タイトル:乾くマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/15 06:30

●オープニング本文





 ジープの車列がサバナを駆ける。
 治安部隊が匪賊の鎮圧に赴くところだ。
 敵の勢力中にキメラが含まれているとの報告を受け、傭兵たちも参加している。




「正規軍から脱走して、向こうに奔った人間がいるんですか?」

 何度聞いても腑に落ちないスーザン・高橋は、現地出身者である兵に尋ねる。

「理由が分かりません。その人たちは正規軍でずっと働いていたんでしょう? 十数年間も」

 兵は大人しく頷いた。

「ああそうだ。何度も大規模な作戦に加わりいい働きをしていた」

「だとしたら何故いきなり。バグアと通じていたわけですか?」

「いや、調べた限りそんなものはなかった。大体通じていたとしてもだ、奴らが壊滅状態となったこのときに、そんな反逆行為をしたところで、得るものなど何もないはずだ――恐らく」

 兵は黒い顔をサバナの彼方に向けた。
 ぎらぎら照り輝く太陽と渇きと暑さ以外になにもない。慢性化している旱魃で土地はすっかり干上がり、生き物の影さえまばらだ。

「戦いたいだけだ」

 スーザンは顔をしかめた。

「そんな理由ありますか?」

「ああ、十分ある‥‥バグアが来る前から、ここは内乱が続いていた。オレは物心ついた時から、平和なんてもの体験したことがない――だからそれは、とてもいいものなんだろうと思ってたよ」

 焦げっぽい皮肉を込めて言葉が続く。

「だがいざそうなってみると、居心地が悪くてな‥‥時々空しくなってきてな‥‥戦争が懐かしくなるんだ。自慢できた話ではないがね‥‥でも‥‥」

 兵がそれ以上、何か言う機会はなかった。目の前の土がいきなり盛り上がり、巨大なエイ型キメラが姿を現したのだ。
 そいつは広く平たい体を跳躍させ、車列に覆いかぶさってこようとする。

「話は後で!」

 スーザンはジープの扉を蹴り開け、外に飛び出した。他の傭兵達と同じように。
 ラクダに乗った一部隊が銃口を向け後方から近づいてくる。





●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
クティラ=ゾシーク(gc3347
20歳・♀・CA
モココ・J・アルビス(gc7076
18歳・♀・PN
ジョージ・ジェイコブズ(gc8553
33歳・♂・CA

●リプレイ本文


 巨大エイが空を覆ってくる。
 ジープは皆大急ぎで後退又は方向転換し、下敷きになるのを避けた。
 干からびた地面から盛大に上がる土埃。
 セレスタ・レネンティア(gb1731)の叫び。

「敵の奇襲です! 迎撃態勢!」

 車列前方にいた彼女は「スナイパーライフル」に貫通弾を装填し、早口で現地兵たちに言った。

「あなたがたは匪賊の方に回ってください! キメラは私たちが相手をしますから!」

 クレミア・ストレイカー(gb7450)はジープの後部座席から身を乗り出し、双眼鏡で状況確認を行う。

(前方に大型キメラ一体、後方に騎乗の戦闘員がざっと20‥‥)

 匪賊の素性などについては事前に話を聞かせてもらっている。
 元正規兵――つまりプロ筋が多数混入。能力者は恐らくいない。キメラを飼っており、それを先鋒に場を混乱させる作戦をとってくる。

「早い話、戦いこそが生き甲斐ってことかしら? ともあれ、席を替わって頂戴」

 彼女は素早く運転席にいる原地兵と入れ替わり、安全ベルトを締め、アクセルを踏み込む。

「しばらく貸してもらうわ! あなた方もベルトを締めて!」

 車両はキメラに急接近し、鼻先をかすめる形で旋回、後退する。
 無気質な光をたたえる魚の目がぐるっと動いた。大きな針のついた長い尾が小さく水平に、ぶんっと空気を切って振り回される。
 別の車両から転がり落ちるように、ドクター・ウェスト(ga0241)が出てくる。
 彼は匪賊たちにさほど関心を示していない。そちらも脅威の一つとは認識していても。

「我輩は、アチラの相手はできないから、コチラは任せてもらおうかね〜」

 再度跳躍せんと盛り上がっていく巨体に憎々しげな視線を向けるところ、先に降りライフルを構えていたスーザン・高橋が問うてくる。

「何故ですドクター。倒さなければならないのは同じことでは」

「我輩はバグアを相手に『地球が戦うための武器』なのだから、地球の生命に攻撃などできないね〜。彼らがバグア派だというなら容赦はしないがね〜」

「キメラを使っているのだから、バグア派では?」

 抑揚のない疑問文にウェストが皮肉を返す。どこか苦しげに。

「いや、あれはもう違うね〜」

 セレスタは攻撃準備が完了したと認め、合図を出した。

「一斉に攻撃、キメラを抑え込みます!」

 エイキメラに向け一斉射撃が開始された。
 セレスタの「スナイパーライフル」により、FFの一角が破れる。そこへクレミアの「S−01」が撃ち込まれる。

「ぶち込んでやるわよっ!」

 エイの鼻先が破れたのを見計らい、ウェストが「機械剣α」での単身突撃を行う。
 これはかなり危険なことであった。キメラはまだ弱り果てたという段階ではなかったからだ。電磁波を食らった直後、全身で反撃してきた。体を揺さぶり長い尾を、大きく振り回す。
 刺がウェストの腹部の皮膚をひっかけ、かすった。
 白衣に血が飛び散る。強烈な痺れと激痛が襲う。

「ぬぐっ!」

 負傷部分を押さえ、即時自己回復に努めるウェスト。
 セレスタ、クレミアは危険と見、スーザンともども敵の尾部目がけての攻撃に移る。キメラを匪賊から遠ざけるように動きながら。

「キメラの攻撃きます、各自回避し散開を!」



 横並びにした2台のジープを盾として、匪賊への攻撃が行われている――夢守 ルキア(gb9436)の近辺で「ジェラルミンシールド」を構えている、ジョージ・ジェイコブズ(gc8553)の案だ。
 彼は戦況を窺う。対キメラ班の動向にも注視しつつ。

「ウェストさんが負傷したようですね」

「相変わらず危なっかしいな、デューク君は。頼りにはなるんだけどね」

 言ってルキアは視線をラクダに向ける。
 敵の機動力を奪うため、一般兵にもそちらを狙うよう頼んでいるのだ。

「ヒトが死ぬと騒ぎ、ラクダなら死んでもいいってヒトの傲慢だと思わない?」

 小銃の乾いた銃撃音。安い癇癪玉が破裂するような面白みのない音。ラクダは引っ繰り返り乗り手を振り落とし、動かなくなる。
 死んだかな。
 思いながら彼女はうそぶく。

「ラクダもヒトも、等しい命。ま、邪魔だから殺すケド」

 最後方にいたクラーク・エアハルト(ga4961)が「大口径ガトリング砲」で威嚇射撃を行った。彼は当てる気はない。人にも、ラクダにも。

「‥‥銃を向けるなら、敵です。まあ、投降してくれるならそれで良いんですが」

 地面にびしびし銃弾が食い込み、また埃が上がる。

「各自武器を捨てろ! ラクダから降りて地に伏せろ! それならこちらも危害を加えはしない!」

 対する答えは早かった。更なる銃撃と罵倒だ――現地語であるらしく意味が分からなかったので、モココ(gc7076)は現地兵に確認を取ってみる。「S−02」の引き金に指をかけて。

「あの人たちはなんて言っているんです?」

「お前らがそうしたらオレたちもそうしてやる、と言ってます。信用してはおらんのですよ。実際信用しろと言っても無理な話なんです。投降兵を吊るし上げるというのは、つい最近までよくやっていたことですから‥‥あるいは今でも末端部隊などでは悪習が消えてないところがあって」

 ラクダが一匹くずおれた。
 自分の弾が当たったのだとモココは確信する。
 銃身がわずかに重さを増した気がした。

「将を撃つなら馬を狙えと言うらしいからな、残念だが駱駝には倒れてもらう」

 クティラ=ゾシーク(gc3347)は「エンジェルシールド」で銃弾を防ぎつつ、「ターミネーター」を向かってくる一団のラクダに向ける。
 雪崩のような炸裂音が響き、ラクダがまた次々倒れて行く。

「人間には当てないようにしないとな」

 ひびの入った地面の上、惨めたらしく点在する枯れた潅木、萎れた草。
 何もない砂漠のほうがずっとマシと見える光景は、つい人を憂鬱にさせる。

(心が乾く‥‥か。平和を知らず平和に慣れずでは、そうなるか)

 密集しては危険と判断した匪賊は散開し、襲う対象の周囲を、円を描くようにして走り始めた。
 「シエルクライン」を手にジョージがぼやく。

「西部劇みたいだな」

 とにかく相手方は投降する意志を示さない。クラークが2度目の威嚇と呼びかけをしてもだ。
 飛んでくる銃弾がジープのサイドミラーを割り、フロントガラスにひびを入れる。
 限界だと見た彼は腹を決める。

「銃は手に持ったまま投降の意思はありませんでした‥‥撃つには十分です。殲滅開始と」

 続けかける前にモココが割り込んできた。

「いえ、殲滅でなく制圧しましょう。モココたちならそれが可能なはずです!」

「‥‥守るべきは味方であり、敵の命ではありませんよ」

「‥‥でも、でも新しい時代は、きっとこの戦争を生き残った人達を必要としているはずです!」

 言うが早いか彼女は、遮蔽物となっているジープの後ろから飛び出した。飛んで来る銃弾の衝撃もものともせず、手近にいたものを引きずり下ろす。ラクダを踏み台にしてさらに別の匪賊を叩き落とす。
 能力者である彼女から距離を置こうと、彼らはラクダの脇腹を蹴り、走らせた。
 そこにルキアの閃光手榴弾が炸裂し、たたらを踏ませる。
 彼女は子守歌を歌い始めた。
 ラクダが、人が、近くにいるものから次々よろけ始める。



 エイキメラの全身から体液が吹き出している。
 それは赤くてまるで血のような色をしていた。であるが血ではない。少なくともウェストにはそうではない。バグアへの純粋すぎる憎悪ゆえ、多くの物を失ってきた彼には。

「どうやら〜自慢の尾が〜動かなくなってしまったみたいじゃないか〜」

 跳躍を繰り返し潰してこようとする敵を嘲笑しながら、一閃。また一閃。
 彼の動きも鈍くなっているが、エイの動きはそれ以上だ。尻尾はすでに持ち上げることならず、体の動きにくっつき振り回されるだけ――それでも十分危険だが。
 エラの部分がぱくぱく動き、目玉の膜が降りる。盛大に埃を撒き散らしながら、地に潜り始める。
 そこへ爆発が起き、被せていた土が吹き飛んだ。ルキアが手榴弾を投げたのだ。
 エネルギーガンを持ち直し接近に及ぼうとするところで白衣を引っ張られ、ウェストは渋い顔だ。

「ルキア君、キミは匪賊担当じゃないかね〜」

「まあそう言わずに。デューク君解毒しとかないとさあ、足元めっちゃフラフラになってるからー」

 彼が引き戻された所でセレスタは、無線に声を吹き込む。

「ここで一息に決めましょう。匪賊のこともありますからね。全員で脳を狙うということで、いいですか?」

「オーケイ。聞いた、スーザン?」

「了解。聞こえてます」

 エイの離れた目と目の間に射線が合わさる。
 重なる銃撃。
 赤い液体だけでなく白っぽい脳髄がびゅるりと飛び出してきた。
 エイキメラは見えない手で絞られたように巨体をよじらせ、くねらせ、固まり、ヒレの部分で地面を単調に打ち始める。
 セレスタが近づき目玉を見ると完全に裏返っていた。
 車両から降りてきたクレミア、スーザンと見交わし、改めて「スナイパーライフル」ではみ出てている脳に照準を合わせ、引き金を引いた。
 エイは一旦硬直した後くたくた身を延ばし地面に広がる。
 一息つく暇も無く彼女らは、今度は対匪賊の加勢に赴く。
 ルキアもそちらに引き返しかけ、ちょっと足を止めた。

「デューク君は来ないわけ?」

 ウェストは腰を下ろしたまま答える。

「我輩はバグアとしか戦えないね〜」

 視線の先には統率を崩しつつある匪賊の姿と、それを制圧しつつある傭兵たちの姿がある。



 彼らは能力者がどういうものか知っている。またどういう力を使うのかも。先程子守歌が聞こえ始めたとき、各々急いで離れようとした。だけでなく意識を眠らせないようラクダや自分の足を鞭で激しく打っていた。
 地面に落ちてもなお戦意を失っておらず銃を向けてくる。

(戦場でなら、優秀な兵だ)

 ジョージはその手から銃を蹴り飛ばす。後ろに回る腕をねじり上げ、倒されたキメラのほうに頭を向けさせる。

「目の前を見て、もう一度考えてくださいよ! 一体あなた方は何と戦っているんですか!」

 クラークは脇腹に拳をいれた。至近距離から頭部目がけて発砲してきた相手に。

(まあ、共通の敵がなくなれば次は人間同士か)

 反吐を吐いて崩れ落ちるところ、さらに顎へ蹴りを入れる。

(撃たれる覚悟も、撃つ覚悟も出来てるんだろ? こっちは出来てる。恨みっこなしだ)

 口に布を噛ませ、後ろ手に縛り上げる。
 噛ませた布は真っ赤だ。歯が折れたか、顎が砕けたか。このまま死ぬかもしれないなと思いながら彼は割り切る。その光景を見て逃げ腰になっている背後の対象を回し蹴りし、地に倒して。

「自爆されたり、自殺されても厄介です。身ぐるみはぎましょう」  

 クティラも次々匪賊を捕縛していく。

「おいたは此処までだ、抵抗するんじゃない! おらおらおらおらぁ!」

 匪賊の胸倉を掴んで持ち上げ往復ビンタ、あるいは鼻を指で弾く。地面に落とす。それを能力者の力でやられるのだ。気絶はしないまでも、悶絶するほどのダメージは受ける。
 まだラクダを失っておらず逃げに転じ始めた者たちをルキアが追う。
 機械剣で銃を切断し、その勢いのまま足を撃つ。転がり落ちた相手に言い放つ。

「逃げたらきみ達の仲間の頭を、ザクロにする。私は対人傭兵だ、今も変わらない、戦いたいなら、戦おう」

 銃を失ってもその匪賊は、捕まるだけはしたくないらしく、力でルキアを押しのけようとする。
 能力者でない相手について彼女は覚醒なしに立ち向かう。といって急所狙いはきっちりやるのだから、相手にとってそれほど有利というわけでもない。
 その向こうではラクダが背から男をずり落とし、走って逃げて行く。
 置き去りにされた男は起き上がってこない。続いてまた別のラクダから1人落ちる。
 セレスタが声を上げる。

「スーザンさん、殺さずとも。逃げているのですから」

「いけません。野放しにしたらどうせまた同じことをします」

(‥‥まあそれもひと理屈かしら?)

 思いつつ武器だけ狙っていたクレミアは、はっと向きを変えた。
 1台の車両から、現地兵が蹴り出されるのが見えた。ジープはアクセルをふかし全速力で走り始める。

「まずいわ!」

 銃口がタイヤに向けられる。
 だが幸い、パンクはさせずともよかった。直後モココが追いつき飛び乗り、天井をぶち破って強奪し返したのだ。
 中から放り出された男たちをクラークが即座に回収し、戦闘不能にした上縛り上げる。
 急ブレーキをかけたジープから出てきたモココは、撃たれることによって出来た擦傷を拭い、彼らに歩み寄る。

「‥‥何故こんなことをするんです」

 負傷した現地兵にウェストが応急手当を施している側で、匪賊の1人が顔を歪めて口を開いた。

「オレたちはな、他に出来ることがねえんだよ! オレたちはこれ以外のことを、誰からもどこからも全く教わってきてねえんだから! 食い物も着る物も住むところにも困らないような、お幸せな傭兵連中とは違うんだ! オレたちの死ぬほどの居心地悪さがお前らに分かるわけが――」

 モココの顔が紅潮した。
 彼女の右手は男の顔を殴りつける。

「‥‥居心地なんて言い訳にして逃げないでください! 世界も、私たちも、変わっていかなければいけない時なんですっ!」

 少し間を置いてクラークが言う。

「‥‥この場で「物理的圧力を伴う」尋問はしなくてよいのかね?」

 誰からも返答はない。なので彼は肩をすくめる。

「拠点の聞き出しとかは‥‥専門家に任せた方が良いですね」

 セレスタがふっと息を吐き、きびすを返す。

「作戦終了、生き残った方々を収容し帰還しましょう」

 クレミア、スーザンが続いて離れる。クティラもクラークも。
 残ったルキアはひゅうと口笛を吹いた。

「――平和なんてシラナイ。喰い殺しながら、誰しも生きてる。戦い、それが私の生」

 捕虜に目を移したジョージはジープのボンネットに腰を下ろし、独り言めかして言う。彼らに。

「戦争は敵との戦いであり、平和は己との戦いである‥‥なーんてね」

 それからモココの肩を叩いた。励ますように。

「‥‥先を担う子供達が背中を見てると思えば、背筋も伸びるってものです」

 兵たちが捕虜を次々ジープに乗せて行く。彼らにモココは聞いた。

「あの、この人たちはどうなりますか」

 兵はたどたどしく答えた。

「そうですね‥‥裁判にかけます。手続き通りに‥‥平和というのはそういうことなんでしょう? 私たちにはまだ自信が持てないのですが‥‥これで間違ってはないのですよね?」

 モココは間を置いて頷く。照り輝く太陽の下、激しい乾きを覚えながら。