タイトル:ワンダフルホリデーマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/13 04:43

●オープニング本文





 休日にもかかわらず依頼が舞い込んできたり傭兵仲間に連れて行かれたりキメラに遭遇したりすることが最近多いようでならないので、レオポールは対策を考えた。
 つまり、家にいるからいかんのだ。この際だから近場におでかけでもしよう。
 ということで郊外に来た。
 初心者でも申し分なく上れるハイキングコース。通称きのこの山。頂上まで行けば公園があり町が見下ろせるというだけの場所だが、近隣の小学校の写生大会や遠足などにはよく使われる場所だ。
 しかし、行ってみるとそこは。

ばうわうわう。ばうわうわう。ばうわうわう。

 なんだか知らないが無数の犬が。
 ハイキングコースの入り口に何十匹も固まって、人間が近づこうとすると吠えまくるので、誰も入れなくなっている。
犬種は様々、大きさも様々、首輪のついているのといないのと混合。
 飼い主らしき人間がしきりと群れに向かって呼びかけている。

「ジョン、戻ってこい、ジョーン」

「タロ、どうしたの、タロ」

ばうわうわう。ばうわうわう。

 どの犬も敵意剥き出しであり、呼びかけに応じる気配がない。
 よく太った金持ちそうなおばさんが、ハンカチを涙で濡らしそれを絞りながらしていても。

「ミルフィーユちゃん、戻ってくるんですのよ。そんな汚い駄犬どもと一緒にいては駄目ざますよ」

きゃうわうわう。きゃうわうわう。

 スワロフスキービーズをあしらった大きなリボンをつけブランドものの上着を着ているヨークシャーテリアは、戻ってきそうにない。
 一体何が。
 それはレオポールにも分からないが、このままここにいたら面倒なことになりそうだというのはぼんやり知れたので、回れ右してやっぱり家に戻るとした。
 そこで、おばさんに袖を掴まれた。

「ちょっとあなた、このご近所でも有名な犬の人でしょう。たくのミルフィーユちゃんを説得してくださいな」

 犬の人って何だよ。
 思ったが他の飼い主からも一斉に視線を注がれてしまったので逃げられなくなってしまった。
 仕方ないので覚醒し、ヨークシャーテリアに話しかけてみる。

「ワンワンワン」

「ウー、キャン。キャンキャン」

 直訳してみる。

「あのなー、くたばれ肥満体ババアって言ってるぜ」

「んまああああ何を言うんですの! たくのミルフィーユちゃんがそんな下品な言葉遣いをするわけないざます! 取り消しなさいこの駄犬!」

 教えてやったのになぜオレは怒られるのだ。
 理不尽な思いに駆られるレオポールのもとへ、グレートデンが近づいてきて吠えた。

「ぼふっ。わふっ。うおううおううおううおう」

 飼い主が聞く。

「タロが何て言ったんですか?」

「‥‥えーとな、我々は今日から独立する。今こそ革命の始まりだとか言ってんだけど」



『臨時ニュースを申し上げます。●●市×××町にて、凶暴化した犬の大群がきのこの山ハイキングコースに集結するという怪現象が起きております‥‥付近にお住まいの方はくれぐれもお気をつけください。念のために戸締まりをお願い致します‥‥専門家の話では、これは何かしらバグアの手によるものではないかとの見方が強く‥‥至急ULTに‥‥』


●参加者一覧

最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
菜々山 蒔菜(gc6463
17歳・♀・ER
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 依頼を受け最上 憐(gb0002)は、きのこの山へ急行した。レオポールがほかの犬たちと一緒になって吠え狂っていないか、確認のために。
 現場についてみると彼は、小山のような有閑マダムに首根っこを掴まれ、キャンキャンやっていた。
 ほぼ通常運転な姿。だが憐は油断しない。

「‥‥ん。今は。影響が。無くても。頂上に。行くと。レオポールも。洗脳されたりして」

 そんな彼女に連れてこられている最上 空(gb3976)は、かざした手越しに空を仰ぎ涙を滲ませる。
 暑さ寒さを厭い、肉体労働も厭い、涼しくなるまでエアコン全開の自室でコタツに入って鍋焼きウドンをすするという優雅な夏眠の日々を貪っていた身に、残暑の光線はきつすぎた。

「太陽を拝むのも、久しぶりですね。‥‥全力で帰りたいです!」

 言っているそこに、ただのバイクとバイク形態のAU−KVが滑り込んできた。
 砂煙を浴びて空はさらに憂鬱になるが、乗り手である菜々山 蒔菜(gc6463)と楊 雪花(gc7252)は、そのことにさして注意を払っていない。

「オヤ、蒔菜サンお久しぶりネ、元気してタカ? 暴れるのもホドホドにナ」

「おお、雪花じゃねえか。お前も相変わらず腹黒そうだよなー。つか、バグアだって言うから来てやったら、なんだよ犬の集会かよ」

 敵にして不足と感じたらしく、蒔菜は不満そうだ。やれやれと零し、体毛過剰な男に呼びかける。

「犬同士うまいこと言いくるめてやれよ、なぁレオポール?」

 傭兵仲間のところに来るふりをしてマダムの詰問から逃れたレオポールは、耳をぱたぱたさせて反論した。

「いや出来るってお前、なんとなくだぜなんとなく。大体なんかここの連中、言うことがおかしくなってるしよ、言いくるめるのも難しそうだしよ」

「それは一体どういうことネ」

「いや、オレにもなんかよくわかんねーけど、えーと‥‥ワンワンワンウォンしてクンクンウォーンということで」

「‥‥途中犬語になってんぞ」

「あ、すまね」

 こいつ本当に人間だろうか。
 蒔菜から根本的な疑問を抱かれているとも知らずレオポールは、言い直した。

「えーと、人間中心ではなく犬中心の世の中にするために革命運動を起こそうとかなんとか。万国の犬よ団結せよ。人間主義は敵。共犬主義こそ正義。だと」

「おい、なんだそのいかにもな付け焼刃の中二病思想」

「知らねえよ。オレが考えたんじゃねえんだから」

「だろネ。レオポールは正真正銘耳から尻尾までノンポリだシ。しかシまさか犬が革命思想を語るなんテ、マルクスもレーニンも毛主席も思てなかタだろナー」

 とりあえず変な電波がこの付近を覆ってそれで犬もおかしくなっているらしい。
 人ならともかく犬を焚き付けてどうしたいのかという部分が謎だが、解散させなくてはなるまい。邪魔だし一般市民にはそれなりに危険だ。
 ということで、早速臨時作戦会議。まず手を上げたのは空。

「もう、面倒くさいので、事件の首謀者は、レオポールだという事にして、レオポールをお縄にして解決で良いと思いますよ?」

「なんの解決にもなってねえだろそれ!」

 レオポールが吼える中、次は憐が意見を。

「‥‥ん。レオポール。ダメ元で。説得してみて。失敗した場合は。遠くに。逃げてね」

「いやな、説得とか無理そうだしって話でさ」

「そだネ。せかくだから滅多に聞けない犬の本音を通訳してもらうカナ。何事も対話から道は開けるものヨ」

「あのな、だから」

「‥‥ん。大丈夫。もし。洗脳されても。ちゃんと。介錯して。骨を。拾ってあげるよ」

 お断りしたい気分満載のレオポールだが、結局引き受けた。なにしろ蒔菜が「シャドウオーブ」をいじくり回しながら、こんなことを言い出すのである。

「えー、いらねえだろ対話とか。どうせ『カッコよさそうだから』とかなんとか思って集まってるだけだろこいつらさ。こんな有象無象には分かりやすく手前の立場を認識させたほうがいいって」

 飼い犬に死なれたらあのおばさんからものすごく恨まれそう。
 かく懸念から彼は、渋々また犬たちに向き合うことになった。雪花の通訳という形で。

「えーと、では服を着せられるコト、ドッグフードの好ミ、メスの取り合いは発生しないのカ、保健所の野犬狩りについテ、正直自分の飼い主をどう思てルかについて質問お願いネ?」

「‥‥ウォンウォンワウ――」

 レオポールが問いかけると同時に、一斉に答えが返ってくる。

「フーン、フーン」「オンオンオン」「グルルルル」「オオーン。オオーン」「ワンワン」

 犬たちが注意を奪われている隙に憐が移動を始める。
 少しずつ群れの横を移動して行き、一気に加速する。頂上を目指して。
 遅れて気づいた犬たちはあわてて追いかけるが、能力者の脚力は人間の限界を軽く越え犬のさらに上を行く。おまけに彼女は撹乱のため、走りながら持参の餌を撒き始めた。

「‥‥ん。レオポールの。ツケで。買った。高級。ドックフードを。投下」

 わっと群がりくらいつく犬たち。食べるときには彼らはすっかり侵入者の存在を忘れている。

「‥‥ん。どいて。邪魔。どかないと。食べちゃうよ。っと。小粋な。ジョークを。飛ばしてみたり」

 爆走して行く彼女の後ろからは、空がこっそりついていく。目立つ動きをする人間の陰に入っていれば、リスクもうんと低まると期待して。
 しかし犬はたくさん集まっているので、いつまでも注目されないというわけにはいかない。いかにもな野良の赤犬とボクサーと服を着たヨークシャーテリアが一緒になって襲ってきた。
 本来こんなもの敵ではない。だが空は直接しばき倒す手を取らなかった。
 取りいだしたるはレオポール名義で通販から購入したドリアン。クサヤ。シュールストレミング。それらを彼女は道に目がけて投げつける。

「犬如きが、穢れを知らぬ清純派ネコ耳幼女メイドの空に、楯突こうとは愚かですね! 格の違いを教えてあげま――」

 三者が見事に弾けた次の瞬間、猛烈な臭気が立ち込めた。
 うっかりそれを吸い込んだ空はもう台詞が続けられなくなり、咳き込む。

「おうっげほげほげほ! い、息が、息が!」

 全力で風上に向かう空に、犬たちはついて行かなかった。臭さに逃げたのではない。むしろ逆でその場に寝転がり、匂いを体に擦り付け倒している。
 人間にとって胸のむかつく臭いが動物にとってもそうだとは限らない。



 適当に速度を落としたバイク2台の後ろから、牙をむいた犬の群れが追いかけてくる。
 雪花はそれらをなんなく蛇行でかわしつつ、口笛を吹く。

「レオポールは同志? それとも人間の手先になた犬奸? ‥‥多分後者と思てるよネこの有り様。マ、とりあえず試供品のドッグフードを処理してもらうネ。メーカーが置いていたけド全然捌けなくて困てたのヨ」

 バラバラ落とされる餌に、追いかけていた犬のほとんどが立ち止まり食べ始めた。
 妥当だなと彼女は思う。こんな餌もないところに集まって騒いでいたのだから、腹も減ってくるはずだ。所詮借り物の意志は食欲に勝てない。

「どんな政治的自由があってモ、それだけでは飢えたる大衆を満足させることはできなイ‥‥確かレーニンだったかナ、実にいい言葉だヨ」

 最上姉妹から勝手にツケられていることなど露知らぬレオポールは、同乗させてもらっている蒔菜の後部座席で、ひいひい声を上げていた。

「お前のせいだぞ! お前がいきなり攻撃するからこんなんなってんだぞ!」

「るせーな、いいからあいつらを挑発しろレオポール! 身の安全は保障するつってんだろ!」

 言いながら彼女は前方の群れに「シャドウオーブ」を向ける。

「くたばれ犬共ばっきゅーん」

 走る電撃。弾き飛ばされる犬たち。驀進して行くバイク。叫ぶレオポール。

「なんでまたやるんだよおお!」

「大丈夫だ、問題ない。死なない程度に威力は抑えてある。たぶん。殺すと動物なんとか団体がうるさいからなー」

「あいつらオレらを犬民の敵だ犬民裁判にかけてやるとか言ってるんだぞ!」

「へー、やれるもんならやってみなって感じ――うおなんだこれ! くっせ!」

 蒔菜は急ブレーキをかける。前方から来るとんでもない臭気に阻まれて。
 追いかけてきた犬たちは酔ったようにそちらへ向かい、地面に背中と首筋を擦り付け転がり回る。
 どさりと音がしたので振り向いてみたら、レオポールがバイクから落ち悶絶していた。犬並の嗅覚を持つものの嗜好は人間寄りである彼。衝撃に負けてしまったらしい。
 後から来た雪花が鼻をつまみ、積んできた荷をゴソゴソし始める。

「これはすごいネ‥‥匂い消しになるついでに犬に効くとかいう生薬を試してみるかネー。エート、確かここニ入れてきたハズ‥‥」



 最終目的地である公園にたどり着いた最上姉妹は、広場の真ん中に突っ立っている小型サイズの鉄塔と、群れる犬たちの姿を見た。
 滑り台の上、金ぴかの首輪をつけたチワワが鎮座している。
 他の犬は皆そちらを向いてお座りし、話を聞いているもよう。

 キャン。ワンワンワン。キャン。キャンキャンキャン

「‥‥ん。なんだか。明らかに。演説。している」

「首領がチワワ‥‥せめてもう少し重みのある犬種の方がよくないですかね」

 一体何を言っているのか。
 気になってきたところで、うまいことレオポールたちが追いついてきた。毛を半分白くさせクシャミを繰り返す彼を捕まえ、憐は早速通訳させる。

「‥‥ん。なに。言ってるの。あれ」

「えーと‥‥人間主義は死滅しつつあるが、死滅し去ったのではない。死は全てを解決する。人間がいなければ問題も存在しない。共犬主義は愛にあらず、共犬主義は敵を叩き潰すためのハンマーなり‥‥とかいう意味のことを言ってるな」

 大言壮語に蒔菜が早速不快感を示した。

「はぁ? ヤクでもキメてんのかあのワン公。電撃当てて目ん玉飛び出させてやろうか?」

 「シャドウオーブ」を持ち上げかける彼女の手を、雪花が止める。

「まあ待つネ。ここは犬が多すぎル。鉄塔壊すとき怪我させないよウ、うまいこと移動させないト。そうデショレオポール」

「‥‥またなんでオレ?」

「‥‥ん。レオポール。犬じゃなくて。狼だと。言う事を。知らしめる。チャンスだよ。ここは一つ。ネゴシェーターに。なって。もらいたい」

「この中で犬語が分かるのレオポールだけですもんね」

「早く行け」

 かくしてレオポールは交渉に乗り出した。といって台詞は全て雪花が考えるのだから、やっぱり通訳でしかない。

「ハイハイハイ、皆さん警戒しないで欲しいネ。ワタシ夕日新聞インタビュアーのミス雪花。この度偉大なる革命家チワ主席の噂を聞き馳せ着けた次第デス。お近づきの印にこの高級犬缶をドウゾ」

「えーと‥‥ワンワンワンワオーウ。ワウワウワウ。クンクンクン」

 チワワはふんぞり返り、出された缶詰を片足で押さえ確保した。

「ところでここは街に近すぎ地形も緩やかでパルチザンの拠点に適さないのデハ?」

「あー‥‥ワンワンバウワン?」

「キャン!」

「レオポール、なんテ?」

「それは分かっている全ては想定内だってよ」

「ははーン、よくそういうウソをつくものヨ似非指導者というのハ‥‥かのゲバラは言ったヨ。真の革命家は偉大なる愛によって導かれるもノ。人間への愛、正義への愛、真実への愛。愛の無い真の革命家を想像することは、不可能だト――従って愛を否定するお前は真の革命家ではなイ! このファシストの犬メ! と伝えてやってくれるかナ、レオポール」

「大丈夫かよ‥‥ワンワンワンオンオンワン、ウォーン、クォーン! クォーン、ウォーン!」

 直後、チワワが甲高く矢継ぎ早に鳴いた。
 周辺の犬がいっせいに飛びかかってきたところからして、訳してもらわずとも意味は分かる。

「ひゃあああ! だから言ったじゃんか!」

 レオポールは逃げる。犬たちが後を追う。鉄塔の回りが空になる。
 それを見計らって憐が「ハーメルン」で、空が「M―121ガトリング砲」で、蒔菜が「デュラハン」で、雪花が「ティルフィング」で、いっせいに攻撃する。

 多量の火花を散らし鉄塔は、裾野から倒された。その際遊具を1つ2つ巻き添えにしたが。まあそれは小さいことだ。

 かくして犬は全員正気に戻った。
 自分たちがなぜここにいるのか分からずきょとんとした後、飼い犬は主人を呼び始め、野良は縄張りに帰って行く。

「きゃああ、ミルフィーユちゃん、ばっちいざます、どうしたざますかあ!」

「タロ、ちょっと待て、そのままで飛びつくな飛びつくな!」



 悪臭を放ち戻ってきた愛犬に戸惑う飼い主たちによる悲喜こもごもの声にて、今回の依頼は終了である。