●リプレイ本文
●start
現場の隣町にある別の通信基地に、傭兵たちが集まった。
依頼人の会社の社員が、傭兵らから要望のあった物を揃えて渡す。大神 哉目(
gc7784)から頼まれた、現場となる基地内部の図と、その周辺の地図。そして、月野 現(
gc7488)から頼まれた袋。遺体回収用と言ってあったが、渡された袋は随分と小さなものだ。それを見やりながら、シーヴ・王(
ga5638)が社員に尋ねる。
「遺体回収について何も言われてねぇんですが、社長から何か聞いてやがりますかね」
不遜なのかそうでないのかよくわからない彼女の口調に目を瞬かせながら、社員は答えた。
「えぇ、何も‥‥ただ、その袋を持っていくように、とだけ」
「なるほど」
その横で、地図を受け取った哉目が、柊 美月(
gc7930)とあれやこれやと額を突き合わせて相談していた。
「はいこれ周辺地図。こっちが基地内部だね」
「一番早いのはこの道でしょうか〜」
「恐らくね。今日運転するやつに伝えよう」
「キメラ、どこに出るかな‥‥施設に入ろうとしたら襲われたんですよね〜? 入口で待ち伏せされそうです」
「うん。そうだな、隅のほうに隠れてて後から‥‥ってこともありそうだし」
用意や打ち合わせ、連絡や確認が大体終わると、一行は移動開始。
夢守 ルキア(
gb9436)、リュティア・アマリリス(
gc0778)、イスネグ・サエレ(
gc4810)、住吉(
gc6879)がそれぞれ準備した車両、ジーザリオに分かれて乗り込む。リュティアは運転席に乗り込む前に、現と哉目に声をかけた。今回、現とは別の班になる。
「哉目様、現様。今回も宜しく御願い致します」
「ん、よろしく」
「何だかリュティアがいないと違和感を感じるようになったよ」
馴染んでるんだなぁ、と笑う現にメイドは一礼する。
「私が必要な時はいつでも御呼び下さい、現様が御呼びでしたらどこにでも馳せ参じますので」
「それは心強いな。足手纏いにならないように努力するよ」
音を立てて走り出す4台のジーザリオ。町を出て、寂れた郊外を行く。
警戒は怠らず、そして移動を完了。通信基地の外に到着し、降車して2班に分かれた。
●sideA
A班は施設外の捜索を行う。イスネグ、現、住吉、美月の4人だ。
「せめて、奪われたモノの一部でも取り戻そう‥‥」
と、既に移動中の警戒のため覚醒していた現が、誰にともなく呟く。味方を護ることに強いこだわりを持つ彼は、犠牲者、そしてその遺族の無念を僅かでも晴らしたいと思いながらここに居た。
そんなメンバーを見ながら、お嬢様育ちで未だ戦闘体験の少ない美月は思う。
(人が簡単に死ぬ‥‥私が今までいた場所とは本当に違う世界。でもこれが現実、これが私たちの世界なんですよね‥‥)
その横で、イスネグが数秒立ち止まって空を仰いでいた。今日は晴天、抜けるような青空が広がる。空を見上げたイスネグは、また前を向いて覚醒する。探査の眼を発動。
「‥‥私は、無力だな」
零れた言葉は、瓦礫だらけの地面に落ちた。
住吉は胸の裡で追悼を述べる。
(我々に出来ることは2つだけ‥‥死者への追憶と、敵討ち。遺品も遺族にしっかり渡してあげますから。‥‥安らかに〜‥‥)
そして顔を上げ、彼女もまた探査の眼を発動した。
「さてさて‥‥どこで何が起きるやら。なんだか辛気臭いし、面白いことがあれば良いんですけど」
などと言いながら、キメラの影が無いか辺りを見回し始めるのだった。
●sideB
B班は施設内の捜索だ。哉目、シーヴ、リュティア、ルキアの4人である。
リュティアは建物への進入前に覚醒。明るい青から鮮やかな緑へ瞳の色を変えた。バイブレーションセンサーを発動し、施設内の様子を探る。
「キメラは1頭‥‥1頭?」
首を傾げるリュティア。ほう、とルキアが相槌を打つ。
「センサー射程外に溜まっているか‥‥『待て』の出来る犬が居るんだね」
成程、と頷くと、リュティアは調査結果を伝える。
「1頭が、通信室入口の向こう側をうろうろと。大きさは1m少々です」
「‥‥了解」
シーヴは返事と共に大剣を握り直す。その手には既に淡くルーン文字が浮かび、瞳は輝くルビーの色へ。
「それじゃ、行こうか」
白くなり少し伸びた髪を面倒くさそうにかき上げた哉目は、輝く瞳を扉に向けた。
基地の中は、薄暗かった。窓があるため視界に困るほどではなかったが、電気系統、特に照明が死んでいる。
「しっかし、キメラに入り込まれるとはねぇ。鍵とか掛けてなかったのかな?」
哉目が小声で言いかけるも、壁がぶち抜かれて外が見えている場所を見つけ、あぁこれじゃぁ‥‥と納得せざるを得なかった。シーヴが呟く。
「基地から目を離しやがったのは半日‥‥今の時世、ちぃとばかりの隙も敵は見逃しちゃくれねぇんですね」
そうして暫く基地の中を捜索。見つかったのは数か所に大量の血痕、ぼろぼろになった上着など。遺体らしいものは見つからなかった。キメラと遭遇することも無かった。その旨を外のA班にも連絡し、辿り着いたのは通信室。前衛後衛に分かれてドアの脇を固める。突入準備完了。
いくつかのことが一瞬で起きた。
ドアを開け、キメラが全力で飛び掛かり、シーヴの大剣がそれを捉えていなし、返り討ってキメラの脳天から尾の先までを叩き斬る。彼女の目は全てを見極め、彼女の体は彼女の『思い通り』以上に動き、黒いワンピースのレースやフリルが裂けることは愚か、汚れることもなくその一瞬は終了した。死骸となったキメラを見下ろし、ぼそりと呟くシーヴ。
「てめぇらが与えた苦しみ、倍以上にして返しやがるです」
死体を確認し、ルキアが外のA班に連絡を入れる。
「こちらB班、通信室入口で1頭撃破。これから通信室内の捜索だよ。照明死んでるけど」
『こちらA班、援護は要りそうですか?』
「まだ判らないケド、次の遭遇でパターンが掴めたらまた連絡する」
『了解です』
B班は通信室の中へ。広い場所だが窓が無く、ここの照明も壊れているようで随分暗い。警戒を強めながら少しずつ進む。
壁際の棚を確認した時、黒い影が一足飛びに奇襲をかけてきた。狙いは先頭のシーヴ。すかさずリュティアがバイブレーションセンサーを発動したが、動いていたのはまたその1頭だけ。飛び掛かられたシーヴは大剣を構えることができたが少し体勢が悪く、そこからうまく立ち回れない。だがそこへ一直線に電磁波が撃ち込まれた。キメラの眉間に吸い込まれるように直撃。敵はそのまま命を持たぬ肉塊となった。
大剣を下ろしたシーヴが呟く。
「単体の奇襲を基本戦法にしてやがるですね」
「一斉にかかってくればいいものを」
哉目が持参したランタンに灯を入れながら溜息をつく。通信室の入口から離れるほど暗がりが増える。回収品を傷つけたくない者も多いので明かりは必要だった。ルキアがA班に現状報告と援護を要請し、B班は周囲を確認しながら進むのだった。
●sideA
ルキアから援護要請の無線があった時、外のA班は捜索をほぼ終えたところだった。イスネグが無線を受ける。
『こちらB班、通信室で2頭目の奇襲、撃破完了だよ。そちらの様子は』
「こちらA班、外にキメラは居ませんでした。通信室に向かいましょうか」
『うん、でも突入は合図を待ってもらえると助かるかも。向こうが奇襲ならこっちも奇襲で』
「わかりました」
連絡を終了したイスネグは、他の3人にも伝える。
「通信室へ行きましょう。合図を待って突入を、との事です」
「キメラは全部通信室か?」
少し急ぎながら現が尋ねる。
「そうかもしれません。1頭ずつ奇襲をかけてくるみたいで、さっき2頭目を撃破したと」
「じゃああと最大4頭だな」
確認を聞いてから、住吉が美月に尋ねる。
「来る前に施設内図を見てましたっけ、通信室って広いんでしょうかね?」
「結構あるみたいです〜。2階ぶち抜きの高さで、普通の会議室3つ4つ入りそうでしたよ〜」
「あー、それは敵さんも隠れる場所には困りませんね」
それを聞いて少し緊張気味の顔になった美月に、犬のかくれんぼごときさっさと見つけてやりましょう、と笑う住吉。一行は先を急いだ。
●join
かくれんぼしている犬は、通信室の中央少し奥で、今度はランタンを持つ哉目を狙った。ランタンを向けた途端に襲ってきたので辛うじて視認でき、哉目は身を捻ってその攻撃を回避。しかしその手からランタンが離れてしまう。‥‥が、シーヴが即座に気付いてそれをキャッチし、ランタンを高く掲げて通信室の入口に向けて軽く振った。
と同時にリュティアが声を上げた。
「もう1頭!!」
彼女はそのまま迅雷を発動。緋色の爪装備イオフィエルを構え、回避後の哉目を狙うもう1頭のキメラの前に割り込む。
そしてその後ろから、柔らかい音階を並べる声が聞こえた。イスネグの子守唄だ。キメラの動きが鈍る。
リュティアが止めたキメラは、迅雷と刹那で一瞬にして接近し斬りかかった美月によりとどめをさされ、初めに哉目を狙ったキメラは再び哉目に飛び掛かるも、今度は悠々と回避した哉目の流し斬りに引き裂かれ、息絶えたのだった。
「これで4頭か‥‥まだ居そうだが」
2頭が撃破されるのを確認しながら現は呟くと油断無くガトリングシールドを構えなおし、通信室の奥へ。ルキアと住吉が後に続く。
やはり居た。何かの上から現に向かって飛び掛かってきたキメラに向けてシールドを構え、確実に止める。キメラがシールドに噛みついて膠着状態となったそこへ、住吉が乙女桜を振りかざし斬りつけた。決定打にはならない。しかし抜刀術・瞬で彼女が新たに構えたのはショットガン。
「とりあえず‥‥」
初速の威力をぶち込むには十分すぎるその距離から、
「その中身ぶちまけろ、ですね〜♪」
引き金を引く。広い通信室に響く轟音。キメラが吹き飛び、そして静寂がやってきた。
●salvage
その後の捜索の末、もう通信室からはキメラは見つからなかった。
最大6頭と聞いており、念のため哉目はまだ居るかもしれない敵の警戒にあたる。ルキアは持ってきた工具でひとまず照明を簡易的にでも用意できないかと作業を開始。配線を調整し、照明の3分の1ほどが復活した。
「お、明るくなった」
「助かるよ、流石にあの暗さじゃぁね」
「ありがと」
そんな声にどういたしましてーと答えながら、本命のコンピューター修理に取り掛かるルキア。
「さてと。サイエンティストらしく、直せるトコは直して渡そう」
その向こうでは、ゴシックワンピースの裾をなびかせ、メインコンピュータ(回収品の中で一番重い)を軽々と運ぶシーヴの姿。遺品の上着や小物を持って隣を歩く、メイド服姿のリュティアとの対比が不思議な雰囲気を醸し出す。
「滅菌綿、ありがとうございます。綺麗になりました」
「まだあるから使いやがればいいです。シーヴもこれ運んだら遺品回収手伝うんで」
「遺品、結構ありますね」
「‥‥犬ども、よほど肉が好きだったですかね」
遺体は中々見つからず、落ちているのは服やアクセサリー、靴ばかり。どこへ行ってしまったかは、想像に難くなかった。
棚から記録端末の箱を運び出しているのはイスネグと現。イスネグが静かに言った。
「‥‥回収が済んだら、犠牲者の弔いがしたいな」
「同感だ。場所はやはり、ここかな」
「そうですね」
遺品を探してあちこちを覗き込んでいるのは住吉と美月。
「機械回収だけならまだしも、遺品回収はちょっと億劫ですね〜」
「そんなこと‥‥っ」
「だってほら、あんなもの見つけてしまうんですよ?」
少しだけ渋い顔で住吉が指さしたのは、既に乾いて錆色の血溜まり跡に落ちた、銀色のブレスレット‥‥を着けた、女性の片手。
「‥‥っ!!」
思わず言葉を失って青ざめる美月。住吉に呼ばれた現が遺体回収用の袋を持ってきて、そっと拾って袋の中へ。
「遺族の為に、少しでも良い状態で渡してやろう」
「そいつは私のジーザリオで運ぶよ」
ルキアがその袋を受け取った。リュティアもやって来て、目にうっすらと涙を浮かべる美月の肩を抱く。
「ご家族のところへ、お帰しして差し上げましょう」
「そう、ですね‥‥この、この方にも家族がいるんですよね‥‥帰りを、待ってるんですよね‥‥」
8人は通信室内で黙祷を捧げる。その後、誰にともなく呟く者が数名。
「‥‥安らかに眠りやがれです」
祈る者。
「ま、気の毒な話だよね」
淡白に語る者。
「もっと早ければ‥‥すまない‥‥」
謝罪する者。
イスネグは恐らくもう取り壊されるか忘れ去られるのみであろう基地に、コスケンコルヴァを撒いて供養とした。
現とイスネグが警戒しつつ、一行はジーザリオに乗って最初の通信基地に帰還した。それを出迎えたのは、依頼人の社長、ヨツモト。その表情は少し硬い。
「おかえり、依頼人のヨツモトだ」
「おや、直々のおでましですか」
住吉が軽く目を丸くして一礼する。
「回収した遺品を届けたい、とのことだったのでな、受け取りに参上させてもらったよ」
「ご足労様です〜」
「一同、怪我無く終わったか?」
「すこぶる元気です、恐らく無傷」
現が答え、ヨツモトは安心したように口元を少しだけ緩めた。
「それは良かった」
指定された回収物、そして遺品を確認するヨツモト。
「‥‥これは? 頼んだのはメインと記録端末だったが」
その問いにはルキアが答えた。
「無傷なものが見つかったんで、ハードのメンテナンスして持ってきたよ。まだ使えるはず」
「そうか、助かるよ」
「白衣、作業着、革靴、ジャケット、時計、あとこっちに‥‥」
これは廊下にあった物でこっちは室内のと、シーヴとリュティアが手分けして1つずつ渡す。
「沢山見つけて来てくれたんだな」
「大事な物でございますから」
「‥‥遺体は、見つかったかい?」
美月が、袋を持って進み出た。
「一部のみですが‥‥こちらに、ご遺品の銀のブレスレットと一緒に入れてあります」
「銀の‥‥」
「お心当たりが‥‥?」
「‥‥有る、と答えたくなかったよ。‥‥娘の遺品だ」
はっとした美月が袋から視線を上げると、初老に差し掛かった大の大人が、顔を歪めて涙を堪えながら微笑んでいた。
「諸君、今回は世話になった。本当に、ありがとう」