タイトル:求む、補給隊の救出者。マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/29 03:40

●オープニング本文


 都会のビルの最上階にある、社長室。
 秘書が、冊子やメモ、書類をいくつも何枚も並べ、連絡事項や予定などを手際良く社長のヨツモトに伝える。
「こっちがその件の書類です。これは昨日の報告。そのパンフレットは今日の経過でどれを採るか決まりますね。全部に確認のサインをお願いします」
「おー。重かったろう、お疲れさん。ところで東部補給3班の定期連絡がないとかで気になってんだが」
 コーヒーをすすり、ペンを片手に書類へチェックを入れながら言ったヨツモトに秘書が軽く目を見開き、それから首をかしげる。
「それは心ぱ‥‥え、なんで社長が知ってるんです?」
「さっき通信室で小耳に挟」
「また社内ほっつき歩いてたんですか貴方は!」
 ヨツモトの言葉を遮って叱り飛ばす秘書の言葉には、敬語は残っていても遠慮がない。それに対し、心外そうに不平を鳴らすヨツモト。
「またってなんだ、まだ今日は3回しか給湯室行っ」
「コーヒーのお代わりなら私に言えばいいでしょう! 貴方はここでじっとしてて下さいっ」
 およそ、社内最高の地位の人間に対する物言いではない。が、言われるほうも特に気にしていないため、あまり問題にはならないらしい。ヨツモトは慣れた調子で叱る声を受け流しながら、目を通しサインを済ませた先程の書類の束をトントンと揃え、椅子から立ち上がる。
「はいはい、仕事すればいいんだろう仕事すれば‥‥ほら行くぞ」
「どこへ?」
 書類を受け取りぱらぱらめくって確認しながら、席を立ったヨツモトの後に続く秘書。
「昼前に通信室長が熱出して医務室行っちまったらしいから、代わりに指揮を取」
「だからなんでそんなこと知ってるんですか貴方が!!」
 今度は書類の束で容赦なく後頭部をひっぱたきながらの、律儀な突っ込みにヨツモトは笑い、秘書は拗ねる。
「あはは」
「〜〜っ ‥‥馬鹿っ!」

 廊下ですれ違った社員は、社長と秘書‥‥ヨツモト・ケイジ、アンリ夫妻のいつものやり取りに砂か砂糖でも吐けそうな気分になりながら、今日も平和だな、と遠い目をするのだった。



 荒野にポツンとある小規模な通信基地に、それぞれの理由で訪れていた傭兵たち。午後、基地に流れたキメラ出現のアナウンスを耳にした彼らは、急遽飛び込んできた依頼を受けることにした。依頼人からの通信を聞く。


「急な依頼の受諾に感謝する。
 諸君らが今いるその基地から、うちの戦線補給班が今朝出発したんだが。
 出発後、キメラ出現の知らせと、進路妨害を受けているとの連絡があった。
 大至急、現地へ行き、キメラを倒して彼らを救出。
 その後、目的地への進路から逸れてしまった部隊を護衛し、速やかに目的地へ送り届けてやってほしい。
 宜しく頼む。」

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
ブロント・アルフォード(gb5351
20歳・♂・PN
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD
土岐 ゆかり(gc7770
16歳・♀・SF

●リプレイ本文

●準備
 依頼内容を伝えられた通信基地内から、ジープの所へ行く面々。
「急なお仕事‥‥皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
 土岐 ゆかり(gc7770)が車いすの上ながらも優雅に礼を取り、挨拶する。静かに答えるのはミルヒ(gc7084)。
「こちらこそ。さて、急げば間に合うはずです、早く助けに行きましょう」
「そうですね」

 歩きながら、動きの確認をしていく一行。
「西側のジープの運転は私がさせていただきますね。同乗されるのはアルフォードさんだけでよかったでしょうか」
 確認を取るマヘル・ハシバス(gb3207)に、ブロント・アルフォード(gb5351)が頷いた。
「そのはずだ、よろしく頼む」
「私はAU−KVがあるので移動にはそれを使います」
 というのはミルヒ。
「あぁそうだ、南側、ジープの運転を誰かに任せたいんだが‥‥」
 旭(ga6764)は装備が多く、普段より素早く動けない。前衛としては誰よりも早く接敵したいところだが運転しているとそうもいかないので、同じ南側の者に任せたいという。で、その南側担当でジープを使うのは旭と、足の不自由なゆかり、そしてジリオン・L・C(gc1321)。(自称)勇者ジリオンは言う。
「おう任せろ! 俺様の華麗なドラテクをその目に焼き付けるがいい!」
「‥‥‥うん、頼むね、ほんと」
 甚だしく不安になってきた旭。そんな感じで依頼は始まったのだった。

 大まかに相談を終えて駐車スペースに到着。ミルヒもバイク形態のAU−KVを持ってきて、移動を開始した。
 南側に向かうミルヒ、ゆかり、旭、ジリオン。
 ミルヒは
「まず補給班と合流しますね。負傷者の有無など確認でき次第、南側のキメラ撃破に参加しますのでこちらはお願いします」
「了解です、お気をつけて」
 AU−KVに跨ったミルヒはジープと分かれて走って行った。

●対峙
「準備はしっかりと‥‥ね」
 ジープの後部に乗った旭はそう言って、自分の防具や武器の装備状態を手早く、しかしひとつひとつ確認する。十分な戦力と言うに値する実力者だが、それも入念なチェックや用意があってこそ真価を発揮するというもの。
 助手席に座っているゆかりが、伝えられた依頼の内容を確認する。
「依頼が出された時には、もうキメラは補給班と接触しているでしょうから‥‥」
「なんだと! それは、一刻を争うぞ!」
「えぇ、逃げる手段も対抗する手段も、そう無いでしょうし」
「大変だ、早く彷徨える魂たちのもとに‥‥飛ばすぞ!」
 息巻くジリオンを見た旭が思わず口を挟む。
「飛ばしすぎ注意で頼むよっ?」
 しかしそれで止まるジリオンではなかった。アクセル全開、速度は時速80kmに近付いていき‥‥
「見よ! 俺様の勇者ドライぶうああああ!!!?」
 突如こちらに突っ込んできた影に驚いて、全力でハンドルを切るジリオン。土煙を上げてドリフトしたジープから飛び出す形で旭が影に蹴りかかった。ドウッ!と大きな音がして、体長2m弱のライオンが地面に転げた。旭は片手を地につきながらもズザザッ、と着地に成功。
「どうやら、間に合ったみたいだね」
 トラクターとバイク、そして西側対応のジープを視界の端に見つけ、安堵の息を漏らした。止まったジープからは覚醒したゆかりが降りてきて、
「申し訳ありませんが倒させて頂きましょう。どうぞ悪しからず、ライオンさん?」
 にこり、と微笑みながら、無駄の無い動きで旭の後方に颯爽と車いすを止める。旭はすっと身構え、言った。
「さあ、ここから先は僕らが相手だ」
「ふははは! 俺様の居るところで悪さをするからこうなるのだ魔王の手先め! 伸されてしまえ、旭に!!」
 旭の後ろのゆかりのさらに後ろの、ジープ運転席からドヤ顔付きでそんな声が飛びつつ、南側に立ちふさがるキメラとの戦闘が開始した。

 西側のキメラの足止め班、ブロントとマヘルのジープは走る。
 右へ左へ、回り込み、煙幕を張り、と、戦うこともできないトラクターがキメラに翻弄されているのを発見。それを確認しながらブロントは、得物の取り回しを確かめ、呟いた。
「さて、始めるか‥‥」
 崖へ崖へと追い込もうとしていたキメラと、追い込まれていたトラクターの間に、マヘルの操るジープが割って入る。減速しながら、ブロントの銃撃が飛ぶ。数発がキメラの鎧に命中し、肩の装甲が弾け飛んだ。
「悪いな‥‥ここから先は通行止めだ」
「援護します」
 ジープが完全に止まる前にブロントが飛び降りてキメラと対峙し、マヘルはジープの上でエネルギーガンを構えた。

●守護
 先ほど南側のジープと分かれ、補給班のトラクターに向かったミルヒ。
「助かった、君らが傭兵さんかい!」
 運転席から男が喜色に満ちた声を上げた。
「はい。お怪我などは?」
「俺たちに怪我は無いが、コイツがやばくてな‥‥!」
 窓を開けて身を乗り出していた運転手は、拳でガンッとトラクターの扉を叩く。
「燃料がそろそろ危ない。ここから補給地まで行くだけでカツカツだ、もう逃げ回れん」
「キメラを倒したら、逃げる必要もありません。無事に送り届けられるよう、守って見せます」
「頼む‥‥っ」


●退治
 西側、キメラと対峙した二人が動く。運転席からマヘルがブロントに練成強化を施した後、敵に隙を作らんとしてエネルギーガンで攻撃。苦悶の声を上げたキメラに、ブロントがすかさず接敵した。近付きながら拳銃を仕舞い直刀に持ち替え、先ほど装甲が外れたキメラの肩を二刀で狙い、切り裂いた。
 だらりと力を失うキメラの前肢。しかしキメラはなおも牙を剥き、無事なほうの前肢で足元の石を凄まじい勢いで蹴り飛ばした。標的はブロントだったが、彼は身をひねってこれを易々と避ける。そして的を失った礫は後方のマヘルに飛んだ。直撃は免れたが掠めた肩を切り裂かれてマヘルが呻く。
「すまない、無事か!」
「大丈夫です、治療は出来ますから。ただ支援が少々滞ります」
「構わん」
 答えながらブロントはキメラに向き直る。それとほぼ同時に、治療を後回しにしてマヘルが撃ったエネルギーガンでキメラがたたらを踏む。ブロントがその瞬間を見逃すはずが無かった。
「当たるか‥‥いや、当てる!」
怯んだキメラに狙いを定め、真燕貫突を叩き込む。キメラは倒れ伏して動かなくなったのだった。


 時は少し戻り、南側のキメラ撃破担当班。
 ゆかりが練成強化で旭の武器の力を底上げし、更に練成弱体をキメラにかける事に成功。
「これなら‥‥わたくしのような駆け出しでも、お役に立てますか?」
「お見事だよ。ありがとう、助かる」
 返事と共に豪力発現を使用して、体当たりをかけてきたキメラをなんと真正面から受け止め、脚甲の付いた足で蹴りを食らわせる。そこへ、AU−KVを装着したミルヒが参戦。キメラの四肢を狙って機械剣で斬りかかった。
 そんな様子を見て、相変わらずジープの運転席に陣取っているジリオンは歌う。呪歌を歌う。
「前衛〜 ガッツーリぃ組みあっててー」
 歌舞伎で歌われるあの長唄のような、やたらと溜めの効いた歌声が響く。
「俺様ぁあー‥‥ドフリー〜でぇ安全確保ぉおしたからーあー」
 ‥‥長い(ちなみにまだ続く)。歌が続くうち、キメラの動きが鈍重になっていった。隙が増えたのを見た旭が踏み込み、天地撃を使ってキメラを宙に吹き飛ばす。
「俺ぇ様ーのおー美声ぃい〜にー、酔うがいい〜〜〜♪」
 旭は聖剣を構え、落下してきたタイミングで、ふっ、と息を止め両断剣・絶を発動。気絶したのが先か、歌が効いたのが先か最早わからなかったが、成す術も無くなったキメラは聖剣「デュランダル」に息の根を止められたのだった。

●合流
 連絡を取り合った2班はお互いがほぼ同じくらいのタイミングでキメラ討伐を果たした事を知る。
 無事合流し、補給班と改めて顔を合わせた。
「皆様、ご無事ですか?」
「大丈夫でしたか? えーと、荷物や車の状態をいったん確認したほうがいいのかな?」
 と声をかけるゆかりと旭に、
「トラクターの中身は乗り手も含め全部大丈夫そうだ、君らがキメラ退治をしてくれてる間にチェックできたよ」
 死ぬかと思った、ありがとう、と一同に頭を下げる補給班の面々。それに対していえいえ、答えながら苦笑を零したのは、肩の治療を完了したマヘル。
「この距離の運送でキメラと遭遇するなんて、ついていませんね」
「全くだ。今まで聞いたことも無かったぞ、このへんにキメラが出るなんて」
 社長に危険手当付けてもらわねぇと‥‥とぶつくさ言っている補給班の護衛をしながら、荒野を南下。 
 勇者パーティとジリオンが(勝手に)名づけた一行は、己の反省や、自分の成長を感じつつ、特に問題なく目的地を目指して進むことができたのだった。