タイトル:包囲マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/20 23:24

●オープニング本文



「――こんなときに!」

 スーザン・高橋は壊れた自分の無線機を投げ落とす。
 それは、ピンク、グリーン、イエロー、レッドといった、どぎつい蛍光色のうねりに没した。
 全てがキメラだ。キメラの群れだ――ナメクジ型の。
 1匹1匹の大きさは約1メートル。数は少なく見積もって3000匹はいる。
 正直直視したくないのだが近づいてくるからにはどうしようもない。そして撤退するわけにもいかない。なにしろもう行く先がない。空に向かって捻られたような螺旋型のミナレットの最上部分にいるのだから。
 搭の裾には無数のナメクジが張り付き、ぞわぞわひたひた這い登ってきている。
 銃撃で次々撃ち落としているものの、限界というものがある。体力にも、装備にも。
 敵がこんなにいるのに、この場の傭兵は彼女を含めて3人しかいない。
 そのうちの1人が。

「キャンキャンヒャイン」

 レオポールときている。
 もともとこうなるはずではなかったのだ。モスクの遺跡にナメクジキメラが住み着き、人や家畜を襲い血を吸うという苦情が出ていたので、駆除に乗り出したのだ。
 せいぜい10匹かそこいらだろうという話だった。それが来てみたら、一気にこれだけの数が這い出してきたとこういうわけだ。

「おお、お助けください創造主よ」

「慈悲深く、慈愛あまねく御主よ」

 一緒に避難する羽目になった付近住民10名が祈り始めた。
 パニックに陥られるよりはるかにいいので、スーザンはそれを放置する。
 弾切れしそうだ。
 武器が使用不可能になったらどうなるか。ナメクジが這い登ってきて囲まれたらどうなるか。
 もちろんここにいる住民と共に全身の血を吸われて一巻の終わり。これまで襲われた家畜や人間と同様に。
 面白くもない様を考えるとスーザンは、俄然腹が立ってきた――覚醒しているため表情は変わらないが。

「スーザン、スーザン、弾くれ弾! こっちもうねえんだよう!」

「私だってないんです。あなたは直接剣で払い落とすなりなんなりしてください」

「おおおおお蹴るな落ちるだろ! うわああ気持ち悪い来るなナメクジ!」

 外側に傾いた通路の上、レオポールはナメクジを叩き落す。
 が、後から後から新手が上ってくる。
 他1名の傭兵が超機械で同じくキメラを退けながら、必死に無線機へ呼びかける。

「救援、救援を!」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

 ナイトフォーゲルKD−022BクノスペB『ブリューエル』は、ミナレットまで来て人型変形をするや、アンカーを打ち込んだ。
 コクピットにいるドクター・ウェスト(ga0241)は、まず現場の様子を確かめた。
 ミナレット最上部は小堂となっており、避難している一般人はその屋根のところまで上ってきている。傭兵3名はすぐ下にある剥き出しの螺旋通路で頑張っている。
 ミナレット表面は無数のナメクジキメラで覆われている。報告によると吸血性があるとのこと。どいつもこいつも趣味の悪い極彩色ばかりだ。全体で一つの生き物のようにうねり、螺旋の塔を飲み込もうとしている。

「ナメクジより、ヒルといった感じだね〜」

 『ブリューエル』の補助シートに座っている夢守 ルキア(gb9436)は、ウェストの瞳の奥にある焔を見て取り、前もってクギを刺す。

「デューク君、今回の任務は救出先行だからね。いつもみたいに、殲滅にこだわり過ぎないようにしてよ」

 ウェストは彼女のことが苦手である。咳払いして反論しつつも、語気が普段より控えめだ。

「ノーマル(非能力者)を抱えているのだから無茶をできないくらい我輩にもわかるよ〜」

 悪戯っぽく微笑んだルキアは早速無線を取り、現場に呼びかける。

「ULT傭兵だよ! 体力の無い子供や年配のヒトから順に、引き上げていく。そっちで振り分けて。練力の足りない傭兵は、残りの得物を預けて補助シートに乗って」

 すると騒がしい返答が。

「よし分かった、オレが補助に乗るオ「もしもしスーザンです、今のレオポールの発言は却下してください。今一番練力を消費しているのはジョーです。彼を避難させるのが先です「おま、そんな勝手「とりあえず弾薬を下さい、弾薬を!「いや弾とかより「そうしてくれればまだ戦えますから!」

 無線機1つに2人分の意見が重なってくる。この場合どちらを尊重すればいいかといえば。

「それだけ戦意があるなら問題なしだね〜早速弾薬を補充するよ〜」

 もちろんスーザンだ。

「スーザン君、差し入れだよ〜」

 ウェストはコクピットを開き、白衣の下に持ち込んでいた大量の弾薬と、スーザンが最近こっているラッキーアイテム――コーヒー各種を投げ渡した。
 スーザンは受け取った弾を神業的早さで銃身に装填する――弾道がナメクジの体を打ち抜いた。
 『ブリューエル』と共にナイトフォーゲルXN−01改ナイチンゲール――愛称「オホソラ」で中空から接近していた最上 憐(gb0002)は無線で、黙殺されたレオポールに尋ねる。

「‥‥ん。レオポール。生きてる? 無事? 溶けてない?」

 クンクン鼻声が戻ってきたから、溶けてはいないもようだ。ならばよろしい。

「‥‥ん。ナメクジ。キメラ。塩は。効くのかな? 試しに。持ってくれば。良かったかも」

 うそぶく彼女は塔にたかるナメクジを片端から、かき落とすようにはがして行く。避難者を救出するまでの時間稼ぎだ。
 しかしKV越しとはいえ、握るとぐにっとした手触りがしてくる。

「‥‥ん。すごく。後を引く。この。感触」

 別の箇所ではナメクジが弾けている。BEATRICE(gc6758)が、ナイトフォーゲルA−1DロングボウII――愛称「ミサイルキャリア」に付属する「ダブルリボルバーMM」で撃っているのだ。

「どうして‥‥バグアはこういう‥‥後方とも呼べないような後方を狙うのが好きなのでしょうか‥‥」

 彼女は空からではなく、地上からの援護に徹している。
 塔に集中し張り付いているナメクジのうちでもより高い位置、避難者たちに実害を与えそうな個体を優先し撃つ。なるべく塔に実害が出ない角度に調整しているので、完全に死ぬかどうかは分からないが、足止めにはなるはずだ。

「軽装も‥‥武装もなかなかする機会がないですから‥‥データを取りつつ‥‥全力でやらせていただきましょう‥‥」

 『ブリューエル』からロープを使い塔に降りたルキアは、避難者を救出しにかかった。
 彼らは皆一様に祈っている。恐怖からだろうが、それによって恐慌に陥らずにすんでいるというのは、真実信仰心があればこそだろう。単なる苦しいときの神頼みだと、こうは持たない。

(たいしたもんだ、宗教心というのも‥‥)

 感心すら抱きつつルキアは、現地語で話しかける。動いてもらわないといけないので。

『――落ち着いて、御主はあなた達を見守ってる』

 ようやく周囲を見る余裕が出来たらしい。間近にあるKVの姿を前に彼らは安堵し、また祈りだした。
 ウェストがコクピットからせかす。

「さあさあ、お祈りならコンテナ内でもできるだろう〜、神様から生き延びるチャンスをもらったのだ、そのまま捨ててしまっては神様を裏切ってしまうよ〜」

 コンテナに避難者が次々吊り上げられて行く。
 最初に女子供、その後から男。これはジョーも手伝う。キメラに対する戦闘力は失せかけていても、救出活動ならまだこなせるから、と。
 そんなわけでルキアはいち早く、レオポールたちの援護に回れた。どの道ミナレットには残るつもりだったのだ。
 「ターミネーター」を構え、ナメクジの上にナメクジ更にナメクジと折り重なり上がってくるところに、制圧射撃をかけた。
 塊はどっと崩れ、地上へと落下して行く。しかしそのうちの何匹かは、落ちた後も息の根が止まっておらず、蠢いている。

「50mか、落ちても死なないかな‥‥デューク君、ジョー君を補助シートに乗せてあげて。残ったヒトは、銃器で戦闘をお願い」

 スーザンは返事代わりに黙々と射撃を行う。

「ああっ、オレも連れて行ってええええ!」

 救助者を安全地帯に運んで行く『ブリューエル』と、その付き添いで一旦現場を離れる「オホソラ」を見送るレオポールは、ルキアが側で「子守歌」を始めたことで、ナメクジと一緒に落ちかける。

「キミは寝なくていいんだって!」

 耳元で轟然一発ぶっ放され覚醒し、あやうく難を免れたものの。



「‥‥ん。これが。「救急箱」。だから。適当に。使って。治療。してて。何か。起きたら。無線に。よろしく。と通訳して。おいて。ジョー」

 ミナレットを眼下に臨む乾いた丘の上、憐は、「オホソラ」に再度乗り込み、現場に戻って行く。コンテナを切り離した『ブリューエル』もまた。
 一応心配だったので、真っ先に最もヘタレそうな相手の安否確認をしてみる。

「‥‥ん。あー。テス。テス。レオポール。応答せよ」

「ウォウウォウ!」

 健在だ。何か怒ってるみたいだけど問題なし。
 あっさり片付けた憐は「真ツインブレイド」を構え、いまだへばり付いているナメクジの群れに切りかかった。
 一振りごとに真っ赤な液体が散る――彼ら自身の体液ではなく、どこかで吸血した分が体内に残っていたものらしかった。おぞましいことにそれを吸うため、別のナメクジたちがたかってくる。
 表層だけはぐように剣を動かしているのは、ミナレットをなるべく壊さないようにという配慮だ。

「やれやれ〜数は力というものかね〜」

 ウェストもむろん倒壊まではさせないよう気を配ってはいるが、ナメクジを潰すことが優先である。「ガトリング砲」、「20mmバルカン」で、あちこちが多少欠けても気にしない。
 そこに無線が。

「デューク君、ちょい待って! ミナレットには傷をつけないほうがいいよ」

「傷と言われてもだねルキア君〜多少は仕方ないのではないかい〜?」

 ルキアは足元に吸い寄るキメラに「カルブンクルス」を食わせ焼け焦がしてから、続ける。

「宗教の重みは、私達に量れない。無闇な破壊はヒトのココロを引き剥がす」

 BEATRICEも会話に加わった。

「ミナレットは‥‥イスラムの宗教設備のようですから‥‥可能なら破壊しない方が良いのではないかと思いますが‥‥宗教を敵に回すのは‥‥あまり利のないことですし‥‥周辺住民に悪い感情を持たれるのも避けた方が良いのではないかと思います‥‥」

 ウェストはちょっと黙り、やがてお手上げと言った調子で言った。

「よかろう〜確かに宗教というものは〜大事なものだからね〜」

 憐は足元から這い上られぬよう頻繁に移動を繰り返しながら、ミナレットに近づいた。
 生身で大群に向かうのも限界があるというもの。ということで、レオポール、スーザン、ルキアを一時避難させるとする。
 後は重機関砲でなぎ払うとすればいい。

「‥‥ん。とりあえず。乗れそうな所に。乗って。後は。気合いと。我慢」

 荒く息をしているスーザンはいち早く、「オホソラ」の腕に飛び乗る。ルキアは肩へ。
 後残っているのはレオポール。よれよれになっていながらも飛び移ろうとした彼は、不覚にもミナレットの下を見た。
 ナメクジがまだびっちりいる。

「‥‥なあ、もうコンテナないのか? お前これ落ちたら危ないよ。危ないよ」

 時間がない。
 そう判断したBEATRICEは、情報伝達を使用する。

「塔、倒壊、危険」

 レオポールの毛がぶわりと逆立つ。
 彼は1秒も迷わず跳躍し、犬っぽく「オホソラ」の頭部に張り付く。

「‥‥ん。じゃ。落ちない。ように。自助努力」

 そして移動の最中ずっと、安定性の悪い部分に乗ってしまった事について、後悔し続けていた。



 夕日が差す。周囲はナメクジの残骸で満ちている。

「‥‥逃げたものについては、後日再調査してもらいましょう。ひとまずそれまでこの周辺は立ち入りを制限した方がよいかと‥‥」

「そうだね。まあ、一週間もかからないよ。大部分はこの通り駆除したし‥‥おっ、いい匂い」

「どうぞ、お二人とも」

 スーザンがBEATRICEとルキアに、コーヒーの入ったカップを手渡す。
 ウェストは先に飲んでいる。

「いやあ、生き返るね〜」

 地面に伸びているレオポールの毛をつれづれにもふる憐には、コーヒー牛乳が手渡された。

「憐さんもどうぞ」

「‥‥ん。かたじけ。ない。レオポール。飲まないの?」

 鼻先に置かれた自分のカップを前に、レオポールはぶつぶつ零す。BEATRICEに向けて。

「崩れてないじゃん、塔‥‥」

 BEATRICEはしれりと言った。

「私の勘違いのようで幸いです‥‥」

 スーザンは最後に自分の分を入れ、飲み始めた。ジョーと共に。
 天上に向かう螺旋を眺めながら。