タイトル:求む、村の狼狩人。マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/26 17:49

●オープニング本文


「社長」
 ばたばたと社長室に入ってきた社員が1人。顔を上げた社長のヨツモト。
「どうした?」
「G20番の戦線へ向かわせた物資、定刻はそのままに行先だけ変更してくれと頼まれまして」
 途端に渋い顔になった社長を見て社員が縮こまったことに気付き、気にするなと片手をひらひらさせながらヨツモトは答えた。
「また急だな‥‥間に合いそうか?」
「間に合わせるルートは無きにしもあらずですが、途中通る地域でキメラ出没の連絡が入っていて‥‥傭兵の出動を要請してくれませんか」
「わかった、その地域とキメラの情報をくれ」
「こちらに」
 社員から渡された資料を受け取り、中身を確認する。
「‥‥過去襲撃に遭った田舎町か、厄介そうだな‥‥。変更は迷惑でも、物資は届け先の生命線だ。何とか間に合わせよう」
「はい!」



『私は運搬業社長のヨツモトという。傭兵諸君に至急頼みたい。元々、別の場所へ向かう途中だった戦線物資運搬車両3台なんだが、先方の連絡ミスが判明、行き先を変えてくれと頼まれた。間に合わせる為には、敵の出没が確認されている地域を通らねばならない。該当地域へ先行し、出来る限り早くキメラを倒してほしい。現在、ルート変更をした運搬車両を該当地域に向かっている。諸君の作業時間は4時間。それを超えたら、狼の居る所へ美味い餌をどっさり積んだトラックが飛び込んでいくことになる。それだけは避けてくれ』

『こちらで把握している情報は以下の通り。該当地域は少し前に戦場となり今は荒地と化した小さな田舎の村。出没しているのは狼型キメラ3体、体長3m程の大型1体、2m弱の中型2体。戦闘時バグアが残していったものと思われるが、如何せん情報網の途切れた地域なので細かい生態はわからない』

『諸君に頼みたいのはキメラ掃討、トラック3台が通過するための安全確保、4時間以内だ。急なことで申し訳ないが宜しく頼む』

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

■依頼開始
「‥‥元猟師としては、この依頼、見過ごせんよな」
 ぼそりと低くひとりごちた九十九 嵐導(ga0051)を見てから、白鐘剣一郎(ga0184)が依頼の詳細に視線を落として唸る。
「さて、4時間か。正攻法で捜索するにはさすがに厳しいな」
「出来るだけ早く終わらせたいな、僕の体力的にも」
 と別の意味で唸りを上げているのはランディ・ランドルフ(gb2675)である。

 此度の依頼を受けて集まった能力者6人は、円陣を組んで依頼の確認をしていた。
 男性陣から、ヘヴィガンナーの嵐導、エースアサルトの剣一郎、そして先の大規模作戦での負傷を引きずりながらの参加となったハイドラグーンのランディ。
 女性陣は、イェーガーのケイ・リヒャルト(ga0598)、スナイパーのルノア・アラバスター(gb5133)、そしてファイター、エイミー・H・メイヤー(gb5994)。
 いずれも経験豊富な傭兵たちであり、少数精鋭と呼ぶに値する面々である。依頼の確認も的確かつ素早かった。ケイが、ねぇ‥‥と口火を切る。
「狼型が相手なら、餌の匂いで誘き出せないかしら?」
「そうだな、血や生肉の手配を依頼主に頼めるか聞いてこよう」
 剣一郎が相槌を打ち、問い合わせに行こうとすると嵐導が
「地図が借りれないかも交渉してくれないか」
 と声を掛ける。わかった、と返事があり、残ったメンバーは打ち合わせを進める。てきぱきと進められた打ち合わせの結果、3班に分かれて敵を誘き出し、発見したら連絡を取り合って合流、撃破、という流れでいくことになった。班分けは以下の通りである。
 A班:エイミー、ルノア
 B班:ケイ、嵐導
 C班:剣一郎、ランディ

 地図と生肉については運良く都合が付いたらしく、その場で、『肉は自分たちで捌いて使ってくれ』と麻袋に入った兎が3羽だけだったが用意された。追加でエイミーとケイがレーションを提供すると申し出て、準備が終わる。移動開始だ。

「物資輸送‥‥大切なこと、ね。絶対に届けさせてみせる」
「はい、止めて、しまう、訳には、いきません、ね‥‥ご飯は、とても、大事、です‥‥」
 ケイの言葉に、こぶしを握りたどたどしくも力を込めて頷くルノア。そんなやり取りを楽しげに聞きながら、
「狼か‥‥薄紫狼の騎士として負けられないな」
 とエイミーは決意のこもる目を前に向けたのだった。

■現地到着
 村は荒れ果て無人だった。家の扉も窓も、小屋の中も柵も壊され、荒らされ、何も居ない。生き物が居た証拠となっているのは何かの死骸か、骨の一部。そんな、村の跡地だった。情報が少ないのも頷ける。
 到着した一行は、それぞれ準備を進めながらルノアのバイブレーションセンサーの結果を待った。待つというほどの時間もかからず、ルノアは報告する。
「村全体を、探知できる、わけではないんですが‥‥察知できませんでした」
「ほう、隅のほうに居るかもしれんということだな」
「おそらく‥‥」
 剣一郎の言葉を肯定し、ルノアは地図にバイブレーションセンサーの射程範囲を書きこんだ。東西にやや長い楕円形の村、その東から4分の3がセンサーのかかった範囲。残る西の端がキメラの潜んでいると思しき場所となる。ランディがその地図を覗き込み、2点を順に指さした。
「東西1つずつ広場がある。ここ、西の広場を戦場として誘き出すようにするのはどう?」
 ルノアや剣一郎、ジーザリオの幌を外すケイ、兎を捌く嵐導、レーションを取り出しジーザリオに取り付けていたエイミー達からも異論は無し。
 ここから3班に分かれての行動となる。無線機を用意した者は動作を確かめ、6名は索敵を開始した。

■誘い出し
 A班は、エイミーがジーザリオを駆り、ルノアが探査の眼を発動してその深紅の瞳を車上から凝らしていた。建物や物陰をしっかりと、然し素早く次々と見つめ観察していたルノアはふとエイミーに声を掛ける。
「! 止まってください、地面、何か不自然です」
「不自然?」
「降りて近付いて、良いですか」
「気を付けて。深入りし過ぎないようにな」
 ジーザリオが止まり、二人が降りる。そろり、と近づき、ジーザリオが通ろうとしていた地面をよくよく観察する。‥‥と、数か所、道を横切るように土をいじったような形跡が。
「罠が、仕掛けられてます‥‥」
「ふうん‥‥やってくれるじゃないか」
「通らず迂回したほうが、良さそうですね」
「解除してる時間も無いしな。他の班に連絡しておこう‥‥うん?」
 ガガガ、という音の後、無線機から女性の声がした。ケイのようだ。
『こちらB班、途中の道に罠が仕掛けられていたわ。通れないから迂回する、場所は村中央の井戸の脇。どうぞ』
「了解、こちらA班、こっちも道に罠があったので迂回する。大きな家畜小屋を過ぎた辺りだ、どうぞ」
『了解。こちらC班、特に罠は無い、もう少し進む、どうぞ』
「了解だ」
『了解よ』
 相互に連絡を終え、エイミーは車に乗り込み、通信を聞いていたルノアが続く。
「どちらが、狩っているのか、わかりませんね‥‥」
「それをこれからはっきりさせるのさ」

 B班は迂回しながら村の少し奥へと進んだ。ケイの運転するジーザリオには嵐導の捌いた兎の肉がくくりつけられている。A班からの無線連絡を聞いて嵐導が眉をひそめた。
「あちらもか‥‥狼が罠を作るとは思えんが」
「この村、バグアが来てたとか依頼内容にあったわねそういえば」
「あぁ、成程その置き土産か何かか‥‥‥腕比べというわけだな」

■狩る者、狩られる者
 C班、運転する剣一郎と機銃手のランディは順調に進んでいた。無線を聞いたランディが呻く。
「罠とか面倒なモン用意しやがってぇ‥‥くあぁ、いってぇ‥‥っ! アメリカ解放作戦での傷が響く‥‥っ」
「異常は、‥‥大丈夫か?」
「なんとかね‥‥。周りは今の所、異常無し‥‥と言いたいとこだったけど!」
「!」

「茶と白が1体ずつ! 釣れたぜキメラ、目標捕捉、斉射!!」
 ガトリングシールドで弾幕を張るランディ。その轟音を聞きながら、すかさず剣一郎は無線を入れた。
「こちらC班、中型狼キメラ2体遭遇、広場の手前、北側!」
「奥にまだ何か居る!」
「未確認だが2体の他にまだ居るようだ、合流頼む!」
『『了解!』』
「飛ばすぞランディ、振り落とされるなよ!」
「イェッサー! いでででで! 銃の反動が!」
「無理するな!」
「無理でもしないとやられるって!!」
 口では何のかんのと喚きながらも、ランディは轟音と共に銃弾をばら撒いて狼たちを寄せ付けない。
「だから痛いってあーもー! 頼むぞバハムート!!」
 使い込まれた己の戦友ともいえる装甲を信じ、ランディは善戦する。
 剣一郎は、何度もハンドルを切りながら、先ほどランディが『まだ何か居る』と言っていたものの正体を味方の合流までに見極めようとしていた。広場の向こう、ボロボロの家屋の中に何かが居るのだが暗くて見えづらい。だが何か居る。しかも複数だ。

「来るな! 来るなって! こっちは動けないんだぞ!」

 ランディの怒鳴り声が聞こえて振り向いた剣一郎は、影の正体を確認する時間がそう無いことに気付いた。馬ほどもある茶色い巨体がジーザリオに飛びついてきていたのだ。剣一郎は車を止めて運転席から後ろへ身を乗り出し、拳銃を構える。ランディを避けながら急所を狙うなどといった芸当はできなかったが、かすめた弾丸はその巨体の脇腹にしっかりと銃創を刻み、宙に赤い花を何輪も咲かせた。茶色の巨体が驚いてジープから転げ落ちる。そこでようやく、別の車両の駆動音が聞こえた。
『こちらB班、只今広場に到着よ』
「援護を頼む。それと、3体の他にもまだ居るようだ、誰か確認を」

■狩場騒乱
 茶色の狼キメラが負傷しようがどうなろうが、尚もランディと剣一郎のジーザリオを追う白い狼キメラ。しかし目の前の地面に叩き付けるかのごとく降り注いだ銃弾の雨に足止めされてたたらを踏んだ。
「あらあら、立ち止まらないでもっと食らってくれても良かったのに」
 ケイが牽制攻撃をしかけたのだ。白い巨体が自分たちに向かって来たのを確認し、構えていたガトリングを下ろしてジーザリオを急発進。しばらく‥‥といっても1分にも満たない時間だが‥‥追いつ追われつ攻撃が飛び交う。
「さぁ走りなさい、お逃げなさい? 私が仕留めてあげるわ」
縦横無尽に走るジーザリオに同乗する嵐導は、援護射撃の合間に残りのキメラを捜した。探査の眼の効果が切れたところだったので掛け直し、敵影を捜す。
 居た。しかし家屋の中は邪魔な物が多く、数や大きさが確認できない。

『こちらB班嵐導。A班、余裕があればセンサーで探ってくれ。小屋の敵が知りたい』
 無線の声を確認し、広場に到着したA班。
「了解」
 覚醒したエイミーが返事と共にジーザリオを止める。鉛玉をぶつけられ、怒りに燃えながら再びC班のランディと剣一郎を追っていた茶色の狼を遮るように。

 ルノアがバイブレーションセンサーを発動しようとした時、白い狼が優美に喉を反らし、一声吠えた。古家屋から飛び出してくるのは体長1.5m程の真っ黒の狼キメラ2体。それを見ていたルノアと嵐導がそれぞれ狙撃。ルノアの拳銃「ケルベロス」が1体の頭を食い散らし、嵐導のSMG「ターミネーター」がもう1体を一瞬にして蜂の巣に。滴る蜜は地面を真っ赤に染めた。

 軽やかに降車し茶色い巨体と対峙した金の瞳のお姫様は、まるでほんの小さなお人形。
「これはまた、大きいですね‥‥あたしが相手です」
 怒り狂った狼に油断や慢心などといったものは存在しなかったが、その華奢な姿に警戒心を持たなかったこともまた確か。全力で突っ込んできた狼の鉄のような顎は、エイミーの体を真っ二つに噛み千切るかと思われた。が、それをするりと避けた彼女が攻撃に転じた時、そこに居たのは1人の騎士。そして3つも数えぬうちにドウッと崩れ落ちたのは、最初の脇腹の銃創から深く大きく切り裂かれて息絶えた茶色い狼だった。

 数秒、時を巻き戻す。
 2体の黒い狼を呼んだ白いキメラは、一瞬にして散った部下に何の興味も無いようだった。興味があるのは元気に動く美味そうな物。白狼は既に銃弾を幾らか浴びていながらも、真っ直ぐにケイを狙う。しかし黒い猫は速かった。その実、巨大な白狼以上に獰猛でしなやかな黒豹だった。
「これはお好きかしら、お嬢さん?」
 ジーザリオにぶら下げていた兎の肉をまとめて放り投げ、白狼の目がそれを追ったその瞬間、ケイの放った弾丸が白狼の四肢を撃ち抜いた。バランスを崩した白狼はその鋭い爪もケイの眼前を切り裂いて届かず地に墜ちる。
「まだあるわよ、受け取りなさい」
 動けず反撃できぬ白狼に、ケイの死点射が飛び掛かる。それはあたかも、得物に跳躍し艶やかな黒猫が一瞬煌めいた時のようだった。

 白い狼が今にも土埃に塗れようとしていた時、別の場所で動くものがあった。直後ルノアと嵐導は、白狼が力尽きると同時に、黒い狼たちの潜んでいた家屋が爆発したように感じた。
 家屋の側面が一瞬にしてぶち抜かれ、今までよりもう一回り大きい熊のような体躯の薄茶色の狼キメラが‥‥もはや狼と形容して良いのかすら疑問に思えるが‥‥飛び出してきたのだ。敵はケイを狙って走り抜ける。その後を追う、更に2体の黒狼キメラ。その2体の進路は嵐導が制圧射撃で完全に阻む。しかし肝心の薄茶の大狼はどうなった、と広場を見るとルノアの声がした。
「閃光手榴弾です、3つ数えたら伏せて!!」
 間に合って、とルノアは祈る。防御態勢を取り、能力者たちは光と音から身を護る。

 だが、その中でも動く者が。
「的のほうから当たりに来てくれるとはな!」
 大狼が迫るケイの背後には、ランディと剣一郎のジーザリオ。車上のランディはケイの頭上に見えている巨大な狼の鼻面に、ガトリングを3秒間、叩き込んだ。終わるか終わらないかという時に横から誰かに突き飛ばされ、ランディはジーザリオの幌の陰に転がりこむ。

 直後、閃光と爆音。

 そしてそれが止まぬうちから動き出す者も居た。ランディを突き飛ばして覆い被さりつつ身を守り、未だ音の残る間に車両から降りた剣一郎だ。
「貴様で最後だ」
 彼の磨き上げられた技が狼に到達せんとする。
 だが、敵は悪運を味方に付けていた。目も耳も使い物になっていないはず。だが、胴に食らえば即死となるであろう彼の技を、間一髪、その柱のような前脚1本と引き換えたのだ。しかし悪運もそれ以降は続かず。剣一郎は返す刀で大技を冥土の土産に振る舞った。
「天都神影流・斬鋼閃‥‥裂破!」

 そして地響きと共に、強大な狼は遂に倒れ伏したのである。

■道
 満身創痍のランディのみ応急手当てを受け、一行は戦闘前に発見した罠2か所のうち、運搬車両が通るであろう村中央の道にあった罠の場所へ移動した。
 そして探査の眼を発動した嵐導が注意と指示をしながら剣一郎が罠を掘り起こす。出てきたのは大型の獣用罠。この上を車両が通ればパンクは必至だっただろう。剣一郎が唸る。
「こいつらをさっさと片付けて、通れるようにしないとな」
「あぁ。キメラの残党が居ないか確認もしておきたい」
 嵐導も頷き、一行は罠の撤去作業に追われるのだった。

 2か所の罠の撤去が終わり、6名は再び3班に分かれて村を哨戒。残り1時間、というB班・嵐導からの時報を聞きつつ、注意深く物陰などをチェックし、敵が潜んでいないかと地図を片手に壊れた納屋や村の集会所だったであろう廃墟を手分けして巡った。
 結果、罠をいくつかと、キメラの巣穴になっていたと思われる家畜小屋を見つけたが、キメラは既にあれで全部だったようだ。

「やっと片付いたか‥‥さて、運搬車両のエスコートだ」
 剣一郎がジーザリオの運転席から外を眺め、言った。大きなトラックが近づいてくる。能力者たちのジーザリオは、トラック3台を先導するように1台、後ろを見守るように2台ついて村の道を無事に通り抜けさせることができた。

 村の外れでトラックを見送る。‥‥と、誰かの腹がきゅるるるる‥‥と切なそうに鳴った。
「腹が空いたか、ルノア嬢」
「レーションの、タンドリーチキン、良い匂いだった、です‥‥」
 A班の2人のジーザリオには、タンドリーチキンが2つ揺れていたのだった。風に煽られ砂をかぶり、今や埃まみれで食べる気にはなれないこのチキンも、今日の彼らの仕事ぶりの証と言えよう。
 一般兵たちの兵糧の危機を救った精鋭達に、心からの感謝を。