オオ、マッホ!」

 霧依はオーロラに見とれるスーザンへほほ笑んだ。

「ね、いい事あったでしょ♪」

「‥‥ええ。こんなもの滅多に見られませんよね」

 答えに満足したように頷き、今度はお立ち台に向かう。踊り狂っていた沙紀の襟首をつかみ引きずり降ろし、またほほ笑む――嗜虐的に。

「またお風呂入ってなかったわね‥‥私のいう事が聞けないなんて帰ったらたっぷりお仕置きよ? 覚悟しなさい‥‥」

 沙紀はビクリと身を震わせた。頬を赤らめながら。

「お仕置き? は、はい‥‥お姉様‥‥」

 オーロラはいよいよ激しく燃え上がる。

「マンモー!」

 まだ舞っているビリティスの影を、氷原にゆらめかせて。