タイトル:【崩月】ムーンウォークマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/25 01:13

●オープニング本文




 またもや月に来てしまった。
 もういかん。もうこれきりにしよう。たとえどの方面から声をかけられたとしても次回の任務は絶対断固地球上のにする。

 心に強く誓いレオポールは、荒涼たる月の地平を仲間と歩いて行く。家への土産に月の石など拾いながら。
 そして急に立ち止まった。

「なんだ、あれ」

 皆も立ち止まり顔を向ける。
 見ると月面にぽつんと旗が立っていた。
 こんなところに何故。もしやバグアが何かの目印に。
 疑いながらそろそろ近づいて行く。
 すると旗の柄が実によく見えた。左上の青い四角形部分に無数の星、その他の部分に紅白のストライプ。
 疑いもなく某国国旗だ。
 どうしてこんなものがここに。
 疑問を覚えかけ、はっと気づく。近くにまだ新しいと思われる看板が立っているのを。

『人類月面初上陸保存区域 むやみに立ち入らないでください。「初めての一歩」の痕跡が消えてしまう恐れがあります。地球国際歴史博物委員会』

 反射的に一同足元を見た。
 しかしもう遅い。
 足跡は無数に重なり合い、もともとあった「初めての一歩」がどれなのか、すでに分からなくなっていた。

 やばい。

 一致してそう思った時、軽い地響き。
 月面の果てから砂煙を上げ、ブルドーザ型ゴーレムが一台驀進してくる。
 あんなものが来れば、一帯見る影もなく掘り返されてしまうのは間違いない。


●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
フェンダー(gc6778
10歳・♀・ER
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
佐東 司(gc8959
25歳・♂・HG

●リプレイ本文



「月が落ちなくて良かったのう、しばらくは月旅行が出来るのじゃ」

 フェンダー(gc6778)は月面を跳ねる。別の依頼で怪我をしている最上 憐(gb0002)を気遣い、横に並んで。

「‥‥ん。月には。ウサギが。居ると。お伽噺で。言われているけど。やっぱり。居ないね」

 月の地平からは虚空に浮かぶ地球が見える。
 前を行く終夜・無月(ga3084)はふと立ち止まり、呟きを漏らした。

「That’s one small step for a man, one giant leap for mankind.」

「む、それはなんなのじゃ、無月殿」

「ああ、初めて月に降り立った人の言葉ですよ。あなたたちくらいの年代では知りませんか? ニール・アームストロング、マイケル・コリンズ、エドウィン・”バズ”・オルドリン――アポロ11」

 憐は少し間を置き、ぽんと手を打ち合わせた。

「‥‥ん、なんだか。聞いたことは。ある。気がする」

「あ、我も我も。そういえば昔図鑑で見たのじゃが、この辺は人類が最初に月に降り立った場所らしいのじゃ」

 フェンダーは鼻高々に答える。昆崙に置いてあった案内パンフレットからの受け売りであることは黙っておいて。

「月には天候の変化がないから、足跡や旗が風化せずそのまま残っているということで‥‥」

 前方を見ると、先行している一行が固まっていた。
 その真ん中でレオポールが旗を担いでいる。

「そうそう‥‥あんな旗があってってなぜレオポール殿が旗持っているのじゃ?」



 ドクター・ウェスト(ga0241)、佐東 司(gc8959)、楊 雪花(gc7252)そしてレオポール。
 事の重大さに気づいてからまず行動を起こしたのは、ウェストだった。

「貴重な足跡、壊したね〜。UPCに連絡しておこう〜」

 無線機を操作し始める彼に、レオポールが慌てて待ったをかける。

「待て待て待て! まだ壊したとは限らないじゃねえか!」

「いや、壊してるだろうこれは〜見なさいこの足跡〜どれがどれだかになっちゃってるよ〜おまけに旗も抜いてるしね〜」

 司は淡々とウェストの言い分を肯定する。

「そうだな、抜いてるな。文化遺産を勝手に動かしたらどういう罪に問われるんだったか」

 レオポールは即座に旗を差し戻しブンブン首を振り、ぎこちない言葉を繰り返す。

「抜イテナイヨ。オレ抜イテナイヨ。チョット触ッタダケワンワンウォンウォン」

 動揺のあまりか後半が犬語だ。
 雪花が重々しく述べる。

「よりにもよテUSAの遺産に手を出すとハ、エネミーオブアメリカ決定ネ。間違いなくテロリスト認定されインターポールから国際指名手配されるヨ。世界中どこへ逃げても特殊部隊が追てくるのヨ。キトこの先枕を高くして眠れる日は永遠に来ないヨ‥‥全くなんということをしたネ、レオポール! ワタシは悲しいヨ!」

「きっ、汚ねえ! オレだけじゃないじゃんお前だって踏んだじゃん! ここ踏んだじゃん!」

「責任転嫁大変よろしくないネ。そもそもレオポールが先にどんどん歩いて行くからいけないのヨ。大体ワタシだけでないヨ。ウェストサンと司サンも踏んだヨ。そうだよネ?」

「まあ確かに我輩も踏んだが〜大部分2人のつけたものだよね〜」

「だな」

「‥‥1人は1人の為ニ、皆はその1人の為ニが傭兵の基本じゃないカ! このコトはよろしく協力シ口裏合わせ隠蔽すべきと雪花サン思うのコトヨ!」

 後から追いついてきた無月たちは、ぱっと見事情が分かったので、敷地内に入らなかった。

「‥‥ん。なにやら。紛糾。してる。模様」

「そのようじゃな。ところでそちらのそちは我とは初対面の気がするが、どなたじゃな?」

「佐東だ。随分と厄介な依頼を背負いこんだ気もするが、よろしく頼む」

「左様か佐東か。我はフェンダーじゃ。こちらこそよろしくのう」

 握手を交わし合う司とフェンダー。
 とりあえず無月は重ねての被害を防ぐため、妥当な判断を下した。

「皆さん、ひとまず敷地内から移動してください。大きく跳躍すれば、足跡もこれ以上つかないと思いますし――とにかくまず先に、あれを止めないといけないようですからね」

 あれとはもちろん、地平の彼方から接近してくるブルドーザー。
 ウェストは遠目に敵機を眺め、少し残念そうに言った。

「ブルドーザ型ゴーレムか〜、ふむ、バグア作業員は乗っていないようだね〜」

 あんなもの来たら足跡など間違いなく完全消失だ。そこを踏まえて憐は、レオポールの腕をポンと叩く。

「‥‥ん。レオポール。私の。分も。前衛。頑張ってね。後方で。じっくり。見てるよ」

「え? いや前衛って言われても。あれ車だろ。お前知らないのか。車の前に回ったら撥ねられたり轢かれたりすんだぜ」

「‥‥ん。レオポール。しっかりしないと。後方から。私の。ガトリングが。火を噴くよ」

 励ましからさらりと脅しに回る憐。
 無月は実力行使。レオポールの首を捕まえ、敵に向かって大跳躍する。

「良い機会です‥‥巨兵狩りの手本を見せましょう‥‥」

「キャンキャンキャン」

 それだけならいつもの光景だが、今日はもう片方の腕に雪花も捕まえられている。

「ナ、何故ワタシまで連行ネ!」

「いえ、満場一致であなたも同罪くらいかなと思いまして」

「不当ネ、不当判決ネ! 世の中間違ってるヨ! 弁護士呼ぶネ弁護士!」

 一応レオポールが気掛かりなので、フェンダーはこう呼びかけておく。

「ほどほどにのう無月殿ー。小さな苗木に水をやりすぎても中々育たないのじゃー」

 「M−121ガトリング砲」を構える憐の目が、きらんと光った。

「‥‥ん。いざと。なったら。レオポールを。盾にして。私だけ。生き残る」



「全ク何デこんなことニ。囮なんテ冗談じゃないネ。ワタシは囮になたり、やられてるレオポールを見守る役割だというのニ」

「ウオンウオンウオンウオン」

「エエイ、むだ吠え止めるネ。元はと言えバ全てレオポールのせいヨ」

 不満たらたらな囮組であるが、ここまで来たらやるしかない。
 多少ヤケ気味で、迫ってくるブルドーザーに啖呵を切る。

「サァ正々堂々とした戦いぶりでは定評のある雪花サンがお相手するネ! 勇気凛々なことでは右に出る者の居ないレオポールも一緒ヨ!」

 といって正面から行くだけではキャタピラに轢かれるだけ。
 ブルドーザーは巨大なだけではなく、上部にレーザー砲らしきものを2門備えている。恐らくはレーダーと連結しているのだろう、前後左右ひっきりなし動き、水平方向において死角なしだ。
 だが。

「ワタシの見立てでハあのレーザー砲、俯角を取り辛そうな作りヨ‥‥従って飛び越えれば当たらなくてすむネ! フォローミー、レオポール!」

 雪花は駆け出した。
 レオポールも駆け出した。
 次の瞬間彼女は、ばたと地面に付す。
 レオポール、勢い余って追い越す。

「クッ、つまづいてしまったヨ! ワタシのことは気にせず行くネ!」

「えっええええ!? そんなズル――ひいいええええ!」

 動いているレオポール1人に向かって、レーザー砲が向けられる。
 彼は飛び越える作戦だったことも忘れ、ブルドーザーの周囲をぐるぐる走る。悲鳴を上げながら。

「まあ足止めにはなってるかな〜では我輩も〜コレ以上近寄らせるものか〜!」

 ウェストが「エネルギーガン」を手に、ほふく前進して行く。
 あのブルドーザーは立って動いているものをまず妨害者と認識するらしい。近くにいるのに雪花は、あまりマークされていない。
 射程距離は、おおよそ5、6メートルといったところ。

「大きさの割に装備は大したことがなさそうだね〜軍用ブルドーザーというより〜基本ただの工作機械なのかな〜」

 うそぶいてウェストは、まずブルドーザーの可動部、ブレードに向け一撃を加える。
 続いて上部のレーザー据え付け台。
 前者はガクンと片側が落ちたが、後者は耐えた。銃口がウェストに向く。
 その隙に雪花が起き上がり、ブルドーザーの上部へ駆け上がる。
 「ティルフィング」を砲身目がけ振り下ろし、急いで離れる。やられていないもう片方が高速回転し、至近距離から自分を狙おうとしたので。

「ヘイ、レオポール! ワンモアアタック行くネ! カモーン!」

「カモーンじゃねえよ! ちょっと焦げたよオレ! 装備し忘れたからここでレンタルしたんだぞこの宇宙服! 壊したら弁償しなきゃなんねえんだぞ!」

「情けないこと言わないネ、ワタシだてそうヨ! なんとなく部室の剣道着的匂いがする旧式レンタル宇宙服ヨ!」

(‥‥そういや俺もそうだ)

 思いながら司は、仕事へと頭を切り替える。

「デカブツはパーツがボロボロ落ちるというのは定石のようなものさ。まあ、架空の物語の小説だけかもしれんが」

 「マーシナリーガン」で狙いを定め、残ったレーザー砲の砲台に向け銃弾を放つ。

「恐れたら負けだ‥‥距離を測り違わなかったらレーザーを背負った鉄屑だ。当てる!」

 接合部が砕けレーザー砲が落ちた。
 雪花が攻撃した方は天井に向け折れ曲がり、動かなくなっている。
 最大の攻撃手段はこれで封じられたことになる。後は、前進を阻止すればいいだけだ。

「‥‥ん。突撃支援は。任せて。とりあえず。沢山。弾幕。バラ撒くよ。当たったら。ごめん」

 憐は「M−121ガトリング砲」で援護を仕掛けている。
 フェンダーは負傷中の彼女を気遣い、近くから同じく援護をする。「雷上動」で。

「撃つべし撃つべし撃つべしなのじゃ!」

 ブルドーザーの前面に次々穴が空いていく。加わる物理及び非物理衝撃が内部機関に影響したのか、ブルドーザーの動きがおかしくなってきた。直進から右斜めに進路を歪め、驀進し始める。壊れたブレードを激しく上下させて。
 保護地区から離れて行くのはいいが、かき出された砂礫が雨あられと飛んでくる。かなりの大きさのが。
 フェンダーは憐を小わきにし、急いで下がった。

「最上殿は日ごろお世話になってるし我が守るのじゃ!」

 無月はそれらすべての動きを読み、ブルドーザーの正面に出る。
 「デュランダル」はまずブレードを完全に斬り離し、続いて左のキャタピラも斬り離す。重心が崩れた機体は大きく傾き横転、裏返された亀と化した。
 エンジンはまだ生きていても、埃をかきたてるだけで、何の甲斐もない。
 ウェストはものも言わず鉄塊に躍りかかった。「エネルギーガン」のみならず「機械剣α」を使い、無茶苦茶に攻撃を加える。切れた配線からの火花と電流が襲ってくるのにも構わず、足元に広がる覚醒紋章の光を浴びて。
 見境のない行為は続けられた。

「‥‥終わりましたよ」

 無月から肩を叩かれて、スクラップを前に、ようやく我に返るまで。



 現場はポール、そして「Keep out」と印刷された黄黒のセル紙で囲まれている。

「そちらは幸せじゃのう、この可愛く聡明な我の練成治療なのだからの」

 言いながらフェンダーは、肩車させているレオポールのヘルメットを撫でる。もふもふ感が得られないのを不満に思いつつ。

「月に来た時点でレオポール殿は進化しておるのじゃ。そう、オタマジャクシに脚が生えたくらいには‥‥何事もマイペースじゃ」

「‥‥ん。それは。進化でなくて。成長では。ない。だろうか。いいけど」

「おお憐殿、いいところに。我持参のこのカレーを贈呈するのじゃ。カレーを食べれば多少の怪我も、何だか治りそうな気がするのじゃ!」

「‥‥ん。多謝。感謝。感激。雨あられ。食して。帰るよ」

 そんな少女たちの会話をよそに、レオポールは悩んでいた。「下手すれば人類の偉業を潰した男ですね‥‥」と無月から脅かされたばかりなので。
 NASAに問い合わせニール船長とエドウィン操縦士の身体情報を入手し、どれが彼らの一歩なのか照らしあわせるという作業をしているのだが、本当に消えてたらどうしようとビクビクものなのである。

「‥‥ん。国旗と。看板。グチャグチャだね。代わりに。レオポール。参上。っと。書いた。看板でも。建立する?」

「やめろよ、そんなことしたら確実にオレが犯人みたいじゃねえか!」

「‥‥ん。違うとでも。言いたい。ようだね」

「だって違うだろ! あの看板と旗をボロボロにしたのはブルドーザーだろ! レーザーでびゅーんてしたのアレだろ!」

「まあそういう事にしておいた方が穏便じゃろな。よし、なにもかもバグアのせいにしようぞ。あの足跡もきっとバグア兵士かゴーレムによって作られたのじゃ、そうじゃそうに違いない。うぬなんと卑劣な奴ばら達じゃ」

 照合作業に付き合っているウェストが、振り向きもせず突っ込みを入れる。

「報告書にウソを書くのは人類への裏切り行為だよ〜」

 がっくりくるレオポール。
 そこに、こそこそ雪花が寄ってくる。

「レオポール、秘策を思いついたヨ」

「おお本当か、どんなんだ」

「史上初めて月面に降り立た犬の足跡テことにするのはどうカ? 変身して記念撮影しよウ。後はそれを基にワタシがウィキペデ●アに記事をデッチ上げル! アレに書いてると信じちゃう人が結構世の中にいるのヨ!」

 細かい筆で丹念に足跡を消している無月が、これまた振り向かずに言う。

「虚偽記載はホストに通報されますからね」

 レオポール、再びがっくり。

「まあ、落ち込むでない。ところでレオン殿は元気かの、今度遊びたいと伝えてくれんかのう」

 彼へ送られるフェンダーの慰めを小耳にしながら、司は空を振り仰ぎ、地球を眺める。

「青いな‥‥」



 幸いにも、「初めての一歩」は踏み消されてはいなかった。
 だがこの事件をきっかけに、後日保存区域は、柵で囲われることになったそうである。